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暗の使い魔‐00


薄暗い洞窟内を、壁に備え付けられた僅かな松明の明かりが照らしていた。
湿った岩壁からシトシトと、わずかに水が滴り落ちる。
その音を聞くものは、岩の亀裂に潜む蝙蝠のみであろうか、いや。

「見つけたぞ!」
「ぐっ……畜生!」
無数の足音が洞窟内にこだました。
そして同じ数の荒い息遣いとともに、甲冑に身を包んだ大勢の兵が、狭い通路内に押し寄せる。
「逃がすな!追え!」
無数の兵士は、皆一様に長槍を携え、背には赤地に黒色であしらわれた桐花紋の旗印。
今この日本において、最も強大な力を誇る勢力。
豊臣の軍勢である。

時は戦国時代の日本。そしてここは九州・石垣原の洞窟。
その屈強な軍勢に追われるのは一人の男。
薄暗い洞窟の中、その男は迷路のように入り組んだ洞窟内を、己の足で必死に逃げ回っていた。
ズルズルと、重いなにかを引き摺っており、その足取りは決して速くはない。
しかし男は、己が誰よりもこの洞窟の構造を把握している事を武器に、決して捕まらない自信があった。

「ふぅ……とりあえず撒いたか?」
洞窟の暗がりに潜みながら、ゆっくりと腰をおろす。
もう何度こうして身を潜めただろうか。
男には、自分がこうして追われる理由について、心当たりが有りすぎた。
「なんで小生だけがこんな目に」
己の不運を悔やんでも何も始まらない。
しかしながら、いつもこうして災難に遭う度に、男はその理不尽さを呪わずにはいられなかった。
がしゃりがしゃりと、甲冑の武者が通り過ぎ去る音が聞こえる。
そして、音が完全に遠くへ行った事を確認し、暗がりから身を表したその時。
「だから貴様は間抜けなのだ」
男の心臓が飛び上がった。
背後から、冷たく淡々とした声が男の耳に届いたのだ。
「ッ!?」
慌てて背後の暗がりを見やる。
「貴様は、最後の最後で詰めが甘い。それでいて決断が早すぎる」
変わらぬ調子で、冷淡な声が闇の中から響いてくる。
「だ、誰だ!」
男の問いかけに、声の主が暗がりから姿を現した。
「毛利!」
そこにいたのは、緑の甲冑に身を包んだ一人の男であった。
その手に身の丈ほどもある輪状の刃を携え、ゆっくりと歩み出でる。
端正な顔立ちだがそこに表情はなく、冷たい視線だけが男を捕らえていた。
毛利元就、日の本・中国の地を治める武将である。
「なんでお前さんがここに!」
敵意半ば、恐れ半ばといった様子で男は毛利に問う。
だが、当の毛利は意に介した様子も無く、静かに輪刀と逆の手を掲げる。
すると、どこからとも無く、一文字に三つ星の旗印を掲げた無数の兵達が現れ、男を取り囲んだ。
毛利元就の手勢である。
「ぐっ……!」
「貴様の考える事など、たかが知れている」
なお淡々と告げる毛利を、男は歯を噛み締めながら睨みつける。
「観念するのだな」
「ふん!何の目的があって小生を捕らえる?」
「それはあの男に聞くのだな」
「あの男、刑部か……!」
自分に兵を差し向けた人物を知り、男の表情はますます歪んだ。そして、それと同時に男は悟った。
このまま、ここで捕まるわけには行かないと。
「捕らえよ」
毛利の指示に5、6人の兵士達が武器を携えにじり寄ってくる。男は観念したかのように両腕を頭上に掲げる。
ようやく観念したか、と兵達が警戒を解いた、その時であった。
「うぉらあっ!!!」
ずどん!と、男を中心に辺りに凄まじい衝撃が走った。
取り囲もうとしていた5・6人の兵達は、予想だにしない振動をもろに受け、洞窟の岩壁に一人残らず叩きつけられる。
周囲を取り囲む兵士らも、一瞬なにが起きたか理解できなかった。
見れば、男が両腕を何かに叩きつけているのが見え、そのたびに辺りの兵達が木の葉のように宙へと舞っていた。
「どうだ!油断したな!」
混乱する兵らを見て、男はほくそ笑んだ。隊列は乱れ、もはや包囲どころではない。
逃げるなら今のうちだ、と崩れた隊列の一角から脱出を図ろうとする。だがしかし。
「詰めが甘いと言っている」
「うおっ」
突如、男の眼前を刃が通り過ぎた。
咄嗟に後方へと退避すると、己の前髪の端がぱらりと地面に落ちるのが見えた。
すとん、と男の目前に毛利元就が着地した。
空いた手で、自分の服についた土埃を軽く払いながら、毛利は変わらず冷ややかな視線で男を見下ろしていた。
「詰めが甘いだと?」
「そうよ」
どちらも至って冷静に答える。
「いや、そうでもない」
その一言と共に、毛利にむかって駆け出す男。
「ここでお前さんを叩きのめせば!それで詰みだ!」
「笑わせるわ!」
毛利の右に構えた輪刀と、男の引き摺るそれが、激しい金属音と共に激突した。
再び辺りに衝撃が走る。ガツンガツンと、互いの得物が火花を散らす。
それは、周囲の何者も介入できない、激しい剣劇であった。
ギシギシと互いの腕が軋むほど、そのぶつかり合いは激しさを増していった。
混乱から回復し、再び隊列を組み直した兵達は、成すすべなく勝敗を見守る。
ここで勝敗を分けるは、純粋なパワーと疲労。
純粋な力で言えば、毛利よりも男が勝っていた。しかし、長時間の逃亡による疲労を加えれば、勝負は互角。だが……
「負けるか!」
「くっ!」
軍配は男に上がりつつあった、そして。
「おらぁ!」
ぎん、と鈍い金属音が響いた。男の左斜め下よりの一撃が、毛利の輪刀を吹き飛ばしたのだ。
勢いよく打ち上げられた輪刀がざくりと、固い岩の天井に突き刺さる。
「もらった!」
男が勝利を確信し、丸腰の毛利に向かって攻撃を加えようとした、その時であった。
「なっ!?」
眩いほどの光と共に、毛利元就の周囲が爆ぜた。
「ぐあっ!」
そのまま後方へ吹き飛ばされ、男は地面にずしゃりと転がる。
みれば毛利の全身がまばゆいほどの光を放ち、辺りを照らしているではないか。
薄暗い洞窟が真昼のように光を浴びる。兵達は目を覆った。
毛利から発せられるその光こそ、この日ノ本に生きる将である証。
そして戦国の世に生きる武将のみが扱える、奥の手である。
その感覚が、より鋭く研ぎ澄まされた時発動し、脅威の力と、空間を超越した速度を得ることが出来るという秘技だ。
そのまま毛利は3~4mはあろう天井に向かって飛び上がると、突き刺さった輪刀を勢い良く引き抜く。
そして、目にも留まらぬ速さにて男に迫り、その全身を切り刻んだ。
「ぐっ!があ……っ!」
まるで舞を踊るかのような、怒涛の連続の斬撃が、上下斜めから襲い来る。
体制を立て直す暇も無い男は、それらの攻撃を避け切るすべも防ぎきる術も持たなかった。そして。
「ハアッ!」
「うああああっ!」
下段よりの強烈な切り上げ、その一撃が再び男の身体を軽々と吹き飛ばした。
あたりを囲む兵もろとも吹き飛ばし、男は固い岩壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
壁を背に、そのまま力なく床に崩れ落ちる男。
「手こずらせおるわ……!」
若干のイラつきを含んだ言葉を男に投げかけ、毛利元就は男を見やった。
毛利が輪刀を男の喉元に突きつけ、男は荒い息をつきながらギロリと毛利を睨みつける。
全身に傷を負いながらも、戦意を失わないその態度は周囲の兵達を驚かせた。しかし、もはや男に成すすべはない。
再び男を兵達が囲む。その光景を見て、男は悔しそうに歯噛みした。
「(結局こうなるのか。何とかならないのかっ)」
男が勝機を諦めかけた、その時。
「鏡!?」
男の目と鼻の先、毛利と男を隔てるように突如、鏡のようなものが出現したのだ。
「何?」
毛利自身も目を疑った。謎の物体の出現に、急ぎ距離をとる毛利。そして次の瞬間。
「なっ!何だ?何だぁ!?」
鏡が男に迫る。そして鏡に触れた男が、見る見るうちにそれに吸い込まれていくではないか。
これには流石の毛利元就も言葉を失った。一体何が起きたのか、恐らくその場に居た誰もが理解出来なかったであろう。
「毛利っ!畜生!離せ、離しやがれ!」
半身を鏡に飲まれながら、男は精一杯の抵抗を示す。しかしながらその抵抗むなしく、男は。
「なぜじゃああぁぁぁぁ……」
情けない叫びとともに、謎の鏡の中へと消えていった。
そしてその鏡自身も消え去ると、後には何一つ残っては居なかった。

辺りを沈黙が支配する。薄暗い空洞を僅かな松明が照らす。
湿った岩壁から滴り落ちる水の音のみが、ただただ虚しく洞窟内に響き渡った。
それを聞くのは残った無数の毛利兵と、ただひたすらに冷たい表情を浮かべる一人の将のみであった。


暗の使い魔 第一章 『召喚!不運の軍師、異世界へのいざない』



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