あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-29


店主は、今度は小さなナイフを差し出してきた。
柄には美麗な図柄が象眼してあり、刀身は鏡のように磨き上げられていて、仄かに銀色の輝きを放っている。

「こいつはどうです、小さいですが、お客さんの手にはピッタリかと。
 小品ですが、かの名高い名工グリンウルドの鍛えた刃物に、ガリアの一流の錬金魔術師マイアリーが魔法を掛けて仕上げたものです。
 御覧なさい、ここに銘が刻まれとるでしょう?」
「―――へえ、なかなかよさそうね」

ルイズは一目見て、その小さくまとまった美しさが気にいった。

平民の磨いた牙とたとえられる剣のような、野蛮な刃物とは違う貴族の小道具的な上品な高級感がある。
また、名高い名工と一流の魔術師の手による品だという店主の説明にも惹かれた。
貴族が身の回りにいる者に持たせるのは、そういう一級品が望ましい。

「そうでしょう。それに、魔力で刀身自体が輝いとるのも見ればお分かりでしょうな。
 超一流の技と魔法が合わさった極上の逸品です。
 決して錆びることも、刃こぼれすることもありやせんぜ」

ディーキンは、そのナイフを手にとって注意深く調べてみた。

なるほど、確かに魔力の輝きを放っている。
しかもオーラの強さからすると、先程見た斧やレイピアよりも腕のいいメイジによるものだ。
さらに、固定化とかいう物だけではなく、それ以外の魔法がもうひとつふたつかかっているようだ。
切れ味を増す魔法と……、決して刃こぼれしないという店主の言葉からすれば、刃の物理的な強度を上げるような魔法だろうか?

ベースのナイフ自体の作りも実に丁寧で、握り心地がよく扱いやすい。間違いなく高品質な代物だ。
名工の手によって作られた刃物に一流のメイジが魔法を施したものだという説明自体は、まず嘘ではないだろう。

さてこれはどう扱ったものか、とディーキンは首を傾げた。

「今度はどう、ディーキン? 私には良さそうに思えるけど」
「ウーン……、いくらくらいなのかにもよると思う」
「そうね。おいくら?」

ルイズの質問に、店主は咳払いをして、勿体ぶった調子で話しはじめる。

「オホン。何ぶん、こいつは2つとは手に入らぬ一級品ですからな……。
 おやすかあ、ありませんぜ?」
「私は貴族よ」

胸を反らせて続きを促すルイズに、店主はひとつ頷くと淡々と値段を告げた。

「へえ。では、そうですな。
 先程の失礼の分多少勉強させていただいて、エキュー金貨で千二百、新金貨なら千八百というところで」
「……ちょっと、何よそれは。そんな小さなナイフが?
 それだけあれば立派な家だって建てられるじゃないの、たかが武器に……」

ルイズは値段を聞いて、呆れたような顔でそう文句を言った。
しかし店主は至って真面目な様子である。

「お言葉ですが、若奥さま。並みの剣ならいざ知らず、名のある剣の中には城に匹敵するだけの値がつくものもありますぜ。
 こいつは小品とはいえ、間違いのない名品で。家で済んだら安いものでさ」
「今は新金貨で百しか持ってきてないわ」

店主はそれを聞くと顔をしかめて、話にならないと言うように首を振った。

「……それっぱかしじゃあ、ごくありきたりの剣を買っていただくしかありませんな。
 魔剣はもちろん、魔法が掛かっていなくとも、大剣ともなれば装飾や魔法抜きでも相場は二百は下りやせんぜ。
 お手持ちで買えるのは、せいぜい普通の長剣くらいまででさ」

ルイズはそれを聞いて顔を赤くした。武器がそんなに高いものとは知らなかったのだ。

ディーキンは、少し首を傾けて、果たしてその値段で妥当かどうかと考えてみた。
フェイルーンなら、平均的な長剣は15gp(金貨15枚)、大剣で50gpといったところだ。
もちろん同じ金貨でもハルケギニアのエキュー金貨や新金貨とは大きさが違うし、物価も異世界だから違っていて当然ではある。

ハルケギニアの物価については昨日少しはこの街で見たりタバサから聞いたりしたが、武器の値段についてはまだよく知らない。
だからはっきりと断定はできないのだが……、それでもなんとなく、若干ぼったくっているようには思えた。
そこまでとんでもない値段をつけてはいないだろうが、数割程度は水増しした額を言っているのではないかという気がする。

一方で、魔法の武器に関しては、フェイルーンなら威力や命中精度を高めるまともな強化を施した武器なら最低でも2000gpは下らない。
金貨千二百枚で魔法の武器が買えるというのなら、むしろ安いようにディーキンには思えた。

無論、まともな武器なら、ということだが。

「……聞いての通りよ。残念だけど、それは買えないわ。別のにしましょう」
「うん、ディーキンは別に構わないの。
 いいものだとは思うけど、果物ナイフに家が買えるお金を払うのはちょっと高すぎるからね」

悔しそうにしていたルイズだったが、ディーキンのその言葉を聞いてきょとんとする。

「……え? あれって、果物ナイフなの?」
「たぶんそうだよ。いいものみたいだから、安かったら買ってもいいと思ったけど」
「なんだ、そうなの」

店主はそのやりとりを聞いて、内心で苦々しく舌打ちをした。
今度はあのガキもうまくひっかかったと思っていたら、気付いていたのか。

確かに、あれは間違いなく名高い名工が作った品であり、魔法を掛けたメイジも有名ではないが一流の腕前だ。
ただ、武器ではない。
ディーキンの見立て通り、名工が知人に頼まれて作った果物ナイフなのである。

多少手入れを怠って野菜の汁が付いたままにしても錆を生じないよう、一流の固定化が施されている。
硬い物や柔軟な物、何を切っても、長期間使い続けても刃こぼれしないよう、きちんとした硬化も施されている。
野菜でも果物でも楽々と切れるように、切れ味を増す強化魔法までもがしっかりと施されている。

しかしいくら作りがよくとも、そもそも戦闘用ではない。
素の刃の切れ味が鈍すぎて、武器としては強くもなんともない。
あくまでもおしゃれと実用品を兼ねた小物なのだ。

貴族の中には刃物など、それこそ果物ナイフくらいしかまともに扱ったことはない、という輩が少なくない。
そういう連中は剣というのも少し大きいだけで果物ナイフと似たようなものくらいにしか思っていないだろうから、区別などできまい。
むしろ見慣れた形状で美しい飾りや一流の魔力が施されていれば、見慣れぬ形でいかにも野蛮そうな剣よりも上等な武器だと考えるだろう……。

店主はそう考えたからこそ、元の持ち主が没落して捨て値で売りに出されていたこの果物ナイフを買い取ったのである。
実際、ルイズは思惑通りに乗せられていたのだが、ディーキンはそうもいかなかったようだ。

まあ、どうせ上手く騙せていたところで百しか持ってないガキが相手じゃ仕方なかったな、と店主は気分を切り替えた。

「……ええと、お勧めはもうないの?
 なら、ディーキンは自分で探してみていいかな?」
「え? ……ああ、どうぞ。すみやせん、何か気にいったのがあれば説明しますんで」

ディーキンは説明が一段落したのを確認すると、今度は自分で店内を見て回ってみることにした。
この店主に付き合うのもなかなか面白いが、自分の目で見て回るのも、きっと楽しいことだろう。


「―――うん? あれは……、」

店のあちこちに積み上げられた武器を見てまわっていたディーキンが、展示棚の一角に飾られたマスケット銃に気付いて目をしばたたかせた。
その横には拳銃も数丁並べられており、隣の棚には角製の火薬筒らしきものが詰め込まれている。

「へえ、銃というもんです。……お客さんは、ああいったものにも興味がおありで?」

店主は、これはしめたなとほくそ笑んだ。

銃はメイジが火の秘薬を精製して作った火薬を用いて鉄の弾を飛ばす、高度な技術を要する武器だ。
種類にもよるが拳銃程度ならこの亜人のように小柄でも問題なく扱えるし、火薬に頼るので非力でも高い威力が出せる。
それに、このガキは武器には意外と詳しいようだが、まさか亜人の身で銃のような高度な武器にまで詳しくはあるまい。

そう考えると、こういった手合いに売りつけるのには正にうってつけの武器と言えるかもしれない。
まあ、こいつの主人の手持ちでは銃は買えないが、不足分は残り2人の貴族に建て替えさせるか、ツケにしておいてもいいだろう。

「ンー……、一応。
 銃っていうのは、つまりクロスボウみたいなもので、金属の弾を撃ち出す小型の投石機でしょ?
 スモークパウダー(煙火薬)を使って弾を飛ばすんだ、って聞いてるよ」

フェイルーンでは、小火器の類は比較的新しい武器である。
ごく近年になってから作成方法が知られた魔法の錬金術物質・スモークパウダーを使用しているからだ。
罠づくりに長けた種族であるコボルドの錬金術師は酸の爆弾を作ったりもするが、スモークパウダーはそういった物とはまた違っている。

ごく近年の一時期に、超越神エイオーの意思によってただ一柱を除くすべての神々が力を失い、魔法が混乱した“災厄の時”と呼ばれた期間があった。
その間、多くの神々が化身と呼ばれる定命の肉体に封じられ、地上を闊歩していたといわれる。

考案と製作の神、“驚きをもたらすもの”ガンドもそうした神々の中の一柱であった。
彼は災厄の時に定命のノームの姿となって、半ば伝説的な発明者たちの楽園・ランタン島の岸辺に降り立ったのだ。
この期間に滅ぼされた神々も多かった中で、彼はかの島の人々に匿われて無事に災厄の時を乗り切ることができたという。
その事に対する感謝として、後日ガンド神はランタン島の人々に、スモークパウダーの秘密を教えたのである。

それは、今から僅か二十年ばかり昔の話に過ぎない。
スモークパウダーを用いる小火器が発明されたのはそれ以降のことだ。
ランタン島や進取的で発明好きなノーム達の間では割と普及しているらしいが、一般的にはまだまだ珍しい代物である。

こんな武器屋に複数の銃器が当たり前のように並べられているというのは意外だった。
こちらの世界では、そのあたりの技術の発達や普及がフェイルーンよりも進んでいるのかもしれない。
そういえば、昨日タバサと一緒に対峙した傭兵崩れも銃を持っていたな、とディーキンは思い返した。

そこへ、キュルケが興味深そうに割って入る。

「ふうん、ディー君のいたところでは火薬のことをスモークパウダーっていうの?
 ……ねえ、私は火のメイジだから、そういうのには結構詳しいわよ。
 それに故郷のゲルマニアじゃ、性能のいい銃もたくさん作られてるんだから。よかったら選ぶのにアドバイスをしてあげましょうか?」

そういいながら、挑戦するように目を細めた不敵な笑みを店主に向ける。
店主は愛想よく笑みを返すが、内心では悪態をついていた。

(けっ、成り上がりのゲルマニア貴族のお嬢様がしゃしゃり出やがって。
 半端な知識を自慢したいのか知らねえが、世間知らずの小娘に本物の銃の何がわかるってんだ?)

ルイズはそんなやり取りを見て、不機嫌そうに腰に手を当てる。

「ツェルプストー、あんたは関係ないんだから余計な口を出さないでちょうだい!
 何よ、銃なんて平民の使うおもちゃじゃないの。
 そんな役立たずより、もっとましな武器を買いなさいよ!」

ディーキンは少し考えるとそれに頷き返して、キュルケと店主に軽く断りを入れてから銃の展示棚を離れた。

別に、銃が悪い武器だとは思わない。
力がなくてもある程度訓練すれば割と手軽に人を問わず扱えて、そのくせ威力も結構高いというのだから。

ただ、ディーキンの感覚では、大衆の武器ではあっても英雄の武器ではない気がした。
誰でも扱えるが、逆に言えば誰が使っても威力は同じであり、強力な魔法が付与された剣を振るう英雄にとってはなんというか物足りないのだ。
それに高度な技術で作られている分値段も割と高めだし、使うたびに弾薬だけでなく火薬の代金もかかる。
もしかすれば、いずれは技術が進歩し、改良されて、英雄の武器としても不足のない強力な銃も生まれるかもしれないが。

……というか、そもそも昨日見張りから武装解除がてら失敬しておいたマスケット銃が、既に背負い袋の中に入っている。
彼が所持していた火薬や弾も全て回収しておいたので、もし必要そうならそれらを使うだけで十分だろう。
銃は特に実戦で使う気もないが、火薬の方は工夫次第では便利かもしれない。

「じゃあ、ええと……。他には、何かないかな?」

ディーキンが乱雑に積み上げられた大剣をひょいひょいと持ち上げて、順に眺めていた時。
突然、少し離れた場所から声をかけられた。

「亜人の坊主よぉ……、自分でさっき言ってたじゃねえか、おめえの体格じゃあここらの剣はデカすぎて扱えねえよ。
 見る目がねえそっちの貴族の娘っ子はほっといて、さっきの拳銃にしといたらどうなんだ?
 おめえみてえなチビには、剣よりもああいうのが向いてるぜ!」

低い、男の声だった。

その声を聞いて店主は顔をしかめるとしまったというように頭を抱え、他の4人は一斉に声のほうに向きなおる。
しかしそちらのほうには剣が積んであるだけで、人影はない。

「ン~?」

ディーキンはちょっと首をかしげると、とことこと声のしたほうに歩いていき、そこに積んである剣の束を調べはじめる。
なにせ身近にエンセリックという喋る武器がいるのだから、声の主の正体にはすぐに察しがついた。

「ほお。俺っちの正体に気付くとは、さっきの見立てといいナリに似合わず見る目はあるじゃねーか、坊主。
 だが、おめーじゃ俺っちを扱えそうにねえのが残念だな」
「オ……、今喋ったのは、ええと、あんただね?」

ディーキンは間近で声を掛けられたことで喋っている対象を特定して、そちらの方に目を向ける。
それは、錆の浮いたいかにも古そうな一本の剣であった。

「おう、そうよ。デルフリンガーってんだ」
「はじめまして、デルフリンガーさん。ディーキンはディーキンだよ。コボルドの詩人で冒険者で、今はルイズの使い魔もやってるよ」
「名前だけは一人前のボロでさ」

店主が横から差し挟んだ悪態にちょっと首を傾げると、ディーキンはうんと背伸びをしてデルフリンガーを掴み、ひっぱり出して観察してみた。

長さは5フィートほど。柄は長く、両手でしっかり持てるように作られている。大きさからいっても、人間がこれを使うなら普通は両手持ちだろう。
しかし剣身は片刃で細く、薄手に作られており、長さの割にはやや軽い。そのため、訓練を受けた者なら片手でもなんとか扱えそうだ。
分類としては、片手半剣(バスタード・ソード)や刀(カタナ)と同じようなカテゴリーにあたるだろうか。

錆が浮いているが、魔法のかかった剣である以上自然に錆びつくとは思えない。
もし錆びつくようなことがあれば、その時点で魔法が綻んでいるということで、魔剣ではなくなってしまっているはずだ。
フェイルーンでも、見た目はみすぼらしいが実は強力な魔力を持つアイテムというのはそう珍しいものではない。
おそらくは一種の偽装だろう。どういった魔力があるのかは、呪文などを使ってじっくりと調べてみなくては分かりそうにないが……。

「あれって、インテリジェンスソード?」
「そうでさ、若奥さま。意志を持つ魔剣とやらで。
 一体どこの誰が剣をしゃべらせるなんてことを始めたのかしりやせんが……」
「ふうん、この店って珍しいものをずいぶん置いてるのね。
 ……ガラクタの寄せ集めって気もするけど。その剣も錆びててボロっちいし」
「珍しい」

ルイズは当惑したような声を上げ、キュルケは若干興味を示し(後半は聞こえないよう小声で付け足した)、タバサは無言でディーキンの方を見つめた。
そんな周囲の反応をよそに、魔剣はひっぱり出されたことに文句を言っている。

「おいおい坊主、気安くひっぱり出すなよ。俺っちを見てどうしようってんだ?
 おめえみてえなチビじゃあ、俺をまともに扱えるわけがねえだろうによ」
「おいこら、デル公! お客様に失礼なことをいうんじゃねえ!」

店の主人が怒鳴り声を上げる。

「失礼? けっ、俺は本当の事をアドバイスしてるだけだぜ。
 おめえこそ、さっきから見てりゃあこいつにろくでもねえガラクタばかり売りつけようとしやがって!
 そっちの方がよっぽど失礼だろうがよ!」
「うるせえ! 滅多なことをぬかすんじゃねえぞ、デル公!
 それ以上商売の邪魔をしたら、貴族に頼んでてめえを溶かしてもらうからな!」
「へっ、おもしれえや!
 やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きして、……!?」

店主と言い合いをしていた剣は、唐突に黙りこくった。

「……おい、どうしたデル公? 溶かされるのが怖くなりやがったか?」
「…………。ま、まて坊主、俺を戻すな! そのまま持ってろ!」

剣は怪訝そうな店主を無視して、自分を頼まれた通り元の場所に戻そうとしていたディーキンを制止する。
それからしばらくして、剣は小さな声でしゃべり始めた。

「……おでれーた。こいつは見損なってたぜ。
 おめえ、ナリは小せえがとんでもねえ力が全身に漲ってやがるな。
 しかも、『使い手』……? いや、違うか。だが、何か……」
「? ええと、ディーキンはそんなに強くないよ。
 それにあんたが何を言ってるのかも、ディーキンにはよく分からないけど」
「それで強くねえだと? 自分の実力にも気付いてねえのか?
 ……まあ、いいか。しかし……、」

剣はそれから一人でぶつぶつと呟きながら、悩み始めた。

「……買えと言いてえところなんだが、いくら強くても体がその大きさじゃ俺は使えねえだろうしなあ。
 剣として、使ってもらう事の出来ねえ相手についていくってのもなあ……。
 だがこんな相手はそうそう見つからねえし、何か気になるし……、今、こいつについていかねえとなると……」

ディーキンはその様子を見て、首をひねる。

「……アー、よく分からないけど。
 つまりあんたは、ディーキンに買ってほしいけど、剣としても使われたいってこと?」
「まあ、そいつがベストなんだが……」

それを聞いてひとつ頷くと、ディーキンはもう一度じっくりと剣を観察しながら思案を巡らせ始めた。

確かに、このデルフリンガーを自分がまともに武器として使うのは無理だろう。

自分は片手半剣の扱いには慣れていない。
両手持ち専用で大剣(グレートソード)として運用するにしても、自分は大剣の扱いにも不慣れだ。
無理をすれば使えない事もないだろうが、それなら他のもっと慣れた武器を使った方がいいに決まっている。

それより何より、まず第一にこの剣は自分には大きすぎる。
エンセリックのように、自分の種別やサイズを変更できる能力がこの剣にもあれば問題ないのだが。

(なら……、シエスタに使ってもらうのはどうかな?)

自分にパラディンを指導できるとは思わないが、昨日彼女から頼まれて引き受けた以上は精一杯やるつもりだ。
彼女が今後パラディンとして生きていくつもりなら、武器を用いた戦闘技能は必ずや重要になってくるはずなので、その訓練もしていく必要がある。
しかし彼女は今、ろくな武器を持っていない。昨日自分が貸した剣だって、ただの拾い物だ。
なら、この剣を彼女に贈れば丁度いいのではないか?

シエスタが片手半剣の扱いに慣れているとは思えないが、おそらく一通りの軍用武器は扱えるはずだ。
両手持ちで大剣のように振るう分には問題ないだろう。
自分の美的感覚から言っても、大剣はパラディンの武器に相応しいもののひとつだ。
外見が錆びているのは難点だが。

使い道の問題は、それで当てが付いた。
残る問題は、値段だ。

自分は今、金を持っていない。ルイズの手持ちも、ごく普通の武器がやっと買えるか買えないかという程度らしい。
ところがこれは魔法の武器、しかもフェイルーンでは希少な『知性あるアイテム』なのだ。
ここでは知性あるアイテムの評価がどの程度のものなのかは分からないが、少なくとも先程の果物ナイフなどとは比較にならないほどの高値だろう。

そう考えつつ、ディーキンは遅まきながらも永続化している《魔法感知(ディテクト・マジック)》で、この剣にかかっている魔法の強さを調べてみた。
フェイルーンとは基準の違いもあるだろうが、とりあえずどのくらい強力な品か見て値段のあたりをつけようというのだ。

しかし……。

「――――!? ウッ……、」

突然間近で強烈な魔法のオーラを感知したディーキンは一瞬目が眩んだようになり、ショックと驚きとでややふらついて一、二歩あとじさった。

この剣は、“圧倒的”な魔法のオーラを発している。
つまりはエピッククラスの術者が作成した品か、あるいはアーティファクトだということだ。

エピック級のマジックアイテムなら、値段の方は最低でも金貨二十万枚以上……、百万枚以上ということも十分に考えられる。
ディーキンの手持ちで最も強力な部類のエピック・マジックアイテムにも、そのくらいの値が付く。
無論、そもそも売られること自体が滅多に無い代物ではあるが。

そしてアーティファクトともなれば、もはや値が付く代物ではない。
定命の存在の間では作成法自体が遺失した古代の遺産であり、僅かな所有者は城どころか小国ひとつと交換しようといっても、まず手放そうとはしない。

まさかこんな店に、ここまで強力なアイテムが眠っているとは思わなかった。
これはもう、掘り出し物とかいうレベルではない。
仮にツケが効いたとして、自分の今持っている資産の範囲で果たして買い取れるかどうか……。

ディーキンはどうしたものかと悩んだ。
が、とりあえずダメ元で、まずは値段を聞いてみることにする。

「ええと、店主さん。この剣は、いくらなの?」
「はっ? ……そ、そいつを、お買い上げいただけるので?」
「ウーン、買いたいけど……、まず買えるかどうかがわからないからね。
 きっと、すごーく高いでしょ?」
「……い、いえいえ、とんでもねえ!」

まさかあのうるさい剣が売れるとは思っていなかった店主は戸惑っていたが、ディーキンの問いに慌てて首を振った。
予想外の流れだったが、商売の邪魔になるばかりの面倒な不良在庫を厄介払いできるいいチャンスだ、と思ったのだ。

どうせ喋るだけで何の役にも立たないウザったい錆び剣だ。
それが売れて金が入るなら、この際高値でなくとも構うものか。
下手に吹っかけて、せっかくのチャンスがおじゃんになってもつまらない。

「あれならもう、百……、いや、五十で結構でさ」
「………へっ?」

ディーキンは予想外……、というより、意味を掴みかねる店主の言葉に、きょとんとした。

「……五十? 五十って、何の五十なの? 五十万エキューってことかな?」
「おいおいお客さん……、ああ、いや、冗談がお上手ですな。
 そんな天文学的な値段をつけるわけがねえでしょう?
 五十といやあ、あちらの若奥さまがお持ちの新金貨で五十枚の事に決まってまさあ」
「……………」

呆れた様子で苦笑する店主の顔を、ディーキンは困惑したような疑い深いような目で、しばらくまじまじと見つめた。
どう見ても、この店主の言葉は嘘や冗談では無いようだが……。

(この人って、実はいわゆる面白い人なのかな?)

ディーキンは、先程まではこすっからくて油断ならない人物だと思っていた店主への評価を改めた。
というか、もしかして気の毒な人なのではないかと心配し始めた。

魔法のかかってない普通の剣でも二百だとさっき言っていたのに、魔法がかかっていてしかも知性まである剣を五十で売るとか、気は確かなのだろうか。

そりゃあ、フェイルーンとこことでは物の価値は大分違うのかもしれない。
だが、それにしたって魔法の剣が普通の剣より安いというのは常識的に考えて有り得まい。
見る目がないというよりも常識がない、いやむしろ判断力がないのではないかと、疑いたくもなろうというものだ。

「……ええと、本当に新金貨五十枚でいいの?」
「そりゃもう、こっちにしてみりゃ厄介払いみたいなもんで」

ディーキンは肩を竦めると、ルイズに向き直った。

「じゃあ、ルイズ。これを買ってもらってもいい?」

それを聞いたルイズは、露骨に眉を顰めて嫌そうな声を上げた。

「え~~~。そんなのにするの?もっと緯麗でしゃべらないのにしなさいよ」
「…………」

その反応に、ディーキンは困ったようにちらちらとキュルケやタバサの方を伺ってみた。

2人とも、ルイズに比べればこの剣に興味はあるようで購入すること自体に不審そうにはしていないが、さほど強い関心を持っている様子でもない。
どうやら自分以外のこの場の誰一人として、この剣にさして高い価値を認めてはおらず、店主のつけた値に大した疑問も持ってはいないらしい。
ディーキンは自分の常識に外れ過ぎている周囲のこの反応に、強いカルチャーショックを受けて、なんだか頭がくらくらしてきた。

エピック級、もしくはアーティファクト級のマジックアイテムがたったの金貨五十枚である。
フェイルーンでそんな値段を聞いたら、デヴィルとか邪神とかいった良からぬ連中の策謀の一環なのではないかと疑うであろう。
もし仮に何の裏も無いと確信できるのであれば、たとえ使うアテがなくても転売目的で即買いだ。

こんなうまい話を聞いても誰も何の反応も無いとは、一体ここの人々の考え方はどうなっているのか。
この世界では、そこまで戦士や、戦士の使う武器への評価が低いのだろうか。

そんなディーキンの内心に気付いたわけでもないのだろうが、キュルケが購入を渋るルイズをからかうように声を掛けた。

「なあに、ヴァリエールは大切な使い魔にそんな錆びた剣の一本も買ってあげられないのかしら。
 なら、タバサと私とでディー君にプレゼントしてあ………」
「買うわ!」

そうして、カウンターにじゃらじゃらとぶちまけられた五十枚の新金貨と引き換えに、デルフリンガーはディーキンの所有物になったのだった。


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