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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-25


ここはトリステイン魔法学院。
既に夕食も済んで、外はすっかり暗くなっている。

「ふう……、」

メイドのシエスタは、学院の広い廊下でカーテンを閉めて回る仕事をしていた。
随分と疲れた様子で、溜息など吐いている。

といっても、昼間の決闘や使用人の仕事で疲れている、という訳ではない。

昼間の決闘に勝った後、食堂に戻ったシエスタは使用人仲間から大歓声を持って迎えられたのだ。
自分たちの仲間が“偉ぶった生意気な貴族の子ども”に堂々と楯突き、あまつさえ勝ったのがよほど痛快だったらしい。
特にマルトー料理長などは「我らの剣」などという大層な呼び方までして持ち上げてくれたものだった。
おまけに、英雄にこんな仕事はさせられないとかいって事あるごとに皆が手伝いを申し出てくれたので、いつもより仕事量は少なかったくらいだ。

だが、シエスタとしてはそのような扱いを受けても困惑する気持ちの方が強く、あまりうれしいとは感じなかった。
あの決闘はあくまでも不公正な態度を見過ごせない自分の信念と、友人(ディーキン)を庇う気持ちから受けたにすぎないからだ。

シエスタ自身には基本的に貴族の権威や既存の秩序を軽んじる気持ちなどはなく、普段はそれに敬意を払い、従っている。
今回戦ったギーシュという少年のことだって別に嫌いなわけではなく、むしろよい人物だと思う。
規律と善行を重んじるシエスタにとって、事態を穏便に収拾できず彼と決闘などをしたのはむしろ恥ずべき事だったといっていい。
ましてや今回の勝利は自分の力ではないことをシエスタは知っているのだから、なおさら喜ぶ気持ちにはなれなかった。
もちろんそれとは別に、ディーキンと巡り合わせたこと、召命の声を聞いたことは、この上もなく幸福な経験ではあったが。

だから、「あれは褒められるようなことじゃないし、勝ったのもディーキンさんの応援のおかげですから」と、言ってはみたのだが。

達人は誇らないものだとか何とか解釈されてますます熱狂的に持ち上げられるばかりで、どうしようもない状態だった。
おまけに決闘の際には怯えていた後輩のメイドが、敬意と熱情とが入り混じったような上気した顔でやたら付きまとって世話を焼いてくるのには閉口した。

そんなこんなで、今日のシエスタは普通に仕事をこなしている普段よりも数倍、気疲れしたのである。

決闘の件に関しては、一応学院側から呼び出しを受けた。
シエスタは首も覚悟していたが、学院長の判断で特に責任は問わないという事になった。
なんでも決闘相手のギーシュが学院長室まで出向き、非は全面的に自分にある、彼女を罪に問わないで下さいと頭を下げたらしい。
シエスタはそれを聞いて少なからず感動し、今度彼にお礼を言っておかなくてはと心に留めた。
幸いなことに行為はともかく後の反省の態度は潔いということで、彼の方も今回は口頭注意だけで済むそうだ。

(怖かったし、疲れたけど……、今日は本当に素敵な日だったわ)

シエスタがしみじみとそう思い返しつつもうひと頑張りしようと気合を入れ直した時。
急に、背後から声をかけられた。

「ちょっと、そこのメイド」
「は、はいっ?!」

こんな時間に声を掛けられるとは思っていなかったシエスタは、びくりとする。
口調からすれば貴族の女生徒のようだが、もしかして疲れた様子か何かが態度に出ていて不興を買ったのだろうか。
それとも、昼間の決闘の件で何か言われるのだろうか。

恐る恐る振り向いて、相手の姿を確認する。
そして、ほっと一安心した。

「これはミス・ヴァリエール、お声を頂きまして恐縮です。
 私に何かご用でしょうか?」

シエスタは、実際のところルイズの事をあまりよく知っているわけではない。

貴族なのに魔法を使えず、しょっちゅう爆発を起こして周囲に迷惑をかけ、『ゼロ』という不名誉な渾名をつけられて蔑まれているとか。
そのくせ他の貴族と変わらない高慢な態度を取る生意気な娘だとか、他の使用人たちが陰口を叩いていたのを小耳に挟んだことはある。
しかし事実であろうとなかろうと、陰で悪口を言うような真似は好きではないのでそれに加わった事はなく、あまり詳しい話は知らなかった。

自分が魔法を使おうとすると爆発するのを承知していながら周囲への迷惑を顧みないのであれば、確かにそれは感心しない行為だとは思う。
だが、それ以外に関しては特に問題があるとは感じなかった。
陰口を叩いていた使用人達は態度が高慢で生意気だといっていたが、シエスタの見る限りでは貴族として妥当な姿勢の範囲を超える程だとは思えない。
見たところ、時折見かける本当に高慢で弁えのない貴族のように、理不尽に平民に当たったりしている様子もないし。

なんにせよシエスタとしては、今まではさしたる感情は持っておらず、特別意識したことも無かった。
だが何であれ、彼女は自分が崇敬しているディーキンを召喚した、彼の“主人”なのだ。
ならばやはり彼女も善人であろう。少なくとも、悪い人のはずがない。悪い人に、彼が仕えるものか。

そうでなくても、今やパラディンであり《悪の感知(ディテクト・イーヴル)》が使えるシエスタには、その気になれば悪人は簡単に見分けられる。
もちろん、見境なく他人に対してその能力を使用するのも失礼だろうから、まだ実際に誰かに使って確かめたりはしてないが。

「ええ、用があるから声を掛けたのよ。
 やっと見つけたわ、あなた、昼間ギーシュと決闘をしてた子で間違いないわよね?」
「は、はい、そうですが……」
「それならちょっと聞きたいのだけど。
 あなた、ディ……いえ、私の使い魔がどこにいるか知らないかしら?」
「え? せんせ……あ、いえ。
 ディーキンさんの居場所、ですか?」

シエスタは首を傾げた。

あの人が自分の元を訪ねてくれたのは決闘の直後、もう何時間も前の事だ。
だから当然、とっくの昔に主人の元へ戻っていると思っていたのだが。
まさか昼過ぎに分かれたあの時から今まで、ずっと主人の元に戻っていないという事なのだろうか?

いや、そういえば皆がちやほやしてなかなか仕事をさせてくれなかったせいで、あまり気を回す暇もなかったが……、
確かに先程の夕食の時には、あの人の姿を見なかった気がする。

(あれ? でも、確か使い魔って、主人の方と感覚を共有できるとか……)

ルイズはシエスタが考え込んでいる様子を見ると、溜息を吐いて首を振った。
その表情は苛立ち半分、心配半分といった感じだ。

「……その様子だと知らないみたいね。
 図書館にもいなかったし、まったくもう、どこに行ったのよ……」

ルイズはディーキンに夜までには戻って来いと言っただけで、特に正確な時間は指定していない。
それは当然で、ハルケギニア人には正確に待ち合わせ時間を指定して守るように要求するというような習慣はない。
そんな事はおおよそ無理だからである。

ハルケギニアでは一応半魔法式の懐中時計も発明されてはいるが、所有しているのは裕福な貴族などの一部の者のみだ。
殆どの者は携帯可能な時計はおろか、一切の時計の類を持っておらず、公共の場の時計や時報の鐘、天体の運行などに頼って生活しているのが普通である。
ルイズ自身、普段から懐中時計などは持ち歩いていないし、頻繁に時間を確認する習慣も無かった。
学院内でも、授業時間の区切りや食事時などの大まかな時間が鐘の音で知らされ、生徒も教師も使用人も、皆それに従って行動する。

そのあたりの事情はディーキンの住んでいたフェイルーンでも概ね同じで、むしろハルケギニアよりも若干遅れているくらいだろう。
懐中時計などの機械式の時計はランタン島のノーム等が一応発明はしているがまるで普及しておらず、そういった物の存在を知っている者自体が稀だ。
一般に時計と言えばせいぜい水時計とかそんなもので、それにしたところで所持しているのは一部の金持ちだけだ。
魔法による時計も作ろうと思えば作れなくはないだろうが、やはり一般的ではない。

ともあれ、ディーキンはここに来たばかりだが、授業の終了時や開始時に鐘がなるのは既に何度も聞いて知っているはずだ。
正確な指定などはしなくても、それらを頼りにして放課後か遅くとも夕食時までにはまず戻って来るだろう……と、ルイズはそう考えていたのだ。

ところが、放課後になっても、夕食が始まっても、終わっても……、ディーキンは一向に姿を見せなかったのである。

(図書館にもいない、食堂にも来ない。これだけ見て回っても見つからない、となると……、
 まさか、学院の外に遊びに出ていって迷子になってたりなんてしないでしょうね?)

迷子だけならまだいいが、迷った挙句に危険な生物に出くわしたり、人間の集落にさまよい出て騒ぎに巻き込まれることだってありうる。
いろいろ考えているうちにルイズは次第に不安がつのってきて、そわそわしはじめた。
ディーキンが見かけによらず賢いことは承知しているが、でもやっぱり小さくてこのあたりに不慣れな子だし、と思うと不安だった。

シエスタはその様子を見て、少し躊躇したのちにおずおずと口を挟む。

「……あの、ミス・ヴァリエール。
 あの方にはそんなに心配はいらないとは思いますけど、もし気になられるのでしたら……。
 メイジの方には、使い魔との感覚の共有というのがあるのでは?」

シエスタにとって、ディーキンはいまだに自分を救い素晴らしい運命に導いてくれた神の御使いなのである。
本人が説明してくれた通り種族的には天使とは違うのかもしれないが、そんなことは彼女にとってさして重要なことではなかった。
その天使様がどこかで迷子になって困っているだとか、そんなことは当然想像もしていないし、何も心配ないと思っている。
戻ってくるのが遅いのは、きっと何か、あの人なりの事情があるのだろう。

とはいえ、そのことで不安に思っている人がいるのなら、それは何とかしてあげたい。
そう思っての、純粋に気遣いからの提案だったのだが……。

提案された当のルイズは、何やら顔をしかめて半目で軽くシエスタを睨んでいた。
予想外の反応に、シエスタは少し慌てる。

「え、そ、その………、わ、私、何か失礼なことを申し上げてしまったでしょうか?」
「……いえ。あなたは知らないに決まってるんだから仕方ないわよね……」

ルイズは一旦言葉を切ると、ふう、と息を吐いて気持ちを落ち着けるように軽く首を振る。

向こうはディーキンと自分が正規の契約をしていないことを知らないのだから、何の悪意も否もあるわけではない。
なら怒ってはだめだろう、貴族として。

「なんていうか……、ちょっと理由があってね。私はあの子とは、感覚の共有ができないのよ」
「あ……、そ、そうだったのですか、失礼しました!」

シエスタはルイズが魔法をうまく使えないという話を思い出し、そのせいで感覚共有がうまくいっていないのだろうと解釈した。
良かれと思ってした提案だったが、かえって彼女を傷つけてしまったかと少しへこむ。

まあ、事実は少し違うのだが。

「別に、気にすることはないわ。
 けどこのことはほかの人には内緒にしておいてちょうだい、いいわね?」
「あ、は、はい。かしこまりました」
「ありがと。……そういえば私、さっきのあなたの決闘の事でディーキンから聞くつもりのことがあったんだけど。
 あいつはいないし、せっかくここで会ったんだからあなたに―――――」

2人がそんな会話をしているところへ、また別の生徒が通りかかった。

「―――――あら? ルイズと……、あなた、昼間ギーシュと決闘してた子ね。
 夜分遅くにこんなところで、2人して一体何を話してるのかしら?」

「あ……、これはミス・ツェルプストー、良い夜です」

シエスタは声を掛けられてキュルケの存在に気が付くと向き直って丁寧に挨拶したが、ルイズは露骨に嫌そうな顔をする。

「なによツェルプストー。あんたには関係ないことよ」
「何よ、つまんないわねえ。教えてくれてもいいでしょうに。
 まさか、人に言えないような用事なのかしら?」
「うるさいわね。あんたこそ何しに来たのよ」
「別にー? 私はちょっと、食堂で夜食をもらおうと思っただけよ」

キュルケは今夜は幾人かの男子を順番に部屋に招いて、夜が更けるまでたっぷりと楽しむ予定である。
そのため客人をもてなしたり、合間に自分が英気を養ったりするための軽い飲食物を、今のうちに調達しに来たのだ。

そうこうして少し言い合いをしているうちに、キュルケはふと何かに気が付いたように首を傾げた。

「……あれ? そういえばルイズ、ディーキン君とは一緒じゃないの?」

キュルケは午後の授業で、ディーキンがルイズと一緒に教室に来ていなかったのは確認している。
ルイズとしては午前中随分と目立った上に今度はあの決闘騒ぎで、今日はもうこれ以上注目されるのは嫌だったのだろうと考えて納得した。
あるいはディーキンの方からそう申し出たのかもしれない。見た目に反して随分と賢く、気遣いもできる子のようだったから。

だがしかし、ルイズにとって彼はやっと成功した魔法の証であり、仲もとても良好そうなパートナーである。
おまけにまだ召喚した翌日とくれば、本来ならそんなに長い間手元から離しておきたいわけがない。
当然授業が終わった後は日中離れていた分余計にべったりくっついて連れ歩いてることだろうとばかり思っていたのだが……。

「もしかして小さい子だから、もうおねむであなたのベッドの中なのかしら?」
「…………」

答えにくいことを聞かれたルイズは、キュルケの問いかけに咄嗟に返事もできず、ますます顔を顰めてキュルケを睨むばかり。
シエスタはといえば、何か言いたそうにしながら困ったような顔でもじもじしている。

キュルケはそんな2人の様子を見て、ますます不思議そうな顔をした。

「……何よ、一体どうしたの?
 おねむじゃなかったら……、どこか遠くへお使いにでも出して、なかなか戻ってこないとか?」

昼間授業に出てない間に触媒探しにでも行かせて、慣れない土地で道に迷って帰りが遅くなっているのだろうか。
それでルイズが、いらいらしたりやきもきしたりしているのでは……。
そんな風にキュルケが考えていると、ルイズが不機嫌そうに返事をしてきた。

「それが分からないから、探してるところよ!」
「……そう……、まあ、ディーキン君ならそんなに心配はいらないとは思うけど」

ルイズを安心させるようにそういいながらも、キュルケも少し深刻そうな顔をする。

もし学院の外に行ったのだとしたら……。
彼は賢い亜人だが、この真っ暗闇で未知の土地では道に迷う恐れはある。
人間とトラブルを起こすとかいった心配はないとは思うが、夜の間に獣などに襲われる事はないとはいえない。
この辺りには滅多にそんな危険な獣はいないはずだが、可能性はゼロではない―――。

シエスタと違って、ルイズやキュルケは今のところ、ディーキンが獣などに襲われてどうにかなるような存在ではないことを知らない。
おまけに、外見や口調から見て賢いとはいえまだ年端もいかない子どもであろうと思っている。
そりゃあ、夜中まで行方不明になっていれば心配するのも無理はないだろう。

(タバサがいれば、あの子に頼んで風竜でこの辺を空から探すとかできるかしら。
 いえ、もう暗いから難しいわね。それにあの子、さっきから姿が……)

そういえばあの無口な親友も、ちょっと前から姿が見えないのだ。

タバサは午後の授業の途中にふらっとどこかへ出ていって、そのまま姿を消した。
まあ彼女の場合は今までにもたびたびそういうことがあったので、キュルケはそれほど心配はしていないのだが……。

(あの子とルイズの使い魔とが一緒に行方不明って……。
 まさか、何か関係があったりとか?)

キュルケはふと、タバサとディーキン、両者の行方不明を結びつけて考えてみた。
すると、それまで心配していたのとは全く別の、昼間の決闘の際に暫時頭をよぎった疑念がキュルケの中に再び生じてきた。

(あの子、昼間の決闘の時といい、ディーキン君に何か普通じゃないくらい興味があったみたいだったけど……。
 ま、まさかあの子が他人の使い魔を連れだしてデートとか……、いくらなんでもそんなわけが)

考え過ぎだろう。

今までだってあの子がふっと姿を消すのは珍しくなかったんだし。
何故あの子がルイズの使い魔に召喚直後から異様に関心を寄せているのかまでは知らないが、2人が同時に居なくなったのはあくまで偶然に違いない。
今回はたまたま時期が重なったというだけで、関係など無いに決まって……、

「! あっ……、」

キュルケがそんな風に自分の想像を振り払おうとしていた時。
2人の会話に口を挟むわけにもいかず廊下のカーテンを閉める作業に戻っていたシエスタが、窓の外を見て声を上げた。

「何、どうかしたの?」
「ミス・ヴァリエール、ディーキンさんが戻られました。外を歩いておられますよ」

シエスタは窓を開けて軽く身を乗り出し、手を振りながら目を凝らす。
ルイズとキュルケも慌てて手近の窓に駆け寄り外をのぞいてみるが、ほとんど何も見えなかった。
セレスチャルの血を引くシエスタには、人間には見ることのできない暗闇の中を見通せる生来の暗視能力が備わっているのだ。

そのシエスタの次の発言で、ルイズとキュルケが一斉に固まった。

「誰かと、えっと――――、
 ……あ、ミス・タバサとご一緒に戻られたみたいですよ?」


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