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ゼロニスター-08


「アドレナリン」。これは人間が恐怖やストレスに襲われた際に、副腎より分泌されるホルモンである。
 このホルモンは身体にある影響をもたらす。別名「闘争のホルモン」。
 ストレッサー(敵)を回避・打破するための物質である。
 分泌量は各人によって異なる。
 そして……、敵の打破に成功すればそれは「勝利」である。ある者がもしその勝利に快感を覚える事があるならば、「その快感を再び味わいたい」と考えたとしても不思議ではない。
 新たなストレッサーを求める事になる。続けていく事になる。生殺与奪のゲームを……。

 10年前、とあるエルフの集落。
「ひったくりだーっ!!」
 雪の降る集落に男の声が響いた。
「誰かあのガキを捕まえてくれーっ!! 鞄と買い物袋を盗まれたあーっ!!」
 拳を振り上げて走るエルフの男の前方には、鞄と袋を両手に持って全力疾走するエルフの少女の姿があった。
 それからしばらくして、男を撒いた少女は石段に腰掛けて戦利品である袋を物色していた。
「………」
 中から出てきた1つの箱を見て少女の手が止まる。
 その箱に入っていたのは、父親・母親を模った男女1組の人形だった。
 しばらくその箱を眺めていた少女に、
「お前だろう……、ここら一帯で盗みを働いてるのは。何を手に入れたんだい」
 ぼろぼろの服を着たエルフの老婆がそう声をかけてきた。
「!!」
「ここらはあたしの縄張りなんだ! 浮浪者には浮浪者の仁義ってもんがあるさあね。あるんだろう、酒や財布が? よこしな!」
 少女は立ち上がると鞄・袋を手に老婆を睨みつける。
「……あたしは浮浪者じゃない。あんたと一緒にしないでくれる」
「はっ、あんたに家があるってのかい!! 心安らぐ家が!!」
「あ……、あるっ!!」
「じゃあなぜ盗むんだい。親に買ってもらえばいいだろう」
「………!! うるさいっ!!」
 ――ゴン
 苛立ちに任せて少女は老婆に投石、怯んだ隙を突いてその場から逃走する。
「!! このガキ……。お待ちーっ!!」
 走り去る少女の背中に対し、老婆は嘲笑混じりに大声を張り上げる。
「その年で他人の物を盗むようなガキは、先が知れてるよお~っ!! あたしにゃわかるんだ!! 明るい未来なんてありゃしない!! まともな将来なんてありゃしない!! あたしと同様、ゴミ溜めがお似合いの人生さーっ!! あっはっはっは!!」
 老婆の嘲笑から逃げるように、少女は必死になって家路を急いだのだった。

 住宅街の中に建つ一軒家。
 少女はそっと扉を開けてその中に入る。
(あの男が……、呑みすぎでくたばってますように……)
 そう考えていた少女だったが、ゴミの散乱した室内にはまったく人の気配が無い。
(いない……)
 ひとつ溜め息を吐いて少女は自室に向かった。
 袋に入っていた果物を食べつつ、少女は「遠見の鏡」に映し出されている画像に見入っていた。
『東方では数多くの神話が言い伝えられておるのじゃ。今日はそのいくつかを探ってみるというのはどうかな、オセーテ君』
『うん、博士! おせーて! おせーて!』
『まずは東方神話の最高神・テュリュークじゃ!! 戦争と死の神といわれておる! 愛馬の脚は8本あるそうじゃよ! まるでタコじゃのう』
 ──ミシッ……
「!!」
 突然の足音に気付いて、少女はそれが聞こえてきた方向に振り返る。
「えうっ、お前……、何持って帰ってきたあ……。そのベッドに置いてある玩具は何だ?」
 部屋に頭髪の薄くなった男が酒瓶片手に入り込んできて、少女に因縁をつけてきた。
「酒はどうしたあ、酒は……。てめー、あれほど酒屋から出てきた奴から盗めって教えたのに、俺の話を聞いてなかったのか」
「今日は酒屋が閉まってて……」
「じゃあ隣町にでも行ってこい!! 子供なら捕まっても平気だろうが!!」
 少女の言葉に耳を傾けようともせず、男は少女に平手打ちをくらわせる。
「あうっ!」
「くそっ……、俺はついてねー男だぜ。あー、喧嘩で工房を辞めてさえなけりゃあなー。10年もあそこで頑張ってたのによー」
 酒瓶の中身を口に流し込みつつ身勝手なぼやきを漏らす男。
 そんな男の様子を見ていた少女が、かすかな声で何事か呟いた。
「ああ? でかい声で喋れ」
「母さんが家を捨てる前にこぼしてたよ。父さんが勤めてたあの工房は馬鹿しか雇わない所なんだ。下手に賢いやつを入れたら、組合を作られたり訴えられたりするから……」
「……!!」
 娘の初めての反抗の言葉だった。本来なら子が親に向かって口にしていい言葉ではない。
 しかしそれは親が懸命に働いて子を養っているのが前提である。この娘の場合、その役目は出ていった母親が担っていた。
 この男は自分が得た金は全て自分のためだけに使っていた。
「きゃああああ!!」
 突然男に襲いかかられ、少女は悲鳴を上げる以外不可能だった。

「ん~!! んん~っ!!」
 少女は下着だけを残して服を剥ぎ取られ、腕はベッドの枠に拘束されさるぐつわをかけられていた。
「馬鹿にしやがって……!! 俺を怒らせるとどうなるか、体で教え込んでやらあ……!!」
『テュリュークは他の神と敵対したりもしておったんじゃがの。でもテュリュークには強力な女戦士がおったんじゃよ』
 少女は必死になって抵抗しながらも、「遠見の鏡」から流れてくる音声をやけに冷静に聞いている自分に気付いた。
 男は少女にのしかかり、彼女の首筋を無造作に舐め始めた。
「ん゙ ~っ!!」
 アドレナリンは身体能力にある影響をもたらす。
 心拍数アップ・心筋収縮力アップ・痛覚ダウン……。
「!!」
 乱暴に下着を引きちぎられて、かすかに膨らんだ少女の胸は男の前に露出した。
「こ……、今度よお~っ!! 写真機盗んでこい、写真機!! お前は綺麗だあ~っ!! 写真を売れば儲かるぜ~っ!! 子供のエロ写真は大人のやつより高く売れるんだあ~っ!!」
 ──バキバキッ
 渾身の力を込めた少女の腕が、腕を拘束していたベッドの枠をへし折った。
 ──ドス
「うげっ!?」
 男の呻き声のような悲鳴が聞こえ、彼を見上げている少女の顔に血の雨が降り注ぐ。
 少女の手首に固定されているベッドの枠だった木片が、男の喉笛に深々と突き刺さっていたのだ。
「お……、お前……、ぢょっど待で……。何やっでんだ、お前ば……」
 そして……、
「がびばびいいい~っ!!」
 木片を引き抜かれ、男は喉に開いた穴から盛大に鮮血を噴出させて絶命した。
『女戦士の名は「ビダーシャル」じゃ!! たいへん戦好きの女神として語り継がれておる。人間の戦場において、誰が死ぬかを決定する能力を持って折ったそうじゃよ』
「遠見の鏡」には、全身を鎧兜で固め両手剣を手にした女神の姿が映し出されていた。
 男の返り血にまみれた状態で、少女は呆然と東方の女神・ビダーシャルの姿を眺めていた。
 そして覚醒……。
 少女は恐怖の感情を克服した。自らが恐怖を与える存在と化す事で……。

 スタート地点付近には多数のテーブルが設置され、予選通過者達が用意された酒や料理を楽しんでいた。
 テーブルに手を突きグラスを傾けているビダーシャルは、女性スタッフ達に促されて馬車に乗り込む。
「『ビダーシャル』様……、予選通過おめでとうございます。選手のために用意したホテルまで案内致します」
「ハルケギニア最強殺人鬼決定戦の本選は明後日……。明日はそれに備えて静養していただく予定となっております」
 山道を走る馬車の中、ビダーシャルは女性スタッフから本選に関する説明を受けていた。
「それと優秀な成績で予選通過したビダーシャル様には、ぜひとも開会式での選手宣誓のスピーチをお願いし……」
「明日は近くの町に行きたいわ。1日だけのアルバイトがしたい」
 女性スタッフの言葉を遮り、ビダーシャルは両親を模った人形を眺めつつ言った。
「……は!?」
「なるべくきついのがいい。私はね……、イライラが欲しいのよ」
「戦いに備えてモチベーションを蓄えたい……という事でしょうか?」
「そうそう。よくわかってるじゃない」
 後部座席のビダーシャルを振り返った女性スタッフがビダーシャルの持つ人形に気付き、
「あら人形。どうしてそんな物持ってきて……」
 そう尋ねた女性スタッフをビダーシャルは睨みつける。
「余計なお世話よ。あとこれは人形じゃない、家族よ」
 ビダーシャルの迫力に、馬車を駆る女性スタッフは威圧されて横目で彼女を見るのみだった。

「!! ほう……、これはこれは。よくお戻りになられましたな、お三方……。生還おめでとうございます」
 森の中から戻ってきた3人組を、クロムウェルは皮肉げな笑みで迎え入れた。
「さて、メダルは何枚集められましたかな? 4枚? それとも5枚?」
 そう声をかけてきたクロムウェルの鼻の穴に、ナックルスターは容赦無く指を突っ込んだ。
「なめんじゃないわよ、ちっこいの」
「メダルは30枚以上集めてやったわ」
「うぐぐ~っ!!」
「!!」
 クロムウェルの呻き声を無視していたシエスタは、予選参加者達の中に見知った顔を発見した。
「ミス・ヴァリエール、ミス・ナックルスター……、『彼』がいます……!!」
 全身金属鎧で固めた少年……才人が、シエスタの前に立っていた。
(サイトさん……)
「聞きたい事がある。俺の仲間を見なかったか? 『飴姫』と『メンヌヴィル』、『石牙のマリコルヌ』……の3人だ」
「……!!」
 シエスタが表情を引きつらせているのにもかまわず、才人は言葉を続ける。
「損得勘定でくっついた者同士とはいえ、一応は俺の仲間だ。だがまだ1人も帰ってきてない」
「全員死んだわよ。3人とも死んだのを私は確認してる」
「そして『石牙のマリコルヌ』は……、ここにいるシエスタが倒したわ。こいつもやる時はやるのさ!!」
 そう言ってナックルスターは親指でシエスタを指し示した。
(なっ……、ミス・ナックルスター!!)
「こんな小娘が倒しただと~? 嘘もたいがいにしろよ……」
(うわっ……、来ます……!! ミス・ナックルスターの馬鹿……!!)
 シエスタに接近していく才人の進路に、ルイズ・ナックルスターが立ちはだかった。
「どけ……。殺されたいか、サタニスター」
「トライしてみな、この野郎。またあたしに馬乗り状態でタコ殴りにされて、頭に『バカ』って書かれたければね」
「それと言っておくけど、先に仕掛けたのは3人の方だからね! 『シエスタはその時1人だったわ』。3対1で奇襲したにもかかわらず、遅れを取ったのよ。あんたの頼もしい仲間は!!」
「……!!」
 睨み合いを続ける3人の元に、
「あの……、ここで喧嘩は困るのですけども……」
 と女性スタッフの1人が仲裁に入ろうとする。
「やかましい!! すっこんでいろ!!」
 才人が女性スタッフにそう怒鳴りつけた次の瞬間、
「!!」
 一瞬のうちに3人の女性スタッフが才人を包囲し、1人は電撃を帯びた杖を、もう1人は刀身が唸りを上げて振動する両手剣を、最後の1人は複数の銃身を束ねた長銃を彼に突きつけた。
 その早技に、才人は身動きが取れなくなる。
「サイト様、『虚無壺の会』をお舐めになってはいけません。私ども『虚無壺ガールズ』は、殺人鬼達を束ねるにあたり特別な訓練を積んだ者もおりますゆえ」
「『虚無壺の会』は殺人鬼達を集めて試合をさせる以上、管理能力に抜かりはございません。多少の摩擦には目をつぶる事もございますが、度を過ぎれば……」
「『こう』なっていただきます」
 と、両手剣を持った虚無壺ガールズが親指で首を掻っ切る仕草をしてみせる。
「できれば上位入賞していただいて、『生涯の安全』という商品を手に入れていただきたいのですが」
「ちっ……。まあ、主催者側の顔は立てねーとな」
 そう言って肩をすくめつつ矛を収めた才人にナックルスター・ルイズが、
「『顔は立てねーとな』じゃないよ、弱虫野郎ーっ!! ドハハハハ!!」
「納得したふりして、本当はびびってんでしょーっ!?」
「ミス・ナックルスター、ミス・ヴァリエール、やめてくださいーっ!!」
 指さして嘲笑するナックルスター・やはり嘲笑しつつ親指を下に向けるルイズを、シエスタはしがみついて止めようとする。
 そんな2人の様子に、才人は憤怒のオーラを立ち上らせつつも必死で自制するのだった。
(挑発に乗るな、挑発に乗るな……)

 翌日、とある町の大規模商業施設にビダーシャルの姿があった。
「若い人が来てくれて本当に助かるわあ~。1日限りのアルバイトさんとはいえ」
 バケツ・モップ片手に中年女性と廊下を歩いている。
「あたしゃ腰痛と肩こりが酷くてねえ……。トイレ掃除は特にこたえるのよ」
「カイロプラクティックに通われてはいかがでしょうか」
「でもあれはお金がかかるしねえ……。ところであなた独身?」
「ええまあ」
「あれ~、あんたみたいな綺麗な人がどうしてまた」
「ははは……」
 そうこうしているうちに、2人はとある男性用トイレの前に到着した。
「じゃあ教えた手順でお願いね。アタシは別棟のトイレを担当するから、ここが終わったら来てちょうだい」
「ええ、わかりました」
 と言い残して中年女性はその場を離れ、ビダーシャルはトイレ掃除を開始する。
「……たぶんあのババアは私が行くまでサボっている……(だが私がここに来たのはストレスを溜めるため!! 礼を言いたいぐらいよ、ババア……!!)」
 暗い笑みを浮かべつつトイレ掃除に邁進するビダーシャルの元に、
「漏れる漏れるー!! ねえ!! 掃除中でもいいでしょ!?」
 そう言いつつ幼い少年が駆け込んできて、便器の1つの前に立つ。
(!! そこは掃除したばっかり……)
 ビダーシャルの視線を知ってか知らずか少年は用を足し始める。その足元では飛び散った尿の雫が床を汚していた。
「………!! ふふ……」
 その様子を見てビダーシャルはひきつった笑みを浮かべ、
「ふふふふ……、そうよ……、それでいいのよ……!!」
「?」
 ブラシで自分を指し示しながらそう呟くビダーシャルに、少年は首を傾げていた。

 それからしばらく経って、輝かんばかりに清掃されたトイレでビダーシャルは満足げに息を吐いた。
「ようやく9割方は終わったわ……。予想外だったのは……、ストレスを溜めたくて辛い仕事を選んだにもかかわらず、やり始めるとだんだんと『のって』くる事……。しかしこれをまた汚されるのかと思うと……、なおいっそうイライラするわ……。誰も来なければいいのに……」
 感慨深げなビダーシャルの言葉を嘲笑うかのように、
「ち……、ちょっとすまん!! 腹が痛くてかなわん!! 入るぞ、姉ちゃん!!」
 と中年男性が腹部を押さえつつ入り込んできた。
「(清掃中の札が見えねえのか、ジジイ~っ!!)ま……、まだ清掃中で……」
 ――バタアン!
 ビダーシャルの静止に耳を傾けず、男性は手近な個室に入った。
 ややあって、個室内部から男性が用を足す音が聞こえてくる。
(じじい……、今日はお前の人生で最も幸福な日だと思え……!! このビダーシャルにクソの音を聞かせて生きて帰れるのだからな……!!)
 ――ジャアアー……
「いやー、すまんすまん」
 個室から出てきた男に心中で舌打ちしつつ、掃除をやり直そうとするビダーシャル。
「!!」
 しかし個室に入ろうとして硬直した。
 男性が使用した便器からは、はずれた便が床に全体の半分ほど落ちていたのだった。

「ヴオ~ッ!!」
 ――ドガドガッ!
 ビダーシャルは般若の形相で男性の後頭部をわしづかみにして、何度も激しく壁に叩きつける。
 男性が完全に絶命し片方の眼球が頭部から飛び出しても、攻撃の手は止まるどころか緩みもしない。
 壁に貼られたタイルが割れて血液が飛び散っていく様子に、ビダーシャルは哄笑とも悲鳴ともつかない声を上げる。
「あはははは! また掃除しなくちゃならなくなったわあ~っ!!」
 掃除用具入れから男性の死体が発見され大騒ぎになった時には、既にビダーシャルは姿を消していた。


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