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Mission 15 <激突する衝撃> 後編


「何でい、貴族と決闘するってぇのか。だったら、こっちよりもあっちの方が良いんだけどなぁ」
不服そうに呟く篭手のデルフを無視して装着し、拳の開閉を繰り返すスパーダを、ワルドは些か不満な様子で見つめていた。
彼としてはスパーダが最も得意としているらしい剣を使ってくると思っていたのだが、その当てが外れてしまった。
「……ミスタ・スパーダ。君は剣を使いこなしているのだから、あれを使った方が都合が良いのではないのかい?」
ギーシュが抱えている閻魔刀、そして傍に突き立てられたリベリオンを指すワルド。
「私はこれでも、体術にも心得がある。たまにはこちらも使わねば鈍ってしまうからな」
言いながら、スパーダは篭手のデルフを装着した拳を固く握り締め、身構えた。
「本当に大丈夫なのかしら……」
「さあ? ダーリン、剣が無くても意外に強いのかもしれないわよ?」
「これは見物だなぁ……」
観戦するルイズ達はスパーダが普段から剣を手にして戦う姿しか見たことがなかったため、どのように己の体を武器にして戦うのかを
不安に思いもしたし、逆に楽しみだと思う者もいた。
それに、あの篭手はどうやら形は違えど、デルフリンガーらしい。デルフリンガーは魔法を吸収する能力があるということは、
ギーシュ以外の三人も見届けているため、一体どのような戦いを繰り広げようとするのかまるで予想できない。
あのスパーダのことだ。剣以外の技もすごいのではないのかと、緊張していた。

ワルドはようやく納得したのか、優雅な動作で腰からレイピア状の杖を引き抜く。
その目は先ほどまでとは違い、一人の戦士として、鷹のように鋭くなっていた。
「では、始めよう。互いに全力を尽くそうじゃないか!」
先に仕掛けたのはワルドだった。疾風のごとき速さで一気にスパーダとの距離を詰め、レイピアを突き出してくる。
それをスパーダは無造作に左腕を振り上げて篭手で弾く。
ガキン、と甲高い剣戟の音が響き渡り、一瞬だけだが篭手から閃光も発していた。
スパーダは篭手のデルフを盾にしながら少しずつ後ろに下がり、ワルドの閃光のごとき速さの連続突きをいなしていく。
ワルドがレイピアを突き出す度に、空を切る音が聞こえてくる。おまけにその突きを繰り出す彼の腕も、あまりに速すぎて半ば残像と化していた。
普通ならば手練れの戦士でもその速さには対応できないだろうが、驚くべきはスパーダがピンポイントでその攻撃を
まるで子供を相手にするかのごとく、余裕を持って全て軽くあしらっていることだ。

観戦しているルイズ達四人は、目を見張って目の前で起きている戦いに見入っていた。
スパーダが攻めではなく防御に徹しているというのは意外ではあるものの、その防御さえも剣を扱う時の彼と何ら変わりがないのは驚きだった。
ワルドがスパーダの手、肩、脇、どこを狙っても完璧に防がれてしまう。しかも、それで彼が怯んだりする様子もまるでない。
「す、すごいなぁ……ワルド子爵の攻撃を全部あしらってるよ」
「でも、ずっと防いでばかりだわ。あれじゃあスパーダ、何もできないじゃない」
ギーシュがスパーダとワルドの戦いに感嘆を漏らし、ルイズが心配そうに呟くと、そこへタバサがぽつりと一言漏らした。
「様子を見ているだけ」
一見すると、一方的に攻撃を仕掛けているワルドの方が有利に見える光景であるが、そうではない。
スパーダは防御をしながら、初めて戦うことになるワルドがどのような動きで攻撃を仕掛けるのかを見極めようとしていることにタバサは気づいていた。
実際、壁際へ追い込まれないよう円を描くような形で後退している。
何も知らずに無闇に攻撃を仕掛ければ相手に呑まれるだけ。きっと、それが分かっているのだ。

「おい、相棒! ちっとは攻めてくれよな! 盾にされてばっかりじゃあ、こんな姿にされちまった俺のメンツが立たないぜ!」
「その通りだよ! ミスタ・スパーダ! 受けてばかりでは何もできん! 少しは攻めてきたまえ!」
ワルドの攻撃を弾き続けているとデルフが苛立った様子で叫び、一方的に優勢に立って増長するワルド本人もデルフの言葉に同意しつつ挑発していた。
だが、スパーダはそんな挑発など耳に入っていないかのごとく、黙々とワルドの攻撃を受け流し続けている。

そして、スパーダの防御が一瞬だけ遅くなり、胸ががら空きとなる。その僅かな隙を、ワルドは逃さなかった。
既に彼は、攻撃の合間に呪文の詠唱を行っており、いつでも解放できる状態となっていた。
「もらった!」
勝利を確信してか、ワルドがスパーダに胸へ突き出した杖の先から魔法を放つ。
彼が唱えていたのは真空の槌で相手を吹き飛ばす、〝エア・ハンマー〟だ。
放たれた魔法はスパーダの体をまるで人形のごとく軽々と、吹き飛ばすはずだった。
「何っ!」
だが、その予想とは裏腹に至近距離から放たれた魔法はスパーダが瞬時に胸へとかざした篭手へと吸い込まれていき、跡形も無く掻き消されていた。
予想打にしなかった展開に驚くワルドをよそに、スパーダはその場でいきなり姿勢を低くし、水平蹴りを繰り出す。
足を払われたワルドの体は宙へ浮かび、そこへスパーダが左手を地面に突いたままアクロバティックな動きで体を捻らせるように回転させ、追撃の回し蹴りを繰り出していた。
まともにその変則的な蹴りを浴びたワルドは大きく吹き飛ばされるも、空中で体を捻って受け身をとり、身を翻しながら着地していた。
その拍子にワルドの帽子が外れ、フワリと地面に舞い落ちる。
「なるほど。その篭手、魔法を吸収するのか」
「説明しなくて済まなかったな」
「……いや。油断をし過ぎた僕のミスさ」
ニヤリと笑いながら、ワルドは瞬時に〝エア・ニードル〟の呪文を唱え、杖に真空の刃を纏わせる。
まさしく風のような速さで、残像を残しながらスパーダに接近すると真空の刃が纏った杖を突き出し、さらには小振りの剣のように
優雅に、そして鋭い手捌きで振り回す。
先ほどよりも速い複合攻撃であったが、スパーダはそれさえも完璧に防ぎきっていた。
エア・ニードルの魔法によって作られた真空の刃は篭手に触れる度に魔力を吸収されるものの、杖自体が魔法の発生元となっているために
完全には掻き消せはしない。

「ねぇ、ダーリンもワルド子爵も人間よね……?」
「あ、当たり前じゃない……」
「今の動き……本当に人間か?」
観戦していたルイズ達は目の前で起きた出来事に唖然としていた。
二人とも、常人では決してあり得ない動きをしていた。
スパーダは異国の貴族にして武人、ワルドはトリステインが誇る魔法衛士隊のエリート。
互いに歴戦の戦士であることは分かってはいるものの、あまりに人間離れした動きで戦う姿に
ルイズ、キュルケ、ギーシュの三人は開いた口が塞がらなかった。

ルイズは思わず身震いする。
ワルドの動きと速さ。あれはまるで、〝烈風〟の名を持つ自分の母親にも匹敵するものだ。
彼は魔法衛士隊に入隊してからきっと、血の滲むような努力を重ねてあれだけの力をつけたのだろう。

タバサもまた、スパーダの常人を逸脱した動きに珍しく驚嘆していた。
彼の戦いはこれまで何度か見届けてきたことがあるものの、ここまで常識外の戦いを繰り広げるのを見るのは初めてだった。
……もしも今、彼と戦っているのが自分であったならばどうなっていたのだろうか。
そんな考えと好奇心が自然と湧いてくる。

「ぐおっ!」
一瞬、スパーダの防御が遅れたのでそこを突こうとしたワルドだったが、それを待っていたかのようにスパーダが篭手を振り上げ、杖を弾いていた。
だが、今までとは違い、激しい閃光を発したその防御は攻撃を仕掛けたワルドの方が大きく怯む結果となっていた。

この篭手には憑依しているデルフの魔力吸収能力の他に、外部からの圧力を魔力に変換して蓄積することもできるように施してある。
もちろん、それを解放することも可能だ。
そのため、今まであれだけの攻撃を防御していたこの篭手には充分すぎるほどの魔力が蓄積されていた。
スパーダは少し距離を取ると、篭手を大きく振りかぶって足元の地面へと叩きつける。
地面を殴りつけた途端、篭手に蓄積されていた魔力が一気に解放され、閃光の魔力を帯びた衝撃波が爆発するかのごとく周囲に広がった。
「うぎゃあっ!」
あまりに凄まじい衝撃に、デルフさえも悲鳴を上げるほどだった。

「「きゃあっ!」」
「うわ!」
体勢を崩していたワルドをその余波で吹き飛ばされ、迫り来る突風にルイズ達は思わず顔をマントや腕で覆っていた。
タバサに至っては勝手にマントが顔にかかり、視界が覆い隠されてしまう。
あまりにも激しすぎる戦い。本気で殺しあっているのではとも思える激闘は、彼女達を戦慄させた。
「あ……」
そして、次に四人の目に飛び込んでいたのは、吹き飛ばされていたはずのワルドと、地面を殴りつけていたはずのスパーダが、
互いの急所に向けて武器を突きつけていた。
ワルドの杖はスパーダの心臓、貫き手の形を取ったスパーダの篭手は刃のように鋭い指先がワルドの喉の寸前でピタリと止められていた。
「……引き分け、だね」
「そのようだ」
未だ攻撃の姿勢を解かない二人は、しばしの間至近距離で睨み合っていた。
「いやはや……驚いたよ。まさか剣なしでここまで強いとは」
「お互い様だ」
「久々に良い運動ができた。感謝するよ、ミスタ・スパーダ」
ようやく攻撃を解いた二人は互いに武器を下ろし、握手を交わす。
「今度はぜひ、剣を使う君とやり合いたいな」
「機会があればな」
互いの力を認め合ったらしい二人の武人の姿に、呆気に取られていたルイズ達は思わずパチパチと拍手をしてしまった。


決闘を終えた後、スパーダはギーシュより閻魔刀とリベリオンを受け取り身に着けると、さっさと宿の方へと戻っていった。
ギーシュやキュルケが大絶賛をしてきたものの、本人は今の決闘の結果など気にしていないために軽く相槌を打って部屋へと戻っていく。
とりあえず魔具もどきとしての実験も上々の結果だ。この篭手はこれから防御と反撃をメインとして使うことになるだろう。
残る実験はもう一つ……それはまた、次の機会までお預けか。
「なあ、相棒。ちょっと良いかね?」
「何だ」
部屋へ戻ってきた途端、未だ左手に装着したままのデルフが語りかけてきて、スパーダは左腕を軽く揚げる。
「俺は、相棒の一部となっている間に少し気になったことがあったんだ。相棒の左手のルーンについてなんだけどよ……」
篭手のデルフを外して簡素な造りのベッドに置き、手袋を付けたままの左手の甲を見つめるスパーダ。
「これがどうした」
「何で、ルーンを封じちまってるんだい?」
スパーダはこのガンダールヴのルーンを疎ましく思っていた。
初めに契約を交わして刻まれた時からこのルーンは自分を洗脳しようと隙あらば力を働きかけてくる。
スパーダの悪魔としての本能がルーンの力を抑えこんでいるものの、こう何度も自分に干渉しようとしてくるのは正直言って、目障り以外の何者でもない。
そのため、〝土くれのフーケ〟の件が済んで一週間が経った頃に自らの魔力を総動員してルーンの力を完全に封印したのである。
魔を喰らい尽くし、切り離すことができる閻魔刀でルーンそのものを消滅させるのも手であったが、それだとルイズのパートナーという証が無くなってしまうため、
彼女にも色々と問題が起きるため、封印するだけに留めていた。
今となっては、このルーンは何の力も発揮しないただの刻印に過ぎない。
「色々と思い出したんだ。そのルーンは武器さえ手にすりゃあ、たった一人で何百……いや、何千もの兵ですら倒せるほどの力が発揮できるんだ。
 相棒くらいの実力なら、その十倍の数を相手にしたって問題ないだろうさ」
「くだらん」
「いや、くだらんって……」
あまりにも冷徹な一言を口にしたスパーダに、デルフは戸惑う。
というか、ルイズの使い魔である以上はルーンの力を封じられていると色々と困るのだ。
何故、困るのかはデルフ本人も今一思い出せないのだが。だが、何かとても大事なことだったはずである……。
「所詮は借り物の力に過ぎん。私には必要ない」
スパーダが悪魔である以上、虎の威を借る狐のような真似は決してすることはない。
元々スパーダも悪魔として誕生した時は、一般的な他の下級悪魔よりも少し力があるというだけの凡庸な悪魔だった。
千年以上もの時をかけて過酷な魔界で生き残り、生きるために己の力を地道に鍛え上げた結果、
スパーダはかつての主である〝魔帝〟の右腕として仕えることもできたのだ。
決して、他者の力を借りてその力に頼りきるような真似はしない。
もしも人間が力を唐突に得ることがあれば、その力にばかり頼る結果となり、不意に失われでもすれば大きなしっぺ返しを食らうことになる。
「ま、まあ……相棒はルーンなんか無くても充分強いみたいだからな……。そもそも、人間じゃねえし……」
これ以上、無駄に会話を続けている必要はない。
スパーダは篭手のデルフを魔力に変えて自分の体内へと戻すと、部屋を後にした。


同じく一人部屋へと戻っていたワルドは、テーブルにつくとワインを一杯、グラスに注いで一気に飲み干していた。
その表情は何故か固く顰め面であり、深刻そうにしている。
原因は先ほどの決闘にあった。
「……あれが、ガンダールヴか」
忌々しそうに低く呟くワルド。
あの男は、危険だ。
異国の貴族、そして武人であったらしいが所詮は平民上がりの没落貴族。
魔法をもってすれば、たとえガンダールヴであろうと容易く組み伏せられるであろうと考えていたが、結果は全く違った。
実力を半分程度しか出していなかったとはいえ、あの男は自分の攻撃を容易く受け流してきていた。
しかも奴自身、まるで本気を出してはいないのだろう。第一、奴の得物はあんな篭手ではなく剣らしい。
もしも奴が、自分の所属する組織と敵対すれば確実に障害となるだろう。

……だが、慌てることはない。
如何に伝説のガンダールヴであろうが、力があろうが、奴もただの人だ。
ワルドは己の右手を見つめると、拳を固く握り締めた。
拳の中から、仄かに光が漏れ出す。
自分が新たに所属することになった組織との盟約によって得た力。
この偉大な力を持ってして、あのガンダールヴは排除できる。
「……少し、計画を早めるか」
不敵な笑みを浮かべ、ワルドはさらにワインをグラスに注いで飲み干した。



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