あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mission 10 <時の傍観者>


魔法学院へと戻ってきた一行は学院長室へやってきた。
スパーダとロングビルを除く三人はオスマンに向かって一礼をし、事の顛末を報告していた。
「ほほう、まさか土くれのフーケが人間ではなかったとはのぅ……これは驚いた」
報告を受けたオスマンは感嘆に呟くものの、あまり驚いている様子がない。隣に控えるコルベールも同様だ。
「じゃが、そのフーケも君達の手によって倒され、〝破壊の箱〟もこうして無事に戻ってきた」
オスマンは未だ破壊の箱——災厄兵器パンドラを担いでいるスパーダを見る。
「これで一件落着じゃな」
満面の笑顔で三人の生徒を褒め称えると、キュルケが「当然ですわ」と誇らしげな態度で答える。
「君達三人に、〝シュヴァリエ〟の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。
ミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請をしておいたぞ」
ルイズとキュルケの顔がぱっと輝き、キュルケが「本当ですか?」と驚いた声で言った。
「うむ。いいのじゃよ。君達はそのぐらいのことをしたのじゃから。然るべき報酬を受けるのは当然じゃよ」
「……あの、三人とは? スパーダやミス・ロングビルには?」
ルイズがちらりと背後に控える二人を見て、怪訝そうに尋ねる。
オスマンは申し訳なさそうに二人の顔を見て、
「うむ……ミスタ・スパーダとミス・ロングビルは正式には貴族ではなくなっているからの……。爵位を授けることができないのじゃ……真に申し訳ないが……」
「別にいりませんよ」
「そんな権利は必要ない」
ロングビルが微かに溜め息を交えて答え、スパーダもパンドラを担いだまま一蹴していた。
「しかし……君達に何も報酬がないのはいかんからの。フーケにかけられていた賞金を授けるとしよう」
ロングビルは複雑な顔を浮かべ、微かに唸りだす。
「さて、今夜は〝フリッグの舞踏会〟じゃ。この通り、破壊の箱は戻ってきたことじゃし、予定通りに執り行う。
今夜の主役はフーケを討伐してみせた君達じゃ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」
ポンポンッ、と手を叩くオスマン。
「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」
キュルケが叫び、三人はオスマンに一礼をすると扉へと向かった。
ルイズはパンドラを担いだまま動かないスパーダをちらりと心配そうに見やる。
「君は先に行くといい。私はまだ用がある」
スパーダが肩越しに向きながらそう言うと、ルイズは頷いて部屋を出て行った。


ルイズ達が退室した後、オスマンは咳払いをすると目の前に立つ二人を見つめる。
「さて、ここからはワシら大人達だけの話じゃな。ミスタ・スパーダ、ミス・ロングビル」
スパーダは執務机の上にパンドラを置く。ドカッ、と音を立てて大柄なスーツケースはオスマンの目の前に叩きつけられた。
コルベールは興味津々といった様子でパンドラの箱を眺めている。
「こいつをどこで手に入れた? これは私の故郷で作られたものだ」
「ふむ。君の故郷がどのような所かは知らぬが、まさかこれがのう……。
——もう、五年も前になるかの。森を散歩しておったワシはそこに落ちておったこの破壊の箱を見つけたのじゃ。
中身が気になって開けようとしたが、開きやせん。……そんな時、ワイバーンに襲われてしまっての。
危うく殺されかけてしまったのじゃが、その時に落とした破壊の箱が開き、中から不思議な光が放たれた」
スパーダは顎に手を当てたまま、ほう、と頷く。
ロングビルもその隣で静かに話を聞き、コルベールに至っては子供のように目を輝かせている。
「その光は一瞬にしてワイバーンを消し去りおった。それだけではない。箱の周囲、そう……およそ50メイル四方を焦土へと変えてしまったのじゃよ……」
話を聞いていたロングビルとコルベールが、青ざめた表情でパンドラを見つめる。
「ワシはその箱がとんでもない力を持ったマジックアイテムだと判断してな、それで〝破壊の箱〟と名づけて悪用されぬように今まで保管しておったのじゃ」
「運が良かったな、オスマン。こいつが開けられた時にもしもこいつの真後ろにいなければ、お前も消し炭になっていただろう」
パンドラをトントンと軽く叩くスパーダ。
「……おっかないことを言わんでくれ」
ゾクリと震え上がるオスマン。
実を言うとパンドラは兵器であると同時に、自意識や己の自我を持たない一種の生命体でもあるのだ。
形態を変化させて攻撃を行い、パンドラの戦闘本能を刺激することで内包された魔力が膨れ上がり、それを箱の形態で開けることで一気に解放するのだ。
オスマンが拾った時のこいつは豪く機嫌が良くなっていたようだから、それだけの力を解放できたのだ、

「じゃが、良かったの。君が使う前に彼がこうして教えてくれてな」
にっこりと笑うオスマンの視線がロングビルへと向けられる。
突然、自分に話を振られたロングビルは微かに顔を顰めていた。
「のう……ミス・ロングビル。いや、〝土くれのフーケ〟よ」
一瞬、重々しい口調となったオスマンの口から出てきた名にロングビルが驚愕の表情を浮かべた。
「ああ、心配せんで良いよ。君を宮廷に突き出す気はないし、そもそも〝フーケ〟は彼女達の手で倒されたのじゃからな」
咄嗟に身構えるロングビルをなだめ、たった今浮かべていた厳しい顔つきを一変、満面の笑みを浮かべているオスマンであるが、どこか油断のない表情である。
スパーダもその姿に感嘆する。ただの飄々とした老人ではなかった、ということだ。
「ホッホッ、これでも嘘つきの生徒達を何百人と見てきているんじゃ。あの報告をおかしいと思わぬ教師ばかりで本当に困ったもんじゃよ……。あ、ここにいるコルベール君も気づいていたでな」
未だ驚いたままのロングビルから視線を外さぬまま、己の豊かな髭を撫でながら言葉を続けるオスマン。
隣にいるコルベールがコホン、と軽く咳払いをする。
「……どの道、年貢の納め時だったわけだ」
放心状態のロングビルの肩をポン、と叩くスパーダ。
しかし、オスマンやコルベールがあの報告を怪しんでいたとは中々に良い洞察力をしているようだ。
「あの……ところでミス・ロングビルはどこで秘書として雇ったのですか?」
「ああ、彼女は街の居酒屋で給仕をしておったのじゃ。そこでワシのこの手がついつい、尻を撫でてしまってな。それでも怒らないので秘書にならないか、と言ってしまった」
コルベールからの問いに照れたように話すオスマン。その言葉にコルベールは呆れたような表情で溜め息をつく。
ロングビルの眉がピクピクと痙攣している。
「おまけに美人じゃし、魔法も使えるというもんでなぁ」
「このエロジジイ……」
冷たい視線を送るコルベールがぼそりと、そんなことを呟くのが聞こえた。
「じゃがしかし、君がフーケだと感づいたのは本当に朝の報告の時なのじゃよ」
「ならば何故、あの時に言及しなかった?」
「ホッホッ、君のことじゃ。君じゃって彼女の正体には気づいていたのじゃろう? 君ならば彼女を上手く説得でもしてくれると思っての。
何より、君は聡明で公明正大じゃからな。コルベール君も上手い具合に合わせてくれた」
「いやぁ……私はその……」
ポリポリと頬を指で掻くコルベール。
腕を組むスパーダは大きく溜め息を吐く。
「食えない男だな、〝賢者〟オスマン」
スパーダが口にしたその言葉に一瞬、呆気にとられたオスマン。
「……何じゃ? 〝賢者〟とは」
「老獪なお前に相応しい二つ名だ。私からお前にその名を送ろう」
表向きは飄々としていて、その裏では油断がないしたたかさを発揮している。まさに賢者そのものだ。
「別に構わんよ。ワシはただのしがない老いぼれ。魔法学院の長にすぎん」
と、言いつつも内心は嬉しそうだ。
「……さて、ミス・ロングビル。ワシは君がこれ以上、盗賊として汚れ仕事に手を染める気がないのなら、フーケとして宮廷に突き出す気はないんじゃが……どうするかの?」
ロングビルへと顔を向けたオスマンはそう提案する。
俯く彼女は表情を曇らせている。
「君さえ良ければ、このまま秘書として働き続ける気はないかね?」
オスマンは真剣に、一切の下心を抱かずにロングビルに持ちかける。
「君にだって、大切な人はおるのじゃろう? このままフーケとして手を汚し続ければ、いずれは捕まる。そうしたら、その大切な人を守ることもできなくなってしまうぞ?」
やはり彼も分かっていたようだ。彼女が自分の大切な人のために手を汚し続けていることを。
「もちろん、給金も倍は出させてもらうよ。君は大切な人のためにお金が必要じゃったから、盗賊に身をやつしていたんじゃろうからな」
「三倍よ」
キッ、とオスマンを睨むように顔を上げるロングビル。
「あなたにこれからも色々とセクハラされるんだもの。それくらいは貰わないと割に合わないわ。それだったら、ロングビルとしてここに残らせてもらう」
「……うむ。いいとも、いいとも。君が盗賊から足を洗ってくれるのなら、それくらいはどうにでもなるわい。これからもよろしくな、ミス・ロングビル」
ロングビルはフンッ、と鼻息を立ててそっぽを向くとそのまま学院長室を後にしていた。


「さて……この破壊の箱なんじゃが……」
オスマンが机の上に置かれたままのパンドラをじっと睨みつける。
「君の故郷のものであるなら、君が持つのが筋じゃろう。それに君ならば決して悪用もせぬようじゃしな」
「ありがたく預からせてもらう。……宝物庫にはこいつ以外に何か保管していたりするのか? できれば、中を見せてもらいたい」
それからスパーダとオスマン、コルベールは修繕が途中の宝物庫へと移動する。
宝物庫にはガラクタにしか見えないものから、宮廷から預かったものらしい所蔵品がいっぱいだ。
スパーダも見たことがない品々ばかりが目につく。
これではパンドラがなくとも、ロングビルに狙われてもおかしくはなかっただろう。
「ん……?」
そんな中、スパーダが目についたものがあった。
スパーダは宝物庫の中心に堂々と置かれていた〝それ〟へと近づき、間近から眺める。
「おお、それはひと月ほど前にアカデミーから預けられたものでな」
オスマンが言うそれを、スパーダはじっと眺めていた。
獅子の頭の面を付けた男性の黄金像で、巨大な砂時計を頭上に掲げている。その大きさは2.5メイルほどにも達していた。
「私らも一度、それを調べてみたのだが……さっぱりなのだよ」
コルベールも後頭部を掻いて困ったような苦笑を浮かべる。
スパーダはその黄金像に手を触れてみる。

『我は時の傍観者なり』

突然、その黄金像から威厳に満ちた男性の声が響きだし、オスマンとコルベールが一瞬、ビクリと肩を竦ませて驚いていた。
その声は耳に届くのではなく、頭の中に直接聞こえてくるようなものだ。
(まさかこいつまであったとは……)
スパーダは驚きに顔を僅かに顰め、その黄金像を眺めていた。

『我に魔族の血を捧げよ。さすれば、我の記憶、古の力と知識を授けん』

「ははっ……こんなことを言ってきても、何をどうすれば良いのか分からないんでね。恐らく、この像に何かを捧げるのだろうけど……」
「なら、使い方を教えようか」
スパーダが黄金像に突き出した掌に光が集まると、その上に人の頭ほどの大きさをした薄っすらと赤く輝き、オーラを宿した丸い晶石が乗っていた。
オスマンとコルベールは目を見開いて驚く。
スパーダは黄金像にその晶石を差し出すと、晶石は黄金像の掲げる砂時計の中へと吸い込まれていく。
僅かな沈黙を置き、獅子の瞳が薄っすらと赤く光りだした。

『汝、魔族の血を捧げし者よ。我に何を望む』

黄金像から、威厳に満ちた声が再び響いてくる。
コルベールが「おおっ……!」と驚き、目を輝かせている。
「バイタルスターを二つ頼む。両方とも、魔力の純度は並でな」
スパーダがそう言うと、砂時計の中で不規則に回っている光の粒の動きが激しくなり、やがて二つの小さな緑色の光が出てきて、スパーダはそれを掴む。

『汝、魔族の血を捧げし者よ。癒しの力の欠片を受け取るが良い』

スパーダの手の上には、ちょうど手の中に納まる程度の大きさの、緑色に光る星の形をした石が二つ乗っていた。
「これは……一体?」
コルベールはズレかけた眼鏡を直しながら、スパーダが手にする二つの石を見つめていた。
オスマンも「ほう……」と嘆息を吐いている。
「バイタルスター。お前達で言う水の秘薬みたいなものだ」
それだけを言うと、バイタルスターを懐に押し込む。
「しかし、この像は何なのかね? そのような秘薬をこうもあっさり作ってしまうとは」
「〝時空神像〟だ。本来は時の傍観者と呼ばれ、世界で起きたありとあらゆる出来事を記憶しているという。私の故郷やフォルトゥナでもよく見かけた」
オスマンの問いに、時空神像を眺めながら答えるスパーダ。
「……何と。これも君の故郷とやらで作られたものなのかの?」
「いや、違う。それはさすがの私にも分からん」
しかし、まさかこんな所で時空神像とお目にかかるとは思っていなかった。
こいつは、スパーダが悪魔として誕生するより遥か昔から存在しているとされているようだが、いつ頃からなのかは分からない。
分かるのは、魔界や人間界に数百、数千を超える無数の分身を放つことで、ありとあらゆる歴史や出来事などを見届けて記憶し、共有しているということだけだ。
そして、こいつに魔力を宿した血を捧げることで膨大なその知識を分けてもらったり、神像が得た知識によって自ら、今のような錬成を行って様々な道具を作ったりするのだ。
スパーダも魔界にいた頃はもちろん、人間界で活動していた時に何度もこいつの世話になっている。
だが、よもやこの異世界にまで分身を放っていたとは……よほど知識欲が旺盛らしい。
まあ、それはそれで便利だから良いのだが。

「オスマン。こいつも私に預からせてもらえるか?」
「……うむ。どうやらこれを使えるのは君だけらしいしの。良かろう」
「ですが、どこへ置くのです?」
コルベールが問うと、スパーダは「ミス・ヴァリエールの部屋のすぐ近くに置いてくれれば良い」と答えていた。

「ところでミスタ・スパーダ。君の左手を見せてはくれぬかの?」
宝物庫を出るとオスマンがそう言ってきたので、手袋を外して左手の甲を見せる。
そこには使い魔の契約の証であるルーンが刻まれている。
オスマンはその手を掴み、ルーンをじっと見つめる。コルベールも同様にだ。
「君のこのルーンなのじゃがな……」
「〝ガンダールヴ〟とかいう奴だな?」
オスマンらが言う前にスパーダが口にしたので、二人とも驚いた。
図書館で書物を読み漁っていた時に、偶々このルーンの詳細について載っている本を見つけたので既に情報は得ている。
「何でもガンダールヴは始祖ブリミルとかいう奴と共にいた伝説の使い魔で、ありとあらゆる武器を使いこなしていた。その力は一人で一国の軍隊に匹敵するという話だな」
「そ、その通りじゃ」
「それで、お前達はミス・ヴァリエールが〝虚無〟のメイジなのかどうかが分からない。そういうことだな?」
オスマンとコルベールは強く頷く。
「……私はそんな話も力も興味はない。これは単なる彼女とのパートナーである証なだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。それに彼女が虚無の使い手かなど、どうでも良いことだ。彼女は彼女だ」
手袋を付け直し、その場を立ち去ろうとするスパーダをコルベールが呼び止めた。
「ああ、スパーダ君。君は剣を使えるのだよね? 剣を握ったりした時、何か体に変化とかは無かったかね?」
「知らんな」
軽くあしらい、さっさと立ち去ろうとするのを今度はオスマンが呼び止める。
「ミスタ・スパーダ。ワシらもミス・ヴァリエールが虚無の使い手であるかどうかを調べる。だから、これからも彼女のことをよろしく頼む」
「ああ、そうさせてもらおう」


その日の夜、アルヴィーズの食堂の二階のホールではフリッグの舞踏会が開かれていた。
優雅な音楽と共に行われる祝賀会には、着飾った生徒や教師達が豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談をしている。
綺麗なドレスに身を包んだキュルケは、たくさんの男生徒達に囲まれて楽しそうにしている。
黒いパーティドレスを着たタバサは、テーブルの上の料理を相手に一生懸命に格闘を続けていた。
異世界での弟子、第一号のギーシュは気障ったらしく薔薇を手にしながら女子生徒達に囲まれてデレデレしていたが、モンモランシーが近くにやってきてシバかれていた。
それぞれが楽しくパーティを満喫する中、コートを脱いで会場を訪れたスパーダは生徒達らには目も暮れず、一人の女の後姿をバルコニーで見つけていた。
バルコニーの手すりに寄り掛かって一人、不貞腐れてヤケ酒を呷っていたロングビルの元へ来ると、その隣でワインを啜る。
「まったく、これで盗賊家業もできなくなっちゃたわ……」
彼女もまた綺麗なパーティドレスに身を包んではいたものの、酔っているのかその口から出てくるのは愚痴ばかり。
「違う仕事をすれば済むだけのことだ。あれ以上、盗賊として手を汚していれば確実に君は終わっていた。
宮廷に突き出されていれば、極刑は免れなかっただろうな。オスマンには感謝すべきだ」
「余計なお世話よ……」
ぐいっとグラスの中のワインを飲み干し、持ってきたのであろうワインボトルから新たなワインをグラスに注ぐ。
「それに、君の大切な人も悲しむだろう」
ロングビルはグラスを手にしたまま黙り込み、俯いていた。
「ねぇ、あなたも貴族としての地位を捨てたのよね?」
「そうなるな。理由は答えんぞ。昼間の君と同じように」
昼間、キュルケが空気も読めずに彼女を問い詰めようとしたのを自分が止めた。
フッ、とロングビルは自嘲の笑みを浮かべていた。
「……私は四年前まで、アルビオンの貴族だったわ。私の実家は地方の太守を務めていてアルビオンの大公家に忠誠を誓っていてね、父は大公の直臣だった。
大公はアルビオンの国王から以前より妾にしていた夫人とその娘を追放するように命令されていたわ。
もちろん、それを拒否していた大公は投獄されて殺された……。でも、私の実家でその二人を匿ってあげていたのよ」
哀しそうに語りだすロングビルにスパーダは黙ったまま話を聞き続ける。
「ところがその国王はとてもしつこくてね、私の実家の領地にまで軍を向かわせて隠れ家を虱潰しに探し出して、夫人を殺したのよ」
憎々しげに言葉を吐き出し、唇を噛むロングビル。

「私は何とか娘の方を助けることはできたけど、二人を匿っていたことから実家は取り潰し……。父も大公と同じ運命……」
「そこまでするか」
スパーダもそのアルビオンの王の行為に顔を顰める。
「色々事情があるのよ。……まあ、それはいいわ。私はその娘と王軍が攻めてきた影響で孤児になってしまった子供達を小さな村へと匿った。
それから私は、その子達の生活費を稼ぐために盗賊に身をやつした……そういうことよ」
ワインを一気に呷ると、また新たにワインをグラスに注ぐ。
「私は貴族や王族が嫌い。だから、盗みの対象もあいつらだけだった。貴族の、メイジの魔力の象徴である、マジックアイテムとかね」
「しかし、君もまた貴族であり、メイジだ」
貴族や王族が嫌い。そう言っているということは彼女は自分自身も嫌いということを意味している。
たとえ貴族としての権威を失おうと、メイジであることには変わりないのだから。
「……そうね。矛盾してるわよね」
「……しかし、良いのか? そんなことを私に話したりして」
「何でかしらね……こんなことをベラベラ話すなんて。酔ってるのかしら」
ロングビルはまた自嘲の笑みを浮かべ、ワインを一口啜る。
「でも……これからどうしたものかしら。盗賊稼業ができなくなった以上、秘書としての給金だけじゃとてもあの子達を養えないわ」
「そういえば、〝フーケ〟の首にかけられていた賞金だが、もらえるのは18000エキューだそうだ」
「……そんな自分の首にかけられてた金なんて、いくら私でも欲しくないわ。あの子達にも申し訳が立たない。全部、あなたにあげるわよ」
ちなみに本来、土くれのフーケにかけられていた賞金は30000エキューであったそうだが、それはあくまで生きたまま宮廷に差し出した場合のことだ。
自分が使役するドッペルゲンガーをフーケに仕立てて殺したということになっているため、減ってしまっている。
貴族達は自らの手でフーケを始末したかったのだろう。それだけ彼女は恨まれていたというわけだ。
しかし、それでもその賞金は下級貴族でさえ稼いで所有できるような額ではなく、広大な土地付きの城を買ってもまだおつりが残るらしい。
このハルケギニアで活動するに当たっては充分すぎる資金だ。
「……だったらなおさら、君に合った別の仕事を探すべきだな」
「何があるのよ。……盗賊以外に」
「君は土系統のトライアングルメイジで、戦いにも慣れているからな。……トレジャーハンターなどどうだ。盗賊から転職するには自然だと思うが。誰にも恨まれる心配もない」
「トレジャーハンター……ね」
何か思う所があるのか、妙に納得した様子で頷く。
「ま、考えとくわ」


「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」
突然、会場の入り口で控えていた呼び出しの衛士が大きな声で告げていた。
ちらりとスパーダはそちらを振り向くと、そこには純白のパーティドレスに身を包んだルイズが姿を見せていた。
長い桃色の髪をバレッタでまとめ、肘まで届く白い手袋が彼女の高貴さを演出し、胸元の開いたドレスがつくりの小さな顔を宝石のように輝かせている。
主役が全員揃ったことを確認した楽士達が小さく、流れるように音楽を奏で始めると貴族達は男女一組となって優雅に踊りだす。
彼女の周りにその姿と美貌に驚いた、今まで〝ゼロのルイズ〟などと馬鹿にしていた男生徒達が群がり、盛んにダンスを申し込んでくるが、どの誘いも受けはしない。
「行ってあげたら? パートナーなんでしょう」
「君はどうする?」
「別に良いわよ。楽しく踊る気なんてないし」
ロングビルはワインを呷り、さらに顔を赤く染めていく。
スパーダは軽く息をつくと手すりにグラスを置き、こちらに気づいて歩み寄ってくるルイズの方を見やった。
「楽しんでるみたいね」
「まあ、それなりにな。君は踊らんのか?」
「相手がいないのよ」
「もったいないことをしたな」
これくらい言えば、少しは癇癪やら反論をしたりするはずだがルイズは黙ったままだ。
そして、そっと手を差し出す。顔はそっぽを向いたままだ。
「あたしと、踊ってもらえる? か、勘違いしないでよ。パートナーと踊ってあげるのは当然のことよ」
「別に構わん。君が望むなら」

153サントのルイズに対し、190サントに達する長身のスパーダとはどうにも踊り難かったが、そこは互いのテクニックと身体能力で何とか踊りを続けていた。
「あ、ありがとう……ね」
「ん?」
突然、そんなことを呟きだしたルイズにスパーダは小首を傾げる。
「あなたのおかげで……あたし、自信がついたわ」
「私は別に何もしていない」
「あたしね、あれから部屋で試してみたの。そうしたら、簡単なコモンマジックなら使えるようになっていたの。
……自分の力を信じるって、大切なことなのね」
今まで己の力を拒絶し続けていたことが馬鹿らしく思えるくらいに、今のルイズは清々しい気分を感じていた。

「そうか。それはおめでとう」
つっけんどんで淡々としているが、しっかりルイズのことを賞賛してくれているスパーダにルイズは嬉しそうに、そして恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
……こうしてみると、まるで彼が父親みたいに思えてくる。
「……でも、あたしって何の系統なのかしら。あんな爆発を起こす魔法なんて、聞いたことがないわ」
「さてな。だが、はっきりと言えるのはそれは君自身の個性であり、君だけの力だ。これからも、それを育んでいけば良い」
「……そうね。あなたも、協力してくれる?」
スパーダは無表情でありながらこくりと頷いてくれた。
ルイズも照れくさそうに笑いながら、父親のような包容力が感じられる彼との踊りを楽しんでいた。



新着情報

取得中です。