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ゼロのペルソナ 15章 法王


法王 意味…信頼・守旧性

トリステインとガリアの国境沿いにある巨大な湖、ラグドリアン湖の近くに古い屋敷がある。
王弟の屋敷であるが、現在王家を表す交錯する杖の紋章には斜め十字が加わっている。王家から追放されたという忌まわしい証だ。
タバサは生家の前に一人佇んでいる。
時刻は深夜。ルイズをさらうという任務に失敗した彼女はわき目も振らずここへやって来た。全て母を心配するがためである。
手遅れかもしれないなどとは思っていない。手遅れなのだ。間違いなく母はこの家からすでに連れ去られている。
そしてこの家はやってくるであろうタバサを確実に始末するための罠が仕掛けられているに違いない。
なればこそタバサはやって来たのだ。
その罠から情報を得るのだ。その罠に敗れてしまうなどとは考えない。
自身だけでなく母の命がかかっているのだ。今まで生きてきたのは復讐のためと母のためであったのだ。
罠がどれほど恐ろしいものであろうと退くことはできない。そして退くつもりもない。
氷のように冷たい表情の下に固い決意を隠し、今まで何度もくぐってきた扉を開けた。古い家らしいきしむ音がする。
いつもならペルスランが出迎えてくれるところだが何も現れない。タバサは矢や魔法が出迎えることも予想したがそれもなかった。
注意深く足を母の部屋の前まで進めた。それまで何の攻撃も、そして家が荒らされているような痕跡もなかったが、決してタバサは油断しなかった。
家の中に流れる空気こそが不穏の証拠だ。それを感じ取れたのは彼女が風使いだからではない。歴戦の戦士だからだ。
扉に鍵はかけられていなかった。観音開きの扉を無造作に引いた。
部屋の中に母の姿はやはりなかった。そしてベッドの上に居る母の代わりに、本棚の前に一人の男が居た。
間違いなく刺客だとタバサは判断するが、それにしても標的に背を向けて本を読む刺客がいるのだろうか。
「母をどこへやったの?」
男は振り向いた。しかしその動きに緊張感はなく、声をかけられたから振り向いたというだけで、
もし声をかけなければ彼女の存在に構わず本を読み続けたのではないかと思わせる。
「母?」
ガラスで出来た金のような高く澄んだ声だった。
薄い茶色のローブを着て、つばの拾い羽のついた異国の帽子をかぶっている。
帽子からは金色の髪が腰まで垂れており、振り向く動きにつられて波打った。男女問わず溜め息をついてしまうような美しさだ。
美しいのは髪だけでなく薄いブルーの瞳も、線の細い顔も、まるで一流の彫刻家が魂を込めて作り上げたかのような美しさだった。
だがタバサはそんなことは意に介さない。彼女にとっては敵であり、せいぜいが情報源だ。
「母をどこへやったの?」
男は困ったように、本を眺めていたが、思い当たることがあったようで口を開いた。
「ああ。今朝、ガリア軍が連行していった女性のことか?行き場所は知らない」
その発言でタバサにとってその美男子は倒すべき存在になった。
氷の槍を打ち出す。
だがそれは男の胸の前で停止し、床に落ちた。彼が魔法を唱えたそぶりもないというのに。
何かで防がれたというよりは、矢自体の推進力が失われたという感じだ。
タバサは相手の出方を窺うために油断なく杖を構えた。
だがタバサの緊張とはうらはらに男の行動には一切の気負いが感じられない。
「この“物語”というものはすばらしいな」
男は手に持っていた本を開いた。
「我々には、このような文化はない。“本”といえば正確に事象や歴史、研究内容を記したものに限られる。
歴史に独自の解釈を加えて娯楽として変化させ、読み手に感情を喚起させ、己の主張を滑り込ませる……。おもしろいものだな」
男は気軽な口調でタバサに問いかける。
「この“名もなき勇者”という物語……、お前は読んだことがあるかね?」
返答は氷の槍だ。先ほどの倍以上の太さもある槍だったが、結果は同じだった。
氷槍は男の手前で勢いを失い、床に落ちる。そして男は語り続ける。
「はてさて、お前たちの“物語”とは本当に興味深いな。
宗教上は対立しているのに……、この物語に描かれている勇者は我々にとっての聖者と同一のようだ」
男の言うことをタバサは聞いていなかった。どうして自分の攻撃を防いでいるのかに思考力を注ぎ込んでいた。
火でも土でもない。水でもないだろう。ならば風の魔法であろうか。だが、それでもあのような現象を起こす魔法を聞いたことがない。
タバサは気付いた。
四系統の魔法ではない?
「先住魔法……」
さも不思議そうな顔で男はつぶやく。
「どうしてお前たち蛮人は、そのような無粋な呼び方をするのだ」
それから男はなにかに気付いたようだった。
「ああ、もしや私を蛮人と勘違いしていたのか。失礼した。お前たち蛮人は初対面の場合、帽子を脱ぐのが作法だったな」
帽子を脱ぎ、言葉を続ける。
「私は“ネフテス”のビダーシャルだ。出会いに感謝を」
金色の髪から……、長い尖った耳が突き出ている。
「エルフ」
タバサの口から搾り出されたような声が出る。
ハルケギニアの東方に広がる砂漠に暮らす長命の種族。
人類の何倍もの歴史と文明を誇る種族。
強力な先住魔法の使い手にして、恐るべき戦士。
杖を握るタバサの手に力がこもる。
北花壇騎士として、様々な敵と渡り合ってきたタバサにも、立ち会いたくない相手が二つあった。
一つ目は竜。
二つ目は今彼女の前に立つエルフだ。
目の前の強敵は気の毒そうな顔を浮かべていた。
「お前に要求したい」
「要求?」
「抵抗しないで欲しい。我はお前の意思に関わらずジョゼフの下へ連れて行かねばならない。
そういう約束をしてしまった。できれば穏やかに同行願いたいのだ」
伯父王の名を聞いて、タバサの恐怖で鈍っていた血流は激しく彼女の体を流れた。
怯えてどうする。母を取り戻すのだ。エルフだろうが、竜だろうが、何が敵でも引き下がるわけにはいかない。
恐怖でしぼみつつあった心が、再びたけり狂う嵐で満ちていく。
強い感情の力は魔力の総量に影響する。
荒れ狂う怒りと激情の中、冷たい雪のように冷え切った冷静な部分が、タバサに足せる系統が増えたことを教えてくれる。
スクウェアの威力を持ったトライアングルスペルを、タバサは唱え始めた。
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……」
タバサは最強の敵に挑む。
陽介はタバサが姿を魔法学院から姿を消したことに気付くとすぐに馬に乗ってタバサの実家へと向かった。
完二たちを連れてこなかったのは巻き込めないと思ったからではない
。ルイズやキュルケはともかくとして完二とクマは元の世界でも何度も命を助け合った仲だ。
今さら助けを受けないなど言ったら二人は怒るだろう。
陽介が仲間たちを連れてこなかったのはただ単純に急いでいるからであった。一分一秒が惜しい。
タバサはルイズをさらう指令を課されたのにそれを果たせずにルイズの命を助けた。
彼女は冷静ではあっても冷酷ではないので後悔などしていないだろう。
そうやって仲間を助けたあと、母の元へ向かったに違いない。
タバサが危機にあるであろうに一緒に居てやれていないふがいなさとともに、タバサに腹を立てていた。
なぜ自分を連れて行ってくれなかったのであろう。
確かにこの世界に来てほんの2,3週間で、付き合いも同じだけの期間だが、築いた絆は決してその短い期間に見合うような弱いものではない。
孤独に、人と関わらないように生きようとしている彼女だが、それが本意ではないことを良く知っている。
人のことがどうでもいいなら村人に疑われていたマゼンダ婆さんを救おうとなどしなかった。
仲間たちを助けるために風石の代わりになって船を飛ばそうなどしなかった。
岩場に挟まった自分を火竜の攻撃から守ろうとしなかった。
何より彼女は母のためにつらい任務もこなしてきたのだ。
それらが決して彼女にとって容易でなかったことも知っている。
吸血鬼に地を吸われそうになって震えていたことも、火竜と戦って呆然と座りこんでいた姿も陽介の確かな記憶だ。
それでも彼女は彼女のやり方を選んできたのだ。だったら助けを求めればいいのだ。
自分一人で難しいなら仲間を、使い魔を頼ってくれればいい。
おそらく彼女は自分に遠慮したのであろうが、そんな遠慮など不要だ。
トリステインから馬をとばし、ラグドリアン湖の畔にあるオルレアンの屋敷に着いた。
そして先日ぶりに訪れた屋敷を仰ぎ見る。前も壮麗ながらもどこかうらぶれた様子を感じたものだが、今はそれが遥かに強く感じられた。
意を決し扉を開けて陽介はタバサの母が居た部屋へと駆け出した。罠などは警戒していない。
これは陽介が罠を気にしていられないほど気にしていたというよりも、陽介は罠を気にして進むというスタイルがないためであった。
彼は何百、何千回と異形の怪物たちと戦いを繰り広げてきたが、罠や策謀といった戦いからはほとんど無縁であったため、罠を警戒して進むという戦い方をしないのだった。
もし簡単なトラップの仕掛けでもあれば陽介は彼の実力に比して相当な時間のロスを被ったであろうが、そういった罠はなく、なんなくタバサの母が居る部屋にたどり着いた。
かつて目の前まで来て入室することのなかった部屋。まさかこんな形で訪れることになろうとは思いもしなかった。
タバサの母の部屋に入るとそこにはそれらしい女性の姿はなく、目に入ったのは地面に横たわるタバサと、その隣りに立つ長身の男であった。
陽介の主人はぐったりとしている。
「お前、タバサに何をした!」
その男、ビダーシャルは悠然と答える。
「何をした、とはずいぶんな言い方だな、蛮人よ。私は何もしていない。ああ、この娘の傷を治してやったかな」
予想と違う発言に陽介は鼻白んだ。
「え、本当か?」
「嘘などつくものか」
ビダーシャルはやれやれとでも言いたげだ。
陽介はそれを全面的に信頼は出来ないが、どうにも目の前の男には緊張感がなく、今まで彼を突き動かしてきた衝動が空回りしていた。
「あ、それじゃ、そいつ連れ帰っていいか?俺のご主人さまなんだ」
「それはならぬな。私はガリア王とこの娘を連れてくるようにいわれたのだった」
陽介の顔が怒りで歪む。
やはり敵であった。
「んだそりゃあ!やっぱテメーがやったんじゃねーか!治してやったとかわけわかんねーウソつきやがって!!」
「嘘ではないと言っただろう。まったく蛮人は嘘と本当の見分けもつかぬのか」
ビダーシャルは呆れた様子だった。
そのとき彼の足元で倒れ伏していたタバサが緩慢に顔を上げた。視点の定まらない目で陽介を見てくる。
口が小さく開いたが、声が出ないのかそこから音は紡がれない。
「タバサ!」
「ではそろそろ行くとしようか」
ビダーシャルはタバサへと手を伸ばす。その細い指がタバサの体に触れようとする。
陽介は叫んだ。
「タバサに触んな!吠えろ!スサノオ!」
燃え盛る頭を持つ彼のペルソナは一瞬で敵の間合いに入った。
ソニックパンチ――渾身の力込めた拳が音速でビダーシャルに叩き出され――その力は全てスサノオに跳ね返った。
スサノオは自身のクリティカルヒットをまともに喰らい、陽介にダメージがフィードバックする。
「うっ……!」
どういう理屈かはわからないが、渾身の力が自身に叩きこまれ尻餅をついてしまう。頭がフラフラして意識が朦朧としてきた。
「見たことのない力だな……」
そう言いつつ、ビダーシャルは攻撃する。無様に尻餅をついた陽介に部屋を形作る岩石を飛ばしたのだった。
天井や壁が独りでに剥がれて陽介へと向かって来て、肩に、腹に、腕に、頭に当たる。
体中に衝撃を受け続け、陽介は気を失った。
エルフに敗北し、何をされたかもわからず気を失っていたタバサ。
床に倒れ伏しながらうっすらと気取り戻した時、目に入ったのは花村陽介の姿であった。
異世界から来たという彼に自分の過酷な運命を担わせるわけにもいかない。
だから魔法学院においてきたはずの彼女の使い魔は目の前にいた。
さきほど自分の放てる最高の魔法でわが身を切り裂いたわりには体の痛みは少なかったが、タバサの意識はぼんやりとしたものだった。
自分の使い魔に何かを言おうとしたが、声がでない。
もし声が出たならなんと言ったのであろうか。
今まで一度も呼んだことのない彼の名前を呼んだであろうか。
逃げてと叫んだろうか。
それとも助けてと叫んだだろうか。
彼は火竜を倒したほどの使い手なのだ。エルフも倒してくれるかもしれない。
その思いは決して表層化したものではなかったが、淡いというには強い思いだった。
しかし彼は彼女の目の前でエルフに敗れた。今まで何度となく見てきた彼の心象であるというペルソナ。
その姿は彼女にとっては勝利ともはや同義であったが、それが敗北した。
彼女の目の前には竜を倒した人間という非現実的なものではなく、エルフに倒される人間というどうしようもなく現実的な現実があった。
彼女の使い魔は、エルフは人間を倒せなかった。
                            アンシャン・レジーム
竜を倒した彼もエルフは人間に勝てないという絶対的階級を覆すことは出来なかった。
体が浮かび上がるのを感じる。エルフにだきあげられたようだ。
「ヨースケ……」
薄れゆく意識の中、タバサは使い魔の名を呼んだ。


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