あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ヴァナ・ディールの使い魔-05


「…フー、いやー!人心地ついたぜー!」

プリッシュは目の前に積まれた何枚もの皿を満足そうな顔で見つめながら少し膨らんだお腹をさすっていた。
久方ぶりのちゃんとした食事に心もお腹も満足といった感じである。
プリッシュはシエスタの方へと向き直り、気持ちのいい笑顔を作って言った。

「お前に会えなかったら、あのまま飢え死にするところだったぜ!有難うな、シエスタ!」
「いえいえ、どういたしまして」

その様子を見て、シエスタはまるで母親のような顔でにっこりと笑っていた。



つい数分前、プリッシュは厨房の前をうろうろとしていた。
シャントットに教えられて厨房へ来たまでは良かったのだが、プリッシュはある懸念を抱いており、それが中へ入ることを躊躇わせた。
それは自身の見た目である。

ここへ召喚された時、自分とシャントットの姿を見た他の生徒やコルベールは恐怖と敵意を抱いていた。
また今朝出会ったメイドのシエスタも敵意こそは抱かなかったものの、同様のリアクションであった。
流石に何度も同じようなリアクションを取られれば、プリッシュも自身の姿が恐怖の対象であることを自覚する。
どうもここの世界の住人はエルフを恐れているらしい。
実際はエルフとは似て非なるものであるプリッシュだが、外見はエルフそのものである。
故に、彼女が何の躊躇も無く厨房へ入れば、中の人々がどうなってしまうかは想像するに容易い。
シエスタみたいにちゃんと話し合えれば誤解も解けようものだが、あれは一対一で相手が恐怖からその場を動けない状態だったから対話の機会を得ることが出来たのである。
人が多いであろう厨房内で対複数が相手なら、召喚された時と同様に敵意と恐怖が上回り、プリッシュの言葉は届かないであろう。

「む~、困ったぞ」

プリッシュが唸っていると、そこへ配膳を終えて戻って来たシエスタがプリッシュの姿を見とめた。

「どうされましたか?プリッシュ様」
「ん?シエスタじゃねぇか!実はよお…」

プリッシュは厨房へ入れない理由を身振り手振りでシエスタへと伝える。
すると、シエスタはプリッシュの手を取り、にっこりと笑ってみせた。

「私に任せて下さい!」

シエスタはそう言うと、プリッシュを連れて厨房の中へと入って行った。
流石にプリッシュもこのシエスタの行動には吃驚したが、それ以上に厨房内も騒ぎとなる。
しかし、シエスタは落ち着いた様子で厨房の皆へ丁寧にプリッシュのことを説明しだした。
すると、最初はプリッシュの姿に脅えていた厨房の者たちも、次第に落ち着き始め、やがてプリッシュのことを受け入れるようになった。
厨房の中の一人がにこやかに言う。

「シエスタがそこまで言うなら問題ないだろうさ。あの子は嘘つかんしな」

その言葉に厨房の者たちは一様に頷いた。
中でもガタイのいい男が何かを手に持ったまま大きく頷いている。

「…ほらよ、使い魔の嬢ちゃん。腹減ってんだろ?賄いで良けりゃ食え食え!」

そう言って男が差し出したのは、とろとろのシチューであった。

「うおおおおお!い、いいのか、食っても!?」
「ああ!こんなんで良ければどんどん食ってくれや!俺の名はマルトー、ここの料理長をやってる。俺がいいって言ってんだから気にすんな!!」
「有難よ!マルトーのおっさん!!俺の名はプリッシュだ!!よろしくな!!」
「おっさん!?おっさんか!!確かにおっさんだ!!ガハハハ!!よろしくな!!」

二人はがっしりと固い握手をする。
こうして、プリッシュは無事賄い料理にありつくことが出来たのであった。



食後にプリッシュが食堂での一幕をシエスタも含めて厨房の者たちに話すと、マルトーはえらく憤慨した。

「ったく、これだから貴族の連中ってのはよお…」
「マルトーのおっさん、どうしたんだ?何かむかついてんのか?」
「ああ、俺は貴族の連中にむかついている!!奴らと来たら、あれだけ大量に飯作らせるくせに自分たちは殆ど食わないで残しやがるんだ!」
「うわあ…勿体ねぇなあ」

プリッシュは先程の料理の山を思い浮かべ、心底勿体無さそうな顔をする。
そんな彼女の顔を見ながら、マルトーは力を込めて言った。

「ああ、勿体無い!勿体無さ過ぎる!!…だからなるべく残ったもんはうちらでこっそり分けて食ったりもしている」
「ってことは、そん時にここへ来れば俺もあの美味そうな飯食えるのか!?」
「勿論だ!使い魔の嬢ちゃんなら歓迎だ!極上のワインを空けて待ってるよ!…残り物だけどな」
「うおおおお、そいつはいいこと聞いたぜ!!」

プリッシュは心の中でガッツポーズを取る。
マルトーはニカッと笑った後に、沈痛な面持ちになった。

「…それに、連中は味の違いも分かりやしねえんだ。せっかくこちとら工夫に工夫を重ねて日々美味いもの作ってやってるのによ!」
「おお、確かにさっきのシチューは美味かったぜ!!あれは店に出せるレベルだな!!」
「使い魔の嬢ちゃんは分かってるねえ!!…それにしても、嬢ちゃんの主人も酷えなあ。いくら使い魔だって、ちゃんとした人間なのにあんなもん与えるなんてよ。明日さえ見えない貧民じゃあるまいし、いくら何でもあんまりじゃねえか」

マルトーは怒ったような口振りで言った。
その隣でシエスタは困ったように笑って何も言わなかったが、概ねマルトーに肯定気味な様子であった。
プリッシュもマルトーに同調して頷く。

「ったく、アイツはちょっとどうかしてるぜ!使い魔にしたって俺は納得してるわけじゃねーのにあんなものしか食わせてもらえなくて、それで従えって言われても誰も従わねぇっつーの!」
「ガハハハ!貴族相手にその物言い!ますます気に入ったぜ!!さっきも言ったけどまた来な!!うちらは何時でも使い魔の嬢ちゃんを歓迎するぜ!!」
「おう!遠慮しないでまた来るぜ!」

そうして暫く談笑してから厨房を後にしたプリッシュは食堂へ戻ろうとした。
ルイズに会いたくないと思っていた気持ちが嘘のように消えていたのだ。
お腹がいっぱいになり、マルトーたちに不満をぶちまけて先程までのモヤモヤがスッキリしたからだろうか。
そんな些細なことは気にせず、プリッシュは食堂までの道を進む。
すると、十数m先に何やらキョロキョロとせわしなく辺りを見回すルイズが目に入った。
恐らく自分を探しているのだろうと、プリッシュは遠くから呼び掛ける。

「おーい、ルイズー!」
「あ!居たわね、この馬鹿犬!!」

返ってきたのは辛辣な言葉であった。
いきなり居なくなった自分も確かに悪いが、馬鹿犬呼ばわりをされる道理は無いとプリッシュは憤る。
こちらへドタドタと向かって来るルイズにプリッシュは言った。

「おい、何で俺が馬鹿犬なんだ!」
「うるさい!主人の申し付けを守らない使い魔なんて、馬鹿犬と同じよ!」
「何だよそれ!」

ムキになって言い返すプリッシュに背を向けてルイズはまたドタドタと歩き出す。
プリッシュはその背中に何か言ってやろうかと思ったが、有効な言葉が出なかった為、仕方無く無言でルイズの後をついていった。
無言のまま歩くこと数分、二人は広い部屋へと入った。
中は教室のようで、召喚の儀で見掛けた少年少女たちがそれぞれ席に着いている。
今朝、ルイズをからかいに来たキュルケという少女の姿も確認出来た。
ルイズがさっさと自分の席へ着いたので、プリッシュも隣に座ろうとすると、途中でルイズに止められた。
先程とのデジャヴを感じたプリッシュは「またか」という顔でルイズに尋ねた。

「今度は何だよ?」
「アンタは使い魔。まさか御主人様の隣に座れると思ったの?自分の立場というのを弁えなさい!」
「ハァ!?」

今度という今度は流石に腹に据えかねたプリッシュが何か言おうとしたその時、教室内へ一人の中年女性が入って来た。

「ハイ、皆さん。席へ着いて下さいね」

その言葉と共に、まだ着席していなかった生徒たちが慌てて自分の席へと戻って行く。
プリッシュの怒りは、中年女性の一言でそがれてしまい、仕方なくその場に座り込む。
その様子をルイズがうんうんと納得しながら見ていた。

(カーーー、本当にむかつく奴だぜ!!)

プリッシュは心の中でそう叫ぶと、長い耳の中へ小指を入れて穿り出す。
このままルイズと目を合わせていたくなくなっていた。

「これより授業を始めます。初めての方もいらっしゃるようなので自己紹介しますね。私はシュヴルーズ。『錬金』を教えています。どうぞよろしくお願いします」

シュヴルーズと名乗った中年女性は教師のようで、紫を基調にした服に身を包み、如何にも魔法使いですと言わんばかりの帽子を被っていた。
シュヴルーズはニコニコと笑いながら言った。

「皆さん。春の使い魔召喚は無事に大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

そう言うと、シュヴルーズの視線がプリッシュを捉えた。

「ミス・ヴァリエール。亜人とはまた変わった使い魔を召喚しましたね」

その一言に、ルイズはあまり面白く無さそうな顔をする。
どうも『変わった使い魔』という言葉がどうもお気に召さなかったようである。
そんなルイズへ小太りの少年が小憎たらしい声を掛けた。

「流石ゼロのルイズ!使い魔も俺たちとは全然違うんだな!いや~驚いたよ~」

小太りの少年の口調や表情から、言葉とは裏腹に明らかにルイズを馬鹿にしていることが分かる。
すると、彼の言葉に何人かの生徒がクスクスと笑い始めた。
その笑い声を聞いて、ルイズは激昂に駆られ立ち上がる。

「ミセス・シュヴルーズ!風っ引きのマリコルヌが私を侮辱したわ!」
「何だと!?『ゼロ』のくせに僕を侮辱するのか!?」
「うるさいわね!!先に侮辱したのはアンタでしょ!?」
「何言ってるんだよ『ゼロ』なのは事実だろ!!」
「うるさい!!!!」

二人のやり取りがエスカレートし始める。
シュヴルーズがやれやれと杖を取り出そうとしたその時であった。

「うるせぇぞテメェ!!!!!」

教室内に怒りを孕んだ声が響き渡る。
一瞬で教室内は静けさを取り戻した。
怒号の主はルイズの隣で地べたに座り込んでいるプリッシュであった。

「な、な、『ゼロ』の使い魔のくせに…」
「その口閉じな!今すぐここでボッコボコにしてやってもいいんだぜ!?」
「ひ、ひぃ!!」

プリッシュの迫力に圧され、小太りの少年はそのまま黙り込んでしまった。
一方のルイズは唖然とした表情でプリッシュを見つめている。

「アンタ…」
「…」

プリッシュは無言であった。
ルイズはプリッシュから目を離して席に座りなおす。

「あ、あ、あ、え~と、で、では授業を始めます。オホンオホン」

突然のことでテンパったシュヴルーズはこの空気を打破する為に無理矢理授業を開始した。
思わず素っ頓狂な声が出て来るが、気にせずに教科書を捲る。

その間、ルイズはチラッとプリッシュの方を見やった。
先程までのルイズはこの反抗的な使い魔をどうやって躾けようか考えていた。
何を言っても文句を言うし、時には逆らおうともする。
だから、つい厳しく当たってしまっていた。

しかし、そんな自分の為に彼女は怒ってくれたのだ。

(プリッシュ…)

ルイズは少しだけ、この使い魔に対しての見方を変えた。
そして、彼女への接し方を変えようかなと思案し始めていた。



(…まただ)

そうとは露知らず、プリッシュは先程の自分の行動に疑問を抱いていた。

(またアイツが馬鹿にされていると思ったら、腹が立ってきやがった。何でだ?アイツを庇う気なんて全然無かったのに…)

あんだけの扱いを受けて好印象を抱けというのがまず無理な話である。
だが、ルイズに対しむかつくことはあれど、嫌いになっていない自分がそこにいた。
別に彼女のいいところを見たとかそういうわけでも無いのに。

(…どうかしちまったのか、俺の頭は?)

プリッシュは頭をポリポリと掻いた。
その彼女の左手が少しだけボンヤリとした輝きを見せていたことに気付く者はいなかった。


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