あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

天才と虚無-01




 鉄格子の合間から乾いた風と細かい砂塵が舞い込む。
 石壁に三方を囲まれた部屋。
 廊下に面した壁の代わりに、一面の鉄格子が嵌っていた。
 そこは、牢獄だった。
 青年は粗末な寝台の上に腰掛け、牢獄の壁に背中を預けていた。
 青年が牢獄に閉じ込められて、いったいどれほどの時間が経過しただろうか。
 窓から差し込む朝日と夜の訪れから日数を数えていたのだが、途中でやめてしまっていた。
 それから既に幾度もの朝と夜が過ぎ去っていった。
 青年が粗末な寝台の固さに身をよじると、青年の視界を何かが掠めた。
 目を向けると、牢獄の壁に寄りかかるような形で、姿見程度の大きさの鏡があった。
 それを見た青年は、頭の中に疑問符を浮かべる。五秒前まで、そんな鏡はそこには無かった。
 何らかの咒式だろうか、と青年は思考する。
 電磁光学系第二階位<光幻軆>の咒式による立体映像化と思い、即座にそれを否定する。
 鏡には影があった。立体映像ならば影は出来ない。
 青年はその鏡に、無性に触れてみたくなる。
 生来の好奇心と牢獄に閉じ込められてからの退屈に突き動かされるようにして、青年はその鏡へと手を伸ばした。
 白く長い繊細な指が、微かに発光している鏡の表面に触れる。

 青年は鏡ごと、この世界という枠の内側から消滅した。

 亜麻色の髪と深緑の瞳を持つ少女が青年に食事を届けに来て、青年の姿が無くなっていることに悲鳴を上げたのは、青年が消えてから正確に十秒後だった。


○ ○ ○


 轟音!
 少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの振り下ろした杖の先の空間が爆発!
 白光の後に爆音が轟き、衝撃波が地面を抉る。
 抉られた地面が土煙となって周囲へと降り注いだ。

「いい加減にしろ、ゼロのルイズ!」

 その爆発を遠巻きに見ていた一人の少年が、爆発を引き起こした少女へと怒鳴る。

「使い魔の召喚にいつまでかかってるんだよ!」
「他はみんな終わってるんだ、お前もさっさと終わらせろよ!」

 最初の声を皮切りに、その周囲にいた生徒たちも、ルイズへと罵声を投げかける。
 トリステイン王国、王立トリステイン魔法学院では、二年生への進級試験を兼ねた、使い魔召喚の儀式の最中だった。

「……………くっ」

 ルイズは投げかけられる嘲笑と罵倒に、葉を食いしばって耐える。
 自分が使い魔を召喚しようとして失敗をしたのは、今ので五回目。
 失敗するたびに大爆発を引き起こす少女の魔法。
 その直撃を受けた平原は見るも無残に抉られて、ところどころ草の合間から地肌が見えていた。

「ミス・ヴァリエール…………残念だが、時間も迫っている。残りは放課後にしないか?」
「っ!?」

 ローブを羽織った禿頭の教師――――コルベールが、召喚に失敗した少女へ、声をかける。
 ルイズが最後とはいえ、五回もの失敗。
 予定していた時間は既に過ぎ去り、次の授業の刻限も迫りつつあった。

「放課後ならば、私も時間が取れます。その時は召喚できるまで――――」
「待って、待ってください!」

 コルベールの言葉を遮るようにして、ルイズが叫んだ。

「ミスタ・コルベール! お願いです、もう一度だけ! もう一度だけ召喚させてください!」
「しかし、時間が………」
「お願いします、もう一度だけでいいんです!」

 ルイズの懇願に、コルベールは思案する。
 一人の生徒に、これ以上に時間をかけることは出来ない。しかし、一人だけ召喚をすませずに、というのはあまりに不憫だ。

「…………しかたありません、ミス・ヴァリエール。もう一度だけ召喚を許可します」

 数秒の沈黙の後に出された結論は、微量にだけ情が多く含まれていた。

「ありがとうございます!」

 その答えに、ルイズの表情が一気に明るいものになる。

「ただし、これで最後ですよ? これで失敗してしまったら、次は放課後です」
「は、はい! 解りました」

 真面目な口調で発せられたコルベールの言葉に、明るくなったルイズの表情が引き締まる。
 そのまま五つの穴が開けられた草原へ向きなおり、深呼吸を繰り返す。
 唱えるべき呪文を脳内で何度も復唱し間違いが無いことを確認。
 すう、と息を吸い込み、呪文を唱え始める。

「宇宙の果ての何処かにいる私の下僕よ!」

 ルイズの紡ぐ言葉が、ルイズ自身の深層意識より、魔力と名をつけられた、認識力を引きだし始める。

「神聖で美しく、強力な使い魔よ!」

 荒れ狂うそれは、ルイズの吐き出す言葉によって徐々に統制・制御され、魔法としての形を成していく。

「我は心より求め、訴える!」

 ルイズの魔力は物理法則を歪め、計算するのも億劫なほどのエネルギーを作り出し、集約する。
 空間に微細な虫食い穴が発現し、負の質量を持つ物質がそれを支える。
 その穴が繋がる先は、運命にゆだねられる。確率とも何某かの意思ともつかぬそれが、座標を決定する。
 そして――――

「我が導きに、答えなさいっ!!」

 っどごぉおおぉおん!!!

――――大爆発を引き起こした。

「う、そ…………」

 自分の引き起こした特大の爆発を見て、ルイズの膝が折れた。
 絶望に目眩がし、立っていることすら出来なくなる。
 心が折れるというのはこういう気分なのだろうと、ルイズは頭の片隅で考える。
 ぱらぱらと、舞い上がった砂や石が、ルイズへ降り注いだ。

「うぅ…………」
「!?」

 それは、呻き声。
 土煙に遮られて見えない爆心地より感じた、生き物の気配。
 成功した、成功した! 成功した!!!
 絶望は希望へ、失意は歓喜へ塗りかえられる。
 しかし、一陣の風が土煙を吹き飛ばした時、その感情は再び絶望へ、失意へと叩き落とされた。


「あんた、だれ…………?」

 そこにいたのは、人間。
 美しい金髪をした青年が、抉られた地面に尻餅をついて座っていた。

「えっと、あ、あれ?」

 きょとん、としか表現のしようのない表情で、青年が周囲を見渡す。
 数回、往復した視線はやがてルイズのそれと交錯する。
 青年の瞳は、まるで翡翠のような緑だった。


 ゼロと呼ばれた少女と、天才と呼ばれた青年が出会った瞬間であった。 



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