あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-13

 ろくな怪我もしないうちから負けを認め、無様に許しを請う。
 ワルドは、二つの状況に微笑んでいた。
 今の自分と、そして彼女の今。
 つまり彼女は、どうしようもなく貴族なのだ。
 姫殿下の命令を受けたわけではない。
 言外に頼まれたわけでもない。
 困っている姫を見て義憤に駆られたと言えば聞こえは良い。だが、それも、成功してからの結果論だろう。
このまま事破れて死ねば、ただの愚か者である。
 だが、それがどうしたとワルドは思う。
 動く事のできない、いや、おのれの保身のためだけに汲々として動く貴族共に比べて、どれほど貴族らしいのか。
 少なくとも、彼女は前を向いて走ろうとしているではないか。それが覚束ない足下であろうとも、小気味良いではないか。
 愚かだと誹るならば誹れ。自分は彼女を認めよう。
 嘲笑うならば嘲笑え。自分は彼女を認めよう。
 願わくば、彼女が我と共にあらんことを。
 残念ながら、その望みは薄いだろう。彼女が自分のかつて求めた真の貴族に近ければ近いほど、彼女は自分に幻滅するのだろうから。

「何がおかしいんです?」

 不愉快な口調ではなかった。真剣にこちらを案じている口調だ。
 口だけの男だと侮辱されても仕方のない醜態を晒したというのに。
 それでも、彼女の言葉はこちらの身を案じるものだった。
 貴族を志す心ゆえか、それとも、婚約者という立場を慮ってのものか。どちらにしろ、その口調はこの身には心地よすぎる。
 これでは、口が滑ってしまうではないか。

「ルイズ。僕の身は、既にレコン・キスタにあるんだよ」

 そう言えば、この気高い少女はどんな反応を示すのだろう。
 試してみたい誘惑に駆られながら、ワルドはせめてもの威厳で答える。

「君の使い魔の実力を見抜けなかった、自分の間抜け加減を笑っているのさ」

 チェーンパンチ、ブーメランカッター。
 壁を砕き、柱を切り裂いた二つの技を見せられただけで、ワルドは白旗を揚げたのだ。
 決闘という言葉を使ったところで、元より命を懸ける気も懸けさせる気もなかった、と。
 ごめんなさい、と何故かルイズは謝った。
 力試しは殿方同士の試し。ならば、仕方がないとはいえ手加減できぬ力のザボーガーが不調法ではあるまいかと。
 いや、使い魔のせいにするなど主失格だ。手加減を命じる術を持たない自分の不器量が恥だと。
「しかし、君のアルビオン行きには断固反対する」
「ワルド様、約束が違います」
「そうだな。約束が違う。僕は、約束を破る恥知らずだ。しかし、そこまでしても僕は君の身を不安に思っている」

 姫殿下のためという理由はもう消えている。その任は、すでにワルドが宰相より受けているのだ。
 あとはルイズの心だけ。
 だから、ルイズはイタズラをするように笑った。

「我が侭を言いますよ?」
「婚約者の器量を試す気かい? 行く末が怖いな、君は」
「私を、アルビオンに連れて行ってくださいませ」

 いっぱしの男なら、騎士なら、隊長と呼ばれる身なら、婚約者の身一つくらい守って見せろ。
 それがルイズの言葉。
 なるほど、あの二人の娘だ、とワルドは内心喝采を送る。それでこそ、ヴァリエールの名に相応しいと。
 ならば応えねばなるまい。その期待に。いや、それ以上のモノを見せねばなるまい。
 それが例え、別れに繋がろうとも。
 閃光の二つ名は、伊達ではないのだ。そして、秘めたこの野望も。

同じ頃、レコン・キスタの野戦司令本部。その奥に設えられた司令官室には四人の男女がいた。
 本部中央に設えられた天幕の中、正面を見据えて動かない男オリヴァー・クロムウェル。
 横に侍るは二人のメイジ。背後に控えるは不詳の少女。その三人ともが、通じていたわけではないが素顔を隠している。
メイジ二人は仮面を被り、少女は顔まで覆う派手な兜を。
 もっとも、クロムウェルは全員の素顔を知っているはずだった。一応彼は、レコン・キスタの総司令官である。
 しかし、実につまらない男だ。
 と、二人のメイジの内一人であるフーケは思う。
 彼女の見る限り、クロムウェルからは風采の上がらない男が衣装で誤魔化しているといった雰囲気が拭えない。
 威張るだけしか能がない貴族のほうが、まだしも見た目はマシだろう。何しろ向こうは威張り慣れている。
 こちらは、威張る事に慣れていない。慣れているように見せかけようとはしているが、うすらみっともないのだ。
 万事がこうなのだろう。要は、立ち位地があまりにも分不相応なのだ。
 もっとも、それですら有り難がるような無能の傀儡ばかりを身の回りに侍らせているところからして、本人も自覚があるようだが。
 これが総司令官だというのだ。レコン・キスタという組織も程度が知れる。少なくとも、自分が身を寄せていたいと思うような集団ではない。
フーケはそう考えていた。
 それでもしかし、自分はここにいなければならない。

「ミス・サウスゴータは、退屈そうですね」
「流浪の身でしたから。このような場所には慣れておりません」
「気になさる事はない。正義の戦はすぐに終わります。新生アルビオン生誕の暁には、サウスゴータ領は再び貴方のものとなるでしょう」
「過分なお言葉、有難く思いますわ」

 ここでは、フーケはマチルダ・サウスゴータ。かつての名前を名乗らされている。
 対アルビオンと考えれば、この方が都合が良いのだろう。その理屈はよくわかる。

「それでよいですね。ミス・シェフィールド」

 クロムウェルは、マチルダから視線を逸らすと自らの背後の少女に尋ねる。

「司令官殿の良いように」
「では、サウスゴータ領はそのようにするとしましょうか」

 シェフィールドと呼ばれている仮面の少女には、微かだがガリア訛りがある。それも、田舎訛りではなく洗練された都会の訛りが。
「私は助言するだけです。アルビオンの新たなる皇帝よ」

 フーケは微かに顔をしかめた。シェフィールドの物言いは好きになれない。
 言外に、「好きにすればいい。どうせお前は傀儡だ」と匂わす言動が多すぎるのだ。さらに、それにクロムウェルは気付いていない。
 今にして思えば、確かにオールド・オスマンは一廉の人物であった。あのセクハラ老人ならば、このような腹芸など鼻息一つで吹き飛ばしてみせるだろう。
 ある意味、シェフィールドの言動も稚拙だった。ただ、クロムウェルがそれに輪をかけて愚かなのだ。
 どうしてこんな男が総司令官の器なのか。初めて会ったときの疑問は、殆どその直後に解消された。
 力だ。それすらこの男の力ではない。この男の持つアイテムの力だった。

「アンドバリの指輪だな」

 フーケとクロムウェルを初めて引き合わせた後に、ワルドは言った。
 水の精霊の力を秘めた指輪。偽りの命を人に与える力を秘めた神秘の指輪。それがアンドバリの指輪だ。
 クロムウェルには過ぎた力だと、フーケは素直に感想を述べた。
 するとワルドは笑いながら頷いたのだ。
 その指輪すら、実際はクロムウェルのモノではないと。おそらくは、その黒幕であるシェフィールドから与えられたモノだろうと。
 いや、シェフィールドすら、おそらくは真の黒幕ではあるまい。

「ガリアかい」

 ガリア訛りに既に気付いていたフーケを、ワルドは感心した眼で見ていた。

「さすがだな」
「あそこの国王が本物の無能なら、とっくにガリアは滅びてるよ」

 無能王。それは、魔法が全く使えないと言われている現ガリア国王、ジョゼフを揶揄する言葉だった。
 そしてフーケは知っている。
 王家の血筋を引きつつも魔法の使えない者が、その代償として普通でない別の力を得るかもしれないということを。
 おそらくは無能王はそれだ。そしてもう一人、フーケは知っている。
 アルビオンの王家の血を引きながら、系統魔法の使えぬ少女を。
 そしてもしかすると、ルイズも。

「妹の事を考えているのか?」

 ワルドの言葉に、フーケは睨みを返す。

「そう尖るな。俺にも思い出すこどある、それだけのことだ。王家の血……すなわちブリミルの末裔でありながら、魔法という力に見放された娘のことをな」
「何処まで知っているんだい?」
「さあな? だが、貴様は俺に従い続けろ。貴族を捨てたのが事実なら、悪いようにはせん」
「妹に手を出すようなら、只じゃ済まないよ」
「貴様が俺に従っている限り、約束は守る。第一、俺の敵でないのなら、手を出す理由はない」  そのワルドは、今はアルビオンから下りている。フーケの隣で白い仮面を付けて立っているのは遍在だ。
 三人を見回すように眺めていたクロムウェルが、感に堪えないという様子で静かに笑っていた。

「あと少しでアルビオン王党派は滅びる。その時こそ、我ら新生アルビオン、レコン・キスタの栄光が始まるのだ」

 違う。
 フーケは心の中でクロムウェルの言葉に異を唱えていた。
 あんたが始めたがっているのはレコン・キスタの栄光じゃない。アルビオン新皇帝、オリヴァー・クロムウェルの栄光さ。
 それは、来やしないんだよ。
 フーケの視線が上がると、そこにはシェフィールド。
 微かに頷く少女、その赤と黄色の奇妙な兜からフーケは目をそらしていた。
 何故か、その兜は思い出させるのだ。ルイズの奇妙な兜を。
その連想も当然だろう。
 シェフィールド……イザベラが被っているのはマシンバッハ用のヘルメットである。ある意味、ルイズの被るザボーガー用ヘルメットとは対になるものなのだ。
 そして、ワルドの目にもそのヘルメットは映っている。
 遍在の見たものは、本体へと伝えられる。
今もワルドの本体は見ているのだ。ルイズの隣で、この様子を。

「婚約者の我が侭を叶えるのも、男の甲斐性と言うわけかい?」

 アルビオン行きをねだる婚約者。困ってみせる男。
 戦火が近づいていないのであれば、それは微笑ましい光景だっただろう。
 この状況でワルドがルイズを置いていく事は、誰が見ても正当だろう。責める者などいない。
 だが、ルイズが諦めないであろう事にワルドは気付いていた。
 ルイズはウェールズに会わなければならない。アンリエッタの言外の望みを叶えなければならない。
 既にそれは強迫観念かも知れない。それとも、王女に最も近しい貴族としての義務感か、あるいは親友としての想いか。
 どちらにしろ、理屈では間違っているが、思いとしては間違っていない。
 叶えられるものなら叶えたい、というのも衆目の一致するところだろう。
 そして、ワルドにとっても実はその方が都合がいいのだ。
 実質レコン・キスタに与した身にとって、戦火の中でルイズ一人の身の安全を保証する事は容易いだろう。
それこそ、レコン・キスタ側に連れ去ってしまえば片が付く話なのだ。
万が一ルイズがワルドの目論見に気付いた場合でも、使い魔ザボーガーさえ封じればどうにでもなる。
ガンダールヴの力だけなら、正面からの戦闘で打ち倒せる。
 ルイズをトリステインに返す必要はないのだ。そうすれば、虚無とアルビオンを同時に手に入れることができる。

「ただし、アルビオンにいる間は僕の指示に従ってもらうよ」
「それはわかっているわ」
「いいだろう」

 ワルドの心中の笑みに、ルイズが気付く事はなかった。


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