あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

確率世界のヴァリエール-13


「左手は添えるだけ。」
「こ、こう?!」
タバサの声に緊張の面持ちでルイズが応える。

初夏の日差しが照りつけ始めたトリステイン魔法学院の中庭。
シュレディンガー、キュルケ、シエスタ、ギーシュ、
モンモランシー、ケティ、それにマリコルヌ。
いつもの面子が顔を揃え二人を見守っていた。
「そして詠唱。」
「よ、よしっ!」
ルイズがきりりと眉を上げ、杖を振るう。
「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」

ふわり、とルイズの体が宙に浮かぶ。
「や! や? やたっ!」
慣れない浮遊感に思わず内股になりつつも、ルイズは
離れていく地面を見つめ両手をぴんと横に突っ張ったまま快哉を叫ぶ。
「どう? どう?! どうよ! 浮いたわ私! すごいわ私!!」
「わ! わ! 浮いてますわお姉さま!」
「ちょ! 待って、浮いてるってルイズ!」
「きゃあ!? う、浮いちゃってますルイズさん!」
周りから上がる悲鳴とも歓声ともつかぬ声にも目を向ける余裕は無い。
「だから浮いてるって言ってるでしょ!
 フライ(飛行)の魔法は成功よ!」
「そうじゃなくて、こっち!」
慌てふためくキュルケの声にルイズが顔を上げると、
そこには宙に体を浮かせばたつく皆の姿があった。

「何で私たちまで浮かせてんのよ!!」
「おお」 「おお、じゃないっ!」

  。。
 ゚○゚


「次は僕が教師役だね」
丸テーブルの上の小石を前に、ルイズはギーシュへ胸を張る。
「任せて、錬金の魔法は得意よ!」
「ルイズちゃん、教室を等価交換して瓦礫の山に換えるのは
 錬金って言わないからね? 念のため」
「判ってるわよ!」
茶々を入れるキュルケを睨み付ける。

「じゃあ、僭越ながらまずはお手本という事で」
ギーシュが詠唱とともに杖を振るうと小石が緑色に輝き出す。
「おお~!」 「お粗末」
一礼するギーシュが錬金で作り出したのは、
多少の曇りはあれど紛れも無いエメラルドだった。

「じゃ、じゃあ次は私ね!」
「何でも良いんだルイズ、このエメラルドを見て
 頭の中に浮かんだものを、心に強く思い描いて」
「よ、よーしっ!」
目をつぶり、精神を集中する。
「イル・アース・デルっ!」

げこげこ。
さっきまでエメラルドだったそれが足を生やして跳び跳ねる。
「っきゃあー!」
「せ、生命を練成した?! 等価交換の法則はあ?!」
「だって何だかカエルっぽかったから! カエルっぽかったから!」
ルイズの言い訳も空しく、緑のカエルはテーブルの周りを跳び回る。
「ま、まさに黄金体験ですわお姉さま!」
「マリコルヌ、シャベルよ! シャベルでアタックよ!」
「やだよモンモランシー! それ涙目のルカじゃないか!」

  。。
 ゚○゚


「、、今度は真面目にやってよね、ルイズ」
ルイズがモンモランシーに向かって頬を膨らませる。
「失礼ね! 私はいつだって100パー真面目だっつうの!」

「はあ、、、まあいいわ」
モンモランシーはため息を一つつくと、
シエスタから受け取ったグラスをテーブルの上に置いた。
「この魔法は水系統の初歩の初歩。 コンデンセイション(凝縮)よ」
詠唱とともにモンモランシーがグラスに杖をかざす。
グラスの内側に水滴が浮かび、流れ溜まってグラスを満たしていく。
「ま、ざっとこんなものよ」
「うーん、地味ね」
「あ、あんたねえ、、、」
眉をヒクつかせるモンモランシーにルイズが見得を切る。
「こんな地味魔法、楽勝よ!」

「、、、で、まだ?」
「も、もうちょっと待ちなさいよ!」
あきれ声を上げるモンモランシーにルイズは振り向きもしない。
詠唱を終えグラスに向けた杖に力を込めるが、何の変化も現れない。
「ぬ、ぬうう、、」
ごぽり。 グラスに溜まった水の中に気泡が上がる。
「な、何これ? 水の中に何か、、」
「水の中に不純物、ルイズの念は具現化系。」
「水見式か! 、、、ってタバサ、これ?!」

げこげこ。
グラスを挟んでモンモランシーとルイズがにらみ合う。
「何であんたはカエルにこだわる!」
「わ、私だって知らないわよ!」

  。。
 ゚○゚


「はーい、みなさん。
 このあたりで一休みしましょう」
パラソルの付いたテーブルに退避した皆に
シエスタが色とりどりのシャーベットを配る。
氷の魔法で作るのを手伝ったタバサの前には
どんぶりサイズの特大シャーベットが置かれた。
その隣にはシルフィード用の飼い葉桶いっぱいのシャーベット。

「んはあ~」
いち早くクックベリーのシャーベットをゲットしたルイズは
さっそく一口ほお張ると至福の表情を浮かべる。
「すごいやルイズ、本物の魔法使いみたいだったよ!」
「はっはっは、もっと褒めていいわよシュレディンガー。
 あと本物みたい、じゃなくて本物だから。
 すでに。 まさに。 ガチに。」
鼻高々に背もたれにふんぞり返る自分の主人を
シュレディンガーがニコニコしながらうちわで扇ぐ。

「な~に威張りくさってんのよ。
 私の目には失敗のバリエーションが増えただけにしか
 写らないんだけど?」
「ふっふっふ、言ってなさい」
隣のテーブルからのキュルケの声も今日は軽く受け流す。
「他の魔法はいいけどさ、私の時はちゃんと成功させてよ?
 炎の魔法でさっきみたいな失敗なんて想像したくも無いわ。
 地獄絵図よ、ヘルピクチャーよ」
「安心なさいなキュルケ。
 どんな事があろうとあんたにだけは魔法習わないから。
 今日のあんたは天才の開花を見守る単なるギャラリーよ!」
「な、何よソレ」

休憩を終え、日差しの強くなった中庭で。
ルイズがタバサの指導の下、サイレントの魔法で
なぜか巨大竜巻を発生させ学院長の像をなぎ倒しているのを
遠めに見ながら、パラソルの下でキュルケはつぶやく。

「、、、ま。
 今までの爆発オチから比べれば、格段の進歩ではあるケドね」
それはキュルケも認めざるを得ないようだ。
「しっかしあの娘が本当に虚無の系統だったとはね~」
日差しにダレるフレイムの口もとへシャーベットを一さじ運ぶ。
仰向けに寝転んだヴェルダンデのお腹を撫でながらギーシュが答える。
「何だい、君は信じていなかったのかい?
 『虚無のルイズ』なんて二つ名を名付けたのは君だろうに」
「あれはほんの冗談で、、って、ギーシュ。
 あなた最初から虚無だって思ってたの?」
「勿論」
事もなげにギーシュが返事をする。

「ギーシュ! 錬金!錬金!
 ルイズが学院長の像を錬金で直そうとしてるから!
 その前に早く!」
「おお、それは大変」
モンモランシーの叫びにギーシュは腰を上げる。

モンモランシーにどういう意味かと詰め寄るルイズを皆がなだめ、
ギーシュが悪趣味にもバラの花束を背後に背負わせた学院長の像を
錬金で作り直すのを眺めながら、キュルケはあくびを一つする。

「ふわ。 、、、平和だわね」
その横でフレイムも貰いあくびを一つした。

  。。
 ゚○゚


同日、同時刻。
浮遊大陸アルビオンの東端、ニューカッスル。
戦火の傷を晒したままのその古城の地下、隠された空中港の桟橋で
二人の男たちが今まさに邂逅を果たしていた。

「やっと会えたな、子爵」
アルビオン王国皇太子、『プリンス・オブ・ウェールズ』
ウェールズ・テューダー。

「光栄の至り、殿下」
トリステイン王国グリフォン隊隊長にしてゼロ機関機関長。
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。

居並ぶ歴戦の兵たちが見守る中、
彼らは固い握手を交わした。


「して殿下、状況は?」
石造りの長い階段を上りながら、ワルドが尋ねる。
「明後日には停戦会議を控えているしな、
 あちらも下手に動く事はできんのだろう。
 しかし子爵、私は今でも悩んでいるのだ。
 他に選択肢は無かったのか、とな」
「心中、お察し致します。
 しかし殿下とて、奴らが素直に会議の席に着くとは
 お思いではないのでしょう?」
「確かに、な」
「それに今や我がトリステインはアルビオンと一蓮托生。
 アルビオンの危機は即ちトリステインの危機でもあるのです。
 殿下がお気に病む事は御座いません」
「そう言ってくれると、幾らか気は休まるがな」
急な階段は螺旋を描き、上へ上へと続いていく。 

「明日」
ワルドが声のトーンを落とす。
前後について階段を上る衛兵たちはこの会話が極秘のものである事を
悟り、歩調をずらし距離を取る。

「レコン・キスタの中でもトリステインに私怨を持つ者達が
 『今回の停戦合意に反対』し、ロサイスにて軍艦を強奪
 トリスタニアを目指しダングルテールへ降下します」
「、、、」
その扇動役を誰が担うのか、聞かずともウェールズは承知している。
「しかし、『偶然』ダングルテール付近で演習中であった
 トリステイン軍二個師団と遭遇、交戦状態となります。
 軍艦と言えど相手は二個師団、判刻と持たずカタは付きましょう」
「トリステインの民に、被害が及ぶ心配は?」
ウェールズが尋ねる。
「その心配は御座いません、殿下。
 ダングルテールは20年以上も前に見捨てられた土地です」
ワルドはその経緯について語ろうとはしない。

「国土への侵攻を理由にトリステインは即日レコン・キスタへ
 宣戦布告、殿下には停戦会議を破棄して頂きます。
 トリステインとアルビオンは連合を組み、既にラ・ロシェールに
 停泊させてある艦全てが即時アルビオンへと上陸いたします」
潜められたワルドの声を消すように、足音が螺旋の空間に響く。
「さらにアルビオン南部で活動している『アルビオン解放戦線』と
 カトリック教徒達には、混乱に乗じてそのまま
 ロサイスを攻め落としてもらいます」
「そうなれば残るはサウスゴータとロンディニウムのみ、か」
「左様で」

清廉潔白を絵に描いたようなアルビオン皇太子の顔が
何ともいえぬ影を帯びる。
「すまぬな、子爵。
 そのような汚れ役を貴殿にばかり押し付ける」
「勿体無いお言葉。 それより殿下、この事は」
先を行くウェールズの背をワルドの視線が射抜く。

「無論だ。
 全てはアルビオンの民の為。
 今の話は私一人、墓の下まで持っていこう」
ウェールズは自嘲気味に微笑んだ。

階段の先から日の光が差し込んでくる。
階段を上り終えるとウェールズは廊下を外れ、テラスへと出た。
涼やかな風がウェールズの髪をかき上げる。

手すりに手を突き、遠くを見つめたままウェールズが言う。
「子爵。
 この戦が終わり、アルビオンに再び平和が戻ったその時には、、、
 貴殿と、もう一度会ってみたい。
 今度は酒でも飲みながらな。

 だから、、、死ぬなよ。
 生きて戻ってくれ、ワルド」

ワルドは顔を伏せたまま、かすかに肩を震わせた。
「は、、、
 はっ! 必ず」

  。。
 ゚○゚


「ルイズー、ぼちぼち時間なんじゃないのー?」
日も傾きかけた魔法学院の中庭で、キュルケがパラソルの下から
だれた声をかけて寄こす。

「え、何? ちょっと待ってて!」
ルイズの作り出した青白い雲を吸い込んだシルフィードの目がとろけ、
見上げるルイズの前でこっくりこっくりと船を漕ぎ出す。
「おお、やたっ! スリープ・クラウド成功でぎゃふんっっ!!」
勢いを付けて大きく船を漕いだシルフィードの頭が脳天へ直撃し、
ルイズは頭を押さえしゃがみ込む。

「、、、なにやってんのよあの娘は」
キュルケが頭に手を当て、あきれた声を出す。
「『学院長のお使い』~!!
 ワルド様と一緒に~、用事あったんでしょ~!!」
「え、うそ?! やだ、もうこんな時間!」
ルイズが頭をさすりながら立ち上がる。
「え、なになに? またワルド様とのデートなの?」
モンモランシーが興味津々に近寄ってくる。
「でもこの前はデート終わってもなんか重ーい雰囲気だったけど、
 ケンカでもしたの? それでもう仲直り?」
「だ、駄目だよモンモランシー! そんなにズバズバ聞いちゃ」
あまりにもあけすけな質問にギーシュがうろたえつつ間に入る。
だがルイズはギーシュの心配をよそに平然と答える。
「何よ、私はワルド様とケンカなんてしてないわよ。
 でもまあ、仲直りって言えば仲直り、ね」
「? 誰とよ」
ルイズは少し考えてから、はにかむ様に笑った。

「『私の運命』と、よ」

その顔をみてシュレディンガーも満足げに微笑む。
「ふ~ん、、、魔法使をえるようになって、
 ちょっとは自信が付いたみたいじゃない。
 じゃあさ、、、」
ニヤケ顔でキュルケが近づいてくる。
「ワルド様のプロポーズに返事する決心も、付いた?」

「へ?」「うそ?」「それはそれは」「拍手。」
「わあ! おめでとう御座います、ルイズさん!」
みなの驚きと祝福の声の中、ルイズはキッとキュルケを睨むが
キュルケはどこ拭く風とニヤけたままだ。
首を振りシュレディンガーに視線を向ける。
シュレディンガーは目を逸らし、口笛を吹き始めた。

がっき。
ルイズのアイアンクローが猫耳頭の後頭部に食い込む。
「みんなには内緒っつったでしょ!
 こんの 猫 畜 生 ~!!」 みしみし。
「いだだだだ! ギブ! ギブ!!」

「な~にいってんのよルイズ。
 これから婚約しようってのに秘密にしてど~うすんのよ。
 それとも、結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?」
「そ、、それは、、、」

「それで、なんてお返事するんですか? ルイズお姉さま」
ケティが目を輝かせて聞いてくる。
「魔法もまだ使いこなせない半人前ですしー、なーんて
 言わないでしょうね、これだけ皆に付き合わせておいて」
モンモランシーがにやりと笑う。
「ああもう、いまさら言わないわよそんなこと」
ため息混じりに返す。
ルイズは皆を見回し、改まった顔で口を開く。
「あ、あのね、あのさ、、、モンモランシー。
 それに、みんなも。
 夏休みなのにわざわざ学院に残ってまで
 私の特訓に付き合ってくれて、その、、アリガトね」

ルイズに似つかわしくないその素直な感謝の言葉に
思わずモンモランシーが赤面する。
「あ、あんたの為なんかじゃないんだからね!」
「で、出たあー! 掟破りの逆ツンデレ!」
「さすがですわモンモランシーお姉さま!」
「ま、ルイズの為じゃないってのは本当なんだけどね」
「はあ? それどういう意味よ、キュルケ」
水をさすキュルケにルイズが食って掛かる。

「いやだってホラ、明後日に日食あるじゃない、日食。
 で、タルブが一番綺麗に見れるらしいのよ。
 それでシエスタの故郷がタルブだって言うからさ、
 それじゃ見に行こうって事でみんなで学院に残ってたのよ。
 特訓もその暇つぶしだからさ、柄にも無く恩に着ることないわよ」
しれっとした顔でキュルケが説明する。
「っていうかルイズ、あんたも誘おうかとも思ってたけどさ~、
 アンタはホラ、どうせワルド様とアルビオンで見るのかなって」
「あー、ヘンに誘って逃げ道作っちゃ悪いわよねえ」
「逃げないわよ!」
ルイズはシュレディンガーの頭を引き寄せると、
笑顔で見送る仲間達に堅い笑顔で答えた。

「じゃ、じゃあね、みんな。 行ってくるから!」

============================== ぼすんっ。

ルイズが目の前に突然現れた何かにぶつかり、尻餅をつく。
「きゃっ?!
 ちょっと、気を付けなさいよ!」
眉をしかめ、シュレディンガーに怒りの声を上げた
ルイズの目に、つば広の黒い羽帽子が飛び込んでくる。
その下には口髭も凛々しい精悍な、しかし優しい顔があった。
「おや、大丈夫だったかい?」
そう言いながらワルドはルイズに手を差し伸べた。

ワルドの顔を見て、ルイズの頭は真っ白に飛んだ。
そう言えばあんな気まずい別れ方をして、その後会ってもいない。
きちんと覚悟を決めた筈なのに、頭に何も浮かんでこない。
あ! 皆と特訓の後、お風呂にも入っていないじゃない!
大体なにをしにここに来たんだっけ?
それと言うのもシュレディンガーがキュルケなんかに話すから!
きちんと返事をしてから皆に言うつもりだったのに。
不意にキュルケの言葉が頭の中にリフレインする。
(結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?)

結婚。
「結婚、して下さい、、」
ワルドの手を握り返す。

「ええ、喜んで」
ワルドは優しく手を引き、ルイズを胸に抱きとめた。

ニューカッスルの風吹き抜ける中庭で、
夕日に伸びた二つの影は一つに重なった。
  。。
 ゚○゚
「、、、って、違くて!」
「ええ? ち、違うの?!」
急に赤面するルイズに、ワルドが慌てふためく。
「いえ、違うくは無いんですけど、ももも、もっとこう!
 いろいろ用意してた言葉があったのに!」
「え~? もういーじゃーん」
「だああ! アンタは黙っときなさいよシュレ!」
ワルドの手を離れ、シュレディンガーの頭をはたく。

「それはそうだ。
 それに、レディの口から言わせるべき言葉ではないな、子爵」
「わわっ、ででで殿下! いらしたんですか?!」
一部始終を見られた恥かしさから、ルイズの頭に血が上っていく。
そんなルイズにウェールズは優しく笑いかける。
「あいも変わらず元気そうで何より、大使殿」

「いや、まあ、はは、それもそうですね、殿下」
ワルドが襟元を正し、ルイズに向き直る。
「すまない、ルイズ。 僕から言うべきだった」
「で、でもあのワルド様!」
「『様』は、いらないよ、ルイズ」
「でもあのその、わ、ワルド、、私まだ魔法も全然だし」
「それでいいんだ」
「背も、、それに、その、む、胸も、まだこんなだし」
「それがいいんだ」
「? そ、それに、、、!」
「、、、ルイズ。 僕と結婚しよう」

ワルドの目を見つめ、ルイズは涙を浮かべ微笑んだ。
「、、はい、ワルド」


「よかったよかった。
 そうと決まれば式の支度に取り掛かるか」
ウェールズの言葉にルイズは小首をかしげる。
「式、ですか?」

「そう、僕ら二人のね」
ワルドの言葉にルイズはようやく事態を理解する。
「式って、けけ、結婚式ですか?!
 そそ、そんな! まだ早、、!」
言いかけて、ルイズは湖でのワルドの言葉を思い出す。
「も、もしかして、貴族派がトリステインを狙ってるっていう、
 あの時ワルドが言ってた事が現実に?!」
ルイズの言葉にワルドは小さく頷く。
「ルイズ、僕は今晩にはロサイスへ立たねばならない。
 しかし、僕は必ず君の元へと戻ってくる。
 だから、その約束を僕にさせておくれ。
 始祖ブリミルの前で、永遠に消えぬ約束を」
「、、、」
真実を知るウェールズは黙して語らない。

「、、、分りました。
 ワルド、、、絶対、無事に帰ってきてね」
「君のお望みとあらば」
「よかったな子爵。 では、礼拝堂で待っているよ」
「あ! わ、私もせめておフロに!」
歩み去るウェールズにルイズも付いて駆けてゆく。

ルイズに付いて行こうとするシュレディンガーを
ワルドが引き止めた。
「おっとネコ君、式の前に男同士の話があるんだが、、、
 付き合ってもらえないかな?」

  。。
 ゚○゚


日の暮れたニューカッスルの礼拝堂。
始祖ブリミルの像が見下ろす祭壇の前に、三人の姿があった。
ワルドの任務の機密性をおもんばかり、ウェールズは
他の人間に式の事も知らせてはいない。

ウェールズから借り受けた新婦の証である純白のマントを
身にまとったルイズは、落着かなげに辺りを見回した。
「もう、またどっかで迷ってんのかしら、シュレの奴」
「ネコ君ならここには来ないよ」
心配げなルイズにワルドが優しく語りかける。
「神聖な儀式という事で、どうも遠慮したらしい。
 控えの間で式が終わるまで待っているそうだ」
「ええ? あーもうあの猫耳頭!
 どーうせまた面倒そ~、とか退屈そ~、とか思って逃げたんだわ!
 ご主人様の一生に一度の晴れ舞台だってのに!
 式が終わったらお仕置きだわ!!」
「まあまあルイズ、彼は彼なりに気を利かせてくれているんだよ」
「もう、ワルドったらシュレの性格知らないからそんな事言えるのよ」
「んんっ、そろそろ宜しいかな、ご両人」
婚姻の媒酌を務めるウェールズの声に、慌てて二人が向き直る。
ブリミル像の元、皇太子の礼服である明紫のマントに身を包んだ
ウェ-ルズが、祭壇の前で高らかに告げた。
「では、式を始める」

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、
 そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「、、、誓います」
ウェールズは静かに笑って頷いた。
「宜しい」

「では、次に」
ウェールズの視線はルイズへと移る。

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、、」
朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。
今が結婚式の最中だというのに、ルイズは思い返していた。
相手は憧れていた頼もしいワルド、二人の父が交わした結婚の約束。
幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。
それが今、現実のものになろうとしている。

級友と自国の姫君が睦み合うとんでもない状況で再会を果たしたあの日。
シュレディンガーと異世界を巡っていても一人待ち続けてくれたあの時。
鼻の下を伸ばした男共をよそに酒場で一人賢者の如く佇んでいたあの顔。
ロクな思い出が無いような気もするが、それもまた良し。

「新婦?」
ウェールズの声に、ルイズは慌てて顔を上げた。
「緊張しているのかね? 仕方が無い。
 初めてのときは事が何であれ緊張するものだからね」
にっこりと笑ってウェールズは続けた。
「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。
 では繰り返そう。
 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、
 そして、夫とすることを、、誓いますか」
ルイズは溜まった思いを吐き出し、杖を握った手を胸の前に置いた。
「はい、、、はい、誓います!」

「宜しい。 では誓いの口づけを」
アルビオン皇太子と、始祖ブリミルとが見守る中、
二人の唇は今、静かに重なった。


くたり、とルイズがワルドの腕に倒れこむ。
「新婦?
 どうしたね? やはり緊張で?」
「いや失礼、ここからは大人の時間なのでね。
 彼女には刺激が強すぎると思い、眠ってもらった」
胸の中にルイズを抱いて、ワルドが悠然と言い放つ。

「子爵?
 いったい何、を、、、?!」
ウェールズが自らの胸に突き立った魔法の光を見つめる。
「あなたが悪いのですよ、殿下」
ワルドはどこまでも優しい笑みを浮かべる。
しかしその笑みは今や、嘘に塗り固められていた。
「貴方があの時死んでさえいれば、
 それで戦争は終わっていた」
ウェールズの胸に突き立った杖をこねる。
「お゛、、、ごおっ、、」
「その戦乱の元凶である貴方が言うに事欠いて、
 『アルビオンに再び平和が戻ったその時には』などとはね!
 ははっ、とんだお笑い種だ」
ワルドが杖を引き抜くと、ウェールズの口から鮮血が溢れた。
胸に空いた穴から飛沫が散り、服を真紅に染めていく。

「きさ、、! レコン、キス、、、」
仰向けに倒れたウェールズが悪魔のごとく笑う影を見上げる。
「ああ、あの哀れな貴族派の連中ですか?
 私は彼らのような夢想家ではありませんよ」
ワルドはルイズをゆっくりと祭壇の上に寝かせる。

「せっかく終幕も近いのにこのまま何も知らずに
 舞台を降りるのも可哀想だ、せめてこの先の筋書きを
 教えて差し上げましょう」

ワルドが芝居がかった口調で手をかざす。
「ロサイスの戦艦がダングルテールへ向かうと言ったがありゃ嘘だ。
 艦隊は手薄なタルブを突いてラ・ロシェールを急襲。
 そのまま演習中の二個師団が不在の王都へ西から攻め上る。
 ロサイスを攻めるカトリック教徒達は、まあ返り討ちでしょうな。
 そして、王都トリスタニアの東からはガリアが攻め入る手筈です」
「ガ、リア! 、、、だと、、そうか、き、貴様、、!」
「二国からの挟撃を受ければたとえ王都といえど一晩と持ちますまい。
 死出の旅路を寂しがる事はございませんよ、殿下。
 貴方が慕うあの姫君も、遠からず貴方の後を追いましょう」
「が、、、ま、、、」
「お別れです、殿下。
 こう言っちゃなんですが、私は貴方が好きでしたよ」
ワルドは息絶えたウェ-ルズの手を取り、その指にはまった
始祖の秘宝、『風のルビー』を抜き取った。


「へ~、そ~いう事だったんだ~」
「!!」
場違いに陽気なその声にワルドは杖を構え振り向く。
そこには、いるはずも無い者の姿があった。
貫いたはずの胸には一滴の血の跡すら無く、
潰したはずの頭は悪戯っぽく笑みを浮かべる。

「どーして? って顔だね~。
 君には言ってなかったっけ? ワルド。
 僕はどこにでもいてどこにもいない。
 だから、君が僕を殺しても」

猫が牙をむく。
「僕は、ここに、いる」

ゆっくりと、虚無の使い魔がワルドに近づく。
「僕はね~、怒っているんだよ」

眉を上げてうっすらと笑みを浮かべる猫は言う。
「別に君が僕の頭を吹っ飛ばそうが、
 そこの可哀想な王子様の心臓を貫こうが、
 僕にとってはそんな事はどーだっていーんだ」
シュレディンガーの中に、何かが渦巻き満ちていく。
今までに感じた事もない、名状しがたい感情が。
チリチリとしたものが、その胸の内を焦がしていく。
「だけど君はね」
ぎちり、と猫が牙を鳴らす。


「僕の ご主人様(ルイズ)を 裏切った」


ワルドは窓を開け放ち、二つの指輪を外に放る。
始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。
それを空中で咥えたグリフォンが空へ舞い上がり、
西のかなたへ飛び去っていく。
「、、、ほう、そうかね」

返事をしつつワルドは頭の中で考える。
まずは指輪さえ届ければ、自分達は後回しでも構うまい。
幸いこの城は浮遊大陸アルビオンの突端、
フライを使い地上へ降りれば後はどうとでもなる。
それよりも。 問題は目の前のこれだ。
幻術? 幻覚? さっき殺ったのはスキルニルか何かか?
超再生? 回復術? それとも、不死?
馬鹿馬鹿しい。
不死身などこの世に存在しない!!
何より確実な事は、やはりこの使い魔は危険だという事だ。
ルイズの心は手に入れた。
しかし、この目の前のこれは、人に懐かぬ『死神』だ。
ここで始末をつけねば禍根を残す。
ワルドは杖を握りなおした。
「では、、、どうするかね?」
祭壇で横たわるルイズからゆっくりと距離を取り、
礼拝堂の中央で二人は対峙する。

「どーするかって?」
シュレディンガーが腰の後ろに手を回す。
「こーする」

ズルリ、と黒い塊が手の中に現れる。
「それは、、、!」
ワルドには禍々しい輝きを放つその鉄塊に見覚えがあった。
スパイとしての信頼を得る為、自分がレコン・キスタから盗み出し
トリステインへと持ち運んだものだ。
全長39cm、重量16kg、装弾数6発、専用弾13mm炸裂鉄鋼弾。

対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』

それが今、シュレディンガーの手にある。
ワルドは声を殺し低く笑う。
どんな能力を持っているか知らないが、戦闘に関しては
ズブの素人であるらしい。
いくら威力があろうと、あんなものが当たるものか。
両手で銃を構えてもその足元はふらつき、
銃口を自分に向けるどころか水平に構えることさえ出来ない。
「はははっ、それでどこを狙うというんだい?
 そんなにフラフラしていては一生この私には当たらんよ!」

「へーそう?」
シュレディンガーはワルドの足元に銃口を向け、引き金を引いた。

礼拝堂を轟音が揺さぶった。
シュレディンガーは吹き飛び、壁に叩き付けられる。
そしてワルドは、天井に飾られたフレスコ画を眺めていた。
何が起こったのか、理解が追いつかない。
左手をまさぐったが、持っていたはずの杖が無い。
首を起こし目をやると、杖ごと手の平がどこかへ千切れ飛んでいた。
体を起こそうとすると、腹の中でゴリゴリと何かがこすれる音がする。
親指だけが残ったその左手の先には、大きくえぐれた床が見えた。
あの拳銃の放った弾丸は、莫大な運動エネルギーで礼拝堂の床石を
大きく穿ち、その破片をワルドの全身に撒き散らしていた。

ごぽり。
何かを言おうとしたワルドの口から、血の塊がこぼれ出る。
肋骨をぬい、肺の中にも石片が入り込んでいるのが感じ取れた。
もう下半身の感覚は無くなっている。
ゆっくりと意識の途絶えていくその頭を、誰かが持ち上げた。

「ワルド?! ワルド!!」
聞き覚えのあるその可愛らしい声が、悲痛な叫びを上げている。
「はは、ルイ、ズ、か、、」
ワルドは左手の残りでその髪を優しく撫でる。
「何が?! 何で?!
 しっかりワルド!!
 い、いま、てあ、手当てを、、!!」
自分の顔に降り注ぐ涙の暖かさだけが、
今のワルドに感じ取れるすべてだった。
「いいんだ、、ルイズ、、、
 僕は、、もう、、、」

「駄目! 駄目!! ワルド!!」
「はは、、、そう、さ、、これが、末路だ、、、
 裏切り者に、ふさわ、しい、、末路、だ、、」
「裏切り?! 何を言っているの?
 喋っちゃ駄目、ワルド!!」
ルイズは自分のマントを剥ぎ取りワルドの腹に押し当てるが、
流れ出る血はその純白のマントをどろどろと赤く染めていく。

「で、も、、信じて、くれ、ルイズ、、、」
最早その目は空ろに開かれ何も映ってはいない。
「嘘だらけ、だった、、、僕の、人生の、中で、、、
 君への、、想いだけ、は、、たった一つ、の、、、」
「、、、ワルド?」
それきりその口からは言葉も、呼吸も、こぼれ出ることは無かった。


「ん~、痛てて、、」
後ろから響いた声に、のろのろとルイズは振り返る。
そこには自分の使い魔が居た。

「あ! ルイズ、起きたんだ! 大丈夫?」
肋骨は折れ右手の指の殆どは捻じ曲がっていたが、
いつものように「無かった事」にする気はなぜか起きない。
手に持った巨大な銃の重みが今は誇らしかった。

ルイズの目にその銃が映る。
大きく穿たれた床の石畳と、自分の伴侶に突き立った無数の石片と。
あの日の光景が蘇る。
はじめてその銃を見た日。
トリステイン魔法学院の仲間達と。
そして、大きく穿たれた学院の壁と。


「、、、あなたが、撃ったの?」
まるで感情のこもっていない、低く澄んだ声。

「うん、そう! 僕がワルドをやっつけたんだ!」
胸を張りシュレディンガーが答える。

「シュレディンガー、、」
「どうしたの? ルイズ」
不安げに近づくシュレディンガーの足をルイズの声が止める。
「、、消えて」
その声には、いつもの傲慢さも強さもヒステリックさも無く、
水晶のように純粋な拒絶のみがあった。
「、、、ル、、?」

困惑し立ち尽くすシュレディンガーに、
ルイズは目を伏せたまま、ただ、告げた。


「消えて、シュレディンガー。
 私の、目の、前から」


「、、、」
シュレディンガーは何かを言おうとして口を閉ざし、
それきり、ルイズの目の前から消えた。

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 確率世界のヴァリエール - a Cat, in a Box - 第十三話




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