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ゼロの戦闘妖精-08

Misson 08「伝説のフェニックス」(前編)

使い魔召喚の儀から一ヶ月強 爽やかな初夏の日差しの下、トリステイン魔法学院高等部二年生達は 自分の使い魔の調教に忙しかった。
間近に控えた『使い魔品評会』のためだ
これは、学院の年中行事の一つで、要するに『使い魔のお披露目』である。
ただ 学内だけでこじんまりとやるならともかく、生徒達の父兄(当然 貴族!)がこぞって参列する上、王宮からも来賓が訪れる事も多い。
特に今年は、『トリステイン王家 アンリエッタ妃殿下』が御見えになるとの知らせがあった。
そんな場でみっともない姿を晒すのは 末代までの恥!とばかりに皆 気合が入っている。
各自、小型の使い魔は 主に素早さ・賢さ・器用さ等を、大型種は強さを強調するような『芸』を考え それを完璧に演ずる特訓を続けていた。
ちなみに、この時期の二年生は 授業中の居眠りが通常の3~5倍に増加する。
お披露目が『芸』である以上、その内容については当日まで秘密にしておきたいもの。しかし 芸の完成度を上げるには 練習は欠かせない。
必然的に 『深夜の秘密特訓』をすることとなり、授業を睡眠時間に当てる不心得な生徒が続出するが、一部の教師を除き「まぁ 仕方ない」と黙認されている。
そんな 特訓組の一人がキュルケだった。

「タバサ、ルイズ、感謝するわ。アナタ達のアイディアのおかげよ!
 フレイムの火力 何倍にもなってる。
 試しにギーシュのワルキューレを標的にしたんだけど、なんと一発でボーンだもの。驚いちゃった。
 (ギーシュは泣いてたけど。)
 なんとか連射も出来るようなったし、あとは命中率ね。」
サラマンダーは 火竜と同様に『炎のブレス』を吐くが、その威力は数段劣る。
そこで ルイズ達は、
  • フレイムが 胸の中に炎を溜める。
  • キュルケが その炎にファイアーボールの魔法をかけ 高圧縮した火球を作る。
  • 火球を発射。火柱の様な通常のブレスよりも 効率的に対象を破壊。
という改良を加えた。
あとは、それを如何にしてアピールするかだった。

一方タバサは・・・
本人が こういった学校行事に熱心でなく、ガリアからの留学生の為 トリステイン王宮から誰が来ようと気にも止めないので、
「練習・・・必要ない。」
とのこと。
出し物は、普段からイロイロと試している『高速飛行術』だけでも充分だろう。
ちなみに、ルイズはタバサに、『烈風式 超音速飛行術』について話してみたが、
「・・・無理。」
の一言で却下された。

「ルイズ、そう言えばアンタは何をするのよ?」
訓練を一休みしたキュルケが聞いた。
「私? 出ないわよ、品評会。」
「えぇ~っっっつ!!!」
いつも、『貴族の誇り』等を熱く語り なによりお祭り好きなルイズが、品評会に出ないなど考えられない。
「ナニよそれ。ひょっとして、天変地異の前触れ?!」
「違うわよ。
 そりゃ 私だって雪風を自慢したいのは山々なんだけど、隊長から 釘を刺されちゃったのよ。
 『目立つような事はするな!』って。」
「なーるほど。一応アンタは『グリフォン隊の秘密兵器』だったわね。
 いまさらって気もするけど。
 まぁ、諦めなさい。軍隊に所属するって事は そういうのもアリなんだから。」
なぜか タバサもうなずいている。
「でも、さすがに『何もしない』ってのは寂しいから、コンペティションじゃなく開会式のアトラクションだけ 許可はもらったけどね。」
「やっぱり出るんじゃないの! で、何するのよ?」
「じゃあ ちょっとやって見るわね。」
そう言いながらルイズは 水の入った小さな容器をいくつも 地面に並べていった。
そして水の表面に『失敗魔法』をかけて、次々と微小な爆発を起こす。
立ち昇る水煙。強弱をつけ ランダムな容器から きわめて短い間隔で。
少し前 雪風を召喚するまでの『ノーコン剛速球』がウソのような、高度な制御能力だ。
「なんとなくスゴいのは判るけど、地味ねぇ。これを どう見せようって言うの?」
「…予測不能。」
「それはヒ・ミ・ツ。まぁ見てのお楽しみね。」

品評会当日、見事なまでに晴れ渡った空の下、校内に幾つかあるグラウンドの内 最大の校庭に特設された観客席は 二年生の父兄その他関係者で埋まっていた。
あとは 本日の主賓 を待つばかりだった。
そして 会場に至る道 その遠方から歓声が響いた。
先導と護衛の黒馬車に続いて現れる 豪奢な白馬車。扉に描かれた、トリステイン王家の紋章。
皇女 アンリエッタ姫殿下の御到着である。

学院までの道すがらでも、沿道に集まった多くの市民から アンリエッタ姫を称える声がかけられていた。
トリステイン王家への国民の支持は 比較的安定して良好である。
他国に比べ 租税が抜きん出て高いわけでもなく、物価が高いわけでもない。
貴族の 平民に対する差別的扱いは、どの国でも同じ事。
六千年の刷り込みにより 平民自身が俺を当然と思っている以上、問題視する者は無い。
アンリエッタ姫は その可憐な容姿で、平民からの好感度は高い。
では、貴族からは?
上級貴族 それも宮廷に近い者の殆どは『飾り物』としか見ていない。
それも 『母娘揃って』だ。

先王が亡くなられて早十年弱 以来 皇后が国家の頂となったが、女王として自ら即位する事も無く 皇女に婿をとって即位させる事も無かった。
それは 亡き夫への喪に服すという事なのだろうが、国の要たる『国王』を長期に渡り空位にするのは 本来やってはならぬことだ。
国家の箍が緩み、根本が歪む。進路に惑い 内部は腐る。外部からの悪意に食い荒らされ 弱体化の一途を辿る。
その表れが 先の見方だ。ある大臣など非公式な場では、「神輿は軽くて バカが良い」と言って憚らない。
それでもなお トリステインが、かろうじて国家の体制を保っているのは・・・

「殿下、そろそろ会場入り致します。
 生徒や観客の為 窓より御手を振って頂けますかな。勿論、その様な仏頂面では無しに。」
王族専用の馬車に同乗し 静かな口調ながら失礼な事を平然と言ってのける、ブリミル教の法服を纏う人物。
『鳥の骨』とも揶揄される 痩せぎすの男。老けて見えるが まだ四十代後半。マザリーニ枢機卿。
彼こそが 現在 この国を取り仕切る、最高権力者と言ってよいだろう。だが、自身 それを望んだ事は一度も無かった。
「貴方などと こんな狭い所で顔を付き合わせていれば 誰だって機嫌が悪くなります!
 あぁ 今日はこんなに天気が良く 風もこんなに穏やかなのに、何故無蓋の馬車を用意しなかったのです。
 せめて 爽やかな風を感じられたら、少しは気分も晴れましょうものを。」
アンリエッタは、彼が自分の家庭教師だった頃からずっと マザリーニが嫌いであり苦手だった。
「それは許可出来ません。
 アルビオンの内乱の影響で 我が国の治安も、幾分か悪化しております。
 殿下の御輿入れの件と合わせまして、御身を傷付けんとする不埒者は 何処に潜んでおりますやら判りません。
 その為に 今 魔法衛士隊3隊が、総出で警戒に当たっております。
 どうか 御自重願います。」
如何に嫌っていても、マザリーニの言葉は 常に正論であった。アンリエッタの覚えている限りにおいて、彼を言い負かせた例は無かった。

馬車の窓を開けると 既にトリステイン魔法学院の敷地内だった。
会場に向かう道には 品評会に出ない一年生と三年生の生徒達が ずらりと並んで姫様の車両を出迎えていた。
アンリエッタは 自分と同じ年頃の 彼等に向けて手を振りながら思う。
(もし こうして皆と学校へ通えたならば、私にも沢山の『おともだち』が出来たのかしら・・・)
この魔法学院は、貴族の子女が魔法を学ぶ為の施設だが、流石に王子や皇女が入学する事は 想定されていない。
王族の子女は、専門分野毎に 一流の専属家庭教師が付くのが普通である。
当然のように教師達は 壮年又は老人であった。
また 御付のメイドすら、選抜されたベテランが配属される。
ごく稀に 臣下の者の子供が宮中に上がることもあったが、身分の壁は如何ともしがたく 畏まった対応しかされなかった。
どれほど多くのの人間が居ようとも、アンリエッタに『おともだち』は、誰も居なかった。たった一人を除いて。
今年の『使い魔品評会』への参列を 無理矢理スケジュールに組み込んだのは、その『おともだち』が召喚した使い魔の噂を耳にしたからだった。

父王がまだ健在だった頃、王は国家の運営で迷う事があると お忍びで ある大貴族の元を訪問していた。
その時 アンリエッタは、必ず連れて行ってもらうようにせがんだ。城の外へ出られるのが 嬉しかった。
大人達が何か難しい話をしている間、幼い姫は その貴族の三人娘に預けられていた。
怖いお姉さん、優しいお姉さん、そして 二つ年下の女の子。
王宮では無い『場所』、少女達だけの『時間』、暖かな家族の『雰囲気』が、アンリエッタを開放的にさせた。
この場 このひと時だけ、年齢相当の『女の子』でいる事が出来た。
そして 三姉妹の末っ子、二人の姉とは幾分歳の離れた少女は、アンリエッタが来訪するのを心待ちするようになった。
幼さゆえか、身分の壁など無いが如くに接してくれるこの娘が、アンリエッタにとっても かけがえの無い『おともだち』となっていった。
やがて 時は流れ、父が死に かの貴族邸へと出向く口実を失い、交流は途絶えた。だが 姫君は忘れなかった。忘れられる筈が無かった。
(あぁ ルイズ。貴女は今でも あの頃の事を覚えていてくれるのかしら?)

妃殿下が特別貴賓席に着かれたのを確認すると、学院長 オールド・オスマンが会場中央の舞台へ登場し、開会の辞を述べた。
エラい人の挨拶というのは、年齢に比例して長くなる傾向があるらしい。齢三百とも四百とも噂されるオスマン学院長も例外ではなく 観客達が飽き始めた頃、
「…この晴れ渡った空をご覧下さい。」
それは、予め決められていた合図だった。
使い魔達の控え所で合図を待っていたコルベールは、通話機のトークボタンを押した。
「スネークからゼロ、ミッションを開始せよ。」
「ゼロ、了解。ミッションを開始する。」
「健闘を祈る。オーヴァー。」
自らの手で完成させた『無線機』を実際に使える事が嬉しいのか、結構ノリノリである。
「さぁ 行くわよ、雪風!」
〈 R.D.Y 〉
上空待機中の雪風は、機体を急降下させた。

「…始祖ブリミルも 本日の式典を祝福して下さっているようではありませんか!」
オスマンの言葉に 空を見上げていた観客の何割かは、気付いた。
「まずは、皆様への歓迎の意を示すショーをもって 『使い魔品評会』を開始させていただきます。」
開会宣言終了とほぼ同時に 雪風が轟音と共に上空100メイルをフライパス。
観客席のあちらこちらで悲鳴が上がり、アンリエッタを護衛する衛士達が殺気立つ。
軽いパニック状態になりかけた会場を鎮めたのは、グリフォン隊のワルド隊長。
「観客の皆様及び各衛士にお知らせする。先ほどのアレも 今年の生徒が召喚した使い魔の一体。
 危険な物ではございません!」
その後 言葉を繋いだのは、なんとアンリエッタ姫だった。
「そうです。皆様、御安心ください。
 オスマン殿は仰いました。これは『ショー』だと。
 ならは、これで終わりという事では ございませんのでしょう?」
「ほっほっほっ。申し訳ない。
 少しばかり『さぷらいず』が過ぎましたかな。
 もちろん、お楽しみは まだこれからでございます。引き続き 空に御注目を。」

会場上空を過ぎ 180度ターンした雪風は、ミサイルの代わりに装備していた物を投下する。
それは 雪風の全長とほぼ同じ長さの棒状の部品で、二つ折りになっている。投下されると展開し 30メイル程の一本の棒になった。
中央の部分にはワイヤがあって雪風の尾部に繋がれている。
この日の為に 馴染みの職人に作らせた特注品。雪風は 横一文字の棒を牽引しながら飛行していた。
会場上空まで戻ると 棒状の装置は、何やら白い物を噴出し始めた。ごくごく小さな 雲の塊だった。
雪風が飛び去った後には 無数の雲の点が並んでいた。青い空に白い雲で書かれた巨大な文字は こう読めた。
『使い魔品評会へ ようこそ。』
観客席から 驚嘆の声が上がった。
雪風が牽引している金属棒には 中に大量の水が詰っており、それが零れない程度の穴が 進行方向後方に向け多数開けられている。
ルイズは 穴の中の水に魔法をかけて爆発させ、霧状にして噴出させている。言わば、巨大な『魔法式 インクジェットプリンタ』。
雪風は 正確な図形を形作る為の爆発タイミングを指示している。まさに ルイズと雪風 このコンビでなければ不可能な技だ。
再度Uターンした雪風が次に描いたのは、パイプを燻らす『オールド・オスマンの似顔絵』。
その絶妙なデフォルメぶりに 来賓からは苦笑がもれ、生徒や教師は、隣に小さく描かれた『怒るミス ロングヒル』に大ウケしていた。
三度目、最後に描かれたのは 『アンリエッタ妃殿下の肖像』だった。
精密な描写。繊細なタッチ。先ほどの似顔絵とは比べ物にならない見事さだった。
どこまでも青い空に 白一色で描かれた姫君。それは幻想的なまでに美しかった。
観客席からは、うっとりとした溜息と 賞賛の拍手が鳴り響いた。
だが、肖像画の下にひっそりと添えられたメッセージに気付いたのは ごくわずかだった。
    【幼き日の『ともだち』より】
     (ルイズ、貴女なのね!)
それでも 伝えたかった人物には、判って貰えたようだ。

その後 雪風は、特製噴霧器を切り離し、パラシュート付きで投下した。
(召喚場の格納庫前に落ちるよう 風速風向は計算済み。)
で、学院に戻ることなく グリフォン隊舎へと向かった。
隊長が警備の為来校するのは事前に知っていたし、『目立つ事はするな!』と言われていた手前 このまま会ったら小言の一つも言われそうだったからだ。

品評会の結果は、キュルケとタバサのワンツーフィニッシュとなった。
風竜の常識を超える速度でのアクロバット飛行、ゴーレムを一撃で粉砕し 毎秒一発の連射が可能な爆裂火炎弾。
本来なら どちらも軍関係向けの 玄人受けするネタだったが、キュルケの方は演出が上手かった。
ギーシュを宥めすかして 本番でもワルキューレを標的として作らせた。
その際の注文が、『学院の教師 特に嫌われ者の先生をモデルにする事』。
当初 男性型ゴーレムを作ることに抵抗していたギーシュだったが、自身 大嫌いな某先生(型ワルキューレ)の断末魔を見てからノリ気になり、本番ではモデルの体つきや

仕草 癖の一つ一つに至るまで、完璧に再現して見せた。
生徒は勿論、対象となった教師以外の学校関係者からバカ受けし、その様子から事情を理解した来賓達からも クスクスと笑いが漏れていた。
アンリエッタ姫は、隣のマザリーニ卿から顔を背けながら、
(次は是非とも この『鳥の骨』のゴーレムでやってもらいたいですわね。)
と 呟いたと噂されている。

会の最後 表彰式で、
「今年も 皆 素晴らしい使い魔を召還する事が出来たようです。
 審査も困難を極め 惜しくも入賞を逃した生徒も多数いた事を申し上げておきます。
 しかし、一位と二位については違います。
 召喚された使い魔自体も最上級ですが、演舞に当たっての創意工夫とその為の訓練。
 この品評会の何たるかを体現してくれた、ダントツの優勝・準優勝でした。」
との オスマン学院長の総評に対し、当人達が異議を唱えた。
「ありがとうございます。
 でも、私達と彼女の名誉の為、これだけは言わせていただきます。」
「・・・『一番』は、別にいる。」
(本当は、あの『機関砲』を目指してたんだけど、まだまだよね。)
(『音速』・・・いつかは越えてみたい。)
それに対して 学院長は二人に近付き 声を潜めて、
「ほっほっほっ、言いたい事は判っとる。
 じゃがな これも、『大人の事情』というヤツじゃ、あんまり突っつかんでくれんかのぅ。」
キュルケはニヤリと笑って、タバサは無言で了解した。 

そして 式典終了後、学院長室をアンリエッタ姫が訪れて
「今年の品評会、どの使い魔も大変優秀でした。その中で入賞された方々は 勿論素晴らしかったのですが。
 でも 私は、もう一人 個人的に演技を称えてあげたい方がいるのです。」
「そのお言葉だけでも、きっとその生徒は喜ぶでしょう。
 で、お目に留まりましたのは どの演目の生徒ですかな?」
「はい。一番初めの・・・」
「おぅおぅ、あの『巨大モルフォ蝶の羽化』ですかな?」
「いいえ。
 一番目の演技者の更に前、空に私の肖像画を描いてくださった方です。」
それを聞いて オールド・オスマンの顔が僅かに歪む。
学院側の意向としては、雪風に王宮が興味を持つのは望ましくなかった。
しかし、先日 ルイズ本人から、『グリフォン隊入隊』の届出があった。
幸い ワルド隊長からは、雪風は『秘匿戦力』と聞かされているが これ以上の情報拡散は避けたいところである。
「あの方も 今年使い魔を召喚された二年生なのでしょう?
 確か 衛士隊の隊長が、そう言ってましたわね。」
(ワルド殿、あの時 場を静めてくださったのは感謝しますが、これはチョンボですな。)
「出来れば 直接お会いして 御礼を言いたいのですが、今 どちらに?」
「いや ちょっと都合がありましてな、学院にはおらんのです。」
「それでしたら その方と使い魔に、後日王城へ参るよう伝えていただけますか?
 私も 久しぶりに『おともだち』に会えるのを 楽しみにしていると。
 では、宜しくお願いしますね。」
そう言って 妃殿下は退出していった。
(そういえば アンリエッタ様とヴァリエール嬢は、旧知の仲じゃったか。
 こりゃ 完っ璧にバレとるのぅ・・・)
学院長は 頭を抱えていた。

翌日の夕方、雪風は トリスタニアの王城に飛来した。
不審騎として攻撃される事の無い様 到着時間は分単位で連絡済である。
近衛隊の若い騎士に出迎えられるが、彼等も雪風が気になって仕方がないようだった。まぁ 気持ちは判らなくも無い。
謁見の間で待たされる事 数分、待ちかねたように現れるアンリエッタ妃殿下。
「ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、お召しにより 参上仕りました。」
一応 型どおりに控えてみせるルイズ。ただし 衣装はドレスでなく学院の制服で、ポーズも貴婦人の礼ではなく 騎士のそれだったが。
「まぁルイズ、なんてことでしょう!貴女まで そんな畏まった物言いをするなんて。」
嘆くアンリエッタに、
「姫様。ここは王宮の表舞台、あのヴァリエール家の子供部屋と同じ様にはまいりません。」
軽く笑って答えるルイズ。
「それもそうですわね。では。」
やにわにルイズの手を取って 駆け出す姫君。慌てる近衛や侍従達に、
「私達はこれから 寝室で、懐かしい思い出話に花を咲かせます。私の恥ずかしい話も出てくると思われます。
 よって、何人たりとも来てはいけません!王家の極秘事項です。良いと言うまで 誰も入ってはなりません。
 入った者は 打ち首に処します!判りましたね!!」
そう言って 疾風の様に去っていってしまった。

嵐の如く 自分の寝室の駆け込んだ姫君は、専属のメイドまで追い出した上に 何度も魔法探査を行って 盗聴の有無を確認した。
更に 部屋の壁全面に ごく薄い水の幕を形成し、室内の振動を完全に吸収するという 高度な防諜策まで実施した。
「さあ これで大丈夫ね!」
おもむろに ルイズと向かい合うアンリエッタ。そして・・・
「ルイズ、ルイズッ、あぁ ルイズッウゥ~
 どうして今迄 会いに来てくれなかったのぉぉぉ。
 私 淋しかった淋しかった淋しかったぁぁ~」
抱きついて、力一杯抱きしめて、年下の少女の胸で泣きじゃくる妃殿下。
「おわっ ちょっちょっと姫様!一体どうされたんですか?
 泣いてちゃ判りませんヨォ。」
突然の事に 対応できないルイズ。
「イヤっ、そんな呼び方。
 昔みたいに呼んで! いえ、呼んで欲しいの。」
すがるような視線、尋常ならざる精神状態、ルイズに『拒否』という選択肢は無かった。
「わっ、判りました。それじゃ 二人一緒に。」
「えぇ。」
手を取り合って、真っ直ぐにお互いの瞳を見つめあう。
「・・・あ、『アンねぇ』!」 「『ルーちゃん』!」
だが、耐え切れずに眼を逸らしてしまうルイズと 「プッ」っと吹き出してしまうアンリエッタ。
「だめぇー、やっぱりハズがしいわ~!」
「だったら ヤラせないでくださいよ。
 まったく、姫様こそ 全然変わってないじゃないですか!」
ちょっと はしたない位に大笑いする二人だった。 

「…だから お父様が亡くなった後、ヴァリエール公爵の所へ行く理由もなくなってしまったし、私一人で出掛ける事もできなかったし。」
「私も あの頃から本格的に魔法の練習を始めて、結果がアレだったし…」
ベッドに並んで腰掛け 思い出を語り合う。
「そういえば、ルイズ 貴女魔法使えるようになったんでしょう? あんな立派な使い魔を召喚できたんだし。」
「それが、召喚だけが特別だったみたいで それ以外は相変わらず…」
「でも、昨日の『空の肖像画』は 使い魔の力じゃなく貴女の魔法なんでしょ。
 あれは 雲を発生させて絵を描いていたんだから 風系統か水系統の魔法のはず。」
「いいえ。私に出来るのは、魔法を失敗させた爆発だけ。
 それでも 使い方を工夫すれば、何かの役には立つんです。そして 雪風の手助けがあれば、あんな事も出来る。」
そして、『空のお絵かき』のタネあかしをすると、
「『使い魔が爆発の順番を教えてくれる』ですって? それも、『声では無い声』で!
 なんて凄い『絆』なのかしら。サスガは『浪漫飛行』の雪風ね。」
それを聞いたルイズの表情が硬くなる。
「…姫様、その名前、一体何処で?」
『浪漫飛行』とは、学院の生徒達が付けた雪風の二つ名?だった。(他に『星空デート』『ナイトフライヤー』等も。)
一応 雪風に乗せる前には、他言無用 特に学生以外には絶対話さないよう誓約させているが・・・

「フフフ。ルイズ、貴女はミスを犯しているわ。」
犯人に向けて 事件の真相を語ろうとする名探偵の様に、アンリエッタは『ビシッ』っとルイズを指差して語る。
「雪風の搭乗料金を無茶苦茶な高額に設定したのは、殺到する搭乗希望者を制限するためよね。
 でも それは誤算だった。
 自分の小遣いでは足りない それでも乗ってみたい、そんな生徒達は 親から金を借りようとする。
 当然 何に使うのかと親から聞かれるわよね。そうなれば 内緒になんて出来っこない。
 魔法学院の生徒は 皆貴族の子女。宮廷関係者や議会重臣の子供だって いくらでも居るわ。
 今のところ そんなに注目されていないけど、結構評判になってるわよ。」
(まぁ そんな事だろうとは思ってたけど…) ルイズは 深く溜息を吐いた。
「それと、学院のメイド達に口止めをしなかったのも失敗ね。
 メイドって 別に世襲の職業って訳じゃないはずなのに、親子二代とか 姉妹揃ってとかのメイド一族は、かなり多いの。
 中には、『母は王城勤務で 娘は魔法学院勤務』なんてことも。
 そういう『メイド情報網』って 意外と侮れないものよ。」

アンリエッタ姫は、宮廷貴族達が言うほど『バカ』ではない。頭の回転は むしろ速い。
ただし 一般常識等に欠けるため、傍から見てヘンな発言や行動が多い。
原因は 彼女の父親にある。
国政の常識から逸脱しながらも 国と民を豊かにする奇策を立案し押し進めようとしていた先王の、娘に対する教育方針は、
『学は楽なり、学ぶを楽しめ』。
つまり、詰め込み・押し付けを廃し 個性を尊重・才能を伸ばす事に重点を置いたもの。
上手くいけば 天才児が出来上がるが、異世界の某国では それを実施した結果『ゆとり世代』が誕生している。
更に アンリエッタ姫の場合、先王が亡くなって以降 保守的な旧来型の教育方針に路線変更したため、『常識=ツマラナイ』との認識を強めてしまっていた。

「それでね、今晩 貴女に来てもらった本当の理由なんだけど・・・
 ルイズ、お願い 私を雪風に乗せて!」
言われたルイズは にっこりと笑う。
「ええ お安い御用です。いつでもどうぞ。」
アンリエッタの話では、彼女は王宮で孤立しているらしい。
さびしい日々を過ごす『おともだち』に、少しでも力になってあげられる。それが嬉しかった。だが、
「じゃあ すぐ出発ね。行き先は アルビオンよ!」
「へっ?!?」
どうやら いつもの遊覧飛行というわけにはいかないようだ。
「ちょ ちょっと姫様!アルビオンは今 内乱が発生していて、王党派とレコンキスタが!
 だめです、危険です、死んじゃいます!」
慌てて止めようとするルイズ。
「判っています。それでも私は往かねばなりません。
 これは トリステインの将来にとって 非常に重要な問題なのです。」

一転して 真顔の姫君。
「アルビオン王家の皇太子 ウェールズ様と私は、幼い頃からずっと 惹かれあっていました。王族の義務や責任など 何も知らない頃から。
 でも いつか判ってしまうのです。王族の婚姻が 自らの意志だけでは決められないこと、極めて有効な 外交手段の一つである事を。」
「姫様…」
「ルイズ。私は間も無く 隣国ゲルマニアの皇帝陛下の元へ嫁ぎます。
 はっきり言えば ゲルマニアの兵力を借りる為、レコンキスタからトリステインを守る為、この身を売り渡すのです。」
ルイズは知っていた。トリステインとゲルマニアの軍事同盟締結。その代償がアンリエッタの嫁入りであると。
『王族は、国の為 民の為に生き そして死ぬ』とは、ハルケギニア全ての王家に伝わる言葉ではある。
そんな事は建前に過ぎない。何処の誰が 他人の為に己が身を投げ出すというのだ?
だが アンリエッタはそうするだろう。
亡き父の教えだったから。敬愛すべき 唯一の大人から授けられた言葉だったから。
それは アンリエッタの中で、あるべき『貴族の理想像』と化していた。彼女は それに殉ずるだろう。

とは言え、
「それにしたってネェ~
 あんなエロオヤジと結婚だなんて!一体何歳差だと思ってるのよ!
『第四夫人』って、ナニよそれ!皇太子ですら私より年上って どうしろって言うのよ!」
押さえつけていた本音が出たのか、まくし立てるアンリエッタ。
「ハァハァ…
 ちょっと興奮してしまいましたが、別に この結婚がイヤだというわけではありません。
 私の身体に わが国を救う事のできる兵力と同等の価値があるというなら 王族の義務に従い 喜んで身を捧げましょう。
 私は誇りを持って ゲルマニアに参ります。」
ここで一旦 言葉を切ったアンリエッタ姫。

「しかし アルビオンには、全てを御破算にしてしまう 危険なモノが残されているのです。」
「姫様、それは一体。」
「私の恋文です。」
「はぁ?」
遠い目をして語るアンリエッタ。
「私のウェールズ様への思い。これはまったくの私心ではありましたが 嘘偽り無きもの。
 それを証明せんが為、私は・・・私は、
 文に『始祖ブリミルに誓って』 と書き記してしまったのです。」
ルイズも納得した。確かに それはチョッとマズイ。
ハルケギニアにおいて、『始祖ブリミル信仰』の信者は、貴族・平民の別無く 全人口の8割以上 いや9割近い。
それゆえに 始祖の名の下に記された文書は真実であり、逆に その名を記した書面で 虚偽を書くことは許されない。
ましてや 王族の書いたものとなれば、便所の落書きすら公文書化しかねない。

「この手紙は なんとしても回収 又は破棄してもらわねばなりません。
 その為にアルビオンへ密使を送ろうにも、宮中には私に味方してくれる者は居ないのです。
 母ですら 何も対応できずに、鳥の骨あたりに泣き付くのが関の山。
 それに 密使を送るとなれば、ウェールズ様宛の親書を持たせねばなりませんが、それがまた何者かの手に落ちるような事があれば 本末転倒。
 なればこそ、私自らが出向かねばならないのです。」
なるほど、一応の理屈ではあるが、実際のところ皇太后様や枢機卿等にバレて叱られるのがイヤなのだろう。
もしくは 愛しのウェールズ様に一目会いたいというのもあるかもしれない。
「品評会の時 貴女が飛んでいた高さって、大体100メイルで合っているかしら?
 で、会場上空を通過する時間を計測して 速度を概算してみたんだけど、あれ 実は準優勝した風竜よりも速いでしょ。
 それも かなり余裕みたいだったから、全力なら もう少し速く飛べるわよね!
 だったら、今からアルビオンまで行っても 夜明け前には戻ってこられる…そうよね?」

実際 アンリエッタ姫は、頭の回転は速い。どちらかといえば 理系の思考だろうか。
しかし 常識に欠ける。根本的な所が間違っている。
篭城戦 しかも落城寸前の状況。少女二人だけで 敵兵の包囲陣を突破しようというのだ。
ベテラン諜報員ですら生還が危ぶまれる戦場。にもかかわらず、自分が死ぬという可能性を考えていない。
全くの『非常識』なアイディアである。
だがそこに、『非常識な使い魔』が加わると…

ルイズは思う。
姫様が私を『おともだち』と思っていてくださったように、私にとっても姫様は 大切な『おともだち』です。
できることなら 何も知らずに幸せな『おひめさま』でいて欲しかったんですが、今のトリステインには そんな余裕は無いんですよね。
だから 連れて行きます、戦場の真ん中へ。敢えて 知ってもらいます、戦争の実態を。
利用させていただきます、この国を守る為に。

「はい、姫様。可能です。
 ただし 準備の為、半刻程時間をいただけますか?」

       (続く)

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