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疾走する魔術師のパラベラム-02


第二章 錠剤

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パラベラム/[Parabellum]――自分の殺意や闘志を、銃器の形にして物質化することが可能な特殊能力、およびその能力者。

   1

 広場の全てを一瞬、多い尽くすほどの爆風が巻き起こった。煙が風と共に広場を蔽い、広場にいる人々の視界を包み隠す。
 まだ召喚されたばかりの使い魔たちが音と閃光に驚き、暴れまわる。体の小さな使い魔は体の大きな使い魔から逃げ惑い、一部の能力を持った使い魔の能力で吹き飛ばされたりもしている使い魔もいた。
 コルベールはというと吹き飛ばされて、ルイズから数メイル離れた場所で目を回していた。
 もちろん、ルイズも例外ではなく爆風で一瞬宙に浮いた気がした。反転した景色を眺めたルイズには確かな確信があった。

――召喚は、成功したのだ。

 今までとは違う確かな手ごたえが、杖を持つ腕に残っていた。杖にはまた一つ、努力の証である焦げた跡が増えている。今までは腹立たしかったこの傷も、今はなんだか微笑ましい。
 地面に叩きつけられた衝撃は、想像以上で息ができなくなる。体のあちこちが痛む。
 ルイズはふらふらと立ち上がった。召喚を行った場所は、爆発の煙でまだ何も見えない。少しずつ煙が晴れていく。
「ゼロ、いい加減にしろよ!」
「また、ゼロの仕業・・・・・・?」
「おい、誰か、僕の使い魔を知らないか!? 三毛猫なんだけど、まだ子猫なんだよ!」
 混乱から立ち直り始めた生徒は、自分の使い魔を宥めている。中にはまだ何が起こったのか理解できていない頭の回転が遅い者、もしくはそれどころでは無い者もいる。
 そのような嘲笑や罵倒の類が浴びせかけられている当人は、上の空で広間の中央を見つめていた。
 ルイズは爆発では混乱しなかったが、『その後』のことで混乱していた。

 煙が晴れたあとの草原、いや、爆発で草はほとんど残っていないので地面と表現するのが正しいだろう。その地面にはルイズの召喚した使い魔がいた。これも正しくない。正確には『あった』
 そこには奇妙なものがあった。
 見た目は植物の種に近い。ルイズの小指の爪より一回りほど小さな白い粒。
 皮、だろうか。その『種』は半透明の白い皮らしきものに包まれている。ガラスに近い光沢があり、僅かだが光を反射している。大きさは測ったかのように一揃いで、形も綺麗な四角形。端はギザギザとしているが、それもまた整った大きさで揃えられている。
 植物を使い魔にした例が無いわけではないが、それは希少な亜人の使い魔よりも更に希少だ。歴史の中でも片方の指で納まるほどの人数しかいないのではないだろうか。知識は人一倍持ち合わせてるルイズでもその程度しか知らない。
 またそういった使い魔にしても、魔力を持ち合わせたりした特殊な植物である。種の使い魔など聞いたこともなければ、見たことも無い。そしてこの『植物の種らしき』ものもルイズの知らない種類だ。

――でも、卵を召喚したメイジはいるんだっけ?

 昔、読んだ本に出てきたあるメイジは一抱えもある卵を召喚したとかなんとか。確か生まれてきたのは、王冠のような背びれを持つ鯉だったか。
 確かに『植物の種』は異常なほど珍しい使い魔ではあるが、『有り得ない』というほどではない。
 だがルイズの召喚した使い魔は有り得ない。
 なぜならその『植物の種』のようなものが『六つ』あるのだ。
 横に二つ、縦に三つ。
『使い魔は一人につき一体』。一体、という表現がこの使い魔にも当てはまるかどうかは、わからないが『六体』というのは有り得ない。
 それともこの使い魔は葡萄やベリーのように六粒で一つの果実なのだろうか。
 わからないことが多すぎる。

――これは一体・・・・・・?

「あいたた、腰を打ってしまいました・・・・・・ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか?」
 コルベールが腰を擦りながら、ようやくルイズのもとにやってきた。
「え、ええ、コルベール先生・・・・・・」
 ルイズはというと、こちらもまだ混乱から抜けきっていない。
「これは一体なんでしょう・・・・・・?」
「うん? 召喚できたのですか? 少し待ってください」

「皆さん! 落ち着いて! 各自、自分の使い魔を宥めてください! くれぐれもほかの生徒の使い魔を襲ったりしないように見ててください」
 声を張り上げて生徒を落ち着けるコルベール。もういい年なのに。
 風のメイジならば魔法を使い、声を大きくすることもできるが、コルベールは生憎と火のトライアングルだ。決してメイジとして、力量は低くない。だが系統魔法には得手不得手がはっきりとしている。
 東方の地に住むエルフや一部の亜人が使うという先住魔法ならば話は別だろうが。
「さて、ミス・ヴァリエール。召喚には成功したのですか?」
「え、ええ・・・・・・ですがこれは一体どういうことでしょう?」
「これは、植物の種・・・・・・・ですかな? 私は知らない種類ですが、六つですか。ふむ・・・・・・確かに植物を使い魔にした例が無いわけではないですが、これはまたずいぶんと変り種ですね。・・・・・・あ、いや、今のは、わざとではありませんぞ。・・・・・・ちょっと失礼」
 コルベールが杖を振り、危険が無いか確かめる。
「ふむ、魔力も感じませんし、特に危険はないようです。」
 さすが魔法学院の教師だろうか。少し眺めただけで、ルイズと同じ結論に至った。まぁ、ほかにいくつも可能性があるわけではないが。
 召喚したのはこれに違いないし、召喚した以上はこれがルイズの使い魔である。
「しかし、召喚した以上はこれがあなたの使い魔です。よかったですねな。私は正直、ひやひやしてましたよ。コントラクト・サーヴァントはもう済ましたか?」
「いえ、まだです」
 そうだ。まだコントラクト・サーヴァントを行わなくてはならない。

――少し期待していたものとは、違うけど私は使い魔を召喚できたんだ。私は、魔法を使うことができたんだ!

 同級生の眼鏡の子が召喚したような風竜やツェルプストーが召喚したようなサラマンダーを望んでいなかったと言えば嘘になる。
 しかし、これは『コレ』でアリだ。むしろ見方を変えればアタリとも言える。まさに前代未聞の使い魔。うん、悪くない。

   2

――ん?

 何かが頭の中で警鐘を鳴らしている。何が危険だというのか?
 使い魔の召喚についに成功し、これで『ゼロ』の二つ名からも――
「・・・・・・」
 そうだった。ルイズの二つ名は『ゼロ』。魔法率0%。今は違うが。
 しかし、魔法が失敗するという特徴と併せ持つルイズの性質。
 失敗した魔法は、爆発するのだ。
 本来、こんな現象が起こることは無い。普通のメイジが魔法に失敗しても、魔力が霧散し魔法の効果が全く現れないか、出力が足りず本来よりも弱い威力しか出ないというだけだ。
 しかしルイズは、なぜか爆発する。
 コモンだろうが、風だろうが、火だろうが、土だろうが、水だろうが、ことごとく完膚なきまでに爆破する。
 それはいい。いや、よくは無いが今は置いておこう。
 問題は『コントラクト・サーヴァント』も魔法なのだ。
 つまり、失敗する可能性がルイズには少なからずある。
 サモン・サーヴァントのおまけのような魔法とはいえ、魔法は魔法である。
 もしも、失敗すれば始めて成功した証である使い魔は、ルイズが今まで錬金をかけた小石たちと同じく跡形も無く爆破されるだろう。
 それにコントラクト・サーヴァントは、ほかの魔法と決定的に違う点がある。
 杖を必要としない。これは系統魔法ではコントラクト・サーヴァント以外では有り得ない。

 ではどうやって魔法を使っているのか。
 代わりの媒体を使っているというだけである。それは唇。スペルを唱え、口付けを交わすことで召喚を行うのだ。
 もしも、失敗すればどうなるか。それは手に持つ杖が雄弁に語っている。いや、それよりもひどいことになるんだろう。杖は振ればいいが、コントラクト・サーヴァントは触れるのだ。
 失敗すればどうなるか。想像するのも恐ろしい結果になるだろう。
 ルイズは恐怖する。

――もしも、もしも失敗したら・・・・・・・?

 種を持つ手が震える。口の中が乾く。背中を嫌な汗が伝う。泣きそうだった。

「ミス・ヴァリエール?」

 コルベールの声にルイズはハッと我に返る。

――私は今、何を考えていた?

「早くコントラクト・サーヴァントを。もうずいぶん予定を押しています」
 コルベールの声には若干、苛立ちが感じられる。
 それもそうだろう。予定は狂い、コルベール自身もルイズの爆発で被害を被っている。腰の痛みはしばらくは引かないだろう。

――私は、私だけは私を信じると誓ったじゃないか。

「ええ、わかりました」

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔となせ・・・・・・」

 ルイズは口付けをした。その姿はまるで、忠誠を誓う騎士のようだった。
 爆発は起きず、ルイズが口付けをした『種』のうち一つにルーンが刻まれた。
「ふむ・・・・・・コントラクト・サーヴァントは無事、成功しましたね。しかし、ルーンが細かすぎて、これではスケッチできませんな。・・・・・・まぁ、いいでしょう。もう戻って構いませんよ」
「・・・・・・はい」

 サモン・サーヴァントは成功した。コントラクト・サーヴァントも成功した。ルイズの今までの人生で一番の快挙と言えるだろう。
 ただ・・・・・・これは植物の種などではない。
 ルイズが召喚した使い魔、それは『薬』であった。
 契約のルーンの効果なのか口付けをした瞬間、膨大な情報がルイズの頭の中に流れ込んできた。
 あまりに大量の情報の波で混乱する頭の中で、ルイズはただ一つ確信していることがあった。

 この使い魔はルイズに力を与えてくれる。それだけは痺れたような頭の中で確信があった。
 ルイズは流れ込んできた様々な言葉の中で、ある言葉を呟いてみた。

「パラベラム」
 それは、悪くない響きだった。

   3

 日は沈み、空は黒の帳に包まれる。空には星が散りばめられ、学院からは灯りが洩れている。それらを夜空に浮かぶ双月の光が優しく照らす。夕餉を早々と済ませて、ルイズは自分の部屋へと戻っていた。
 体をベッドへと投げ出し、意味もなく天井を見上げる。上質な素材を使ったベッドはボフッと音を立て、ルイズを受け止めてくれる。部屋の明かりをつけていないため、部屋を満たすのは月明かりだ。
 ルイズの頭の中には渦巻くのは、もちろん使い魔のこと。
 まるで初めから知っていたような感覚で契約の時に知ったことは突拍子の無いことばかり、そして何より性質が悪いのはそれが、嘘では無いと心の奥の理屈では説明できない部分で納得していること。

 ルイズの使い魔、これはハルケギニアにあるものではない。
 ルイズの住む世界とは違う、月が一つしかない異世界の物質だ。
 もちろん、植物の種などではない。これは薬である。
 ハルケギニアで薬といえば平民が使う薬草などを乾燥させ、粉末にした粉薬が一般的である。貴族や金持ちの商人などは水のメイジが作るポーションを使う。
 こちらは少ない例外を除いて、液体である。色や香りは千差万別であるが、効果は粉薬などとは比較にならない。
 同級生の中にはこのポーションを作るのに、秀でた水のメイジもいる。彼女は、ドットなので効果の高いポーションなどはまだ作れないが、香水を作ることを得意としていた。香水も広い意味ではポーションに分類される。
 しかし、これはルイズたち、ハルケギニアの人間には未知の製法で作られた薬『錠剤』である。

 この時点で重要なのは『錠剤』ではない。確かに特異ではあるが、それは今問題ではないのだ。
 では何が問題か。
 もちろん、この『錠剤』の効果である。
 これはある種の炸薬。この錠剤を飲むことで、《パラベラム》という能力に目覚めるきっかけになる。

《パラベラム》とは何か?
 それは《サイコバリスティック・ファイアアームズ》。略して《P.V.F》。意味は『精神弾道学の火器』だ。
 人間の持つ精神力、それに武器としての形を与え、純然たる力とする能力。それを扱うことのできる能力者が《パラベラム》である。
 自らの精神を力とする点は、魔法とよく似ているかもしれない。だがこのような能力はもちろん、ハルケギニアには存在しない。異世界のそれも稀有な能力なので、当たり前といえば当たり前だが。

 これは《パラベラム》となる薬。水無し一錠で効果あり。
 だが、これには多大なリスクを伴う。
《パラベラム》としての素質が無い人間が飲むと、脳が死ぬ。
 脳死。そういう意味では、確かにこれは『植物の種』とも呼べるかもしれなかった。脳が死んだ人間は植物と大差は無い。

 ルイズは悩んだ。
 自分は魔法が使えない。それなのに貴族、しかも名門の娘だ。なにもかもちぐはぐだ。
 自分に残されたのは、ほんの少し自分に残された誇りと歪んだプライド。周囲への劣等感に両親の重圧、平民たちの嘲り、そして何よりもルイズ自身への怒り。
 そんなルイズの元に差し出された力。
 自分はこの力をどう扱うべきか。

 ルイズは杖を取り出し、スペルを唱えた。
 レビテーション。対象は部屋の隅に積まれた藁。『普通』の使い魔が召喚したら、寝床にしてやるつもりで用意したものだ。
 予想通り、吹き飛んだ。もしかしたら、サモン・サーヴァントが成功したので、魔法が少しでも使えるようになっているのではないか、という期待があったが、見事に砕けた。
 ルイズが『ゼロ』だということは変わっていない。

 手に握る使い魔を改めて見る。
『メイジの実力を見るには、その使い魔を見よ』これは使い魔がメイジを実によく表すものだからだ。
 例えばキュルケ。火のトライアングルである彼女の実力は、使い魔のサラマンダーを見れば察することができる。

――じゃあ私は?

 これからも私は魔法が使えないだろう。『ゼロ』と呼ばれ、無力さに打ち震え、自分自身に怒りを向ける。ありありと想像できる。それがルイズの今までだったから。
 だが、だからといってこの錠剤を飲むのは躊躇われる。
 素質が無ければ死んだも同然。さらに《パラベラム》の力は異端だ。ハルケギニアにおける宗教の力は大きい。六千年も前の始祖を崇めて、寄付と称して私腹を肥やす。そんな腐った神官が力を持っているのだ。どうしようもない。

 何もかも無力がいけない。無力は、悪だ。

――私は魔法が使えない。

 貴族が力を持っているのは、魔法が使えるからだ。

――私は・・・・・・力が欲しい。

 力が欲しい。それがルイズのシンプルな答え。

――それに。

 ルイズは六つある錠剤から一つを千切る。プチと小気味のいい音を立てて、錠剤は簡単に外れた。
 横のギザギザに爪を立て、皮を裂く。中のルーンの刻まれた一粒が、ルイズの手に転がった。

「このまま死んでも・・・・・・」

 ルイズはその白い錠剤を口へ放り込み、飲み下した。
 すぐに薬の効果は現れ、うなじから頭頂にかけて、悪寒にも似た衝撃が走る。
 めまい、そして耳鳴り。
 それと同時に左手が熱を帯びる。錠剤に刻まれていたルーンがルイズの左手の甲へと移っていく。
 焼き鏝を押し付けられたような痛みに、歯を食いしばって耐える。
 汗が体中から滲み出て、呼吸が苦しくなる。
 心臓の鼓動はどんどん早く、激しくなっていく。
 ルイズは気を失う寸前に一言、呟いた。

「くだらない人生ダラダラ続けるより、マシよ」



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