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ギーシュ・ド・グラモンと黒バラ女王-07


 学院の正門前には多くの生徒が教師達によって集められていた。
 オスマンの秘書であるミス・ロングビルによって学院中の教師達に彼の指示が伝えられていたからだ。
 コルベールに連れて来られたギーシュ達もそこに居た。
 一同は深い霧と漆黒の闇の中で身を寄せ合う。
 奪われた視界と不気味なまでの静寂が彼らの恐怖感を増大させた。
 一度集団から離れれば二度と戻っては来れない、誰もがそう感じざるを得ない状況がある。
 彼らにとってのオスマンが現れるまでの時間は恐ろしく長く感じられるものだった。
「オールド・オスマン、その筒は一体?」
 濃霧を晴らし、激しい光を杖から発しながら彼らの前にやって来たオスマンの左腕には緑色の筒が抱えられていた。
 その筒は金属で出来ているらしく、独特の光を反射させている。
「……破壊の杖じゃ」
 一時の間を置いて、オスマンはロングビルの問いに答えた。
「この杖を使い、私がこの檻から脱け出す道を切り開く」
 低い声を張り上げ、その場にいる全員に聞こえるようにオスマンは宣言した。
「皆、私の傍から離れよ」
 覇気の入った一声に生徒も教師も皆がオスマンの周囲から後退る。
 周囲の確認をしたオスマンは自分が元々持っていた杖を地面に置き、右膝を地に着けた。
 そして右肩の上に乗せ、破壊の杖の中心を右手で押さる。
 左手で杖の先を前方に寄せ、目前に立ち塞がる茨の壁に狙いを定めた。

――目を眩ませる閃光と共に耳を裂く爆音が響き渡る。
 破壊の杖の先端から凄まじい速度で何かが撃ち出された。
 杖の後方からは灰色の煙が上がり、詠唱も無く魔法を使ったオスマンの体は張り倒されたように後ろに仰け反った。
 爆発が起こった箇所を中心に辺りは焦げ臭い煙霧に包まれる。
「けほっ、こほっ」
 一同の視界は再び遮られた。
「やったか……!?」
 オスマンは即座に起き上がり、強力な風魔法で煙を一掃した。
 目を凝らす彼に強い光が当たる。
 太陽の光だ。
 先刻まで隙間無く密集していた茨の蔓は爆発の衝撃によって形を歪められ、人一人がやっと通り抜けられるだろう大きさの隙間を開けられていた。
「おお!!」
 コルベールが歓声を上げながら前に進み出る。
 群衆は彼に続き、我先にと出口に詰め寄った。
「まだじゃ!!」
 コルベールがドームから脱け出そうとする直前、オスマンが杖をかざし出口を塞いだ。
「外に亜人がおるかもしれん、私が先に出て安全を確認してくる」
 出口に群がる人波を掻き払い、ゆっくりとオスマンは茨の隙間を潜り抜ける。
「あの……オールド・オスマン!」
 ところが彼は外に出る寸前、破壊の杖を両腕に抱えたロングビルに呼び止められた。
「破壊の杖は……私がお持ちしましょうか?」
 オスマンは使用後の破壊の杖を無造作に地面に置いていた。
 オスマンに訊ねるロングビルの目の奥は鋭く輝いている。
「その杖は一回しか使えぬマジック・アイテムじゃ。今はもう重荷にしかならん」
「え……そ、そうでしたか」
 ロングビルは酷く気落ちした様子で破壊の杖を眺める。
「ですが万が一ということもありますので、やはりこれは私がお持ちします」
「まあ構わぬ」
 答え終えたオスマンはドームの外に出た。

「どうしましょうか……」
 ドームの中に取り残された教師達は悩んでいた。
「あれからオールド・オスマンは戻ってきませんし……」
 外の安全を確認しにいったはずのオスマンは十分以上経っても帰っては来なかった。
 教師達は生徒達を外に出すかどうか迷っていた。
 彼らも始めのうちは中々戻ってこないオスマンの身を案じていた。
 しかし、外から差し込んでくる暖かい光や、微かに聞こえる穏やかな小鳥のさえずりが彼らの心にある疑念を抱かせた。
 オールド・オスマンは一人で逃げ出した。
 誰かが一人そう口に出すと、気まずい雰囲気は一斉に広がった。
「……私が外の確認をしてきましょう!」
 言うや否や、一人の教師が素早く外に出た。
 そして一分もしない内にドームの中に戻ってきた。
「大丈夫です! 外は安全です!」
 その言葉に生徒達は一斉に出口を目指した。
 数の少ない教師達では彼らを押さえ切れない。
「こ、こら! 押し合わないで、一人ずつ通りなさい!」
 ある程度の人数が外に出ると、教師達が生徒達を抑えられるようになった。
 生徒達は一列に並べられ、順番に出口を通る。
 並んでいた生徒達が全員抜け出たのを確認し終えると教師達も外に出始める。
「ミス・タバサ、貴女も早く外に」
 教師達のしんがりを務めていたコルベールは後方にタバサがいるのを見つけた。
 彼女は生徒の列に並んでいなかった。
「私とミスタ・コルベールが出たら、その後でこっそり抜け出して」
 タバサは小声でシルフィードに命じた。
 シルフィードは小さく頷くと、出口に向かうタバサを見送った。



 学院を覆うドームの外には穏やかな日常があった。
 見渡す限りの草原とそこに咲く色取り取りの花々、青々と広がる空に柔らかに流れる白い雲。
 彼らが普段、何気なく目にしている当たり前の光景がそこにはあった。
「よ、よかった……」
 ギーシュはほっと胸を撫で下ろした。
 内心では、外の世界も滅茶苦茶になっているのではないかと彼は思っていたからだ。
「それでは皆さん、今後の行動を確認しますので集まってください!」
 外の様子に聊か安堵した生徒達はそれぞれが自由に辺りの確認をしている。
 コルベールはそんな生徒達を呼び集めた。
 教師達は自分達と生徒達がどこに身を寄せるべきかを話し合う。
 生徒達はそれぞれ気の合う者同士で集まり雑談に花を咲かせていた。
「それにしてもオールド・オスマンはどこにいったのかしらねぇ? 全く無責任なんだから」
 キュルケが愚痴を零した。
 それは皆の意見を代表した言葉のようであった。

「こいつのことかい?」
 その場の空気が凍りついた。
 艶やかな女性の声が耳に張り付く。
 その声を聞いた全員の背筋が寒くなった。
「ひ! うわああああ!!」
 突如、空から鉄の塊が降ってきた。
 人の形をしたそれは地面に直撃し、渇き切った土を大きく抉る。
「い、びやあああああああああ!!」
 真っ青にした顔を両手で覆いながら一人の女生徒が叫んだ。
「お、おわ……あ、あ……」
 驚きのあまり後ろに倒れこむ生徒までいる。
「馬鹿な子達だねぇ。あのままずぅ~っと暗~い闇の中で暮らしていれば良かったものを」
 200メイルを超える黒い巨人が血に染まった瞳で彼らを見下ろしていた。
 先ほどまでの和やかな景色は消え失せ、代わりに地獄のような世界が彼らの前に広る。
 どこまでも続く荒野に渇いた地面の裂け目から無数に伸びる茨の森、暗く濁った紅色の空に太陽を遮るドス黒い雲。
 全てが彼らを恐怖で支配した。


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