あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

赫炎の使い魔

 聖戦が発動されたガリアとの戦争。

 ルイズは虎街道で、虚無すら効かなくなったヨルムンガントに追い詰められていた。
杖を失ったルイズに最早為す術はなく、その場に蹲る。

「苦しめて殺してやろうと思ったけど、興ざめだ。一思いに殺してやるよ」
ミョズニトニルンが笑っているのが聞こえる。

 ルイズは立ち上がろうとするも、腰が抜けて立つことはできない。
二十五メイルもあるヨルムンガントは恐怖そのもの。

 ヨルムンガントの足がゆっくりを持ち上がる。
きっとあれで自分を蟻みたいに踏み潰すのだろうと、ルイズは冷静に思っていた。
これが走馬灯なのかなと思いながら、刹那の間にルイズは過去の記憶を振り返る。

 自分の使い魔、ドクター・ギー。
インガノックという都市からやってきたという、現象数式を用いて体を治すお医者様。

 でももうここにはいない。
元の世界に帰してあげた。
向こうにはギーの帰りを待つ人がいるから。
自分達の戦争に、これ以上巻き込めない。

 そう・・・・・・もう、この世界にいないのだ。

 ルイズの鳶色の瞳から、雫が零れ落ちる。
呼んだって来る筈はないのに、それでも・・・・・・ルイズは口を開いた。


「・・・・・・たすけて・・・・・・ギー!!」
ルイズは叫ぶ。
それとヨルムンガントの足が、ルイズを踏み潰すのは同時。

 しかし、衝撃は僅かだけ。破片が飛び散っていた。
巨人の足を止める“手”があった。
巨人の破壊を止める“手”があった。

 ――――――――――――――――――。

 ――――遮る“手”が伸ばされる。

 破壊から、少女を庇うように。

「・・・・・・大丈夫かい、ルイズ」

 ――――聞き覚えのある声。
 ――――とても、とてもやさしく。

「遅かったね、色男。間一髪だ」
ミョズニトニルンが言う。
運良く避けられたのだと、思っている。


 ルイズの顔が晴れる。
頬に一筋の軌跡を残し、ルイズはその使い魔の名を呼んだ。
「ギー!!」

   ――――声に応えて――――
 ――――その“手”は前へ――――

 ――――彼の“右手”が伸ばされる。
 ――――前へ。

 ギーの右手だけではなかった。背後から。
別の“右手”が伸ばされて。

 ――――鋼でできた手。
 ――――それは、ギーの手と確かに重なって。

 蠢くように伸ばされていく。自由に。
手は巨人の“顔”へと伸びていく。
鋼色が、5本の指を蠢かせて現出する。

 指関節が、擦れて、音を、鳴らしている。
それはリュートの弦をかき鳴らすように、金属音を生み出す。

 これは――――何だ――――
何かがいる。誰かがいる。
それはギーの手ではなく、その背後から。

 誰かが――――
ギーの背後から、鋼の手を――――!

 得体の知れぬ畏怖に駆られたミョズニトニルンは、ヨルムンガントと共に飛び退く。
視界にギーを捉えたまま。


 ――――鋼が軋む音が響く。
 ――――何かが、ギーの背後に、いた。

 誰だ。何だ。
鋼を纏った何かが、背後に在る。
ミョズニトニルンには、それは影にも見えた。

 背後から右手を伸ばす、鋼の何かがいると。
正体はわからない。何者か。
人間。いいや、これは違う。

 わからない。誰が。何が、そこにいるのか。
鋼の体躯を持つ者、まさか、そんなことはあり得ない。

 鋼の影が“かたち”を得ていく。
鋼の手が動く、言葉に応えるように!

 鋼の“手”を・・・・・・!
ただ、ただ前へと――――伸ばす――――!


    ――――鋼色の手が――――

 ――――ギーの“右手”に重なって――――

    ――――鋼の右手が――――

    ――――暗闇を裂く――――

   ――――鋼の兜に包まれて――――

  ――――鋭く輝く、光がひとつ――――


 静かに右手を前へと伸ばす。
なぞるように、鋼の右手も前へと伸びた。

 ――――動く。そう、これは動くのだ。
 ――――自在に、ギーの思った通りに。

 視界の違和感はない。
道化師はいない。
かわりに、異形の影が背後にあるとわかる。

 鋼の腕を伸ばして“同じもの”ものを視ている。
覗き込む、大きな大きな騎士人形。
ミョズニトニルンの操る10体の死と破壊をもたらす者、そのひとつが。


 数式を起動せずともギーには視えている。
恐慌をもたらす“威圧”を掻き消して、
ギーと“彼”は歪んだ鉄鎧の巨人の目を睨む。


 ――――右手を向ける。
 ――――己の手であるかのような、鋼の手を。
 ――――現象数式ではない。
 ――――けれど、ある種の実感が在るのだ。

 背後の“彼”にできることが、何か。
ギーと“彼”がすべきことは、何か。

 ――――この“手”で何を為すべきか。
 ――――わかる。これまでの時と同じように。

「何をしようとしたって、このヨルムンガントの前ではッッ!!!」
ミョズニトニルンの額のルーンが光る。
それに呼応するように、ヨルムンガントの四肢が動く。


 ギーの“右目”は既に捉えている。
ヨルムンガントのすべてを。

 ヨルムンガントのその巨大な腕が振り上げられる!
同時に手に持った大剣が、天高く掲げられる。
微塵の容赦もなく、振り下ろされる白刃。

 矛先を向けられるのはギーと“彼”!

 生身の体では避けきれまい。
鋭い反射神経を供えた《猫虎》の兵や、神経改造を行った重機関人間以外には。


 しかし、生きている。
ギーはまだ。
傷ひとつなく、立っている。
鉄鎧に覆われた巨大な騎士人形の剣が切り裂くのは虚空のみ。

「・・・・・・遅い」
ギーは呟く。

「なんで・・・・・・!何で死んでいない・・・・・・!?間違いなく当たった筈なのに!!」

 ミョズニトニルンが絶叫する。
ヨルムンガントの剣は、確かにギーを捉えた筈だった。
その巨大過ぎる剣は生身の人間を造作もなく、粉々に吹き飛ばす。
メイジでもない人間に避けられる筈はない。いや、メイジでも避けられる筈はない!

「喚くな」
ギーは淡々と、通告する。

 狼狽するミョズニトニルンを“右目”で睨む。
ミョズニトルニルンは再度ヨルムンガントを動かし、二度目の攻撃を加える。

 しかし生きている。
ギーはまだ死んでいない。

 以前の自分なら死んでいたのだろうと思う。
しかし、今なら、鋼の“彼”がギーを守る。
死にはしない。まだ。


 睨む“右目”へ意識を傾ける。
暴れまわる巨人のすべてを“右目”が視る!

    ――――ヨルムンガントの装甲は強固――――
   ――――カウンターで物理破壊は不可能――――
      ――――唯一の破壊方法は――――

  ――――反射許容量と装甲限界を越える攻撃――――
      ――――全身の、同時圧壊――――

「・・・・・・なるほど、確かに。人はきみに何もできないだろう」

 系統と先住の結晶、ヨルムンガント。
すべてを弾くカウンターと分厚い鉄に覆われた鎧の体。
故に、確かに人間はこれを破壊できない。

 唯一の破壊方法はカウンターが想定する反射限界を突破して尚装甲を貫く破壊。
故に、絶対に人間はこれを壊せない。

 魔法も砲弾も炸薬も体へと届くも弾かれ消える。
けれど、けれど。

 ――――けれど。

「けれど、どうやら。鋼の“彼”は人ではない」

 ――――“右目”が視ている!
 ――――“右手”と連動するかのように!

「鋼のきみ。我が《奇械》ポルシオン。僕は、きみにこう言おう」

 一拍置いて、ギーは呟くようにその言葉を紡ぐ。

「“王の巨腕よ、打ち砕け”」


 ――――――――――――――――――!

 ――――打ち砕き、粉々に消し飛ばす。
 ――――鋼鉄を纏う王の手。
 ――――それは、怪物を破壊する巨大な塊。
 ――――おとぎ話の、鉄の王の手。

 押し開いた鋼の胸から導き出された鋼の“右手”は、
高密度の質量を伴って巨人の全身を叩いて砕く。瞬時に破壊する。

 ミョズニトニルンが叫び声を上げる暇もなく、
超質量に圧されたヨルムンガントは崩壊した。
体のあらゆる部位を。
ばらばらに、粉々に、打ち砕かれて。

 凄まじい振動を、爆砕するように残して。
切り立った崖に挟まれた虎街道一帯を揺らして――――



 ミョズニトニルンは残った9体のヨルムンガントを動かす。
左右の逃げ場を失った鉄砲水のように、ヨルムンガントが押し寄せる。

しかしそれが到達するよりも早く、ギーは言葉を続けた。
「“太陽の如く、融かせ”」

 ――――――――――――――――――!

 ――――切り裂き、融かして消し飛ばす。
 ――――炎を纏う刃の右手。
 ――――それは、怪物を焼き尽くす炎の右手。

 押し開いた鋼の胸から導き出された刃の“右手”は、
超々高熱の火炎を伴って、前衛の3体のヨルムンガントを包み、瞬時に焼却する。
燃え尽きる暇もなく、高熱刃に包まれたヨルムンガントは一瞬で蒸発した。

 凄まじい炎の滓を、爆砕するように残して。
切り立った崖に挟まれた虎街道一帯を揺らして――――


 “彼”の“かたち”が変わる。
それまでの“彼”のものではない。
だが確かに“彼”の“手”だ。
ギーの背後から伸ばされるその色は、真紅。

     ――――赤色の――――
 ――――赫の炎にも似た、鋼の手――――

 その姿は真紅に充ちて。
鋼を纏った“彼”は、姿を変えていた。
鋼の体躯は真紅に染まり、瞳は二つに。
姿は違う。けれど“彼”に違いはない。

 その手は今や、尋常な人間の手ではない。
真紅の鋼を纏った“右手”。

 《悪なる右手》がそこに在る。


 ギーは残った6体のヨルムンガントを睨みつける。
「“光の如く、引き裂け”」

 ――――――――――――――――――!

 ――――真紅の右手が疾って。
 ――――残ったヨルムンガントのすべてが切断される!
 ――――真紅の右手はすべてを奪う。
 ――――ヨルムンガントのすべてを完全に取り込み奪う。

 ――――巨体は程なく消え去るのみ。
 ――――それまでに消滅したヨルムンガントと同じく。
 ――――何の痕跡も残さずに。




「おかえり、ギー」
「ただいま、ルイズ」

 笑顔を浮かべていたルイズが、一転して心配そうな顔へと変わる。

「・・・・・・帰らなくて、良かったの?」
「ああ、大丈夫。少しだけ会えたから。会って話をしてきたから」

 ギーは続ける。

「キーアは待ってくれてる。というか、叱られてしまった。『そんなのあたしの知ってるギーじゃない』って」

 そう・・・・・・、だから・・・・・・、もう少しだけ・・・・・・。

「だから・・・・・・もう少しだけ、こっちで君といることにした」

 周囲が勝ち鬨を上げているようだったが、二人の耳には入らない。

 ギーとルイズは、澄み渡る蒼天の空の下で、静かに微笑みあった。



新着情報

取得中です。