あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

毒の爪の使い魔-37


タルブの草原での戦から数日。
突如侵攻を開始したアルビオン軍に対し、数で劣るアンリエッタ率いるトリステイン軍は奇跡的勝利を収めた。
数で勝る敵軍を破った事により、王女アンリエッタは『聖女』と崇められその人気は絶頂となった。
対し…アルビオン軍の戦力の大半を倒し、実質的な勝因となったジャンガやルイズには特に何も無かった。
それは何故か?
ルイズに関して言えばアンリエッタの口止めにある。
伝説の『虚無』に関わるかもしれない為、迂闊に恩賞などを与えようものなら事が公になってしまう。
そうなれば、強大なる力である『虚無』を狙い、様々な”敵”がルイズを狙いかねないからだ。
故に礼を述べるだけに止めるしかなかったのだ。

だが、ジャンガの場合は違う。…”メンドくせェ”と断ったからだ。
元々、正義だの悪だの善行だの悪事だのには拘らず、奇麗事には嫌悪感を示してきた彼である。
”敵を破り国を守った英雄”などと言う扱いは蕁麻疹が出来る思いのする物だった。
故に恩賞などは”こっちからお断りだ”と拒んだのだ。
そして、ルイズ達やアンリエッタ率いるトリステイン軍は勿論の事、一部始終を見ていたタルブの村人達にも他言無用と釘を刺した。
…まぁ、その後シエスタに強引に誘われ、御礼の歓迎を受ける羽目となったが。

兎にも角にも、トリステインに平和は戻り、今日も国民達は『聖女』アンリエッタを称えるのだった。

当然、魔法学院にも何時も通りの平穏な時間が戻り――

「モンモランシー…、本気なのか?」
「当然よ…他に道は無いんだし」
「だ、だが……もしも万が一、失敗したら…」
「……へ、平気よ…。し、失敗なんて…するわけ、わけ、ないわよ…」
「…声が震えているよ? やっぱり止めた方が…」
「仕方ないじゃない! 作った以上は使わないと気が済まないのよ!」
「はぁ……それなら作らない方が良かったんじゃないか?」
「しょうがないわよ。…興味があったんだし」

――何だか、別のベクトルで大変な事が起きそうである…。



「くわぁぁぁぁ~~」
アウストリの広場のベンチに座り、ジャンガは大きな欠伸をした。
三日三晩続いたタルブの村での祝宴に疲労困憊なのである。
「ったく…、英雄扱いなんざケツが痒くなるだけだってのによ…。シエスタ嬢ちゃんは強引過ぎるゼ…」
正直、ああ言う祝いの席は嫌で嫌でしょうがなかった。
だが、シエスタ嬢ちゃんが余りにもしつこ過ぎる為、流石のジャンガも根負けしてしまった。
「まァ……美味い物が食えて良かったがよ…」
そう言って強引に納得する事にした。
懐から赤茶色のヒーローメダルを取り出す。
”ブランクメダル”のワンランク上、”ブロンズメダル”だ。
それを暫し眺め、ジャンガはほくそ笑む。
「テメェのメダル…曾孫が”持っててくれ”って言うからよ、遠慮無く持たせてもらってるゼ、ガーレン」

タルブの村での祝宴の最中、ジャンガはシエスタに彼女の曽祖父について色々と尋ねた。
例の夢やこのメダル、棚の上にあった見覚えのある帽子からある程度の予想は付いていたが…。
予想通り、メダルはガーレンの物であり、シエスタの曽祖父はガーレンである事が判明。
シエスタは自分の曽祖父とジャンガが知り合いだった事に心底感激した。
そんな彼女を見て、ジャンガは滑稽に感じ、その曽祖父が実は悪党である、と言おうと思ったりもした。
だが、過去がどうあれ今は家族。家族に対して色々と思う所があるジャンガはその事を結局伝えなかった。
悪党が良き曽祖父…、知らぬが仏、とはよく言った物だ。

そんな事を思い返していると、不意に声が掛けられた。
「こんにちは、今日もいい天気ね」
「日当たりはまだ少々キツイがね」
声の方に顔を向ける。そこにはモンモランシーとギーシュが立っていた。
…なんだか妙に不自然な笑顔だ。
ジャンガは怪訝な表情を浮かべ、二人を睨み付ける。
「何の用だ?」
「えと……その…」
モンモランシーは言い難そうに口をもごもごとさせる。
そして、意を決したのか、後ろ手に持っていたグラスを差し出す。
グラスには冷たそうなドリンクと思しき液体が注がれている。
グラスとモンモランシーを交互に見比べるジャンガ。
「ほ、ほら…今日は暑いでしょ? 喉も渇いてると思って、飲み物を差し入れに…」
「…どう言う風の吹き回しだ?」
ジロリと睨まれ、モンモランシーは頬を引きつらせる。
ギーシュがそこへ口を挟んだ。
「別に何も企んでなどいないさ! モンモランシーは君に純粋に冷たい飲み物を差し入れようと思ってだね――」
「”企んでいる”なんざ、一言も言ってねェぞ?」
…空気が冷えた。
表情を凍らせる二人にジャンガは空気以上に冷たい視線を投げかける。
「テメェら……俺に何飲ませるつもりだ?」
「いや…、その…、別に何も…」
「そ、そうさ…。君に何かを企むなんて命知らずな行動を…誰が…」
ジャンガは二人を睨み続け……徐にモンモランシーのグラスを奪い取る。
「あっ…?」
突然の事にモンモランシーは声を漏らす。
気にせず、ジャンガはグラスを揺らし、注がれているドリンクを日に透かして眺めている。
…見た限り特に変わりは無い。だが、見た目で解り易くするほど相手もアホではないはずだ。
暫くそうやって考えていると、向こうを歩く人影に気が付いた。
ジャンガはニヤリと笑い、人影に向かって歩いていく。
モンモランシーとギーシュはジャンガの後を視線で追い、凍り付いた。

――ジャンガは本塔の入り口から出てきたキュルケに向かっていたのだ。


「よう、雌牛。相変わらず今日も暑いな?」
突然話しかけてきたジャンガにキュルケは僅かに顔を顰める。
「あら? あなたから話し掛けて来るなんて…明日は雨かしら?」
「随分な言われようだゼ…キキキ」
ジャンガは笑う。
「どうしたのあなた? この暑さでその厚着……頭がやられちゃった?」
「言うじゃねェか雌牛。…そんなテメェにプレゼントだ!」
叫ぶと同時にジャンガはグラスの中身をキュルケの口の中に強引に流し込んだ。
突然の事にキュルケは為す術も無い。吐き出す間も無く、流し込まれたそれを飲んでしまった。
ゴホゴホとむせ返り、顔を上げてジャンガを睨む。
「何をするのよあなた!?」
ジャンガはやれやれと言った感じで首を振る。
「別に心配すんじゃねェよ。ドリル頭と気障ガキが差し入れてきたドリンクだから危険は無ェ。
――毒でも入ってなきゃよ…、キキキキキ」
笑うジャンガ。対してキュルケは飲んだ物の影響か…徐々に顔を赤らめていく。
その様子にジャンガは”やっぱりか”と自分の予測が正しかった事を確信する。
「気分でも悪いか? 言っておくがよ…恨むんならそんな物を俺に飲ませようとしたドリル頭を恨むんだな」
キュルケはジャンガの話が終わらぬうちに、踵を返すと走り去っていった。
その後姿を見送り、ジャンガは忌々しげに鼻を鳴らす。
「さてと…、おいテメェら!?」
叫びながら振り返る。…そこには誰も居なかった。
レアムゥの様に忽然とその姿は消えていた。
チッ、と舌打をし、ジャンガもその場を後にした。



――その夜。
飯を食った後、ジャンガは何か面白い事でも無いかと学院内を闊歩していた。
ガチャリ
「ン?」
直ぐ真横の扉が開くのを確認し、ジャンガは立ち止まる。
その扉から出てきたのは一匹の巨大な赤いトカゲ、キュルケのサラマンダーのフレイムだ。
きゅるきゅる、と鳴きながらフレイムはジャンガのコートの裾を噛み、頻りに引っ張る。
どうやら部屋の中に連れて行きたいらしい。だが、トカゲ如きに付き合ってやる通りは無い。
ジャンガはフレイムの噛み付きを軽く振り解くと、歩みを再開する。
が、首のマフラーが突然引かれ、ぐぇ、と苦しそうに呻き声を上げて仰向けに転ぶ。
振り向けばフレイムがマフラーの端に噛み付いていた。
「テメェ……よくも…、ぐぇ!?」
怒りの視線を向けるジャンガだが、フレイムがマフラーを引っ張った為、再び呻き声を上げる羽目と為った。
そして、そのまま部屋の中に引っ張り込まれた。

部屋の中は真っ暗だった。
フレイムはジャンガを引きずり込むと、漸くマフラーから口を放す。
ゲホゲホ、と咳き込むジャンガ。
「この火トカゲ…、何のつもりだ…あン!?」
怒りで目を見開き、フレイムを睨み付ける。
「フレイム、扉を閉めて」
突然割り込む声。
声に従い、フレイムは扉を閉めた。
ジャンガは声の聞こえた方に顔を向ける。
そこにはベビードールのみを纏った悩ましい姿のキュルケが立っていた。
キュルケは顔を赤らめ、潤んだ瞳をジャンガへと向けている。
月明かりに照らされた褐色の肌は非常に魅力的であり、並大抵の男なら即座に悩殺される事は間違い無い。
だが、ジャンガには大した効果は無かったらしく無反応。…寧ろ冷めた視線を向けている。
「何の真似だ…テメェ?」
ジャンガの言葉にキュルケは切なげに、ため息を吐く。
「突然の事だから混乱しているでしょ? ごめんなさいね。でも…普通に誘ってもあなたは来ないと思ったから…」
キュルケは悩ましげに首を振りながら言う。
そして、ゆっくりとジャンガに歩み寄る。
床に手を付き、顔を覗き込む。
「あたしの二つ名は『微熱』」
「ンな事ァ知ってる」
「そう、松明の様に燃え上がり易いの。だから、いけない事だとは思うけど、こんな風に呼んだの」
「迷惑極まりねェ…」
「そうね、そう思っても仕方ないわ。でも、あなたはきっと許してくれると思うわ」
「なんでだよ?」
「あたし……あなたに恋しているの」

――耳に飛び込んだ単語を頭が理解しきれない。一瞬、思考がストップする。

「……………ハァ?」
間抜けな呟きがジャンガの口から漏れた。
キュルケは構わずに続ける。
「あたしね、前々からあなたが気になっていたの。ただ、タバサを傷付けたのもあなただし、素直になれなかったの。
でも、この思いを偽り続ける事は出来なかったわ。あなたには二度も命を助けられたし」
「何の事だ?」
「誤魔化さないで。ラ・ロシェールでゴーレムに襲われた時…、そしてあのピエロの時よ。
何れの時もあなた…凄く魅力的だったわ。そう、まるで伝説のイーヴァルディの勇者の様に。
当然、痺れたわ…、そして昼間…あの時に実感したわ。これこそ”情熱”…、間違い無く”情熱”って」
「オイ…」
「あたしの二つ名の『微熱』はつまり”情熱”なのよ! そして、あたしは部屋に戻ってからマドリガルを綴ったわ。
マドリガル…恋歌よ。…あんなに嫌っていたのに、こうして言い寄るあたしをはしたない女だと思うでしょ?
節操が無いと思うでしょ? でもね…全部あなたの所為なのよ、ジャンガ?」
「ざけんな…」
ジャンガは頭痛がする思いだった。
何だってまたこの女は自分に言い寄って来るんだ?
幾らなんでも変だ。

――あの後、ドリル頭を捕まえて白状させたが、ドリンクに混ぜられていたのは調合した精力剤の様なポーションだとの事。
とりあえず、毒ではなかったが……実験台にした報いとして三分の一殺しにはしておいた。

だが、精力剤でここまで変わる物か?
ジャンガのモンモランシーに対する疑惑は更に深まっていく。
そんな彼の考えなど知る由も無いキュルケは更にジャンガに言い寄る。
そして、目を瞑るや、黙って唇を突き出した。
ジャンガはその行動にあからさまに顔を顰める。
と、窓が開かれ、男の声が聞こえた。
「キュルケ…、待ち合わせの時間に君が来ないと思えば…」
「あら、スティックス」
メンドくさそうな表情でキュルケは窓の外の男を見る。
「悪いけれど、今日の約束はキャンセルね」
「話が違う!! 大体、君はその亜人を嫌っていたはずじゃないか!?」
「恋はいつも突然なのよ」
言いながら胸の谷間に挟んでいた杖を取り出して振る。
それなりの大きさの炎球が飛び、男を吹き飛ばした。
そして、何事も無かったかのようにジャンガに向き直る。
「無粋なフクロウよね」
「いいのか? 悪けりゃくたばったかも知れねェぞ…あの野郎」
「今は関係ないわ。とにかく、あたしが一番愛しているのはジャンガ…あなたなの」
再び唇を近づける。
と、また別の男の声が聞こえた。
「キュルケ! なんでそんな奴と!? 今夜はぼくと激しく――」
言い終わる前にキュルケの炎球が男を吹き飛ばした。
悲鳴も上げずに落ちて行く男を露程も気にしない様子でキュルケは再度ジャンガに向き直る。
「時間は無駄にしたくないわ。太陽は直ぐに昇って来てしまうんだもの」
と、三度男の声が聞こえた。
今度は三人分、同じ台詞を口にしている。
「「「キュルケ! そいつは一体なんだ!? 何でそんな奴と一緒にいるんだ!?」」」
「フレイム」
扱う炎や『微熱』の二つ名とは正反対な、冷たい言葉で使い魔の名を呼ぶ。
フレイムは立ち上がり、猛烈な火炎を窓目掛けて吐いた。
火炎は窓ごと三人を吹き飛ばす。三人は炎に包まれながら仲良く落下していった。
「…随分とまァ、男を漁り捲くってるみたいだな?」
「言ったはずよ? 松明の様に燃え上がり易いって…。でも、今はあなただけを愛してる!」
キュルケはジャンガの頭を両手で挟むや、有無を言わさず唇を奪う。
反応する暇も無く、ジャンガは押し倒された。
(この雌牛……いい加減にしとけよ…)
もう我慢出来ない…、後々どうなろうと知った事か…。大体、主人の言う事を聞かないペットは始末に限る。
自分に圧し掛かる女を退かすべく、ジャンガは爪を構え――

バンッ!

その時、凄まじい勢いで扉が開かれた。
何だ? と思って目を向けるとそこにはネグリジェ姿のルイズが立っていた。
キュルケもそちらに目を向けるが、直ぐにジャンガに戻す。その間、唇を離そうとはしなかった。
ルイズは爆発一歩手前と言った表情でズカズカと部屋に入ってくる。
「キュルケ!」
ルイズの怒鳴り声にキュルケは漸く唇を離す。
起き上がり、ルイズを軽く睨む。
「何よ、ルイズ? 今は見ての通り取り込み中なの。帰ってくれるかしら?」
「人の使い魔に勝手に手を出しておいて偉そうに言わないでよ!」
「仕方ないじゃない、燃え上がってるんだから」
「あなた、こいつの事…心底嫌ってたんじゃないの!?」
ジャンガを指差し、ルイズは言った。
「そうね…確かに。でも、恋ってのは突然なのよ。自分も自覚しないうちに胸の内に芽生えて、熱を持っていく。
そして…ある日突然燃え上がるのよ。今がその時…、一度燃え上がった恋の炎は誰にも消し止められないの。
恋と炎に身を焦がすのはフォン・ツェルプストーの宿命。あなたが一番ご存知でしょう?」
ルイズはわなわなと震え、ジャンガをギロリと睨む。
その眼光はジャンガの物と寸分違わない凶悪な物だ。
「来なさい、ジャンガ」
「テメェに言われるまでもねェ」
立ち上がろうとするジャンガの左腕をキュルケが掴む。
「あら、お帰りになるの? まだ夜はこれからじゃない」
「放しやが――」
「放しなさいよ、ツェルプストー!!」
ジャンガの言葉を遮り、ルイズが叫ぶ。
そんなルイズをキュルケはニンマリと笑いながら見つめる。
「あら…、ひょっとして嫉妬?」
「なっ!!?」
唐突なその言葉にルイズは口をあんぐりと開ける。
キュルケは、ぷぷ、と口を押さえながら笑う。
「そうなのね? 嫉妬したのね? ふふふ、可愛いわね」
「ち、ちちち、違うわよ!? だだだ、誰がこんな、こんな、ば、化け猫なんかの事で…」
「隠さなくてもいいじゃない? 一緒に添い寝をしたくせに」
「添い寝?」
ジャンガは、何の事だ? と怪訝な表情を浮かべる。
彼はルイズとタバサが自分の腕を枕代わりにして寝た事を知らなかった。
「わーっ! わーっ! わーーーーーーーーっ!!!?」
ルイズはこれ以上無い位に取り乱し、喚き立てる。
そして、ジャンガの右腕を掴むや、力任せに引っ張る。
「と、とにかく!! こいつはわたしの使い魔なんだから、ツェルプストーに渡してたまるものですか!!!」
対するキュルケもジャンガの左腕を引っ張った。
「彼はあなたの使い魔を本気でやってる訳じゃないのよ? あなただって好きじゃないんだし、問題は無いじゃないの」
ルイズが引っ張り返す。
「大有りよ! 絶対に渡したりしないわ!」
キュルケも引っ張る。
「彼に告白したのはあたしが先よ! 勝負も恋も早い者勝ち…よっ!」
引っ張っては引っ張り返し、引っ張っては引っ張り返し、その繰り返し。
やがてジャンガもイライラが頂点に達し――

「ウゼェんだよ!!!」

両腕を思いっきり引き、腕にしがみ付く二人を真正面から衝突させた。
ゴンッ! と痛そうな音がして二人は完全に伸びてしまった。
仲良く倒れる二人を見下しながら、ジャンガは苛立たしげに鼻を鳴らすと部屋から出て行った。
途中、フレイムをジロリと睨み付けて。



――翌朝。
食堂は生徒達で賑わっている。――これは普通。
生徒達は食事をしながらもヒソヒソと話している。――余り珍しくない。
生徒達はある一点をチラチラと覗き見ている。――ちょっと珍しい。
視線の先ではキュルケが隣に座った相手に頻りに言い寄っている。――全然珍しくない。
キュルケの隣にはジャンガが、あからさまに不機嫌な顔で座っていた。――異常。

ジャンガはいつも通り厨房で朝食を取ろうとしたのだが、キュルケが現れて彼を連行。
自分の隣の席に強引に座らせ、あの手この手でアプローチを掛けてきたのだ。
悩ましい仕草でしな垂れかかったり、愛を囁いたり、スプーンで掬ったシチューを飲ませようともした。
ジャンガはそれらを極力無視しつつ、目の前のパンやら焼き魚を貪り、ワインを豪快に飲み干していく。
ジャンガの更に隣にはタバサが座っている。だが、今の彼女は目の前の料理に手をつけていない。
「信じない…、嘘…、これは夢…、わたしはまだ寝てる…、これは悪夢…、これは悪夢…、ぶつぶつぶつ…」
――何だか良く解らないが、意味不明な事を先ほどから繰り返し呟き続けている。
向こうのテーブルでは、ルイズが杖を圧し折らん勢いで捻じ曲げながら怒り狂った表情を向けている。
食堂の出入り口では茫然自失のシエスタが立ち尽くしている。
ジャンガは再び頭痛に悩まされた。

ちなみに、夕べのキュルケの”知り合い”達+太っちょが嫉妬に駆られて飛び掛ってきたりもしたが、
全員纏めて蹴り飛ばした。今、彼等は天井まで吹き飛ばされ、ムゥンズ遺跡の絵文字の如くめり込んでいる。

そんなこんなで食事を終わらせると、ジャンガはコソコソと食堂を出て行こうとする二人の生徒を見つけた。
ジャンガの目が自然と吊り上がり、次の瞬間には駆け出していた。
「待ちやがれ、ドリル頭!!!」
突然の怒号にモンモランシーとギーシュは、ビクッ、と身体を振るわせる。
恐る恐る振り向けば、そこには予想通りの相手。そして予想を大きく上回る恐ろしい表情。
有無を言わせず、ジャンガは彼女の胸倉を掴み上げた。
「オイ、ドリル頭…。俺が何を言いたいか…解るよな?」
モンモランシーは黙って頷いた。
ジャンガはあまりの怒りに引き攣った笑みを浮かべた。
「精力剤とか言ったよな? 精力剤程度であんな風になるのかよ?」
モンモランシーは首を振る。
「じゃあ…あれは精力剤じゃないって事だよな?」
「えと…、その…」
「答えやがれ…、あれは何だ? そして……」
「ダーリン♪ あたしを放って行っちゃ嫌よ~♪」
ジャンガの背に追いかけて来たキュルケが覆い被さった。
ジャンガは盛大にため息を吐くや、モンモランシーを睨み付ける。

「早く、こいつを何とかしやがれェェェェェーーーーーー!!!」

ジャンガの叫び声は学院中に響き渡るほど大きかった。



――数分後――

――モンモランシーの部屋――

「惚れ薬ぃぃぃーーー!?」
話を聞いたルイズが叫び声を上げる。
モンモランシーはルイズの口に手を当て、もう片手の指を立てて静かにの意を示す。
「禁制の品なんだから、大声を出さないでよ!?」
「そんな事は解ってるわよ! と言うか、どうしてそんな物を作ったのよ!? 何でキュルケが飲んだのよ!?」
モンモランシーとギーシュは事の経緯を説明する。
興味本位で禁断のポーションをギーシュと一緒に調合した事、
危険と知りつつギーシュの制止も振り切ってジャンガを実験台にしようとした事、
ジャンガがポーションを飲まずにキュルケに無理やり飲ました事、
そして現在に至る事包み隠さず話した。
ちなみに、今部屋にはモンモランシー、ギーシュ、ジャンガ、ルイズ、キュルケ、タバサの六人が居る。
「あ、あんた……バカにも程があるわよ?」
ルイズの言葉にモンモランシーは反論出来ずに項垂れる。
ジャンガはそんな彼女にキレる一歩手前の鋭い視線を叩きつける。
「なるほどなァ…、実験台か…、この俺様を…『毒の爪のジャンガ』様を実験台とはな…。キキキ…」
薄ら笑いを浮かべながらモンモランシーの胸倉を再び掴み上げる。
そして、苦しむ彼女の顔を真正面から睨み付けた。
「俺はどうやら最近妙に優しすぎたみたいだな。まァ色々あったからよ、そうなっても仕方なかったのかもな。
でもよ、羽目を外し過ぎだゼ。…正直ウゼェ、ウザ過ぎる。
ここらで一つ…バカなペットを躾け直しておくか。テメェの立場って物を解らせてやる」
言いながら爪を振り上げる。
その腕にギーシュは慌ててしがみ付いた。
「ままま、待ってくれ!? モンモランシーを傷つけないでくれ! 止められなかったぼくにも責任は在る!
だから、やめてくれ! お願いだ!」
ギロリと睨み付ける。
ギーシュは一瞬怯んだが、それでも必死に懇願する。
ジャンガは視線をモンモランシーに戻し、暫く見つめていたが、やがて爪を放した。
床に座り込み、咳き込むモンモランシー。
それを見下ろしながらジャンガは口を開く。
「この雌牛を元に戻せ…、そうすりゃ勘弁してやらなくもないゼ」
彼の背中には未だにキュルケが幸せな表情でしがみ付いていた。
漸く呼吸が整ったモンモランシーは、しかし首を振る。
「無理よ」
「ああン!?」
「どう言われても無理なのよ! 必要な秘薬も無いし」
「ンな事知るか!!! 金でも何でも貢いでその秘薬とやらを揃えろ! そしてとっとと戻せ!!」
「お金が幾らあっても無理、非売品なのよ…その秘薬『精霊の涙』は」
「持ってたって事はテメェは手に入れられたんだろうが!? もう一度手に入れて来い!」
「無理よ…、今と昔じゃ状況がまるで違うんだから」
「いいから何とかしやがれ、ドリル頭!!! じゃなけりゃ、テメェの見ててウザってェそのドリル髪!
一本残らず刈り取って、ただでさえデコなその頭…あのコッパゲが”マシ”に見える位のツルッパゲにしてやるぞ!!?」
鬼気迫る表情で怒鳴るジャンガにモンモランシーは後退る。
と、唐突にジャンガは落ち着いた表情に戻る。
「まァ…別に無理に言わなくてもいいか」
「え?」
ジャンガはニヤニヤした笑みを浮かべながら横目でモンモランシーを見つめる。
「別にテメェだけが当てになるわけじゃねェ。あの姫嬢ちゃんにでも相談するさ。…と、今は女王だっけか?」
モンモランシーは、ハッ、となる。ジャンガの考えが読めたのだ。
「お前が何とか出来ないんだからな…他を当たるさ。あいつなら女王だし、借りも在るんだから良い案出してくれるだろうゼ。
ああ、そう言や惚れ薬は禁制の品なんだよなァ? さ~て…姫嬢ちゃんに教えたらどうなるかなァ~…キキキ」
モンモランシーの顔が青くなる。
ジャンガはそんなモンモランシーの肩を爪でポンポンと叩いた。
「なァに、安心しやがれ。路地裏で生活するようになっても俺が先輩として生き方を教えてやる。
さんざん傷直してくれた礼も含めてな…。だからよ、安心しな」
そして、ジャンガは背を向ける。
「解ったわよ! 取りに行くわ!」
ジャンガは相変わらずのニヤニヤ顔で振り返る。
「そうかい? すまないなァ…キキキ。じゃ、直ぐに出るか」
モンモランシーが反応する。
「ちょっ、ちょっと…今から出るの!? 授業は!?」
モンモランシーがそう言った瞬間、ジャンガは窓へ移動していた。
「姫嬢ちゃんとこまで行ってくるゼ」
「解った! 解ったから止めて!!!」
「最初からそう言やいいんだよ…。タバサ?」
ジャンガに名前を呼ばれ、タバサはコクリと頷く。
窓へと近づき、口笛を吹く。シルフィードが窓の外まで飛んで来た。
最早ツーカーだった。
「それじゃとっとと行くゼ。…それで、場所は?」
ジャンガの言葉にモンモランシーはため息交じりに答えた。
「ラグドリアン湖よ。水の使い手はそこで水の精霊と契約を交わすの」
その言葉にジャンガはあの夜の事を思い返した。

「…あいつか」


新着情報

取得中です。