あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第6話 『ギーシュ・ド・グラモンに花束を』


先日、『春の使い魔召喚』の監督役をしていたコルベールは、トリステイン魔法学院に奉職して20年になる中堅の教師である。
彼はルイズが呼び出した、少女の左手の珍しいルーンと溶けて死んでしまった韻竜の事が気に掛かっていた。
儀式の日の夜から本塔の図書館に篭って書物を調べ、一般の本棚では満足する回答が得られず、教師のみが許される『フェニアのライブラリー』の中に居た。
一心不乱に本を探り、彼は少女が気を失っている間に写したルーンのスケッチと、ある古書の一節とを見比べ、慌てて学院長室へと走り出した。
本塔最上階の学院長室には、白く長い髭と髪を生やした学院長のオスマンと、その秘書で理知的な凛々しい顔立ちのロングビルが居た。
暇そうにしているオスマンがロングビルにセクハラをして、反撃を受けて折檻されていると、大慌てでコルベールが学院長室に入って来た。
何事もなかった様にオスマンは迎い入れて用件を聞き、コルベールは『始祖ブリミルの使い魔たち』とスケッチを差し出した。
それを見て、オスマンの表情が厳しく迫力のある目付きに変わると、ロングビルに退室させて重々しく口を開き、詳しい説明を促した。

ここで、時間を遡り、ルイズとミュズに目をやると、―――――
ミュズは、箒・チリ取り・雑巾・水の入ったバケツ・窓硝子・教卓を持って、目にも留まらぬ速さで学院の廊下を通り抜けて行く。
ルイズが目茶苦茶にした教室の片付けを、罰として魔法を使わずに行う様、倒れたシュヴルーズの代わりの教師によって命ぜられたのだ。
主人が受けた指示はその使い魔も同様に従うものであり、ミュズが掃除道具一式と壊れた備品の替えを運んでいるのはこのためであった。
教室に入ると、ミュズは黒板の前に立っているルイズに指示を仰ぎ、ルイズはやる気の無い声で答えた。
ルイズがしぶしぶと机を拭いている横を、ミュズはルイズに一々何をしたらいいのかを尋ねつつ、素早い動きで教室を綺麗にしていった。
結局、片付けが終わったのはお昼休みの前で、昼食を摂る為にルイズとミュズは食堂へと向かった。
道すがら、ルイズの錬金を「物質を素粒子レベルに分解した」とか、「真の真空で放射線を減退させた」とかと、ミュズは褒めちぎった。
訳の分からない話しにルイズは、口をへの字に曲げて眉をひくひくと動かし、黙々と進んで行く。

食堂に着くと、朝言われた通りミュズは椅子を引いて、ルイズに満面の笑みで言った。
「マスターの錬金は面白いです。今度は外でやって下さい――」
その言葉は過去に幾度となく、嘲笑と共に投げ付けられた暴言と似ていて、ルイズの琴線が不快な音を立てた。
ルイズは忠良だと思っていた使い魔にからかわれていた事にショックを受け、顔を赫然とさせ涙を堪えて、ミュズを怒鳴り付ける。
「もう、五月蝿いわね。あんたなんか、シエスタとか言うメイドの所に行っちゃいなさい!平民同士仲良くしてればいいのよ!」
ミュズは今にも泣きそうに顔を歪ませ、困惑した様子で怖ず怖ずと後退り、食堂を出て厨房へと走って行った。
「マスターにシエスタと仲良くしなさいって怒られてしまいました~」
ばたばたと諸手を挙げてミュズは厨房に入って来ると、そこに居たコックやメイドの間をすり抜け、シエスタに飛び付かん勢いで近寄った。
シエスタはミュズの叫び声に疑問を感じ、厨房の隅に場所を移してお昼ご飯を食べさせながら、ミュズにその意味を尋ねる。
ルイズに怒られるまでの言動や教室での出来事を事細かに説明していたが、ミュズはルイズが何故、怒ったのかが分からない様子だった。
ルイズが魔法を使えないのは、使用人の間でも有名な話で、ミュズがそのコンプレックスに触れてしまったのも理解出来た。
しかし、ルイズへの賛辞の意味はシエスタにとっても難解な物だったが、ミュズの言葉は純粋な尊敬から成り立っているのは分かる。
「ミュズさん。ミス・ヴァリエールは、食堂で大きな声を立てておしゃべりするのを止めさせる為に、怒鳴ったのですよ」
シエスタは敢えてルイズの事情を言わず、食堂でのマナーを教えた。
「なるほど」ミュズは大きく頷く。
「それに、疲れているとおしゃべりの返事をするのが煩わしいのですよ」
「そうなんですか」
「お掃除の後でお疲れになっていたミス・ヴァリエールには、ミュズさんの話が億劫だったのでしょう。こう言う場合は、一方的におしゃべりをしては駄目ですよ」
ルイズの魔法を見ても蔑視する事無く、キラキラと輝かせる瞳を曇らせない様に、シエスタは話をわざと逸らす。
「あと、『仲良くしてればいい』と言ったのは『手伝いをしなさい』と言う意味だと思いますよ。なので、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」
「はい、手伝います!」ミュズは明るく笑みを返した。

ルイズは美味しい昼食を摂って落ち着いていると、怒鳴り付けてしまった使い魔の事が頭を過ぎった。
あの時のミュズの瞳は、魔法の失敗の度に向けられる、珍妙だが取るに足らない物を見る冷淡なものではなく、希少で重宝すべき物を見る爛々としたものであった。
そもそも、単純な性格の子供らしいミュズが失敗を回りくどい言い方でからかうだろうか?
そんな事を頭に巡らせていると、こちらにちょこちょこと赤いものがメイドと一緒に来る。
デザートのケーキが乗った大きな銀のトレイをミュズが持って、シエスタがトングでケーキを摘んで一つずつ生徒達に配っていた。
ミュズとシエスタがルイズに近付く。シエスタはミュズを先に進むように促し、ルイズに話し掛ける。
「ミス・ヴァリエール。ミュズさんをお借りしております。」
「そう」
ルイズはこちらの様子を気にするミュズを横目に、素っ気なさそうに返事をする。
「ミュズさんは素直ないい子で、ミス・ヴァリエールの事を本当に尊敬していますよ。『マスターは凄い』と言っていました――」
ルイズは眉をピクリとさせて、顔をしかめる。
シエスタは真剣な目でルイズの目を見ながら言った。
「ミュズさんを信じてあげて下さい。ミュズさんのマスターはあなたなのですから」
「なによ」
ルイズがジト目で答えると、シエスタは顔を青白くさせた。
「すっ、すみません。出過ぎた事を言ってしまいました。失礼します」
そう言うと、シエスタはがばりと頭を下げて、そそくさと立ち去って行った。

ミュズとシエスタがトレイに乗ったケーキを配り終えようと、談笑している男子生徒達の横を通り掛かっていた。
その集団の中心で、金色の巻き髪で薔薇を挿したフリル付きのシャツを着た少年が、周りの友人から口々に冷やかされていた。
ギーシュと呼ばれるその少年が大袈裟に脚を組み替えると、ズボンのポケットから紫色の液体が入ったガラスの小壜が落ちた。
小壜がコロコロと転がってミュズの足元へ来たので、その様を見ていたミュズはギーシュに呼び掛けた。
「あのー。何かガラスで出来た物が落ちましたよ」
ギーシュは気が付かないのか、ミュズの方を振り向かない。
ミュズはトレイを片手でバランスを崩す事も無く易々と持ち、しゃがみこんで小壜を拾い上げた。
「はい、落とし物です」それをミュズはギーシュの目の前に差し出す。
ギーシュは苦々しげに、ミュズを見つめると、その小壜を押しやった。
「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」
その小壜の出所に気づいたギーシュの友人たちが、大声で「モンモランシー」と言う名前を出して騒ぎ始めた。
ギーシュが友人達に何かを言いかけた時、後ろのテーブルから一人の少女がギーシュに向かって歩いてきた。
栗色の髪をした、茶色いマントを羽織った少女はギーシュの名を呼ぶと、ボロボロと泣き始める。
更に遠くの席から見事な縦ロールの少女が立ち上がって、厳めしい顔付きでギーシュの前にやって来た。
ギーシュを冷やかしていた友人の一人がその少女の殺気に気付き、その顔付きを見て「ひっ、モンモランシー」と呟く。

モンモランシーはギーシュに近寄ると目を三角にして、開口一番に口を尖らせてまくし立てる。
「いいかげんにギーシュッ!いったい誰が好きなのかはっきりしてちょうだい!」
「あー、そうそう。はっきりさせた方がいいと思うぞ!」
周りの友人からも合いの手の様に賛成の言葉が飛び、ギーシュは目を泳がせ激しく動揺する。
「あんたが女の子の間をフラフラしてんのがそもそもの原因なのよ!」
モンモランシーは顔を真っ赤にして、追い討ちをかけた。
ギーシュは冷静な態度で椅子から立ち上がって二人の少女に向かい、拳を握り締め目を閉じ頬に汗を伝わせつつ語り始めた。
「ふ……みくびられたものだな!おのれの心は初めから決まっているんだ!」
「え?」
泣いている少女とモンモランシーはギーシュの言葉に驚き、胸をときめかせて目をしばたかせた。
そして、ギーシュは真剣な目付きで言い放った。
「両方だ!!」
騒ぎを聞きつけた生徒達から、すり抜ける様に突然、一人の少女が現れた。
その少女は、大人びた雰囲気でギーシュよりも背が高く紫のマントを付けて、のんびりした口調でギーシュに問い質す。
「えー。じゃ、わたしは。わたしはー?」
「んーじゃ、三人だっ!」
ギーシュはその少女に真面目な顔を向けて答えた。
「へーせいを――」
モンモランシーはギーシュの態度に呆れてうなだれた。
「装うんじゃない!!」そう叫ぶとギーシュに飛び掛かる。
紫のマントの少女から後頭部にオルテガ・ハンマーを、茶のマントの少女から水月に正拳突きを、モンモランシーから顔面に真空飛び膝蹴りを、ギーシュはくらった。

既に分厚くなった人垣を掻き分けてルイズは、目の前で行われている騒ぎを見ているミュズに近寄った。
ミュズの様子を遠目に見ていたが、あれよあれよと人集りが大きくなるので心配なった次第なのだ。
(ミュズと死んでしまったが)韻竜を召喚に成功し契約も上手くいったので、魔法がやっと使える様になったと思っていた。
その矢先の失敗を、訳の分からない話しをするミュズへの苛立ちに転化するのは、貴族のする事では無い。
臍を曲げて穿った見方をするのでは無く、シエスタの言う通り、主として下僕であるミュズの事を信じてあげるべきだった。
ルイズはそう考えながらミュズに向かっていた。
渦中にいたミュズの元に来た時にはモンモランシー達の姿は無く、屍の様に倒れたギーシュと立ち止まる大勢の野次馬だけだった。
「全く、構ってられないわ。浮気がいけないのよ」
ルイズはそう言いながらミュズの肩を掴み、回れ右をしてこの場を離れようとした。
「マスター、浮気って何ですか?」
「え?いやっ、それは――」
「わるいこと?」
「そうね。悪い事ね」
ミュズが急にしてきた質問に答えていると、ボロボロになりながら起き上がったギーシュが『薔薇』が何たらと演説を始めていた。
そこに、ミュズの一言が通る。「あのー。ギーシュ、浮気はだめですよ」
周囲に沈黙が流れた。

ギーシュの友人達が、どっと笑った。「その通りだギーシュ!お前が悪い!」
ギーシュの顔にさっと赤みが差すと、目を尖らせて吊り上げた。
「平民の分際で貴族である僕を呼び捨てするなんて。なんて礼儀知らずなんだね、君は!?」
ギーシュはミュズに向かって怒鳴り付けると、ルイズはミュズを庇う様に間に割って入った。
「やめて。この娘には私から言い聞かせておくから――」
「ふん……。ああ、そいつが……、ゼロのルイズが呼び出した平民か?」
ギーシュは、馬鹿にした様に鼻を鳴らして言った。
「魔法に失敗なんかしてるから、平民に侮られるんじゃないのかい?」
ルイズはここでギーシュの嘲りを我慢すれば、これ以上の大事にならないと思い、口を真一文字に閉じてグッと堪えた。
「違います。マスターの魔法は素晴らしいです」
ミュズはギーシュが言った事を正す様に口を出した。
「あれが素晴らしいだって?よかろう。ならば、真の魔法を見せてやろう」
そう言うと、ギーシュは胸の薔薇を取り出してミュズにレビテーションをかけ、ルイズには手の届かない空中に浮かび上がらせた。
「ルイズ!悪いな。君の使い魔をちょっとお借りするよ!」
ギーシュはミュズの手を掴み、空中を引きずる様に持ち去って行った。

ギーシュの友人達が、わくわくした顔で立ち上がり、ギーシュの後を追った。周りの野次馬も面白い見世物が見れると、それに倣って着いて行った。
ギーシュは、貴族に無礼な態度を取った平民に魔法を以って、その優位性を教えてやるのだと、息巻いていた。
道すがら、ギーシュはミュズが銀のトレイを持ったままの事に気が付き、近くに居た黒髪のメイドに言った。
「おい、そこのメイド!トレイのケーキはお前が配っておけ」
ミュズが心配だったシエスタは恐る恐る追いかけていたのだ。
ぶるぶる震えながら近寄って、トレイを受け取りミュズに小声で話しかけた。
「あ、あなた、殺されちゃう……」
「え?」
「貴族を本気で怒らせたら……」
「大丈夫です。魔法を見せて貰うだけですから」
ミュズがそう言い返していると、シエスタはギーシュの友人の睨む様な視線に気付き、だーっと走って逃げてしまった。
今さっきまで人集りが出来ていた所にぽつりと、ルイズは取り残された。
「ああ、もう。ほんとに、なんでこんな事になっちゃうのよ!」
ルイズはミュズの後を追い駆けた。

―――――そして、舞台はヴェストリの広場へと移る。



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