ここどこだろう
わたしはなにをしているんだろう
わたしはなにをしているんだろう
「では、式をはじめる」
わたしってなに? わたしってだれ? あなたはだれ?
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は……」
しらないひと
「誓います」
ちかう? なにを?
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は……」
しらないひと
「誓いねぇ……。そうだな、どうする? あ・い・ぼ・う?」
あいぼう? なんだっけそれ?
「チッ! 起きやがれ! 全く、これだから弱っちいゴミむしは嫌いだ」
おきる……起きる? そうだ、起きなきゃ。
「あれ? ここは……?」
目の前には知らない人……、いや違う、この方はウェールズ皇太子殿下だ。
隣にいるのはワルド? どうしたのかしら? やけに驚いた顔をしている。
視線を落とすと、わたしは見慣れないマントを付けていた。確かこれは、新婦のまとう乙女のマントだ。
隣にいるのはワルド? どうしたのかしら? やけに驚いた顔をしている。
視線を落とすと、わたしは見慣れないマントを付けていた。確かこれは、新婦のまとう乙女のマントだ。
「ちょっとワルド、これは何なの!? 説明して!」
「ルイズ……君は……」
「ルイズ……君は……」
ワルドに説明を求めるも、何一つ要領を得ない。
そんな中、わたしには聞き覚えのある『声』が響いた。
そんな中、わたしには聞き覚えのある『声』が響いた。
「ククッ……このワルドとかいう性悪術師は、相棒と結婚してぇんだとよ」
突然聞こえた『声』に戸惑うワルドと皇太子殿下。
しかし、直後に響いた『声』によって、わたしも含めた皆が更に驚くことになる。
しかし、直後に響いた『声』によって、わたしも含めた皆が更に驚くことになる。
「邪魔なセプー雌を殺してでもな」
「やべえ! やべえぞおめ達!! 急げ急げ!!」
タバサの竜に乗ってアルなんちゃらへ向かう途中、突然サビ剣が騒ぎ出しました。
「充分急いでる」
タバサの返事を聞いても納得できないのか、サビ剣は騒ぎ続けました。
「もうほとんど時間が残ってねえ! このまんまじゃ封印が解けちまう!!」
時間が無いのは私のせいです。私の治療のために時間を取らなければ、もしかしたら今頃はアルなんちゃらにも着いていたかもしれません。
「でも、これ以上急ぐと危険」
そう言ってタバサが私を見ました。
恐らく、私の身体を案じて、少し速度を調整してくれていたのでしょう。
なら私の返す言葉はこれしかありません。
恐らく、私の身体を案じて、少し速度を調整してくれていたのでしょう。
なら私の返す言葉はこれしかありません。
「私の事は……気に……しないで下さ……い」
乳でかとキザ男は心配そうに私を見ましたが、タバサはこくんと頷くと、竜に向かって何か囁きました。
「ぐっ……!!」
タバサの術で軽減はされているものの、急激な加速で伝わる衝撃が痛みになって走りました。
慌てて乳でかがタバサを止めようとしましたが、私が乳でかを手で制して頷くと、難しい顔をしたままですがしぶしぶ納得してくれました。
慌てて乳でかがタバサを止めようとしましたが、私が乳でかを手で制して頷くと、難しい顔をしたままですがしぶしぶ納得してくれました。
「どうか……間に合って下さい……」
「邪魔なセプー雌を殺してでもな」
邪魔なセプー雌? 殺した? 一体どういうこと?
セプーって確かダネットの……そうだ、ダネット!
セプーって確かダネットの……そうだ、ダネット!
「ダネット! ダネットはどこ!? ねえワルド! ダネットはどうしたの!?」
そうだ思い出した。ダネットは仮面のメイジの魔法を受けて……。
「落ち着いてくれルイズ! 違う! 違うんだ! 君の使い魔が死んだのは――」
……死んだ? ……誰が?
「え……? 待ってワルド、どういう事……? 死んだって、また冗談ばっかり言――」
そこまで言って、わたしの脳裏にワルドとの会話が思い出される。
『残念ながら、君の使い魔は……彼女は死んだ。ライトニング・クラウドの直撃を背中に受けて……』
確かに聞いた。そしてわたしはこう返した。
『そう。残念ね』
まるで道端で小銭を落とした程度の口調で。
「うそ……」
「落ち着くんだルイズ!」
「落ち着くんだルイズ!」
何よこれ? 何でわたしの知らない記憶があるのよ?
第一、ここは何? わたしとワルドの結婚式?
もう何が何やら訳がわからない。
第一、ここは何? わたしとワルドの結婚式?
もう何が何やら訳がわからない。
「思い出したか相棒? そう、あのセプー雌は死んだ。いや、殺されたんだよこのワルドって男にな」
「くっ……! さっきから何なんだこの声は! どこから喋っている! 出て来い!!」
「くっ……! さっきから何なんだこの声は! どこから喋っている! 出て来い!!」
『声』が響く。わたしの知っている『声』が。
「ククッ、凄かったぜぇ? 死にかけのセプー雌に雷の術をもう一発ぶち込みやがった。見ててスカッとしたぜ」
『声』を聞き、疑いの眼をワルドに向ける皇太子殿下とワルドの姿。
「ワルド君!? 君は一体!?」
「こ、これは違うのです殿下!! これはきっと何かの間違いで――」
「こ、これは違うのです殿下!! これはきっと何かの間違いで――」
焦るワルドの姿に、もう一つの風景がダブって見える。
これはわたしが『目を閉じて見ていた』風景。
これはわたしが『目を閉じて見ていた』風景。
『何をするというと……例えばこんな事かな?』
『お、おい! おめ何を!?』
『お別れだ、ガンダールヴ』
『お、おい! おめ何を!?』
『お別れだ、ガンダールヴ』
倒れたダネットに向かって、笑いながらライトニング・クラウドを放つワルドの姿。
「い……嫌……嘘よ、こんなの嘘よ……」
「ルイズ!」
「ルイズ!」
わたしの肩に縋り付く様に飛びつくワルド。
「いやぁぁぁっ!! 離してっ!! 離してっ!!」
しかし、わたしはワルドの手を払い、飛び退くようにして後ろへ下がる。
するとワルドは、先ほどまでの焦っていた様子から、すっと目を細くし、表情を消していった。
するとワルドは、先ほどまでの焦っていた様子から、すっと目を細くし、表情を消していった。
「…………全く、まさかこんな結果になるとは」
「わ、ワルド君! 事情をせつめ――」
「わ、ワルド君! 事情をせつめ――」
そこまで言って、皇太子殿下の動きが止まった。
続けてつんとする臭いがし、真っ赤な血がわたしの目に入る。
続けてつんとする臭いがし、真っ赤な血がわたしの目に入る。
「少々順番が狂ってしまったが仕方ない」
血の付いた杖を振り、カタカタと膝を震わせるわたしに向き直るワルドを見て、一際大きな『声』が響いた。
「ハハッ! いいぜそのツラ!! ゴミむしにしとくのはもったいねえツラだ!!」
「これは……」
突然、私の目に、血の付いた武器を構えるエロヒゲの顔が見えました。
その風景はおぼろげで、元の景色と混じって見えます。
その風景はおぼろげで、元の景色と混じって見えます。
「ちょっとどうしたのよダネット! 立ったら危ないわよ!」
乳でかの声が聞こえましたが、私は立ち上がったままじっと前を見つめました。
「私を……」
自然と言葉が口から漏れました。
見える。聞こえる。感じる。
この感覚は、あの時とは違うけれど同じもの。
離れているけれど、左手に感じるこの繋がりがあればきっと。
見える。聞こえる。感じる。
この感覚は、あの時とは違うけれど同じもの。
離れているけれど、左手に感じるこの繋がりがあればきっと。
「私を『支配』しなさいルイズ!!」
「こ……来ないで……」
「…………」
「…………」
わたしの言葉を無視して、ワルドは一歩一歩、確実に近付いてくる。
その時、『声』が響いた。
その時、『声』が響いた。
「どうした相棒? お困りかい? ククッ」
『声』はのんびりとしていて慌てた様子も無く言葉を続ける。
「困ってんなら助けてやるぜ?」
救いの光が差す。わたしは一も二も無く助けを求めようとした。
その瞬間、脳裏にあの声と顔が浮かぶ。
その瞬間、脳裏にあの声と顔が浮かぶ。
『お前は言いましたよね? きぞくは背を向けないって。逃げないって。今のお前は逃げてませんか? それがきぞくなんですか?』
逃げる……今、わたしがしようとしたことは逃げる事じゃないんだろうか?
「おい相棒! さっさとしやがれ! 助けてやるって言ってんだ!!」
わたしは何だ? 偉そうに貴族貴族と口にして、いざっていう時は逃げて人任せ?
これが貴族? わたしが望んだ貴族?
これが貴族? わたしが望んだ貴族?
「違う……」
「相棒! ヤツが来るぞ!!」
「相棒! ヤツが来るぞ!!」
わたしは……わたしは……。
「どこの誰の声か知らんが残念だったね。どうやらルイズは諦めたようだよ。」
「クソが! おい相棒!! 念じろ! 誓え!! 助けてくれって言いやがれ!! 身体の所有権を渡しやがれ!!」
「クソが! おい相棒!! 念じろ! 誓え!! 助けてくれって言いやがれ!! 身体の所有権を渡しやがれ!!」
わたしは!!
「逃げない……逃げてたまるもんですか!!」
「何!?」
「何!?」
今のわたしには杖も無いし力も無い。
杖があったとしても魔法の使えない『ゼロ』でしかない。
杖があったとしても魔法の使えない『ゼロ』でしかない。
「だったら何だって言うのよ!!」
拳を振り上げてワルドに殴りかかる。
これが今のわたしの精一杯の力だ。でも、唯一の力なんだ。
これが今のわたしの精一杯の力だ。でも、唯一の力なんだ。
「おい相棒!!」
「舐めるなぁっ!!」
「舐めるなぁっ!!」
慌てた様子の『声』と、怒鳴るようなワルドの声がする。
それと同時に、わたしの身体に衝撃が走る。
それと同時に、わたしの身体に衝撃が走る。
「げほっ!!」
吹き飛ばされた後に痛みが走り、ようやく自分がワルドに殴られ吹き飛ばされたのだとわかる。
痛い、苦しい、泣きたい。
痛い、苦しい、泣きたい。
「でも……」
諦めない。諦めちゃ駄目だ。
挑んで駄目なら逃げる。自分の足で走って逃げる。自分の力でやってやる。
挑んで駄目なら逃げる。自分の足で走って逃げる。自分の力でやってやる。
「無駄だ」
脱出できそうな場所を探していたわたしの目に、ワルドの姿が映る。
悔しい。逃げることも出来ない自分の力の無さが悔しい。
でも、絶対に泣かない。泣くもんですか。
悔しい。逃げることも出来ない自分の力の無さが悔しい。
でも、絶対に泣かない。泣くもんですか。
「殺しなさい」
「相棒!!」
「相棒!!」
わたしの言葉に焦った『声』が響く。
どんなに焦ったって無駄よ。これがわたしに出来る唯一の反攻なんだから。
どんなに焦ったって無駄よ。これがわたしに出来る唯一の反攻なんだから。
「……手に入らぬのなら、これも仕方がないか」
ワルドの冷たい声が耳に入る。でも、怖くはない。死んだらまたあんたに会えるはずだから。
そうでしょ? ダネット。
そんな事を考えていると、突然、わたしの頭に聞き覚えのある声が鳴り響いた。
そうでしょ? ダネット。
そんな事を考えていると、突然、わたしの頭に聞き覚えのある声が鳴り響いた。
『私を『支配』しなさいルイズ!!』
……何よこれ? 死ぬ間際になったからあんた化けて出てきたの?
支配って何よ? 全く、最後の最後まで訳がわかんない奴ねあんた。
第一、わたしは自分の力でどうにかするの。あんたの力は借りないわ。
全く、あんたってどうしてそう自分勝手でいっつもわたしの言う事なんか聞きやしなくって
支配って何よ? 全く、最後の最後まで訳がわかんない奴ねあんた。
第一、わたしは自分の力でどうにかするの。あんたの力は借りないわ。
全く、あんたってどうしてそう自分勝手でいっつもわたしの言う事なんか聞きやしなくって
ずっと、わたしの傍にいる。
「……どういうつもりだルイズ?」
どういうつもりって? ああこれ? 何か自然とね。
そう、自然に身体が動くのだ。
手が動き、力を流し、呼び求める。
そう、自然に身体が動くのだ。
手が動き、力を流し、呼び求める。
「相棒……? まさかコイツは!?」
身体を括り、魂を括り、我が物とし。
「何だこれは!? くっ! させん!!」
支配する。