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虚無と最後の希望 Level12


level-12「師弟」

 ルイズとワルドが部屋で話し合ってる頃、ルイズが懸念した通り扉の隣で立ち尽くすチーフ。
 当たり前と言うか、他の宿泊客の視線を集める事になるがチーフにしてはどうでも良かった。
 最優先事項は『ルイズの安全』であり、自身の外聞は二の次以下。
 要は他人の視線は気に掛ける意味さえ無いと言う事。

「………」

 そんな警備をする中、センサーに右側面から近寄ってくる動体反応を感知。
 一遍視線を向け、反応の主を確認して視線を戻す。
 近寄ってきたのはタバサ、その背中には不似合いな剣を背負っていた。

「訓練」

 そう言うタバサを前に、チーフは何時もの練習をしておくように言おうとすると

「子爵は強い、ルイズの守りは十分」

 先手を取ったのはタバサ
 ルイズの護衛をやらなければいけない内心を知って尚、訓練をして欲しいとタバサ
 だが、技術指導を引き受けた身としては断るわけにも行かない

「……しかし」

 タバサが言うように、ワルド子爵の身のこなしは訓練されたそれと同じ
 王の護衛を任される魔法衛士隊の隊長であれば、魔法も存分に長けているのだろう
 そもそも、魔法衛士隊は護衛を主にしている為に文句の付け様が無い
 任せられる相手が居る事にある程度の安心を置く、それが狙いだったのか、タバサが再度攻撃を仕掛けてくる

「………」

 藍の瞳に見つめられ、中には確固たる意思が確認できた
 タバサのその熱心な気概は見上げたものだが……、その服装がパジャマだったのはいただけなかった

「なら買いに行きましょ♪」
「ッ!?」

 どこに居たのか、タバサの影から現れたように見えたキュルケが「服を買いに行こう」と提案
 タバサがビクリと震えた後、脱兎の如く駆け出した
 がそれを上回る速度で捕らえるキュルケ

「悪くない」

 そのスピードを見て、つい呟いてしまった
 襟を掴まれズルズルと廊下を引きずられるタバサの瞳は、何処か遠くを見るように虚ろ
 それを見送り、黙々と警備を続けるチーフであった





 タバサはパジャマから着替え、もとい着替えさせられ、チーフを半ば引っ張る形で宿の中庭の修練場に連れて行く
 ちなみに着替えはキュルケが買ってきた学院制服と似たような、白のブラウスに黒のプリーツスカート
 控えめ且つ微細な装飾の衣服、ある程度の観察眼があれば一見で目を引くブラウスのきめ細かな銀糸の刺繍、スカートにも同様の刺繍が施してある
 質朴に見えて豪奢な、タバサの物静かな印象を損なわず、尚且つ貴賤の格を明確に表すような、要するに平民が手を出せないような服を着ている
 無論見合うだけの金銭が掛かっているのだろう代物を、こうも簡単に買って来るのは見栄えを重視する貴族ならではと言った所か

 そしてその衣服に似合わない、以前に身長140サントほどの少女が剣を構える方が似合わない──が互いに向かい合い、手には剣を握る
 片やデルフリンガー、片や師事を乞いた次の日に買った剣
 形としては両刃の刃渡り30サント程の、ブロードソードなどと呼称される片手剣
 普通ならば鈍色、鋼色と言うような灰色を基調とした白濁色だが、その刀身には多少の赤が混ざっていた
 手に取ってみると明らかに軽い、同じサイズの剣より半分と言った重量
 デルフを取り出し、軽く叩き合わせると

『いでッ!』

 と呻いていた為、相当な切れ味がある様だった
 この重さで中々の切れ味、つくづく魔法は理解し難い

 また、これを選ぶに当たって幾つかの候補が出た、と言うよりタバサが持ってきた
 初めはツーハンドソード、タバサは身長を超える両手剣を購入して持ってきた
 どう見ても持てない、持ち上げる事さえ出来ずに地面に転がしていた

 その次はバスタードソード、片手半剣と呼ばれるツーハンドソードより一回り小さい両刃の剣
 一回り小さいと言っても、やはり持ち上げる事すら出来ずに地面に転がしていた

 三度目の正直か、持ってきたのはロングソード、同じくバスタードソードより一回り小さい剣
 1メイル近い剣ではあるが、何とか持ち上げる事は出来た
 そう、ただ持ち上げる事だけだ、振り回す事などタバサの細腕では不可能

 そして試行錯誤とは言えない結果、選ばれたのは上記の剣
 本来ならばバックラーと呼ばれる30サントほどの盾が付くのだが、受けるも殴るもタバサに合わないので外した
 因みに、買ってきた武器屋はデルフを買った店らしく、適正価格だったらしい
 勿論値段はそれ相応だっただろうが

 タバサはそれを握り、構えて切っ先をチーフへと向ける
 それに応じてチーフは右手にデルフを握り、右半身を前に出す
 タバサは同様に、しかしチーフ以上に右半身を前に出す
 二人から離れたところでキュルケがそれを見つめ、訓練が始まった

 まずはゆっくりと、誰でも避けられる様な速度でデルフを横に薙ぐ
 それを最小限、体を屈めて避ける
 タバサは体全体を伸ばしながら、剣を手首に向かってゆっくり突き出す
 その剣先がチーフの手首に当たるか否かの所で二人の動きが止まる

「今のはダメだ、体が伸びきり次が起こせなくなる」

 その言葉に頷くタバサ、注意点を考え、修正点を踏まえて実行に移す
 動いて確認した後、最初と同じ間合いに戻り、先ほどより少し早い動きで似たような動きをする
 その次からはチーフがタバサの攻撃を避けて、反撃を繰り出す
 回を重ねるごとに合が増え、風を切るような速度に達する
 決して鉄の打ち合う音はしない、聞こえて来るのは港の喧騒と風切り音のみ
 タバサの真剣な瞳はチーフの一挙一動を確り捉えて的確な反撃を行う
 避けられない、あるいはチーフに攻撃を当てるとそこで止まってもう一度最初から始める

 属性系統が風だからかどうかは分からないが、タバサは動きは素早い
 体格も小さいがために動きは軽快、動体視力もかなり高く訓練開始当初からある程度の軌道を見切っていた
 それを見て、彼女に有った戦闘スタイル、剣とタバサの長所を生かしてカウンター、あるいは一撃離脱が有効と考えた

 勿論防御などは行わせない、その理由はタバサの体格
 一般平均の体格を持つ男と一回打ち合うだけでも体ごと押し返される
 倒れればそのまま止めを、倒れないにしてもバランスを崩す事は間違いない
 増してや、2メイルを超えるチーフと1.5メイルはあるデルフリンガーの一薙を受ければ何メイルも宙を飛び、何メイルも地面を転がるだろう
 勿論そこまで力を振るわないが、当たれば手足の骨を軽く叩き折る位の威力はある

 そんな考えを他所に、息を切らせつつ避け続けるタバサ
 手加減をしているとは言え、魔法の力で身体能力が向上している状態の攻撃をここまで避けきるとは感心する
 剣を扱うにしろ既に手馴れた物となっていて、その特性を正しく理解し攻撃を繰り出している
 恐らくは夜、誰もが寝静まった所で剣を振っているのだろう
 その証拠に、か細い手のひらには幾つもの潰れたまめが見えた
 治癒魔法を施していれば跡すら残さず消えるだろうが、治さないのは積み重ねた鍛錬の証明か
 その行いに折れぬ強靭な意思が垣間見える



 そしてその強靭な意志に答えたのは良いが、今言った通り基本的にタバサは白兵戦向きではなく白兵戦を行う者達と比べて多数の部分で劣っている
 体格が小さく、膂力が弱く、持続力が低い
 どれもが勝利を掴むために必要なファクターである
 だが反比例していると言って良いだろう、劣る部位を補って余りある他の能力
 タバサには敵をすり抜ける機動力に、敵の動作を見逃さない動体視力に、並のメイジを圧倒する精神力がある
 そして、何より決して折れぬ意志がある

 その意志が最も大切、それが無ければ大の男でも音を上げる訓練に付いて来れなかっただろう
 また、その秀でた才能は至極簡単に敵を葬る事が出来る組み合わせ
 その能力全てに見合うやり方もあるが、今はそれを教えない
 それだけを学べばすぐにでも目的を果たしに行くだろう
 結果、出来上がるのはタバサの死体と言った所か

 狙うは一国の王、事情はどうあれ王の周りを守るのは精鋭と言って過言ではない
 タバサのスペルレベルはトライアングルメイジ、片や王を守るのは何名ものスクウェアメイジ
 上級のメイジが唱える『探知』などの魔法は闇夜に紛れようと的確にその位置を捉える
 如何に上手く隠れようと、魔法は異物を見逃さない
 故に魔法は近接戦闘技術を容易く引っくり返す、付け焼刃では容易にへし折られる
 確実を期すならば、己が成長しきるまで待った方が断然成功しやすくなる
 その間に戦術や戦略などを学ぶのも良い、今は使えなくとも何れは役に立つ時が来る
 理由はタバサはガリア国王の弟の娘、つまり王位継承権を持つと言う事

 有能で善良だったオルレアン公は数多の者から慕われていたと聞く
 不慮の死だったが実際には毒殺されたと言う噂もあるだろうし、少なからず現国王に対して不信感を持つ者もいるはずだ
 それを踏まえ、その娘であるタバサ、シャルル大公の娘シャルロットとして祭り上げられる事もあるかも知れない

 そして、タバサの願いが叶えば十中八九、シャルロットとして王座に付く事になるだろう
 その後役立つのが先ほどの『上に立つ者の嗜み』と言うわけだ

 と言っても、タバサはどうしても自分の手で、と言うので近接戦闘技術を教えている訳だが
 どちらを駆使しても届かないだろう敵が現れるかもしれない、その時を想定した座学も始めている
 具体的には罠を仕掛ければいい、己が有利に働くよう誘い込めばいい
 力が勝る敵と正面からぶつかる必要などはどこにもない
 その身が危険ならば隠れればいい、隠れられなければ逃げればいい、
 そしてそこから生み出された反撃の機会を逃さず使い、敵を地に伏せさせ、自身は生きて立って居ればいいと教え込んだ
 また、それを教える前にその行いが貴族の名誉や自尊心を傷つけるだろう事だと教えたが

『その結果で卑劣と言われようが関係無い、ただ願いが叶うなら……』

 この身さえも捨ててしまう覚悟がある、と彼女は言った

 その決意を、願いが達せられる確率を高める手段が近接戦闘技術の習得
 何故近接戦闘技術なのかと言うと一部を除き、メイジは接近戦に弱い
 接近される前に敵を撃つのが基本で、それしか有り得ないからだ
 勿論精神力が切れたならば下がるだろうが、そうも行かない状況も多々あるはず
 タバサもそれを懸念していたのだろう
 魔法がどう言う物か聞いた時に非常に詳しく話してくれた事からそういう状況に陥った事もあったのだろう
 魔法以外の戦闘方法を知らぬ故に、類稀なる近接戦闘技術を持つチーフに指示を請いた

 無論、近接戦闘技術は最終的な守衛、あるいは攻勢に用いる二次的な手段
 要は魔法が使えなくなった時の予備の戦闘方法に他ならない
 戦場で『精神力が切れていたので見逃された』などと馬鹿な事が起こるわけも無い
 戦場ではたった一人で何十人、下手をすれば数百もの兵士やメイジを倒してしまう者も居る、だから優先してメイジを狙うと言う
 飛び交う矢や魔法を防ぐ事が何度もあるだろう、それで精神力が切れればただの人、故に魔法無しでも戦える様にならなくてはいけない

 チーフも同様、基本は銃による射撃で魔法の精神力と同じく、消費してしまう弾薬が尽きた時の副次な攻撃手段
 もっとも、チーフの体格と膂力から放たれる打撃は容易く人を死に至らしめることも出来る為、打撃のみで切り抜けた時もあった

 話が逸れたが、教わっている物は死なない為の、勝つ為の、生き残る為の技術である

「よくやるわよねぇ、毎日こんな事してるんでしょう?」

 今の今までただ黙々と見つめていたキュルケは、二人の訓練を見つめながら話しかけた

「───」

 タバサは一杯一杯なのか、キュルケの問いに答えられない

「ああ、毎日だ」

 タバサと違い、打ち合いながらも平然と答えるチーフ
 要は反復練習だ、頭で覚えるのではなく体に覚えこませる必要がある
 咄嗟に、頭で考えるより先に動かなければ意味が無い
 その効果か以前より素早く、反射的に動ける様になったタバサ
 この反復訓練に有る程度慣れれば、フィールドを変えたりして対応力を伸ばすメニューを既に組んでいた

「こんな時にまでやらなくて良いと思うけど、本当に必要なの?」
「俺は必要だと思うぜ?」

 チーフに振られながらデルフも答える

「それに嬢ちゃんは才能がある、磨いた分だけ輝くと思うわけよ」

 妙なドップラー効果で声が小さくなったり大きくなったりしながら才覚が有るとデルフは言った

「それは見てればわかるけどね」

 以前訓練風景を見た事あるが、明らかに今の方が速い
 そう思い、キュルケは風切り音を聞きながら頷いた





「今日はここまでだ」

 長時間の訓練、辺りは夕日によって赤く染まっていた
 大粒の汗を流し、肩を上下させて呼吸を行うタバサにキュルケが歩み寄って声を掛ける

「はい」

 用意していたビンをタバサに手渡す
 勿論チーフにも大きめのビンを手渡す、見てみると中には透明な液体が揺らめいていた

「咽渇いてるでしょ?」

 タバサは頷いてビンを唇に当て傾ける
 口から入り、喉を通って胃に流れ込む水は快感に近い感覚

「こんなに汗かいて、お風呂に入りましょ」

 大量の汗でシャツが濡れ、肌色に透けている
 タオルでタバサの汗を拭い、背中を押して宿内に入っていく
 チーフはその後姿を見て、声を掛けた

「タバサ、今日は止めておけ」

 それが何を意味するか、わかるのはチーフとタバサ、あとはデルフのみ
 足を止めたタバサは数秒の沈黙後、振り返って頷いた

「何? 何を止めておくの?」
「………」

 キュルケの問いに答えず、スタスタと宿に入っていくタバサ

「ちょ、ちょっと!」

 慌てて追いかけるキュルケ
 二人が宿に入って行ったのを見送り、デルフが口を開いた

「……相棒、ありゃあやるんじゃねーか?」
「かもな」
「あの根性には恐れ入るが、力入れ込みすぎて壊れると思うぜ」
「その時は止める」
「ま、相棒がそう言うならもう言わねーがな」

 懸念を口にしながら、チーフとデルフは沈み行く太陽を見つめていた





 宿の自室に戻ったタバサは、鞘に収めた剣を立てかけて今日の訓練を思い出し、修正点などを考え始めていた

「………」
「ちょっとタバサ、そんな汗で濡れた服のままじゃ気持ちが悪いでしょう?」
「………」
「タバサってば!」
「………」

 視線すら向けないタバサに業を煮やしたのか、キュルケの声質が明らかに変わった

「……もう、しょうがないわねぇ」

 その声は何を含んでいたのか、悪寒を感じさせるものがあった
 背筋に奔る冷気を抑えながら、タバサは視線を向けて後悔する事になった 
 振り向いた先、『ニコ』と言うより『ニヤリ』と言った表現が似合う笑みを浮かべるキュルケ
 それを見てやはり悪寒を感じたタバサは逃げ出す
 お約束と言うか、疲れきっていたタバサは逃れられずに捕まり抱き上げられた

「……あら?」

 抱き上げたキュルケは声を上げた
 その疑問は重さ、いわゆるタバサの体重
 以前と比べて重くなっている様な気がしたために声を上げてしまった
 勿論口に出さない、自分が言われて嫌な事は絶対に口にしないのが信条
 不思議そうにキュルケの顔を見上げるタバサ、数秒の沈黙の後

「さ、行きましょ」

 何事も無かったかのように、タバサを抱えたままキュルケは目的の場所へ向けて歩き出した





 所変わって、女神の杵は貴族向けを謳っている事もあり、宿の奥には大浴場が備え付けられていた
 贅沢に分類される湯を張った浴槽、幾つもの香草が表面に漂っている
 時は夕日が落ちる時間帯なのだが、泊まっている宿泊客が少ないのか浴場には数人居ただけであった
 その大浴場の一角に青髪と赤髪の少女が向き合って座っていた

「はい、左腕」

 室内を灯す蝋燭の光が、一糸纏わぬ二人の素肌を照らし映す
 淡い光で浮かび上がったのは白磁器の様に白く肌理細やか、その持ち主は寡黙なタバサ
 歳相応、と言うには今だ幼い体つきだが、もしも裸体の彼女を目の前に誘いを断れる男は少ないだろう
 もう一人の褐色で瑞々しい素肌は明朗なキュルケ、タバサと比べて明らかに豊満と言える体は事実として数多の男を悩殺してきた
 そんな内も外も対照的な少女二人が親友と言うのも少しおかしい気がするが

「次は右腕」

 キュルケは差し出されたタバサの白い腕を取って布で軽く擦る、その布には香水を練りこんである高級な石鹸を付けてある
 柔らかい香りが漂い、灯りは肌の上で揺れる泡の玉を映し出す
 会話も少なく、話題も無い、静穏の帳が下り始めた頃キュルケが口を開いた

「ねぇ、タバサ」
「………」
「さっきの『止めておけ』って何?」
「………」

 腕を擦りながら問うキュルケ
 タバサは答えない、キュルケの目を見ず、その向こう側を見るような力の無い瞳

「ねぇ、これも関係あるのかしら?」

 言いながらタバサの堅く握った拳を手に取った

「………」

 答えない、ここ最近何時見ても握っている掌
 本を読む時でさえほぼ握り拳、それは掌を隠しているとしか思えなかった

「ねぇ、タバサ」

 キュルケは顔を近づける
 タバサの空ろな瞳にキュルケの顔が映りこんだ

「私には教えられない事なの?」
「………」

 答えない、教えられるのか教えられないのか、それさえも答えない

「……そう、ならもう聞かないわ」

 数秒見つめあった後、ニッコリと満面の笑みでタバサに微笑みかける

「誰にだって聞かれたくないこと、あるわよね」

 タバサの肩に手を置き、そのまま180度回転させる
 その後、泡立った布でタバサの背中を擦り始める
 呆と空ろだったタバサは少しだけ頭を下げ俯いた、そして変わらず掌は握られたままだった


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