やわらかい日差しが差し込む、トリステイン城の一室。
暖かな日差しとほのかに香る紅茶の匂いに包まれながらも、その部屋の主である少女の表情は、あまり晴れてはいなかった。
少女の名はアンリエッタ・ド・トリステイン。
トリステイン王国の王女であり、国王亡き後のトリステインの象徴であった。
それゆえに彼女には多忙な日々が続き、やっと得た安らぎの時間である今であっても、
トリステイン…ひいてはアンリエッタ自身に関わる問題であるため、晴れやかな気持ちになどなれるはずもなかった。
「結婚…か…」
目下現在のトリステインの状況は、あまり良いものとはいえない。
もともと『大国』とは到底言えない程度の国土。そのうえ、浮遊大陸にあるアルビオン王国で起きている『革命』
『アルビオン王国』とハルケギニアを統一するという思想の元に動く貴族連合『レコン・キスタ』との対立。
レコン・キスタはアルビオンの多くの貴族を束ね、アルビオン王国に反旗を翻したのだった。
今のトリステインの政治の根幹を担っているマザリーニ枢機卿曰く、
近いうちにアルビオン王家は滅び、レコン・キスタの目的であるハルケギニア統一のための次の矛先は、
このトリステインに向くだろうとのことであった。
そのためにトリステインとしては、帝政ゲルマニアとの同盟を結びそれに対抗する力を得なければならない。
先日行われたゲルマニアとの会談において、ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世が、同盟の為に出した条件は、アンリエッタが彼と婚姻を結ぶ事であった。
政略結婚…なるほど、国のために自らを犠牲にするヒロインとでも喩えようか。
ならば、何時の日か自分を救いにきてくれる王子様が現れてくれるのを期待しようか。
自虐的な妄想の中浮かんだのは、一人の皇子であった。
アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダー。
アンリエッタは彼を愛していた。
彼と出会ったラグドリアン湖の水の精霊に、愛を誓えるほどに。
(彼は、精霊に誓ってはくれなかったけれど…)
懐かしい過去に、苦笑が漏れる。
だが、懐かしい思い出に浸っているわけにはいかない。
ゲルマニアとの同盟の成立を妨げてしまうたった一つの『手紙』
ウェールズに宛てた、アンリエッタの思いの篭められた『手紙』
(なんて言う皮肉かしら…。自分が送りつけたものを自分で取り戻さなければいけないなんて…。)
そんな事を思いながら、ふと窓の外に目を移したとき、激しいノックの音が部屋に木霊した。
「失礼します!姫様、一大事にございます。」
「アニエス?一体どうしたの?」
扉の向こうにいたのは、衛兵の一人アニエスだった。
女性ながら剣の腕に優れ、平民あるために魔法が使えないが、それを補う能力を持つため、現在はアンリエッタの近辺の警護を任されていた。
故にアンリエッタとも自然と親しくなり、アンリエッタもまたアニエスについてよく知っていたが、
そのアニエスが慌てたように声を荒げるというのは、珍しい事だった。
「城内に賊が侵入し、既に何人もの兵士が倒されました。
賊は城内を駆け回り、荒らしているとのことです!」
「そんな、この城に直接敵が来るなんて…。敵の詳細は?どこの国のものです!?」
「詳しい事はまだ…。ただ、見たことのない術を使って亜人を使役していたと。
また、賊は貴族の少女を人質にとっているようです。人質がいるため、下手に手出しもできず…ワルド子爵も倒されました。」
「なっ…なんですって!?」
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
風使いのスクウェアメイジにしてトリステイン王国魔法騎士隊「グリフォン隊」の隊長を勤める彼が敗れた。
それは、トリステイン最強のメイジが破れたといっても過言ではないだろう。
そんな強力な相手がなぜ?という疑問が浮かぶ。
と、その時、下のほうから物を砕くような破壊音と、兵士達の悲鳴が聞こえてきた。
そして、聞き覚えのある不思議な音。
その時アンリエッタは、一つ思い浮かぶ事があった。
「くっ!もうこんなところまで…姫様!お隠れください!」
「―――アニエス…その賊の左腕には、少し小さめの盾のような物がありましたか?」
「なぜ、今そんな事を…?あ、いえその、そこまで詳しい事は聞いておりません。」
「…いいえ。聞く必要はなかったわ。やはり、思っていた通りだったもの。」
「…それはどういう…?―――――!?」
廊下の先、階段のほうから黒猫がかけてくる。
「あれは…姫様の飼い猫の――」
そして、その黒猫を追うように、少女を鎖で繋いだ――――敵が現れた。
暖かな日差しとほのかに香る紅茶の匂いに包まれながらも、その部屋の主である少女の表情は、あまり晴れてはいなかった。
少女の名はアンリエッタ・ド・トリステイン。
トリステイン王国の王女であり、国王亡き後のトリステインの象徴であった。
それゆえに彼女には多忙な日々が続き、やっと得た安らぎの時間である今であっても、
トリステイン…ひいてはアンリエッタ自身に関わる問題であるため、晴れやかな気持ちになどなれるはずもなかった。
「結婚…か…」
目下現在のトリステインの状況は、あまり良いものとはいえない。
もともと『大国』とは到底言えない程度の国土。そのうえ、浮遊大陸にあるアルビオン王国で起きている『革命』
『アルビオン王国』とハルケギニアを統一するという思想の元に動く貴族連合『レコン・キスタ』との対立。
レコン・キスタはアルビオンの多くの貴族を束ね、アルビオン王国に反旗を翻したのだった。
今のトリステインの政治の根幹を担っているマザリーニ枢機卿曰く、
近いうちにアルビオン王家は滅び、レコン・キスタの目的であるハルケギニア統一のための次の矛先は、
このトリステインに向くだろうとのことであった。
そのためにトリステインとしては、帝政ゲルマニアとの同盟を結びそれに対抗する力を得なければならない。
先日行われたゲルマニアとの会談において、ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世が、同盟の為に出した条件は、アンリエッタが彼と婚姻を結ぶ事であった。
政略結婚…なるほど、国のために自らを犠牲にするヒロインとでも喩えようか。
ならば、何時の日か自分を救いにきてくれる王子様が現れてくれるのを期待しようか。
自虐的な妄想の中浮かんだのは、一人の皇子であった。
アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダー。
アンリエッタは彼を愛していた。
彼と出会ったラグドリアン湖の水の精霊に、愛を誓えるほどに。
(彼は、精霊に誓ってはくれなかったけれど…)
懐かしい過去に、苦笑が漏れる。
だが、懐かしい思い出に浸っているわけにはいかない。
ゲルマニアとの同盟の成立を妨げてしまうたった一つの『手紙』
ウェールズに宛てた、アンリエッタの思いの篭められた『手紙』
(なんて言う皮肉かしら…。自分が送りつけたものを自分で取り戻さなければいけないなんて…。)
そんな事を思いながら、ふと窓の外に目を移したとき、激しいノックの音が部屋に木霊した。
「失礼します!姫様、一大事にございます。」
「アニエス?一体どうしたの?」
扉の向こうにいたのは、衛兵の一人アニエスだった。
女性ながら剣の腕に優れ、平民あるために魔法が使えないが、それを補う能力を持つため、現在はアンリエッタの近辺の警護を任されていた。
故にアンリエッタとも自然と親しくなり、アンリエッタもまたアニエスについてよく知っていたが、
そのアニエスが慌てたように声を荒げるというのは、珍しい事だった。
「城内に賊が侵入し、既に何人もの兵士が倒されました。
賊は城内を駆け回り、荒らしているとのことです!」
「そんな、この城に直接敵が来るなんて…。敵の詳細は?どこの国のものです!?」
「詳しい事はまだ…。ただ、見たことのない術を使って亜人を使役していたと。
また、賊は貴族の少女を人質にとっているようです。人質がいるため、下手に手出しもできず…ワルド子爵も倒されました。」
「なっ…なんですって!?」
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
風使いのスクウェアメイジにしてトリステイン王国魔法騎士隊「グリフォン隊」の隊長を勤める彼が敗れた。
それは、トリステイン最強のメイジが破れたといっても過言ではないだろう。
そんな強力な相手がなぜ?という疑問が浮かぶ。
と、その時、下のほうから物を砕くような破壊音と、兵士達の悲鳴が聞こえてきた。
そして、聞き覚えのある不思議な音。
その時アンリエッタは、一つ思い浮かぶ事があった。
「くっ!もうこんなところまで…姫様!お隠れください!」
「―――アニエス…その賊の左腕には、少し小さめの盾のような物がありましたか?」
「なぜ、今そんな事を…?あ、いえその、そこまで詳しい事は聞いておりません。」
「…いいえ。聞く必要はなかったわ。やはり、思っていた通りだったもの。」
「…それはどういう…?―――――!?」
廊下の先、階段のほうから黒猫がかけてくる。
「あれは…姫様の飼い猫の――」
そして、その黒猫を追うように、少女を鎖で繋いだ――――敵が現れた。
時間は少しさかのぼる。
ルイズ達が追いかけてきた黒猫は城の中に入ってしまった。
ルイズは当然のように、王城に入るのはまずいと海馬を止めたが、それで彼の進行が止まるはずもなく、
ルイズが横で文句を言っているのを完全無視しカイザー・シーホースを召喚して門番を昏倒させた。
そしてそのまま走ってトリステイン城内での黒猫との追いかけっこが開始されたのだった。
「っていうか、アンタの魔法カードでこの鎖解除できないの!?ほら、魔法除去とかあったじゃない!」
「そんな事はとっくに考えてある。」
「じゃあさっさとやりなさいよ!」
「ダメだ。時間がかかる。」
「はぁ!?」
海馬の検証により、デュエル以外での通常時のデュエルディスクを使用したモンスターの召喚及び魔法、罠の発動にはいくつかの条件が枷られていることが判明した。
『最初にドローした5枚より先のドローは、時間制限がついており、一定時間がたたないと次のドローができない。』
『カードはデッキからドローしたカードしか発動できない』
『デュエル時以外のモンスターの召喚は生け贄無しで行うことができる。』
『罠カードの発動は魔法・罠ゾーンに配置してから一定時間過ぎないと発動できない』
『魔法カードをセットした場合、一定時間過ぎた後はいつでも発動できる』
『効果対象が指定されていない効果は、視認できる範囲が効果範囲となる』
『LPは命そのものであり、0になったときプレイヤーの命は尽きる。』
「魔法除去を使えばこれは解除できるかもしれん。だが、できないかもしれん。
こういうものは、まず正規の手順を踏んで解除するほうがいいものだ。」
「…つまり、あの猫を捕まえるしか手段はない。」
「そう言うことだ。」
ルイズは、はぁ…と大きなため息をつかざるを得なかった。
そのためとはいえ、王城に勝手に入り込むなんて…しかも門番を殴り倒して。
こんなところをもし、自分を知っている人間に見られでもしたら…
「そこまでだ、賊め!この神聖なるトリステイン城に入り込むとは、無謀としかいいようがない。
さぁ、人質を解放し、おとなしく降伏たまえ!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
言ってる傍から知っている人物の登場である。
魔法騎士隊グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
ルイズの知人というだけでなく、戦闘力もトリステインでは最上級。
まさにこの場で出会いたくない相手No.1であった。
にもかかわらず出てくるとは全く空気の読めない男である。
「むっ…ル、ルイズか!?くっ、貴様!ルイズを人質に取るとは、まさか貴様も虚m『ファイアボール!!!!』うぼあぁぁぁぁ!?」
ワルドが何かを言い始める前にルイズはいつもの失敗魔法をワルドにぶち込んだ。
ボンッ!ズルッ…ごろごろごろごろごろ…
ルイズの失敗魔法の衝撃で真っ黒焦げになりながら階段下まで転がっていくワルド。
「身内を問答無用とは…。なるほど、貴様も鍵を取り返すのに全力を出す気になったようだな。」
「うるさいうるさいうるさい!」
ちらりと階段下を見るルイズ。
(どうかワルド様が今あった事を全て忘れますように…)
「ワッ、ワルド隊長!?どうかしっかり!―――皆のもの!賊はワルド隊長にまで手をかけたぞ!なんとしても賊をひっ捕らえるのだ!!」
『おおー!!!!』
自分達の部隊長が倒されたというのに意気が落ちないトリステイン軍は、精神的な面では他国に劣らないだろう…。
そんな事を考えながらルイズ達はその後も襲い来る兵士達を蹴散らしながら、黒猫を追いかけ上へ上へと登っていった。
「思ったんだけど…上に上りきっちゃって、猫を捕まえた後、どうやって戻るつもり?
さすがに下に下りても素直に帰らせてもらえるとは思えないんだけど…」
「そんな事より猫を捕まえる手段を考える方が建設的だぞ。結局俺たちはいまだ猫を捕らえられていないんだからな。」
「その上魔法除去もドローできない…なんか便利そうなカード引けてないの?」
「残念な事に手札が良すぎる」
ちらりと眺めると、そこにはブルーアイズを含めて強力そうなドラゴンや、禍々しすぎる罠カードが手札に加わっていた。
「ところでルイズ、この城はどこまで上があるんだ。」
「たぶんそろそろ最上階。あの猫もそろそろ逃げ場が無いはずよ。ただ…」
「どうした?」
「ン~…今更なんだけど、あの猫どこかで見たことがあるような…」
ルイズが黒猫の事を思い出そうと頭を捻っているうちに,二人は何度目かの階段を上りきった。
その時、途中で上げてしまった爆発による煙が霧散するのと被さるように、
通路の向こうの方から澄んだまっすぐな声が響いた。
「やはりここにきましたか!賊!私は…アンリエッタ・ド・トリステインはここにいます!」
そこにはこの城の姫、アンリエッタ・ド・トリステインが階段を上りきった先の大きな廊下に立っていた。
傍らにはアニエスを従え、そしてルイズ達の目標であるところの黒猫を胸に抱えていた。
「ひ、姫様…」
「ル、ルイズ?ルイズ・フランソワーズなの!?どうしてあなたが…。」
「それは…その…」
感動的な幼少時期からの友人の対面…ではあるはずなのだが、そう言う暖かい空気を作り出せる状況ではなかった。
アンリエッタはルイズと海馬を結ぶ鎖を見て、キッと海馬を睨みつけた。
「卑怯者!この城を土足で踏み荒らすだけでなく、私の大切な友を人質に取るとは…」
「姫様それは違っ…」
「ふん。別に俺は目的のものさえ手に入ればそれでいい。貴様が抱えているその猫の咥えた鍵…それを渡せばすぐにこんな鎖といてやる。」
「ちょっ…!?」
ルイズは海馬にしか聞こえない程度の小声でささやいた。
(ちょっと…どういうつもりよ?そんな言い方して!まるで悪人みたいじゃないの!)
(貴様とあの姫は知り合いなのだろう?鍵を手に入れて鎖をといたら、貴様から今日の事のあらましを伝えて何とか説得しろ。)
(正直、あれだけの事をしておいて許してもらえると思えないわよ…)
(ふん、姫という割には器量が狭い…)
(アンタがやりすぎなのよ!どこの世界に鎖の鍵を取り戻すためだけに城中荒らしまわる奴がいるのよ!)
「残念ですが…たとえなんであろうと、賊の要求に屈するような、トリステインではありません!」
「ほう…」
海馬は内心感心していた。
見た目にまだ幼さが残る姫であるために、情に任せて鍵を渡すかと思ったが、なるほど、幼くとも王亡き後の象徴として育てられた、
国を代表するだけの気概を持っているということか?
「では、どうする?友を見捨てるか?」
「あなたはワルド子爵を倒したほどの力を持つ。そして…『決闘者』ですね」
「「!?」」
この世界で決闘者…デュエルの事を知っている。
それが何を意味するか。
アンリエッタはアニエスに命じて部屋の中にあるものを取りに行かせた。
そして胸元から黒猫をアニエスに預け、「ソレ」を受け取ると、左腕に装着した。
「トリステイン王家には、始祖より伝えられたいくつかの物と伝承があります。
王家の一子相伝。始祖より託された力の一つが、コレです。」
デュエルディスク。
水を連想させるような涼しげな青色を基調としたソレは、まさにアンリエッタにふさわしいものだった。
「デュエリスト同士ならば、デュエルで決着をつけましょう!
私が勝てば、ルイズは解放してもらう!あなたが勝てば、あなたの望みをかなえましょう!」
カシャン!と、アンリエッタのデュエルディスクが展開される。
「お待ちください、姫様!デュエルで負けたら…ライフポイントが0になったら、姫様の命が…。
こんなことに命を賭けるなんて絶対にダメ!セト!だめよ、絶対に受けちゃダメ!
ちょっとそこのアンタ!あんたも姫様を止めなさい!」
必死に訴えるルイズにアニエスも気圧されたのか、アンリエッタに問う。
「姫様、あの娘の言う事は事実なのですか?」
「えぇ…確かに負ければ命は失う。そう言うものだと教えられてきました。」
その言葉にアニエスは青ざめる。
「おやめください!姫様の命を賭けなければならないようなことではありません。
私があの男を殺し、人質を取り返せば済むことです!」
「友一人救えなくて、何が姫ですか!私がこの国の象徴というのならば、私には国を守る義務がある。
この城も、ルイズも、私が守ってみせる!アニエス…ルイズ…私の戦いを見届けなさい。」
「「姫様!」」
アニエスとルイズ、二人の声が重なる。
それを見届けた海馬も、アンリエッタのほうへ一歩前へと進んだ。
「貴様がそれほどの意志を固めているのならば、もはや言葉は不要だ!」
そういって海馬もまたデュエルディスクを構えた。
相対する二人のデュエリスト。
不意に、アンリエッタが右手を天に掲げ、パチンと指を鳴らした。
ゴゴゴゴゴゴ、という音と振動の後、廊下の天井が開き、床がせり上がっていく。
「なっ…何事だっ!?」
そのまま天井を突き抜け、屋上へと登った。
トリステイン城の天守が開き、空と一体となる。
これはまるで、海馬コーポレーション屋上のデュエル場のようだった。
「わが父、先代トリステイン王が、この城を改築する際に作り上げた天上決闘場…これが私達の決戦の場です!」
「良いだろう…」
ルイズ達が追いかけてきた黒猫は城の中に入ってしまった。
ルイズは当然のように、王城に入るのはまずいと海馬を止めたが、それで彼の進行が止まるはずもなく、
ルイズが横で文句を言っているのを完全無視しカイザー・シーホースを召喚して門番を昏倒させた。
そしてそのまま走ってトリステイン城内での黒猫との追いかけっこが開始されたのだった。
「っていうか、アンタの魔法カードでこの鎖解除できないの!?ほら、魔法除去とかあったじゃない!」
「そんな事はとっくに考えてある。」
「じゃあさっさとやりなさいよ!」
「ダメだ。時間がかかる。」
「はぁ!?」
海馬の検証により、デュエル以外での通常時のデュエルディスクを使用したモンスターの召喚及び魔法、罠の発動にはいくつかの条件が枷られていることが判明した。
『最初にドローした5枚より先のドローは、時間制限がついており、一定時間がたたないと次のドローができない。』
『カードはデッキからドローしたカードしか発動できない』
『デュエル時以外のモンスターの召喚は生け贄無しで行うことができる。』
『罠カードの発動は魔法・罠ゾーンに配置してから一定時間過ぎないと発動できない』
『魔法カードをセットした場合、一定時間過ぎた後はいつでも発動できる』
『効果対象が指定されていない効果は、視認できる範囲が効果範囲となる』
『LPは命そのものであり、0になったときプレイヤーの命は尽きる。』
「魔法除去を使えばこれは解除できるかもしれん。だが、できないかもしれん。
こういうものは、まず正規の手順を踏んで解除するほうがいいものだ。」
「…つまり、あの猫を捕まえるしか手段はない。」
「そう言うことだ。」
ルイズは、はぁ…と大きなため息をつかざるを得なかった。
そのためとはいえ、王城に勝手に入り込むなんて…しかも門番を殴り倒して。
こんなところをもし、自分を知っている人間に見られでもしたら…
「そこまでだ、賊め!この神聖なるトリステイン城に入り込むとは、無謀としかいいようがない。
さぁ、人質を解放し、おとなしく降伏たまえ!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
言ってる傍から知っている人物の登場である。
魔法騎士隊グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
ルイズの知人というだけでなく、戦闘力もトリステインでは最上級。
まさにこの場で出会いたくない相手No.1であった。
にもかかわらず出てくるとは全く空気の読めない男である。
「むっ…ル、ルイズか!?くっ、貴様!ルイズを人質に取るとは、まさか貴様も虚m『ファイアボール!!!!』うぼあぁぁぁぁ!?」
ワルドが何かを言い始める前にルイズはいつもの失敗魔法をワルドにぶち込んだ。
ボンッ!ズルッ…ごろごろごろごろごろ…
ルイズの失敗魔法の衝撃で真っ黒焦げになりながら階段下まで転がっていくワルド。
「身内を問答無用とは…。なるほど、貴様も鍵を取り返すのに全力を出す気になったようだな。」
「うるさいうるさいうるさい!」
ちらりと階段下を見るルイズ。
(どうかワルド様が今あった事を全て忘れますように…)
「ワッ、ワルド隊長!?どうかしっかり!―――皆のもの!賊はワルド隊長にまで手をかけたぞ!なんとしても賊をひっ捕らえるのだ!!」
『おおー!!!!』
自分達の部隊長が倒されたというのに意気が落ちないトリステイン軍は、精神的な面では他国に劣らないだろう…。
そんな事を考えながらルイズ達はその後も襲い来る兵士達を蹴散らしながら、黒猫を追いかけ上へ上へと登っていった。
「思ったんだけど…上に上りきっちゃって、猫を捕まえた後、どうやって戻るつもり?
さすがに下に下りても素直に帰らせてもらえるとは思えないんだけど…」
「そんな事より猫を捕まえる手段を考える方が建設的だぞ。結局俺たちはいまだ猫を捕らえられていないんだからな。」
「その上魔法除去もドローできない…なんか便利そうなカード引けてないの?」
「残念な事に手札が良すぎる」
ちらりと眺めると、そこにはブルーアイズを含めて強力そうなドラゴンや、禍々しすぎる罠カードが手札に加わっていた。
「ところでルイズ、この城はどこまで上があるんだ。」
「たぶんそろそろ最上階。あの猫もそろそろ逃げ場が無いはずよ。ただ…」
「どうした?」
「ン~…今更なんだけど、あの猫どこかで見たことがあるような…」
ルイズが黒猫の事を思い出そうと頭を捻っているうちに,二人は何度目かの階段を上りきった。
その時、途中で上げてしまった爆発による煙が霧散するのと被さるように、
通路の向こうの方から澄んだまっすぐな声が響いた。
「やはりここにきましたか!賊!私は…アンリエッタ・ド・トリステインはここにいます!」
そこにはこの城の姫、アンリエッタ・ド・トリステインが階段を上りきった先の大きな廊下に立っていた。
傍らにはアニエスを従え、そしてルイズ達の目標であるところの黒猫を胸に抱えていた。
「ひ、姫様…」
「ル、ルイズ?ルイズ・フランソワーズなの!?どうしてあなたが…。」
「それは…その…」
感動的な幼少時期からの友人の対面…ではあるはずなのだが、そう言う暖かい空気を作り出せる状況ではなかった。
アンリエッタはルイズと海馬を結ぶ鎖を見て、キッと海馬を睨みつけた。
「卑怯者!この城を土足で踏み荒らすだけでなく、私の大切な友を人質に取るとは…」
「姫様それは違っ…」
「ふん。別に俺は目的のものさえ手に入ればそれでいい。貴様が抱えているその猫の咥えた鍵…それを渡せばすぐにこんな鎖といてやる。」
「ちょっ…!?」
ルイズは海馬にしか聞こえない程度の小声でささやいた。
(ちょっと…どういうつもりよ?そんな言い方して!まるで悪人みたいじゃないの!)
(貴様とあの姫は知り合いなのだろう?鍵を手に入れて鎖をといたら、貴様から今日の事のあらましを伝えて何とか説得しろ。)
(正直、あれだけの事をしておいて許してもらえると思えないわよ…)
(ふん、姫という割には器量が狭い…)
(アンタがやりすぎなのよ!どこの世界に鎖の鍵を取り戻すためだけに城中荒らしまわる奴がいるのよ!)
「残念ですが…たとえなんであろうと、賊の要求に屈するような、トリステインではありません!」
「ほう…」
海馬は内心感心していた。
見た目にまだ幼さが残る姫であるために、情に任せて鍵を渡すかと思ったが、なるほど、幼くとも王亡き後の象徴として育てられた、
国を代表するだけの気概を持っているということか?
「では、どうする?友を見捨てるか?」
「あなたはワルド子爵を倒したほどの力を持つ。そして…『決闘者』ですね」
「「!?」」
この世界で決闘者…デュエルの事を知っている。
それが何を意味するか。
アンリエッタはアニエスに命じて部屋の中にあるものを取りに行かせた。
そして胸元から黒猫をアニエスに預け、「ソレ」を受け取ると、左腕に装着した。
「トリステイン王家には、始祖より伝えられたいくつかの物と伝承があります。
王家の一子相伝。始祖より託された力の一つが、コレです。」
デュエルディスク。
水を連想させるような涼しげな青色を基調としたソレは、まさにアンリエッタにふさわしいものだった。
「デュエリスト同士ならば、デュエルで決着をつけましょう!
私が勝てば、ルイズは解放してもらう!あなたが勝てば、あなたの望みをかなえましょう!」
カシャン!と、アンリエッタのデュエルディスクが展開される。
「お待ちください、姫様!デュエルで負けたら…ライフポイントが0になったら、姫様の命が…。
こんなことに命を賭けるなんて絶対にダメ!セト!だめよ、絶対に受けちゃダメ!
ちょっとそこのアンタ!あんたも姫様を止めなさい!」
必死に訴えるルイズにアニエスも気圧されたのか、アンリエッタに問う。
「姫様、あの娘の言う事は事実なのですか?」
「えぇ…確かに負ければ命は失う。そう言うものだと教えられてきました。」
その言葉にアニエスは青ざめる。
「おやめください!姫様の命を賭けなければならないようなことではありません。
私があの男を殺し、人質を取り返せば済むことです!」
「友一人救えなくて、何が姫ですか!私がこの国の象徴というのならば、私には国を守る義務がある。
この城も、ルイズも、私が守ってみせる!アニエス…ルイズ…私の戦いを見届けなさい。」
「「姫様!」」
アニエスとルイズ、二人の声が重なる。
それを見届けた海馬も、アンリエッタのほうへ一歩前へと進んだ。
「貴様がそれほどの意志を固めているのならば、もはや言葉は不要だ!」
そういって海馬もまたデュエルディスクを構えた。
相対する二人のデュエリスト。
不意に、アンリエッタが右手を天に掲げ、パチンと指を鳴らした。
ゴゴゴゴゴゴ、という音と振動の後、廊下の天井が開き、床がせり上がっていく。
「なっ…何事だっ!?」
そのまま天井を突き抜け、屋上へと登った。
トリステイン城の天守が開き、空と一体となる。
これはまるで、海馬コーポレーション屋上のデュエル場のようだった。
「わが父、先代トリステイン王が、この城を改築する際に作り上げた天上決闘場…これが私達の決戦の場です!」
「良いだろう…」
『 決 闘 (デュエル)!! 』
「私の先攻!ドロー!私はグリズリーマザーを攻撃表示で召喚!
カードを1枚伏せて、ターンを終了します。」
大きな熊のモンスターと、カードが1枚フィールドに現れる。
グリズリーマザーは両腕を交差させ、今にも襲い掛かろうという力強い構えだ。
(実戦は初めてだけれど、決して引くわけにはいかない!…相手を決して見くびらずに、自分の力を奢らずに…勝つ!)
「俺のター…ルイズ、何をしている。離せ。」
ドローしようとした右腕が、なぜか動かない。
みれば右腕の鎖を力いっぱい引っ張っているルイズがいた。
「…させない。デュエルなんかさせない!」
「ルイズ…?」
「デュエルなんかしたら、姫様がお怪我を…命だって落としかねない。
私達がマジックアイテムに引っかかったせいで、姫様にそんな事をさせてしまうなんて絶対にダメよ!
セト、私達メイジは国のため、ひいては姫様のために力を振るう者。
それが姫様の前に立ち闘うなんて、あってはならないことよ。」
「ルイズ……」
「姫様…紹介が遅れました。彼は私がサモン・サーヴァントで呼び出した、海馬瀬人。
ご存知の通り、デュエリストであり、相当の腕を持つものです。
ですが、少し思慮に欠け、大切なお城と兵を傷つけてしまいました。この責任は私にもあります。城内を荒らしまわった罰は、どんなものでも受けます。ですからどうか、この場をお収めください。」
ルイズは深深と、頭を下げた。
「アニエス…二人に鍵を渡して。」
ハッと顔を上げるルイズに、アニエスから鍵が渡される。
鍵を鎖に触れさせると、パキンッという音がして鎖はバラバラになった。
「姫様…」
「事情はわかりました。そして、あなたの気持ちも。
ですが、城内を荒らしまわった賊を、そのまま放置するわけにはいきません。
それに…一度はじめたデュエルを、決着をつけずに終わらせる事などできません。
逆巻く水よ、命の壁を作りて場を包み込め!」
アンリエッタが呪文を唱えると、どこからか水が回りを包み込み、あたりを半球上に覆った。
「ライフフィールドという魔法です。父が私にデュエルを教えるときは、この魔法を使っていました。
デュエルによるデュエリストへのダメージを、この結界が受け流すものです。」
「姫様?」
ルイズは状況がうまく理解できなかったが,アンリエッタの意図を察した海馬はデッキに手をかけ,デュエルを再開した。
「俺のターン!ドロー!…俺は手札から、Xヘッドキャノンを召喚!グリズリーマザーに攻撃!」
「ちょッ…セト!?」
海馬の手札から呼び出された、2つの砲をもつ機械兵器が、グリズリーマザーを攻撃する。
その攻撃はグリズリーマザーを破壊し、当然その余波がアンリエッタへと降りかかる。
だがその直前に、周りの水が集まり壁を作り余波からアンリエッタを守った。
「グリズリーマザーのモンスター効果!デッキより、攻撃力1500以下の水属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚することができる。
私はフィールドに、スター・ボーイを特殊召喚します。」
眩い光とともに、星型で不気味な顔をした人手のモンスターが召喚される。
「ほう…水デッキか、なかなか面白い。カードを1枚セットしターンエンドだ。」
「早いですわね。数枚でこちらのデッキを見破るとは…。
一筋縄ではいかない相手ということですね。私のターン!ドロー!」
「…なんでなのよ。」
ルイズにはアンリエッタと海馬が,なおもデュエルを続行する意味がわからなかった。
いくら魔法によって命の危険がなくなったからといって、もう戦う意味などないはずなのに。
そう思っていると、ルイズは不意に腕を引っ張られ、ライフフィールドの外へと出された。
もちろん水でできたフィールドを抜けたためにずぶぬれである。
「ぷはっ!ちょ…一体何…」
「失礼。ですが,あの中に我々がいても邪魔になるだけでしたので。」
ルイズを引っ張ったのは、同じように髪をぬらしていたアニエスだった。
「邪魔ってどういうことよ!」
怒気を強くして返すルイズとは目を合わせず、アンリエッタと海馬のデュエルのほうを見ながらアニエスは答えた。
「我々のように剣を使う者は、訓練であっても決闘のように全力で戦ったりもします。
それは知らぬ者が見れば、殺し合いのように見えることもありましょう。」
「それがなんだっていうのよ。」
「私の目には、姫様は楽しんでおられるように見える。
姫様が、殺し合いをしながら笑顔を浮かべられるようなお方ではないことは、あなたもご存知でしょう。」
「……」
ルイズは黙って二人のほうへと視線を戻した。
先ほどアンリエッタの場に呼び出されたモンスター、スター・ボーイがもう一体場に召喚されている。
そして、アンリエッタがカードを発動させると、城の屋上は一変して草原へと変わった。
「フィールド魔法、湿地草原を発動します。
これにより、レベル2以下の水属性水族モンスターは、攻撃力が1200ポイント上昇し、
更に2体のスター・ボーイは、お互いの効果により攻撃力が上昇します。」
「ふん。フィールド魔法とモンスターとの3連コンボで低レベルモンスターを最上級モンスタークラスにまで強化してきたか。
国でただ伝えるだけでなく、貴様自身も相当研究を重ねているようだな。」
「当然です。私のデュエルの力が、このトリステインの最後の力。
ですがそれだけでなく、私にとってデュエルは父と…後もう一人、その二人と全力で向かい合える大切なもの。だからこそ、私は強くなる事ができた。」
国王である父親は政務で忙しい人であったが、アンリエッタとのデュエルの稽古は、欠かさず行っていた。
厳しいながらも、その中に親の愛情を感じられたその時間は、アンリエッタにとって大切な時間だった。
「バトルです!スター・ボーイで、Xヘッドキャノンを攻撃!スターダスト・インパルス!」
スター・ボーイの触手が鞭のようにしなり、Xヘッドキャノンへと襲い掛かる。
Xヘッドキャノンは、攻撃力2750まで上昇したスター・ボーイの攻撃の前にもろくも崩れ去った。
「もう一体のスター・ボーイ、ダイレクトアタックです!」
同じ様に触手をしならせて襲いくるスター・ボーイ。
ライフフィールドが守りはしたが、この2回の攻撃で海馬のライフは残り300となった。
「セトのライフが!?」
「なるほど…モンスターを召喚し魔法を用いて闘いあう。これがデュエルというものか。
メイジ同士の魔術戦に似ているな。」
「私はカードをもう1枚セットし、ターンを終了します。」
もう一枚場にカードが伏せられる。
(そう簡単に、これだけ攻撃力の上がったスター・ボーイは倒せないはず。
しかし念には念を…)
「俺のターン!ドロー!」
引いたカードは、『サイクロン』
(このカードを使い湿地草原を破壊できれば、スター・ボーイの攻撃力は1550まで低下する。
それならば手札のモンスターでも破壊する事は可能…だが奴の2枚の伏せカード。
うかつに攻撃はできん…だがっ!)
「おれは手札より!サイクロンを発動する!」
「くっ!やはり引いて来ましたか!」
フィールドが破壊され、元の屋上へと戻る。と、同時にスター・ボーイの攻撃力が下がる。
「手札より、カイザー・シーホースを召喚!伏せカードごときで、俺の進攻を止める事はできん!バトルだ!」
カイザー・シーホースの槍が、スター・ボーイめがけて突き進む。
が、その時アンリエッタの伏せカードが展開された。
「罠カード、『血の代償』を発動!500ポイントライフを支払い、手札から『氷結界の風水師』を召還し、更にもう一枚の罠カード『緊急同調』を発動!
レベル3『氷結界の風水師』でレベル2の『スター・ボーイ』2体をチューニング!」
「なにっ!?このタイミングでシンクロ召喚だとっ!?」
「流れる流水が凍てつき凍り、全てを貫く槍と化す!シンクロ召喚、氷結界の龍グングニール!」
小さいヒトデモンスターが、巨大な龍の姿へと変わり、アンリエッタのフィールドに降り立った。
そしてそのまま、カイザー・シーホースを迎え撃とうとする。
「グングニールの攻撃力は2500!これで決まりです!」
「くっ!亜空間物質転送装置を発動!エンドフェイズまで、カイザー・シーホースをゲームから除外する!」
ひゅんっとその場からカイザー・シーホースが姿を消した。
あのまま自爆特攻していれば、そのまま海馬のライフは0になり、敗北が決定していた。
「くっ、奇を衒ったつもりったのに…。フィールドから除外して回避するとは、流石です。」
「いやいや、貴様こそ清楚な顔をしてえげつない策を使う。低レベルモンスターを強化するデッキと見せかけつつ、最上級のモンスターを即座に展開する。
なかなかのタクティクスだ。」
(…グングニールの攻撃力は2500。カイザー・シーホースが戻ってきても、このままでは倒される。そして、この手札…)
「オレはカードを3枚セットし、ターンエンド。」
「…ッ。セトの手札が0になって、ライフも残り300」
「あのカードを媒介にプレイするという事は、カードの枚数の差が戦況の有利不利に大きく関わってくるという事か。
姫様の場にはあの巨大なドラゴン、片や奴の場には亜人の槍使い。」
「しかも次は姫様のターン。この攻撃を凌げなければ、セトのライフが0になって敗北が決まる。」
「私のターン、ドロー。」
(グングニールのモンスター効果で、伏せカードを2枚は破壊できる。これで攻撃が通れば、私の勝ちが決まるッ)
氷結界の龍グングニールのモンスター効果は、手札を2枚まで捨て、その捨てた枚数分のカードを選択し破壊するという強力な効果。
アンリエッタは残りの手札2枚を全て捨て、効果を発動させる。
「グングニールのモンスター効果で、伏せカードを2枚破壊します!
対象は左右の2枚!貫けっ!アイスニードル!」
グングニールの口から吐き出された氷の針が、伏せカードを破壊していく。
だが、それに対応して海馬が伏せていたカードを発動する。
「速攻魔法発動!貴様が選択した右のカードは、非常食。
このカード以外の魔法・罠カードを好きなだけ墓地に送り、1枚につき1000のLPを回復する。
俺が墓地に送るのは、貴様が破壊対象に選んだ左のカード『聖なるバリア・ミラーフォース』だ。」
海馬のライフが1000回復する。
だが、それはアンリエッタにとって些細な問題であった。
(ミラーフォースは強力な罠カード。ライフは回復されたとはいえ、これでその危険はなくなった。これで決められる!)
「攻撃です!グングニールで、カイザー・シーホースを攻撃!フリージング・トライデント!」
100発100中の神槍の名を持つ龍の生み出した凍てつく氷の槍が、カイザー・シーホースごと海馬を貫く。
「せっかく回復したライフが、また500まで下がった。」
「対する姫様のライフが…3100。お互い手札が0とはいえ、奴の場にはグングニールの攻撃を防ぐ事ができなかった伏せカードだけ。
対して姫様の場にはグングニール。奴に勝ちの目はなくなったか。」
客観的に見ていた二人がそう口走る。
コルベールと海馬のデュエルディスクを用いないデュエルを見て来たルイズにも、この場ではじめてデュエルを見たアニエスにも、
海馬の圧倒的不利は見て判った。
だがそれでも、海馬の『敗北』を信じていないものが2人いた。
海馬自身とルイズ。
この圧倒的不利に見える状況でも、『勝利』を信じていた。
「姫様には失礼かもしれないけれど…まだセトは負けていない。」
「だが、それも時間の問題だ。」
「じゃあ、言い直すわ。『セトは負けない』
根拠はないし、そんなに長い間一緒にいたわけでもないけれど、なぜか信じられる。
絶対にセトはまけないわ。」
ルイズ自身、こう思える理由が良く判らなかった。
一緒に死線をくぐったわけでも、まして愛し合った恋人でもないけれど、なぜだろう。
セトの…海馬瀬人の姿を見ているだけで、どんな不利な状況でさえ逆転する。
そんな気がしてくるのだった。
(歯の浮くような事を言う詩人ならば、この少女に『それが恋だ』とでもいうのだろうか。)
アニエスは心の中で苦笑した。
「俺のターン!ドロー!俺は命削りの宝札を発動!手札を5枚になるようにドローし、5ターン後全ての手札を墓地に送る。」
「この土壇場で、手札増強カードを引くなんて!なんという運の強さ…。
ですが、そう簡単にこのグングニールを倒せるモンスターは…」
「貴様が上級のデュエリストである事はわかった。だからこそ、俺の全力を見せてやろう。
1枚カードを伏せ、マジックカード手札抹殺を発動する!
互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分のカードを手札に加える。俺は3枚」
「私に手札はありません。」
「俺は魔法カード、魂の解放を発動!自分と相手の墓地よりカードを5枚になるまでゲームから除外する!
俺は墓地のXヘッドキャノン、カイザー・シーホース、そして『3体のブルーアイズホワイトドラゴン』をゲームから除外する!」
「「「なっ!?」」」
墓地にあるはずのモンスターは、戦闘で破壊されたXヘッドキャノンとカイザー・シーホースだけのはず。
にもかかわらず、その他に3枚のブルーアイズが墓地にあるという事は、さっきの5枚引いたカードのうち3枚がブルーアイズホワイトドラゴンだったということ。
しかもルイズからすれば、あの強力なブルーアイズが3体もデッキに入っていたという2重の驚きであった。
「さらに手札から永続魔法、魔力倹約術を発動!これにより、魔法カード発動に必要なLPを払わずに発動する事ができる。
続いて手札から次元融合を発動!」
空に歪みが生じる。そしてそのゆがみの中から、何かが現れようとしていた。
「次元融合は、ライフを2000払うことでゲームから除外されているモンスターを、可能な限り特殊召喚する。
だが、魔力倹約術によってライフを支払わずに発動できる。
現れよ!Xヘッドキャノン!カイザー・シーホース!そして、我が最強の僕!ブルーアイズ!ホワイトドラゴン!!!」
デュエルモンスターズ最強のドラゴンにして海馬デッキ最強のモンスター、ブルーアイズホワイトドラゴンが3体、場に出揃った。
「伝説の白き龍…始祖が残した伝承にあった最強の龍…」
「アンリエッタ王女。貴様の強さは本物だ。だが、俺のほうがその一歩先へと行っていた。
ブルーアイズの攻撃!滅びのバーストストリーム!」
ブルーアイズの輝くブレスが、グングニールを消滅させる。
そして、2体目のブルーアイズの攻撃が、このデュエルの決着をつけた。
カードを1枚伏せて、ターンを終了します。」
大きな熊のモンスターと、カードが1枚フィールドに現れる。
グリズリーマザーは両腕を交差させ、今にも襲い掛かろうという力強い構えだ。
(実戦は初めてだけれど、決して引くわけにはいかない!…相手を決して見くびらずに、自分の力を奢らずに…勝つ!)
「俺のター…ルイズ、何をしている。離せ。」
ドローしようとした右腕が、なぜか動かない。
みれば右腕の鎖を力いっぱい引っ張っているルイズがいた。
「…させない。デュエルなんかさせない!」
「ルイズ…?」
「デュエルなんかしたら、姫様がお怪我を…命だって落としかねない。
私達がマジックアイテムに引っかかったせいで、姫様にそんな事をさせてしまうなんて絶対にダメよ!
セト、私達メイジは国のため、ひいては姫様のために力を振るう者。
それが姫様の前に立ち闘うなんて、あってはならないことよ。」
「ルイズ……」
「姫様…紹介が遅れました。彼は私がサモン・サーヴァントで呼び出した、海馬瀬人。
ご存知の通り、デュエリストであり、相当の腕を持つものです。
ですが、少し思慮に欠け、大切なお城と兵を傷つけてしまいました。この責任は私にもあります。城内を荒らしまわった罰は、どんなものでも受けます。ですからどうか、この場をお収めください。」
ルイズは深深と、頭を下げた。
「アニエス…二人に鍵を渡して。」
ハッと顔を上げるルイズに、アニエスから鍵が渡される。
鍵を鎖に触れさせると、パキンッという音がして鎖はバラバラになった。
「姫様…」
「事情はわかりました。そして、あなたの気持ちも。
ですが、城内を荒らしまわった賊を、そのまま放置するわけにはいきません。
それに…一度はじめたデュエルを、決着をつけずに終わらせる事などできません。
逆巻く水よ、命の壁を作りて場を包み込め!」
アンリエッタが呪文を唱えると、どこからか水が回りを包み込み、あたりを半球上に覆った。
「ライフフィールドという魔法です。父が私にデュエルを教えるときは、この魔法を使っていました。
デュエルによるデュエリストへのダメージを、この結界が受け流すものです。」
「姫様?」
ルイズは状況がうまく理解できなかったが,アンリエッタの意図を察した海馬はデッキに手をかけ,デュエルを再開した。
「俺のターン!ドロー!…俺は手札から、Xヘッドキャノンを召喚!グリズリーマザーに攻撃!」
「ちょッ…セト!?」
海馬の手札から呼び出された、2つの砲をもつ機械兵器が、グリズリーマザーを攻撃する。
その攻撃はグリズリーマザーを破壊し、当然その余波がアンリエッタへと降りかかる。
だがその直前に、周りの水が集まり壁を作り余波からアンリエッタを守った。
「グリズリーマザーのモンスター効果!デッキより、攻撃力1500以下の水属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚することができる。
私はフィールドに、スター・ボーイを特殊召喚します。」
眩い光とともに、星型で不気味な顔をした人手のモンスターが召喚される。
「ほう…水デッキか、なかなか面白い。カードを1枚セットしターンエンドだ。」
「早いですわね。数枚でこちらのデッキを見破るとは…。
一筋縄ではいかない相手ということですね。私のターン!ドロー!」
「…なんでなのよ。」
ルイズにはアンリエッタと海馬が,なおもデュエルを続行する意味がわからなかった。
いくら魔法によって命の危険がなくなったからといって、もう戦う意味などないはずなのに。
そう思っていると、ルイズは不意に腕を引っ張られ、ライフフィールドの外へと出された。
もちろん水でできたフィールドを抜けたためにずぶぬれである。
「ぷはっ!ちょ…一体何…」
「失礼。ですが,あの中に我々がいても邪魔になるだけでしたので。」
ルイズを引っ張ったのは、同じように髪をぬらしていたアニエスだった。
「邪魔ってどういうことよ!」
怒気を強くして返すルイズとは目を合わせず、アンリエッタと海馬のデュエルのほうを見ながらアニエスは答えた。
「我々のように剣を使う者は、訓練であっても決闘のように全力で戦ったりもします。
それは知らぬ者が見れば、殺し合いのように見えることもありましょう。」
「それがなんだっていうのよ。」
「私の目には、姫様は楽しんでおられるように見える。
姫様が、殺し合いをしながら笑顔を浮かべられるようなお方ではないことは、あなたもご存知でしょう。」
「……」
ルイズは黙って二人のほうへと視線を戻した。
先ほどアンリエッタの場に呼び出されたモンスター、スター・ボーイがもう一体場に召喚されている。
そして、アンリエッタがカードを発動させると、城の屋上は一変して草原へと変わった。
「フィールド魔法、湿地草原を発動します。
これにより、レベル2以下の水属性水族モンスターは、攻撃力が1200ポイント上昇し、
更に2体のスター・ボーイは、お互いの効果により攻撃力が上昇します。」
「ふん。フィールド魔法とモンスターとの3連コンボで低レベルモンスターを最上級モンスタークラスにまで強化してきたか。
国でただ伝えるだけでなく、貴様自身も相当研究を重ねているようだな。」
「当然です。私のデュエルの力が、このトリステインの最後の力。
ですがそれだけでなく、私にとってデュエルは父と…後もう一人、その二人と全力で向かい合える大切なもの。だからこそ、私は強くなる事ができた。」
国王である父親は政務で忙しい人であったが、アンリエッタとのデュエルの稽古は、欠かさず行っていた。
厳しいながらも、その中に親の愛情を感じられたその時間は、アンリエッタにとって大切な時間だった。
「バトルです!スター・ボーイで、Xヘッドキャノンを攻撃!スターダスト・インパルス!」
スター・ボーイの触手が鞭のようにしなり、Xヘッドキャノンへと襲い掛かる。
Xヘッドキャノンは、攻撃力2750まで上昇したスター・ボーイの攻撃の前にもろくも崩れ去った。
「もう一体のスター・ボーイ、ダイレクトアタックです!」
同じ様に触手をしならせて襲いくるスター・ボーイ。
ライフフィールドが守りはしたが、この2回の攻撃で海馬のライフは残り300となった。
「セトのライフが!?」
「なるほど…モンスターを召喚し魔法を用いて闘いあう。これがデュエルというものか。
メイジ同士の魔術戦に似ているな。」
「私はカードをもう1枚セットし、ターンを終了します。」
もう一枚場にカードが伏せられる。
(そう簡単に、これだけ攻撃力の上がったスター・ボーイは倒せないはず。
しかし念には念を…)
「俺のターン!ドロー!」
引いたカードは、『サイクロン』
(このカードを使い湿地草原を破壊できれば、スター・ボーイの攻撃力は1550まで低下する。
それならば手札のモンスターでも破壊する事は可能…だが奴の2枚の伏せカード。
うかつに攻撃はできん…だがっ!)
「おれは手札より!サイクロンを発動する!」
「くっ!やはり引いて来ましたか!」
フィールドが破壊され、元の屋上へと戻る。と、同時にスター・ボーイの攻撃力が下がる。
「手札より、カイザー・シーホースを召喚!伏せカードごときで、俺の進攻を止める事はできん!バトルだ!」
カイザー・シーホースの槍が、スター・ボーイめがけて突き進む。
が、その時アンリエッタの伏せカードが展開された。
「罠カード、『血の代償』を発動!500ポイントライフを支払い、手札から『氷結界の風水師』を召還し、更にもう一枚の罠カード『緊急同調』を発動!
レベル3『氷結界の風水師』でレベル2の『スター・ボーイ』2体をチューニング!」
「なにっ!?このタイミングでシンクロ召喚だとっ!?」
「流れる流水が凍てつき凍り、全てを貫く槍と化す!シンクロ召喚、氷結界の龍グングニール!」
小さいヒトデモンスターが、巨大な龍の姿へと変わり、アンリエッタのフィールドに降り立った。
そしてそのまま、カイザー・シーホースを迎え撃とうとする。
「グングニールの攻撃力は2500!これで決まりです!」
「くっ!亜空間物質転送装置を発動!エンドフェイズまで、カイザー・シーホースをゲームから除外する!」
ひゅんっとその場からカイザー・シーホースが姿を消した。
あのまま自爆特攻していれば、そのまま海馬のライフは0になり、敗北が決定していた。
「くっ、奇を衒ったつもりったのに…。フィールドから除外して回避するとは、流石です。」
「いやいや、貴様こそ清楚な顔をしてえげつない策を使う。低レベルモンスターを強化するデッキと見せかけつつ、最上級のモンスターを即座に展開する。
なかなかのタクティクスだ。」
(…グングニールの攻撃力は2500。カイザー・シーホースが戻ってきても、このままでは倒される。そして、この手札…)
「オレはカードを3枚セットし、ターンエンド。」
「…ッ。セトの手札が0になって、ライフも残り300」
「あのカードを媒介にプレイするという事は、カードの枚数の差が戦況の有利不利に大きく関わってくるという事か。
姫様の場にはあの巨大なドラゴン、片や奴の場には亜人の槍使い。」
「しかも次は姫様のターン。この攻撃を凌げなければ、セトのライフが0になって敗北が決まる。」
「私のターン、ドロー。」
(グングニールのモンスター効果で、伏せカードを2枚は破壊できる。これで攻撃が通れば、私の勝ちが決まるッ)
氷結界の龍グングニールのモンスター効果は、手札を2枚まで捨て、その捨てた枚数分のカードを選択し破壊するという強力な効果。
アンリエッタは残りの手札2枚を全て捨て、効果を発動させる。
「グングニールのモンスター効果で、伏せカードを2枚破壊します!
対象は左右の2枚!貫けっ!アイスニードル!」
グングニールの口から吐き出された氷の針が、伏せカードを破壊していく。
だが、それに対応して海馬が伏せていたカードを発動する。
「速攻魔法発動!貴様が選択した右のカードは、非常食。
このカード以外の魔法・罠カードを好きなだけ墓地に送り、1枚につき1000のLPを回復する。
俺が墓地に送るのは、貴様が破壊対象に選んだ左のカード『聖なるバリア・ミラーフォース』だ。」
海馬のライフが1000回復する。
だが、それはアンリエッタにとって些細な問題であった。
(ミラーフォースは強力な罠カード。ライフは回復されたとはいえ、これでその危険はなくなった。これで決められる!)
「攻撃です!グングニールで、カイザー・シーホースを攻撃!フリージング・トライデント!」
100発100中の神槍の名を持つ龍の生み出した凍てつく氷の槍が、カイザー・シーホースごと海馬を貫く。
「せっかく回復したライフが、また500まで下がった。」
「対する姫様のライフが…3100。お互い手札が0とはいえ、奴の場にはグングニールの攻撃を防ぐ事ができなかった伏せカードだけ。
対して姫様の場にはグングニール。奴に勝ちの目はなくなったか。」
客観的に見ていた二人がそう口走る。
コルベールと海馬のデュエルディスクを用いないデュエルを見て来たルイズにも、この場ではじめてデュエルを見たアニエスにも、
海馬の圧倒的不利は見て判った。
だがそれでも、海馬の『敗北』を信じていないものが2人いた。
海馬自身とルイズ。
この圧倒的不利に見える状況でも、『勝利』を信じていた。
「姫様には失礼かもしれないけれど…まだセトは負けていない。」
「だが、それも時間の問題だ。」
「じゃあ、言い直すわ。『セトは負けない』
根拠はないし、そんなに長い間一緒にいたわけでもないけれど、なぜか信じられる。
絶対にセトはまけないわ。」
ルイズ自身、こう思える理由が良く判らなかった。
一緒に死線をくぐったわけでも、まして愛し合った恋人でもないけれど、なぜだろう。
セトの…海馬瀬人の姿を見ているだけで、どんな不利な状況でさえ逆転する。
そんな気がしてくるのだった。
(歯の浮くような事を言う詩人ならば、この少女に『それが恋だ』とでもいうのだろうか。)
アニエスは心の中で苦笑した。
「俺のターン!ドロー!俺は命削りの宝札を発動!手札を5枚になるようにドローし、5ターン後全ての手札を墓地に送る。」
「この土壇場で、手札増強カードを引くなんて!なんという運の強さ…。
ですが、そう簡単にこのグングニールを倒せるモンスターは…」
「貴様が上級のデュエリストである事はわかった。だからこそ、俺の全力を見せてやろう。
1枚カードを伏せ、マジックカード手札抹殺を発動する!
互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分のカードを手札に加える。俺は3枚」
「私に手札はありません。」
「俺は魔法カード、魂の解放を発動!自分と相手の墓地よりカードを5枚になるまでゲームから除外する!
俺は墓地のXヘッドキャノン、カイザー・シーホース、そして『3体のブルーアイズホワイトドラゴン』をゲームから除外する!」
「「「なっ!?」」」
墓地にあるはずのモンスターは、戦闘で破壊されたXヘッドキャノンとカイザー・シーホースだけのはず。
にもかかわらず、その他に3枚のブルーアイズが墓地にあるという事は、さっきの5枚引いたカードのうち3枚がブルーアイズホワイトドラゴンだったということ。
しかもルイズからすれば、あの強力なブルーアイズが3体もデッキに入っていたという2重の驚きであった。
「さらに手札から永続魔法、魔力倹約術を発動!これにより、魔法カード発動に必要なLPを払わずに発動する事ができる。
続いて手札から次元融合を発動!」
空に歪みが生じる。そしてそのゆがみの中から、何かが現れようとしていた。
「次元融合は、ライフを2000払うことでゲームから除外されているモンスターを、可能な限り特殊召喚する。
だが、魔力倹約術によってライフを支払わずに発動できる。
現れよ!Xヘッドキャノン!カイザー・シーホース!そして、我が最強の僕!ブルーアイズ!ホワイトドラゴン!!!」
デュエルモンスターズ最強のドラゴンにして海馬デッキ最強のモンスター、ブルーアイズホワイトドラゴンが3体、場に出揃った。
「伝説の白き龍…始祖が残した伝承にあった最強の龍…」
「アンリエッタ王女。貴様の強さは本物だ。だが、俺のほうがその一歩先へと行っていた。
ブルーアイズの攻撃!滅びのバーストストリーム!」
ブルーアイズの輝くブレスが、グングニールを消滅させる。
そして、2体目のブルーアイズの攻撃が、このデュエルの決着をつけた。
「ふふっ…。久しぶりのデュエルでしたけれど、本当にいい勝負でした。」
デュエルから数時間、日も暮れかかった頃。
城の変形が元通りになり、4人はアンリエッタの私室に戻っていた。
城の中ではいまだ海馬たちを追いまわしている兵士達の怒号が聞こえてくる。
「いい勝負…はいいのですが姫様。この騒ぎ,どうしましょう…」
アニエスが入れた紅茶を受け取りながらも、騒ぎのためにすすまないルイズ。
一方で気にせず飲んでいる海馬はやはり大物というべきか、どこか違うというべきか。
「とりあえず、今日のところは窓からドラゴンに乗ってお逃げなさい。
今日のことは誤解が重なった結果と言うことで、私が穏便に収めるように言っておきます。」
「しかし、そう言うわけには…」
「今日はとってもいい日になったわ、ルイズ。幼い頃の友人であるあなたにも会えて、こんなに強いデュエリストともデュエルができて。
またいつでも来て頂戴、ルイズ、セトさん。」
「ひっ姫様、こんな奴にさん付けなんかで!」
「帰るぞルイズ。」
「アンタも人の話を…ちょっ!待ちなさい!」
結局、城の中を荒らすだけ荒らした海馬たちは、そのままブルーアイズに乗って学院へと戻っていった。
それを窓から眺めながら、アニエスはため息混じりに呟いた。
「嵐のような1日でしたね…姫様。」
「私にとっては、快晴のような気分になれる素晴らしい日だったわ。」
(それはあなたも台風の目と一緒になってたからでしょうに…)
アニエスは思ってはいても口に出さずに、遠くに消えていく純白のドラゴンを眺めていた。
デュエルから数時間、日も暮れかかった頃。
城の変形が元通りになり、4人はアンリエッタの私室に戻っていた。
城の中ではいまだ海馬たちを追いまわしている兵士達の怒号が聞こえてくる。
「いい勝負…はいいのですが姫様。この騒ぎ,どうしましょう…」
アニエスが入れた紅茶を受け取りながらも、騒ぎのためにすすまないルイズ。
一方で気にせず飲んでいる海馬はやはり大物というべきか、どこか違うというべきか。
「とりあえず、今日のところは窓からドラゴンに乗ってお逃げなさい。
今日のことは誤解が重なった結果と言うことで、私が穏便に収めるように言っておきます。」
「しかし、そう言うわけには…」
「今日はとってもいい日になったわ、ルイズ。幼い頃の友人であるあなたにも会えて、こんなに強いデュエリストともデュエルができて。
またいつでも来て頂戴、ルイズ、セトさん。」
「ひっ姫様、こんな奴にさん付けなんかで!」
「帰るぞルイズ。」
「アンタも人の話を…ちょっ!待ちなさい!」
結局、城の中を荒らすだけ荒らした海馬たちは、そのままブルーアイズに乗って学院へと戻っていった。
それを窓から眺めながら、アニエスはため息混じりに呟いた。
「嵐のような1日でしたね…姫様。」
「私にとっては、快晴のような気分になれる素晴らしい日だったわ。」
(それはあなたも台風の目と一緒になってたからでしょうに…)
アニエスは思ってはいても口に出さずに、遠くに消えていく純白のドラゴンを眺めていた。