あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-42


42.シェオゴラス

小雨が降る暗い森の中、ルイズはカトレアから離れた所に現れた。
カトレアは日記帳を持ってひたすら森の奥へと歩いている。
時折激しく咳き込みながら、ランランと目を輝かせているのがルイズには何故か分かった。
辺りは強い風が吹き、ルイズは自分の視界すら確保出来ないというのに、
カトレアは明かりも点けずにずんずん前へ進んでいく。その顔は歓喜に満ちていて、
精神力が具現化したオーラが彼女の周りを漂っている。
青にも茶色にも見えるそれが舞う。荒れ狂う嵐のようなそれらをまとう姉はとても怖かった。

「獣って、どこにいるのかしら。ああ、もうここで倒れるのも悪くないわね。
 だめ、だめよカトレア。こんな所じゃすぐに見つかってしまうわ…」

こわい。このちいねえさまも、今のちいねえさまも。
いつものちいねえさまがどこにもいない。こわい。
ルイズはおっかなびっくり着いて行くことにした。
ここで戻っても意味がないと頭で分かっているからだ。

カトレアが咳と共に吐いた血を見てルイズは後を追う。
カトレアの姿は、彼女の発するぼんやりした光で輪郭だけが見える。
しかし体の状態は良さそうには見えない。
しきりに体を掻くカトレアから、たくさんの皮膚がこぼれているからだ。

「やっと、やっと終わるわ。嗚呼、どうかあの世では作り笑いせず、
真っ当に暮らせる程度の幸せを得られますように!
 姉さま用のお手紙も残したし、ルイズがこれを知るのはしばらく先でしょうし、
 父さまはわたしに無関心で、母さまは何を考えてわたしを生かしているのか……」

膝をついて口から何かをはき出す音が辺りに響いた。
大量の血が流れる。カトレアは笑った。

「凄いわ。記録更新かしら…でも変ね。ひどく頭が冴えて、いつも以上に元気なのよ。
だからわたしの後に誰かいるのも分かっているの」

ビクリとルイズが震え上がる。隠れていた木が、錬金の魔法で倒された。
カトレアは笑っていた。とても怖く笑っていた。

「こんな時まで幻覚だなんて…あれ、もしかしてルイズ?」

夜中でよく見えないせいか、髪の色だけでカトレアは判断した。
夜で、ほとんど光の無い森の中でも、その髪色はそう間違えたりはしない。

「ち、ちいねえさま」
「しばらくぶりね。ごめんね。今は遊んであげられないの」

思い出の中のカトレアは、いつもルイズと同じ髪色だった。
しかしそれは、カトレアが痛みを苦にしなくなってからの色だったのだ。
八年前の事を思い出せなかったルイズは、それが普通の髪色だと思って過ごしていた。

カトレアはニコリと微笑んだ。

「危ないわよ。早く帰りなさい」
「ね、ねえさまも、いっしょに…」

微笑んだまま、カトレアはルイズの目を真っ直ぐ睨んだ。

「ねぇ、あんたルイズじゃないわよね?けど幻覚でもなさそうだわ。
 あんた誰?わたしに何がしたくてここにいるの?」

微笑みが消える。ルイズはただただ怖がった。

「違うの、わたしはルイズよ!ちいねえさま!!」

「黙れ!消えなさい。わたしの杖があなたに向かない内に…
 いいえ、いいわ。ついて来たいなら来なさいな。風邪、引かないように気を付けてね」

そのまま背を向けて、また森の奥へと進む。ルイズはその後に続いた。
振り向きもせずにカトレアがルイズに言った。

「あんたね。わたしの妹に似ているのよ。
 でもね、あの子そんなにしっかりした目をしてないわ。
 誰かが周りにいないと困るのにかんしゃく持ちでね。
 わたしにそっくりよ。だからこの世で一番嫌いなの」

「かんしゃく…ちいねえさまも持っていたの?」

自分が落ちこぼれだという自覚はずっとあった。
もちろんそれを表に出したりはしないが、
優秀な姉達に比べて何も出来ないと錯覚し、
時には使用人たちの言動を目で制した事もあった。
そしてその後に激しく後悔する。そんな自分がルイズは嫌いだった。

「ええ、とってもね。母さまに酷いことたくさん言ったし、
 エレオノール姉さまを敢えて困らせたりもしたわね…
 でもルイズには出来なかったわ。わたしと同じだから。
 わたしは体が動かない。あの子は魔法が使えない。
 出来損ない同士よ。ヴァリエールの血なのに。
 馬鹿なお父さまが、下級貴族の娘と結婚するから!
 それで三人の娘に負担が掛かっているのに知らんぷり。
 あんな奴死ねばいいんだわ!」

ひとしきり叫んでから、カトレアはまた激しく咳き込んで血を吐いた。
座り込んで、苦虫を噛みつぶした様な顔でルイズを見る。

「嫌よね。本当にわたし自分が嫌いよ。
 本当はちゃんと気に掛けられているって分かっているのに。
 何も思っていないなら、あんな建物造ろうとも思わないのに。
 ああ、獣はどこかしら。早く悪夢を終わらせたいわ」

ゆらりと立ち上がって、カトレアは奥に進む。
そんな風に見ていたんだ。私のこと。
同情から優しくされていたのだろうか?
そんな事を考えていると、気が付けば一人になっていた。

「あれ?」

置いていかれた事に気が付いたルイズは、
辺りを見渡すが何も見えない。

「ど、どうしよう」

暗い森の中、一人でいるのはとても不安だ。
明かりを杖先に付ける呪文はドットメイジから出来る。
つまりルイズがそれをすれば杖が壊れるかもしれない事を意味した。

「ち、ちいねえさま何処に行ったの?」

しかし返事は無い。代わりに風変わりな笑い声が聞こえた。

「だ、だれ?」

笑い声は前から聞こえる。ルイズはその声の方へと進もうとしたとき――

「誰かと聞きたいんなら、まずお前から名前を言うべきだと思うんだが?」

それなりに若々しい声が耳元でささやいた。

「ぎゃぁあああああああああ!!!」

驚いて尻餅をつくルイズを余所に、耳元でささやいた老人が笑いながらまくし立てる。
これ以上なく愉快そうに。

「良いねぇ。絹を裂いている!何で裂く?裂いて売るのか?儲かるのか?」

やたらとテンションの高い老人がルイズの背後に立っていた。
毒々しい色の服を着て、大きな杖を手で回して遊ぶ様は年を感じさせない無邪気さがあった。
髪はほとんど白髪で、肌の色はルイズに近い。特に際だった特徴はその目で、左右で色が違う。
ハルケギニアでは猫目として知られるオッドアイで、金と銀の目を持っている。
その瞳も猫の様に細い老人を見たルイズは、何とか言葉を出そうとするが、
何の意味も持たない物しか口からは出なかった。

「ああああ、あ、ああ、あ、あんた」

しかし老人はそれらにすら意味を持たせる。

「あがくってか?悪くないな。しかしこの余にあがくのか?
 やめとけにん…君は人間かね?何か違うな。ここの連中は普通じゃないが、
 だが何か違う…あーパラか。そうだな。お前パラか?パラだな。いよう!パラ」

「パラって何よ!」

ようやく物を言える状態まで心が落ち着き、ルイズは無謀にもツッコミを入れた。
老人は内心良い暇つぶしができそうだと思いながらそれを顔に出さず、首をかしげた。

「パラはアレだろ。こんな桃髪してやがるくせに違うと?変わった人間だ」
「桃じゃないわ!『ピンクがかったブロンド』よ」

変わった老人は目を大きく開けて驚いた。

「なぜイチゴ?それだとショッキングじゃあないし、冗談にしちゃつまらん。才能がないな。全く無い」
「何がショッキングよ!そもそも何がイチゴなのよ」
「落ち着け!衝撃的な顔が台無しだぞ?ミス・ショッキング」

ルイズは顔を真っ赤にして言い返す。完全にからかっている老人のペースだった。

「勝手に名前を作らないで!私はルイズ!
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールって名前があるんだから!」

「分かった。よろしくなショッキング・ルドラ」
「ルドラって何なのよ!!!!」
「ルドラはルドラだろうが。全くこれだから最近の若い人間は。100歳なんざ若輩もいいとこだ!」
「十分老人よ!!!」

ツッコミの連打にルイズは段々疲れてきた。
笑顔の老人はとても楽しそうに、次は何を言おうかと考えている。

「あ、あんた、もしかして…シェオゴラス?」

乱心の神、以前悪夢の女王から聞いた名だったが、こいつ以上に相応しい存在はいない。とルイズは感じた。
ぜいぜいと息を吐いて言うと、老人の目が更にランランと輝き、気持ち良さそうに叫んだ。

「そうだ!余の名はシェィオゴォォォラァス!!!きょぉおおおうきのおうじさまだぁあああああ!
 他にも色々あるが面倒だから省く。で、お前はなんなんだルドラ。
お前はここにいてここにいない。夢見気分で余に会ってやがる。
誰の回し者かね。アズラだな?あいつ以外いねぇ!
そんなに嫌か?負けるのが。負けたのは余だ!
ズルして負けたのを余の島まであざ笑いに来やがった!!
それで、お前さんはなんなのかね。ナイスクリーム食うか?美味いぞ。
余は食べることが好きでな。こいつはなんと……」

ようやく老人は本題に入った。今もまだ色々と喋っているが省略する。
彼はどこからか取り出したクリームを舐めながらルイズを見ている。
これはルイズが何者かを聞いているだけであり、他は全て修飾の類だ。

シェオゴラス。乱心の神であり、その心の内は誰にも分からないとされる神。
現在はシロディールの英雄と称される、マーティンの友人がその役を担っているが、
元々はこの老人の格好のデイドラがシェオゴラスと名乗っていた。
狂気を司る存在として相応しく、「自他共に認める」狂人である。

ルイズはノクターナルに振り回されるマチルダの気分になりながらそれに答えようとしたが、
生来の空気読めない子の力を発揮してしまった。

「その前に一つだけ良い?」
「何だ、早く言え。言わないと段々空に浮かんで行くぞ。シェオゴラスはどれほど空高く浮かぶのか!」

叫ぶように歌っている。ルイズは頭が痛くなってきたが、とりあえず聞いてみた。

「…何で普通に喋ってるの?」

王子達はあれが普通と聞いたから、何か不可思議に思ったのだ。

「ああ?あれはちょっと疲れるんだ。分かるか?魔法力を使うのだよ。だから例えば――」

小雨が嵐になる。風が恐ろしいほどにうなり声を上げ、
そこら辺の木々をなぎ払う。ルイズは風にあおられるが地面にへばり着き、悲鳴を上げる。
しかしその金切り声は嵐のごう音によって全てかき消され、シェオゴラスの耳には全く入らない。

『こういう時なら使う訳だ。で、お前はなんなのかね、ショッキング・ルドラ』

止めてとルイズは叫ぶが、嵐のせいで全く聞こえない。
シェオゴラスは涼しい顔だ。嵐は彼を避けてルイズに当たっているのだ。

『おい、どうしたルドラ。大丈夫か?雨まみれに泥まみれじゃねえか。
 ナミラじゃあるまいに。風邪を引くぞ。お前頭の方は大丈夫か?』

からかう相手が死なない程度に不愉快な思いをさせる。
シェオゴラスが好きな時間の潰し方である。
しかし、彼の領域にアポ無しで入ると下手をすれば死んでしまうので、
そこは要注意である。

こう――姫に怒ってから少し切れやすくなっていて、
さらに姉の秘密を知って不安定だった堪忍袋の緒が、ついに切れた。
雨風の中ルイズは立ち上がって吠える。そして力が爆発した。

『あんたに――いわれたかぁないわよぉおおおおおおおおお!!!』

爆風が嵐を吹き飛ばす。雨風どころか森の一部まで消え去る大きな爆発だった。
シェオゴラスは口笛をヒュウと鳴らす。

「なんだ、お前も出来るじゃねぇか。まあ当然だなパラだからな」

ぱんぱんとリズム良く手を叩くシェオゴラス。当然だが、尚更ルイズの怒りは燃え上がる。

「なんなのよあんたはぁあああああああ!!!」

ルイズは切れた。サイトなら死を覚悟する程度には切れた。
怒りで黒いオーラが彼女から吹き出しているが、
その程度で動じるほどシェオゴラスは柔でもない。
皮肉屋はやれやれと言いたげに両手をあげた。

「言ったであろう?余の名はシェオゴラス。狂気の王子様だ」


「うなされてるわね。ちょっとまずい事したかしら…。
ちゃんとわたしを理解するには、一番分かりやすいと思ったのだけれど」

カトレアはルイズに布団をかぶせて、動物たちと一緒に様子を見ている。
ルイズは難しい顔でムニャムニャと口を動かしていて、
その腕や足は何かを訴えかけるかのように、バタバタ動かしている。
カトレアの隣にいるラルカスが右手で頭を掻いた。『虚無』の魔法が珍しい事もあって、
どの様な状態かを確認しているのだ。

「シェオゴラス卿は人を選ぶからな…大丈夫だとは思うが」
「そうね。他の方々だと危ないだろうけど、たぶん大丈夫でしょうね」

ルイズの体を撫でながら子守歌を歌うカトレアは、
とても美しい若奥様に見えた。その様にラルカスは見とれてしまう。
視線に気付いたカトレアは、コロコロと笑ってラルカスを見た。

「どうかしたの?ラルカス」
「いや、何でもない」
「ふぅん」

三年前からそれなりな間柄だが、ラルカスが気後れしているのだ。
特に、カトレアの病気が治ってしまった今は。

ラルカスは今の生活が気に入っている。美しい女の主人に潤沢な実験道具の数々。
召喚のゲートが開いた時は驚いたが、その主人がヴァリエールの次女で、
しかも水のメイジを欲しているとなったら、自分以上の使い魔はいないだろう。
体を変えた事で得たスクウェアクラスの「水」の力、そして体力精神力共に旺盛。
人の為になるなら薄暗い洞窟で一人寂しく研究をするより、
そっちの方が大いにマシだ。そんな訳で彼女の使い魔になった。
最初はミノタウロスらしく接して、ある程度うち解けてから事実を上の姉妹二人に打ち明けたところ、
エレオノールに解剖されそうになったり、危険な島の住人達とかみ合わない話をさせられたりしたが、
今となっては良い思い出である。

カトレアとエレオノール以外は簡単な魔法がいくらか使える変わったミノタウロスとして認識している。

「先に言っておきますけれど、わたしは『普通』に戻れませんからね。
 それ以前に、これがわたしの普通なのだけれど。
みんながみんな、模範的な貴族にはなれないもの。
わたしは元々そういうのからは外れていたのだから」

シェオゴラスの影響を受けたのはカトレアだけではない。
ラルカスに脳移植の方法を教えたのもシェオゴラスだった。
何があっても死にたくない。生きたいと願った結果、
ある日夢の中でミノタウロスの体を用いる方法を教わった。
人としての尊厳を捨てて、ミノタウロスとなって生きる。
狂気をはらんだ行為であることは間違いないが、
それでも生きることをラルカスは望んだ。

「ああ、わたしもだ」

コロコロと笑うカトレアは、そんな彼を微笑ましく見た。


新着情報

取得中です。