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鋼の使い魔-37


「『正拳』!『裏拳』!」
 硬く握り込まれたアニエスの拳が縦横に伸びた。取り巻く敵兵の顎を石榴に砕き、肋骨が小枝のようにへし折れる。
 二つ折りになって斃れようとする敵兵を蹴り飛ばし、押し迫る兵士を前に視界を切り開くと、腕を引いて構えを作る。そして軽く息を吐いた。
「『鬼走り』!」
 口述し技のイメージを明確にする。そして引いた拳を素早く突き出した。空を切った拳の拳圧が大気を貫いて、大砲で薙いだように前方にいた兵士達を打ち散らす。
「ぐっ!」
「げあっ!」
「げおるぐっ!」
 拳圧を受けて兵士の身体は破裂音と共に弾かれる。斃れて吐き出す血は内蔵を潰されて黒々としていた。


 斯く、アニエス率いる銀狼旅団はトリスタニアの軍人…いや、ブリミル以来の四国に根差した軍人の想像すらしなかった戦法と戦力で、押し迫るアルビオン軍を好く防いだ。しかし銀狼旅団全員がアニエスと同等の戦闘力を有しているわけではない。アニエス自身も突出しすぎないように味方の位置を把握し、徐々に後退しながら戦っていた。
「擲弾!擲弾!」
 アニエスは号令を飛ばしてから首に提げた竹笛を吹く。笛の音を聞いて戦っていた銀狼旅団員は懐の金属球を敵陣に向かって投げた。
 投げた金属球には火のついた紐がついており、紐の先は球の中に詰められた火薬に繋がっていた。
 数拍後、敵兵集団の内部数箇所で爆発が起きる。爆発の範囲内にいたアルビオン兵は爆風と飛散する破片を受けて悲鳴を上げて斃れた。
 その隙を突いて銀狼旅団が素早く後退すると、今度はアストン伯の部隊が前方に出て素早く練金【アルケミー】を使った。
「あぁっ!」
 擲弾に気をとられていたアルビオン軍は、地面の揺れに前方を見直して驚いた。
 それまであった開けた街道に、草の生えるように地面から石板が持ち上がったかと思うと、一瞬の内に巨石を並べたような『砦』が出来上がっていたのである。

 地上のアルビオン軍はその時知らなかったが、この砦はアルビオン軍側に見えるほんの一部だけが砦として機能するようになっている。
 土の工作に長けた専門のメイジではないアストン伯達が、アニエスらと図って創り出した張りぼての砦だった。
 張りぼてとはいえ砦は砦。銀狼旅団の切り込みを受けて体勢の崩れていたアルビオン軍は、あとわずかで村に入れる位置まで進みながらその足を止めざるを得なかった。


「ロベルト大爺ちゃーん!」
 村の方々に火の手が上がっている中、ヴィクトリア・ナイツ『シエスタ』はロベルトの宿『北の門』亭へ避難者の中にいなかったロベルト老人を探しに来ていた。
 『北の門』亭は奇跡的に火災を免れていた。――村の火災の多くは避難の時の混乱でおざなりになった火始末が原因のようだった――宿は中に居た人が大急ぎで出て行ったせいか、普段より幾分か散らかっていた。
「大爺ちゃーん!!」
「そんなに大声を出さなくても、聞こえてるよヴィクトリア」
 シエスタの声に応じ、のっそりと店の奥からロベルトが出てくる。その背格好から怪我をしている様子もなく、シエスタは安堵した。
「大爺ちゃん!無事だったのね。…その弓は?」
 ロベルトの節くれた手には弓矢が握られていた。腰には矢筒も提げている。
「ふふ。賊が来ると聞いて血が騒いでな。一丁この『静弦の弓』で追っ払ってやろうと思ってね。物置から引っ張り出すのに苦労したよ」
 ロベルト老は不敵に笑いながら弦の張り具合を見るように弓を引いては戻しを繰り返している。
「もう、駄目だよ!早く森に避難しないと…」
 シエスタはロベルト老の手を引いて『北の門』亭を後にすると、西の森へを行く道へ足を戻した。
 と、北の方から慌しい足音と共に、手に銃器や剣、槍を持った者達が広場の方へと駆け込んできた。皆、血と泥に濡れた格好の中、一人煌く銀のコートの者が勇ましく号令を掛けた。
「編成を変えるぞ!バッカス、シェリーは長銃【ハークィバス】、ドロシー、エリーは槍を持て。槍がなければ剣だ」
 銃杖を支えに広場のあちこちで兵士達が武器を準備するのを呆然と見ていると、号令を出していた人物はシエスタたちを発見して声を上げた。
「…そこにいるのは誰だ?」
「!!」
 コートの人物はシエスタたちを見止めると駆け寄って、老人と少女を見比べて聞く。
「…住人は全員避難したと聞いていたのだが」
「あ、あの…その…」
「敵軍再編成して突撃してきます!」
 陣に張り付いていた部下からの報告に、コートの人物は踵を返して再び最前線に舞い戻っていった。
「お、大爺ちゃん。早く逃げるよ!」
 ロベルトの手を引いてシエスタは懸命に走ろうとするが、既に背後から猛ったアルビオン兵の怒号が響いていた。
「おおおおぉ!」
「殺せー!切り倒せー!」
 無形の殺意が漲る声が聞こえ、すくみ上がってしまったシエスタをロベルトは手を引いてその場から退散するのだった。



 『タルブ戦役・四―誘う魔卵ー』



 タルブが王軍を一日千秋で待っている最中、王都トリスタニアのノーブルタウン(貴族邸宅街)の一角に建てられたラ・ヴァリエール公爵家別邸の一室。
 エレオノールとルイズの二人は父ラ・ヴァリエール公に言われた通り、荷物を纏めて別邸に移っていたが、エレオノールが使用人達に事態の始終を調べるように配り、今エレオノールの手には王宮に残していた使用人から届いた簡素な手紙が握られている。
 ルイズは椅子の上で不安と猜疑に縮み上がっていた。一方エレオノールはそんな妹を思いながらも、事態を理解しようと努めて神経の糸を張らせていた。
「…読むわよ」
 ルイズは首を振らなかった。それを無視してエレオノールは手紙を読み上げる。
 エレオノールは静かに手紙を読んだ。それは伝聞推定の域を出ないものだったが、タルブがアルビオンの軍勢から侵攻を受けているらしいこと。それに向けて王政府が急いで王軍の準備を始めているらしいことが書かれていた。
 手紙を読み終わった時、エレオノールは憤りと焦りが混ざり合った顔で手紙をテーブルに投げ捨てた。
 ルイズは膝を抱える。上質の皮と綿の打たれた椅子に華奢な体が沈み、顔色がチェリーブロンドの髪に隠れた。
「…アルビオンと戦争になるのかしら」
「…多分ね」
「こんな時の為に姫殿下は輿入れするはずなのに、ね…婚儀前じゃゲルマニアも味方なんてしないわね…」
「そうね…」
 エレオノールはルイズの言葉に相槌を打つのが精一杯だった。
 しかし目の前の妹は、せっかくの晴れの舞台が沙汰止みになって自失状態なのは明白で、できれば傍にいてやりたかったが、かといって傍でなんて声をかけていいのか分からない。
(ここにギュスターヴ殿がいてくれたら任せられるのだけど…)
 そうエレオノールが思案に耽ろうとした時、静かに使用人が傍にやって来て礼をする。
「お嬢様。アカデミーの方が面会を希望しております」
「今日は休暇を貰ってるのよ。後にして頂戴」
 正直今はアカデミーよりルイズが大事だった。それくらいの甲斐性はエレオノールにも、ある。
「しかし至急エレオノールお嬢様に会わせてほしいと先方が申しております。なんでも、予算の決済がどうとか…」
 それを聞いて一層にエレオノールは不愉快な顔をした。世間がざわつき始めているというのに、研究員の連中は自分の研究に使える予算の取り合いの方が大事らしい。
「…姉さま」
 それまで黙っていたルイズが顔を上げる。
「お仕事の用事が出来たんでしょう?私は大丈夫だから、そっちに行って」
「で、でも貴女…その…」
「いいの。私は大丈夫だから」
 ルイズは笑ってエレオノールに手を振る。
「大丈夫。そりゃあ、せっかく作った祝詞も、賜った巫女役も、全部ご破算になっちゃいそうだけど。…それだけ。それ以外はいつもの私と、なにも変わらないわ」

 そう、いつもの…『ゼロのルイズ』に戻るだけ。

 「ほら、待たせちゃいけないわ。行ってらして、姉さま」
 そう念を押されると、エレオノールも抗弁してやれなくなってくる。どこか脱力気味に使用人へ「私の部屋に案内しなさい。そこで話を聞くから」とだけ言って、ルイズの前を辞していく。
 そして部屋にはルイズと、部屋つきの使用人が一人だけになった。
 使用人から話しかけるはずもなく、ルイズは陽光の入り込む窓から遠い椅子に座ってあらぬ彼方を眺めていた。
「……ねぇ、貴方」
 暫くの無言の後に、ルイズは使用人に声をかけた。
「一人になりたいの」
 不気味なほどに無感情な声で、そう言った。

 使用人が困惑しながらも部屋を出て行くのを確認して、ルイズはテーブルに突っ伏して、啼いた。
 声は出ない。呻きも無い。使用人を下がらせた時と変わりない無表情、無感情のままとろとろと透明なものが溢れて毀れる。
 一方で、そんな涙を流す自分を冷たく見透かす自分がいることも気付いていた。
(何を泣いているの?貴族らしい証が立てられるはずだったのに、それが立ち消えになったから?国難に何も出来ない無力な自分だから?ちゃんちゃら可笑しいわ。私は『お前は』魔法の使えないオチコボレ。泣くほどの資格も価値もないわ…)
 冷ややかに自分を詰っても、涙は止め処なく流れる。どうしようもないという自覚が、神経をがさがさと引っかいて、小さな胸がギリギリと軋んだ。
「……」
 ふと、ルイズは立ち上がり、部屋の隅にある机に投げ置いた自分の鞄を手に取った。
(ゲルマニアの加勢が無い以上、トリステインは勝てないわ。負けなくても、もうボロボロ。婚儀の為に作った祝詞も、もう要らないわね…)
 塗りこめた黒い洞のような気分が心を覆っていく。何日もかけて作った祝詞が、熱心に心砕いていた過去の自分を思い出させて不快だった。
 ルイズは祝詞を書いた原稿を破り捨てようと鞄を開け、中をまさぐった。すると、手先に不自然な温もりを感じた。日向に置かれていたわけではないのに、手の触れる箇所は犬の腹を撫でたような暖かさがある。
「……『始祖の祈祷書』」
 それは鞄の中に入っていた始祖の祈祷書だった。古ぼけた装丁の古書を引き抜くと、間違いなくそれはルイズの両腕の中で小動物の体温のような暖かさをルイズに感じさせたのである。目を閉じると、本自体が脈を打っているような錯覚さえ与えた。
 ぼんやりとルイズは、特に理由もなく『祈祷書を開いてみたくなった』。手は吸い付くように祈祷書の表紙を掴み、僅かな重みもなく本が開かれる。
「…ッ!」
 開かれた面を視界に収めた瞬間、ルイズは背筋を蟻が這い回るような戦慄と、同時に少し前に食べたパイが身体を逆流するほどの嘔吐感に襲われた。それでもルイズの視線は開かれた祈祷書に釘付けにされたように動かない。いや…動けなかった。
「字が…浮かび上がっている…?」
 それはかろうじてルイズにも『字』なのだろうと分かった。白紙とされ、現に昨日まで真更だった祈祷書のページを、インクで書いた真新しい文章が端から端まで埋め尽くしていたのだ。
 だが、それはルイズにとって『字』として認識できても意味が読み取れるものではなかった。祈祷書に浮かんだ文章はルイズの知るハルケギニア文字の、いかなる文体とも異なる、まったく未知の文字で綴られていたのだ。しかもそれは、肉の如き温度を持つ祈祷書に合せるかのようにうねり、ページの上を這い回り、刻一刻と文章の構成を変え続けるのだ。
「なに…これ…?!」
 ルイズの視線は揺れ動いた。ルイズの眼球は本人の意思を無視して、ページを覆う蠢く文字列を舐めるように読み続けるのだ。
 しかもルイズは不思議なことに、文章の『意味』が分からないのに『理解』していた。それは文章の読解というより、見えたままが頭の中に焼きついていくような感覚だった。
(『異界に…混ざる…吾らの血…ふたたび……これを…開いて…始まりの…荒野に…赴くべし…』)
 感覚が針のように研がれていく。意識が徐々に遠くなるのに、五感に感じられる全てがどんどん広がっていく。
 祈祷書の文章を読む度に、ルイズの身体は意思を離れて勝手に動く。ページがめくられ、またうねる文章を見せられる。ページを捲る指にあった『水のルビー』が視界の端で眩しいほど輝いていた。
(『…命…集め…旅立つ…』)
 そこまで読んだ瞬間、ルイズは視界が真っ黒になった、と感じた。視界だけではなく、研いだように鋭くなっていた五感も、何もかもが覆い隠されたように感じなくなる。その何もない感覚の中で、ルイズの意識は次第に遠く、薄らいでいった……。


「お嬢様…?」
 ルイズに部屋を追い出されていた使用人は暫くして、気晴らしをしてもらおうとお菓子を持って部屋に戻ってきた。
 部屋に入ると、ルイズは窓を向いて立ち尽くし、その左手では大きな古書を広げていた。
「気晴らしにでもと、お菓子をお持ちしま…!?」
 ルイズが使用人の声に振り向く。使用人は『それ』を見た驚きに、菓子を乗せた盆を大きく揺すらせた。ルイズの特徴的な鳶色の瞳が、妖しく透ける金色に変わっていたのだ。
 ぱくぱくと驚きで声が出ない使用人を、ルイズは小首をかしげて眺めたかと思うと、ニコッと嗤って呟いた。
「『吸収【サクション】』」
「ッ!?」
 ルイズの声を聞いた使用人は落雷に打たれたように身体を痙攣させた。そして口や耳、身体の穴という穴から青白い気体の様なものが漏れ出し始め、それは目の前のルイズに向かって流れていった。
「ぁ…ぁ…ぅ…」
 気体が漏れ出て行くと同時に使用人は倒れた。顔面を蒼白にし、呼吸がか細くヒューヒューと鳴っている。
「『やはり一人じゃ足りないわね。もっとたくさん要るわ』」
 倒れた使用人を、ルイズは変貌した金の瞳で見下ろしていた。
「『タルブが戦場になるって、姉さまが言っていたわね』」
 手の上では『水のルビー』を填めた指が抱えるほどある『始祖の祈祷書』をくるくると回していた。
「『この者の記憶の中に、何故かあれがあるらしいことが残っているわね。丁度いいわ。持って行きましょう』」
 名案を思いついた、と言わんばかりにぱぁっと明るい表情で、ルイズはさらにくるくると祈祷書を回す。
 いや、ルイズ自身が回しているわけではなかった。祈祷書自体が高速でルイズの指先で回っているのだ。祈祷書は徐々に回転の速度を上げると、ある速度でぐにゃりと粘土のように潰れた。祈祷書はぐにぐにと内側へ曲がっていく。
 祈祷書は最後、ルイズの片手に収まる大きさの、『卵』に変貌した。


 『飛翔機』による初飛行を成功させたギュスターヴは、上機嫌で地下厨房にやってくると、普段よろしくマルトーの賄いを食べていた。
「おお、そうだ。ギュス、お前さんにさっき早馬で手紙が届いてたぜ」
「手紙…?」
 パンにペーストを塗っていたギュスターヴの手が止まる。
「商売を始めて手紙を貰う数が増えたみたいだな」
「まぁ、そう頻繁に王都に出られないからな…」
 マルトーの懐から出された封筒を見て、ギュスターヴの眉間が寄った。
「…マルトー。これは本当に俺宛なんだな」
「え?あ、ああ。そう聞いてるが」
 ギュスターヴは神妙な面持ちで封筒を見た。封筒は朱色の紙で作られたものだ。封は切られていないが、蝋止めの部分に三つ葉の印が入っている。
(ジェシカからだな。緊急の知らせか…)
 無造作に封を開いて中身を読む。急いで書いたらしく、誤脱字を訂正する横線が各所にあり、また文体もあまり綺麗ではない。
 しかしギュスターヴの目はそんなことよりも書かれている内容に向けられた。脳裏に電撃が走る。
(アルビオンと開戦だと…!しかも、タルブが戦場になるなど…!!)
 手紙を見た瞬間様子の変わったギュスターヴにマルトーが不安げな声をかける。
「お、おい。一体どうしちまったんだよ…」
「マルトー、悪い。用事が出来た…」
 そう言ってギュスターヴは地下厨房を飛び出した。行き先は、コルベール研究塔…。

 研究塔前で『飛翔機』の整備をしていたコルベールに、ギュスターヴはトリステインがアルビオンと戦争状態に入ったらしい事を伝えた。
 コルベールは一瞬暗い顔をしたが、すぐに平静を装った。
「おそらく王軍が直ちに編成されてタルブに向かうでしょう。もしくはアルビオン側と交渉の場を用意しようと準備しているかもしれません」
「交渉?占領行動をとろうとしている連中と交渉などできんでしょう」
 椅子に腰掛けてギュスターヴは頭を抱えた。抱えた影の顔で脳裏に思い描く。
(王軍が出立するまでにタルブはかなりの被害を受けるだろう。こちらの軍事は完全に把握できているわけじゃないが、おそらく空軍による地上攻撃はされる。盆地になっているタルブで、万一避難し損ねたとしたら……)
 一家の世話にはなりたくない、と言っていたロベルト老の言葉がよぎる。
「…そういえば、シエスタと言いましたか。あの子の故郷がタルブでしたな…」
 コルベールも彼なりに見知った少女の身を案じているらしい。
 不安な面持ちでギュスターヴが顔を上げたその時、学院の連なる塔から爆発音が轟いた。
「「!!?」」
 音は間近ではなく、もう少し遠くからのようであった。見上げると、何処からか上がった煙が空に細く垂れていた。
「女子生徒寮からのようですな……っ?!」
 コルベールは我が目を疑った。遠くに見える女子生徒寮の窓から何かが飛び出したのである。
 しかもその飛び出したものは地面に落ちるかに見えたが、落下の途中でフッ、と音もなく消えた。
「『ただいまギュスターヴ』」
「!」
 コルベールとギュスターヴの背後から聞き慣れた、だがどこか雰囲気の変わった声が聞こえる。
 振り向けば、そこにはルイズが居た。その手には卵のような物体と、暴き出された『灼熱に光る』ファイアブランドが、握られていた
「ルイ…ズ…?」
 唐突に現れたルイズの豹変は、ギュスターヴへ無意識の内に警戒感を感じさせるほどだった。
「『ええ、私よ。ちょっと色々あって、これからタルブまで出かけなきゃいけないの』」
 透けるほど綺麗で不気味な金の瞳が二人を見ていた。
「み、ミス・ヴァリエール…その姿は、一体…」
「『コルベール先生、お力をお借りしますわ』」
「は?」
 コルベールの返事を待たず、ルイズは卵を握る手をコルベールに向けて呟いた。
「『吸収【サクション】』」
「っ?!」
 その瞬間、コルベールの身体が磔にされたように固まり、体中を雷撃で打たれたかのような痙攣が襲う。
「がぁっ…ぁぁッ……っ?!」
 痙攣するコルベールの身体から漏れ出した青白い気体が、どんどんとルイズの身体に吸い込まれていく。
「ルイズ……何を…」
 目の前の出来事にギュスターヴも追従できずに唖然としていた。一方ルイズは、どこか満足げに痙攣するコルベールを眺めていた。
「『あぁ、素晴らしいわコルベール先生。貴方のアニマは鍛えられていて充実しているわ』」
「何をやっているんだと聞いているんだルイズ!コルベール師に何をしている!アニマとはどういうことだ!その手のファイアブランドは一体」
「『煩いわよ』」
 ルイズの声と同時にギュスターヴの目の前に炎の壁が押し寄せた。炎の壁はルイズの手にあるファイアブランドが振られたことで発生した『炎の術』の固まりだった。
「ぐっ?!」
 不意打ちを食らったギュスターヴは火達磨になって地面に叩きつけられた。そうしている間にも、コルベールの体から抜け出た青白い気体はあらかたルイズに吸い込まれてしまう。
「がふっ」
「『ご馳走様でしたコルベール先生。これでタルブまで行けそう…』」
 うっとりと空を見上げるルイズ。手の卵がどくり、と脈打った。
「タルブで…何を……するつもりだ…」
「『あら、生きてたのねギュスターヴ』」
 倒れていたギュスターヴは、身に着けている衣服こそぶすぶすと焼け焦げていたが、身体自体には殆ど傷を受けていなかった。どうにか立ち上がり、変貌したルイズを睨みつけた。
「『もっと沢山のアニマが要るわ。命を煌かせる場所に行きたいの。そう、例えば戦場にね』」
 冷ややかな金瞳は、ギュスターヴを果たして見ているのだろうか。
「『ギュスターヴ。あんたに用はないわ。あんたって空っぽなのね。コルベール先生にはあんなに満ち足りたアニマが入っていたのに』」
「人を入れ物のように言うんじゃない」
 軽薄に話すルイズに渇して叫ぶギュスターヴ。だが、ルイズは興味を無くしたのか、空を見た。
「『行くわ。さようならギュスターヴ』」
 そう言うと、ルイズの身体は真っ黒な影のようになって消えてしまった。



 トリスタニア北西5リーグの地点では、急遽編成された王軍総勢3000人の兵士達が整列していた。
 居並ぶ兵士達を前に立つのはアンリエッタだ。拵えたきりで長らく袖を通していなかった戦装束に身を固めている。
「我がトリステイン王国の名を与えられた兵士一同。私達はこれよりタルブに入り、アルビオンの軍勢と戦います。彼の者を吾らの国土から追い落とすのです」
 歓声で兵士達は応え、トリステイン王国軍は一路、タルブに向かって進軍を開始した。


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