Zero May Cry - 03
「ん………」
僅かに開いた瞼から差し込むのは朝日の光。ネロは未だにハッキリとはしない意識の中で、朝を迎えたと言う事実を認識した。
そのままゆっくりと体を起こし、周りを見渡す。
そのままゆっくりと体を起こし、周りを見渡す。
「こう都合よく夢でした……みたいなオチじゃねぇよな……」
そこにあるのは見知らぬ部屋の中に散らかった女性用の洋服。そして視線を窓の方へ投げるとベッドの上で寝息を立てる少女の姿。
それらが何を意味するのか、ネロはもう一度頭の中で整理をした。
それらが何を意味するのか、ネロはもう一度頭の中で整理をした。
自分はこの少女に使い魔として「召喚」された事。
この少女のために、自分は使い魔になることを受け入れた事。
「召喚」されたこの場所は自分にとって異世界である事。
この少女のために、自分は使い魔になることを受け入れた事。
「召喚」されたこの場所は自分にとって異世界である事。
元の世界に帰る方法が、果たしてあるのか。
それは、今のネロには分からない。
それは、今のネロには分からない。
「さて……怖い怖いご主人様が目ぇ覚ます前に一仕事済ませるか」
そう言ってネロは散らかっている洋服をまとめて手近にあったかごへと放り込む。それを左腕で抱えてネロはルイズの部屋の窓から飛び降りた。
洗濯と言うからにはおそらく水汲み場のような場所があるのだろうが……。
庭へ着地したネロは辺りを見回す。一見するとそのような場所は見受けられない。
洗濯と言うからにはおそらく水汲み場のような場所があるのだろうが……。
庭へ着地したネロは辺りを見回す。一見するとそのような場所は見受けられない。
「チッ……面倒くせぇな……」
取り合えず適当にうろつこう。誰かに出会えばそいつに聞けばいい。
何ともいい加減な考えだが、結果だけを見ればその考えは間違っていなかった事になる。
ネロは庭を歩く一人の少女を見つけたのだ。よく見ればメイド服を着ている。こういった雑用には慣れていそうだ。
何ともいい加減な考えだが、結果だけを見ればその考えは間違っていなかった事になる。
ネロは庭を歩く一人の少女を見つけたのだ。よく見ればメイド服を着ている。こういった雑用には慣れていそうだ。
「おい、そこのあんた」
「え、私でしょうか?」
「ああ」
「え、私でしょうか?」
「ああ」
ネロの方へ振り向いた少女へ歩み寄ると、彼は抱えていたかごを見せて言った。
「洗濯できる場所を探してるんだ。教えてくれねぇか?」
「洗濯ですか? 分かりました。直ぐにご案内しますね」
「洗濯ですか? 分かりました。直ぐにご案内しますね」
その道中、少女はネロへ尋ねた。
「あの、もしかしてミス・ヴェリエールの使い魔になった方ですか?」
「ミス・ヴェリエールってのは……あのチビっこ嬢ちゃんのことか?」
「ええと……多分その通りかと。髪が桃色の可愛らしい方ですよね?」
「ああ。……で、何であんたは俺のこと知ってるんだ?」
「ミス・ヴェリエールってのは……あのチビっこ嬢ちゃんのことか?」
「ええと……多分その通りかと。髪が桃色の可愛らしい方ですよね?」
「ああ。……で、何であんたは俺のこと知ってるんだ?」
ネロのその問いに少女は笑って答える。
「平民が使い魔として召喚されたって、噂になっているんですよ」
「へっ。ドイツもコイツも平民平民って……そんなに貴族は偉いもんなのか?」
「へっ。ドイツもコイツも平民平民って……そんなに貴族は偉いもんなのか?」
皮肉なネロの一言を受け、少女は慌ててネロへ頭を下げた。
「すっ、すいません! 私、そんなつもりじゃ……」
「おいおい、あんたが謝るなよ。俺だって、別にあんたに言ったわけじゃないさ」
「おいおい、あんたが謝るなよ。俺だって、別にあんたに言ったわけじゃないさ」
そして、ネロは直ぐにこう付け足す。
「それに平民だろうが貴族だろうが、俺にはあんまり関係ねぇしな」
「そうなんですか? 不思議な人ですね」
「そうなんですか? 不思議な人ですね」
少女はくすりと笑ってネロを見つめた。
そんな少女の態度に何を思うのか、今度はネロが少女へ質問した。
そんな少女の態度に何を思うのか、今度はネロが少女へ質問した。
「そういうあんたは貴族じゃないのか? 魔法とかは使わねぇのか?」
「とんでもないです! 私は魔法が使えない平民ですので、ここでこうして皆様にご奉仕させていただいて貰ってるんですよ」
「へぇ……。まだ若いのに随分と見上げた心がけだな」
「いえ……そんな……」
「とんでもないです! 私は魔法が使えない平民ですので、ここでこうして皆様にご奉仕させていただいて貰ってるんですよ」
「へぇ……。まだ若いのに随分と見上げた心がけだな」
「いえ……そんな……」
ネロの言葉に照れたのか、少女は僅かに頬を赤らめた。
「あっ、まだ名前を言ってませんでしたね。私、シエスタという者です」
「俺はネロだ」
「ネロさんですか? いい名前ですね」
「……そりゃどうも」
「俺はネロだ」
「ネロさんですか? いい名前ですね」
「……そりゃどうも」
いつの日だったか、己が口にした言葉と同じ事を出会ったばかりの少女に言われ、思わずネロは唇を笑みに歪めた。
と、そんなやり取りをする内に二人は水場へ辿り着く。
と、そんなやり取りをする内に二人は水場へ辿り着く。
「ここか」
「はい」
「はい」
ネロはそのまま一着ずつ洗濯をしようとするのだが……。
何分、彼の右腕をギプスで覆われたままだ。その状態では普通の家事にも不自由を感じざるを得ないだろう。
何分、彼の右腕をギプスで覆われたままだ。その状態では普通の家事にも不自由を感じざるを得ないだろう。
(チッ、左腕だけじゃ面倒くせぇな……)
片腕の洗濯に悪戦苦闘するネロを見て、シエスタは彼に声をかける。
「あの、手伝いましょうか?」
「いいのか?」
「ええ。これぐらいなら大した量ではないですし、お気になさらないでください」
「そうか。悪ぃな。頼むぜ」
「はい!」
「いいのか?」
「ええ。これぐらいなら大した量ではないですし、お気になさらないでください」
「そうか。悪ぃな。頼むぜ」
「はい!」
流石にシエスタの手際は良く、ネロが一着洗濯し終える頃にはあらかた済んでいた。
「助かったぜ。ありがとな」
「いえ。他にも困った事があったなら言って下さいね。ネロさん」
「へっ……。ああ」
「いえ。他にも困った事があったなら言って下さいね。ネロさん」
「へっ……。ああ」
シエスタのその一言にネロは薄く笑い、背を向けると軽く手を振りながら歩き去って行った。
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洗濯を終えたとはいえ、ネロにとっての面倒ごとはまだ残っていた。
そう、寝ているルイズを起こす事である。
そう、寝ているルイズを起こす事である。
「おい。起きろよ」
「う~ん………」
「おいコラ。起きねぇと引っ叩くぞ」
「う~ん………」
「おいコラ。起きねぇと引っ叩くぞ」
その言葉が引き金になったわけではあるまいが、とにかくルイズはまだ眠たそうな様子を見せながらも身体を起こしてネロを見やった。
「……誰? あんた」
「あぁ? お前何言ってんだ? 急にボケちまったのかよ?」
「ああ……使い魔か……ネロ……よね?」
「ああ。洗濯物はここに置いとくぜ」
「うん……。あと、これ」
「あぁ? お前何言ってんだ? 急にボケちまったのかよ?」
「ああ……使い魔か……ネロ……よね?」
「ああ。洗濯物はここに置いとくぜ」
「うん……。あと、これ」
そう言ってルイズは手にバケツを持ってネロへ差し出した。
ルイズの言いたい事が理解できずにネロは首を傾げる。
ルイズの言いたい事が理解できずにネロは首を傾げる。
「水を汲んできてちょうだい……」
やれやれと言いつつネロはそのバケツを受け取ると同時に窓から飛び出した。
その様に思わず目を見開くルイズ。寝起きにも関わらず窓から身を乗り出して叫んだ。
その様に思わず目を見開くルイズ。寝起きにも関わらず窓から身を乗り出して叫んだ。
「ちょっと何考えてんのよ!? ネロ!!?」
「何だよ朝から叫ぶなよ。周りの皆さんにご迷惑だろ?」
「何だよ朝から叫ぶなよ。周りの皆さんにご迷惑だろ?」
三階にあるはずの部屋から飛び降りたというのに、庭から何事も無かったかのように返事をするネロをみて、ルイズは思わず足下をふらつかせた。
何なのだあの男は。三階から飛び降りて無事な人間など聞いたことがない。しかもネロは右腕を骨折しているのだ。怪我人が骨折必死のダイブを敢行するとはどういう事か。
何なのだあの男は。三階から飛び降りて無事な人間など聞いたことがない。しかもネロは右腕を骨折しているのだ。怪我人が骨折必死のダイブを敢行するとはどういう事か。
そんなことを考えている内に、ネロは戻ってきた。
「は、早かったわね」
「そうか? 普通だろ」
「そうか? 普通だろ」
さらりと答えたネロに対しルイズはさらに驚くが、ここはあえてスルー。平静を保つのよルイズ。
意味の分からない暗示をしつつ、ルイズはネロが汲んできた水で顔を洗った。
意味の分からない暗示をしつつ、ルイズはネロが汲んできた水で顔を洗った。
「じゃあ洗濯物干してよ。まだ濡れてるわ」
「まだこき使う気かよ……」
「まだこき使う気かよ……」
小さく舌打ちをしつつも、ネロは言われた通りにかごに入ったままだった服を干してゆく。
すると背後から響くルイズの声。
すると背後から響くルイズの声。
「それ終わったら着替えさせてちょうだい」
その一言についにネロも我慢の限界を超えたのか、彼にしては珍しく冷たく言い放った。
「それぐらい自分でしろ。それともお前は着替えも自分で出来ねぇのか?」
「貴族は下僕がいる時には、自分で服なんて着ないの!」
「メンドくせぇ。自分でしろ」
「貴族は下僕がいる時には、自分で服なんて着ないの!」
「メンドくせぇ。自分でしろ」
使い魔にあるまじきネロの態度に、とうとうルイズの方も堪忍袋の緒が切れたようだ。
「何よ!! そんな事言ってるとご飯食べさせてあげないわよ!?」
「ハッ。俺が飯で釣られると思ってんのか? めでたい嬢ちゃんだな」
「~~~~~っ!!! もう知らないっ!! 朝御飯も抜きだからね!!」
「ハッ。俺が飯で釣られると思ってんのか? めでたい嬢ちゃんだな」
「~~~~~っ!!! もう知らないっ!! 朝御飯も抜きだからね!!」
それで気が済んだ訳ではないだろうに、しかしそれでもルイズは自分で着替えを始めた。
ネロの方はそれを見向きもせずに無言で洗濯物を干すのを続けている。片腕だけに手間取っているようだ。
やがて着替えを終えたルイズは怒りが納まらぬ様子でネロに言った。
ネロの方はそれを見向きもせずに無言で洗濯物を干すのを続けている。片腕だけに手間取っているようだ。
やがて着替えを終えたルイズは怒りが納まらぬ様子でネロに言った。
「私はこれから朝食を食べに行くけど、あんたはここで大人しくしてなさい!」
それだけ言い終えるとルイズは勢い良く扉を閉めて行ってしまった。
一人残されるネロ。
一人残されるネロ。
「…………マジで困ったもんだぜ。ありゃ」
しかし彼は気にした様子もなく寧ろ呆れたように一人呟いた。
別にネロはルイズの態度に腹を立てている訳ではない。ただ慣れない雑用が純粋に面倒くさいと思っただけだ。
別にネロはルイズの態度に腹を立てている訳ではない。ただ慣れない雑用が純粋に面倒くさいと思っただけだ。
「こいつも隠さなきゃなんねぇし……ホントにメンドくせぇぜ」
そう語る彼の視線は、左腕でさすられるギプスに包まれた右腕に注がれていた。
この右腕はもう忌むべきものではない―――そう分かってはいるものの、初対面の人間の前でいきなり見せる気には流石にまだならない。
この右腕はもう忌むべきものではない―――そう分かってはいるものの、初対面の人間の前でいきなり見せる気には流石にまだならない。
いずれ時がきたら、この右腕もルイズに教えるべきだろうか―――ネロはそんな事を思った。
―――to be continued…….