あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無のパズル-10


魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れると、整列した生徒たちは一斉に杖を掲げた。しゃん!と小気味よく杖の音が重なった。
正門をくぐった先に、本塔の玄関があった。そこに立ち、王女の一行を迎えるのは、学院長のオスマン氏であった。
馬車が止まると、召使いたちが駆け寄り、馬車の扉まで緋毛氈の絨毯を敷き詰めた。
「トリステイン王国女王、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりーーーーッ!」
呼び出しの衛士が、緊張した声で王女の登場を告げる。
しかし扉が開いて現れたのは、枢機卿のマザリーニであった。灰色のローブに身を包んだ、四十ほどの痩せぎすの男である。
生徒たちは一斉に鼻を鳴らした。平民の血が混じってるとの噂のあるマザリーニ枢機卿は、貴族たちに人気がないのだった。
しかもマザリーニは、なぜか民衆の人気もなかった。妬みというものかもしれなかった。
マザリーニは生徒たちの態度を気にしたふうもなく、馬車の横に立つと、続いて降りてくる王女の手を取った。
生徒の間から歓声が上がる。
王女はにっこりと薔薇のような微笑を浮かべると、優雅に手を降った。
「あれがトリステインの王女?ふん、あたしの方が美人じゃないの」
キュルケがつまらなさそうに呟く。
「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」
横に立っているティトォにキュルケは尋ねた。
その隣には、タバサもいた。
ふたりして図書館に引きこもっているところを、キュルケが引っ張り出してきたのだった。
「うん、どっちも美人さんだと思うよ」
「なあにそれ。お爺さんみたいな喋りかた!」
キュルケは笑ったが、17ほどに見えるティトォ少年は、実際には100歳以上のお爺さんなのだった。
ティトォはふと、少し離れたところにいるルイズの方を見た。
ルイズは、真面目な顔をして王女を見つめている。黙ってさえいれば、なんとも清楚で、美しく、華やかなルイズであった。
そのルイズの横顔が、はっとした顔になった。それから顔を赤らめる。
どうしたんだろう?と、ティトォは好奇心でルイズの視線を追った。
その先には、見事な羽帽子をかぶった、凛々しい貴族の姿があった。鷲の頭と獅子の胴体を持った、見事な幻獣に跨がっている。
ルイズはぼんやりとその貴族を見つめている。
ふとキュルケを見ると、彼女もまたルイズと同じに、ぼーっと顔を赤らめて、ルイズと同じ羽帽子の貴族を見つめていた。
少し前にはティトォにダーリンなどと囁きかけていたのに、キュルケはまったく気が多い女性なのであった。
ははあ、ルイズはああいうひとがタイプなのか。と、ぼんやりティトォは考えた。
しかし、ルイズがあの貴族に向ける視線は、キュルケのものとはなんだか違っているような気がした。
そのことが少し気になって、トントンとこめかみを指で叩きつつ、ティトォもまた羽帽子の男に目をやった。
タバサだけは相変わらず、座って本を広げていた。


そしてその日の夜……。
ティトォは、ルイズの部屋の隅に置かれた藁束の上に座っていた。
この藁束は、ティトォが部屋に持ち込んだものである。
アクアはルイズのベッドで一緒に寝ていたのだが、さすがにティトォが同じことをするのはどうかと思ったので、藁束で簡易の寝床を作ったのだった。
ティトォは、まん丸に太ったねこを膝に乗せている。
なぜルイズの部屋にねこがいるのだろう、とティトォは一瞬考えたが、気にしないことにした。
ねこは、どこにでもいるのだった。

ねこを撫でながら、ティトォはルイズを見ていた。
なんだか、ルイズは激しく落ち着きがなかった。
立ち上がったと思ったらふたたびベッドに腰かけ、枕を抱いてぼんやりとしている。
昼間、あの羽帽子の貴族を見てからずっとこうだった。
あれからルイズは何もしゃべらずに、ふらふらと幽霊のように歩き出し、部屋にこもるなり、ベッドでこうやってぼんやりしているのだった。
ティトォは、こんなにおとなしいルイズを見るのは初めてだった。
なので、ティトォはルイズの似顔を描くことにした。
ルイズは黙っていれば、はっとするような美貌の持ち主であった。高慢な性格を考えなければ、顔だけは。顔だけは可愛いのだった。
そんなルイズが、ベッドに腰かけ、もの憂げに目を伏せている。びっくりするほど絵になっていた。
アマチュア絵描きの魂を刺激されたティトォは、スケッチブックにルイズの似顔絵を描きはじめた。
それからしばらくの間、部屋にはスケッチブックに鉛筆を走らせる音と、ときおり付くルイズのため息の音だけが響いていた。
「あ……ちょっといい出来かも」
ティトォは筆を止め、呟いた。
自画自賛だけど、これはいい。イケてる。今まで描いてきた中でも、五本の指に入る作品かもしれない。
思いもかけず生まれた傑作に、ティトォの胸は高鳴った。ぜひぜひ感想を聞いてみたくなって、いても立ってもいられなくなってしまう。
「ルイズ、きみを描いてみたんだ。……どうかな?」
どんな反応が返ってくるか、ティトォは少し緊張しながらルイズにスケッチブックを差し出した。
ルイズはちらりとスケッチブックに目を落とす。
そこに描いてあったのは、小さな子供が見たら泣き出しそうな、おばけのような顔だった。
ティトォにはこれっぽっちも絵の才能がないのだった。
もし、ルイズが普段通りのルイズだったなら、このおばけの絵を目の前に「ご主人様の似顔でございます」などと言おうものなら、烈火のごとく怒り狂ったに違いなかった。
しかしティトォにとって幸運なことに、ルイズは深くもの思いに沈んでいたので、ほう、と切なげなため息をついただけだった。
その反応を、ティトォは「気に入ってくれたんだ」と解釈した。スケッチブックからそのページを破りとると、満足げににこにこ笑いながら、自分の傑作を矯めつ眇めつした。
ティトォは、自分と周りに花の咲いている人であった。
おめでたいヤツなのだった。
そんなふうにして二人が過ごしていると、トントンと部屋のドアがノックされた。
「誰だろ?」
ティトォはルイズを促した。
ノックは規則正しく叩かれた。初めに長く二回、それから短く三回……。
ルイズは、はっとした顔になった。
急いで立ち上がり、ドアに駆け寄り、開く。
そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った、少女だった。
黒頭巾の少女は、そそくさと部屋に入ってきて、後ろ手にドアを閉めた。
それから、頭巾と同じ漆黒のマントの隙間から魔法の杖を取り出し、軽く降る。
短くルーンを呟くと、光の粉が部屋に待った。
「……ディテクトマジック?」
フーケの小屋で、タバサが使った探知の呪文だ。
ルイズが尋ねると、頭巾の少女が頷く。
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
部屋のどこにも、聞き耳を立てる魔法の耳や、どこかに通じる覗き穴がないことを確かめると、少女は頭巾を取った。
ルイズはあっと息を呑んだ。現れたのは、なんとアンリエッタ王女であった。
「姫殿下!」
ルイズが慌てて膝を付く。
ティトォは一瞬ぽかんとしたが、ルイズにならって頭を垂れた。
アンリエッタは優しい微笑を浮かべていたが、やがて感極まったような表情になって、膝を付いたルイズを抱きしめた。
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ!ああルイズ、懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。このような下賎な場所へお越しになられるなんて……」
ルイズはかしこまった声で言った。
「ルイズ!そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮のつっぱった宮廷貴族たちもいないのですよ!
 ああ、ルイズ、わたくしの懐かしいおともだち。あなたにまでそんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下……」
ルイズは顔を持ち上げた。
アンリエッタは嬉しそうに、ルイズに語りかける。
「幼い頃、一緒になって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃない?泥だらけになって!」
はにかんだ顔で、ルイズが答える。
「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ボルト様に叱られました」
「そうよ!そうよルイズ!ふわふわのクリーム菓子を取りあって、掴み合いになったこともあるわ!ああ、ケンカになると、いつもわたくしが負かされたわね。あなたに髪の毛を掴まれて、よく泣いたものよ」
「いえ、姫さまが勝利をお収めになったことも、一度ならずございました。覚えておいでですか?わたしたちが『アミアンの包囲戦』と呼んでいるあの一戦を……」
ルイズとアンリエッタは懐かしい思い出話に花を咲かせ、くすくすと楽しそうに笑いあった。
ティトォはそんな二人を見て、ちょっと呆れていた。
おしとやかに見えたのに、とんだお転婆姫さまである。
ふとアンリエッタは、部屋の隅に控えるティトォに気付いた。
「あらまあ、ルイズ。ごめんなさい、もしかしてお邪魔だったかしら」
「お邪魔?どうして?」
「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」
「はい?恋人?ティトォが?」
ルイズは首をぶんぶんと振って、アンリエッタの言葉を否定した。
「姫さま!彼はただの使い魔です!恋人だなんて冗談じゃないわ!」
「使い魔?」
アンリエッタはきょとんとした面持ちで、ティトォを見つめた。
「人にしか見えませんが……あなたの使い魔は、そちらのねこではなくって?」
アンリエッタはティトォの横にいる白いねこを示した。
「違います。人の方です」
そう答えながらも、ルイズはなんで部屋にねこがいるんだろう、と思っていた。
まあ、いいか。あのねこって、どこにでもいるんだもの。
「まあ。ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」
「好きであれを使い魔にしたわけじゃありませんわ」
ルイズは憮然とした。
「どんな知り合いなの?」
ティトォが尋ねると、ルイズは懐かしむように目をつむって答えた。
「姫さまがご幼少のみぎり、恐れ多くもお遊び相手を務めさせていただいたのよ」
アンリエッタは、ルイズに微笑んだ。
「ええ、懐かしい……。あの頃は、毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんかなくって」
顔は笑っていたが、深い、憂いを含んだ声であった。
「姫さま?」
ルイズは心配になって、アンリエッタの顔を覗きこんだ。
「姫さま、どうなさったんですか?」
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……。いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……わたくしってば……」
「おっしゃってください。昔はなんでも話し合ったじゃございませんか!わたくしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」
ルイズの言葉に、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。
そして決心したように頷くと、語りはじめた。
「今から話すことは、誰にも話してはいけません」
ルイズはちらっとティトォを見た。
「席、外そうか?」
ティトォはそう言ったが、アンリエッタは首を振った。
「いえ、メイジと使い魔は一心同体。席を外す理由がありません」
そして、物悲しい調子で、アンリエッタは語りだした。
「結婚するのよ。わたくし」
「……おめでとうございます」
その声の調子に、なんだか悲しいものを感じたルイズは、沈んだ声で言った。

「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」
「ゲルマニアですって!あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」
「そうよ。でも、しかたがないの。同盟を結ぶためなのですから」
アンリエッタは、ハルケギニアの政治情勢を、ルイズに説明した。
アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。
反乱軍は『レコン・キスタ』と名乗り、ハルケギニアの統一を叫んでいること。
アルビオン王家を倒したら、次はこのトリステインにレコン・キスタの矛先が向くであろうということ。
それに対抗するために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。
同盟のために、アンリエッタ王女がゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったこと……。
「そうだったんですか……」
ルイズは沈んだ声で言った。アンリエッタがその結婚を望んでいないのは、口調から明らかであった。
「いいのよ。ルイズ、好いた相手と結婚するなんて、物心付いた時から諦めていますわ」
「姫さま……」
「礼儀知らずのアルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。したがって、わたくしの婚姻を妨げるための材料を、血眼になって探しています」
アンリエッタは目を伏せた。
「……もしかして、姫さま。婚姻を妨げるような材料が?」
ルイズが蒼白になって尋ねると、アンリエッタは悲しそうに頷いた。
「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救い下さい……」
アンリエッタは顔を両手で覆うと、床に崩れ落ちた。妙に大げさで、芝居がかった仕草だった。
「言って!姫さま!いったい、姫さまのご婚姻を妨げる材料ってなんなのですか?」
ルイズも興奮したようにまくしたてる。
「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです。それがアルビオンの貴族たちの手に渡ったら……、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」
「手紙?どんな内容なのですか?」
「……それは言えません。でも、それを読んだら、ゲルマニアの皇室はわたくしを許さないでしょう。婚姻は潰れ、同盟も反故。トリステインは、一国にてアルビオンの反乱軍に立ち向かわねばならないでしょうね」
ルイズは息せき切って、アンリエッタの手を握った。
「いったい、その手紙はどこにあるのですか?トリステインに危機をもたらす、その手紙とやらは!」
「それが、手元にはないのです。実はアルビオンにあるのです。反乱勢と骨肉の争いを繰り広げている、アルビオン王家のウェールズ皇太子の手に……」
「プリンス・オブ・ウェールズ?あの、凛々しき王子さまが?」
ルイズは息を呑んだ。
「では、姫さま、わたくしに頼みたいことと言うのは……」
アンリエッタはのけぞると、ベッドに身体を横たえた。
「無理よ!無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう!混乱しているんだわ!貴族派と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」
「何をおっしゃいます!このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・ヴァリエール、姫さまの御為となれば何処なりと向かいますわ!姫さまとトリステインの危機、見過ごすわけにはまいりません!」
ルイズは膝を付いて恭しく頭を下げた。
「『土くれ』のフーケを捕まえたこのわたくしめに、その一件、ぜひお任せ下さいますよう」
フーケ討伐において、ルイズは特に何もしていなかったが、ぶっちゃけほとんどティトォの手柄だったのだが、いいのだ。
使い魔の手柄は主人の手柄なのだから。
「このわたくしの力になってくれるというの?ルイズ・フランソワーズ!懐かしいおともだち!」
「姫さま!このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます!永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」
ルイズがアンリエッタの手を取って、熱っぽい口調でそう言うと、アンリエッタはぼろぼろ涙をこぼした。

「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です!感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません!ルイズ・フランソワーズ!」
アンリエッタとルイズはひしと抱き合って、おいおい泣きはじめた。
自分の言葉に酔ったような二人であった。
ティトォは、半分呆れた気持ちで二人を見つめていた。
ルイズったら、いいように乗せられちゃって。こっちから進んで王家の密命を賜っちゃったよ。
狙って話を持ちかけたんなら、あの王女さま、たいした食わせものだね。
でもなんだか、あの人からはそういう悪賢い印象は受けないな。
どっちかって言うと、側近や侍女にも相談できなくて、本当に困り果てて、昔の友達を頼ってきたって感じかな。
ああいう芝居がかった仕草も、おそらく政の世界で過ごすうちに自然に身に付いてしまったもの……
トントンとこめかみを指で叩きながら、ティトォはアンリエッタを分析する。しかし、ふいに思考の展開を止めてしまった。
(……やめとこ。悪い癖だ)
落ち着くと、ルイズは身体を離し、アンリエッタの目を見つめた。
「アルビオンに赴きウェールズ皇太子を捜して、手紙を取り戻してくればよいのですね?姫さま」
「ええ、その通りです。『土くれ』のフーケを捕まえたあなたたちなら、きっとこの困難な任務をやり遂げてくれると信じています」
「一命にかけても。早速明日の朝にでも、ここを出発いたします」
ルイズはふたたび恭しく頭を下げた。
アンリエッタはにっこり微笑むと、ティトォの方に顔を向けた。
「頼もしい使い魔さん」
「え、ぼく?」
「わたくしの大切なおともだちを、これからもよろしくお願いしますね」
そして、すっと手を差し出した。手の甲を上に向けている。
ティトォが目をぱちくりしていると、ルイズが促した。
「ぼさっとしてないでよ、もう。こんな光栄、めったにないんだからね」
ああ、キスを許されたってことか。忠誠の証に。
ティトォはこういう気取った儀式には慣れていないので、いささか優雅さに欠ける動きで頭を垂れると、跪いてアンリエッタの手に唇を近付けた。
と、その時、ドアがばたーんと開いて、誰かが飛び込んできた。
ティトォはびっくりして、ドアの方に顔を向ける。
「いけません姫殿下!使い魔にお手を許すなんてーッ!」
飛び込んできたのはなんと、以前アクアと決闘騒ぎを起こしたギーシュ・ド・グラモンであった。
相変わらず薔薇の造花を手に持っている。
「ギーシュ!あんた!立ち聞きしてたの?今の話を!」
ルイズが叫ぶ。しかしギーシュはその問いには答えず、夢中になってまくしたてる。
「薔薇のように見目麗しい姫さまの後を付けてきてみればこんなところへ……、それでドアの鍵穴からまるで盗賊のように様子をうかがえば……、姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう」
「なに言ってんのよ!覗きなんかして、どういうつもり!このバカチン!縛り首よ。ししし、縛り首だわ!」
ルイズが興奮して叫ぶ。

「ぼくも仲間に入れてくれ!」
ギーシュもわめいた。
「どうして?」
ティトォが尋ねると、ギーシュはぽっと頬を赤らめた。
「姫殿下のお役に立ちたいのです……」
ルイズはそんなギーシュの様子で、感づいた。
ギーシュは恐れ多くも姫殿下に恋してしまったのだ。
ルイズは呆れて、声をかける。
「あんた、彼女いたでしょう、ほら、モンモランシーが。どうしたのよ」
しかしギーシュは無言だった。ルイズはなるほど、と思った。
「フラれたのね、ギーシュ。今度こそ完璧に」
例の、食堂での香水の一件で、二股がばれたことをルイズは思い出した。
「う、うるさいね!きみの使い魔のせいじゃないかね!」
この場合の『使い魔』とは、ティトォではなくアクアのことである。
「グラモン?あの、グラモン元帥の?」
アンリエッタがきょとんとした顔でギーシュを見つめる。
「息子でございます。姫殿下」
ギーシュは立ち上がると恭しく一礼した。
「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」
「任務の一員に加えてくださるのなら、これはもう望外の幸せにございます」
熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお救い下さい、ギーシュさん」
「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった!姫殿下が!トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君がこのぼくに微笑んでくださった!」
ギーシュは感動のあまり、後ろにのけぞって失神した。
ギーシュを見下ろすルイズとティトォの目は、どちらも同じことを言っていた。
大丈夫かこいつ。
アンリエッタはこほんと咳払いをすると、机に座って、ルイズの羽根ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためた。
アンリエッタは筆を止め、手紙をザッと見直すと、少し躊躇ったように末尾に一文付け加えた。
「始祖ブリミルよ……。この自分勝手な姫をお許し下さい。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるを得ないのです……、自分の気持ちに、嘘をつくことはできないのです……」
密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情だった。
アンリエッタは書いた手紙を巻いた。杖を振る。すると、どこから現れたものか、巻いた手紙に封蝋がなされ、花押が押された。
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」
それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜くと、手紙とともにルイズに手渡した。
「母君からいただいた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が心配なら、売り払って旅の資金に充ててください」
ルイズは深々と頭を下げた。
ティトォは、『水のルビー』の事が、なにか気がかりだった。不死の身体が、『水のルビー』に奇妙な反応を示していたのだ。
「この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなた方を守りますように」



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