あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-17a


 バラバラに散った、他のメンバーとワルドの『偏在』で作られた分身たち。
 上手い具合にバラけて1対1の様相を呈してくれたのだが、ルイズが自分の近くを離れてくれなかったので、結局は2対2となった。
 正直、ルイズは戦力としてカウントしていなかったので実質1対2か……と思っていたのだが、ルイズは戦闘開始直後にいきなりファイヤーボール(の出来損ない)をぶっ放し、分身はアッサリ消滅してしまう。
 この調子でもう1体の方もお願いしたかったのだが、残ったワルドは瞬時にルイズにおどりかかり、ルイズは杖で強打されて気絶して戦闘不能に。
 ―――結局、1対1となってしまった。
 『ウィンド・ブレイク』や『エア・ハンマー』から(それがルイズの方に向けられないように)逃れながら、ユーゼスは思考する。
(このまま持ちこたえて、ミス・タバサやミス・ツェルプストーにこの男を倒してもらおう)
 自分がこの男に勝てないことは、ラ・ロシェールの戦いで証明済みである。
 とにかく防御と回避に徹して、あとはそれなりに勝ち目のある人間に任せる―――というのが、賢い手段というものだ。
 ユーゼスは本気でそう考えていた。
 ……考えていたのだが。
 ガキィインッ!!
「くっ……!」
「フ……」
 接近してきたワルドが振るった杖によって、手に持っていた剣が弾き飛ばされてしまった。
 不味い。これではルーンの効果が発揮出来ない。
 ルーンによる身体能力の向上がなければ、ワルドの攻撃をしのぎ切ることは無理だ。
 拾っている余裕などないし、鞭では上手く防ぐことが出来る自信がないので、背中の鞘(『ライトニング・クラウド』を受けたせいで壊れていたが、アルビオン軍に新しいものを用意してもらった)からデルフリンガーを抜く。
 まあ、防御に使うだけならば、この錆びた剣でも十分だろう。
 耐久性は色々と(焚き火にくべたり、直後に氷水で冷やしたり、魔法学院の衛兵に頼んで大型のハンマーで叩いてもらったり)実験をして証明済みであるし。
「おっ、いきなり抜かれたと思ったら、またコイツと戦ってんのか?」
 剣は相変わらずうるさく喋っているが、無視。
 とにかく回避と防御に専念である。
「フン、どうしたガンダールヴ? 動きが鈍いではないか。伝説の使い魔なのだから、せいぜい僕を楽しませてくれよ」
 笑いながら敵がそんなことを言ってくるが、これも無視。
 ……どうせ挑発してこちらに攻撃させ、その際に生じた隙を突くとか、そのような狙いだろう。
 と、その時、手に持っているインテリジェンスソードが叫んだ。
「―――思い出した! そうか……ガンダールヴか!!」
 取りあえず、無視。
「俺は昔、ガンダールヴに握られてたんだ! でも忘れてた。何せ、今から六千年も昔の話だからな!!
 いやあ、懐かしいねえ、泣けるねえ。そうかあ、なーんか懐かしい気がしてたが、相棒、あの『ガンダールヴ』か!」
(何を言っているのだ、この剣は)
 それと、勝手に『相棒』呼ばわりするのは止めてもらいたい。いちいち馴れ馴れしい剣である。
「嬉しいねえ! ……おっと、戦ってる最中だったな! 俺もこんなカッコしてる場合じゃあねえ!!」
 カッ!
 剣の柄あたりから叫び声が響き、次の瞬間、デルフリンガーの刀身が輝き始めた。

(しまった!)
 驚いた拍子に、迂闊にも動きを止めてしまった。
 その隙をワルドが見逃す筈もなく、『ウィンド・ブレイク』を放ってくる。
 この間抜けめ、と心の中でインテリジェンスソードに向かって毒づくが、毒づいてどうにかなるものでもない。
 ユーゼスは咄嗟に光るデルフリンガーを構えて防御しようとする。
「無駄だ! 剣では避けられないことも理解が出来ないのか!?」
「……!」
 理解しているが、反射的に構えてしまったのである。
 そして風のカタマリは容赦なくユーゼスに襲いかかり、
 デルフリンガーの刀身に、吸い込まれていった。
「「何!?」」
 同時に驚くユーゼスとワルド。
 見るとデルフリンガーは、あの錆びだらけだった姿が嘘のようにスラリと光り輝いている。
「……どういうことだ、デルフリンガー」
「お、初めて俺の名前を呼んだな、相棒!? これがホントの俺の姿さ! いやぁ、てんで忘れて―――」
「お前は、魔法の無効化が出来るのだな?」
 デルフリンガーのセリフを遮って、ユーゼスが質問した。
「え? あ、ああ、チャチな魔法なら、全部俺が吸い込んで」
「……何故、購入した時点でそれを言わなかった」
「いや、だから忘れて―――」
 ユーゼスは舌打ちすると、改めてデルフリンガーを構える。
「あ、あのー、相棒?」
「戦闘中に、いちいち会話をしている余裕などない。……それと『相棒』は止めろ」
「……おう、ユーゼス」
 かなり高かったはずのデルフリンガーのテンションが、大幅にダウンする。
 しかしそんなことには全く頓着せず、ユーゼスはワルドとの戦闘を再開した。
 これで戦い方に幅は出たが、しかし、
「魔法を吸収する剣か……ならば、これはどうだ!!」
 ワルドはデルフリンガーへの対抗策として、『エア・ニードル』を杖にまとわりつかせた。
(……『杖自体を魔法の発生源』にしたか)
 先程、ウェールズを殺害した攻撃方法である。
 確かにこれならば、『吸収する先から発生する』ので、消滅することはない。
(どうするか……)
 このままジリジリ攻撃されては、いずれ手詰まりになってやられてしまう。
 仕方がないので、飛び退いて距離を取った。
 追撃としてワルドは『エア・ニードル』を射出するが、これは吸収して掻き消す。
 ……その時、デルフリンガーが驚きの声を上げた。
「……おい! あの貴族の娘っ子、気絶して倒れてるじゃねえか!? どういうことだ!?」
 何を今更、とユーゼスは嘆息した。……このままわめかれても迷惑なので、一応説明しておく。
「あの男の攻撃を受けたからな」
「はあ!? それで、何でお前はそんな平然としてんだよ!?」
「?」
 ユーゼスは、その質問の意図が理解出来なかった。
「……その質問の意味が分からないのだが」
「い、意味が分からないって……こっちのセリフだ!! 主人がやられて感情を波立たせねえ使い魔なんて、聞いたことがねえぞ!!」
 ああ、とユーゼスは納得した。
 そう言えば、『普通の使い魔』はそういうものらしい。
 疑問が氷解したので、今度はこの剣の疑問に答えることにする。
「……何故、私がそんなことで感情を動かさなければならないのだ?」
「―――は?」
「…………何だと?」
 この言葉にはデルフリンガーだけではなく、ワルドすら絶句した。

「私が御主人様に従っているのは、別に恩義でも忠義でも義理でも愛情でも同情でも憐憫でもない。
 あの少女から『使い魔とはこういうものだ』と言われたからだ」
「な、な、な……」
 唖然とした声を上げるデルフリンガーだったが、どうにか声を絞り出す。
「ちょ……、ちょっと待て。お前、何て言うか『あの娘っ子を守らなきゃ』とか、そういう気持ちが湧き上がったりは―――」
「『仕事としての義務感』に近いものならばあるが。やらなければならないから、やっているだけだ。
 強いて言うなら、『手のかかる子供の面倒を見る』程度の思い入れはある」
「…………主人の危機に対して、こう、カッと燃えるものとかは―――」
「死んでいないのならば、それで良いだろう? 重傷とも思えん」
 今度こそデルフリンガーは沈黙した。
 おかしい。
 ガンダールヴに限らず、使い魔には契約のルーンを刻む際に『主人に対する忠誠心』だとか『親愛の情』などが植え付けられるはずだ。
 まさか、ガンダールヴのルーンに何か不備が……いや、あるいは契約時に何かトラブルがあったか……。
 いずれにせよ、これでは『心の震え』に応じて発揮されるガンダールヴの力が、かなり減少してしまう。
 とんでもねえ使い手に当たっちまった……とデルフリンガーが嘆いていると、
「ハ……ハハハハハッ!! これはいい! ……そうか、伝説の使い魔はその主人に対して、何の情も感じていなかったか!!」
 いきなりワルドが大笑いを始めた。
 ユーゼスは、それを感情のこもらない目で見つめる。
「ククク……、いや失礼。だが、それならばユーゼス・ゴッツォ……」
 そしてワルドは、一つの提案を行う。
「……僕と共に来る気はないか?」
「何?」
 驚きと疑問で、ユーゼスの表情が変化した。
「『偏在』で作られた僕の分身は、全て倒された。……トライアングルの彼女たちはともかく、あのドットの坊やが私の分身を倒すなど、にわかには信じがたい……。彼に入れ知恵をしたのは君なのだろう?」
「そうだ。しかし、スクウェアクラスのメイジを倒せるとは思っていなかったがな……」
「やはりな。……我々『レコン・キスタ』は、君のような優秀な人間を必要としているのだ。
 平民であることなら、気にする必要はない。ハルケギニアを統一しエルフ共を倒すためには、それに代表される悪しき風習こそを打破なければならないのだから」
「ほう……」
 言っていること自体は、立派である。
「そして、君が持つ『謎の力』……。魔法学院からラ・ロシェールまでごく短時間で移動した、あの力を上手く使えば……」
(……本音はそれか)
 途端に、ユーゼスの興味が冷めていった。
 彼らに協力するのも面白いかと思ったが、この様子ではせいぜい実験動物ほどの扱いがいい所だ。
 はあ、と溜息をつく。
 自分もかつて、ウルトラマンを似たような感じで捉えていた。
 この男と接すれば接するほど、自分の汚点と言うか恥部を見せ付けられている気分になってくる。
 ……加えて、人材の勧誘が下手なところまで似ている。
「君の知識と、君の力! それがどれだけ『レコン・キスタ』に―――」
「もういい、黙れ」
 キッパリと言い放つ。
「せっかくの誘いだが、断らせてもらう。私はのんびりと余生を過ごしていたいのでね」
「な……、貴様……!」
 すぐに感情的になる。これも昔の自分と同じだ。もう嫌気が差してきた。
 ならばもう、こうするしかあるまい。
「お前は―――私が倒そう」

 言った直後、弾き飛ばされた剣の元へと駆け出し、拾う。
 ワルドはそんなユーゼスの行動を眺めながら、苛立たしげに言葉を放った。
「……お前が、私に勝つだと? その体たらくでか?」
「そうだ。……さすがに『必殺』とはいかんが、少なくとも追い詰める程度は出来るだろうよ」
 両手でそれぞれ剣を振るった後で、何の変哲もない普通の剣を、腰の鞘に仕舞う。
(ぬ……)
 その動作に、ワルドは警戒の念を抱いた。
 左右の手を使った二つの剣の戦法―――そんなものが自分に対する有効な手段とは思えない。
 だが、相手は仮にも伝説にその名を記す『ガンダールヴ』。
 あらゆる武器を使いこなしたと言われるこの目の前の存在は、もしかすると自分の思いもよらない方法で勝利を狙って来るかも知れない。
(迂闊に接近するのは危険だな……)
 ならば、遠距離からの攻撃で仕留めるしかあるまい。
 ……生半可な魔法では、あのインテリジェンスソードに吸収される。
 自分の手持ちの魔法の中で最大の攻撃力を持つ『ライトニング・クラウド』であれば、突破は可能だろう。
 事実、ラ・ロシェールの襲撃戦ではあの剣も『ライトニング・クラウド』を吸収しきれずに、ユーゼスは重傷を負った。
(……よし)
 詠唱を開始する。
 悠長にやっていては、またどのような手を使われるのか分からないので、高速で。
(む?)
 気付くと、対峙しているユーゼスはいつの間にかインテリジェンスソードを片手に……逆手に持ち替えていた。
 やはり何か自分の知識にない戦法を使うつもりだったようだ。
 接近しなくて正解だったな、などと思いながら詠唱を完了させ、あとは撃つだけという段階になった直後、
「ふっ!」
「げえっ!!?」
「!?」
 ユーゼスが、掛け声と共に―――デルフリンガーを投擲した。
(何だと!?)
 混乱する。剣を投げつけるなど、まともな戦い方ではない。だが打ち払うなり迎撃するなり避けるなりしなければ、
「っ!!」
 バリィイイイイインッ!!
 反射的に『ライトニング・クラウド』で、投げられたデルフリンガーを撃ち落とす。
「しまった……!」
 『敵を殺すための攻撃』を、『敵の武器への対抗手段』として使ってしまったことに後悔する。
 だが、敵の次の動作は予測が出来る。
 手持ちの武器は、腰に下げている剣のみのはずだ。
 ヤツに残された攻撃手段は、接近しての斬撃か刺突しかない。
 ―――その思い込みが、ワルドの敗因であった。
 ユーゼスの手は少々ぎこちないながらも素早く背中へと回り、そこからロープのような物を取り出した。
(……何だ、アレは?)
 見極める暇もなく、ユーゼスはその『ロープのような物』を全身を駆使して振るう。
 シュピィイイッッ!
「ぐっ!?」
 かなりのスピードでこちらに飛んで来た『ロープのような物』によって、右手に持った杖が根元から折られてしまった。
(何なのだ、この男は!?)
 繰り出す攻撃、もたらされる知識や発想のほとんどが、こちらの常識にないものだ。
 混乱しかけるワルドだったが、そうこうしている間に今度こそユーゼスが腰の剣を抜いてこちらに向かって来る。
 速い。
「くっ……おおおっ!!」
 ザンッ!!
 ワルドの左腕が、肘の少し上あたりから、ポーン、と切り離されて飛んでいく。

(……かわされたか)
 やはり実戦ではそうそう上手くはいかないな、とユーゼスは思った。
 それにしても、『接近しての戦闘』が選択されずにホッとする。
 思わせぶりに二つの剣を両手で振るったことで、ワルドに疑念を抱かせることには成功したようだ。
 ……デルフリンガーが『ライトニング・クラウド』をほぼ完全に食い止められるかどうかも賭けだった。
 また、鞭によって杖を叩き折ることが出来たこと、動揺してワルドの動きが鈍ったことも幸運と言えるだろう。
 ―――かなりの綱渡りだったが、どうにか成功したことに胸を撫で下ろす。
 そしてユーゼスは剣をワルドに突きつけ……ようとしたのだが、
「おのれ……!」
 バッ、と大きく跳びすさるワルド。魔法なし、しかも片腕を失って全身のバランスも悪くなっているであろうに、大した身体能力である。
「……まあ、目的の1つが果たせただけで良しとしよう。どの道ここには、すぐに我が『レコン・キスタ』の大軍が押し寄せる。そら! 馬の蹄と竜の翼の音が聞こえてくるだろう!!」
「待ちたまえ、ワルド子爵!」
「ここまでやっといて、逃げるつもり!?」
 分身を片づけて取りあえずの治療も済み、ユーゼスの元へと集まってくるギーシュたち。
 ワルドはそんな彼らの顔を一通り眺めてから、捨てゼリフを放った。
「フン、愚か者どもめ! ここで灰になるがいい!!」
 そして窓を派手に突き破って、外へと脱出していく。
「待て!!」
「……追うな、ギーシュ・ド・グラモン!」
 反射的にワルドを追いかけようとするギーシュだったが、すかさずユーゼスに止められてしまった。
「ど、どうして止めるんだ!? アイツはウェールズ皇太子を殺して、トリステインを裏切って……!」
「深追いしている余裕はない。……先程ワルドが言っていた通り、すぐそこまで『レコン・キスタ』が迫って来ている」
「う……」
 言われて消沈してしまうギーシュに構わず、ユーゼスは床に転がっているデルフリンガーを拾った。
「ユーゼスよぉ、いくら何でも投げるのはヒデえんじゃ……」
「まともに戦って勝てないのならば、まともではない方法で戦うしかあるまい?」
「いや、それそうだけどよぉ……」
 うるさいので鞘に仕舞って、更についでのように質問した。
「御主人様は大丈夫か?」
「……気絶してるだけみたいね。擦り傷や打ち身だらけだけど、そんなに酷くはないわ」
「そうか」
 キュルケの言葉を聞いて、ルイズの無事を確認する。あれで死なれても目覚めが悪い。
 さて、この場からどうやって脱出したものか―――と悩んでいると、
「モグ!」
「ヴェルダンデ!?」
 ボコ、と礼拝堂の床が盛り上がり、そこからギーシュの使い魔のジャイアントモールであるヴェルダンデが顔を出した。
「無事だったんだね、ヴェルダンデ! 姿が見えないから心配していたんだよ!!」
「モグモグ」
 抱き合うギーシュとヴェルダンデ。
 そのヴェルダンデが地面に空けた穴を見て、タバサがポツリと呟く。
「……地面から脱出する」
 おお、と気絶しているルイズ以外の全員が感心した。地中を通って逃げ出すとは、まさか『レコン・キスタ』も思いはすまい。

 彼らは次々にヴェルダンデの作った穴へと入っていくが、ユーゼスだけはウェールズの亡骸の前で佇んでいた。
「……………」
 ウェールズは完全に死亡している。
 死ぬ寸前であれば『迎えに行く』ことも出来たのだが、そんなことをしても意味がないか、とかぶりを振った。
 第一、『迎えに行く』価値があるのかどうかも分からない。この男とは、そこまで深く関わっていないのだ。
「おーい! 何をしてるんだね! 早くしたまえ!!」
 ギーシュに呼ばれて、早く行かねばと意識を移す。『アンタの主人なんだから、アンタが運びなさい』と言われてしまったので、ルイズを運搬しなければならないのである。
「……形見くらいは貰っておくか」
 ウェールズが指に嵌めていた『風のルビー』を取り外し、懐に忍ばせる。
「……まるで強盗だが……」
 まあ、記念のようなものである。アンリエッタ王女に渡す予定でもあるし、ここは大目に見てもらおう。
 そしてユーゼスはルイズを背負い、モグラの掘った穴から脱出したのであった。
 ―――礼拝堂に貴族派の兵士やメイジが飛び込んだのは、その直後である。
 彼らは、最後まで礼拝堂の床に空けられた穴には気付かなかった。


 左腕の切断面を右手で抑えながら、ワルドは『レコン・キスタ』のそれなりに地位のある人間と接触するべく走っていた。
 雑兵程度では、潜入員である自分の顔は知らないからだ。
「……クソ、忌々しい……!」
 悪態をつく。あの銀髪の男さえいなければ、自分の計画はもっとスムーズに進んでいたはずであったのに……。
 まさに、八つ裂きにしても飽き足らない相手である。
「だが、軽々しく手を出して良い相手でもない……」
 あの男を打ち破るには、正攻法では駄目だ。もっと別の角度から攻めなくては。
「そうだ、あの酒場で話していた男……」
 ラ・ロシェールで、ガンダールヴが『紫の髪の男』と話していたことを思い出す。
 会話の内容はほとんど理解が出来なかったが、その話し振りからするとどうやら彼らは知り合いらしい。
「よし、まずはあの男の持つ情報を得ることから始めるか……」
 ガンダールヴ攻略の糸口、そしてあわよくば『紫の髪の男』から知識や力を得ることが出来るかもしれない。
 義手を入手次第、真っ先にあの『紫の髪の男』の調査を開始しよう―――と、ワルドは決心した。
 ―――その行動がどのような結果をもたらすのか、全く気付かぬままに。


 タバサの使い魔である風竜、シルフィードの背に乗るトリステイン魔法学院の一行。
 あの後、アルビオンの『底』まで掘り進み、その地点からシルフィードを呼んで飛び乗ったのである。
 あとはトリステインに戻るだけなのだが、その中でユーゼスは竜酔いの予感に身を震わせていた。
「……やはり、こうなるのか」
「諦めたまえ、ユーゼス。……と言うか、『アレ』を使えばすぐに帰れるのではないかね?」
 後半部分を小声で囁くギーシュ。
 それにユーゼスもまた小声で返答する。
「定員オーバーだ。『アレ』に入るのは人間3~4人ほどがせいぜいだからな」
「ふぅむ、万能ではないのか……」
 なら仕方がない、と残念そうなギーシュ。
 ……本当はデビルガンダムを呼び出して併用すれば、3~4人どころかシルフィード5体分は余裕なのだが、さすがにそこまで披露する気にはなれないので黙っておく。
「しかし、今は大丈夫だが、このままでは……」
「ん~……、別のコトとかに集中してれば、酔いにくいって聞いたことがあるけど……」
 でも別のコトって言っても、空の上じゃねえ……とキュルケがアゴに人差し指の先を当てながら考え込む。
「別のことに集中、か」
 そう言えば、とユーゼスは懐から一枚の紙片を取り出した。
 それには、ある世界の座標が書かれている。
「……そうだな、集中してみるか」
「「「?」」」
 ギーシュとキュルケとタバサが、いきなり変なことを言い出したユーゼスに疑問符を飛ばした。
「……これから少し、思考に没頭する。話しかけたり身体を揺さぶったりはするな」
「え、没頭するって……」
 疑問の声に構わず、ユーゼスは横たわるルイズの隣に移動した。
 特に深い意味はない。ただ静かそうだから、そこに移動しただけである。
「では、到着したら呼んでくれ。それよりも先に『思考』が終わる可能性もあるがな」
「あ、ああ……」
 そしてユーゼスは目を閉じ、自身の脳内に仕込んであるクロスゲート・パラダイム・システムを起動させ、その『世界』を覗き込んだ。
「……なんだか、こうして見ると兄妹みたいだな、この二人」
「フフッ、そうね」
 傍から見ると、銀髪と桃髪の兄妹が並んで眠っているように見える。
 これを聞いたら、この二人はどんな顔をするのかしら……などとキュルケは考え、
「…………呆れるか、怒るか、嫌がるかじゃない?」
「それもそうか」
 えらく現実的な回答に行き着くのだった。


 ―――――空間座標軸、設定完了。
 軸(アクシス)対象、『シュウ・シラカワ』。
 該当空間における軸を中心とした『過去』の情報の収集を開始。


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