あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第3話


 わたしは今、上空からヴェストリの広場の様子を窺っている。
 上空と言っても浮いているわけじゃなくて、タバサの使い魔のシルフィードに乗っているのだ。
 フィアースがヴェストリの広場に向かってしまったあと。
 わたしはすぐに追いかけようとしたのだけど、そこでタバサがシルフィードの背中から見ようと提案してきた。
 何かがあった時には駆けつけて決闘をやめさせないといけないし、その申し出はありがたかったのでシルフィードに乗せてもらったのだけれども。
「だけどわたし、あなたとそんなに親交があったとは思えないんだけど」
 疑問をそのままタバサに投げかけてみる。
 すると、小さな声で答えが返ってきた。
「さっきの授業の時、彼は立っていたのに傷一つ無かった」
「授業って、あのルイズが爆発させちゃった授業よね?」
 キュルケの言葉にタバサは小さく頷く。
「立ったまま、爆風を受け流した」
「うそ!そんなことできるわけないじゃない」
 まずい。
 タバサの話から察するに、フィアースのレジストブロックを見られてしまったようだ。
「彼の技に、興味がある」
 何かしらを瞳の奥に隠して、小さく、しかし力強くタバサがつぶやく。
 丁度その時、視界の隅の方で何かが光った。
 これは、昨日の。
「何、今の」
「わからない」
 恐らくフィアースは、この決闘に丁度いいクラスに変更したのだろう。
 何も話さないわたしの方に疑問の視線を向ける、キュルケとタバサ。
 でも、言えるはずが無い。
「あ、始まるわよ!」
 キュルケのその言葉で、二人の視線はとりあえず広場に移ってくれた。


    ◇◆◇


「諸君!決闘だ!」
 生徒の少年に案内されて、ヴェストリの広場に着いた。
 普段は閑静な中庭なのだろうが、噂を聞きつけた生徒とギーシュの煽りによりそこは半ばお祭り騒ぎだった。
「ギーシュの決闘相手が来たぞ!ルイズの平民だ!」
 なるほど、めったに見ない取り合わせであることは想像に難くない。
 こういった学院での生活では、格好の娯楽なのだろう。
「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」
 先ほどの声を聞き、やっとこちらに気がついたかのようにギーシュが振り返る。
 挑発に乗る必要はない。俺は静かに相手を窺う。
 その様子が気に食わなかったか、苛立ち混じりにギーシュが言葉を続ける。
「チッ……勝利条件は相手が戦闘不能になることだよ。負けた方は勝った方の言うことを聞くこと。
 あぁそうだ。僕は寛大だから、平民の君でも勝てるように条件を付け加えてあげよう。僕のこの杖を落とせたら君の勝ちでいい」
 その言葉に一つ頷く。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「あぁ、構わない」
「そして僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って」
 そこで一旦言葉を切り、手に持った薔薇の花を振った。
 その花びらが一枚宙に舞うと、見る見るうちに甲冑を着込んだ女戦士へと変貌した。
「青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手しよう」
 そうなると、エレメントやルイズの魔法のような遠隔攻撃は無いと見ていいか。
「分かった。ではこちらも準備をしよう……スタンドアップ・コード」
 ARMを取り出してクラスチェンジを行う。
 セットするクラスには、状況から鑑みて近接戦闘戦になると判断したことと、手元に武器がない状況を踏まえてウォーヘッドを選択。
 スキルセットは、遠隔攻撃のために『戟闘』、唯一の防具を装備するために『アックスバトラー装備』。
 そして物理攻撃戦なので、ダメージ軽減と回避強化のために『守備強化<DFE+25%>』と『回避集中<PRY+25%>』をセット。
 こちらの行動を素早くするための『アクセラレイト』に加えて、相手の行動を阻害するために『ディセラレイト』。
 さらに、もしもの時の保険として、緊急時に割り込んで行動する『レッドゾーン』をセットした。
 少し大人気ないほどの準備かもしれないと思ったが、相手の実力は未知数だ。舐めてかかって痛手を負うよりはいいだろう。
「これでいい。相手となろう」
「そ、そんなこけおどしが通用するか!光っただけで何も変わってないじゃないか。行け、ワルキューレ!」
 ギーシュの命令にワルキューレが素手で殴りかかってくる。
 さぁ、構想が巧く行けばいいが。

 先ずは回避に専念する。未知の相手と戦うには、相手の戦闘力を測るのが一番だ。
 しばらくやってみた所感としては、余裕を残したままでも何とかできそうと言ったところか。
 ワルキューレの動きは決して遅くないが、共に戦った仲間であるレヴィンとは比べるべくも無い。
 ログナーのようにトリッキーな行動をしてくるわけでもないし、アイゼンのように力で圧してくるわけでも無い。
 それに、攻撃は単調だ。恐らく操っているギーシュが攻撃をする動きをイメージしきれていないのだろう。
 殴りかかってくるワルキューレの攻撃をよく見て、かわし、捌き、受け流す。
「クッ……」
 とはいえ、全体が金属でできているのであろう。捌こうにも巧く行かないこともあるし、その一撃は重い。
 受け流し損ねた拳の重い衝撃を、歯を食いしばってやり過ごす。
「いつまでそうやって、逃げてばかりいるつもりだい?」
 いつまで経っても当たり切らない攻撃に苛ついてきたか、ギーシュの挑発が聞こえる。
 だがそれに付き合うつもりはない。俺は俺のペースでやらせてもらおう。

 さらに数分そうしていただろうか?しばらく様子を見て、大体のところは分かった。
 そろそろ仕掛けるか。
 俺は次の攻撃に狙いを定めた。
 そして、ワルキューレが拳を振るった、その直後。
 ガゴン!と言う音と共に、攻撃を仕掛けたはずのワルキューレの方が弾き飛ばされる。
 突如響いた金属的な音と弾き飛ばされたワルキューレの様子に、ギャラリーがどよめく。
「な、何が起こったんだ……?」
 呆然とした声でギーシュが呟くのが聞こえた。
 ウォーヘッドの技能である『ウェポンブロック』で受け流した物理攻撃の衝撃を、そのまま相手へと叩きつける『リタリエイション』。
 その威力が思ったよりも大きかったのか相手の装甲が意外に柔らかかったのか、ワルキューレがべっこりと凹んでいる。
 この様子では、もうそれほど速度も出せまい。
 一旦間合いを外す。
 もちろんワルキューレは追ってくるが、先ほどのスピードは微塵も見えない。
 容易く距離をとることができた。
 そして。
「ウェポンボルト!」
 追いすがってくるワルキューレに、止めの一撃をお見舞いした。


    ◇◆◇


「な、なに、今の。タバサ、あなた見えた?」
「見えたけど、わからない」
 キュルケとタバサが呆然としている。
 わたしだって、どうやったかなんて分からなかった。
 ギーシュのゴーレムを凹ませた技もよく分からないし、止めを刺した技も同じ。
 大体、何で武器もなしに青銅のゴーレムを凹ませたり倒したりできるのよ!?
 それに最後の一撃なんて、明らかにおかしかったわ。
 雷のように青銅のゴーレムを切り裂く光なんて。
 混乱したままぐるぐると考えをめぐらせていると、キュルケの焦ったような声が聞こえてきた。
「ちょっ、それはやりすぎよギーシュ!」
 その声に再び意識を広場へ向けると、今度は武器を持ったワルキューレが六体現れていた。
 その武器も、直剣、懐刀、槍、細剣、メイス、長柄の戦斧とさまざまだ。
「フィアース!ちょっとタバサ!見てないで降ろして!」
「大丈夫」
「何が大丈夫なのよ!?」
「本気、出してない。それに、何か探っている」
 そう言われても、フィアースはわたしの使い魔なのよ!
 さっきは巧く行っても、武器を持ったゴーレム相手なんてムリよ!
 そう言い返そうと思ってタバサを見たら、彼女はフィアースの方を見ていた。
「大丈夫」
 その不思議に力強い声に、わたしは何も言えなくなってしまった。
 でも、これだけは言っておかないと。
「大事になる前には止めに入りたいんだから、その時はすぐに降ろしてよね」
「わかった」


    ◇◆◇


 どうやら先ほどの一体は様子見だったようだ。
 今度は武器を持ったのが六体……これはさすがに厳しいか。
 だが、逆に言えば武器の動きはある程度限定されるし、ギーシュの言葉に間違いがなければ、あれは青銅。
 幾多の戦いを共に潜り抜けたガントレット『アガートラームB/V』ならば、ほとんどダメージは通らないはずだ。
 衝撃の重いメイスもあるが、あれにさえ注意しておけば何とかなるだろう。
 それに、もう一つ。
 俺の愛用しているポールアームに近い武器を持った個体がいる。
 あれを奪うことができれば、あるいは。
「な、何を考えているか知らないけど、この状況で勝てるとでも思っているのかい?」
「戦いとは抗い続けること……まだ決着はついていない」
 その言葉に、動揺よりも怒りが引き起こされたようだ。侮辱されたとでも受け取ったか。
「やれッ、ワルキューレ!」
 号令一下、今度は武装したワルキューレたちが襲い掛かってくる。
 武器を持っている分、当然対処は先ほどよりも難しくなる。
 攻撃方法も違うし、武器の形状も様々。なにより素手とは威力が段違いだ。
 だが、俺にできることはさほど変わらない。
 武器を手に入れるまでは、持ちこたえるしかできないのだ。
 少しくらいの手傷は構っていられないな。
 正面から振り下ろされた直剣を半身になってかわし、横なぎに振るわれた懐刀をガントレットで受け止め、跳ね除ける。
 胴を突いてきた槍と細剣は、間合いを変えることで直撃を避ける。
 そこを狙って振り下ろされるメイスは何とかバックステップでかわし、長柄のなぎ払いにガントレットを当てる。
「ぐッ」
 重い。
 俺は衝撃を殺しきれずに、弾かれるまま後退を余儀なくされた。
 そしてまた直剣が、懐刀が振るわれる。

「はぁ、はぁ」
「よく持ってると思うけど、さすがに息が上がってきたようだね」
 さすがに、一対多数は厳しい。
 息もつかせぬよう、連続で振るわれる武器は、確かに脅威だ。
 しかし、やはりギーシュ自身が戦い慣れていないためだろう。状況に合わせた攻撃をしきれていない。
 頭に血が上っているか状況に酔いしれているのか、それぞれが順番に攻撃を仕掛けてくるだけだ。
 惜しいな。
 対象を取り囲んだ状態で連携を取ることは効果を上げる手っ取り早い方法の一つなのだが、それを思いつくことができないようだ。
 ……これは相手の未熟に助けられたか。
 だが、だからと言って負けてやるつもりはない。
 かわし、捌ききれなかった攻撃でできた手傷も、重症につながるものはないがどんどん体力を奪っていく。
 もうそろそろ仕掛けないと、さすがに拙いか。
 幸いこの順番なら、そろそろ件のポールアーム持ちのワルキューレの出番だ。
 丁度いい。仕掛けるならば。
「ここだッ!」
 先ほどと同じく『リタリエイション』でポールアームを持ったワルキューレの打撃を返す。
 それによりワルキューレが行動不能になると同時に武器を奪取。
 再び周囲からどよめきが上がる。
 そして、目の前に並んでいる三体を『ウェポンスイング』でなぎ倒す。
 ギーシュとの直線上にいない二体は置き去りに、ギーシュへと駆け寄る。
 やけに体が軽い。アクセラレイトがよく効いているのだろうか?
「おおおおおおッ」
 俺は勢いをそのままにあっけに取られているギーシュに肉薄し、気迫と共にポールアームを振るった。


    ◇◆◇


「危ないッ!」
 やりすぎよフィアース!そんな刃物で切りつけるなんて!

 流石に危ないと思ったのか、タバサも止めに入るためにシルフィードを急降下させる。
 でも、フィアースが速過ぎる。間に合わない!
「ディザームッ!」
 その声と共に、ギーシュの薔薇の杖はフィアースの武器に絡め取られ、はじき飛ばされていた。
 杖だけを狙ったのだろう。ギーシュ自身には、傷一つない。刃がかすめた前髪が少し落ちた程度みたい。
 何それ、一体どんな離れ業よ。
「ま、まいった……」
 一瞬の出来事に腰が抜けたのかストンと尻餅をつき、呆然としたギーシュの声と共に、観衆からどよめき混じりの歓声が上がった。

 ヴェストリの広場に降り立ちはしたものの、現状を把握しきれず呆然とフィアースを見ている。
 フィアースは今しがた決闘に勝利した相手のギーシュに、声をかけながら手を貸して引っ張り起こしていた。
 ……なんかムカついてきた。
「フィアース!」
 思わず声が大きくなる。
 その声に彼は一度こちらを振り向くと、わたしには聞こえなかったけどギーシュに向かってさらに何事かを話しかけた。
 それに頷くのを見てから、こちらへ歩いてきた。
「何で勝手なことしたのよ!」
「すまない。だが、俺にも譲れないものがある。引けない時は闘う」
「譲れないもの、ってなんなのよ?」
 その問いかけには、目を閉じて答えない。
 あぁもう、イライラする。
 そうこうしていると、コルベール先生が現れた。
「ミス・ヴァリエールとフィアース君、すまないが学院長がお呼びだ。学院長室まで来てもらえるか」
 学院長先生が?なんだろう。
「ルイズ、どうする?」
「どうするも何も、行くしかないでしょ」
「では、付いて来なさい」
 コルベール先生の先導に、不安ながらも付いていく。
 一体何がどうなってるのよ……。


    ◇◆◇


 コンコン。
「オールド・オスマン、コルベールです。ミス・ヴァリエールとその使い魔をつれて参りました」
「うむ、入りなさい」
 部屋の中からの許可の返答を聞くと、コルベールは学院長室のドアを開けた。
 ルイズは少し恐縮していたようだが、部屋に入る。それについて、俺もドアをくぐった。
「ミス・ロングビル。少し席を外してもらえるかな」
「はい、分かりました」
 俺たちが教室に入ると、入れ替わりで緑色の髪をした女性が部屋を出た。秘書だろうか。
「わざわざすまんの、ミス・ヴァリエール」
「いえ」
 短く返答をするルイズ。
「さて、おぬしらを呼び出した用件なのじゃが」
 そこで一つ息を入れる。
「先ほどの決闘、見させてもらった」
 ここからでは建物の影になって、直接は見えないはずだが?
 俺の疑問の表情に、学院長は悪戯っぽい表情を浮かべて答えてくれた。
「なに、学院内のことならこの遠見の鏡を使えば問題ないわい。一部の地域は見られんようになっておるのが残念じゃがのぅ」
 一部の地域?
「が、学院長先生!」
 その声に少し顔を赤くして声を上げるルイズ。
 ……あぁ、なるほど。
「ご、ゴホン。それはともかくじゃ。まずは、おぬしに礼を言っておこう。よく穏便に終わらせてくれた」
 俺に向かって、礼を述べる。
「いえ」
「じゃが」
 まだ話は終わってない、とばかりに言葉を続ける老人。
「正直、どうやって勝ったのか皆目検討も付かん。ちょっとばかり、おぬしの話を聞かせてもらえんかのう?」
 言葉と共に、俺に鋭い視線を向けてくる。
 この老人、老いて見えても相当の実力者と見た。
 目だけで見ると、ドアはコルベールが固めている。
 なるほど。危険な輩であれば実力での排除も辞さない、ということか。
「ルイズ」
「えぇ、学院長先生なら心配しなくても大丈夫でしょう」
 ルイズの許可も下りた。
「では、俺の話をしよう」
 俺は、俺がファルガイアから召喚されたこと、その世界の技術でギーシュと戦ったこと、ルイズに仕えることに異論はないこと、この世界の平穏を乱すつもりはないことを語った。
 証明のついでにとスキルセットを『戟闘』から『退魔』へと変え、『ヒール』で傷を治したのには大層驚かれてしまったが。
「ふむ……なるほどのぅ。聞いただけでは信じられん話じゃが、あんなものを見せられては信じざるを得まい」
 オスマン老が呟く。
「よし、あい分かった。とりあえずおぬしの言葉を信じよう」
「ありがとうございます」
 礼を述べる。
「じゃが、その力はハルケギニアでは異端の物じゃから、他言無用にするのがよかろうて」
「はい、お心遣いありがとうございます、オールド・オスマン。それでは、わたしたちはこれで」
 ルイズがそう言って部屋を辞そうとしたが、
「あぁ、ミス・ヴァリエール。すまんがもう少し彼と話をさせてもらえんかの?」
 と、なぜか俺だけを引き止めた。
「え……あ、わ、分かりました。それでは、失礼します」
 そう言うと、先に戻ってるわと俺に残してルイズは学院長室を出た。

 コルベールが再びドアを閉める。
「さて、おぬしに残ってもらったのは、少し確認したいことがあったからじゃ」
「確認したいこと?」
 さて、他に語ることは無かったと思うのだが。
「おぬしの左手のルーンを、少々調べさせてもらった」
 左手の……あぁ、コルベールがスケッチしていたな。
「それが、何か?」
「先ほどの決闘の際、おぬしは武器を持ったとたんに動きが速くなったの?」
 そう言われてみれば、確かにポールアームを奪ってからやけに体が軽かった。
 アクセラレイトの影響だけではなかったのか。
「手持ちのスキルには、素早く次の行動に移るためのものもある。その効果かと思っていたのだが」
「ふむ……それでは、可能性の一つとして聞いてくれ」
 そうして一拍置く。
「それは、ガンダールヴのルーン。曰く、始祖ブリミルの使い魔としてあらゆる武器を使いこなしその主を守ったという、伝説の使い魔のものじゃ」
 伝説の使い魔の印?
「なぜそれが俺に?」
「分からぬ。じゃが、それがガンダールヴのルーンであることは、できる限り隠しておいてもらいたいのじゃ。できればミス・ヴァリエールにも、の」
「ルイズにも?」
「かの伝説は有名すぎるほどに有名なものですからな。嗅ぎつけた何者かが悪用しないとも限りませんゆえ」
 なるほど。
「分かった。幸いこの格好であればそうそう見えることはないだろう」
 いつも着けているわけではないが、愛用している防具は手を隠すのに丁度いい。
「うむ。無用なゴタゴタは無いに限るからの。よろしく頼むぞ。ミス・ヴァリエールを助けてやってくれ」
「あぁ」
 そう返すと、俺は部屋を出た。


    ◇◆◇


 引き止められたフィアースをその場で待っていても仕方がないから、わたしはいったん自室に戻ることにした。
 戻ることにしたのだけど、部屋の前でキュルケとタバサが待ち構えていた。
「はぁい」
「何よ?」
「そんなに邪険にしないの。今回用事があるのはあたしじゃなくてタバサよ」
 タバサが?
 何の話かしら。う~ん、嫌な予感しかしないわね。
「彼は?」
「フィアースなら学院長先生が話があるって、学院長室に残ってるわ」
「そう」
 そこで一旦言葉を区切り、そしてわたしの目を見て問いかけてきた。
「彼は何者?」
 あぁ、やっぱりそういう話になるわよね。
「戦い方を見ていたけど、全然分からなかった」
 わたしも一緒に見てたけどね。
 それはともかく、フィアースのやったことはハルケギニアではありえないことだったのはよく分かるつもり。
 ドットとは言えメイジであるギーシュを相手に、平民は絶対に貴族には勝てないという常識を覆してしまったのだから。
 だけど。
「そ、それを知って、あなたはどうするの?」
 何とか誤魔化さなきゃ。
 質問に質問で返すのはちょっとアレだと思うけど、フィアースのことをまともに話すわけにはいかないわ。学院長先生にも釘をさされたばかりだし。
 わたしの問い返しにしばらく逡巡した後に、タバサは答えた。
「強くなりたい」
 あ~、この娘にはごまかしは効かないタイプっぽいわ。どうしよう。
「と、とりあえず、部屋の前で話し込むのも何だし、部屋に入りましょ」
 二人を部屋に招き入れる。
 もし話すにしても、こっちの方が誰かに聞かれる心配も多少は減らせるでしょうし。
 とは言え、本当にフィアースのことを話してしまっても大丈夫なのかしら。
 タバサは沈黙を保ったまま、わたしをじっと見ている。
 うぅ、こういうのが一番やりづらいわ。
「さて……と言いたいところだけど、フィアースが戻ってからにしましょう。わたしじゃ説明し切れないだろうし」
 その言葉に、タバサは頷いてくれた。
 本当にフィアースのことを話してしまっても大丈夫かどうか、やはり不安がぬぐえなかったからだ。
 それに、説明し切れないというのも本当だし。
 わたしだって、まだ何がなんだかよく分かってないのに。
 ああもう。一体どうしたらいいのよ、この状況!




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