あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の闇-12


「ああ! もう! どこへ行ったのよ! 私の杖は! さっさと見つけなさいよ!」

「うるさいのね! さっきから探してるの! そんなに言うなら、自分で探せばいいの!」

「いちいち口答えしない! 私は貴族なのよ?! さっさと探すの!」

屋敷の裏庭にルイズのヒステリックな声が響き、わざとらしくあちこちを探しているシルフィードにぶつぶつと小言を繰り返す。
恐怖を誤魔化すために少々ワインを飲みすぎたルイズは、昨夜の見回り中にうっかりして杖を落としてしまった、という設定だ。文句を返すシルフィードの態度と相成って、ありがちなダメ貴族と言う感じを十分に出していた。
シルフィードの背中の上で編んだ作戦だった。吸血鬼が恐れるのはメイジで、メイジは杖が無くては魔法を使えない。だから杖をなくしたルイズは格好の的である。
一刻も早く騎士を片付けたい吸血鬼としては、正に絶好のチャンスだろう。二人いる騎士のどちらかを倒せれば十分にやりやすくなり、わざわざもう一人を倒さずとも逃げ帰るかもしれない。
おあつらえ向きなことに空は今にも雨が降り出しそうな曇天であり、吸血鬼の最大の弱点である日光は分厚い雲に遮られていた。頼りなさげに地上を照らす日差しは、厚地のローブなどを着込めば十分にブロックできる。

「……また、杖をなくしたの?」

「うるさいわよタバサ! なくしてなんかないわ! なくなったの! きっと吸血鬼に取られたのよ!」

「あなたはいつも、そうやって失敗を押し付ける」

「っ! 優等生の貴方には分からないでしょうけど、私だって必死なのよ?!」

大声で騒ぎたてる声は静かな村によく通り、すでに物陰には何人かの村人が集まってひそひそと言葉を交わしていた。
ルイズは彼らを見渡しては苦々しげに舌打ちを繰り返し、膝をついて地面を探すシルフィードへと苛立ちをぶつける。自身はそれを踏ん反り返って眺め、少しでも手を止めようものならすぐさま口を挟んだ。

「あの、騎士様……。おれも手伝いましょうか?」

「だ、だから、吸血鬼に取られたって言ってるでしょ?! 大丈夫よ! ……ほら、シルフィード! 手を動かす!」

頭をぼりぼりと掻きながら離れていった農夫は、野次馬の中に紛れて見えなくなった。役立たずの騎士に対する文句でも並べている事は明白だ。
これだけの騒ぎになっているのだから、吸血鬼も聞き付けた事は間違いない。十分に広がったことを確信し、指を動かして合図を送る。タバサも了解の意を返した。

「……この任務にあなたは不適切。よって、私だけで吸血鬼を討伐する」

「何言ってるのよ! 手柄を独り占めする気!?」

「そうではない。ただ、杖がなくては話にならない」

「な、なら! これでやっつけてやるわよ!」

ルイズは近くの切り株に刺さっていた斧を引き抜こうとして、両手で思いきり引っ張った挙句に反動で転んだ。受け身さえ取れずに尻もちをつき、斧は危なげに地面に落ちる。
その姿を見て村人から失笑が漏れ、プライドを傷つけられたルイズはふらつきながらも斧を構えて見せた。重量に耐えきれず細い両手は震え、武器として扱えないのは明白なへっぴり腰だった。

「こ、これでいいでしょ! あんたなんかには、負けないんだから!」

「無謀」

「う、うるさいわよ! 私は森を見てくるから、タバサはおとなしく村にでもいなさい!」

ずるずると斧を引き摺りながら村を出ようとする後ろ姿に何度か声をかけるタバサだったが、忠告は聞き届けられずとうとう見えなくなる。
タバサはわざとらしく溜息を吐き、シルフィードを伴って村の中を探し始めた。

その光景を屋敷の窓から眺めていた少女は笑みを浮かべ、さっと部屋の中へと姿を消す。





ただでさえ薄暗い森の中は悪天候もあって極めて視界が悪く、森に慣れた人間でもない限り迷うのは必然といえた。
相変わらず斧で地面をこすってガサガサと音を立てながら歩き続けるルイズは、頻繁に周囲を見回しながら心細そうに溜息を吐く。
重いだけで邪魔にしかならない斧を忌々しげに蹴りつけ、風で茂みが揺れただけでも慌てて振り返る。そして誰もいないことに安堵しながら、不安で表情をゆがませた。

「ったく! ここはどこ?! 村はどっちなのよー!」

森へ入って既に1時間以上が経過し、歩きなれない山道は確実にルイズの体力を削っている。額には汗が浮き、無理して歩みを速めては何度も短い休憩を挟んだ。
傍目に見ていても遭難である事は明白、村とは直線距離で2キロ以上も離れてしまっており、どんなに叫ぼうがその声が届くことはなかった。
荒い呼吸を繰り返すルイズは開けた場所に出たのを見て、再び休憩をとることにした。杖さえあればこんな森など、フライでひとっとびだろうに。
無用の産物にして単なる重りになっている斧を足元逃げ出し、倒れた大木の上に腰を下ろすと、また愚痴を言い始める。

「疲れた……。もう! 吸血鬼の馬鹿!」

その姿を離れた場所から見つめている人影があった。ずっとルイズの後を追いまわしていたのは、あのアレクサンドルだった。
十分に森に慣れた人間だけあって音を立てることもなく、まるで影のようにルイズを付回している。その首には相変わらずの傷跡が残っており、彼がグールである事の一番の証明になっていた。
獲物は疲れている。そして杖なども持っていないようで、完全に無力だと判断できた。空は今にも泣き出しそうな暗黒に覆われており、狩の時としては最高だ。
長らく観察を続けていたアレクサンドルはついに動き出すことを決め、倒れた木に座って足を投げ出している彼女の背後にそっと近づく。

「なっ?! ちょ、何するのよ!」

カサリという音に反応するまもなく、ルイズは後ろから抱きあげられてしまった。最後の武器である斧さえ足もとに放置したままで、細い腕を振り回して抵抗するのが精一杯。
靴のかかとで何度も大男の足を蹴りつけているが、体重差がありすぎるのか全くダメージになっていない。まさに子供と大人で、丸太のような彼の腕の中でもがく姿は駄々っ子のようだ。
彼の力があれば少女の息の根を止める事など容易いだろうに、アレクサンドルはルイズを羽交い絞めにしたまま動かない。しばらくして暴れ疲れたルイズが動きを止めるまで、ただ彼は静観し続ける。
獣のように裂けた口からは無数の牙と肉食獣のような吐息が漏れ出し、あの母親を気遣ったような優しげ歯雰囲気はどこにもなかった。

「ふふっ……馬鹿なお姉ちゃん。杖って、これの事でしょ?」

勝利を確信したのか、しばらくして主たる少女が茂みの影から姿を現した。予想通り厚手の黒いローブを纏っており、フードの中に浮かび上がる白くて小さな口には牙が確認できる。
屋敷で見せていた怯えていた表情など欠片も見せず、残忍で狡猾なマンハンターの威圧感を色濃く映していた。ルイズよりも更に背の低いその体でどれほどの時を生きたのか、少女の顔に老獪な奇術師としての雰囲気を身に付けている。
手には二つに折られた指揮棒サイズの杖を持っており、ゴミと化したそれを弄ぶように手のひらの上で動かしていた。ルイズにさえ小さすぎるそれが、エルザには丁度良いサイズに見える。
メイジとして杖は己の分身に等しく、武器であると同時に盾でもある。破壊されたそれを見たルイズは顔を青くして喚き立てた。

「なっ、わ、私の杖、返しなさいよっ!」

「こんなのが欲しいの? ほら、返すよ」

足をバタつかせるルイズの下へ、カラカラと音を立てて木片が投げられた。もはや拾ったところで魔法は使えないが、それでも取り戻そうとして再び暴れる。
エルザはその姿を笑いながら見つめた。傀儡であるグールへと指令を送ってルイズを手放し、慌てて折れた杖を向ける彼女をニヤニヤと観察する。獲物をいたぶるのは嫌いではないようだ。
さまざまな呪文を唱えては何も起こらずに歯を食いしばる姿を肴に愉悦を楽しみ、ルイズが杖を捨てて逃げ出そうとした所を捕らえる。

「枝よ。伸びし森の枝よ。彼女の腕をつかみたまえ」

地面から生えてきた無数の蔓がルイズをつかみ、鋼鉄の枷となって四肢を拘束する。柔らかな皮膚にささくれ立った表皮が食い込んだ。

「杖をなくすなんて、本当に馬鹿なお姉ちゃん……。ふふっ。ゆっくり血を吸ってあげる。
恐怖にゆがむ顔を私に見せて? それが最大のご馳走なの。恐怖にゆがむ人間の顔が、最高のスパイスなの」

「き、き、吸血鬼!」

「そうだよ、吸血鬼はわたし。お姉ちゃんは知らなかったようだけど、煙突から忍び込んで血を吸っていたの」

小さなエルザの口の中に、鋭く尖った二本の牙が見えた。薄暗い森の中で不気味に輝いている。
睨みつけるルイズの視線が心地よいとばかりに身をくねらせ、これから迸るであろう鮮血に思いを馳せていた。
衣服をずらして首筋を露出させ、白い首筋をみて目を細める。その顔は愉悦で染まっていた。

「おいしそう……。あの雪みたいな子もいいけれど、お姉ちゃんもとっても美味しそうだよ。
それにお姉ちゃんだって、食事はするでしょう? 豚や牛を殺して食べるのと、私が血を吸うのと、どこが違うの?」

「な、わ、私をそんな家畜と一緒にしないで! 貴族なのよ?!」

エルザはつまらなそうに眉をひそめると、わかってないなあ、と呟いて肩をすくませた。

「じゃくにくきょーしょく、だっけ? 私にとっては、今のお姉ちゃんも、そういうのと変わらないの」

子供に言い聞かせるように、エルザは指を振って言う。圧倒的高位にいると錯覚している彼女は、ルイズを前にして長々としゃべり続けている。
いい加減に飽きたのか、ルイズはエルザの言葉を遮った。

「弱肉強食、いい言葉ね。じゃ、終わらせましょうか」

「……なにを? お姉ちゃんの短い人生を?」

ルイズは無意味に動かしていた体の震えを止め、蔓に縛られていた右腕を軽く動かす。それだけで枝は容易くへし折れた。
左腕と両足も同じように砕き、残った残骸を腕の一振りで薙ぎ払う。エルザが目の前の現実を認識する前に、ルイズをとらえていた先住魔法は完膚なきまでに破壊されていた。
怯えていた少女という偽りの仮面を脱ぎ棄て、その下にあるのは身も凍るほどの邪悪。

「っ! ぐ、グール!」

「邪魔よ」

閃光のような速度と巨像のような質量をもった後ろ蹴りが大男の胸元に炸裂し、足首まで埋まるほどの大穴が残った。地面にも強烈な反動を思わせる陥没が出来る。
アレクサンドルは細い木を何本も弾き飛ばし、その奥にあった大木に激突して動かなくなる。いくら獣のごとき強靭さをもつグールの肉体とて、元が人間では限界があった。
その醜態を至極つまらないという表情で一瞥したルイズは、軍隊を思わせる緩やかな歩みでエルザへと近寄る。
背後に背負うのは暗黒の脈動。形をなした絶望。狂喜と狂気で瞳を煌々と輝かせ、笑いながら歩む。

「正体を現すなんて、馬鹿な吸血鬼ね……。ゆっくり時間をかけて壊してあげる。
恐怖にゆがむ顔を私に見せて? それが最大のご馳走なの。絶望にゆがむ獲物の顔が、最高のスパイスなの」

エルザは騙された事を知った。目の前にるこいつは少女などではない。それどころか人間でさえない。
これと比べればミノタウルスすら赤子のようなものだ。正真正銘の化け物だ。だから逃げねばと思った。

「ね、眠りを導く風よ……」

言い終わる前にルイズの右腕がエルザを捉えた。彼女が掴まれたと認識した瞬間には、万力のような握力で骨を粉々に握りつぶされていた。
左の手首が落ちてしまいそうなほど異様な方向に曲がり、魂から絞り出された絶叫によって詠唱が中断される。

「あら、吸血鬼ってこんな脆いんだ……。慎重に遊ばないと」

残った右腕でルイズに爪を立てる吸血鬼だったが、闇の衣を纏ったルイズの皮膚に弾かれ、蚯蚓腫れさえ起こせずに滑った。
骨の破片と潰れた肉を掌の中で弄ばれ、神経を肉体ごと引き裂かれる激痛がエルザを掻き毟る。

「殺しはしない。だから存分に悲鳴をあげて、楽しませて」

長い長い絶叫が森に響き渡り、その後も途絶えることなく続いた。






囮作戦が開始されてから一刻半ほどの時が経っても、ルイズはいまだに村へと戻ってこない。まさか隙を突かれたのかと、タバサの心に焦りが浮かぶ。
予定では成功にしろ失敗にしろ、もう戻ってきて然るべき時間だった。不安がるシルフィードを慰め、折角の手がかりが失われるという恐怖がちらつく。

「見てくる。ここにいて」

「こ、怖いのね! さっきから、すごく嫌な感じがするの! 危険なのね!」

風韻竜でさえ怯えさせる存在と言えばルイズぐらいしか浮かばなかった。この村に潜んでいる吸血鬼は、それほどの存在だったのだろうか。
ますます焦燥感が募った。ルイズは母を癒す希望の光、絶対に手放す訳には行かない。

「見てくるから、ここにいて」

「シルフィードもついてくの! お姉さまだけじゃ、危ないですわ!」

「……狭い森の中では、風韻竜のあなたは動けない。もし危険があれば、呼ぶ」

「うぅ~、わかったの。でも、絶対に危ないことはダメなの!」

どうにか説得に成功したタバサは、シルフィードが指示した方向へとフライを使用した。空を包む暗黒が嫌な雰囲気を増長させ、思わずひき返したくなる。
暴風雨の中を進む船乗りの気分を味わいながら、それでもタバサは速度を落とさなかった。しばらく飛ぶと開けた場所があり、そこが嵐の発生源らしかった。かすかに見えるピンク色の影へと近づく。

広場に降り立ったタバサは目を細めた。ルイズが高笑いを響かせながら、赤い布を振り回しているのを見たからだ。
吸血鬼退治の真っ最中に何をやっているのだろう。それに約束の時間も過ぎている。文句を言おうと薄暗い闇の中を歩み寄ったタバサは、血液が凍る音を聞いた。
それが布などではなく、少し前に見た人物だったと気づく。ライトニングクラウドが直撃したように体が硬直し、胃の内容物が滝登りのように駆け上がってくる。思わず口を押さえたが、体が硬直して視線を離す事は出来なかった。
アレはエルザだった。何度も何度も手近にあった大木に叩きつけられ、もはやうめき声一つ上げていない。握られた腕は骨を失ったように異様な弾力になっていた。
タバサの接近にも気付かないのか、ルイズはひたすらにエルザを破壊し続けている。もはや生きているのかさえ疑わしく、壊れた人形のように手足が暴れ、蚊が羽ばたくほどのうめき声さえ上げていない。

「ルイズッ!」

自分の声を他人事のように聞きながら、返り血で体を濡らした少女の名を叫ぶ。もはやルイズが身に纏っている暗黒がただの錯覚なのか、それとも本当に闇を着ているのかさえ分からなかった。

「……ああ、タバサ。どうしたの?」

「っ……、遅刻」

「あ、そうか。悪いわね、待たせちゃって」

ようやく手を止めたルイズによって地面に投げ出されたエルザは、全身の皮膚を残らず剥ぎ取られでもしたかのような惨状だった。
傍らにある大木など凹凸が無数にでき、赤という色を直接吹き付けたようにただ紅い。かつては少女を覆っていたであろう物の破片が無数にへばりついている。
転がる手足は壊れたパペット人形のようで、どの部分が衣服なのか肉なのか全く分からない。顔だけは一切傷つけられていないようだが、それが一層の悲惨さをかもし出していた。
歯を食いしばっていなければ、胃からこみ上げてくる物をすぐにでも吐き出してしまいそうだ。タバサは掌に爪が食い込むほどこぶしを握り締めた。

それでも戦いに慣れた者の本能が頭を回転させる。遠くで伸びているアレキサンドルがグールだとするならば、あのエルザが吸血鬼だったということだ。
今回の任務は吸血鬼の討伐。殺す方法までは指定されていないのだから、ルイズの行いには遅刻以外に何も問題ない。

「わかったみたいだけど、コレが吸血鬼よ」

全身からダラダラと血を流すだけの物体と化しているエルザを、タバサは直視することができなかった。
任務に縛られて殺人とて行ってきたタバサだったが、ここまで無残な死体は見たことがなかい。ゴクリと飲み込んだ唾液は酸っぱい味がした。

「とはいっても、この状態じゃ自白も出来ないか……。ベホマ!」

暖かな光が全壊している少女の全身を包み、剥がれ落ちていた皮膚が急速に再生していくのをタバサは見た。ドグンッ! と音をたてて心臓が跳ね上がり、眼前で展開される奇跡に釘付けになる。
すでに手の施しようがないと思われていたあの重症が、ゆっくりではあるが着実に回復へと向かっていた。こびり付いていた血の塊がパラパラと落下し、完全に砕けていた骨が再び接合を開始する。
奇跡の光だと言うほかない。赤いぼろ布としか思えなかったそれが、元通りの少女の体へと戻っていく。樽一杯の秘薬を無造作に消費するような、絶対的な癒しの力だった。
耳を覆いたくなるような爆音の発生源が、自らの心臓だった事にタバサはようやく気付いた。

「すごい……」

治療を開始してからかなりの時間が経過したはずなのに、まるで一瞬のこととしか思えない。破裂寸前まで高鳴っている鼓動を胸の上から無理矢理に抑えつける。
この力、この力だ! これがあれば、きっと母は救える! あの頃が戻ってくる! またお母様に抱かれることができる!
タバサの眼は恍惚で輝いた。すでに吸血鬼のことなど完全に思考の外へと押し出されており、実験動物かそれ以下、単なる物としか捕えていない。
自分の判断が間違っていなかったとタバサは確信する。場違いにも感動の涙を流したくなった。
ルイズさえいれば、きっと母は戻ってくる。そして憎きジョゼフの心臓に、己が杖を突き刺す事もできるはずだと。私は遂に手に入れたのだ!

「はい、完了……。これで3回目だったかな? それとも4回目だったかしら」

ルイズの指先が吸血鬼の少女の頬をつつくと、幽鬼よりも生を感じさせないような声で、エルザはただ死を懇願した。
十分に哀愁と同情を引かれる姿だが、今は邪魔なものだとしか思えない。それを見て再び腕を振り上げようとするルイズに、タバサは今までめったに出さなかったほどの大声をだす。
遊びを邪魔されたのが気に障ったのか、ルイズはあからさまに眉をひそめた。しまったと思うのと同時に、唇が勝手に動き出すのを止められなかった。

「私のお母さまは、エルフの毒で心を狂わされた。治せるか、教えてほしい」

「……解毒専門の呪文はあるけれど。まだ、使えないの。もっと腕を磨かないと」

「私にできることなら、なんでもする。お願い、協力させて」

この少女らしからぬ激情が愉快だったのか、ルイズは今一度とびきりの笑顔を浮かべた。
しばらくエルザを放置してタバサと会話をつづけ、この吸血鬼の少女を連れ帰ることを容認させる。初めは難色を示すタバサだったが、先住魔法ならば吸血鬼も使えるのだから、手がかりになるといわれては認めざる終えなかった。
ルイズは意識を失ったらしいエルザを抱きかかえると、その顔の上に右手をかざし、大幅に増強された闇の衣を凝縮して一滴の雫に変える。このような事ができるとはルイズは知らなかったが、体は自然に動いていた。

「エルザ、あなたはもう私の物よ……」

滴り落ちた暗黒がエルザの小さな口の中に消える。その瞬間にエルザの全身から闇が吹き出し、筋肉の異様な緊張によって弓のようにしなった体を蛇のように締め上げた。
もがき続ける少女の体をルイズは優しく抱きしめる。その顔は聖母のようでもあり、また悪魔の微笑みとも思えた。だがタバサは後者だと確信する。
それでもタバサは構わなかった。神は祈っても自分を助けてくれない。見ているだけの神様よりも、手を貸してくれる悪魔のほうがよほどいい。
雲の切れ目から一筋の光が差し、木々をすり抜けてエルザの右手を焼き払わんと照らし出したが、闇に守られた吸血鬼の肉は焼けなかった。

「じゃ、吸血鬼狩りをしましょうか」

ルイズは楽しげに言った。


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