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ラスボスだった使い魔-04


 ペラ。
 ルイズの就寝より、1時間ほど経過した頃。
 ペラ。
 ユーゼスは、辞書と魔法の学術書とで何度も視線を往復させつつ、その内容を読み取っていく。
 ペラ。
(魔法を使用するには媒体として『杖』が必須である。『杖』を使用せずに放たれる魔法は、エルフや妖魔などが扱う『先住魔法』であり、その威力・効果はメイジの使う魔法の比ではない)
 ペラ。
(五大系統―――火、水、風、土、失われた系統である虚無。
 虚無は始祖ブリミルが使った系統とされているが、始祖以外に扱った者は確認できず、あくまで伝説とされ、実質は四大系統である)
 ペラ。
(コモンマジック。ごく簡易的、かつ基本的な魔法。いずれの系統のメイジであっても等しく使えるため、いずれの系統にも属さない)
 ペラ。
(メイジの能力は遺伝によって伝承される。平民が魔法を使えないのは、そもそも根本の血統が異なるからである)
 ペラ。
(一概には言えないが、メイジの実力はおおむね『系統を足せる数』によって決まる。ドット、ライン、トライアングル、スクウェアの四段階。系統を足すことによって、より強力な魔法となる。五段階目以降は存在しないが、王家のみに扱える『ヘキサゴン・スペル』が伝えられている。
 なお、メイジの実力によっては『トライアングル』が『スクウェア』を、『ドット』が『ライン』を上回る可能性もある。二段階以上ランクが離れている場合、それを覆すのは非常に困難である)
 ペラ。
(ランクを上げる条件は、個々人によって差はあるが、一般的には大きな感情のうねり、またはメイジの修練が必要とされる。
 ランクは一段階ずつ、ある程度の時間をかけて上昇するものであり、一度に二段階以上ランクが上昇することは、まず無い)
 ペラ。
(魔法の使用には、メイジ本人の『精神力』を消費する。これはレベルが上がるごとに増大するものではなく、今まで使用し ていた魔法の精神力の消費量が半減する仕組みである。
 使用する魔法によって多少の差はあるが、基本的に消費する精神力はドットスペル:ラインスペル:トライアングルスペル:スクウェアスペルの比率で表すと1:2:4:8。一つランクが上がるごとに、自乗式に増大する)
 ペラ。
(精神力を限界まで使用すると、メイジの意識は失われる。これを回復するには、十分な睡眠を摂取する必要がある。一日眠れば全てが回復するわけではなく、例えば金の『錬金』のためのスクウェアスペルは一ヶ月分の精神力を必要とする)
 ペラ。
(同時に複数の魔法を行使することは出来ない。これはドットでもスクウェアでも共通している)
「…………ふむ、水を蓄えたタンクに対して、『放水量』や『水の質』、『放水パターン』、『放水させた後の形状』などはある程度の操作が出来るが、『蛇口』は一人に一つだけということだろうか」
 基本的な前提条件を読み進むだけで、かなり苦労する。
 今日だけで本棚の一列くらいは読みたかったが、これでは2冊か3冊がいいところだ。
 やはり単語や文章の基本だけでこのような長文を読み解くのは、少々無理があったか。
 だからと言って、読むことを止める理由にはならない。
 深く考察するのは後にするとして、まずは知識を溜め込むことに専念する。
 ……欲求と好奇心の赴くまま、とにかく本を読む。
 それでは次のページをめくろう、とユーゼスはページに手をかける。

(!!?)

 ドサッ
 その時、突然、脳内にナノチップとして埋め込んであるクロスゲート・パラダイム・システムが強烈な反応を伝え、驚いて思わず本を落としてしまう。
「……何だ!?」
 かなり大規模なゲート……いや、クロスゲートに近い物が開かれた反応である。
 しかも、そこから現れた存在―――通常であれば『出て来たモノ』の詳細については感知など出来ないのだが―――は、自分を含めたこの世界全体の因果律に絡みつき、歪ませ、破壊しかねない、とシステムが最大限の警告を送ってくる。
「馬鹿な……」
 帝王ゴッドネロス、大帝王クビライ、異次元人ヤプール、そしてラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォなどとは比べ物にならない。……これだけ強力な存在など、少なくとも自分のいる世界にはいなかった。
 超神形態の自分ですら、これに比べれば『小物』と言えるだろう。
(……逃げるか?)
 即座にこの世界からの逃亡を考える。まともに戦って―――策を弄して戦ったとしても、勝てる可能性は極めて薄い。自分なら死んでもまた因果地平の彼方に戻るだけかも知れないが、下手をすると『存在』自体が抹消されかねないかも知れない。
(……いや、別の世界に逃げたとしても、追いかけて来る可能性もあるな……)
 因果律に干渉できるということは、次元の壁を破る方法を知っているということでもある。
 つまり、どれだけ逃げても無駄かも知れないのだ。
「…………どうする…………!?」
 もはや魔法の知識などそっちのけで、この強力無比な存在にどう対処すれば良いのか、ということに混乱しつつも頭脳をフル回転させるユーゼス・ゴッツォ。
 しかし。
「…………………………む?」
 パニックに陥りかけていると、その『謎の存在』の因果律への干渉が消えてしまった。
(???)
 一瞬で。綺麗さっぱり。跡形もなく―――いや、跡形(アトカタ)というか形跡(ケイセキ)くらいはあるが。
「………何だったのだ?」
 ―――たまたまそのような『超存在』が、どこかの世界へと向かう途中でフラリと立ち寄った………などと考えるが、そんな確率は何兆分の一だろうか。
 大まかな出現地点くらいは分かるし、直接、転移して調べてみようかとも思ったが、地球の言葉には『触らぬ神に祟りなし』とか『薮をつついて蛇を出す』というものもあると言う。

「……うぅむ」
 もしかすると、自分はとんでもない世界に呼ばれたのかも知れない―――などと考えながら先程のクロスゲートの探知を行っていると、また妙な反応を検知した。
「……あれ以外のクロスゲートだと?」
 正確に言うと『クロスゲートが過去に出現した』反応と、『これから出現が予測される反応』である。
 過去に出現した反応は、この世界においては数百年、数千年に渡ってポツリポツリと確認が出来る。先程の大規模な反応と、自分が召喚された時のものを除くと、一番最近の反応は一ヶ月ほど前。先程に比べれば小さいが、それなりに大規模なものだ。
 それ以降は約33年ほど前、約60年前……と、かなりの頻度でクロスゲートが発生している。
(……やはり、この世界は次元交錯線が不安定なのか?)
 小規模な反応については、今自分がいる地点から東の方にやたらと多い。
(……まあ、そういう地点は地球などにもあったのだから、別に不思議ではないが)
 バミューダ海域、カリフォルニア沖、小笠原沖、チベット上空、アルジェリア上空。これら五つの地点は、地球でも割と有名な不思議スポットであるが、次元境界線が極度に乱れているのが原因と目されている。
 つまり、これらの海域なり空域なりに接近して『消失』してしまったものは、別の世界に飛ばされた可能性がかなり高いのだ。
 また、宇宙のとあるポイントには空間が非常に不安定なウルトラゾーンと呼ばれる空間があり、そこには宇宙中の怨念やら亡霊やらが集まる『怪獣墓場』という異次元空間にも似たものが存在するのだとか。
 自分がガイアセイバーズとの最終決戦のために用意した異空間も、この怪獣墓場に近い特性があるらしい。……他でもないハヤタがそう言っていたのだから、まあ間違いないだろう。
 閑話休題。
 ともかく、そのような特殊地点と『東にある地帯』が同じものだ、と考えると、取りあえずではあるが納得はいく。
「……むう」
 『これから出現が予測される反応』は、やはり東からのものが多いが、大規模なクロスゲート反応は一つだけだ。
 先程の反応があったのは、南に1100キロ~1200キロほどだろうか。正確な距離の算出には時間がかかるから分からないが、特に次元交錯線が不安定である様子も無い。
 一ヶ月ほど前の反応は、そこから更に南に進んだ地点から検出されている。
 『未来の反応』は、西の―――上空から、である。一週間ほど後に出現するようだが、時空間の転移には特に場所を選ばないから、そういうこともあるだろう。
 ―――この時、もしユーゼスにハルケギニアの地理についての知識があったとならば、『先程の反応』はガリア王国、『一ヶ月前の反応』はロマリア皇国、『未来の反応』はアルビオン王国からのものであると気付いていたのだが、それはあくまで仮定の話であり、また知っていた所で対処のしようもなかっただろう。
(……まあ、私が消えるなら、それも良いかも知れないな……)
 そもそも自分はガイアセイバーズとの戦いで敗北し、消滅していたはずなのだ。
 それが何の因果か、こうして別の世界に存在している。
 その事実だけでも望外の幸運なのだから、これ以上の高望みは止めるべきかも知れない。
 ……もし自分が消されることがあるのなら、その時は潔く受け入れるべきか。
 では、ひとまず転移反応のことは忘れて、また魔法について調べよう―――と、ユーゼスは再び本の内容に没頭するのだった。


 赤い世界。
 生物の残骸―――化石のような大地の上で、その戦いは行われていた。
 しかし、戦いは既に佳境。
 今まさに、決着はつこうとしている。
「ぐぅぅうううぅうううう……!!」
 『彼』は、人間ではない。
 その姿は異形。
 骨と殻だけで構成されているような赤い身体に、ところどころに生えた黄色い角のようなモノ。
 これを『人間』と称する者はいないだろう。
 『彼』は生命を監視するために、ある『思念体』によって生み出された人造生命体である。否、正確に言えばその人造生命体が作り出した端末のようなモノだった。
 この人造生命体の役目は『世界の監視』である。世界そのものにとって有害であったり、世界そのものを脅かすような存在が現れた場合、または『世界そのもの』が何らかの変調をきたした場合、これに対処し、『害悪』の排除や『変調』の修正などを行う。
 ―――今となっては原因はもう分からないが、その人造生命体の内の一体は、何かの手違いで本来の世界とは違う世界に漂着してしまう。
 漂着した人造生命体は、元の世界へと帰るべく、クロスゲートを何度も何度も開いた。
 しかし、それは自分がいるべきだった世界と、自分が漂着してしまった世界とも異なる世界同士を、繋げるだけの結果に終わる。
 ……そして、その『繋げた世界』の住人たちが、自分のことを『害悪』と判断し、この自分のいる世界に乗り込んできた。
 人造生命体は『彼』という抗体を作り出して対抗しようとしたが―――結果は『彼』の敗北で終わろうとしていた。
「この一撃で決める……!」
 黒いハットと黒いコートを身にまとった男が、ボロボロになった『彼』の懐に飛び込んでくる。
「……認めぬ……!」
 『彼』は傷付いた身体を急速に再生させ、男を迎え撃とうとした。
「世界は修正される……一つになるのだ……!」
 それが『彼』の役目。『彼』の使命。『彼』の存在意義。
 だが。
「ここが俺の世界だ……! ……それでいいのさ!!」
 男はその彼の成すべきことを否定し、その手に持つ銃をこちらに向けた。
「―――アディオス!!」

 ドゴォオオオオオオオオオオオ!!!
 放たれる膨大なエネルギー。
 それは再生しかけていた『彼』の身体に、致命傷を与える。
「我は……ぬおおおおおおおおっ!!」
 『彼』の身体が崩れていく。
 もはや、自力の再生は適わない。
「おおお……なぜ……だ……! この世界を……世界の……この我が……なぜ……なぜ……敗れる……」
 『彼』は、自身をここまで痛めつけた存在へと問いかける。
「俺たちを甘く見た……おまえの傲慢だ」
 二本の刀とショットガンを連結させた武器、そして金色の拳銃を持つ、頭に傷のある赤いジャケットを着込んだ男が言い放つ。
「ちゅうか、ぬしは最初から負け犬ムードだったってことじゃ!」
 こちらは茶化すような口調の、錫杖と銀色の銃を武器とし強力な術を行使する狐めいた少女。
「これでは……戻れない……静寂の……世界へ……帰る……ことが……」
 ―――戻って、自分の使命を果たすことが出来ない。
「私たちも、元の世界へ帰りたい。ですが、そのために犠牲になるものがあってはならない。……私は、そう思います」
 美しい青い髪と、赤い瞳―――時折青く変化するが―――を持つ、その外見に似合わぬ強大な力を秘めたアンドロイドが、痛ましい様子で告げる。
「私も艦長も、異邦人だった。だが、今の『故郷』……守るべき場所は、決まっている……!」
 『故郷』を守ると言い切る、先程のモノと同じく女性型であるが全身が兵装のカタマリである戦闘用アンドロイド。
「我は……創造主たりうる……存在……それが……それを……なぜ……」
 ―――この者たちが生きる世界を創造したのは自分であるのに……なぜ、この者たちは自分を滅ぼすのか?
「……このエンドレス・フロンティアを結果的に形作ったのは……確かにアインストだったかも知れないさ」
 やれやれ、という言葉をそのまま態度に表したような、自分にトドメを刺した男。
「だけど、そこで生きる私たちは、あなたの手駒なんかじゃないんです……!」
 自分の身長ほどもある巨大な大剣を振るう黒髪の女性が、強く言う。
「それを思い違いしたのが……そちの不覚であるぞ」
 頭に角を生やした、巨大機動兵器を操る少女が諭すように言葉を送る。
 そして。
「帰りたいなら、一人で帰りな……どこか、俺たちの知らない所へな!」
「ォ、ォオオオオオオオオオオオオオオ………………!!!」
 もはや、意識を保つことも難しい。
 壊れていく赤い世界。
 『彼』は無念を抱きながら、その存在を加速度的に消失させていき―――

 ―――消える寸前、最後の力を振り絞って、目の前に現れたゲートへと飛び込んだ。


 転移した先は、どこかの建築物。
 ステンドグラス越しの陽光が、自分を照らしている。
 ……失いかけている視覚は、目の前に重厚なローブを着込んだ金髪の男を捉えている。
「……お、お下がりください、聖下!!」
「何を言うのです、これは―――いえ、『彼』は私がたった今、『サモン・サーヴァント』で呼び出したのですよ?
 彼は私の呼びかけに応えてくれたのです。ならば私が拒絶して何としますか」
 禍々しい『彼』の外見に臆することなく、目の前の男は自分に歩み寄ってくる。
「かなり傷付いていますね……。……誰か、早急に水のメイジをここに! 彼を治癒するのです!!」
「し、しかし……」
「……このままでは、この私、ロマリア教皇聖エイジス三十二世の名の下に命を発さねばならなくなるのですが」
「しょ、承知いたしましたぁっ!!」
 ローブを着込んだ男のそばで、あからさまに『彼』を警戒していた聖堂騎士は、渋々さと慌ただしさを合わせた様子で駆けていく。
「……さて」
 男は更に自分に近寄り、ゆったりと言葉を紡いだ。
「まずは私から名乗るのが礼儀ですね。……私の名はヴィットーリオ・セレヴァレ。これからあなたの主になるものです」
「ぉ…………ぁ…………」
「ああ、無理に喋らなくとも構いません。まずは傷を癒すことに専念していただかなくては。
 ……とは言え、契約は先に済ませておきましょうか」
 そしてヴィットーリオと名乗った男は、躊躇もせずに『彼』へと口付けした。
 途端、『彼』の身体に熱が走り、何かが刻まれていく。
 それと同時に、先程の戦闘で失われたはずの右腕が、いきなり再生を始めた。
「ァァァアアアアアアアアア……」
 その様子を見て、満足そうにヴィットーリオは微笑む。
「今はまだ、その時期ではありません……。
 ……しかし逆に言えば、あなたの傷が完全に癒え、備えを万全にした時こそが、その時……」
 その未来予想図を胸に、『彼』―――ヴァールシャイン・リヒカイトを見つめながら。
「―――共に、異教徒たるエルフを滅ぼすのです」
 ある意味でハルケギニアの頂点に君臨する男は、敵対する勢力の殲滅を宣言した。

 ―――――時に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、ユーゼス・ゴッツォを召喚する一ヶ月ほど前のことである。


「…………!!」
 ガリア国王、ジョゼフ一世は驚愕している。
 自分が『虚無』の系統である、と八割がた確信はしていた。
 ガリアに伝わる『始祖の香炉』と『土のルビー』、そして様々な手を尽くして手に入れた『始祖のオルゴール』。
 それらを使って『爆発』や『加速』の虚無の魔法を習得し、そう言えば使い魔は召喚してなかった、と思い出したのがつい先日のこと。
 あらゆる武器を操る『ガンダールヴ』、あらゆる獣と心を通わせる『ヴィンダールヴ』、あらゆるマジックアイテムを操る『ミョズニトニルン』、そして記す事さえ憚られる存在……。
 出来れば『憚られる存在』が出て来てくれれば面白い、と考えつつも『サモン・サーヴァント』を行ってみた。
 まず、通常の鏡のようなゲートが出現する。
 伝承によると人間が召喚されるらしいが、さてどんな奴が……などと考えていると。
 いきなりそのゲートから赤黒い稲妻が放出され、まるで無理矢理にこじ開けるかのごとくゲートが拡大される。
 ジョゼフが目を見張っていると、その稲妻の中心に、同じ色の強い閃光が走った。
 やがて周囲の空間が赤く染まり、もはや『鏡』ではなく『黒い大穴』と表現するべきゲートから、『それ』はやって来た。
「お、おお…………!!」
 その巨体も十分に圧倒的だが、何よりもその『存在感』が物凄い。
 白い鎧のような身体はかなりボロボロの状態だが、それでもその絶大なる威厳と、邪悪さを兼ね備えた威容は健在だ。
 そして、その存在は言葉を紡ぐ。
「……古の賢者たちは云った……『闇在れ』と……」
「………!!」
 声を聞くだけで、身体どころか魂の底から震え上がる感覚がする。
 ……それと同時に、ジョゼフはこの存在と『言葉が通じる』ことに、ある程度の知性があることを分析していた。
 話に聞く『水の精霊』と同類の存在なのやも知れぬ、などと考えながら、更にその存在の言葉を聞くべく、耳を傾ける。
「我らは暗邪眼にて世界を看破し、開明脳にて英知を集積す……。我らは闇黒の叡智……至高の想念集積体……。
 我らの名は……ダークブレイン」
「おお、ダークブレインと言うのだな、お前は!」
 感激すら覚えて、ジョゼフはその存在―――ダークブレインとコミュニケーションを図った。
「お前は……」
「ん? ああ、俺か? そうか、そちらが名乗ったのに、俺が名乗らぬのは道義に反するな! 俺の名はジョゼフ。このガリアの王などをやっている!」
 全く物怖じも気負いもせずにダークブレインと話すジョゼフ。
「……お前が、我らとこの世界を繋げるゲートを開いたのか?」
「どうやらそうらしい。しかし驚いたぞ! まさかこんなモノがやって来るとは思わなかった!」
「……この世界は次元境界線が極度に不安定な状態にある」
「ジゲンキョウカイセン? なんだ、それは?」
「異なる世界同士を隔てる壁だ。また、この世界にはゲートを開くために必要な因子が揃いつつある……」
 ジョゼフはふむ、と大きく頷くと、ダークブレインの言葉を噛み締めるようにして会話を続ける。
「要するに、部屋と部屋とを繋ぐ壁が薄く、その壁に穴を開ける道具があったのだな?
 面白い、面白いぞ! ……ところで、お前はなぜそれほど傷付いている?」
「我らに楯突く愚か者との戦いの結果だ。
 ほぼ相打ちに近い状態だったが、『奴』には深手を負わせたことは確実だった。
 ……しかし我らの損傷も重く、逃亡する『奴』を追うことは出来なかった。そこにお前がゲートを開いた」
「ふむ? では俺はお前の邪魔をしたことになるのか?」
「この状態では『奴』を追うことは出来ない。治癒に専念すると結論づけていたのだから、特に問題はない」
 ジョゼフは、ほうほう、としきりに感心する。
「で、お前は何のためにその『敵』とやらと戦っていたのだ?」
「我らは知的生命体の痛み、苦しみ、悲しみ、憎しみ、蔑み、妬み、怒りを糧とし……。
 夢、希望、心、勇気、優しさ、善、想い、信頼、絆、友情、願い、愛を滅ぼす。
 そして……闇黒の秩序を作り上げ、我らがその頂点に君臨するのだ」

 それを聞いたジョゼフの瞳が、くわ、と見開かれる。
「おお……おお!! それらは全てこの俺が失ったものだ!! お前もそれを求めるか!! ハハハハ、何だ、気が合うな!!」
 ……既にジョゼフは、この闇黒の叡智に対して親愛の情すら抱いていた。
「………お前も我らの糧となり、我が開明脳と同化せよ」
「む、お前と一つになるのか? ……ふむ、それも面白そうだがな、出来ればそれは後回しにしてもらいたい」
「……何が望みだ?」
「お前は『痛み、苦しみ、悲しみ、憎しみ、蔑み、妬み、怒りを糧とする』のだろう? つまり、傷を癒すためにはそれらの感情が必要なわけだ」
「……………」
「どうせなら、お前にそれらを与えてやると言っているのだ。そもそも、俺一人の感情などたかが知れている。……第一、俺はそのような感情を亡くしてしまった。
 ならば、この世界全体から負の想念を集めた方が効率が良いだろう」
「………お前はこの世界の破滅を望むか」
「その通りだ!」
 ダークブレインの問いかけに、ジョゼフは即答した。
「俺の心はな、弟を―――シャルルを失った時に、その色を失ってしまった。中身がからっぽになってしまった。ほとんど動かなくなってしまった。
 ならば大きな刺激を与えればまた満たされることもあるかと思い、試しに『レコン・キスタ』という連中を使ってアルビオンに内乱を起こしてみたが、これが大して面白くもない」
「……………」
「ではその対象をこの世界そのものに拡大すれば―――と思い至って、手始めに使い魔を召喚しようとしたら、お前が現れたのだ!」
 興奮した様子でジョゼフはまくし立てる。
「率直に言うと、俺はお前の存在に感動した。もう震えぬと思っていた心がな、震えたのだ。
 ………そしてどうせなら、お前がこの世界で成すことを見てみたいと思っている」
「……良いだろう、ジョゼフ。お前の望みを叶える。そして、この世界のお前以外の存在を滅ぼし尽くしたならば……」
「そうだな、その時は最後に、この俺をお前の開明脳とやらに食わせるが良い!! ハハハハハハ!!」
 ダークブレインはその言葉を聞くと、その身体を青白い光に包み始めた。
「ん、どうした?」
「この姿では世界に対しての影響力が強すぎる。また、我らの存在を感知する者もいるようだ」
「ほう、そんな奴までいるのか」
「傷を癒す目的もあるため、姿を変える」
 バチン!
 稲妻が走る。
 思わずジョゼフが目を瞑り、再びその目を開くと、そこには黒いローブに身を包んだ白髪白髭の老人がいた。
「……よし、これで世界への影響は最小限に抑えられるはずじゃ」
「ほぉ……」
 外見が変わったことにも驚いたが、何よりその雰囲気、人格に至るまで変化していることに驚く。
 ……またそれと並行して、ダークブレインが自分のことを『我ら』と複数形で表現するのは複数の人格、あるいは多数の思念があの存在に同居しているためか……と、ジョゼフは推測していた。
「よし、それではまず色々とお前の話を聞かせてもらおう! 俺の知らない、ここ以外の世界のことを教えてくれ!」
「ま、いいじゃろ。ワシもこの世界の情報は欲しいしの」
 二人は、まるで長年からの友人であるかのように連れ立って歩いていく。

 ―――――時に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、ユーゼス・ゴッツォを召喚した、その日の夜のことである。


 浮遊大陸アルビオン、サウスゴータ地方にある森。
 その中にある小さな村は、その少ない人口のほとんどが大混乱に見舞われていた。
「うわぁあああ~!!」
「怖いよ、テファ姉ちゃん~!!」
「バカ、俺たちがテファ姉ちゃんを守るんだよ!」
 パニックに陥る子供たち。そんな子供たちの保護者であるハーフエルフの少女、ティファニアは必死に自分を奮い立たせていた。
(わ、わたしが呼び出したんだから、わたしが何とかしないと……!)
 一応魔法が使えるんだから、試しに『サモン・サーヴァント』でもやってみたらどうだい―――と姉代わりの女性に言われ、せっかくだからその女性がいない内に使い魔を召喚して驚かせてやろう、失敗しても別に困るわけでも………などと考えたのが間違いだった。
 姉代わりの女性に教えてもらった呪文を唱えてみると、やたらと大きい―――40メイルほどのゲートが開き、そこから現れたのは―――
「ゴーレム……!? じゃなくて、ガーゴイル!?」
 どちらなのかは分からないが、とにかく少なく見積もって30メイルは超えている。
 青い鎧をまとい、金色の輪を背負ち、空を飛ぶ人型のモノ。
 ……自分は一体、何を呼び出してしまったのだろうか?
 しかもどうにかしようにも、自分に出来るのは、特定の相手の記憶を消去することだけ。
 はっきり言って、直接的な戦闘行為においては何の役にも立たない。
 ……せめて、姉代わりの女性がいる時にやるべきだったと後悔する。
 だが、それでも。
(それでも、この子たちだけは……!)
 少なくとも、逃げさせる時間程度は稼がなくてはならない。
 囮となってアレの目を引き付けなければ―――などと、ティファニアが悲壮な決意を固めつつあったその時。
「じ、地面におりた……!」
 子供たちの一人が、青い鎧の巨人の挙動を説明する。
 もしかしたらこちらに近付いて、自分たちを捕まえるつもりなのではないか……と、ティファニアが子供たちに逃げるように叫ぼうとした、その時。
 ガシャンッ
「?」
 腰の部分のあたりが突然に開き、そこから人影が現れる。
 性別は男。紫がかった髪の色、長身痩躯、服装は白衣を着込んでいる。年は―――20歳過ぎほどだろうか? 肩に青い鳥を乗せているが……。
 男は地面に降り立つと、自分たちに向かってゆっくりと歩いてくる。
「……申し訳ありません。どうやら怖がらせてしまったようですね」
「え、あの、えっと」
「ほう…。エルフ、というものでしょうか。地上のファンタジー小説などではお馴染みの存在ですが、ふむ」
「っ!」
 バッ、と男に対して身構えるティファニア。
 自分の母の受けた仕打ちが脳裏をよぎり、この男の記憶を消そうか、などと考えるが、
「御主人様、いきなり登場したワケの分からない人が、思わせぶりなセリフを言ったりしても警戒されるだけですよ」
「……それもそうですか」
 肩に乗った青い鳥が、早口で男に忠告を送った。
(……メイジ?)
 あの青い巨人がゴーレムかガーゴイルだとして、この青い鳥が使い魔だとすると、この男はやはりメイジなのだろうか。
 ティファニアが子供たちを庇いつつ、男の正体を測りかねていると、
「では、先に名乗らせていただきましょう」
 男が自己紹介を始める。
「……私の名前はシュウ・シラカワ。こちらは私の使い魔でチカと言います」

 ―――――時に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、ユーゼス・ゴッツォを召喚した、その一週間ほど後のことである。





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