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Zero ed una bambola   ゼロと人形-36


 最初にそれに気が付いたのはタバサだった。
 翌朝にアルビオンへの出立を控え、ルイズたちは眠りに就こうとしていた。
 ペチャクチャとお喋りをするルイズとキュルケを尻目にタバサは眠りに就く寸前まで当然のごとく本を読んでいたのだ。
 だが唐突にタバサのページを捲る手が止まり、視線を手元の本から外した。そして本の代わりに杖を手に取り、辺りの音を窺い始めた。
 次いでアンジェリカ。タバサの行動を目にしてからの行動は素早い。銃と剣を包んだ布から学院から持ってきた銃、M16を取り出し、初弾を装填する。
 アンジェリカの行動でようやく何か異変が起きていると察した二人はタバサの「明かりを」という声を聞くと部屋の明かりを消した。
 明かりが消えた部屋に僅かに月の光が差し込む。薄暗い部屋では誰も言葉を発しない。ただ皆一様に耳を澄ましていた。
 階下から聞こえるのは騒乱の音。酒を飲んで喧嘩をしている様には到底聞こえない。怒鳴り声、砕ける木、割れる硝子、逃げ惑う足音……階下から聞こえる音は何者かが猛烈な殺意をこの宿に持ち込んだことを示していた。
 明らかに唯の物取りではないことが分かる。だがルイズはその場で動けないでいた。
 それもその筈、魔法学院からラ・ロシェールへの道すがら特にトラブルなど起きなかった。そして旅のパートナーは憧れのワルド。宿についてからはアンジェリカやキュルケまでもが一緒になった。
 これでは緊張感など湧くはずがない。尚且つこの暴力的音源がモット伯での屋敷での惨劇を思い浮かばせ、目に見えぬ恐怖として彼女に襲い掛かったのだ。
 ルイズは月明かりの差し込む薄暗い部屋の中、悲鳴も泣き言も挙げることもできず、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 一方のキュルケは最初こそは戸惑いはしたがすぐに気を取り直し、いつでも動けるとタバサへと片目を閉じて合図をした。

 誰かが賊の侵入だと大声で叫びながら階段を駆け上る。途切れた警告の声、次いで聞こえる断末魔。それは宿屋の主人の声に似ていた。
 床のきしむ小さな音が扉越しにも聞こえてくる。小さな足音が彼女たちには大きく聞こえた。

「来る」

 タバサはそう言葉を紡ぐとドアの近くへと身寄せた。アンジェリカもストックを肩に付け銃口をドアへ向け、招かれざる客の来訪を待ち受ける。
 ドアノブがゆっくりと回る。
 タバサは侵入者がドアノブを回し切った所を見計らい、扉を開け、開いた隙間に身を滑り込ませ杖の切っ先を侵入者の喉下に突きつけた。
 杖を突き付けられた侵入者の男は抵抗することはなかった。タバサはその男の顔を確認すると杖を下げ、部屋の外の様子を窺い始めた。
 アンジェリカも男の顔を確認すると銃口を下げ、ルイズに向き直った。

「えっと、ワルドさんです」

 アンジェリカの声を聞きルイズとキュルケは安堵からか息を長く吐いた。

「まだダメ」

 タバサは警戒を解かずそう言い放った。

「君はずいぶんと手馴れているんだね」

 ワルドの、言葉に棘を含ませたような言い様にタバサは少し睨み付けた。ワルドは大げさに肩を竦ませながらも言葉を続ける。

「襲撃だ、狙いは十中八九我々だろう。つまりアルビオンの貴族派が金で嗾けた賊だろうね。連中はどうやら無関係な者も殺しているようだが……盗賊風情にそんな事を言っても無駄か。」
「そんな…っ!」

 ルイズの疑問の声は突如聞こえてきた、ルイズの失敗魔法とは違う、もっと洗練された鋭く甲高い破裂音に遮られた。
 ルイズはその音に似た音を聞いたことがある。そう、アンジェリカが持つ銃から発せられるあの音だ。
 その音を表現しろ、と言われれたならば、例えばこの場にいないシエスタなら、ただ一言"怖い"と言うだろう。あの屋敷で聞いたあの音。少しづつ、少しづつ大きくなって、少しづつ、少しづつこちらに近づいてきていたあの音だと。
 重々しく、しかし甲高いと言う両極端の属性を持つそれは、知らないときならばまだしも知ってしまった今となってはルイズにとっては悪魔の囁きにも等しかった。そう、アンジェリカがまた一つ、命の蝋燭を吹き消したのだ。
 だがアンジェリカにとっては銃声など何の感慨もない。ましてや自ら引き金を引いているのだ。ルイズ以外にとってはただの銃声でしかない。
 いや違う。ワルドだけは何か面白い物を見つけた子供のような顔を一瞬見せたのだ。
 音の発生源に皆一様に目を向ける。そこには銃口を窓に向けたアンジェリカの姿があり、向けられた銃口の先では窓ガラスに穴が開き、少量ながら何かの液体が付着していた。それは脳漿であろうか。

「梯子」

 連中は一階からだけでなく、二階にも直に侵入しようと試みているのだ。それを見届けたタバサの声にワルドが素早く反応し、部屋から出るように促す。内からだけでなく外からも進入を試みているようだ。
 その言葉にルイズは慌てて杖と布にくるまれた剣、デルフリンガーを片脇に抱え込み、空いた手でアンジェリカの手を取ると逃げるように部屋から飛び出た。
 ルイズが部屋の外で目にしたのは眉をしかめて佇んでいたキュルケと傍らに横たわる3人の男。最後にワルドが部屋の中で何かを拾って出てきた。その時は彼女たちはそれに気にも留めなかった。

「ねぇ、この人死んでいるのかしら?」

 何故ならば階段に倒れる3人の人間に最大限の関心が払われているからだ。
 階段に倒れている太った男なら知っている。宿の主人だ。でっぷりと太ったその体は赤く染まっていた。残りの二人は知らない。
 恐らく下手人は貴族派の人間が差し向けたであろう賊だ。

「賊の方は気絶させたが、僕が駆けつけたときには、彼は残念だけど……」

 もう息がなかったと首を振り示した。

「連中の狙いは恐らく僕たちだろう。周囲に被害がこれ以上広がる前にここを出よう」


 ワルドの提案にルイズたちは頷いて従う。
 先頭をワルドにして階段を降りる。最後尾にはルイズとアンジェリカ。不安そうな顔を浮かべるルイズはアンジェリカの手を取って階段を下りようとした。しかしアンジェリカはその手を振り切った。
 ルイズがどうしてと声を上げる前にアンジェリカは下げていた銃口を上げ、ストックを肩につけていつでも発砲できる体勢を整えた。つまり最後尾を警戒しているのだ。
 失われた命を気にすら留めないアンジェリカ。ワルドでさえ敵に容赦をし、命を奪わなかったというのに。
 ルイズはアンジェリカとの間に壊せない壁があるように感じられた。それでも杖と共に布に包まれたままで彼女の手に抱かれていたデルフリンガーはカタカタと一生懸命何かを伝えようとしていた。
 無論それはルイズにも感じられた。しかし、今この宿は争いの真っ只中にいるのだ。そしてデルフリンガーは剣である。剣は争いに使われる物、敵を切り伏せる物である。
 デルフリンガーにとって不運だったのは、ルイズは死と争いの空気に犯され、いささか冷静さを欠いていたのである。普段の彼女ならばデルフリンガーに何か言いたいことがあるのか尋ねていただろう。
 だが今のルイズにそのような余裕は感じられない。デルフリンガーを黙らせようと試みているのか、彼を布の上からギュッと強く抱きしめているのだ。
ルイズにはきっとこう聞こえたのだろう。『オレを使わせろ』、そうデルフリンガーが言っているように。だがそれは違う、デルフリンガーは誰かを傷つける為に創造されたのではない。殺すためでなく護る為の剣なのだ。
 彼は己の存在理由を懸けて口を閉ざされても尚必死にルイズに訴えかける。

『その手を離すな』

 ルイズはデルフリンガーの意志を感じ取ることは出来なかった。繋いだ手を離し、ワルドの背を追いかけた。アンジェリカはルイズに背を向けたまま、ゆっくりと階下へと降りてゆくのだった。



 階下の状況は酷いものだ。押し入った連中によって一階にいた者は皆切り殺されていた。ルイズたちの先陣を切って降りてきたタバサとワルドが目にしたのは死体から金品を漁る賊の姿。
 二人は思わず階段を降りきった所で動きが止まってしまう。まさか階下でこのような惨状が広がっているとは思いもしなかったからだ。

「ちょっと、いきなり立ち止まってどうしたのよ」

 いきり立つキュルケも眼前の光景に言葉を失うしかなかった。遅れて階下にやってきたルイズも顔を青くしてしまう。

「何だ手前らは……そうかお前たちか」

 凄惨な光景に目を取られたが故に先制の機会を逃してしまった。だがそれでもメイジであれば直ぐに挽回できる。
 その証拠に、ワルドの唱えたたった一つの魔法、エア・ハンマーによって数人の賊は出入り口付近まで吹き飛ばされたのだ。薄手の皮の鎧を纏った男は立ち上がると外へ向けて何かの合図をだし、屋外へと逃げ込んだ。
 これで敵を退けたのかと安堵の溜息をつくルイズとキュルケの二人だったが、タバサ、ワルド、アンジェリカの三人は油断無く敵の第二波に備えていた。
 唐突にテーブルを倒し、その影に身を隠すタバサ。ワルドはルイズの手を引き、アンジェリカはキュルケを引き倒し、身を隠した。
 何をするのかというルイズが口を開くよりも先に矢が木製のテーブルに突き刺さる音がその口を遮った。
「ただの賊じゃないようだ。これは傭兵だね」
「手馴れている」

 ワルドの言葉にタバサが一言付け加える。身を隠したテーブルから顔を少し出して状況を探る。
 そこにいたのは、最初に襲いかかろうとした傭兵は動きやすい皮の鎧を身に纏っていたのに対し、正面の出入り口にいる連中は金属製の鎧を纏っている。
それだけではない。隊列を成し、前列が全身を覆う鎧と大きな盾を構え、後列が矢を構えてこちらを射殺さんとしていた。

「ここは二手に分かれよう。いつまでもここに篭ってはいられない。僕とルイズは裏口から出て船まで突破する。君たちは連中を引き付けておいてくれ」
「わかった」
「仕方ないわね。ヴァリエール、貸し一つよ」

 ワルドの提案に二人は同意する。それもそのはず、トリステインに留学という形を取っている二人がそう安々と他国へ行けるものであろうか。ましてやアルビオンは内情が不安定なのだ。
トリステイン以外の国に属している者がアルビオンに行き、問題でも起こしたら国家間の問題になりかねない。ワルドの提案は至極当然のものである。
 だがルイズは違った。そう、アンジェリカもここにおいて行けと受け止められる発言に異を唱えたのだ。

「ワルド様、アンジェ、アンジェリカは……連れって行ってもいいですよね」
「いや駄目だ。いいかいルイズ。これは秘匿任務なのだよ。人数が少ないほうが目立たずに済む。今襲撃を受けているのも思いのほか大所帯になったのが原因かもしれない」
「それでも……わたしはアンジェを……」

 デルフリンガーの思いが通じたのだろうか。ある種の迷いも見せながらもワルドに向かうルイズであった。その様子にワルドは彼女が引かないと悟ったのか大きな溜息をついた。

「はぁ、仕方が無いね。婚約者の我侭を聞くというのも勤めの一つだね」
「それじゃあ……」
「ああ、一緒に連れて行こう」

 その言葉を聞き、ルイズの顔が思わず綻んだ。

「君たち、ここは任せたよ」

 ワルドはタバサとキュルケに言葉を掛けるとルイズの手を取り裏口へと向かった。そしてその後をアンジェリカが追うのであった。
 ルイズたちを襲った傭兵は当然裏口にもいた。だがワルドの攻撃によって彼らは簡単に地を伏せた。

「賊や傭兵とは云えどもむやみに殺したりはしないよ。ルイズ、安心してくれ、僕は君を護ってあげるから」

 ワルドは時折ルイズを気に掛けながらも桟橋へ向かった。ルイズは少し頬を紅く染めていた。ワルドの言葉に少し照れていたのだろう。
 一方のアンジェリカは黙々と二人の後を追っていた。心なしかどこか不満そうだ。
 長い長い階段を駆ける三人。時折後ろを振り返り追っ手がいないか確認をする。そしてそれを確認して次第に速度を緩めた。
 階段を上り切るとそこには一艘の船が停泊しているのが見えた。ワルドがまずタラップを駆け上がり船の出港のため船員をたたき起こしていた。
 当のルイズは階段を急いで走った為、息を整えるのに精一杯であった。アンジェリカは少し息を荒げるだけであったが、その目は警戒を怠りない。

「ルイズさん敵です!」

 ワルドが船長と話を付け、船員たちが慌しく出航の準備を整えている最中だった。アンジェリカは階段を駆けぬけ、こちらへ向かってくる黒い人影を見止めたのだ。
 舷側から身を乗り出すようにしながらストックを肩に付け、いつでも発砲できる準備を整えたアンジェリカ。黒い人影に止まれと怒鳴るワルド。ルイズはただその様子を黙って見ているしかなかった。
 黒い人影は月明かりでも顔が視認できる距離まで近づいてきた。その顔には白い仮面があった。どう考えても怪しい、ましてや腰から杖のような物を取り出したのだ。
 船は出港の直前だった。タラップは引き上げられ、舫は解かれていた。仮面を付けた……恐らく男であろうその人影はフライの魔法を唱えたのか宙を舞い、船に飛び移らんとしている。
 だがそれは適わない。ワルドが杖を構え、魔法を放つより先に銃口が火を噴いた。
 油が弾けるような音、甲板に船員にはそう聞こえた。彼らとて海、いや空の男、荒事には慣れている。当然喧嘩の延長で鉄砲を持ち出す輩もいたはずだ。ましてや内戦状態に陥っている国へ行こうと、或いは行っているのだ。銃声や砲声など耳にしているはずである。
 しかし、彼らに銃声だと理解するのにしばしの時間を要した。知っているけれども知らない音、船員たちは手を少し止めたものの直ぐに作業に戻った。まるで最初から何も無かったかのように。

 アンジェリカが放った銃弾は三発、その狙いは正確であった。初弾は仮面の男の胸部、心臓がある場所に突き刺さり、間を置かず次の弾丸が喉を貫いた。
最後の銃弾が止めとばかりに仮面ごと眉間を穿ち、白い仮面の男は為す術も無く地に落ちていった。いや正確にはそう見えた。舷側からでは仮面の男が落ちた先は死角となって見ることが適わない。
 それでも素人目から見ても仮面の男が生きているとは思えない。断末魔も今際の言葉も無く、命が堕ちたのをまた一つ、ルイズは目撃してしまった。

「ルイズさん、見ましたか? 上手に殺せました。これからもルイズさんの為にいっぱい殺します」

 ワルドへの対抗心だろうか、アンジェリカの浮かべた笑みはとても無邪気で可愛らしかった。それだけにルイズは正視することが出来ず、地面を俯きながらそっとワルドの服の裾を摘むのだった。
 もしこの時ルイズが面を上げていたら気付いていただろう。ワルドの顔が、新しい玩具を見つけた子供のような表情を見せていたことに……。

 船は一路アルビオンに向けて動き出した。




Episodio 36

La partenza occupata
慌しい旅立ち






ntermissione



 宿へ取り残されたタバサとキュルケの二人であったが状況は悪い。ルイズたちを逃がす為、チマチマと戦っていたらいつの間にか包囲されてしまった。

「あれ? もしかしてあたしたちピンチ?」
「かなり」

 盾にしたテーブルにはかなりの数の矢が突き刺さっている。敵は一方向だけでない。二階からも裏口からもやってくるのだ。

「タバサ、どうする、これだけの数の相手やっつけられるかしら?」
「無理」

 じゃあどうするのかと興奮してきたキュルケが立ち上がり、テーブルの影から身を少し出した。そこを待っていましたと言わんばかりに一筋の矢が襲い掛かる。
 だがその矢は幸運にもキュルケの顔を掠めるだけだった。数本の髪が切り裂かれ慌てて実を隠すキュルケにタバサは諭すように口を開いた。

「それは勝利条件じゃない」

 言わんとしている事が理解できないでいるキュルケのためにタバサは尚も言葉を紡ぐ。

「わたしたちは囮、時間稼ぎ」
「それで?」
「倒す必要は無い」
「だからどうするのかしら?」
「十分時間は稼いだ。だから……」
「だから?」
「後は逃げるだけ」

 タバサはそう言うと風の槌、エア・ハンマーを起こし、壁を破壊する。そしてそこを指差し呟いた。

「脱出口」

 余りに強引なやり方にキュルケは元より、襲い掛かった傭兵達も唖然としていた。タバサは未だ唖然としているキュルケの手を引っ張って宿から逃げ出した。

「ま、待ちやがれ!」

 傭兵達も正気を取り戻し、彼女たちを追い始める



 キュルケとタバサは傭兵たちを振り切れないでいた。どれだけ引き離してもいつの間にか先回りされていたりして逃げ切ることが出来ない。ぐるぐるとラ・ロシェールの町で鬼ごっこを続けていた。

「本当にしつこいわね」
「仕方が無い」
「仕方がないってどういうこと?」
「学院と同じ」
「え?」
「男達は貴女の御尻と胸ばかり追いかける」
「……タバサ、あなたって突然過激なことや、突拍子も無いことをいうのね。学院の男たちがあなたを見たら普段とのギャップで落とせるんじゃないの」

 軽口を叩きながらの鬼ごっこは夜明けまで続いた。日が昇ると傭兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行き、勝敗はキュルケたちに軍配が上がった。

 一方、彼女とは関係ないところで定時通り、夜明けと共に出航した船が乗っ取られ、アルビオンへ針路を変更した事件が発生したのだが、これはまた別の話である。


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