あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

青にして灰白の使い魔-02



「フフフ、つまり私はあなたの使い魔ということですネ!」
「まだ何も言ってないわよ! あーもうっ!」
 ルイズは本を読んでいたが、岩田の声に、いつもなら挟む栞を挟まずにドンッと閉じて盛大に悪態をついた。
 本を閉じる音に合わせて岩田が踊る。真面目に考えているのが馬鹿らしくなってきて頬杖をつく。
「……えーと……あんた、イワタって言ってたわよね。変わってるけど、それが名前?」
 岩田は机にルイズに向き合うと、しっかり360度回転してみせた。
 それから身体全体をくねらせ、尖らせた口の前で長い人差し指を左右にひらひらさせる。
「ノンノンノン。私は岩田裕。ワタマンとお呼びを。いや、イワッチでもイィ! スゴクイィ!」
 岩田は何が嬉しいのか、足を絡ませながらまた踊りだした。
 その一挙動が癇に障る。無性に腹が立ったルイズは頭を掻いて席を立つと、ベッドに向かって大股で進み始め
た。あの平民の形をしたタコだか蛇だかなんだか分からないやつの名前について考える。
 イワタヒロム、イワタが名前? でも違うって言ってたから、ヒロムの方かしら?
 ワタマン、とイワッチは愛称か何かか、きっとそんなもんだろう。どちらにせよ平民に変わりない。
「まぁいいわ。平民、使い魔になったからには使い魔として働いてもらうわよ」
「イイでしょう。で、具体的には何をすれば?」
 片足を肩の高さまで上げて回転する岩田を無視してベッドに腰掛ける。
「はぁ……まず、使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられる――らしいけど、何も見えないわね」
「のようデスね」
「ですねじゃないわよ……あと、主人の望むものを持ってくるの。例えば秘薬とか――聞いてる……?」
 岩田は右手を突き上げたかと思うと、左手でその右手を掴んだ。身体を左右に揺らし、長い手足をくねらせる。
「フフフ、ハハハハ……ククク……イーッヒィーッヒッヒ! フフフ……アーッハッハッハ!」
 高笑いに近い笑い声をあげ始めた。そして、ゆっくりとその右手をベッドに腰掛けているルイズに向けて、人
差し指で指す。
「その通り、私がこのゲームのラスボスです! さぁカモンカモンぅ!」

 ルイズは無言で立ち上がると、俊足で岩田に駆け寄り鳩尾に正拳を叩き込んだ。
 悶絶して倒れる岩田の頭を踏みつけながら、怒り心頭といった面持ちのルイズがゆっくりと口を開く。
「へっ、平民の使い魔がなーに私の部屋で騒いでるのかしら……!? 納得の行く説明が欲しいわ!」
「ククク……フフ、あなたの望むもの、それはすなわち心を震わせるようなスバラシィギャグです! ああイィ! スバラシィ!」
「ギャグはこりごりよ。それと使い魔は主人を守る役目があるけど、あんたには無理ね。掃除洗濯雑用よろしく」
「イイでしょう、ですので足を退けてもらえると嬉しいのですが」
「あら、悪かったわね」
 最後にルイズは思い切り踵で岩田の頭を踏みつけると、ブラウスに手をかけた。
 とっととボタンを外して下着姿になり、ネグリジェを頭から強引に被る。
 行儀や品性の欠片も無かったが、岩田のせいで半ば自棄になっていたルイズは気にも留めない。
 伸びている岩田にパンティを投げつける。
「それ、洗っときなさい。あと朝になったら私を起こしなさいよ。ちなみに寝床は床!」
 ぴしゃりと言い放つと、ランプの灯りを消してそそくさと寝に入る。疲れていたのか、眠気はすぐにやって来た。


 ランプの灯りが消えた部屋を、窓から差し込んだ二つの月の光が照らしている。

 その光の中心に裕は居た。肩にかかったパンティを無視して目を閉じ、音もなく踊る。
 小波のような、一定で規則正しい寝息を立てるルイズを起こさないように息を潜める。
 音を立てずに窓に近づき、裕はゆっくりと目を開いた。
 視線の先には、暗い夜空の中で赤と青の幻想的な二つの月が光り輝いている。
 まるでおとぎ話に出てくる月のように、爛々と。
 ふっと薄く笑ってから、次の瞬間には音もなくパンティを放り投げる。
 それから軽く息を吸い込み、窓の外に軽く跳んだ。
 手を伸ばして二つの月に少しだけ近づいた後、真っ逆さまに落下する。
 顎を高くして地上に目を凝らす。口を開いた。
「重力に逆らえず落下する感覚はイィ! スバラシィィ!」
 岩田は、見る人が見れば凍りつくような笑みを浮かべて地上に激突した。

 ルイズが寝息を立て、岩田が笑みを浮かべて跳んで転がっていた頃。


 頭頂部がお寒いと生徒たちに笑われているコルベールは、寝る間も惜しんで図書館の中の本を片っ端から読み
漁っていた。図書館と言っても、建物自体が図書館と言うわけではなく、魔法学院の複数ある塔の内の一つの塔
の内部に位置する。
 とはいえ、三十メイル以上の本棚がずらりと並んでいるのだから、それはそれで壮観だ。
 なお、図書館はいくつかの区画に別けられており、今彼がいるのは教職員専用の区画、フェニアのライブラリー。
 区別するのにはいくらか理由があるのだが――それは置いておこう。
 コルベールは対象を浮遊させるレビテーションを応用したフライを使って本の場所まで浮かんだ。
 そしてある程度目星を付けていた本を何冊か抜き取り、その場でおずおずと読み始める。
 表紙を開き、字面を追ってはページを捲り、字面を追ってはページを捲る。
 既に数百、数千は繰り返しているであろうその作業を、彼は当たり前のようにこなす。
 戦場で戦っていた彼にとってそれは苦ではない。
 ましてやそれが、見たことも無い謎のルーンの研究のためならば。
 寝る間を惜しむだけの価値はある。
 時折聴こえる、ぷっくぷーという間の抜けた呼び出し音や、明日のギャグは転校生ネタで決まりですネ!など
という奇声にも似た声をBGMにコルベールの読み漁りはまだまだ続く。

青にして灰白の使い魔 第6回

 朝、ルイズは身体を揺すられて目が覚め、自分を呼ぶ声を聞いてその身を起こした。
 まだぼやける視界の中に、くねくね動く物体を捉える。
「……なによ、あんた」
「フフフ、それはギャグですね!? あなたの使い魔ですが」
 ようやく焦点が合い始める。くねくね動く物体は、岩田だった。
 昨日と同じ奇妙な白い服に、変な化粧を塗りたくった顔。タコのように長い手足。
 ルイズはあからさまに嫌そうな顔をした。欠伸をしながら目を手で擦った。
「服」
「用意してあります」
 岩田は一回転するとどこからか服を取り出した。
「……下着」
「三つほど用意してありますが、どれです?」
 岩田は裾からルイズのパンティを取り出しながら言った。
「なんでそんなところにあるのよ……じゃあこれ! にしても、やけに手際がいいじゃない」
「これでも家来ですので……元、ですが。ククク、終わりましたよ。」
 ベッドから立ったルイズに衣服を着せながら、岩田は昔を懐かしむように目を細め、自嘲気味に呟いた。
 それを無視して、ルイズは背筋を伸ばして目を見開き、改めて自分の姿をよく見た。
 普段自分で着るよりも上手に着せられている。明らかに慣れた者の仕業だ。
 そのことを怪訝に思うも、まぁどんな馬鹿にも一つぐらい取り柄はあるものかと結論付ける。
 結論付けてから、窓から差し込む明るい日の光を見て不機嫌になった。太陽に同情されているように思ったのだ。


 木で作られたドアを開けて、まず最初に目に飛び込んできたのは……
「はぁい、おはようルイズ」
 大きくて、大きくて大きい……胸胸胸――!
「あっ、朝からなんてものをー! そんなに私が憎いっていうのー!?」
「ちょっ、なによルイズ!?」
 そこにいたのはキュルケだった。燃えるような赤い髪は、相当手入れしているのだろう。艶々して自発的に光
輝いているように見えなくもない。わざとらしくブラウスの一番二番ボタンを開けているので、まるで胸が飛び
出ているような画だ。
 ルイズはキュルケのことが嫌いだった。嫌悪のそれとは違う、苦手というか、いや、そこまで嫌いじゃないか
も、でも好きじゃないしうーん……
 少し考えて、髪を振ってそのことを忘れた。キュルケはキュルケで、私は私。大して変わりは無い。
 キュルケの方から妙に熱気を感じるが、それを無視してキュルケと視線を交わした。
 仕切り直しとばかりにキュルケが咳払いする。
「あら、今日はずいぶんと早いのね。それになんだか服装も良いじゃない? おはようルイズ」
「そうね、そうよ……おはよう、キュルケ」
 元気が無いルイズを見てどう受け取ったのか、キュルケが心配そうな顔で首を傾げた。
「ちょっと、なによ元気ないわね……どうかし、た……あー、後ろの平民が原因ね」
「その通り、すべての事象は私が引き起こしたものです! 私が原因ー! すなわちラスボスでぇーす!」
 岩田はクケーと奇声をあげた。

 無視する。

「あー、それもあるけど、なんの用よ?」
 ルイズの不機嫌な声を聞いて、キュルケは微笑といっていいような笑みを浮かべた。
 キュルケはルイズの事が嫌いではなかった。それどころか、小さくて勤勉でからかいがいのあるルイズの事を
それなりに気に入っていた。同じ小さいでも、タバサと違ってからかいがいがあるというのは大きい。
「え? あー、こほん。べっつにぃ、平民を召喚するだなんて、流石ゼロのルイズよねぇー? 普通のメイジじゃ出来ないわよ?」
 言葉を聞くや否やルイズの顔が見るからに歪んでいき、次第に紅くなる。
 この子もこの喧嘩っ早さがなくなればモテると思うんだけどねぇ……
「悪かったわね! 召喚したくて召喚したんじゃ――」
 その二人の間に、岩田が身体を天に反らしながら割って入ってきた。
「ストォーップゥー! 私の素晴らしいギャグを無視するとはなかなか笑えませんね!?」
「あんたのギャグよりは笑えるわ! 空気が汚れるから黙りなさい!」
 岩田は壮絶に血を吐いて倒れた。動かなくなった……。
 ルイズが頭を抱え、キュルケが冷や汗を流し、通りがかりのメイジが腰を抜かして這いずりながら去っていく。
 窓もないのに風が吹いた。燃えるような長い髪が顔に張り付く。鬱陶しそうに髪をかきあげ、上を見て、左右
を見る。
 遠くから見ても分かるほど肩を震わしながら、ルイズが頭を抱えて口を開いた。
「……お願いだからじっとしててちょーだい!」
 操り人形のように妙に不自然な動きで岩田は立ち上がった。醒めた目でこちらを見ている。
「フゥ……あなたはどうやら私の嫌いな常識人ですねぇ? あーもう、常識人過ぎます。せっかくのファンタジーなのに損ですね!」
「黙りなさい!」
 ぴしゃりと言い放ってから、ルイズまだなにか言っている岩田を無視して冷や汗流しまくって三歩退いている
キュルケに向き合った。
「気、気にしないで!」
「えっ? あ、ええ、うん、気にしないよう努力するわ、ええ、大丈夫、任せて、気にするわよ、あら? えっとー」
 動揺しまくりのキュルケ。ハイテンションな男と会ったことが無いと言えば嘘になるが、それはそれ。
 その素振りを見て何を思ったのか、ルイズはすまし顔で言った。
「落ち着きなさいよ、みっともない」
「……ずいぶんと慣れてるのね、ルイズ」
「どこが!?」


 今日は最悪な日だとルイズは思った。いや、この平民を召喚したのは昨日だから最悪な昨日か。
 その平民はといえば、キュルケの後ろにいたやたら大きい火トカゲを興味津々といった目で見つめていた。   
 しかし……大きい。なるほど、先ほど感じた熱気の正体はこれか。尻尾の炎からして分かるが良質のサラマン
ダーだ。だとすれば、キュルケはこのサラマンダーを自慢しに来たのだろう。 
「フフン、この大きな生き物は何ですか? 見たところ爬虫類系のようですが……」
「ああ、それは私の使い魔のフレイム。えっと……その、なんでもないわ」
 岩田の疑問にキュルケが答え、更に何かを言おうとしたが――こちらを一瞥すると口をつぐんだ。
 ああ、また同情されたと思った。ルイズはぎゅっと手を握り締める。

 その様を横目で見ながら、岩田は難しい顔。
 聞き覚えの無い言葉でフレイムに話しかける。
「……なによ、今の?」
「いえ……どうやら神族ではないようですね。まぁ、それもまたしかりというべきか……」
 その言葉により一層欝になるルイズ。この使い魔がまともな時は、服を着せたときだけだった。
 キュルケが冷や汗を拭いながらこちらに視線を向けてくる。
「えーと、今の何かしら? お芝居?」
「……どーせギャグでしょ!」
 それを聞いて岩田は嬉しそうに笑った。自分の右手を押さえつけるようにして回転した後、顔を天に向ける。
 微笑と言っても良いような笑いを浮かべ、明後日の方向を見つめた。
「はっ、電波受信! 笑いが私を呼んでいるぅー!」
 高速スキップ。止める間もなく、顎を突き出して廊下を突っ切って行く。
 居心地悪そうにしていたキュルケは、岩田が突っ切っていった方向を眺めながら呟く。
「……止めなくていいの?」
「私は関係ないし、どうでもいいわよあんな平民!」

 一方その頃。

 寝る間も惜しんでひたすら本を読み続けていたコルベールは、ついにダウンした。
 集中力が途切れてフライの呪文が解けて真っ逆さまに落ちる。
 はっとし、慌ててもう一度フライを唱える。なんとか間に合ったようで、かろうじて床と激突することは避け
られた。着地してからみっともなく床に腰を下ろす。それから同じ目線の高さにある本に目を向けた。
『始祖ブリミルの使い魔たち』
 コルベールはその本を一度だけ目にしたことがあった。図書館の本をチェックしている時に一度だけ見かけた本だ。
 あの時は時間が無かったので読めなかったが――ふむ。
 幸か不幸か、集中力が途切れたことで再び出会えた。
 即座に思考を切り替え、スケッチしたルーンのことなど忘れてその本を抜き取り読み始める。
 一つの事に集中すると他の事に気が回らないのがコルベールの欠点だった。

 ――もっとも、今回はそのおかげで当初の目的に辿り着くのではあるが。



 場面と時はまたも飛ぶ様に移る。
 昨晩、メイドに岩田の分の硬いパン二つとスープを注いだ皿を床に置いておくよう指示したルイズは、岩田を
自由にしたことを後悔していた。このままにしておくわけにもいかないのだが、しかし貴族としての体面もある。
 ただでさえ不機嫌なルイズはさらに不機嫌になって膝を揺する。腹が立つ。
 とりあえず近くにいたメイドを手招きして呼んだ。
 慌てて近づいてくるメイドは、ルイズより背丈が大きい。10サントは上だろう。
 大人しそうで、少し怯えて見える。何かあったのか?
 カチューシャで留めた髪の色は黒すぎて青く見えないことも……いや、やはりそんな風には見えない。ルイズ
は頭を何度か振った。
 疲れているせいだ。
「はっ、はい、なんでしょうか」
「これ、片付けておきなさい」
 メイドは困惑した様子で口を開いた。
「はっ、ですが、使い魔の分の食事では……?」
「……どうしてあんたがそれ知ってんのよ?」
「あっ、すっすいません! 昨日、同僚から聞きました……」
 じろり。ルイズがメイドの姿を上から下まで舐めるように見る。メイドが若干涙を浮かべて肩を震わした。
「あんたには関係ないじゃない。ただのメイドの癖に。いいからこれ、片付けて頂戴!」
「わわ、分かりました! すいません、すいません!」
 そう言うと、メイドは何度も頭を下げてから皿を抱えて走り去った。
 少し悪いことをしたかな、とも思ったが、相手はメイド。メイドで平民。あのくねくねした使い魔と同じ。
 そう考えれば少し気が晴れた。というか、どうでもいい。
 周囲を見て、祈りの言葉を唱和する時間だと気がついたルイズは今のことを忘れて目を閉じた。

 そのメイドは、皿を厨房に戻してから、今にも溢れ出そうな涙を手で拭った。
 やっぱり貴族の人は怖いと考える。
 だがそれよりも、メイドは下げた皿に乗っていた食事を与えられるであろう使い魔に思いを馳せた。
 あの貴族の人は確かミス・ヴァリエール。周囲の人からゼロのルイズと馬鹿にされている――魔法の使えない貴族。
 彼女が召喚したと噂になっている白いくねくねした平民は、今頃お腹を空かせているのではないだろうか。
 そう考えると居ても立っても居られなくなってくる。どうしよう、どうしよう。
 だけど仕事を休むわけにもいかないし……
「おーい、シエスタ、ちょっと来てくれー!」
 コック長のマルトーにシエスタと呼ばれたメイドは、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

   <続く>




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