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虚無と狼の牙-10


虚無と狼の牙 第十話

 トリステイン魔法学園の門の前で二人の男がにらみ合っていた。
一人はハルケギニアでは珍しいくらいの長身で、羽根付き帽子をかぶった男で、整った口ひげが彼の精悍な印象を強めている。
そして、にらみ合う男のほうも彼に負けず劣らずの長身で、黒い服を身にまとい、その傍らには巨大な十字架があった。
 羽根帽子の男のほうが、彼をなだめるように笑って言った。
「そんな怖い顔をしないでくれよ。僕は敵じゃない。女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。
姫殿下より、キミ達に同行することを命じられてね。そこで僕が指名されたってワケさ」
 そしてワルドは「弱ったなぁ」と呟きながら、苦笑いを浮かべて両手を広げた。
「う、ウルフウッド、相手が悪いよ」
 ワルドの正体を聞いて、ギーシュが青ざめた顔になった。
「魔法衛士隊?」
 ウルフウッドが怪訝そうにギーシュに問い返す。
「女王陛下直直属の最強のエリート部隊の一つで、その中でもグリフォン隊と言えば、エリート中のエリートだ。
間違いなく、この国最強のメイジの一人だ」
 ギーシュは不安そうにウルフウッドの服の裾を引っ張る。
その姿を見て、ウルフウッドはため息をつくと、全身の緊張感を緩ませ、改めてこのワルドという男を観察した。
 確かにギーシュの言うとおりだ。今まで見てきたメイジとは体つきが違う。魔法に頼らずとも、相当の戦闘力は持っているだろう。
それに何よりも、その目。笑ってはいるが、その奥で何かが油断のない光を放っている。
「わかってくれて、助かったよ。そこのキミもありがとう」
 ワルドは鷹揚に笑って、ギーシュの肩を叩いた。ギーシュがどこか恥ずかしげに、その肩をすぼめる。
 そして、ワルドは彼らの後ろでまだボーっとしているルイズに向かって歩き始めた。
「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」
 満面の笑みで両手を広げるワルドに、ルイズは慌てて頭を下げた。
「お久しぶりでございます」
 そのままワルドはルイズを抱きしめ、抱え上げた。ルイズは恥ずかしそうに顔を伏せる。
「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」

「『まるでハゲのようだね』ですとぉ!」
「……み、ミスタ・コルベール、どうなされたのですか」
「え、いやあの誰かが私の悪い噂をするのが聞こえた気がしたもので」
「はぁ。(っていうかあなたはまるでハゲじゃなくてハゲそのものじゃないですか)ところでミスタ・コルベール」
「はぁ、なんでしょう。シュヴルーズ先生」
「あなたははね付き帽子をかぶった髭面の男前と黒服の目つきの悪い大男どちらがお好みですか?」
「はぁ?」
 そんな間の抜けたやり取りがシュヴルーズとコルベールの間で交わされている頃、
 ワルドはゆっくりと丁寧にルイズを降ろすと、改めてウルフウッドとギーシュに視線を移した。
「ルイズ。彼らを、紹介してくれたまえ」
「あ、あの……、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のウルフウッドです」
「キミがルイズの使い魔か。まさか人とは思わなかったよ。あぁ、そうか。だからさっき僕があのモグラを魔法でどかそうとしたときルイズをかばってくれたんだね」
 わざとらしい笑みを浮かべる。しかし、ウルフウッドはあの魔法を撃った直後の彼の様子をしっかりと観察していた。
あれはモグラに襲われている婚約者を心配している顔ではなく、もっと別の部分で驚きつつも何かに納得している表情だった。
「僕の婚約者がお世話になっているよ。それと、さっきの僕の勘違いについても謝ろう」
「さよけ」
 ウルフウッドはどうでもよさそうに返事をした。どうもこの貴族という連中が平然とやる三文芝居じみた大げさな表現は好きになれない。
彼にとっては馬鹿馬鹿しくてくだらないことこの上ない。
「どうした? もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい? それとも、僕がルイズの婚約者だと知って嫉妬しているのかい? 
まぁ、それも仕方ないかな。ルイズはとても魅力的な女性だ。そう、とてもね」
 ワルドが放つ一見ただの屈託のない冗談の中にウルフウッドは別の何かを感じた。
彼はわざと自分がルイズの婚約者であることを繰り返している。なんのためか? その理由はわからない。
そもそも貴族の文化に疎いウルフウッドには「そういうものだ」と言われたら反論することは出来なかった。


「す、すごい速いねー。これは一体何というマジックアイテムなんだい?」
 サイドカーにちょこんと座ったギーシュがウルフウッドに問いかける。ギーシュはものめずらしそうに飛び去っていく景色を見ていた。
「バイクや。マジックアイテムでもなんでもない。ガソリンで動く機械や」
「き、機械?」
 ギーシュはその言葉に慌ててバイクの観察を始めた。彼の常識では機械というのはせいぜい風車小屋に備え付けれられた粉挽きぐらいのものだ。
「し、信じられないな。こんな機械がこの世に存在するとは」
「魔法の力に頼らへん世界でやったら、こういうもんが発達すんねん」
 ウルフウッドはそんなギーシュを横目に前方を飛ぶグリフォンの様子を窺う。
 ワルドが半ば強引にルイズをグリフォンに乗せ、残ったウルフウッドとギーシュはバイクに乗るという構成になっていた。
「けど、ウルフウッド、ありがとう」
 ぼつりと呟くようにギーシュが礼を言った。
「何がや?」
 ウルフウッドは前を向いたまま愛想なく聞き返した。
「ヴェルダンデをかばってくれたことさ」
「……別にかまへん。わざわざ礼を言われるほどのことでもない」
「ヴェルダンデもすっかり君になついていたしね」
 その言葉にウルフウッドはモフモフ言いながらまとわりついてきたモグラの姿を思い出して、ちょっと顔をしかめた。
「けど、ほんまにあのモグラ、ワイらに付いて来とるんか?」
「大丈夫さ。結構ああ見えてヴェルダンデが地中を進むのは速いんだぜ。僕の自慢の使い魔さ」
 得意そうに胸を張るギーシュを見て、ウルフウッドはこいつはそんなに悪い奴じゃないなと思った。
「ところでお前、あのワルドっちゅうのについてどう思う?」
「どうって?」
 ウルフウッドは言葉を選ぶように間を空けた。
「あいつのじょうちゃんに対する態度や。正直、オレには貴族の連中がどういう人間なんか分からんから、あいつの態度がそういうもんなんか測りかねる」
「というと?」
「……あいつは不必要に婚約者であることをアピールしすぎちゃうか思うねん。不自然なくらいにな」
「うーん」
 ギーシュは考え込む仕草を見せた。
「正直、愛情表現なんて人それぞれだから、不自然かどうかまではわからないけれども。
けど、はっきりわかっているのはルイズは超良家のお嬢様だということさ。ルイズと結婚するということはそれだけで十分に価値があるからね。
そういった家柄とか名誉とかが欲しくてたまらない貴族なら、そういうこともあるかもしれないね」
 ギーシュは一人納得するように頷いた。
「グリフォン隊の隊長ともなれば名誉も実力も十分なものさ。だとすれば、残るは後一つ。家柄というものに彼が執着してもおかしくはない、とは思うけど」

 ワルドの前で抱きしめられるような格好で、グリフォンに乗ったルイズはちらちらと後ろを走るウルフウッドたちのほうを見ていた。
「随分と使い魔くんたちが気になるようだね、ルイズ」
 ワルドの声にルイズは、はっとして顔を上げる。
「いえ、ワルド様そういうのじゃなくて、その……えっと、あいつらが珍しい乗り物に乗っているからそれが気になって」
「確かにそうだね。この僕のグリフォンに平然と付いてくるものがトリステインにあるなんて考えたこともなかったよ」
「そ、そうですわね」
 何かをごまかすようにルイズは笑った。
「ところで、ルイズ。キミの使い魔くんは一体どういう人なんだい?」
「どういうって?」
「少し興味が湧いただけさ。少し話しただけだけれどもなかなかに変わった人物のように思ったからね」
「ぐうたらでいい加減で無愛想な奴です。姫様が学院にいらしたときにも出迎えにも行かない無礼な奴で。それで、デリカシーもなくて、それで……」
 ルイズは精一杯ウルフウッドの悪口を並べ立てた。しかし、悪口を言えば言うほど、彼女の頭の中で思い起こされるのはフーケから彼が助けてくれたところ、魅惑の妖精亭で貴族たちを一瞬で叩きのめしたところばかりだった。
「本当に、あいつはわたしの言う事なんて聞かないし、わたしのことなんてどうでもいいみたいだし……」
「わかった、わかったよ、ルイズ。もう十分さ」
「え?」
「これ以上聞くと、僕の心が嫉妬の炎で燃え上がりそうだからね」
 ワルドはわざと悪戯っぽく笑った。ルイズはその笑顔を見て、ワルドから顔を背けてしまった。


 トリステインを出発して半日ほどたったころ、辺りは赤い岩肌になっていた。陽も少しずつ傾き始めている。
「いやー、しかしすごいものだね。このばいくというのは!」
「そうか?」
 サイドカーではしゃいでいるギーシュに気のない返事を返すウルフウッド。さすがの彼も半日も走り続ければさすがに少し疲れている様子だ。
「そりゃそうさ。馬だと二日はかかる道のりだからね」
「あんなちんたらしとるもんに乗れるかいな。ところで、そのラ・ロシェールいうのはもう近いんか? 
まだ距離があるようやったらもうすぐ陽が沈むから、どっかで休むことも考えたほうがええ」
「それなら大丈夫さ。ほら、あそこを見たまえ。大きな岩山が見えるだろう? ラ・ロシェールはあの頂上、このペースだと陽が沈む頃にはもう着いているはずさ」
「……なるほど。なら、もう道案内はいらんな」
「へ?」
 ギーシュの言葉にウルフウッドは目の前にある目的地を確認すると、一気にバイクのアクセルを吹かした。
「ま、まだスピードが上がるのかい? こ、このバイクというのは?」
 一気にスピードを増した風を真正面から受けて、船の帆のように頬を膨れ上がらせてギーシュは叫んだ。
 グリフォンを置いて、ウルフウッドたちは先へと進む。そして、山道を登り峡谷へと差し掛かったとき、彼らの目の前に松明が投げ入れられた。
「小僧、しゃがめ!」
 その瞬間ウルフウッドの鋭い声が暗くなった道を切り裂くように響いた。
「え?」
 事態の飲み込めないギーシュがマヌケな声を上げたとき、上空から何本もの矢が降り注いできた。
「ちぃ」
 ウルフウッドは背に立てかけてあったパニッシャーを片手で振り回すように持ち上げると、それを盾のように構えた。無機質な音を立てて、矢がパニッシャーに弾かれる。
「な、なんだぁ?」
 頭を抱えたまま事態が飲み込めず、震える声を上げるギーシュ。
「待ち伏せや。おそらくは野盗かなんかの類やろ。……無駄弾は使いたくなかったんやけどな」
 そうウルフウッドが吐き捨てるように呟いたとき、ワルドの駆るグリフォンが彼らの上空へとやって来た。
「大丈夫か?」
「こんなおもちゃにやられるか、ボケ」
「……その悪態がつけるようなら、大丈夫なようだね」
 ワルドはゆっくりと旋回しながら、あたりを睥睨すると、
「こんなところで足止めを食うわけには行かない。一掃させていただくとしようか」
 そうひとり言を行って、グリフォンを上空へ駆ろうとしたとき、一つの影が彼らのさらに上空を飛んだ。そして崖の上で竜巻が起こり、野盗たちが崖から落ちてきた。
「あれは竜? ちゅうことはまさか」
「風の魔法じゃないか」
 そして、一匹の見慣れた竜が姿を現した。



「コルベールセンセからの援軍?」
「そっ」
 あきれ返るような表情をしたウルフウッドの前でキュルケは何事もなかったかのように右手を返して短く肯定した。
「私もびっくりしたわよ。『彼らがアルビオンに向かうなら、空を飛べる彼女の使い魔がいてくれたら何かと助かるはずだ』ってね。まぁ、私は付き添いのおまけって奴?」
 と鼻から大きく息を吐きながら、キュルケは隣のタバサを見た。タバサは相変わらずぼーっとした表情で何か本を読んでいる。
「んで、ちょうどええタイミングで俺らが盗賊に襲われていたいうことか」
「そういうこと。こっちも朝から叩き起こされて、遠路はるばるラ・ロシェールくんだりまで来る羽目になったから、その腹いせも兼ねてちょっと派手に暴れてやったわ」
 ウルフウッドたちはあれから無事ラ・ロシェールにたどり着き、宿に来ていた。ウルフウッドにはうまく事情が読み込めなかったが、今日は船は出ないらしい。
 しかし、もし船が出たとしても、現在の疲労した状態でクーデター真っ只中の敵地に乗り込むわけにもいかなかったので、どちらにしても一晩ここで体勢を整えるつもりであったが。
 というわけで、宿の手続きをしにいったワルドとルイズを待つ間、こうしてウルフウッドはキュルケとタバサにここへ来たいきさつを尋ねているわけである。
「大体事情はわかったわ。けど、おじょうちゃんたちをそのアルビオンいうとこには連れて行くのには賛成できひんで?」
「私だって、好き好んでクーデター真っ最中の王都になんか行かないわよ。あんなところに特に何の用事もないわけだし。私とタバサはここでいざと言うときのために待機」
「そうしてくれるとありがたいわ」
 とウルフウッドが言ったところで、ワルドとルイズが戻ってきた。
「困ったことになったよ。アルビオンへの船はあさってまで出ないらしい」
「まったく姫様から授かった緊急の任務だっていうのに……」
 両手を挙げて首を振るワルドと不満げに鼻を膨らますルイズ。
 そのワルドの言葉を聞きながら、ならばこんなに急いで休みもなく来る必要はなかったのではないかと思うウルフウッド。
このワルドという男の性格からして、船が出ないというのを知らなかったというのはなかなかに信じがたい。
「どうしたんだい? 使い魔君?」
「別になんでもないわ」
 ウルフウッドの視線に気がついたワルドが声を掛けたが、ウルフウッドはそれを素っ気無くかわした。
「まぁ、いい。それで部屋割りなんだが、そこのお嬢さん方お二人。使い魔君とギーシュ君。僕とルイズがそれぞれ同室だ」
 その言葉にルイズが慌ててワルドへと振り向く。
「え、で、でも……」
「僕とキミは婚約者だ。別に構わないだろう? それに単純に男女で分けるといろいろと問題が多そうだからね」
 そう言ってワルドはキュルケに意味ありげな笑みを向ける。
「ええ。ゼロのルイズと同じ部屋で寝るなんてことになったら、私は野宿するほうを選びますわ」
 ワルドはキュルケの答えに簡単に鼻の先だけで笑うと
「まぁ、そういうことだ。さてと僕のか弱いルイズ、さぞかしこの長旅は疲れただろう? 今日は早く休もう」
 と言って、ルイズの肩に手を置き「お先に」と部屋へ向かって歩き始めた。ルイズも何か言いたそうな表情をしたが、うまく言葉が見つからなかったのか、エスコートされるままに歩いていった。
 その姿を見送るウルフウッドたち。
「てっきりもっと噛み付くかと思たわ」
「あら、どういう意味かしら、ウルフウッド?」
「あのワルドとかいうのなかなかのエリートらしいで」
 キュルケはその言葉を鼻で笑った。
「おあいにく様。いくら優秀でもあんな冷たい目をした男はこちらから願い下げよ。私は微熱のキュルケ。お相手も燃え上がるほどに情熱的な方でないとね」
 ウルフウッドはその答えにどこか満足そうに笑う。
「なるほどな。ところで、こいつ運ぶの手伝ってくれへん?」
 ウルフウッドの指差す先にはテーブルに倒れこむようにヨダレをたらして寝ているギーシュ。どうやら半日かけた長旅が堪えたらしく、宿に着くなり彼は爆睡していた。
「お断りするわ」
 キュルケはにこりと笑った。



 あくる日の朝、ウルフウッドはドアを叩く音で目を覚ました。
「朝のお祈りなら間に合うとるで」
 頭をかきながらドアの前に立ち、ぶっきらぼうに返事をするウルフウッド。ちなみにギーシュは相変わらず爆睡している。
「僕はモーニングサービスに来たんじゃないよ。そんなつれないことを言わないで開けてくれないか、使い魔君」
 ウルフウッドは「やれやれ」と小さな声で呟いた。
「朝っぱらから、何の用やねん。出発は明日ちゃうんか?」
「だから、さ」
「どういう意味や」
「僕たち貴族というのは厄介なものでね。強い相手を見ると、その相手が自分より強いかどうかはっきりさせたくなるのさ」
「……ワイは貴族でもなんでもないし、ましてやお前らみたいにわけのわからん魔法なんか使えへん」
「そんなつれないことを言わないでくれたまえ。伝説のガンダールヴ」
 その言葉にウルフウッドが反応したことを、ワルドはドア越しに感じ取った。
「何が言いたい?」
「ルイズから聞いたのさ、君が伝説の使い魔であることをね。そして、事実上君一人でフーケを捕まえたこともね」
 ウルフウッドは考えた。彼は自分からガンダールブの話をルイズにしたことはない。だから、ルイズがガンダールヴの話を知っているはずはない。
他に考えられる可能性としては、例のオスマンかコルベールが話した可能性だが、彼もあえて口外する意思はなさそうだった。
――なんかきな臭いことになっとるな。
「わかった。手合わせ、したるわ。準備するからちょっと待っとれ」


 ウルフウッドは宿の中庭にある練兵場に立っていた。
「なぁ、相棒」
「なんや」
「オレを使ってくれるのはうれしいんだけどよぉ……。なんで、いつも使っているあのごつい銃は持ってきてないの?」
「こんなところでおいそれと手の内晒すわけにはいかへんやろ。一応お前はそういうときのために持って来たんやから」
「……オレ、ぐれるよ」
「そんときは根性文字通り叩きなおしたるわ」
「何をそこでぶつぶつ言っているのかね?」
 ワルドが不思議そうにウルフウッド彼が片手に持ったデルフリンガーに声を掛けた。
「いい場所だろう? かつて貴族が貴族らしかった時代、名誉と、誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった。でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」
「おんどれ、ワイは貴族関係ないいうのが覚えられへんのか」
「そんな怖い顔をしないでくれたまえ、使い魔君。僕は貴族だから、貴族の作法しか知らないんだよ。そこらへんは容赦してくれたまえ」
 ウルフウッドは来るんじゃなかったかと思いながら、軽く頭を掻いた。
「そして、こういった決闘の礼儀作法としては介添え人を立てる必要がある。なに、心配しなくてもいい。もう介添え人ならよんであるさ。おいで、ルイズ」
 ワルドに呼ばれてルイズが物陰からゆっくりと姿を現した。
「ワルドが急に呼ぶから来てみたけど、あなた一体何をするつもりなの?」
 不安そうなルイズ。
「何、キミの優秀な使い魔くんと少し手合わせしてみたくてね」
 ルイズはワルドの言葉に不安そうにウルフウッドを見るが、
「じょうちゃん、おはようさん。朝っぱらからご苦労やな」
「って、なんであんたはそんなにいつも緊張感がないのよー!」
 普通に朝の挨拶をしたウルフウッドをルイズは怒鳴りつけた。
「というわけで、準備は整った。それじゃあ、始めようか」
「しゃあないな」
 ため息をつくとウルフウッドはデルフリンガーを構えた。
「ねぇ、相棒。一つだけ聞いていい?」
「なんや?」
「勝つ自信、ある?」
「……とりあえず勝つ気はない」
「久々の出番が敗戦処理はいやー!」

 馬鹿なやり取りをしている一人と一本に向かって巨大な空気の塊が飛んでくる。ウルフウッドはすばやく後ろに飛ぶと、それをなんとかかわした。衝撃と共にウルフウッドの目の前で土煙が舞い上がる。
「あぶねー! 俺に魔法が当たったらどうすんだ!」
「それ、剣の言うセリフちゃうやろ!」
「ほう、エアハンマーをかわすか。やはり反射神経は相当いいようだね」
 にやりと笑うワルド。そして、杖を構えて呪文を唱え始めた。真空の刃が三本、ウルフウッドに向かって飛ぶ。
「おいおいおい、来てるって相棒!」
「ちっ」
 そのうちの二本はなんとかかわせたが、最後の一本がウルフウッドの身体を捉えている。ウルフウッドは体勢を崩したまま、最後の一本にデルフリンガーをぶつけた。
「いてー!」
「お前、伝説の剣やったらもっとしゃきっとせんかい!」
「伝説の剣だからもっと大切に扱えってんだよぉ!」
 怒鳴りあいながら逃げ回るウルフウッドとデルフリンガー。当然ながらコンビネーションは最悪だ。
 しかし、ワルドは油断するそぶりすら見せない。
「悪いが、期待外れとは言わないよ。すばやい身のこなし、攻撃に対する読み、そして反射神経。どれをとってもなかなかのものだ。
こうして遠くから魔法で狙い打つだけでは埒が明かない。ということで、本気を出させてもらうよ」
 ワルドは杖を構えると、ウルフウッドに向かって杖をレイピアのように突き出して突進した。突き出された杖をデルフリンガーで弾くウルフウッド。
しかし、それにワルドは構うことなく、不敵に笑うと、フェンシングのようにすさまじい速さで突きを繰り出した。
「相棒押されてるぜ!」
 ウルフウッドもある程度は刃物の扱いは仕込まれている。しかし、それはあくまで護身術程度のものであり、この状況を打破できるほどの技術はなかった。
 小回りの効くワルドに至近距離でやり合っていても、このままだとやられるのは目に見えている。距離をとる必要を感じたウルフウッドは、後ろに飛んだ。
 その姿を見てワルドは唇の端を歪ませた。ウルフウッドは気が付く、後ろに飛んだのは失敗だったことを。
「エアハンマー!」
 体勢を崩したウルフウッドは襲ってくる空気の塊をよけきれない。存分に全身を叩きつけられて、三メートルほど吹っ飛ばされる。
「がっ、くっ!」
 ウルフウッドはそのまま背中を地面に打ちつけ、一メートルほど地面を横滑りした。


「……我々魔法衛士隊はその魔法の詠唱すら戦いに特化されている。こうして攻撃を繰り出しながら、魔法の詠唱を行うのは基本中の基本さ。勝負あったね。僕の勝ちだ」
 倒れるウルフウッドに杖を突きつけて、ワルドは得意げに言った。
「大丈夫、ウルフウッド?」
 慌ててウルフウッドに駆け寄ろうとしたルイズをワルドは右手で制した。
「これでわかっただろう、ルイズ。君を守ることが出来るのは誰か。残念ながら、彼にはそれだけの力はない」
「でも……」
「かまへん。ワイが負けたんは事実や、じょうちゃん」
 倒れたままウルフウッドは空を見上げて言った。
「さぁ、行こう、ルイズ。クーデター真っ只中のアルビオンは危険な場所だ。生き延びるだけの力のないものは置いていく。残酷なようだけれども、それが一番正しいんだよ、ルイズ」
 そのままワルドは半ば強引にルイズを連れて行ってしまった。
「……相棒、いいのかい? 相手にあんな好き放題言われて」
「かまへん言うとるやろ。あのアホ、随分とじょうちゃんのご機嫌取りに必死みたいやからな。邪魔したったら、悪いやろ」
「とは言ってもよ。何もわざとぼろ負けすることもないんじゃないの? しかもあの貴族の娘っ子の目の前で」
「……オレにはようわからんけど、あいつはそれなりに実績のある軍人みたいや。そんな奴がこんな作戦真っ只中に、強い奴と手合わせしたいという理由だけで、味方同士で潰しあうような真似をすると思うか? 
戦闘狂ならいざ知らずな。んなくだらん余興でこちらの手の内を晒す必要はあらへん」
「けど、それだと相手の思う壺だぜ」
「こっちになんのメリットもなかったわけやない。あいつもそれなりの代償ははらっとる」
「え?」
「言うたやろ? こっちの手の内は晒したくない、てな」
 ウルフウッドは上半身を起こした。ガードした両腕がまだ少ししびれている。一撃必殺ほどの破壊力はないが、それでもうかつに直撃を食うのはまずい威力だった。
それにあの戦法。あれはメイジが近接戦闘に不利であるということを、知り尽くした上でのものだった。単純に近距離にもっていけば勝てるというものでもない。
「随分ときな臭いことになっとるな。勘弁して欲しいで」
 そのまま風に浮かべるようにウルフウッドは呟いた。
「相棒の考えはよくわかった。けどね」
「なんや?」
「やっぱ俺の扱い敗戦処理ってひどくない?」
「……まだ言うか」
 それからウルフウッドが自分の部屋に戻ったのは、散々デルフリンガーの愚痴を一時間たっぷりと聞かされた後だった。


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