あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロな提督-29 a


  どっかーん!

 魔法学院では日常風景である大爆発。かつては、またゼロのルイズが魔法に失敗…と、
うんざりされていた。だが今は『虚無』の担い手による伝説の魔法と認識されている。
 ただし、傍迷惑なのは今も昔も変わらない。そして今回は、とびっきりの迷惑だった。
外交問題級の。

「お、お待ち下さい!落ち着いて下さい!一体、一体何をそんなに激昂されるのですか!?」
 制服姿のルイズからジリジリと後ずさってくるのは、神官だったらしい。
 だったらしいというのは、かつては神々しい白の神官服だったものが、今は見る影もな
く黒こげになってボロボロになったからだ。頭の球帽は吹っ飛んで、禿頭が無惨に晒され
ている。
「もう一度…言ってみなさいよ…」
 杖を手にしたルイズが、目をつり上げて神官へにじるよる。こめかみには血管がくっき
りと浮き出ている。
 その怒りを真正面から受けた神官は、無様に尻餅をついてしまった。
「も、もう一度、とは…何を、ですか?」
 仁王立ちになったルイズはビシィッと杖を突きつける。
「あたしが、何ですってえ!?」
 詰問された神官は、自分が先ほど口にした言葉の何がまずかったのか、考えてみた。真
剣に、細部まで慎重に考えた。しかし、やっぱり何がまずかったのか分からなかった。
「あの、ですから、『虚無』の担い手たる貴女を、聖なる巫女として、教皇聖下がロマリア
へ」
「誰が…誰が、聖なる巫女よぉーっ!!」
  どかかかかーんっっ!!
 哀れな神官は、連続爆発に吹っ飛ばされた。
「覚えておきなさい…私は、ブリミルが、大ッ嫌いなのよ!」
 そんな背教徒の言葉は、気絶した神官へは届いたかどうか分からない。

  こらーっ!ルイズぅー!

 本塔から、デルフリンガーを背負う黒服のヤンが大慌てで駆けてきて、アウストリの広
場ど真ん中で痙攣している神官を助け起こした。他の生徒や教員も大慌てで駆け寄り、治
療のため水の塔へ運んでいった。
 ヤンは腰に手を当ててルイズの前に立つ。小さな主は、ぷぃっとそっぽを向いた。
「ルイズ、なんて事するんだよ…ロマリアや教会がどうこう以前に、この人は全然悪くな
いじゃないか」
「ふんっだ!だーれがロマリアに行くもんですか!私はね、あの祈祷書を見るだけで、腹
の底から煮えくりかえるのよ!」
「おでれ~たなぁ…虚無を受け継ぐ奴がブリミル嫌いだなんてなぁ。ま、しゃーねぇけど
な。ロマリア行ったって異端審問とか言って殺されるのは目に見えてるしよ」
 デルフリンガーもほとほと呆れてる。遠目に囲む教員も生徒も、うんざりとしていた。



     第29話    説得



 ニイドの月、ティワズの週、虚無の曜日。
 ゲルマニアへの禅譲交渉から、既に三ヶ月。夏休みも最後の週。トリステイン魔法学院
も、もうすぐ新学期に入る。新学期の準備に忙しい学院では、今日もコレ。困ったものだ
と皆が頭を抱える。


 元々ニューイの月は、トリステインでは今さら口にするのも憚られるが、アンリエッタ
姫とアルブレヒト三世の結婚式予定で魔法学院は休校の予定だった。それが姫のアルビオ
ン亡命・突然の禅譲宣言・アルビオン艦隊襲来…もはや学校どころではない大混乱。
 結局そのまま、なし崩しに夏休みへ突入。ニューイ、アンスール、ニイドの月と経て、
ようやく国内も外交も安定を見せ、学院も新学期と共に再開の運びとなった。



 ―――結婚式で浮かれ気分のヴィンドボナに、いきなり現れた女王マリアンヌとヴァリ
エール公爵一行。彼等から告げられるアンリエッタの逃亡報告と謝罪。そしてトリステイ
ン貴族の総意を示す血判状が裏になされた五枚の巨大タペストリーを前に、いきなりの禅
譲の申し入れ。
 無論、ルイズという切り札のカードは伏せたままだ。何故こんなに早く全貴族の意思統
一が為されたのか、という点は重要ではないし、要はトリステイン貴族の総意として禅譲
を受け入れる事が明らかであればいいということもある。

 アルブレヒト三世と配下の人々は、怒るとか喜ぶとかいうレベルを超えていた。一体何
がどうなったら、そんな話になるのかと、マリアンヌと公爵へ大臣諸侯共々何度も何度も
聞き返していた。
 どうにか話を聞き終えて得心したゲルマニアの人々なのだが、この申し出を果たしてど
うしたものかと困り果て…というような暇もなく、今度はクルデンホルフ大公国から特使
一行が飛んできた。その特使は、何故か皇帝の前にいる女王と公爵に目を白黒させて絶句
した。
 で、ヤンや公爵夫妻が予想したとおり特使は大公からの事件報告書を携えていた。加え
てゲルマニア帰属及びトリステイン討伐軍参加申請書も。本来なら、この報告書を見て激
怒しなければいけなかったのだが、彼等にそんな気迫はもはや抜けていた。特使にしても
寝耳に水。討伐すべき本人が先に来て頭を下げて、自分たちと同じくゲルマニア帰属を申
し出ているのだから。
 ゲルマニア政府の高官達は、完全に毒気も怒気も抜かれてしまった。

 あまりに唐突な話に対応出来ぬ、しばし待たれよ…という訳で女王一行は貴賓室に案内
され、アルブレヒト三世以下大臣将軍達は額を付き合わせた。何か裏があるのでは、何か
の策略か…と会議をしていたら、今度はラ・ロシェールからゲルマニア・トリステイン両
艦隊からの緊急報告。アルビオン艦隊を枢機卿の策により、見事撃退したというのだ。捕
虜も数千人にのぼるという。実際にはヤンの策だが、枢機卿の名で指令書は記されていた
から。
 この報告にゲルマニアの人々だけでなく女王も公爵も勇気づけられ、かつ交渉のアドバ
ンテージを得た。驚天動地な情報が連続で降りかかるヴィンドボナは混乱、この事実を女
王達に秘匿する事が出来なかったのだ。おかげで交渉は、すっかり女王と公爵のペースで
進められた。
 数日経って、本当にトリステインでは貴族の総意が得られている事、加えて公爵の三女
が虚無の使い手として名乗りを上げたという事実も伝わってくる。虚無の再臨についてゲ
ルマニアの人々は公爵に問いただすが「禅譲の件には関係ない。それと、確たる答えを聞
く事は閣下の不利益となろう」と、言を左右にして答えなかった。


 さて、困ったのはゲルマニアの人々。
 姫が婚儀の最中に昔の男を慕って逃げた、アルビオンへ亡命した。これは確かにトリス
テインの大失態であり、アルブレヒト三世個人への最大の侮辱。のみならずゲルマニアへ
の国辱。
 が、トリステインは真摯に謝罪し、禅譲すら申し出た。疾風のごとき早さで国内の意思
統一も済ませ、血判状まで持ってきた。もはや怒るどころか、手際の良さと潔さに賞賛の
声すら上がる。謝罪として申し分ないものであり、アルブレヒト三世の名誉も十分守られ
た。
 かくてトリステインに対して和解の意思が示された。争う以前に和解するという、珍妙
な決定だった。


 トリステインと和解するのはいいのだが、彼等が一番困ったのは、本当に禅譲された場
合の事である。
 血判状が示すのは、トリステインが盤石の一枚岩という事実。これがゲルマニア領内に
加えられると、明らかに既存の都市国家群を遙かに上回る国内最大勢力となる。つまり、
ゲルマニア領内のパワーバランスが崩れる。バランスを取るため有力貴族の処刑、人質と
してマリアンヌ幽閉、『虚無』の担い手たるルイズの引き渡し要求等をすると、今度はトリ
ステインが団結してゲルマニアに逆襲する事態を引き起こしかねない。ゲルマニアがトリ
ステインを吸収したはずが、逆にゲルマニアの方がトリステインに乗っ取られる懸念が生
じてくる。
 何より扱いに困るのは、ルイズである。真偽は未だ不明ながら、本当に虚無の系統だと
したら、アルブレヒト三世にとって極めてまずいのだ。どう考えても、虚無の担い手の方
がカリスマが上だからだ。配下に加えようが、政略結婚しようが、ルイズが生きている限
り始祖ブリミルの威光を前に自分の存在は霞む。と言って排除しようとしたら、逆に自分
が消されかねない。いや、むしろルイズを担ぎ上げて自分を追い落とそうとする連中も現
れるだろう。
 ついでに言うと、ルイズの容姿についての報告を受けた皇帝は一言呟いて頭を抱えた。
「…無理」の一言を。権勢欲の権化がごとき皇帝ではあったが、幸か不幸かルイズは趣味
から外れていた。
 結局、公爵が暗に示したとおりルイズの件は棚上げ。皇帝は「卿等の心からの謝罪、既
に十分に予と臣民へ受け入れられた。ゆえに禅譲の必要はない。この上は過去の過ちに拘
泥することなく、共に新たなる時代を築こうぞ」と、跪き杖を差し出すマリアンヌへ手を
差し伸べた。もちろん皇帝の寛容さと、王家にも引けを取らぬ権威を世に知らしめるため
でもある。
 こうして、トリステインは独立を維持し続ける事も認められた。

 かといって禅譲を申し出るまで譲歩したトリステインに全く無欲でいられる程、慎み深
く商才に乏しい人でもない。婚約破棄の責任も問わざるを得ない。対アルビオンへの共同
戦線は早急に必要。

 マザリーニには全財産没収と宰相の地位剥奪、城からの追放。枢機卿の地位は教会内の
ものなので、世俗の支配者たるゲルマニア王の権限は及ばず、教会も彼の地位には何も言
及しなかった。皇帝が彼を処刑しないのは、教会への配慮と今後の利用価値ゆえ、と目さ
れている。
 マリアンヌ個人の責は不問。損害賠償としての献上品と共に、定期的なヴィンドボナへ
の来朝が決められた。
 領土は、クルデンホルフ大公国が正式にゲルマニアへ帰属。これ以上の領土割譲を得る
と、ゲルマニア国内でのトリステイン勢力が拡大しすぎ、旧来の都市国家群や商会が圧迫
される。既得権益を守りたい人々は「過ぎた欲は身を滅ぼす」と皇帝へ進言、これ以上の
領土要求はなかった。
 軍事は、予定されていた軍事同盟より更に強固な連携体勢が構築された。有事の際にト
リステイン軍はゲルマニア軍指揮下に入る、定期的なトリステイン領内での軍事演習、ト
リスタニア近郊のゲルマニア軍駐屯、等である。もともとこの点が両国の主題なので、ゲ
ルマニアは軍事に関しては様々な要求をしてきた。女王と公爵は、これはやむなしとして
受諾した。
 その他、両国間の関税の撤廃や減免措置、人材交流等、色々な細かい議題はある。それ
らに関しては後日、正式な交渉の場でゆっくり決めよう、ということになった。

 これらの交渉が、本来結婚式に当てられるはずの期間を利用して一気に行われた。まさ
に急転直下。両国の落としどころとしては、トリステイン・ゲルマニアにクルデンホルフ
大公国や都市国家群を全てまとめ、緩やかな連邦制へ再構築になるか…と巷で囁かれてい
る。
 三ヶ月後の現在も新体制構築に向け、交渉と構想が火花を散らしている事だろう―――




 話は戻ってトリステイン魔法学院。
 程なく、哀れな犠牲者となった神官は意識を取り戻した。
「デュレス司教、気付かれましたか!?」
 と言ってベッド横で汗を拭きながら神官の身を案じているのは、オスマンだった。その
後ろでは、治療にあたっていたであろう水系メイジの生徒教師も不安げな顔で覗き込んで
いる。
 そんな彼等の顔を更に深刻な顔に変える言葉を、デュレス司教と呼ばれた神官は開口一
番口にした。
「し、司教たる私への殺意!始祖ブリミルへの呪詛!かのヴァリエール家の三女は疑う余
地無き邪教徒ですな!
 この件、教皇へ報告させて頂きます!いえ、私の権限で今すぐ異端しん・・・」
 鼻息荒く異端審問を執り行うと叫ぼうとした司教だったが、途中で言葉が途切れた。窓
の外から、聞いた事のない甲高い音が響いてきたからだ。かつ、窓の外に異端審問の被告
人たるルイズがいたからだ。

 窓の外ではルイズがデュレス司教へ向けて小さな舌を突き出している。
 彼女の前では、やれやれと肩をすくめるヤンが操縦席に座っている。
 甲高い音は彼女が乗る、白銀に輝くものから発している。
 二人は、ちょっと土や草がついて汚れてはいるが、いまだ白銀に輝く細長い船らしき物
に乗っている。水の塔横に滞空しつつ、窓から司教へキャノピー越しの姿をのぞかせてい
た。

「んじゃ、とりあえず家に帰るとしましょうか!」
 後席からルイズの元気な、かつ詫びれない声が響いてくる。
「ふぁーい。…あぁ~あ、公爵に説明するのが大変だよ」
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと行きなさい」
 召喚ゲート専用複座式特殊小型艇『ドラート(Draht、針金・ワイヤーの意味)』の前席
に座るヤンが操縦桿とスロットルを操作し、『ドラート』を上昇させる。そして学院上空を
旋回した後、一気に飛び去っていった。

「…逃げてしまいましたな」
 オスマンが空の彼方を眺めながら、ぼそっと呟いた。
 対する司教は呆気に取られ、口をパクパクさせてから、ようやく言葉を発した。
「な、何ですかあれは…帆も何もないのに、風竜より早く飛んでいく船なんて…」
 その言葉を聞いた学院の人々は、苦笑いを向け合ってしまう。
「あれがヤンの国の船なのです。当学院へ来られる時、草原に並んでいるのを見ませんで
したかな?」
 そう言ってオスマンは窓の外を指さす。
「み、見ました、が…何かは分かりませんでした。まさか、あれが船だったとは…」
 デュレスも窓の外の草原を見る。

 オスマンの示す先、学院外側の草原には、同じ形の機体がズラリと並んでいる。
 ただ、それらには『ドラート』の様な操縦席がない。操縦席があるべき場所には、代わ
りにコンテナが収められていた。草原の中に並ぶ全てがコンテナ運搬用小型艇だった。




「・・・というワケで、これから家に帰るわけなのよ」
 後席で事情を話し終えると、狭いコクピットにキュルケの甘ったるい声が響いた。
  《全く、無茶するわねぇ。こっちもヴァリエール家に向かってもらうわね》
「あら、そろそろ学院に戻らなくて良いの?」
  《まだ一週間あるわ。それより例の調印式の準備で忙しいの。ヴァリエール領とツェ
  ルプストー領とをつなぐ街道の補修と拡張も終わってないし、領内の商会やら組合や
  らが、そっちの公爵との面会を求めて…とまぁ、そんなわけで私もまだまだ色々やら
  なきゃいけないの》


 そんな話を二人が通信機越しにしていると、彼方の丘の上に城が見えてきた。
 丘の上に立つ屋敷は、城という言葉の方が相応しい。トリステインの宮殿にも負けない
ほどの大きさにも見える。高い城壁と深い堀に守られた敷地内には、いくつもの尖塔が起
立し、白銀の小型艇が数機並んでいる。この小型艇も操縦席のない、コンテナ輸送用の物
だった。
 そして空の向こうからは、ヤンとルイズが乗る『ドラート』の同型機が飛んでくるのも
見える。

 速度を落としてすれ違う『ドラート』のキャノピーが透明になる。中には前席で操縦す
るフレデリカと後席で手を振るキュルケが見えた。


 屋敷の横に着陸した二機からヤンとルイズとフレデリカと、大きくて形の良いヒップを
シートから引っ張り出してキュルケが降り立った。
 褐色赤毛は乗ってきた機体をペシペシ叩きながら目を輝かせる。
「いや~、やっぱり速いわねぇ。乗り心地も、狭いという以外は最高だし。我が家にも一
機欲しいわ」
 その言葉にフレデリカは微笑みながらも申し訳なさそうに答えた。
「そういう訳には行きません。機体は手配出来ますけど、操縦出来るのは私と夫だけなん
ですから」
「そこをなんとか!扱い方さえ教えてくれれば、あとは自分で操縦するから。お願いしま
すわ!」
 手を合わせ、頭を下げてお願いしてくるキュルケに、フレデリカは困った顔だ。
「そうは言われても…。操縦方法はともかく、モニターに表示される言語が読めないので
は無理です」
「うぅ~、それじゃ、誰かお国から人を派遣して頂けないかしら?この『ドラート』専門
の御者として雇いますわよ」
「それこそ無理です。今のところ、故国から私以外の新たな人員派遣は不可能な状況です
から」
 キュルケは肩を落とし、あうぅ~と呻いた。

 そんな女性二人へ向けて、こらー!早く来なさいよー。ちい姉さま待たせるんじゃない
わよ!というルイズの声が飛んでくる。屋敷の入り口を見ると、門前に立つルイズとヤン
を出迎える使用人達の間に、二人へ向けて笑顔で手を振るカトレアとシエスタの姿があっ
た。
「ま、とにかく中で話しましょうか」
 キュルケは気を取り直してルイズ達の方へ足を向けた。フレデリカもニッコリ笑って後
に続いた。



 ―――現在の所、フレデリカ以外に人員派遣はなされていない。送られたのは全て無人
機だ。皇帝は護衛を送る予定だったが、ある事実を報告され中止せざるを得なくなった。
イゼルローン側も渋々納得した。ついでにビッテンフェルト上級大将も。
 その事実とは『フレデリカがハルケギニア語を話した』という事である。


 彼女は、ゲートを通過した瞬間にハルケゲニア語が話せるようになった。だからハルケ
ギニアの人々と問題なく会話出来ている。もちろんゲートを通過していない人々はハルケ
ギニア語が話せないので、通信機で帝国・同盟にいる人々と会話するには通訳が必要とな
る。
 この事実に気付いたステーションの人々は「うわぁ便利だなぁ、さすがファンタジー、
魔法って凄いなぁ」なんて子供番組を見る幼児のような反応はしなかった。驚愕し、戦慄
したのだ。
 言語を話すというのは、耳で聞いた言葉を理解し、文章を作って発語するという事であ
る。それは大脳の一部、弓状束という神経線維で接続された二つの部分、ブローカ野及び
ウェルニッケ野という場所で処理される機能。ブローカ野では運動性言語野、つまり『話
す』機能を司る。ウェルニッケ野では音声言語の理解、つまり『聞く』という機能を司っ
ている。
 新しい音声言語を学ぶというのは、この二つの部位に新たな神経回路を作るという事。
この場合、それがゲートを通過した瞬間に、ハルケギニア語を流暢に話せるほど完璧に行
われた事になる。

 つまり、ゲートには脳の神経回路をも操作する力がある。しかも一瞬で完璧に。
 では操作されるのは、本当に言語野だけなのか?
 もし記憶や人格に関わる部分に書き換えが行われていたら…。

 召喚ゲートは本来『使い魔』という名の奴隷を得るための物。ゆえに主への反逆を防止
する機能があって然るべき。そうでなければメイジ達が様々な生物を、本来は決して従順
でも大人しくもないサラマンダーのような幻獣達までも使い魔として従わせている事実を
説明出来ない。
 いやそもそも、人間の命令なんか理解できる知能のない小さなカエルを使い魔にして使
役しているメイジがいる時点で明白なのだ。脳改造どころではない、もっと強力で底知れ
ない何かが介在しているのは。『召喚』『契約』についてはヤンから説明されたが、だから
といって『召喚ゲートを通るだけなら安全』だなどとは言えない。

 結果、ラインハルトは『生物のゲート通過禁止』を打ち出し、イゼルローン側も同意し
た。少なくともヤンとフレデリカの医学的データから、ゲート通過による生物への中長期
的影響を確認し、有害な効果は存在しないと判断出来るまで、召喚ゲートの使用は原則禁
止となった。
 ヤンからの情報で、現在はヤンの身の安全は確保されている事が判明し、護衛としては
フレデリカ一人で十分とも結論づけられた。ちなみにフレデリカはヤンと違い、白兵戦・
射撃は身につけている。
 また「戦力をハルケギニアへ過剰に送る事は、現地の貴重な文化風俗歴史を破壊する」
と強く進言、というより必死に懇願する『芸術家提督』メックリンガー上級大将の意見も
採用された。

 こうして、今のところハルケギニアへ送られた人員はフレデリカのみ。武器弾薬も複座
式小型艇『ドラート』二機と、ライフル・拳銃とスペアのエネルギーパックなど小火器類
だけだ。中央広場やタルブでの戦闘から、これだけあれば護身用として十分すぎると判断
された。
 他のコンテナに入れられていたのは武器以外のもの。二人の脳操作の影響を調べ健康管
理するための医療用機器、ハルケギニアの映像・生物データを採取・保存・送信するため
の撮影・通信・実験用機材。その他日用品とか、衣服とか、機材を運用するためのメンテ
ナンス機器に燃料など。
 ちなみに夜になると、学院横に置いている機材や小型艇を勝手に持ち去って研究しよう
とする謎の人影があったとかなかったとか。そしてその人のためにタルブから、砲撃やエ
クスプロージョンで破壊された強襲降下艇や試作型『ドラート』を、わざわざ運んできた
とか―――




 そして屋敷の一室では、カトレアが立派な天蓋付きベッドに寝ていた。ただ天蓋以外に
も、各種機械類が取り付けられている。そこは簡易ながら医務室として機能していた。
 彼女の手、腕、こめかみ等にはセンサーが貼り付けてある。そしてセンサーから採取さ
れた生体データは、ベッド横の床頭台に置かれた端末に表示されている。それをフレデリ
カが真剣な眼でみつめていた。
「ヤマムラ軍医、どうでしょうか?」
 端末のモニターに現れたのは、白衣を着た壮年の男。彼は手元に表示されるデータを鋭
い目で睨みながら答えた。

  《症状は安定しています。ですが、やはり対処療法だけでは根治できません。これま
  で送信してもらったデータからは遺伝性疾患が疑われるんですが、なにしろハルケギ
  ニア人のDNAデータが乏しく、プロテインデータバンクに無い蛋白もあって…。未
  知のタンパク質は結晶構造解析から始めないと。立体構造が分からないと活性部位も
  分からないのです。なので、SBDD (Structure Based Drug Design、タンパク質構造解
  析に基づく新薬開発)等について、もうしばらく時間が欲しい、というのが医療班の
  要望です》

 ヤマムラ軍医少佐の同盟公用語はハルケギニア語に自動翻訳されていたが、ヤンの横の
ルイズとキュルケとシエスタ、背中のデルフリンガーは、内容自体が分からず光の速さで
置いてかれた。
 ヤンは軍医の生化学講義に分かりやすい結論を求める事にした。
「えっと、すいません。つまり今のところは研究中ということですね?これまで通り、安
全性の確かめられた点滴と、ハルケギニアの薬とかで症状を抑える、と」
 聞かれた軍医は一瞬キョトンとして、慌てて咳払い。
  《そ、そうです。つまりそう言う事です。失礼しました》
 ちょっと恥ずかしげに頬を染める軍医に、カトレアはニッコリと微笑んだ。
「イツモ、アリガトウ。マタ、ヨロシク、オネガイシマス」
 たどたどしい同盟公用語でのお礼の言葉と、春のように暖かく包み込むような笑顔。旧
同盟領出身の軍医は、ますます顔を赤くしてしまった。




 ルイズが神官を吹っ飛ばしたのと同じニイドの月、ティワズの週、ユルの曜日。
 アルビオン首都ロンディニウム。ハヴィランド宮殿。
 十六本の円柱が天井を支える、白一色の荘厳な空間であるホワイトホール。ホール中心
にある巨大な一枚岩盤の円卓は、普段は神聖アルビオン共和国の閣僚や将軍達が集まり、
様々な会議を行っている。

「聖地奪還。確かに我等は聖下とは、始祖の悲願たる目的を共有しています」
 上座に座る若者へ向け、豪奢なマントと王冠を身につけた男は静かに語りかける。

 だが今は、広いホールに5人しかいない。
 一人は神聖アルビオン共和国初代皇帝オリヴァー・クロムウェル。皇帝であるはずの彼
は、上座に座る人物に恭しく頭を垂れている。普段の高揚したような話し方も控え、落ち
着いた口調だ。
 その皇帝に敬意を払われている、もう一人の人物。濃い紫色の神官服に、高い円筒状の
帽子は、彼がハルケギニア中の神官と寺院の最高権威…つまり、ロマリアの教皇である事
を示している。


 教皇は若く、纏った神官服のカケラほどにも偉ぶった所は見えない。目元は優しく、鼻
筋は彫刻のように整っている。形の良い口には常に微笑みがたたえられていた。そして、
誰もが振り返るほどに美しい。元が一介の司教に過ぎなかい皇帝としては、また形式上ハ
ルケギニアの各王より地位が高い教皇へは、敬意を払わないわけにはいかない。
 二人の下座に控えるのは二人の男女、ウェールズとアンリエッタ。二人とも教皇と皇帝
の会見に際して口は開かず、僅かに顔を伏せ二人の話に聞き入っている。アンリエッタは
両腕に、肩まで届くほど長く白い、結婚式用のオーガンジーグローブのような手袋をはめ
ていた。右手の義手を隠すために。
 そして最後の一人、皇帝の秘書であるシェフィールドが皇帝の背後の壁に控えていた。
ローブで顔半分まですっぽり隠したまま、黙って控えている。

 細い金糸のような神をさらさらと揺らして、ロマリア教皇は笑った。
「ヴィットーリオとお呼び下さい。私は堅苦しいばかりの行事を好みません。それが元で
本国の神官達には、いつも叱られておりますがね」
「恐れ多う御座います。三年前、聖下の即位式にも出席の叶わなかった片田舎の一司教で
あった身としては、聖下の御名を軽々しく口にする事など」
 皇帝は教皇へ深く頭を下げる。

 ヴィットーリオ・セレヴァレこと聖エイジス三十二世の即位式は三年ほど前。ハルケギ
ニアの各王は揃って参列する慣わしだったが、この時クロムウェルはアルビオンの地方管
区に務める一司教。もちろん参列できる身分ではなかった。

 クロムウェルは感嘆を禁じ得ない。
 『始祖の盾』と呼ばれた聖者の名を受け継ぐ、三十二代目教皇が二十歳を僅かに過ぎた
ばかりの若者である事、とんでもない美青年であることは司教として知っていた。だが、
これ程とは思わなかった。
 そもそも教皇が御召艦『聖マルコー』号にてアルビオンへ行幸する。その時点から全く
の異例な事態だ。
 始祖より授けられた王権を打ち倒して即位した皇帝は、始祖の権威へ唾吐く者と断罪さ
れても不思議はない。それに、元々はアルビオンの一司教に過ぎない身分。王家の者では
ない。皇帝がロマリアへ呼びつけられる事はあっても、逆に教皇がアルビオンへ足を運ぶ
など、本来は有り得ない。第一、教皇御自ら、わざわざ他国へ赴くという事自体が滅多に
ない。
 故に皇帝は、自己の地位が教皇に承認されたという既成事実に喜ぶと共に『クロムウェ
ルの皇帝即位承認』を取引材料とするほどに事態が切迫している事も思い至る。

「恐れながら、聖下にお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「なんなりと」
「此度の突然の御行幸の理由に御座います」
 聖エイジス三十二世は、深いため息をつく。
「クロムウェル殿は、近々行われるであろうトリステインとゲルマニアの共同宣言、連邦
制への移行について、どう思われますか?」
 その問に、皇帝は迂闊にも、露骨に渋い顔をしてしまった。下座で黙って聞いているア
ンリエッタも顔を伏せてしまう。

 巷で噂の、ゲルマニア=トリステイン連邦国家建国。
 この報は各国高官の間でも噂され…というよりトリスタニアで行われる建国記念式典、
その調印式への招待状がロマリアに届いているのだから、もう公の事実。正式な宣言を待
つばかりの段階だ。
 そして、この招待状…ロマリア・ガリアのみならず、アルビオン皇帝クロムウェルにま
で届いていた。いまだ正式な国交すら無い状態にもかかわらず。




 ―――かのアンリエッタ亡命事件以後、アルビオンも様々な変動があった。
 確かにアンリエッタを手にした事は、極めて大きな政治的勝利である。だが同時にラ・
ロシェールへ奇襲をかけたアルビオン艦隊は敗北。捕虜数千人のために支払わされた身代
金も相当なものだ。
 軍事的敗北、国庫への負担、そして増税から目を逸らすため、かつてヤンが脳内で語っ
たお伽話的美談を大きく宣伝した。マザリーニ・アルブレヒト三世・ヴァリエール公爵を
悪役に仕立て上げる事で、とりあえず国民に対する権威失墜、皇帝への批判はかわし続け
ている。
 とはいえゲルマニアとトリステインの共倒れ、最低でも軍事同盟破棄は確実…だったの
に、軍事のみ為らず政治・経済面に至るまで強固な関係を築き上げるという、真逆の結果
が生じてしまった。さすがにこんな、予想外にも程がある結果まで皇帝の責任を問う声は
小さい。だが、地上侵攻とハルケギニア統一が極めて困難になったのは間違いない事であ
る。
 いまだ公式発表はないが、トリステインに『虚無』の系統が降臨したという噂も広まっ
ている。「地に平和を!」という神託を下し、レコン・キスタの聖地回復運動に対抗してい
るというのだ。これでは他国の敬虔なブリミル教徒をレコン・キスタへ取り込むにも支障
が出る。
 ワルドからの情報もあって(彼はアルビオンで領地と爵位を得て、確かな地位を築きつ
つある)『虚無』の担い手ルイズ、その使い魔ヤンの事を皇帝は知っている。ゆえに、皇帝
は地上侵攻を躊躇わざるを得ない。政治的にはともかく、軍事的に勝てる見込みがほとん
ど無いからだ。

 そう、皇帝は知っている。
 ヤンがレコン・キスタの目論見を尽く見破り裏をかく智将であると。
 今や両国は一つとなり、アルビオンと並ぶ大国にならんとしていると。
 皇帝への式典招待状はクロムウェルを謀殺する罠などでなく『レコン・キスタなど、も
はや歯牙にもかけていない』という意味だと。

 そして何より、教皇と皇帝にとって不都合な噂がトリステインを中心に広まり始めてい
るということを―――



「全くもって、奴等の行為は赦しがたい事です。聖地奪還運動に対して堂々と異を唱える
とは。
 しかも、その理由が信じがたい!『聖地は既に無い。始祖の魔力が暴走し、千年前に消
失した。千年前から現在まで、エルフ達が暴走する虚無の力から世界を守り続けた』など
と!
 かつて聖職にあった身としては、不信心までは赦せます。ですが始祖に弓引くがごとき
虚言は赦せません!しかも言うに事欠いて、あの暴虐なる悪鬼、エルフが世界を守ったな
ど、世迷い言にも程がありましょう!」
 聖職にあったくせに信仰心の欠片もない皇帝だったが、この時に示した怒気には多分に
演技以上のものが含まれていた。それほどまでに皇帝にとって、件の『理由』は非常識か
つ自己の政治的宗教的立場に真っ向から対立するものだったから。

 教皇も皇帝の言葉に強く頷いた。
「まったくもって、その通りです。しかも最も赦しがたいのは、この暴言を吐いたのが、
始祖の後継者を僭称するルイズという娘本人という事です。かの魔女は誰憚ることなく、
公言しているそうですよ。『私はブリミルが大嫌い』と」
「狂人の戯言です。聖下が御心を痛めるに及びますまい」
「その通り、完全に狂人の戯れ言です。始祖の系統『虚無』を受け継ぎ、始祖の後継者を
名乗りながら、始祖を嫌い始祖の悲願を否定するなど。明らかな自己矛盾に陥っているの
です。
 ところが、どういうわけか、その戯れ言が徐々に広まっているのですよ。トリステイン
を中心に」
「信仰が地に堕ちた…という類の話ではありませんな。異教、いや邪教が広まっていると
しか思えません。かの連邦設立という話の裏に、始祖の慈愛が満ちるハルケギニアを闇に
堕とそうとする、ルイズとかいう聖女を騙る魔女の悪しき意図が隠されているのは、間違
いありますまい」


 教皇と皇帝はルイズを狂人・魔女と呼ぶ。その度にアンリエッタは青ざめ、失った右腕
の傷口辺りを押さえ、小刻みに震え出す。ウェールズはアンリエッタの肩に手を置いて抱
き寄せ、静かに慰める。
「どうか、されたのですか?」
 教皇の問に答えたのはウェールズだった。
「私の婚約者は、かのルイズの使い魔である平民に、右腕を奪われたのです」
 その言葉にアンリエッタは鞭に打たれたかの如く、ビクンと大きく震えた。伏せた顔を
ウェールズの胸に埋め、頬を涙で濡らす。ウェールズはアンリエッタの背を優しくなで続
けた。

 そんな二人の姿に、ヴィットーリオは顔を曇らせた。
「これは、配慮が至らず申し訳ありませんでした。どうか今は静かに休まれるがよろしい
でしょう」
 その言葉を受けて、ウェールズは教皇へ一礼し、アンリエッタを庇いながら退室した。
後に残るのは教皇と皇帝と秘書のみ。
 教皇は秘書の方をチラリと見やり、皇帝に向き直った。
「失礼。ここからはクロムウェル殿と二人きりで話をしたいのですが」
 その申し出に、皇帝は目を見開き、汗をかきながら秘書と皇帝の間でチラチラと視線を
往復させる。シェフィールドは一礼して、同じく部屋から退室した。


 ホワイトホールに残るのは、すぐに穏やかな微笑みを取り戻した教皇と、なにやら落ち
着きのない皇帝の二人。
「さて、クロムウェル殿…折り入って伺いたい事があります」
「な、何でしょうか?」
「あなたの系統です」
 何の前ふりもなく、何と言う事もないかのように、当たり前に尋ねられた皇帝。
 だが彼の動揺ぶりは、全然当たり前のようには見えなかった。一瞬で顔一面に汗が流れ
落ちる。視線が宙を彷徨う。

 それでも大きく息を吸い、やはり大きく息を吐き出して、たどたどしく答えた。
「や、はり・・・ご存じ、なのですね」
「ええ。あなたは『虚無』の系統などではありません。というより、魔法を使えぬ平民の
出でしたね」
 やはり平然と答える若き教皇に、皇帝は再び大きく息を吐いた。
「そうですか…いや、当然と言えば当然ですな。全司教が属し、始祖への信仰を守るべき
教会。それを統べる教皇が、元司教である私の出自や『虚無』の系統を知らぬ訳がないの
ですから、はい」
「無論です。死者を蘇らせるという魔法の正体…その指輪ですか?」

 理知的な教皇の視線は、無様に汗で濡れた皇帝の指へ向いている。その指には、妖しく
深く水色に輝く石を嵌めた指輪があった。


 皇帝は観念したように皇帝へ指輪を示した。
「そうなのです。これはアンドバリの指輪と言いまして、死体を蘇らせる力を持つのです
よ。ですが、詳しい事は私にも分からないのです。なにしろ、魔法を使えない身なのです
から」
「伝説のマジックアイテムですね。これでウェールズ皇太子を蘇らせたのですか。もしや
既にアンリエッタ姫も?」
「いえいえ、あの者達は死んでいませんよ。ちゃんと生きています。ただ、ウェールズ殿
だけは、少し『説得』をしただけですよ、はい。真の信仰に目覚めて頂くべく、始祖の教
えを説いたのです」
「なるほど、『説得』ですか。アンリエッタ姫も?」
「いえいえいえ、アンリエッタ姫は『説得』の必要はありませんでした。ただウェールズ
殿への愛があるだけです」
 クロムウェルの言葉の意味に気付かぬ教皇ではない。その意味に気付いた上で、相も変
わらず涼やかな笑みを浮かべている。さらには元司教へトドメを刺すがごとき言葉まで続
けてくる。

「その指輪あなたに与えたのは、先ほどの秘書?」
 この問に、クロムウェルは再び汗を噴きだした。それはYesと答えたのと同じ事。教
皇は満足げに、慈愛に満ちた微笑みと共に頷いた。

「やれやれ…まぁ、あんたみたいな三下じゃ相手にならないと思ったけどね」
 ホールの扉から女の声がした。それは、不敵な笑みを浮かべるシェフィールド。
 皇帝は椅子から立ち上がり、秘書を演じていた女へ口を開いた。
「お初にお目にかかります。真なる皇帝にして、レコン・キスタの盟主よ」
 その呼びかけにシェフィールドはフードを外し、痩身だが美しい顔を露わにし、教皇の
前へ恭しく跪いて答えた。
「教皇聖下を謀るような真似をしたことを告白し、懺悔致します。私の名はシェフィール
ド。ですが皇帝でも盟主でもなく、一人のブリミル教徒に過ぎません」
 教皇は彼女の額を一瞥する。そして礼を示す女に、彼は罪を咎めるどころか、満面の笑
みと共に手を差し伸べた。
「ここに我等が出会えた事は、始祖のお導きなのでしょう。さぁ、今こそ同じ神を戴く兄
妹として語り合いましょう」
 そういって皇帝は円卓への着席を促した。

 着席してすぐ、シェフィールドはヴィットーリオへ尋ねた。
「それにしても、どうして指輪の事をご存じだったのですか?」
「いえ、知りませんでした」
 皇帝は椅子から転げ落ちかけた。そんな様を皇帝は楽しげにクスクス笑いながら種明か
しをする。
「ただ、死者を蘇らせる事から、生命を司る水の魔力を強く秘めた品を使用している、と
予想しました。例えば、死者に偽りの生命を与えるという水系統の伝説のマジックアイテ
ム、アンドバリの指輪。
 そして、魔法を使えぬ平民出のはずの司教がいきなり『虚無』を騙り、死者を蘇らせ、
皇帝の地位にまで上り詰めたという事実。
 で、クロムウェル殿の指を見れば、明らかに高度な水の魔力を秘めた指輪をつけている
わけです。もしやと思って、かまをかけてみたのですよ」


 皇帝は楽しげに自らの推理を語る。聞かされているクロムウェルは恐縮して汗をハンカ
チで拭きっぱなし。シェフィールドは不敵な笑みを保ちつつ、黙って教皇の話を聞き続け
ている。

「さて、余興はここまでにしまして、本題に入りましょう」
 教皇はコホンとわざとらしい咳払いをして、改めて二人に向き直った。
「聖地奪還というレコン・キスタの旗印、真ですか?」
 秘書だった女は、微笑みと共に頭を垂れた。
「無論です。私はそのためにこの地へ来ました」
「それは、あなたの主の真意ですか?」
「その点は聖下ご自身が確かめられるのがよろしいかと」

 平然と御意と答えたシェフィールドを見て、クロムウェルはクラリと体が揺れる。卒倒
しかけたようだ。
 相変わらず微笑みを絶やさない教皇に対し、ようやく体勢を立て直した彼は必死に口を
開いた。
「し、せ、聖下!あ、あの、あなたの主って、どうして!あのお方の事まで!」
「いえ、どうしてと言われても…見たままですから」
 そういってヴィットーリオは女性の額を指さす。そこには使い魔のルーンが描いてあっ
た。
「ああ、見たままと言っても、これは『虚無』について知る者にしか分からない話です。
気にしないで下さい。
 というわけで、貴女の主と直接にお話がしたいのですよ。急ぎ取り次いで頂けますか」
「分かりました。ガリア王都リュティス、『グラン・トロワ』にて我が主は聖下をお待ちし
ています」
「グラン・トロワ?」
 頭を垂れる女が放つ言葉に、初めてヴィットーリオは驚いた顔をした。






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