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第24話「そして使い魔<コトノハ>へ」


轟音が船体を揺らし、ルイズから上下の感覚を奪った。
一瞬、宙に浮いているかのような錯覚の後、力強く床に叩きつけられる。
「カハッ……!」
痛い、というより苦しかった。
肺の中の空気が全部吐き出され、今にも窒息しそうで、喘ぐのが精いっぱいだった。
視界は真っ暗で、耳の奥で何かが鳴り響いていて他の音が聞こえない。
口の中に血の味が広がり、全身がこわばって動けない。
「――イ――ん、――り!」
どこか、とても遠くから声がする。
肩を誰かがゆすっていた。やめて、痛い、やめて。
「ルイズさん、しっかり! ルイズさん!」
黒の中に、白が現れる。
ああ、黒いのは、髪で、白いのは、顔だ。
「こ、と……は?」
「起きてくださいルイズさん、脱出します」
「あ……あ? だ、しゅつ」
「起きてくだ――きゃっ!?」
再び轟音。取り戻しかけていた意識が再び吹っ飛ばされる。
しかし全身の骨が折れたかのような痛みが、逆にルイズの意識を覚醒させた。
「はっ……はぁっ、うぁ……?」
今は、眼前に木の床があった。手足に力を込め、四つん這いの姿勢を取る。
「こ、ことのは……コトノハ!?」
慌てて言葉の姿を探すと、部屋の壁に背中を打ち付けていた。
胸にはしっかりと誠を抱き、身をていして守ったのだと解る。
「言葉、しっかり」
「だ、大丈夫です……」
誠に声をかけられ、言葉はよろよろと立ち上がった。
ルイズも起きようとし、手元にあった棒を掴んで、杖代わりにする。
立ち上がってから、杖として使ったのが、言葉が持ってきた剣だと気づいた。
幸い鞘に納まったままで危険は無い。
「コトノハ……脱出ったって、どうすれば……」
「風石のついた小船が積んであります。
 本船の船体や風石が本格的にやられて墜落する前に、小船へ」
「小船の場所は解るのね!?」
叫びながら、ルイズは剣を抜いて、言葉の方へと床を滑らせた。
言葉は左手で掴み、甲のルーンが輝き出す。
右腕でしっかりと誠を抱きしめ、斜めに傾きつつある部屋の壁を切り刻む。
「いちいちドアを通ってなんかいられません、一直線に行きます」
「ま、任せたわ」

砲弾がどこに命中したのかは解らないが、船が浮力を失い墜落するのは時間の問題だった。
まるで荒波呑み込まれそうな船のように揺れる中、乗組員達は淡々と運行を続けていた。
船が沈まないように、トリステインに向けて飛ばし続けている。
自らの命をかえりみず。アンドバリの指輪に操られるままに。
操舵室に砲弾が撃ち込まれ、舵もろとも操舵手はバラバラに吹き飛ぶ。
マストはへし折れ、甲板から船底まで風穴が開いた。
悲鳴ひとつ上げず暗黒の海へと落下していく人々に恐怖しながら、
言葉は甲板に設置されている脱出用の小船にたどり着いた。
そこには虚ろな瞳をした船員が奇跡的に生存していた。
恐らく脱出用ボートの管理をしていて、指輪の洗脳により愚直に役目を続けているのだ。
ボートの長さは5メイルも無かったが、二人で乗るには十二分の広さだった。
「ボートは出せますか!?」
「リステインまで風石は持ちません。海面までが精いっぱいです」
「構いません! すぐに準備を!」
まだ生き残っていた船員に、小船を出させる準備を命じた言葉は、
折れたマストにしがみついているルイズへと向き直った。
「ルイズさん! 急いで!」
船体は斜めに傾いており、ルイズはボートの反対側へとすべり落ちそうになっている。
船内ならともかく甲板で下手に動いては、そのまま空中へ放り出されてしまうため、
ガンダールヴの身体能力で助けに行くのも難しい状況だ。
何か助ける方法はと周囲を見回し、足元にあったロープに気づいた言葉は、
それを拾おうとして、両手がふさがっている事に気づいた。
右手には誠、左手には剣。
この時、迷いは無かった。
言葉は剣を床に突き立てると、ロープを拾いルイズへ向けて投げる。
「掴まって! 早く!」
「うっ……」
必死になって手を伸ばすルイズだが、もう少しでロープに届くという所で、
なぜかもう届いたのだと確信したように手を閉じて、バランスを大きく崩す。
よくよく見れば、ルイズの額から赤い線が落ち、左目にかかっていた。
距離感を失っているルイズは、そのまま甲板をすべり落ちていく。
そのまま反対側まで行ってしまうかと思われたが、
何かの拍子で床の木材がめくれ上がっており、
必死に甲板にすがりつこうともがいていたルイズの手がそれにかかった。

「ロープをボートにつないでください!」
そう叫んだ言葉はロープの片端を船員に投げつけると、
そのロープを握りしめゆっくりと甲板を下っていく。
ルイズが掴まっていたマストまで来ると、傾きの上側に回り背中を預けて座り込む。
「誠君、ちょっと我慢してください」
「言葉、無理するなよ」
誠を太ももで挟んだ言葉は、自由になった両手でロープを引き上げると、
船員がボートにロープをくくりつけたのを確認してから、
反対側の先端を自身の右手首と手のひらにきつく縛り、握りしめた。
それから誠を左腕で抱き直すと、彼は申し訳なさそうに言った。
「なあ言葉。俺がいたら邪魔じゃないか?」
「でも、もう誠君と離れるのは嫌なんです。
 ボートの船員に預けている間に何かあったりしたら、私……」
「無理にルイズを助けなくたっていいじゃないか。俺達だけ、先にボートに乗ろう」
「でも!」
「ルイズが死んだら、死体を探して、生き返らせればいいじゃないか」
雲と同じ高度から海面に放り出されたら、人体は衝撃でバラバラになるし、
仮に五体満足で海に落ちれたとしても、魔法を使わず探し出すなど不可能に近い。
「俺は、言葉に危険な事をして欲しくないんだ」
今の誠は、アンドバリの指輪の魔力で生きる"言葉にとって都合のいい誠"だ。
本来の性格ならどう意見したかは解らない。
しかし今は、本当に言葉の身を案じての発言である。
彼の――仮初の――思いやりは言葉にも伝わり、
ルイズを見捨てるという選択肢を考えてしまった。
言葉にとっての一番は常に誠で、ルイズは二番目で。
だからこれ以上、自身だけでなく誠を危険にさらしてまでルイズを救おうとしては、
二兎とも逃してしまう結果につながりかねず、言葉は唇を震わせた。
言いたい事が出てこない。
きっと唇を閉じ、言葉はロープを握りしめてマストから降りる。
ロープを握る力を緩めると、靴底は甲板の表面をゆっくりとすべっていった。
右手が痛む。絞めつけられ、指先は紫に染まっていく。
「ルイズ、さん……!」
小さな床のめくれにぶら下がっているルイズも、指先が痛むのか苦しげだ。
「コトノハ……!」
次第に二人の距離が縮まっていくかと思いきや、
後ちょっとというところでロープが伸び切ってしまった。
左腕で抱きかかえていた誠を右脇で抱えなおすと、
自由になった左手を力いっぱいルイズへ伸ばす。
「手を……!」
伸ばした手は届かず、わずかに爪の先端が触れ合う。
その時、轟音が二人を引き裂いた。

無数の砲弾浴び中心から真っ二つに折れたそれは、ついに船の形を成さなくなり、
残骸となって暗黒の海へと落ちていった。
その残骸の中に、言葉はいた。

耳鳴りがする。
何が起きたのだろう。
近くに砲弾でも撃ち込まれたのか。
酷く寒い。
どうして?
風が強いから。
どこから?
前。
言葉はまぶたを開けようとして、目の中に飛び込んでくる強風に驚いた。
一瞬、あるいは数秒ほど途絶えていた意識が、
急速に浮上するに比例して肉体の落下を正確に認識していった。

月夜の中、言葉は頭から落下していた。
ちぎれそうに痛む右手を動かそうとすると、きつくきつく絞めつけられ、痛みにあえぐ。
薄目を開けて様子をうかがうと、右手とボートがロープで結ばれたままだった。
ボートは先端を下方に向け言葉を引っ張っている。
――ロープをたぐってボートにたどり着けば、風石を使って着水できる!
海面まで後どれくらいなのだろう、何秒で水に叩きつけられるのだろう。
解らないが、一刻を争わねばならず、言葉は左手でもロープを掴もうとして、気づく。

誠がいない。

あの轟音の後、言葉は意識だけでなく誠をも手放してしまっていたのだ。
このまま誠が海に落ちれば回収は不可能。
アンドバリの指輪を持ってしても、二度と誠と再会する事はできない。
「――!!」
のどが震えた。
誠の名を呼ぼうとしたのか、それとも単に悲鳴を上げようとしたのか、言葉にも解らない。
早く、早く、早く誠を見つけなければ助けなければ抱きしめなければ。
最愛の恋人を、永遠の人を、この手で。
「ま……君! まこ……っ!」
ロープを握りしめながら身体をひねり、誠の姿を探す。
双月よ、星々よ、もっと明るく世界を照らして。
大切な人を見つけられるように。
「ま……こと、君……!」
彼の名を呼んだ瞬間、彼女を見つけた。

薄いピンクの髪が風になびいて波打ち、見惚れるほどにとても色鮮やかだった。
「ルイ――」
彼女はすでに言葉に気づいており、言葉を指差して何事かを叫んでいる。
「――コ――! ――ト!」
口の動きは何とか見てとれ、わずかながら声も聞こえた。
コ、ト。
コ、ト、ノ、ハ?
違う。
コ、ト。
マ、コ、ト。
ルイズは自分を指差しているのではないと気づき、自分からわずかにずれた指の方向を見る。
誠の頭部があった。
(誠君!)
視線が合う。
微笑んでいる誠。
言葉が助けてくれると確信しているようだ。
しかし。
下を見ると、海面がどんどん近づいてきていた。
時間が無い、早く二人を助けないと。
どっちから先に?
当然、誠からに決まっている。
ルイズは身体を捻って、風を斜めに受ける事で少しずつこちらに近づいてきている。
こちらへ精いっぱい手を伸ばしている。

言葉からも手を伸ばせば、さっきは届かなかった手が、届く気がして――。

「マコトを――! 早く!」
ルイズへと伸ばしかけた手が止まり、言葉は誠へと向き直る。
誠も何事かを叫んでいる。しかし聞こえない。
声の届く距離のルイズと、声の届かない距離の誠。
自力でボートまでやって来れそうなルイズと、自分の力で動く事さえできない誠。
誠を助けろと叫ぶルイズと、恐らく助けを求めている誠。

手を伸ばすべきはどちらか、明らかだった。
だから、言葉は、誠へと手を伸ばす。
「きゃあっ!」
甲高い悲鳴が聞こえ、振り向く言葉。
回転しながら落ちてきた大きな木片がルイズに迫っていた。
「ル――」
その一語を発した瞬間、木片がルイズの肩に激突し、
言葉から離れていくように弾き飛ばされてしまった。

瞬間、言葉の思惟がルイズに向けて放たれた。
常に己の心を囲っていたものを突き破り、流れる血潮が熱くたぎる。
「ルイズさん!」
無我夢中に空中をもがき、わずかずつながらもルイズに近づいていく言葉。
「手を……私の手を……!」
見捨てられたくない。
見捨てたくもない。
さよならなんて言いたくないから。

届かない手を必死に伸ばして、言葉は叫ぶ。
「私の手を……離さないで!」
二人の手が離れたのは船室でルイズが別れを提案したあの時だ。
だから、もう一度つなぎ直すために。
「もう二度と離さないから!」
でも本当にルイズから手を離したのだろうか?
そうではなく、ルイズはずっと手を差し伸べていて、
言葉は今まで一度たりとも、その手を掴んだ事がないのではないか?
手をつなごうと伸ばしてみても、指先が触れるとそれだけで満足して、
あるいはそれ以上触れ合う事を怖がって、本当の意味でつながった事はあっただろうか?
だから言葉からルイズの手を取らなければならない。
だから言葉こそルイズの手を離してはならない。
「ルイズさん!」
まぶたが開き、鳶色の瞳が見つめ返してくる。
桜色の唇がゆっくりと開き、声は聞こえずとも、何と言っているのかが読めた。

コ、ト、ノ、ハ。

そして彼女は手を伸ばす。
指先だけがつながり、力いっぱい引っ張り合う。
一度、指が離れ、今度は相手の手のひらをしっかりと握りしめる。

ガンダールヴ……使い魔のルーンの刻まれた言葉の左手。
ずっとずっと差し伸べ続け、ようやく掴んでもらえたルイズの右手。
もう二度と離さない。

――さよなら、言葉。

ふいに、誠の声がした。
風の音を飛び越えて来たかのような、はっきりとした、物理的ではない声が。
振り返ると、さっきまであった誠の頭部が消え去っていた。
どこに行ってしまったのか言葉は視線を走らせたが、
もう見つからないだろうとなぜか確信した。
「……さようなら、誠君。裏切られても、傷つけられても、それでも好きでした」
そう呟いて、言葉はルイズを抱き寄せる。
ロープはボートにつながっている。
後は海面に落ちる前にこれをたどって、風石を動かして速度を殺し着水するだけだった。

そこから先の事を、言葉もルイズもよく覚えていない。
ただ二人が協力してロープをたどり、風石を使ってボートの着水に成功したのは確かである。
その証拠に二人の手の皮は剥けていて酷く痛んだし、
ボートは壊れる事なく無事波に揺られていていたからだ。
疲れ果てて眠っていたのか、着水が激しくそのショックで気絶していたのか。
ともかく二人はボートの上で抱き合うようにして眠っていた。

先に目を覚ましたのはどちらだっただろうか。
ルイズは言葉の寝顔を見たと言ったし、言葉もルイズの寝顔を見たと言った。
どっちが先に目を覚ましたか少しだけもめてから、二人は起き上がった。
白んできた空を見上げればアルビオン大陸が見え、そこからトリステインの方角も解る。
残りの風石である程度の距離は移動できるはずだが、
トリステインの港まではたどり着けまい。途中で漁船にでも発見されれば幸いだが。
向かい合って腰かけに座ったルイズと言葉。
「……ごめんねコトノハ」
「え?」
ふいに、ルイズの瞳が潤む。
「色々……マコトの事で、コトノハが悲しませる話をしたけれど、
 でもマコトがこんな……海の上で……こうなっちゃうだなんて、思わなくて」
誠はもう、生き返らせるどころか、会う事さえできない。
すでに船の残骸ともども、海の藻屑となってしまっただろう。
しかし言葉は、ルイズを責める気は無かった。
船から放り出された極限状態の中、ルイズは自分より誠を優先するよう言ってくれた。
その上で言葉はルイズの手を取ったのだから。
「夢を……見ました」
言葉は空を見上げて語り出した。
「このボートの上でルイズさんの寝顔を見るちょっと前に、
 昔の夢……私のいた世界での出来事……まだルイズさんに話していない私を……」


「誠君が殺されているのを見つけた私は、もう離れ離れになんかなりたくなくて、
 ノコギリで……誠君の首を切断して、鞄に入れました。
 それから西園寺さんを呼び出して、誠君の首を見せて、怖がらせて、
 そして……私は……西園寺さんを殺し……お腹を切り裂いて、中を、確認したんです。
 西園寺さんが本当に妊娠していたのかどうか……確かめて……」

「……怖いですか? 気持ち悪いですか? ごめんなさい……今まで隠していて。
 あの時の私は……それが悪い事だなんて、考えもしませんでした。
 正直今でも西園寺さんには同情していませんし、当然の報いだと思っています。
 それでも……それをルイズさんに知られるのは、怖かった。
 ずっと差し伸べていてくれた手が、引っ込められそうな気がして……」

「……。今でも、怖いです」

「……誠君の首を持って、海に行って、家のボートに乗って、
 日が沈む、赤々とした水平線に向かっていくボートの上で……。
 そう、ルイズさんに召喚されるほんの少し前に……。
 私は誠君を抱きしめて、こう言いました」

「やっと二人きりになれましたね、誠君――って」

「本当はそこですべて終わるはずだった……でも、私はルイズさんに出逢った」

苦笑をルイズに向けて、泣きそうな声で言葉は言った。
「二人きりになっちゃいましたね。ルイズさん」
ルイズはうつむいていて、表情が見えなかった。
幻滅されてしまっただろうか、言葉はまだ痛む手をきつく握る。
幻滅されるのは嫌だ。それでも、伝わっただろうか? 自分の気持ちは。
誠の事で責める気は無い。
逆に自らの凄惨な過去を明かしたのは、真にルイズと共に在りたいと願うから。
だって、
「いつか、言ったっけ」
ルイズが顔を上げると、そこには優しい微笑が浮かんでいた。
「話したくない事があったら、話さなくていい。
 まだ仮の使い魔だし、薬の力で過去を聞きだすつもりは無い。
 だから、話したくない事は話さなくていい。いつか自分の意思で話せる日まで」

それは惚れ薬の解除薬を飲む少し前の語らいの時間に、ルイズが言ってくれた事。

――そんな日が、来るのだろうか?
そう思った。
――きっと来ない。
そう思った。
――でも。
それだけじゃなくて、
――来たら、いいな。
とも思ったから。

「話せる日が、来たね」
ルイズが身を乗り出し、言葉の頭を優しく抱きしめる。
小さな、けれどとても大きいと物理的な意味ではなく感じる胸に顔をうずめて、
言葉は込み上げる感情をこらえきれず、とても嬉しそうに返事をした。
「……はいっ」
主従とも友情ともつかぬ、深く強い絆で結ばれるのを、ルイズも、言葉も感じていた。
この感情の名前が解らない。けれどとてもあたたかく、心安らぐものだった。

「コトノハ。今まではよく夜の散歩に行って、星を一緒に見たわよね」
「はい。また、一緒に見ましょう」
「ううん、コトノハ。少し違う」
言葉を胸から離したルイズは、とびっきりの笑顔を東に向ける。
そこには人の心まで明るく照らすような朝日が、水平線から半分ほど姿を現していた。
「学院にいた頃、いっぱい星を見てきた。でも、これからは違う。
 星だけじゃない、月だけじゃない。もう人目をはばかる必要なんてない」
「ええ。ええ、ルイズさん。これからは太陽を見て、胸を張って歩いていきます」
肩を抱き合い微笑み合う二人を祝福するように、健やかな風が髪をなびかせた。

   薬の効果が切れて、またコトノハが狂気に呑み込まれても、私は絶対見捨てない。
   そう、自分の使い魔を見捨てるメイジなんて貴族失格だもの。
   私の使い魔は狂気に呑み込まれたコトノハじゃない。
   薬で仮初の正気を取り戻したコトノハでもない。
   私がまだ見た事もない本物のコトノハが私の使い魔よ。

狂気から解放され、ようやく出逢えた本当の言葉。
ルイズと言葉は今日この日この瞬間、真の始まりを迎えたのだ。



もう鮮血の使い魔なんかじゃない。
ルイズの使い魔であり、ルイズの友達であり、ルイズの一生涯のパートナーであり――。

――ルイズの言葉<コトノハ>だ。

だから。

「コトノハ、帰ろう」
「はい。私達の家に」

目指すトリステインは東。
ハルケギニアの大海原を小さなボートが航海する。
ルイズと言葉を乗せて、太陽を目指して。未来へと向かって。

   鮮血の使い魔――Nice boat,in Halkeginia.
   第24話「そして使い魔<コトノハ>へ」

   原作
   ゼロの使い魔(ヤマグチノボル)
   School Days(アニメ版)

   CAST
   主人公……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
   使い魔……桂 言葉

   鮮血の結末A……ジャン・コルベール
   鮮血の結末B……ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
   鮮血の結末C……オリヴァー・クロムウェル

   仲間……マチルダ・オブ・サウスゴータ
   恩人……ウェールズ・テューダー
   友達……ティファニア

   生徒A……キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー
   生徒B……タバサ
   生徒C……ギーシュ・ド・グラモン
   生徒D……モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ

   キャラ崩☆壊……誓約の水精霊さん

   空気……アンリエッタ・ド・トリステイン

   星座A……黄金聖闘士
   星座B……海将軍+テティス
   星座C……冥界三巨頭

   言葉様の得物A……ノコギリ(School Days)
   言葉様の得物B……チェーンソー(魔界塔士Sa・Ga)
   言葉様の得物C……錬金の剣
   言葉様の得物D……食事用のナイフ
   言葉様の得物E……兵士の槍
   言葉様の得物F……デルフリンガー



   友情出演……にんげん おとこ(魔界塔士Sa・Ga)

   ミョズニトニルン……せっちゃん
   それでも好きだった彼……伊藤 誠


――After Days

「コトノハ」
大好きな声で呼ばれたので、彼女はとびっきりに嬉しさを表した笑顔で振り向く。
「ルイズさん、今日はいいお天気ですね。お日様が気持ちいいです」
声の主はやはり彼女の主であった。
薄桃色の髪は、陽光の下で見るとキラキラと輝いて見えてとても綺麗だ。
言葉は、そんなルイズを抱きしめて、髪の匂いや手触りを楽しむのが好きだった。
ちなみにルイズは、言葉の胸革命に顔をうずめてはお星様まで旅立っている。
さらに毎晩、床じゃ可哀想だからと言葉をベッドで寝かせてるけど、
胸に触ったり抱きついたりするのは偶然だったり事故だったり寝返りだったり、
決してわざとではないケースが多数発生しているだけであり、
それをルイズが気持ちいいと感じていても、不可抗力だからいいよね?
そんな訳で、ルイズは抱きしめられるのを嫌がっていないと思っている言葉は、
今からさっそく抱きしめてしまおうかとも考えたが、
ルイズが微笑を浮かべながらも鳶色の眼差しが真剣なものだったので留まった。
「何かありましたか?」
「コトノハこそ、ヴェストリ広場なんて所で何してるのよ」
問われて、言葉は誤魔化すように曖昧な笑みを作る。
心の正常さを取り戻したとはいえ、学院の人々はまだ、言葉を受け入れてはいない。
オールド・オスマンはどうやら、言葉の誠実な本性を信じる事で、
コルベールの死は本当に事故だったと理解してくれた。
キュルケは精神的に成長したルイズを見て張り合いが出てきたと喜び、
言葉の悪い噂もあまり気にしていないようだし、タバサは元々関心が低い。
ギーシュなどは……言葉が以前迷惑をかけた事を謝罪したらガラリと態度を変えて、
もう少しでルイズだけが触る事を許される言葉の胸に手を出そうとした瞬間、
丁度やってきたモンモランシーに見つかりこっ酷い目に遭ったりしたが、
ある意味一番友好的な生徒と言ってもいい存在だ。
それでも、たくさんの生徒が集まる教室や食堂は、
言葉にとって居心地のいい場所ではない。
そういった理由でこんな人気の無い広場にいるのだとルイズも察していたが、
わざわざ質問したのは答えを期待しての事ではなく、
答える必要などないと言いたいからだ。
他の連中がどう言葉を見ようと、ルイズにとっては唯一の人。それでいいはずだ。
「ちょっと、剣の稽古でもしようかと思いまして」
でっち上げの理由を言いながら、言葉は背負った長剣を抜いた。
「剣と言っても刀とは違いますから、居合いそのままという訳にはいきませんし、
 それに一緒にルイズさんを守る大切な友達ですから」
「友達たぁ嬉しいねぇ」
言葉の手元から声がした。正確には、握った剣の柄からだ。
「俺も相棒に会えてホントよかったよ。大切に扱ってくれるし」
「デルフさんにはお世話になってますから」


アルビオンから帰国して王宮に報告をした後の帰り道、
ガンダールヴの言葉に専用の武器があった方が便利だろうと武器屋に寄った時、
色々とよさそうな剣があったものの場の流れでなぜか買う事になったのが、
この意思を持って喋るインテリジェンスソードのデルフリンガーだ。
理想を言えば日本刀がよかったのだがハルケギニアにそんな物は無いし、
知恵と知識を持つ剣というのは、異世界人の言葉にとって頼りになった。

「お世話ったって世間話する程度だし、こんなに平和じゃ剣の本分を果たせねーな」
冗談交じりに言ったのは間違いなかったが、それに返答するルイズの声は硬い。
「果たしてもらう事になりそうよ」
デルフリンガーはお喋りをやめ、言葉は双眸を鋭くさせ、続くルイズの話を待つ。
「アンリエッタ姫殿下から手紙が届いたわ。私達は今すぐアルビオンへ発つ。
 詳しい状況は解らないけれど、あの方やあの娘に関わりがあるみたい」
「解りました」
短く答えうなずく言葉に対し、デルフリンガーは状況が掴めない。
「いきなり穏やかじゃない話になったじゃねーか。あの方とあの娘って誰?」
「ここでは言えません」
申し訳なさそうに言った後、言葉は西の空を見上げた。
「あの人達に危険が迫ってる……という事でしょうか?」
「レコン・キスタとミョズニトニルンの動向も気になるけど、
 とりあえず『保護者』がついてるはずだから、多少の事は大丈夫だと思う。
 でもできるだけ急がないと」
「そうですね……それに、丁度いい機会かもしれません。
 あの人には迷惑をかけてしまいましたから。
 手紙だけじゃなく、ちゃんと会って謝りたいです」
デルフリンガーが口を利ける程度の強さで鞘に納めた言葉は、
ルイズのかたわらまで行くと、ルーンの刻まれた左手で、ルイズの右手を握った。
「コトノハ?」
「不安なのは解ります。でも、私が一緒にいますから」
言葉の笑顔に、ルイズもまばゆいほどの笑顔を引き出される。
確かに様々な不安はあるが、誰よりも信頼できる言葉が一緒なら……!
「そうね、そうよね。私の言葉がいるんだもの」
言葉の左手を、ルイズは両手で握り返して自身の胸元へと運んだ。
胸の奥から勇気が湧いてくるのを、言葉にも感じて欲しかった。
この勇気は言葉がくれたものだから。

「どうでもいいけど、急がなきゃマズイんでない?」

蚊帳の外に置かれながらも空気を読んで黙っていたデルフリンガーだが、
この調子ではいつものパターンに突入しそうなので、無粋を承知で水を差した。
顔を朱に染めて、慌しくルイズの左手は離れた。
「わ、解ってるわよ。コトノハ、門の所に荷物と早馬を用意させてあるわ」
「は、はい。急ぎましょう」
「行くわよ! コトノハ!」

ルイズが駆け出して、言葉も駆け出す。
二人の絆の象徴であるルーンが刻まれた言葉の左手と、ルイズの右手がしかと握り合ったまま。


   Fin



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