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第23話 Last Day


マチルダの声がして、ルイズは慌てて手綱を引いて馬を止め、目を凝らし声の主を探す。
宵闇の下、木立や岩など、人が隠れる場所はいくつかあった。
月明かりだけでその姿を探すのは難しい。
表情を硬くしてルイズは呟く。
「マコト、死んだフリしてて」
「……誠君、お願いします」
「解った」
言葉はルイズの言う事を素直に聞き、誠は言葉の言う事を素直に聞く。
まだ話し合わなければならない事が残っているが、ある意味調和は取れている。
「……マチルダ、いるの?」
「……『外』でその名前を使うんじゃないよ、お嬢ちゃん」
声の出所を探す。左前方の、月光をさえぎる木立の中か?
(どうしよう……どうすればいいかなんて、解んない)
マチルダは命の恩人であり、ウェールズと言葉の恩人でもあり、
ティファニアにとってかけがえのない人物だ。
もう以前のように、土くれのフーケという非道な盗賊として見る事はできなかった。
「こんな時間、こんな場所で、いったいぜんたい何をしてるんだい?」
「あ、あー……あの、私達、ダータルネスに行こうと思って……」
「私の帰りを待たずに?」
「うん、えっと、早くトリステインに帰りたくて」
「あの娘は何て言ってた?」
言葉にマントを引っ張られたが、それに何の意味があるのか解らないルイズは適当に答えた。
「げ、元気でねって」
「ルイズさん」
小声で、いさめるように言葉が。
その時ようやく、なぜマントを引っ張られたかルイズは理解した。

あの娘と言われ、それがティファニアであるという前提で返事をしてしまったルイズは、
記憶を消されずに村を出てきてしまったという事。

マチルダの引っ掛けに気づいた言葉は注意をうながしたのだが、
気づかなかったルイズは間抜けにもバレバレの嘘をついてしまった。

「誘い出して、指輪で操りましょうか?」
「でも、マチルダよ?」
言葉の提案にルイズは小さく首を振った。
思い出すのは、惚れ薬を飲んだ言葉の姿。
例え一時でも、人の心を曲げるというのは、酷く嫌な気分になる。
アルビオン脱出のために敵の心を操るならともかく、
多少なりとも親しくなってしまった恩人マチルダに行うのは裏切りであり、
自らの貴族としてのプライドも傷つけてしまう。
あの村から逃げ出してしまった時点でもう、裏切っているとも言えるのだが。

「マチ……いえ、フー……あの、どっちの名前も外で口にするのははばかれるんだけど」
「……二人称で呼べばいいだろうに、頭の回転の悪い子だね」
「じ、実技以外の成績はいいんだから!」
「……やっぱり悪いわね」
マチルダとすごしたウエストウッドでの短い時間のせいで、頭の切り替えがうまくできない。
今のマチルダは、記憶を残したままのルイズ達に危害を加える可能性がある。
けれどルイズの脳裏には、言葉の看病を手伝ってくれたマチルダの姿がちらつくのだ。
下手な嘘のせいで記憶があると見抜かれてしまったのなら、
いっそ正直に事情を話した方がと思うのは甘いだろうか?
「もう一度質問するよ」
厳しい口調が木立の中からして、ルイズの身体がこわばった。
すると、肩にそっと手をかけられる。言葉だ。
振り返らなくても、言葉がどんな表情をしているのか、何となく察せられる。
マントを引っ張られた時は気づけなかった言葉のサインが解る。

大丈夫。
私がついています。

「もし私が嘘だと判断したら、悪いけど盗賊らしい対応を取らせてもらうよ」
マチルダは強気だ。
ウエストウッドの村に武器は無いからガンダールヴの力を警戒しなくていいし、
アンドバリの指輪の第二の能力を知らないから警戒できない。
トライアングルメイジである自分が優位に立っていると彼女は思っている。
だから隙を突く事はできるのだろうけれど、ルイズはそうしたくなかった。
相手がマチルダだから。理由はそれで十分だった。
「いいわ。正直に答える……始祖ブリミルに誓って」
ルイズの性格をかんがみれば、始祖ブリミルに誓うと言った以上、
貴族の名誉にかけて絶対に嘘をつかないだろうと判断できる。
どんなに不都合な問いにも正直に答えるという決意の表れだ。

それが解ったからこそ、マチルダは沈黙した。
これからルイズに質問をする、それは確定事項。
ただ、質問する心構えが違う。

疑念を解消するためではなく、信じるために質問をするのだ。

同じようで少し違う。
些細なようで大きく違う。

「何があったんだい?」
木立から聞こえてきたマチルダの声色は、ウエストウッドの村で聞いた時の色に似ていた。
「……マコトを……コトノハが生き返らせちゃって、テファに見られたの。
 テファは悲鳴を上げて気絶して、子供達は起きてくるし、色々と都合が悪いから、
 ウェー……あの方に後を任せて、逃げ出して……きちゃったの。ごめん」
風が吹いて木々が揺れ、木の葉が地面に舞い落ちるまでが、やけに長く感じられる。
大丈夫。マチルダなら大丈夫だと、ルイズは信じたかった。
「……マコトってのは、首だけでも返事できるのかい?」
「うん、できるよ」
勝手に答える誠。
「ちょっ、返事するなら私かコトノハの許可取ってからにしてよ」
「あっ、ごめん……」
何だか誠とは相性が悪い気がして、ルイズは胸が重くなるのを感じた。心理的な意味で。
だがそれより今はマチルダだ。
(私は正直に答えたわ。だからお願い、マチルダ……私達を……)
「私達を行かせてください」
ルイズの心の声の続きを、凛とした声がつむぐ。言葉だ。
「ルイズさんの事情も考えれば、早くトリステインに帰るに越した事はありませんから」
「……レコン・キスタは今ゴタゴタしてるからね、ダータルネスも警備は厳しいよ。
 しかも『クロムウェルを殺した女』の手配書も回ってる。似顔絵つきでね。
 ようするにあんた達が密航するのは無理さ。私が協力したとしても……ね」
「大丈夫です。アンドバリの指輪は人の心も操れますから。
 兵士さん達を洗脳して道を開けてもらって、船も出してもらいます」
微塵も臆する事無く言ってのける言葉だが、わずかに周囲の空気が冷たくなる。
いや、冷たくなったのはマチルダの声だった。
「へえ……初耳だね、そんな能力があっただなんて……」
「あなたの気にしている人には使ってませんし、
 あなたにも使う気はありませんから安心してください」
「へえ」
「あなたも、あの人も、ルイズさんの友達ですから」
理由を聞かされて、一番驚いたのはルイズだった。
知らなかった。気づかなかった。
言葉を信じたいと思いながら信じていなかった。
瞳に輝きが戻った今も、いつまた言葉が狂気の行動に出るか不安だった。
(私は――ご主人様失格なのかもしれない)
うつむいて唇を噛みしめると、その意を汲み取ったのか、マチルダは言った。

「これからが正念場だよ、ルイズ」

まるで姉が妹に、そう、ティファニアに話しかけるような優しい口調で、
名前を呼んで励ましてくれた。
そういえば、ミス・ヴァリエールと他人行儀に呼ばれた事はあっても、
ルイズの名で呼んでくれたのはこれが初めて。
「ま、マチルダ! 私っ――!」
呼んでから、口にしてはいけない名前を使ってしまったと気づいて慌て、
謝ろうと思い、その前に文句を言われるだろうと身構えて、でも、文句は来なくて。
「……マチルダ?」
もう一度名前を呼んで、けれど返事は無く、夜風が木立を振るわせるのみだった。
「……行っちゃったの?」
「そうみたいですね」
「私、まだマチルダと、話を……」
「話ならまたできますよ。友達なんですから」
「……コトノハ……」
気遣ってくれる言葉にちょっと体重を預けて、ルイズは深く息を吐いた。
胸が幾分か軽くなった気がする。精神的な意味で。
気絶したままにしてしまったティファニアへのフォローは、
マチルダがうまくやってくれるだろう。
ウェールズ殿下の事も、今のマチルダになら安心して任せられる気がする。
だから、もう、ウエストウッドの村は大丈夫。
でも。
「もう一度……アルビオンが平和になったらもう一度、絶対に……また来るから」
こうしてルイズは馬を走らせ始めた。

日付の変わる時刻になって、ふとキュルケは目を覚ました。
今宵はボーイフレンドとの約束は無く、ゆっくり寝ようと決めていた。
だから寝返りを打っただけで、そのまま眠り直そうとする。
その時、ふと窓から双月が見え、ルイズを思い出した。
学校をサボっていったい何をしているのやら。
張り合いがなくてつまらない。
「早く帰って来なさいよ……」
そう呟いて、キュルケはまぶたを下ろした。

その日、タバサは所要で祖国に帰っていた。
意地悪な従姉から命じられた任務を終え学院に帰ろうとしたものの、
すでに日が暮れていたため、彼女は実家へと立ち寄った。
そこに家族のぬくもりは無い。
けれど自身の憎しみを確かめるために、自身の愛を確かめるために、
タバサは実の母の元を訪れた。
いつものように、悲しく、つらい思いをして、タバサは自室へ戻る。
親友のキュルケに側にいて欲しかった。
母から向けられる、あの瞳の色が、頭から離れない。
寝返りをうつと、窓から双月が見えて、なぜかルイズの使い魔を思い出した。
あの、心の壊れてしまった人間特有の瞳をしていた、コトノハとかいう平民。
もし母までも喪う事があったら、自分もああなるのだろうか。
そうはならない。自分は母を守りきってみせる。そして母の心を取り戻す。
――ルイズも使い魔の心を取り戻せるだろうか?
そんな事を考えながら、タバサはまぶたを閉じた。

双月の下をギーシュとモンモランシーは歩いていた。
他愛のないお喋りをしつつ、ギーシュはモンモランシーの肩を抱くタイミングを見計らう。
今だ、と思って伸ばした手が空を切った。モンモランシーが立ち止まっている。
「どうしたんだい? モンモランシー」
「ん……ここ、思い出さない?」
「ここ?」
と言われて見回してみても、学院内の庭で、ありふれた風景。
「ここで、何かあったかな?」
「……助けてくれたじゃない」
ようやくギーシュも思い出す。あれはいつの出来事だったか……。
モンモランシーの悲鳴が聞こえて駆けつけたら、なぜかルイズの使い魔に襲われていて、
ワルキューレで応戦したら全部ノコギリで切り刻まれた苦い思い出だ。
その後はその後で、惚れ薬事件にまで発展するし。
しかしモンモランシーは満更でもない顔をした。
「あの時、ギーシュが来てくれて……嬉しかったわ」
「モンモランシー……」
「色々と怖い思いもしたけど、思い返せばあんな一生懸命なギーシュ、初めて見たもの。
 また私が危なくなった時には、助けに来てくれる?」
「もちろんさ」
いける。この雰囲気、キスまでいける。ギーシュは確信した。
だから唇を突き出してモンモランシーに迫ろうとして、
「でも、ルイズ達が帰ってくるまでは、とりあえず安全よね」
凍りつく。
「あ、あ~……そうだね」
正直、またルイズの使い魔の相手をするなどごめんこうむりたい。
あの時はあの使い魔があんなに強いなんて知らなかったからモンモランシーをかばえたが、
いや、あの恐ろしさを知った今でも、モンモランシーのためならば戦え……る! 多分!
などと考えている間に、モンモランシーはご機嫌斜めになっていた。
「意気地なし」
「うっ、そ、そうは言うがね、モンモランシー。
 彼女はその、尋常じゃないよ? ワルキューレが一瞬でバラバラにされるわ、
 土くれのフーケをやっつけたって噂もあるわ、
 あんな大きな胸を前にして冷静に戦えるかも疑問だし、
 今ではノコギリなんかよりずーっと強い武器も持ってるらしいし……」
「ギーシュ? 言い訳の中にひとつ、とても許せないものがあったんだけど」
「え?」
「胸が、何ですって?」
頬をはたく音が学院に響いた。
痛む頬を撫でながら、ギーシュは怒られても仕方ないと思いつつ、
あの平民の使い魔の胸を思い出していた。見るだけならいいよね、うん。
あれで性格がまともだったら、例え平民でもほっとかないんだけどなぁ。
と考えてたら、寮に帰ったはずのモンモランシーがきびすを返して戻ってきた。
「モンモランシー! 仲直りしに来てくれたんだね!」
「何でおっかけて来ないのよ! この馬鹿!」
ビンタの音がもうひとつ響いた。

まぶたを開ける。
窓の景色が動き出していて、ルイズは安堵の溜め息をついた。
「よかったぁ、これで帰れるんだね」
「……ええ、そうね」
士官用の部屋の、窓際の椅子にルイズは腰掛けており、ベッドには誠が置かれていた。
言葉の姿は無い。
船を動かすために、アンドバリの指輪を使って色々としに行ったのだが、
万が一戦闘になった時、ルイズと誠がいては足手まといになるのが最大の理由だ。
言葉はすでに、ダータルネスの兵士から剣を一本奪っている。
アンドバリの指輪の洗脳効果は素晴らしく、
今こうして船を奪い出港させているというのに騒ぎの音が聞こえない。
「呆気ないわね」
「うん、言葉はすごいなぁ」
状況が解っていないのか、能天気に言う誠。
こんなののどこがよかったんだろうとルイズは思う。
「ねえマコト。あんたとコトノハの馴れ初めって、どんな感じ?」
言葉から聞いた話では、サイオンジという女に寝取られたりといい印象のない誠だが、
誠の言い分を聞いてみれば言葉が好きになった理由がよく解るかもしれない。
「サイオンジって女が……最初は、仲を取り持ってくれたんだっけ」
「ああ。でも言葉がさ、なかなかキスとか胸とか触らせてくれなくて……。
 何か一緒にいても、疲れるっていうかさ」
「こ、交際を始めてすぐそういう事をするのって、あんたちょっと……」
犬じゃないんだから、と思った。
でも言葉とキスとか胸とか胸とか、胸革命、巨夢の魔法、あの大きさのむねムネ胸……。
「ま、まあ……少しは気持ちが解るけど、自重しなさいよあんた」
巨夢に抱かれた夢心地を思い出し、ルイズの顔が赤らむ。
「だからさ、俺、世界とつき合う事にしたんだよ」
「は?」
サイオンジに寝取られた、なんて聞いたけど、何だか妙な雰囲気。
「世界と一緒だと気楽でよかったんだけどさ、何か段々しつこくなってきて……」
「あ、あの……サイオンジとつき合ってる時は、コトノハはどうしてたの?」
「その時はもう全然好きじゃなかったから、放っておいたけど……。
 でも言葉はなかなかあきらめてくれなくて、ちょっと大変だったな」
まるで愚痴のように言う誠が、何だか気に食わなかった。
惚れ薬を飲んだ時の言葉が過去を語った時は、時折すごく悲しそうだったというのに。
「マコトは……罪悪感、無かったの? コトノハを放っておいて……」
「あんまり。面倒くさかったし、うっとうしかった時もあったから」
「…………あ……でも、仲直りしたのよね?」
「ああ。あの時は大変だったな……世界の奴、教室でいきなり妊娠したなんて騒ぐし」
「教室で……」
サイオンジの妊娠は狂言だったはずだから、なるほど、恐ろしい女だとルイズは思う。
ちょっと想像。学院の教室で、モンモランシーがギーシュに向かって、
『妊娠したのよ! あんたの子よ! 責任取んなさいよ!』
あれ? これってハッピーエンドじゃない? ギーシュも年貢の納め時だし。
いやいや、例えが悪い。ギーシュとモンモランシーじゃ事情が違う。

「大変ね……」
「ああ、そうしたら、他の女の子達がみんな、離れていっちゃうし」
「……はい?」
唐突に意味不明な単語が出てきた。ほかのおんなのこ、って何だ。
「ほ……他の女の子っていうのは、具体的に、誰?」
「えっと、清浦……は、妊娠騒ぎの前にフランスに行っちゃったし、
 乙女は家に来て何か訳解んない事言って、それっきりになって、
 光も急に冷めたみたいにいなくなっちゃうし、
 クラスメイトの女子も、最初は向こうから誘ってきたくせに、連絡つかなくなるし」
「あ……ああ、あんた……まさか、その子達、全員と?」
「うん。でも今は、言葉だけだから」
めまいがした。

何、こいつ。
犬、とか、そういうレベルじゃない。
え、こんな奴のために、コトノハは、コトノハは?
あんなにも、いっぱい、いっぱい、傷ついて。

「それで、誰もいなくなって……独りになって、そしたら、言葉がいてくれたんだ。
 ずっとずっと俺を待っててくれて、だから俺、もう言葉を離さないって決めたんだ」
「……つまり、浮気相手全員に愛想つかされて、それでもコトノハが残ってたから、
 そんな理由でコトノハを選んだ……って事? 女の子なら……誰でも……」
「違うよ。いっぱい酷い事をしちゃったけど、それでも俺を好きでいてくれた言葉が、
 本当に大切な人なんだって解ったんだ」

自分に都合の悪い事は何でもかんでも否定して、都合のいい事は肯定する。
だとしても、言葉が好きになったのだから、何か、いいところがあるはずだった。
「サイオンジ……の妊娠は、本当に嘘だった、のよね?」
「だと思うよ。病院行ったはずだし。でも、コトノハとよりを戻したからって、
 あんな滅多刺しにするなんて思わなかったよ……」
頭痛がした。
船の揺れが、やけに大きく感じる。
「サイオンジ……は、その後、どうなったの?」
「さあ。その時俺、もう死んでたから」
ギイ、と戸が開いた。
二人が視線を向けると、ほがらかな笑顔の言葉が、剣を持って入ってきた。
「大丈夫ですよ、マコト君。ちゃんと確かめましたから……。
 西園寺さんの中に、誰もいませんでした」

言いながら、ベッドへと一直線に行くと、剣を立てかけて、誠の頭を抱き上げる。
「……遅くなってごめんなさい」
「いいんだよ、言葉。ああ……言葉の胸、あたたかい……」
嬉しそうな言葉の笑顔に、ほんのわずか違和感を持ったルイズは自然と問いかけていた。
「……聞いてたの? さっきまでの話」
「ええ」
笑顔で。
しかしその言葉は生き生きとしながらも、やはり何かが欠けているように見えた。
惚れ薬を飲んだ時に似ているようで違う。
「コトノハ……さっきの話を聞いても、マコトの事が好きなの?」
「はい。私は、誠君が一番ですから。私の所に帰ってきてくれるまで、
 色々ありましたけれど……私は寛容ですから、もういいんです。ね、誠君」
「言葉……」
熱っぽい瞳で見つめ合った二人は、濃厚な口付けを交わす。
淫靡な水音から顔をそむけたルイズは、ぎゅっと手を握りしめた。
「コトノハはそれでいいの?」
水音がやむ。
「ええ。私は誠君と一緒にいられれば、一番幸せですから」
「…………そう……」

きっと、言葉はずっとこうなのだろう。
瞳に生気を取り戻し、ほがらかな笑顔を見せるようになっても、
誠に依存し、歪みそして強すぎる愛情で幸福を得る。
だから――。

「コトノハ」
彼女の顔を見たくなくて、ルイズは窓へと顔を向けた。
「トリステインに帰ったら……家を用意するわ……」
「家を、ですか?」
「そしたらそこで……マコトと二人だけで、静かに暮らさない?
 ウエストウッドの村のように……外界と関わらず……あなた達だけの世界で」
どんな表情をしているだろう、言葉は。
見たくない、振り向きたくない。
「……どうして……そんな事、言うんですか? 私は、ルイズさんの事……」
「いつかきっと……って、約束したよね。その日はもう、来ないと思うから」

訳が解らなかった。
せっかく誠を生き返らせ、これでようやく、三人一緒にいられると思ったのに。
言葉は、ルイズの事も大好きだから。
「私、ルイズさんを怒らせるような事をしましたか?」
「してないわ」
顔をそむけたままルイズは言う。どんな表情をしているのだろうと言葉は思った。
振り向かせたい。
「私の目を見て言ってください。私はルイズさんの何なんですか?」
「あの日、私は言ったわ」

   薬の効果が切れて、またコトノハが狂気に呑み込まれても、私は絶対見捨てない。
   そう、自分の使い魔を見捨てるメイジなんて貴族失格だもの。
   私の使い魔は狂気に呑み込まれたコトノハじゃない。
   薬で仮初の正気を取り戻したコトノハでもない。
   私がまだ見た事もない本物のコトノハが私の使い魔よ。

「私は正気に戻りました! 誠君が生き返って、それで――!
 なのにどうして? どうしてそんな事を言うんですか?
 私は言いました……約束しました!」
誠を抱いたまま立ち上がった言葉は、瞳を濡らして叫ぶ。
それでもルイズは振り返らない。肩を震わせながらもかたくなに。

「思ったの……。死者が生き返る、それはとても素晴らしい事だと思う。
 でも……それだけじゃない。
 乗り越えるべき死から逃げ出して、それで生き返らせたところで、
 本当の意味で幸せにはなれないと……思う」
「誠君を生き返らせるのは……間違いだったって、言いたいんですか?」
言葉の声が深く暗く沈んでいき、冷たく鋭くなっていく。
それでもルイズは振り向かない。
「……死を乗り越えて……乗り越えた上で、立ち向かって生き返らせたのなら、
 多分、話は少し違ってくるのかもしれない……確証は無いけれど。
 でも、コトノハはマコトの死で心を壊して、だから……」
「だから私には、誠君を生き返らせる資格が無いと……言いたいんですか?」
アンドバリの指輪をルイズの背中に向ける言葉。
こんな、こんな自分を否定するルイズは、我慢ならない。
だからといってどうするのか? 操るのか? あの気高く優しいルイズを。

「解らない。私の言ってる事は、間違ってるのかもしれないし、
 人の生き死に、しかも生き返るだなんて問題は、私には大きすぎて、重すぎて、
 きっと正しい答えなんて出せないんだと思う。
 ううん、正しい答えを出せる人はきっと、この世には存在しないのかも。
 だからもしかしたら、言葉の答えは、正解かどうか解らないだけで、
 ちゃんと正解しているのかもしれなくて、私、何が言いたいんだろう」
窓に額をコツンと当てたルイズの声が、か細く震える。
今にも泣き出してしまいそうな背中がとても小さく見えた。
「だったらいいじゃないですか。答えが解らないなら、それで構わないじゃないですか。
 私は、ルイズさんと一緒にいたいんです。あの村で目覚めた時、そう言いました。
 私の夢は、私と、誠君と、ルイズさんの三人で一緒にいる事なんです。
 ルイズさんは違うんですか? 誠君が嫌いなんですか?」
「違う。正直言うと、マコトがいるか、いないかで言うなら、多分、いてもいい。
 けれどそれでコトノハが結局狂気から逃れられないのなら……」
「私を……見捨てる……?」
「一緒にいても傷つけ合うだけだと思う。見捨てたい訳じゃない、でも……え?」
ルイズの声色が変わった。
椅子から立ち上がり、食い入るように窓の外を見ている。
流れる雲の向こう、ダータルネスの港を。
「……コトノハ。この船は、大丈夫よね?」
「はい。船員全員洗脳してありますから」
「港の見張りも……ちゃんと、朝まで異常を見逃すよう命令したわよね?」
「はい、会った見張り全員に……」
「会った見張り……だけ!?」

次の瞬間、砲弾が船体を貫きいた。
「きゃあーっ!」
上下が解らなくなるほど船体が揺れ、轟音が響く。

凡ミス。
すでにゴール目前だったからこそ気がゆるみ、
船はアルビオンのはるか下方に広がる海へと落下を始めた。

第23話 Last Day


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