あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロな提督-28 b


  ドウッ!
 突如、突風が巻き起こった。
 全てを吹き飛ばすほどの風が周囲のブドウの枝をへし折り、ほとんどの葉を宙に舞わせ
る。ヤンを奪い合っていた女性達も、いきなり殴りつけられるかのような空気の壁に吹き
飛ばされそうになってしまう。
「お、おでれーた…なんだぁありゃあ!??」
 ブドウの木に引っかかって飛ばされるのを免れたデルフリンガーが、驚きの声を響かせ
た。

 空中に全長10メイルほどの、何か大きな三角形の塊が浮いていた。
 材質は、陶器とも金属ともつかない不思議な物質だ。鈍く黒光りする下側をヤン達に向
けている。上側は、何か焦げ付いたような黒ずみがあるが、元は銀色だったらしい。頭ら
しき部分の目らしき場所には、大きなガラスのようなものがはまっている。突風は塊から
生み出されていた。

「なな、何あれ!鳥!?」「まさか、アルビオンの軍艦なのかい!?」
 ルイズとロングビルの叫びに、翼らしき部分を指さすシエスタが答えた。
「違います!あれは、あれは…恐らく、ひいお祖父ちゃんの国の船です!」
 シエスタの指さす先には、焦げて読みにくいが、確かに帝国語が書き込まれていた。

 三人が慌ててヤンを振り返る。
 上半身裸の彼は、さっきまで締め上げられていた首をさすりながらも、空に浮かぶ物体
を凝視していた。
「て…帝国の、銀河帝国の強襲降下艇だっ!」
 それは大気圏内飛行用のデルタ翼を持った、惑星制圧専用艇。聖地の雷撃に焼かれた跡
で見えにくいが、表面にはローエングラム王朝の王朝旗であるゴールデンルーヴェ (黄金
獅子旗)が記されていた。


  《提督ぅー!》


 突如、若い男の声が響いた。
 女性達には、その声が何を叫んだのか分からなかった。何故なら全く聞いた事のない言
語だったからだ。
 ヤンは聞き違いかと思った。だが彼がその声を聞き違える事は有り得なかった。
「ま・・・まさか、ユリアン!ユリアンなのかっ!?」

  《提督!ご無事ですか!?・・・えと、とってもご無事のようですね》
  《ヤン先輩!どーやら間に合った…かな?》
  《いや、もしかして、邪魔したんじゃないか?》
  《せっかく提督が結婚という牢獄から逃れ羽を伸ばしていた所、全く持って申し訳あ
  りませんなぁ》

 次々と響いてくる同盟公用語の声は、彼がもう一度会いたいと願い、そして諦めた人々
の声。ユリアン、アッテンボロー、ポプラン、シェーンコップ…その他の懐かしいイゼル
ローンの面々だ。ヤンが夢にまで見た故郷の仲間達の声だ。
 ただ、今その声を聞く事は、死線を共にくぐり抜けた友人達に再会する事は、湧き起こ
る嬉しさに加えて災厄の予感が付きまとった。
「その!みんな、来てくれたの…かい?と、言うか、あの…もしかして…」
 彼の言葉は、途中で止まる。
 その後を続けるのが、聞きたい事を聞くのが恐ろしかった。
 いや聞くまでもない事だ。だが聞きたかった。彼の予想が外れている万に一つの可能性
を求めて。

  《私から説明する》


 突然、聞き慣れない男の声に切り替わった。その口調は感情が欠けている、というより
氷の針が植え込まれているような印象があった。
 ヤンは同盟・帝国を通じ、このような声と口調の人物には一人しか思い当たらない。
「もしや…パウル・フォン・オーベルシュタイン、元帥?」

  《そうだ。名乗るのが遅れて失礼した。この無人降下艇は装甲を強化した際に立体映
  像投影装置を取り外したため、音声しか送れない。
   かい摘んで現在までの経過を話す》

 感情の欠けた声が、ヤンのサモン・サーヴァントによる次元転移以後の経過について説
明し続けた。それは、大体においてヤンが予想し、そして期待した展開だった。それでも
帝国とイゼルローンが手を組み、自分を必死に探してくれた事には感動と感謝で涙がでそ
うになった。
 ところで、これらの話は帝国公用語で語られた。なのでルイズ・ロングビル・タバサ・
シルフィード・デルフリンガーには何を言ってるのか全く分からない。帝国公用語が分か
るシエスタでも、ほとんど理解出来ないような内容だ。
 彼等は黙って、感動しきりに頷いて話を聞くヤンを見つめ続けていた。


「・・・というわけで、あの船が通る分だけのゲートを広げることにしたんだ。なので、
必要な艦の数を大幅に減らせたんだ。丸二日の予定が、こんなに早くゲートを通って船を
送ることが出来た、ということなんだって」
 ヤンはルイズとシエスタとタバサとデルフリンガーと、服を着たロングビルにオーベル
シュタインの話を通訳して説明した。彼も上着を再び身に着けている。シルフィードも耳
を傾けている。
 彼等は話に驚き、不安やら期待やらを隠しきれない様子で聞き続けていた。
「おっでれーたなぁ!
 なあヤンよ、するってーと、おめーはまだしばらくは故郷に帰れねーということか?」
「そうだね、今のペースだと、ワープで帰れるようになるまで、いつになるか分からない
みたいだ」
 その言葉にヤンを慕う女性三人は安堵のため息をつく。

 ふと遠くから、大きな話し声が近づいてくるのが聞こえる。
 ふもとを見ると、船を指差しながら数人がこちらへ向かって斜面を登り始めていた。村
の方でも見慣れぬ船が浮いているのに気がついたようだ。

  《さて、そちらの説明が済んだなら、こちらの話を続ける》

 再びドライアイスのように冷たい声が響き渡った。

  《ヤン・ウェンリー。卿の早急な身柄奪還がなしえない以上、それまでの間、警護の
  人間を送る必要がある。だが、先ほど説明したとおり、現段階でそちらの宇宙へ移動
  すると二重遭難に陥る。
   このため、警護の人選は志願者の中からこちらで最小限に厳選した。先ほど完成し
  たばかりの小型艇で、そちらへ向かっている》

「志願者から、厳選・・・ですか?」
 ヤンは誰が来るのだろうかと予想してみる。
 今さっきの通信回線に出てきたのは、ユリアン・アッテンボロー・ポプラン・シェーン
コップ。なら彼等は司令所にいるのだろう。彼ら以外となると、誰かローゼンリッター隊
員だろうか?

  《卿の良く知る人物であり、例え帰還不能という二重遭難の事態に陥っても皆の納得
  を得られる人物だ。何より、本人の強い希望だ。もうすぐそちらへ向けて、大気圏に
  突入する》


 いったい誰がくるんだ?
 彼は記憶を検索する。脳内には様々な人物の顔写真が流れていく。だが、どれもヒット
しない。いや、実は最初からヒットしている人物がいるのだが、あえてその人物以外の可
能性を探しているのだ。
 なぜなら、その人は、オーベルシュタインの言う条件に最も適合する人物であり、ヤン
が最も再会を切望した人物だから。かつヤンが今一番会いたくない人物であり、あのオー
ベルシュタインなら絶対に送り込むであろう人物だから。

 そう、帝国もイゼルローンも、数十時間前からハルケギニアを、そして中央広場での戦
闘以後は自分を衛星からモニターしていたのだ。ずっと監視していたんだ。
 だとすれば、ついさっきも・・・さっきのことが司令所のモニターに大写しになってい
た・・・みんなが、見ていた・・・。
 カチッと音を立てて、また音声が切り替わった。

  《え~っと、ですね。先輩…それで、なんというかですね…》
  《うん、僕達も止めたんです。でも絶対に提督の所へ行くって、聞かなくて》
  《そうだよな、俺たちも止めたんだよ。けど、ブラスターまで引き抜くからなぁ》
  《まぁ、そういう事なので、これも色男の特権と思ってよいでしょう》

 次々と彼の息子や後輩や部下達が不穏当な事を言う。しかもなにやら、故意に結論をは
ぐらかしている。
 ヤンの手は、ブドウの木に引っかかっていたデルフリンガーへと伸びていく。

  《というわけで、提督。頑張って逃げ》
  ドゴンッ!
 突然、強襲降下艇が火を噴いた。ユリアンの声は話の途中で途切れ、代わりに爆発音が
響き渡り爆風が降下艇の下にあった全てを吹き飛ばす。
 三角を描く降下艇のボディに、いきなり大穴が開いて炎を吹き出したのだ。降下艇は浮
力を失い、直下に出来たクレーター中央に墜落した。

 降下艇は天空から砲撃を受けたのだ。
 そして空の彼方には流れ星のようなものが見える。その流れ星は、徐々に大きくなって
いく。真っ直ぐにタルブへ向けて落下しているとしか見えない。
 ヤンはデルフリンガーの柄を握りしめ、一目散に駆け出そうとした。



  《 あ   な   た 》



 逃げようとするヤンの頭上から、女の声がした。
 突然の爆発に吹き飛ばされた女性陣も、麓から慌てて駆け上がってきた村人達も、ヤン
の目の前に舞い降りてくる物体を見た。

 それは白銀に輝く針とでも言える形をしていた。全長10メイルはある、巨大な鋭い針
のようだ。人一人しかくぐれない大きさのゲートを拡大せず通過するために、ボディを極
端に細くしてある。かつ土と岩の壁を突破して精霊から逃げるための貫通力・突進力を得
るよう、先は硬く鋭くなっている。
 その白銀に輝くボディの一部が透明になっていく。透き通ったキャノピーの中には、操
縦席に座る女性の姿が見えた。
 ルイズ達学院から来た人は知っている、女性が着ている服はヤンが召喚された時に着て
いた軍服と同じデザインだ、と。それは同盟軍の軍服。ヘイゼル(淡い茶色或いは赤みが
かった褐色)の瞳と金褐色の髪を持つ、美しい女性軍人だ。

「ふ・・・ふれ・・・フレ、デリ…カ」
 ヤンの声は嬉しさと、何より恐怖で引きつっていた
 フレデリカ・グリーンヒル・ヤン。14歳の時にエル・ファシルで出会った21歳のヤン
中尉に一目惚れ。25歳でヤンと結婚した、現イゼルローン共和政府代表たる才女。

  《・・・本当に、久しぶりね、あなた。きっと生きてるって信じてたわ》

 その女性の声は引きつっていなかった。だが、再会を喜ぶような口調にも聞こえなかっ
た。満面の笑みをたたえているのに、絶対に笑っていないと断言出来た。

  《あなたが見つかったって聞いて、急いでイゼルローンから駆けつけたのよ。その時
  の私の嬉しさ、分かるかしら?》

 ヤンはカクカクと頭を上下させる。腰が抜けて地面にへたり込んだまま。
 右手に握るデルフリンガーが手の震えでカタカタ音を立てている。

  《そしてね、オーベルシュタイン閣下が司令官席へ連れてきてくれたの。今、皇帝陛
  下は病気療養中だからって、代わりに、私を司令官席へ、ね。
   そうしたら、ね。あなたが映ってたの。生きて、無事で、元気なあなたがいたの。
  二ヶ月ぶりに見たあなたは、とっても元気そうだったわ。ええ、それはもう、他の女
  と仲良くするくらい》

 ルイズ達や駆けつけた村人など、周囲の人々もハルケギニア語で話される女性の言葉は
理解出来た。ゆえに、彼等は他の事も理解出来た。
 彼の為に遠い国から妻が来た…が、夫は現地妻と浮気中だった。
 同情と軽蔑の目がヤンに集中する。尻餅をついたまま、じりじりと小型艇から後退して
いく浮気者に。

  《・・・もちろん、あなたも辛かったんでしょうね。そんな異次元に飛ばされて、一
  人で必死に生きていこうとしてたんでしょう?それでも寂しかったから、ほんの遊び
  で、ただの気の迷いで…そうよね?》

 カシュン…と音がした。
 ボディの一部が開き、中から何か鉄の棒のようなものが突き出た。
 それは、砲身だった。先ほど上空から降下艇を一撃で沈めた、、レールガンの砲身。
 その砲口は、真っ直ぐにヤンへ向けられていた。

  《そうよ…ね?》
 フレデリカは、再び同じ問をする。ヤンに銃口と笑顔を向けながら。

 彼は妻の姿を見る。今ですら、昔と変わらぬ微笑みを向けてくれる、愛しい妻を。
 次に彼はマチルダを見る。あまりにいきなりな事態に言葉もない、愛する恋人を。
 彼が愛する女性達の間で、潤んだ視線が無様に彷徨う。

 そして彼は、走った。

 デルフリンガーを握りしめ、左手のルーンを輝かせ、ガンダールヴを全開にして。
 彼が愛した女性達に背を向けて、風のごとき速さで逃げた。


  《をほ》


 呆気に取られた地上の人々の間に、妙な声が響く。

  《をほ、をほほ》

 どうやら、それはヤンの妻が発する笑い声だったらしい。らしい、というのは、操縦席
のキャノピーが再び白銀に輝き、中の女性が見えなくなったから。だが、確かに声は小型
艇から響いていた。
  《をほほほほほ、をーっほほほほほをほをほをほほほほ!》
 不気味な笑い声を響かせる小型艇の砲身が僅かに動く。先ほどヤンが走り去った方向に
向け、照準を合わせたのだ。

  ドゥンッ!

 銃口が火を噴いた。
 その瞬間、周囲にいた人々は衝撃波で吹き飛ばされた。あまりの轟音に耳鳴りが止まな
い。
 遙か彼方へ飛んでいく銃弾は、射線上にあるブドウの木を全てなぎ倒してく。
 そして、山向こうに着弾した弾丸が、舞い上がる土煙と斜面の大穴を生む。
 数秒して何か雄叫びの様な、こだまが聞こえてきた。

  ぶりみるのばかぁ~・・・

 どうやら、音速を遙かに超える弾丸を避けつつ、魂の叫びを発したらしい。
  《をーっほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほっっ!!》
 小型艇は甲高い音を上げて飛び去る。男の叫びが聞こえてきた方へ。
 少しして、山頂から山の麓まで連続して土煙が上がった。数秒遅れて炸裂音が響いてく
る。逃げ回るヤンにフレデリカが容赦なく弾丸を浴びせているらしい。いや、わざとギリ
ギリに外していたぶっているのかも知れない。



「何故だあーーー!何故僕がこんな目にあうんだあーーーーっ!!」
 デルフリンガーを握りしめ、ガンダールヴの肉体強化を最大限に利用し、ヤンは戦略的
撤退を余儀なくされ続けていた。
 彼の背後、横、前、足下にも容赦なくレールガンの弾丸が浴びせられる。それを人間の
範疇を超えた体力と反射神経、何より動物的カンでかわし続ける。ヤンの人並み以下なは
ずの肉体は、人生全ての力を今この一瞬に出し切るかのように、超人的働きを見せ続けて
いた。
 こんな時だというのに、レールガンの一撃を食らえば伝説の剣も粉々に砕けるかもしれ
ないのに、デルフリンガーはカチカチとツバを鳴らしてヤンに話しかけてくる。
「いいぞー、いいぞ相棒ー。その調子だー。『ガンダールヴ』の力は心の震えで決まるんだ
ぞー。
 いやー、すげえ心の震えだわ。これは怒り、後悔、恥辱、罪悪感つーとこか?まーな、
そりゃ心を震わせりゃなんだって良いんだけどな。実際、ここまでの心の震えはオレっち
見た事ネーや。
 おでれーたねぇ、こんな事で伝説の使い魔の力を発動されるとは、ブリミルもビックリ
だろうよ」
 長剣の言葉は、あまりにも白々しい。最初から最後まで棒読みだった。
 そんな神経を逆撫でする長剣の言葉に憎まれ口を返す余裕は、今のヤンには無かった。
「ブリミルのバカぁーーーっっ!!」
 浮気男の虚しい叫びが夕方の山に木霊する。だがその叫びも、レールガンが大気と大地
を穿つ音にかき消されるのだった。




 ステーションの司令室でも、妻に浮気がばれて逃げ回る夫の姿が大画面に大写しされて
いた。
 その様を、司令席横に立つ冷徹なる義眼が冷たく見つめ続けている。同僚達からは尽く
嫌われている軍務尚書は、レールガンの砲撃から逃げまどう宿敵の姿に、何の感情も感傷
も交えず観察を続けているようだ。
 司令席後方に控えているヒルデガルドは、いや司令席下のオペレーター達も、帝国同盟
の軍人達も、そんな冷徹極まりない「正論だけを彫り込んだ永久凍土上の石版」と評され
る男へ恐怖の視線を向けていた。そして彼等の足は先ほどから数歩ずつ、オーベルシュタ
インから離れていく。

「こいつとだけはやり合いたくない…勝てるわけがない」

 誰かがそんな言葉を呟いた。かつて、とある帝国軍将校が似たような言葉を口にしてい
た。だが今は、誰の発した言葉かは分からない。誰の言葉でも不思議はない。誰もがそう
思っていたから。特に妻帯者が。
 自らの手を全く汚さず、政治的な手段ですらなく、旦那の浮気を目撃して逆上した女房
に帝国の宿敵を始末させる。他人の家庭の問題なので、帝国が非難を受ける謂われは全く
ない。
 あまりにあまりなやり口に、誰も言葉が出てこない。
 そんな静寂の中、画面の中では未だにヤンが逃げ回っていた。




 夕暮れ空の下、女性達は溜息とともに肩を落とした。
 緑の髪が俯く顔を覆い隠す。

「はぁ~…短い恋だったわ…」

「え!?ロングビルさん、諦めちゃうんですか!?」
 黒髪の少女が驚いて左を見る。
 ロングビルは右のシエスタへ、力なく微笑んだ。
「ああ…もともと、あいつが女房の事を忘れられないのを承知で迫ったんだよ。それでも
ヤンが好きだ、全部ヤンの好きにして良いって。だから、あいつはあたしを抱いてくれた
んだ。
 女房が来たなら、あたしは身を引かないとね…」
「えー!なにそれ、それでいいの!?」
 今度はロングビルの左にいるルイズが叫んだ。
「しょうがないさ、そういう約束なんだから。
 でも、そうだなぁ…このまま別れるのもしゃくだわね」
 後ろで聞いていたタバサが首を傾げる。
「どうする?」
 青い髪の少女を振り返り、ロングビルはウィンクした。

「殴る」

 一瞬言葉を失った少女達に、女はさらに言葉を続ける。
「あいつを力一杯ぶん殴って、わんわん子供みたいに泣いて、それから忘れる事にする。
正直、時間かかるけどね」
 それを聞いたシエスタはすっくと立ち上がった。
「なら、私も思いっきりひっぱたいちゃいます!私も、それくらいしていいはずです!」
 ついでにルイズまで立ち上がって握り拳を突き上げる。
「なら私だってやっちゃうんだから!乙女の純情の重さ、思い知らせてやる!」
 おーっ、という黄色い雄叫びが赤い空に溶けていった。

 そんな声に引き寄せられたかどうか知らないが、土煙と炸裂音、そして宙に浮く白銀の
小型艇がルイズ達の方へ戻ってくる。
 ロングビルがやれやれ…という感じで立ち上がる。
「まぁ、まずはあのバカ夫婦を止めようかね」
 シエスタも土をスカートからはたき落とす。
「そうですね。でも、どうやって止めますか?」
 ルイズは、明らかに風竜より早く飛ぶ小型艇へ杖を向ける。
「んじゃ止めるから、受けとめてね」
 言うが早いか、ルイズはルーンを唱え出す。

 ヤンを追い回す小型艇の前に、いきなり光の塊が現れた。
 回避する間もなく小型艇は光に飲み込まれる。

  ちゅどーん


 小型艇は爆発した。
 地面に墜落しそうになった操縦席部分を、ロングビルとタバサ、そして騒ぎを聞きつけ
て集まってきていた他のトリステイン軍メイジの『レビテーション』が受け止める。そし
て地上に降ろされた。
「ひぃ・・・へぇ・・・はぁ・・・」
 走ってきたズタボロなヤンが、ようやくルイズ達の前に止まり、ひっくり返った。

 パシュンッと何かが弾けるような音と共に操縦席のキャノピーが開いた。もうもうと黒
煙を吹き出す操縦席から、髪が黒くチリチリに焦げたフレデリカが降りたつ。
 それでも彼女は地面に大の字になるヤンへ駆け寄り、跪いた。
 そして、抱きついた。
「…会いたかったわ、あなた」
「ごめん、フレデリカ…心配させて、ゴメン」
 夫も、疲れ果てた腕で妻を抱きしめた。

 夕日が赤く染めるブドウ畑。砲撃ですっかり荒れ果てたが。
 再会を喜びあう夫婦。ススで全身を黒く染めた妻と、追い回されて疲れ果てた夫。
 間抜けな展開に呆れた人々が眺める中、二人は抱き合い続けた。




 数日後、魔法学院。
 五芒星を描く学院の塔が、雲の合間からのぞく朝日に照らされている。
 学院の壁の外側に、黒こげになった金属の塊が幾つか置かれていた。ルイズの魔法で破
壊された小型艇と強襲降下艇の残骸だ。他に、未だ白銀の輝きを失わない小型艇も数機横
たわっていた。

 水の塔の一室から、若い男の笑い声が響いていた。
「全く、笑い事ではありませんよ、閣下」
 笑い声はベッド上に置かれた通信機の立体モニターから漏れていた。ベッドの主たるヤ
ンは、体中を包帯で巻かれた状態で上半身を起こしている。ベッドの横にはルイズ、ベッ
ドの端に立てかけられたデルフリンガーがいる。

  《いやいや、笑って済まなかった。しかし、私がついに勝利を勝ち取れなかった同盟
  軍最高の智将が、まさか、浮気がばれて死にかけるとは…》

 そういってモニターに投影される金髪の若者は、再び笑い始めた。ヤンと同じくベッド
上で体を起こしている皇帝ラインハルト一世は、おそらく、ここ数年来は無かったであろ
う勢いで腹を抱えて爆笑し続けた。
 その様に憮然と腕組みするヤンは、やけくそ気味でルイズと長剣に帝国語の会話を通訳
する。
 ひとしきり大笑いした皇帝は、従卒から受け取った水を一気に飲み干した。

  《ありがとう、エミール。
   いやはや、ともかく、無事で何よりだ。正直、地球教徒に邪魔されゲート事件で宇
  宙から消失したと分かった時には、もはや我等の会見は為し得ぬものと諦めつつあっ
  た。モニター越しとはいえ、再び出会えたのは幸運と言うべきだろう》

「全くです。ですが、まだまだです。無事に私が元の宇宙へ帰還し、直接に閣下と会見で
きたとき、私は自分の幸運を喜ぶとしますよ」

  《そうだな、全く卿の言うとおりだ。だが、それはかなり先の事となる。それまで卿
  には死んでもらっては困る…いや、オーベルシュタインの件は申し訳なかった。奴に
  は私から処罰を下すとしよう》

「いえ、それには及びません。何しろあの人のおかげで妻と再会出来たのですから」

  《そうはいくまい。ところで、件の奥方はどうしているか?》


「厨房です。私に手料理を作ると張り切っていましたが…恐らく、かまどの使い方すら分
からず四苦八苦していることでしょう」

  《そうか、卿も苦労をしたのだろうな》

「ええ、それはそれはもう、本当に苦労しましたよ。でも、こちらにいる私の新しい雇用
主が、ずっと私を守ってくれました」
 そういってヤンは、隣で椅子に座るルイズを紹介する。
「ハ、ハジメマシテ。ワタシハ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリ
エール、デス。ヤン、ノ、アルジヲ、シテイマ、ス」
 ルイズは、恐らくは何度も練習したであろう拙い帝国語で自己紹介した。柄にもなく緊
張するルイズ。「そんなに硬くなんなよ~」と声をかけるデルフリンガーは軽く蹴飛ばされ
た。

  《うむ、予は銀河帝国皇帝ラインハルト1世だ。
   予の宿敵たるヤン・ウェンリーの命を救い、庇護し続けたとの事。予からも礼を言
  わせて欲しい》

 そういってラインハルトはモニターを覗き込むルイズへ向かって頭を下げた。金髪を輝
かせる美貌の皇帝に礼をされ、ルイズも真っ赤になって照れてしまう。
 頭を上げたラインハルトは、目を輝かせてヤンへ向き直った。そして部屋の隅に控えて
いた従卒のエミールも近くへ呼び寄せる。

  《さて、先ほど話したとおり、卿へは今後も小型艇で護衛と物資を送る。それで座標
  算定が終了して迎えを送れるようになるまで凌いでもらいたい。
   その間、かなりの時間がかかると思う。この時間を有効活用するためにも、卿から
  の情報に期待している。帝国、旧同盟、イゼルローン…卿の話で宇宙は持ちきりなの
  だ。皆、異世界の話に飢えている》

「承知しています。時間はあるのですから、この魔法世界の事、これからの両宇宙の事、
沢山話せますよ
 まずは、早急にエルフ達と聖地の件について・・・」


 その後も、ヤンが語る魔法世界の冒険譚にラインハルトもエミールも耳を澄ませて聞き
入った。
 途中で黒こげになった手料理を運んできたフレデリカや、彼女にかまどの使い方を講釈
していたシエスタ、学院の外に置いてある小型艇と降下艇について尋ねたくてしょうがな
いコルベールやエレオノールなど、沢山の人を交えて、話は尽きる事がなかった。


            第28話    黄昏から暁へ   END


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