あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-09


「あ゛ーーーーーーーー!?」
ズドン!と地面を揺るがすような音が響いた。
ルイズは草原の一角にできた人型の穴を見て、口をあんぐりと開いて固まっている。
キュルケはわざとらしく手で顔を覆い、あちゃぁと呟いた。
そしてタバサは、シルフィードの背から地面を見下ろして「失敗」と呟いた。
時刻は夕方……高度100メイルから落下した人修羅は、地面の中でモグラの気持ちを味わっていた。

■■■

「いやぁ土の上に落ちるなら痛くないと思ったけど、けっこう痛いね」
地面にできた穴から、人修羅がはい上がると、そんなことを呟いてルイズ達を呆れさせた。
「無茶するわね、それで『レビテーション』は使えた?」
地面に座っている人修羅に向かって、キュルケが中腰になり質問すると、人修羅は両手を左右に開いて首を振った。
「ぜーんぜん駄目。タバサさんに教えて貰ったけど、いまいち魔力…精神力の流れが掴めないんだ。再現はできてるはずなんだけど、上手くいかないんだよ」
ちなみに今、人修羅は召喚された時と同じ姿でいる、服はシルフィードの背から飛び降りる前にタバサに預けていた。
地面に降りてきたシルフィードが、きゅいきゅいと鳴きながら尻尾を人修羅に向ける、人修羅は尻尾にぶら下げられた上着を手に取ると、立ち上がって身体の埃を落とし、服を羽織った。

「ねえ、そこまでして、空を飛びたいの?」
「飛びたい」「飛びたいわよ」
キュルケの問いかけに、人修羅とルイズがそろって答えた。
「そこまで言うなら止めないけど、ルイズ、あんたが真似したら死んじゃうわよ」
そう言いながらキュルケは人修羅を指さした、ルイズはむっとした顔になると、多少ムキになって反論する。
「いくら私でもこんな無茶しないわよ!」
「ははは、俺だってこんな無茶他人にさせたくないよ。……ああ、そうだ、今日はありがとうタバサさん、それとシルフィード」
人修羅が頭をぽりぽりと掻きつつ呟くと、シルフィードはきゅいと鳴いて返事をする、タバサは無言のまま顔を俯かせたが、十秒ほど経過したところで顔を上げて人修羅の眼をまっすぐに見つめた。
「べつにいい。その代わり、後で私の質問にも答えて」
「いいよ」
人修羅があっけからかんとした表情で答える、が、内心ではタバサの態度と言葉を分析していた。
タバサの気配はとても”重い”、小柄な身体とおとなしい性格からは想像も出来ないほど混沌としたものを腹に抱えている。
理不尽な目に遭いながらも、それを少しずつ受け入れて生きようとする人間の力、それがタバサからは人一倍強く感じられた。

だが、それを聞くのは後だ、今は日課となっているルイズの魔法練習をしなければ……

■■■


「さーて、んじゃ練習やろっか」
「うん」
人修羅がルイズの隣に立つと、ルイズはおもむろに懐から杖を取り出し、虚空に向けた。
「あ、その前に…せっかくだからタバサさんとキュルケさんにも手伝って欲しいんだけど」
「私にも?あら、ツェルプストーはヴァリエールの仇敵ですのよ?」
そう言って笑みを浮かべるキュルケ、ルイズは少しむっとした表情になったが、それをタバサが制してくれた。
「手伝う。何をすればいい?」
「魔法を唱えて欲しいんだ、簡単な奴でいいから、できるだけゆっくり、しっかりとした発音で」
人修羅の言葉を聞いて、タバサがうなずく。
杖の頭を草原に向けながらタバサは精神を集中させた。

「………ラナ・デル・ウインデ」
タバサがゆっくりと、正確な発音で呪文を唱えると、ドン!と音が響き、草原に土煙が上がった。
空気の固まりをぶつける『エア・ハンマー』が直撃した場所は、草花が飛び散り直径1メイルほどの地肌が見えていた。
「もう一度、こんどはそよ風を起こしてくれないかな?」
タバサはこくりとうなずいて、もう一度呪文を詠唱した。
「ウインデ」
ふわりと風が舞う、土埃はタバサの作り出した風に運ばれ、まるで霧散するように消えていった。
「ありがとう。だいたい音の流れは分かった」

人修羅はお礼とばかりにタバサの頭をなでる。
タバサは突然のことで何の反応もしていないが、シルフィードはその様子を見て羨ましそうにしていた。

「ちょっと、何が分かったのよ」
ルイズが人修羅の背中を杖で突っつく、どこかその口調が不機嫌そうなので、キュルケは内心で『あれは嫉妬ね』と考えつつにやにやと笑みを浮かべた。

「ああ、大僧正って仲間から魔法のコツを教わったことがあってさ、それを活かしてみようと思ってね」
「ダイソウジョウ?あなたの仲間も不思議な名前してるのね」
ルイズが思ったことをずばずばと言う、しかし、考えてみれば役職や官位がそのまま名前になっているようなものだ、人修羅は苦笑しつつ答えた。
「ハルケギニアだと…枢機卿とか、それぐらいの意味になるんじゃないかな」
「枢機卿? それで、その、ダイソウジョウって枢機卿は何を教えてくれたのよ」

「微妙に意味が食い違ってるけど、まあいいか……とりあえず話を進めよう。まずはさっきの呪文を思い出してくれ、ラナ・デル・ウインデ」
「ラナ・デル・ウインデ。エアハンマーのルーンでしょう」
「風を起こす呪文『ウインデ』が後に来てるよね。これはおそらく、最初に風を起こしてからハンマーのように固めるのでなく、ハンマーのような固まりをイメージしてからそこに風を当てはめているんだと思う」
「…?」
「オスマン先生から聞いたんだけど、虚無の魔法って詠唱にものすごく時間がかかったらしいんだ。ならそれに習って、詠唱に時間をかけてみたら良いんじゃないかな」
「時間をかけて…か、ゆっくり唱えればいいのね」
「いや、時間をかけるだけじゃだめだ、試しに『ラナ・デル』だけ唱えてみてくれないか」
「わかったわ」

ルイズが杖の感触を確かめ、草原に生える適当な草にねらいを定める、距離は約3メイルとごく近いが、ルイズの起こす爆発は狙いが定まらずどこに暴発するのか分からない。
キュルケとタバサは、あらかじめ十歩ほど後ろに下がって巻き添えを回避しようとしていた。

「ラナ・デル………………………………」

「何も起こらないわね?」
キュルケがタバサの隣で、いぶかしげに呟いた。タバサはその言葉に反応することなくじっとルイズの方を見ている。

「ルイズさん、それじゃ、『ラナ』で空気の壁を。『デル』でその壁が球体になるようにイメージして、もういちど唱えてくれないか」

ルイズはこくりとうなずくと、杖をしっかりと握り直して、呪文を唱えた。
「ラナ……デル……」
「もう一度」
「ラナ…デル…」
「もう一度!」
「ラナ・デル」
「もっと堅く、集中して!」
「ラナ・デル」
「まだまだ!」
「ラナ!デル!」
「詠唱しろ!」
「ラナ!デル!」


ルイズがひときわ強く呪文を詠唱した時、ルイズの身体から人修羅だけに見えるエネルギーが発散された。
そのエネルギーはルイズの杖が指し示す場所固まり、ほんの一瞬だけ空気をそこに閉じこめた。

「はぁッ、はぁ、はぁ…何、今の、なんか、今、身体から」
未体験の感覚に驚いたルイズは、身体を震わせて人修羅の顔を見あげた。
「落ち着いて、今のが魔法の感覚さ、身体から放たれた魔法の力が、目的の場所で再集結したんだ」
「確かに、自分にあった系統魔法を唱えると、身体の中を通り抜けるような心地よさを感じるって聞いたことがあるけど、今のは……身体から何かが出ていく感じだったわ」

話を聞いていたキュルケがあ、と声を上げた。
「あっ、じゃあ、ルーンを詠唱しても爆発しないのは、風系統がルイズの魔法って事なの?」
「違うと思う。あれはただ、魔法が放たれていないだけ。彼はきっと狙いを定めるために余分な詠唱を繰り返させて、イメージを作ろうとしている」
タバサが呟くと、人修羅がにこりと笑った。

「タバサさんの言ったとおりだ。じゃあ、今度こそ成功させよう。『ラナ・デル』を繰り返して、風を閉じこめる球体をイメージするんだ。俺が「いい」と言ったら『ラナ・デル・ウインデ』と全部詠唱をして」

「わっ、わかった、わ」
肩で息をしていたルイズがうなずく。
ルイズは集中力を高めるべく深呼吸を数回繰り返してから、杖を握りしめ、草原の一点に杖を向けた。

「ラナ・デル…ラナ・デル…ラナ・デル…ラナ・デル…ラナ・デル…」
ルイズが詠唱を繰り返す、その隣で人修羅は、ルイズの身体を流れるエネルギーを感じ取ろうと神経を集中させていた。
キュルケも、タバサも、ルイズの姿に釘付けになっている。
いつもならルイズを馬鹿にするキュルケだが、今日ばかりはそんな気も起きない、キュルケにしては珍しく知的好奇心が優先されているらしい。

「もっと、ラナで壁を作り、デルで幾重にも重ねるんだ」
「ラナ・デル・ラナ・デル・ラナ・デル・ラナ・デル・ラナ・デル…」
「渦巻きのように、風の流れをイメージするんだ、杖の指し示す場所がその中心になるように……」
ルイズの身体の中に流れるエネルギーは、巨石に囲まれた谷間を流れる水のように、あるところでは緩やかに、あるところでは勢いよく流れていた。
だが、呪文の詠唱を何度も何度も繰り返すうちに、身体の中に浸透したリズムがエネルギーを淀みなく流転させていた。
「…よし!」
「ラナ・デル・ウインデ!」

ズドォン…と、爆音が響く。
その音はルイズが起こした爆発が原因だと、だれもが理解していた。
しかし、草原に空いた穴は爆発で地面が吹き飛んだ訳ではなかった、空中に現れた爆発、そのエネルギーが四方八方に散らばらず、地面に向けて叩きつけられた。
タバサの放ったエア・ハンマーよりも貫通力に優れた、一点集中の爆風が地面に穴を開けたと言えるだろう。

「やった! ちゃんと狙い通りでき たわ よ」
ルイズは喜びの声を上げて、その場で飛び跳ねた、くるりと振り向いてキュルケ達に目を向け、さぁどんなものだと思ったところで…意識がとぎれた。
力を失って地面に倒れ込みそうになったルイズを、人修羅が抱きかかえる。

「気絶しちゃったの?」
キュルケが近づき、ルイズの頬を人差し指でぷにぷにと突いた。
「こんな方法で魔法を使った事なんて、今まで無かっただろうし、一気に精神力を消費したんだろう。気絶も仕方ないよ」
そう言うと人修羅はルイズを両手で抱き上げた、俗に言うお姫様だっこという奴だ。
「さて、今日のところは戻ろう」
人修羅が歩き出そうとすると、タバサがくいくいと人修羅の袖を引き、杖でシルフィードを指した。
「乗って。シルフィードの方が早い」


■■■


タバサの協力で難なくルイズを運んだ人修羅は、ルイズを部屋に寝かせると部屋を出た。
学院長室にいるであろうオールド・オスマンに話をすべく、本塔へと向かう。
本塔の入り口にさしかかったところで、夕食の後片付けを終えたシエスタが人修羅の姿を見つけた。
「あ、人修羅さん…」
そのとき、シエスタの表情には躊躇いか困惑が浮かんでいた。
「シエスタ?どうしたの」
「いえ…あの、何かありましたか?」
「いや厨房じゃないんだ、ちょっと学院長に報告することがあってさ」
「そうでしたか…」

シエスタは両手を腰の前で組み、何かを言いたそうにもじもじしていたが、すぐに「失礼します」と言って立ち去ってしまった。
「……なんかあったのかな」
人修羅は腑に落ちないものを感じながらも、とりあえずは今日の練習でルイズが使った魔法について、オスマン先生に報告すべく本塔の階段を上っていった。

螺旋階段を上り、学院長室の前に立つと、中からゴシャッと頭蓋骨が粉砕骨折するような音が聞こえてきた。
嫌な予感で冷や汗を垂らしつつ、学院長室の扉をノックする。
「人修羅です。ちょっとお話が」

すると、がたごとと音が聞こえてきた、慌てて家具の位置を直すような音だ。
「開いておるよ、入ってきなさい」
「失礼します」
扉を開け、学院長室の中を見渡しても特に変わったところはない。
ロングビルさんの椅子が粉々に砕けていても、いつものことだから気にすることはない
しかもその破片が学院長の机の上に散乱していても気にすることはない。
オスマン先生の使い魔、モートソグニルが鳥かごに閉じこめられ、助けてくれと視線で訴えかけてくるが気にしない。

大丈夫なのかこの学院…

「今日はどうしたかね?何か新しいことでもあったかの」
オスマン先生が机に肘をつきながら聞いてくる、頬の内側でも切ったのだろうか、少し喋りづらそうだった。
「それなんですけど、ルイズさんの魔法のことでちょっと」
「ふぅむ…ミス・ロングビル、今日はもう休んでよろしい」
「はい」
ロングビルが羽ペンのような形をした杖を振ると、宙に浮いていた鳥かごはぽん、と音を立てて消滅した。
中から飛び出したモートソグニルが慌てて学院長の机に飛び乗り、怖いものから身を隠すように机の下へと隠れていった。
「懲りないですねー」
「ふぉっほっほ、何のことかワシさっぱりわからんぞい」

■■■


「うぅん…あれ…部屋?」
ルイズは、学院の生徒ほとんどが寝静まる夜遅くになって、フッと目を覚ました。
ベッドから身体を起こし、月明かりの中で部屋を見渡したが、人修羅の姿はない。
時計を見て今が深夜であることを確認し、おもむろにベッドから降りて服を脱いだ、身体が少し埃っぽい気がしたので、風呂に入るため着替えを手に持って部屋を出る。
寮塔の螺旋階段を下りて外に出る、とぼとぼと本塔に向かって歩いていくと、本塔の脇から勝手口の開く音がした。
「?」
こんな時間に誰だろう、もしかして人修羅かと思ったルイズは、勝手口の方に足を向けたが、そこには人修羅ではなく一人のメイドの姿があった。
「あっ…何かご用でしょうか?」
「別に用って訳じゃないわよ。ねえ、ところで人修羅見なかった?ああ、人修羅っていうのは…」
「はい、全身に入れ墨の入った方ですね。今はミスタ・コルベールの研究室のあたりで、入浴中だと思います」
「入浴って、なんでそんなところで入ってるのよ…」
「あの、貴族様の浴場も使用許可は下りているそうなんですが、香りが強すぎるとかで敬遠していらっしゃいます。大鍋を利用して東方の”ゴエモン=ブロ”というお風呂を再現したとかで、いつもはそちらで汚れを落としているとか…」
「ふぅん…」
ルイズは、自分の知らない人修羅の話をするメイドを、じっと見つめた。
ハルケギニアの月明かりは、人修羅が人間だった頃に居た地球と比べ、かなり明るい。
目の前のメイドの顔立ちも、胸の大きさもしっかりと確認することが出来た。
「あなた、ずいぶん人修羅のこと詳しいのね」
「いえ、私だけではないです。人修羅様は厨房では珍しい東方の料理法など、いろんなお話を聞かせてくださいますから。マルトーさんをはじめとして厨房の皆にも気を遣ってくださいますし…」
「…あいつ、そんなことしてたんだ。私にはそんな話してくれないのに」
「あの、失礼を承知でお伺いしますが、ミス・ヴァリエールでいらっしゃいますよね。人修羅様は、ミス・ヴァリエールのことをよく気にしていました」

メイドの言葉に、ルイズが首をかしげる。
「どういう事?」
「…あの、私がこんなことを言うのは、恐れ多いのですが…」
「かまわないわ。……もしかして、私のことを『ゼロ』って言うとか、そんな話?」
「いえ!そうじゃないんです。人修羅様は、これまでも何度か、魔法でスープを引っかけられたり、パンを地面に落とされたりしていました。でもミス・ヴァリエールに迷惑がかかると言って、じっと我慢されて……」
「……そんな、そんなこと、わたし一言も聞いてないわよ!それに、あいつ、すごく強いって、ドラゴンにも負けないって、オールド・オスマンも言ってたのに!」
「自分が仕返しをしたら、ご主人様が悪く言われるからって……」

ルイズの表情に、言いようのない怒りと哀しみが浮かんだ。
頭の中は『なぜ?』という疑問で埋まっている。
なぜそこまで低姿勢なのか、なぜそこまで私を気にしているのか、ルイズにはまったく理解できなかった。
子供の頃から魔法が失敗続きで、使用人にまで馬鹿にされていたルイズだが、一人だけ庇ってくれる人がいた、それは姉のカトレアである。
カトレアは病弱で、ヴァリエール領から外に出るのは禁じられていた、しかしその優しい心とおっとりとした性格、細かい気配りは皆の信頼を集めており、ルイズを庇うカトレアを攻撃するものなど一人もいなかった。
しかし人修羅は違う、ルイズのためだと言って理不尽な虐めにも耐え、しかもルイズの前ではそんなことを気にする様子もない。

なぜそこまでしているのか?
ルイズにはそれがどうしても理解できなかった。

「……わかったわ。改めてあなたの名前を聞きたいのだけど」
ルイズは唇をぎゅっとかみしめると、キッと鋭い視線でメイドを射抜いた。
「わ、私はシエスタと申します」
「シエスタ。よく話してくれたわね。これから人修羅にも聞きに行くわ。シエスタもついて来てちょうだい」
「はい…」

■■■


そのころ人修羅は、コルベール先生の研究室脇に設置した五右衛門風呂に浸かっていた。
「ゆーげーがーてんじょかーらーぽたりとせなーかにー……あっ、これ天井ないや」
直径1.8メイル、深さ50サント程の大鍋を取り囲むように、高さ3メイルほどの煉瓦の壁が作られている。これはコルベールが練金したものだった。
人修羅はその見返りとして、メギドの石やアギの石などのマジックアイテム開発に協力している。
湿気がたまるのは良くないと考えて、あえて天井を作らずにいたが、これがなかかなか露天風呂の風味があって気分がいい。

「ちょっと人修羅!入るわよ!」
と、そこに突然カーテン状の入り口をめくりあげて、ルイズが入ってきた。
「うおおおおおおおお!?」
「きゃあああああああ!?」
「……(ぽっ)」
叫ぶルイズの後ろで、シエスタが顔を赤らめた気がするがあまり気にしてはいけない。
「なんだなんだ!何かあったのかね!」
慌ててパジャマ姿のコルベール先生が研究室から出てくる、と、そこには着替えを手にしたルイズと、風呂に入っている人修羅。
顔を赤らめつつも、ちらちらと湯船の中に視線を向けるシエスタ。

「ミス・ヴァリエール。その、メイジと使い魔は一心同体と言うが、しかし風呂までは……」
「ちちちちがいます!違いますってば!」
「いやそれぐらいの年頃なら恥ずかしがることも無いのです。ただ、あまり羽目を外されては」
「だから!違うんです!ひひひ人修羅も何か言いなさいよ!」

「ルイズさん、覗き?」

ルイズの爆発が爆発した。


■■■


「ひでえ目にあった」
ルイズが咄嗟に起こした爆発で湯船は空高く吹き飛び、たっぷり十秒間ほど滞空してから逆さまになって魔法学院の外へと落下した。
おかげでコルベール先生の研究室も被害を被ったが、自分の勘違いもあるので仕方ないと笑って許してくれたそうだ。
とりあえず鍋は無事だったので、研究室脇に立てかけておいた。
煉瓦の残骸はコルベール先生が片づけてくれたらしい……ますます頭が上がらないな。
それにしても、かなり大きな音がしたはずなのに誰も起きてこないってどういう事だろう…正門前にいる衛兵も来なかったし。
コルベール先生は『ミス・ヴァリエールの魔法で慣れているのでしょう』と言っていたが、それはそれで問題があるような気がする。


場所は変わって、人気のない本塔の食堂前。
ルイズは人修羅に指を突きつけて怒りをあらわにしている。
その隣ではシエスタがルイズと人修羅を交互に見て、気まずそうにしていた。
「あんたのせいよ!ああもう恥ずかしい…」
ぷりぷりと頬をふくらませて、人修羅を睨むルイズ。
恥ずかしさを誤魔化すために怒るなんて子供みたいで可愛いなあと思いつつ、人修羅は頭を掻いた。
「ごめん、冗談が過ぎた。…ところでなんか用があったんじゃないの?」
「あ、そうだったわ…シエスタから聞いたんだけど、あんた、変な嫌がらせされてるって本当?」
「……」
ふっ、と人修羅から表情が消えた、その空気の変化にルイズだけでなくシエスタもがとまどう。
「シエスタ、話しちゃったの?」
「は、はい、申し訳ございません」
「いや……いいんだ」

人修羅の顔を走る黒いラインが、うっすらと緑色に発光している。
その表情からは何を思っているのか想像できない、想像できないからこそ、ルイズは人修羅が何を考えているのか知りたかった。

「本当だったのね。 ……ねえ、どうして?どうして何も言ってくれないの?私は、私はあんたのご主人様なのよ、それなのに何で私を頼らないのよ、私ってそんなに頼りないの?」
ルイズの言葉は、まるで泣くのを我慢する子供のように震えていた。
両手をぐっと握りしめて、悔しそうに人修羅の顔を見上げた。


人修羅は、ルイズから目をそらさずにいた、それどころか殺気の混じるような厳しい視線をルイズに向け、静かに口を開いた。
「…俺が仕返しをしても意味は無い。俺は、ルイズさんがメイジとして認められた時こそ、彼らを見返したことになると思っている」
「わたし、が?」
「そうだ。こそくな手で、嫌がらせしかできない連中なんて、眼中に無い。まずはルイズさんが自分に自信を持つことなんだ。
それに俺が仕返しをしたらどうなる?この学院なんて消し飛ぶぞ、世話になった人達まで巻き込んで仕返しをするなんて、それが貴族の、いや人間のすることだと思うか?」
「そうだけど……でも…私に一言ぐらい言ってくれたって」
そっと、ルイズの肩に手を置く。
「そうやって俺のことを気にしてくれるのはとても嬉しい。けれども使い魔とメイジは一心同体と言っていただろう?
ルイズさんだって今までいろんな陰口に耐えてきた……なら俺も耐えるさ。そして一緒にあいつらを見返してやろう」
「………………」

ルイズは、ぽかんと口を半開きにしたまま、静かに頷いた。
その表情には躊躇いが浮かんでいた、今までルイズにこんな事を言った人は居ない。
優しい姉カトレアも、あこがれの婚約者ワルド子爵も、父も母も、使用人も、誰も……
情けないとか、悔しいとかではなく、あえて言うならカルチャーショックだろうか、ルイズは人修羅の言葉を聞いて、責任感や虚栄心などの余計な力がすべて抜けていくような気がしていた。

「シエスタ、ごめんな。夜までつきあわせちゃったみたいで。ルイズさんは俺が連れて行くから」
二人の様子を見ていたシエスタに人修羅が声をかける、シエスタは少し驚いたような表情で、慌てて頭を下げた。
「申し訳ございません、ミス・ヴァリエールに黙っていたことも、人修羅さんに口止めされていたことを喋ってしまったこともお詫び致します」
「しょうがないよ」
人修羅がそう言ってはにかむと、ルイズもまた顔を上げてシエスタの方を振り向いた。

「シエスタ。よく教えてくれたわ。貴方にも感謝しておかないとね」
ルイズは心の中で、シエスタに少しだけ嫉妬した、きっとシエスタは人修羅のことを凄く心配していたのだろう。
だから口止めされていたことを、わざわざ私に喋ったのではないか……
人修羅はとても慕われている、畏怖されることと慕われることは貴族として基本中の基本であり、同時にルイズにとって憧れでもあった。

「いえ。私たちも人修羅さん…人修羅様にお世話になっています。メイジの方々に頼むような力仕事に協力して頂いたり、珍しい東方のお話なども聞かせてくださいました。何かの形で恩返しをしたいと思って…」
申し訳なさそうに呟くシエスタに向かって、ルイズが微笑む。
「ありがと」
「えっ」
ルイズの呟きは、シエスタにとって意外なものだったのか、思わず聞き返しそうになった。
「……何でもないわよ、さ、もう遅くなっちゃったけどお風呂に入るわ。貴方も早く寝なさい、メイドって大変なんでしょ?」

「はい、では…お休みなさいませ。失礼をばいたします」

シエスタは深々と頭を下げると、宿舎へと戻っていった。


「まったくルイズさんは恥ずかしがり屋だなあ」
「な、何よ、いいじゃない別に…それより人修羅!今度から何かあったら私に言いなさいよね! 魔法を使いこなしてギッタンギッタンに見返してやるわ!」
「それ見返しじゃなくて仕返し」


■■■


部屋に戻ったシエスタは、同室の仲間に気取られないように、ベッドの中で涙を流した。
ベッドの脇には、シエスタの荷物がバッグに詰められている。
明日からは魔法学院でなく、彼女はモット伯という貴族の元で働くことになっていた。



新着情報

取得中です。