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ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-15


腹立たしい。まったくもって、腹立たしい。
肩を怒らせルイズは街を闊歩する。憤懣覚めやらぬとはこれの事、先ほどのキュルケの
勝ち誇った顔が頭から離れない。
「ツツ、ツェ、ツェプルストーの奴……ゆ、ゆゆ、許せないんだから! 許さないッ!
 それに、あ、ああ、アイツもよ! 犬! 下僕! 使い魔!」
蒼銀髪の少年の顔を思い出し、ガンと地面を踏み鳴らす。まったくもって腹立たしい。
いっつも堅物っぽい喋り方をして真面目そうな態度でいたけど、昨日の事と言い、昨日の事と
言い、蓋を開けてみればやっぱりただの犬だったのだ、しかも手のつけられない駄犬。
ギーシュと決闘した時は、まあ、かっこいいかなぁとは微かに思ったけど、いや、使い魔
だから自分のモノに愛着をもつのは当たり前だけど、それは見当違いだったのだ。
クザクはどこでもかしこでも盛る駄目犬。駄目使い魔。最低で破廉恥な使い魔。
おまけにいっつも胸のデカイ女子に圧し掛かられたり、抱き合ったり。
ああ、思い出すだけでイライラする。
胸、胸、胸!
乳、乳、乳!
おっぱい、おっぱい、おっぱい!
あの男は見るたびにおっぱいのおっきい女に寄り付いてる。
あの、柔らかそうで、おおきくて、ぼよんぼよんで、二つで、はだけてて。
それに顔を挟まれてたり、押し潰されてたり、顔を真っ赤にしてたり。
なんというか、それってご主人様として許せないじゃない?
頭の中で何か割れる音がした、なんか種っぽいの。
ブツンと額の青筋が切れた音がした、多分百本くらい一気に。
「ええ、そうよ!」
拳を握りしめ、強く、実に強く、ルイズは頷いた。

――あの盛り犬には首輪を付けて躾をしなければ!



使い魔は主人に従順でなければならないのだ。主人に忠誠を誓い、主人のためだけに
働かなければならないのだ。乳がでかい女に誘惑されるような駄犬では駄目なのだ。
おっぱいのおっきい女に駆け寄るようなバカ犬では許されないのだ。
そう、そうなのだ。
ルイズは更に力を込めて頷く。
自分は鞭にならねばならない。心を鬼にしてクザクを躾けなければならない。
その顔に、一個大隊に及ばぬ敗残兵を統率する司令官の如き鬼気迫るものが浮かぶ。
そうだ、自分は慢心の力を込めて今まさに振り下ろさんとする鞭だ。
だが、ただの調教、それだけでは足りない。
調教を、一心不乱の大調教を!
万能感に身を震わせ、ルイズは脳内に使い魔の主人らしく九朔を躾ける自分の姿を
思い描く。
が、
「――――」
沈黙。
「――――」
沈黙。
「――――」
沈黙、そして、
「――――ッ!」
果たして何を想像したというのか、怒りで震えていた肩はピタリと止まる。
怒りで歪ませた眉間は緩み、愛らしい顔が見る見るうちに茹で上がったタコに変わる。
そんなルイズの様子を、行き交う人は怪訝に思いながら通り過ぎて行く。
先ほどまでの鬼気迫る表情はそこにはなく、頬を赤らめ恥ずかしさに身を震わす少女が
そこにいた。
「まま、まあ、仕方ないわよね。うん、仕方ない。だ……だってご主人様だもん」
うんうんと自分を納得させるように頷き、ぶつぶつ呟き、ルイズは歩を進める。
傍から見ればかなり危ない人に見えるが知らぬは当人ばかり。頷きながら歩みを数歩進め、
ピタリと止まる。
止まった拍子に後ろから歩いてきた行商らしき男とぶつかったがまったく気づく様子はなし。
「仕方ないわよね、うん、仕方ない。躾けは、き、厳しくしないといけないし……」
いや、だから何を想像した。
再び人とぶつかるルイズ。それが実はスリで、懐から金貨のつまった財布を取られた事に
気づくのはもう少し後。
「まあ、可愛いわよ、うん可愛い。でで、でも悪いのはアイツなんだから……うん」
うぅぅと恥ずかしそうに唸るルイズ。だが、その表情を彼女を良く知る者が見ればただ
恥ずかしがっているわけではないのに気づいたであろう。
緩んだ口端、期待に満ちたその瞳、間違いなくその顔には嗜虐的なものが浮かんでいた
のだから。
「さ、さあ! 探さなきゃね! あのバカ犬ッたら本当どこ行ってるんだか!」
声を張り上げ、ルイズは胸を張って歩き出す。
その瞬間、ルイズは確かに輝いていた。


「――――ッ!」
全身を悪寒が走りぬけた。それは鮮烈なまでにおぞましい悪寒。
どの程度鮮烈でおぞましいかと言うと、こう、臀部の辺りがキュっと引き締ったと同時、
貞操の危機が本能的に感じられる程度に鮮烈でおぞましかった。
これは確実に自分の身に何かしらの危険が迫ってると考えていい、間違いない。
昨日二度もあられもない姿の子女に抱きつかれ(片方は妖怪変化的な類だが)、そのために
ルイズに二度も失敗魔法をぶつけられた手前どうしてもこのような悪寒に敏感にならざるを
得ないこの現状に溜息は尽きない。
「ヒック……ろうしたね、クザク?」
「ああ、現実と言うやつがどうしていつも非情なのか考えていた」
「そーかそーか。だが、まあ、心配しすぎらよクザク。まぁったく、君と言う奴ぁ心配
 しすぎなのら。周りを見たまえ、ほれ、見ろ。ここが何に見えるかね?」
既にワインを1瓶開けて酔ってるのか呂律のやや回ってない口ぶりで肩を叩くギーシュ
に言われ、周りを見やる。
「居酒屋?」
「ちっがぁぁぁぁぁぁぁあああああああうッッッ!」
机を両拳で叩きつけ、立ち上がるとこれでもかとビシっと九朔を指差し店の中に響かせんと
ばかりにあらん限りギーシュが叫んだギーシュ。はっきりいってそんな大声で叫ぶのは
迷惑極まりない。が、此処は居酒屋。周りも大概騒がしいので誰もそんな様子を咎めようとも
気にしようともしない。
「ここは天国だ! ヘヴンッだ! ここは地上の楽園なのらよクザク!」
「そうか」
「そうなんらよ! そうなのらよ! ここは天国、ヘッヴン! そうらそうろもさ!」
「そうか」
「ぼかぁねぇ。わかるかいクザク? ケティにもモンモランシーにもなーんもしれないんだ。
 謝ったんら、誠心誠意込めれね。だというのに、なじぇ?! なじぇ、僕は殴られたり
 蹴られたりしなきゃならないんらい!? わからに、わからないよ! ぼくにとっれ
 女の子はみんな花らというのに! みぃんな分かってくれないんら! ないんらよぉ!
 だから呑む。僕は呑む! 今日は何もかも忘れていっぱい呑むんら!」


もう、哀れすぎて何もいえなかった。しかもえぐえぐと泣き出すもんだからたまったもの
じゃない。泣き上戸なのは別に構わないのだが、はっきりいって男に泣き付かれるのは
勘弁願いたい。
ソッチの趣味はないし、何より酒自体余り好かない。
記憶喪失の手前昔のことはほとんど思い出せないのだが、酒というものにはどうにも
良い思い出がないような気がするのだ。
それは間違いもなく大十字家に生まれた女難癖の成した業の一つだが、それを今の九朔が
知る由もない。
先ほどの悪寒はひとまず忘れ、机をはさみ向かい側で自棄酒を始めたギーシュをよそに
して九朔は店内に視線を移す。
『魅惑の妖精亭』――そこは名に違わず、容姿端麗な『美』をつけるに相応しい少女が給仕を
行なう店。だが、その少女達の衣装はほぼ下着と言っても差し支えのない際どい衣装に
身を包んでおり、豊満なバストは惜しまれる事なくその威容を誇らせ、丈の短いスカートを
巧みの技でぎりぎりまでに翻らせ男たちの視線を釘付けにする。
なるほど、大概の男たちにとっては此処は天国だろう、桃源郷だろう。
しかも彼女たちは何をされても笑顔を絶やさず、触ろうとするお客には妖精の微笑を以て
征するのだ。拒まれると燃え上がるのはどの世界でも変わらない、堪らず男たちは彼女たち
へと更にチップを握らせる。
それは天国へと続く階段を買うというより、むしろ賽の河原の石を積み上げる行為。
――嗚呼、悲しきかな男の性よ。
人間の、主に下半身的な欲望に対するひたむきな情熱とやらはある意味熱狂的再征服を行なう
宗教者の純粋さと何となく通じるものがあるのかもしれない、そんな下らないことを
思いつつ、水を入れたグラスに九朔は口をつける。
「蟻地獄――だな」
誰にも気づかれない程度に呟き、男たちのその末路を思い胸中にて九朔は合掌した。
そして其処にやってくる一人の少女。視線を上げれば妖精の微笑。
なるほど、確かに妖精と言うに相応しい愛らしさ。その蟲惑的微笑には高価な酒だって
ホイホイ頼んでしまえる何かがあった。
「お客様、何かお飲みになられます?」
「ああ――そうだな」
微かに逡巡、そして九朔は顔を上げた。
「済まぬが、水をもう一杯頼む」

――が、それが間違いであった

「なん……だと……」
約一時間後、九朔は絶句していた。
こんな事だったら水なぞ頼まずにちゃんとした料理を頼むべきだったと後悔した。
いや、今更悔やんでももう遅いが。
横には酔いが吹っ飛び顔を青ざめたギーシュ、眼の前にはにこやかに微笑む店員達。
その手に握られた、字は読めないが領収書と思われる紙束。
「ギーシュ……もう一度聞いて良いか?」
「ああ」
顔を見合わせる。
「金は?」
「スられた」
絶句。眼の前には恐ろしいまでににこやかな微笑を浮かべる妖精たち。
「お客様、お支払いは?」
そして物腰柔らかなその背後に見える修羅の相。
「なあギーシュ」
「なんだねクザク」
「手持ちはゼロか」
「ああゼロだ」
「本当にゼロか」
「本当にゼロだ」
「ポケットに一枚もか」
「ポケットに一枚もだ」
人は時として逆境に立ち向かわねばならない。そう、今がその時だ。
「ねえ、もしかしてお金ないの?」
が、その前にこの妖精たちの中でもひときわ強い目力を持つ少女が九朔達の前に
現れた。
他の妖精たちに漏れず胸元の開いた服に身を包んだ派手な格好ではあるが、ストレートの
黒髪に少し太い眉が他の少女たちより活発そうな雰囲気を醸し出している。
いわば健康的な美しさというべきか。
「ななな、何を言うかねお嬢さん! ぼ、僕は貴族だ! 金を払わないなぞというそんな
 貴族にあるまじき行為はしない! うん、断じてしないぞ!」
「ふぅん――そっか。で、お支払いは?」
「う……!」
微笑みながら返されては流石にギーシュも黙るしかなかった。
「私さ、貴方みたいなカッコイイ貴族様が無銭飲食なんて恥ずかしい真似しないって
 信じてるんだ。 ――だから、しないよね?」
「し、しないよ? で、でも今はそのお金がちょっと……」
その瞬間、少女の瞳に涙が浮かんだ。そして同時嫌な予感を覚えた。
「そんな……でも、やっぱり仕方ないわよね。最近は貴族のお客様でも苦しい生活をしてる
 って言うしさ。うん。仕方ないよ。また今度来てくれた時に……」
「ま、待ってくれ! 僕は貧乏じゃないし、生活苦でもない! ああ、そうさ! 
 今はちょぉっと手持ちはないがね、なに、金がなくとも心は貴族――なんでもしよう!」
「い、いいの? ……あ、でも今みたいな忙しい時間に貴族様を働かせるなんて私たち
 平民如きには恐れ多い話だわ。ごめんなさい、良いのよ」
「何を言うかね。僕は貴族だ。貴族は常に貴族らしくあらねばならぬ。貴族は平民を
 守る義務があるのだ。それを抜きにしても君のような可憐な花を悲しませる事など!」
「ああ、貴族様ったらいい人なのね――――だったら、手伝ってくださる?」
「もちろん!」


――ああ、やっぱりな弩畜生

あまりにも見えすえの少女のかどわかしに引っ掛かったギーシュに九朔は頭を抱えた。
ついでに涙も出てきた、そして時分を見つめる少女たちの視線に気づいた。
「…………」
その視線は好奇に満ちていた。それはまるで幼女が着せ替え人形で遊ぶ時のような眼差し。
しかも全て自分に向けられている。
「ねえ、そちらのお方は貴族様のご友人なのかしら?」
「そのとおりだ。僕の心の友、ダイジュージクザクだ」
「そう、クザクさんって言うの……」
黒髪の少女の瞳が、妖精たちの瞳が、自分を見ている。
その輝きが異様なまでに煌めいていて。
それは昨日のキュルケのものと酷似していて。
背筋を悪寒が走る。
先ほどのものと匹敵するほどのおぞましさ。
その瞳が全て自分を見ている。
空から降ってくるわけではない、真っ直ぐにこちらを見ている。

――我を見るな

逃げる事叶わぬ現状に九朔は呟いた。
微笑を崩さぬまま少女たちは九朔を囲む。ちょっとしたホラーだ。
彼女たちの腕が九朔を掴み、あらあらうふふと微笑いながら、彼をカウンター裏へと
連れ込む。
直後、トレビアンと咆哮する異様に艶やかな男の野太い声と九朔の悲鳴が店内を木霊した。


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