あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ハルケギニアにも奇妙な物語


たんたんたたたん、たたたん、たたたん、

「ようこそ、ハルケギニア――魔法と剣が交わる、ファンタジーの世界へ」

たんたんたたたん、たたたん、たたたん、

「この世界の法則は、私たちの知るそれとは余りに異なっています」

たーんたたーん、たんたんたんたたたんたんたん、

「彼女らからすれば、私たちの世界こそがまさにファンタジーなのでしょう」

たんたんたんたんたたたんたん、

「果たして、どちらの世界が正しいのか――決して、そんな疑問を持ってはいけません」

たんたんたんたたたんたんたん、

「答えの無い問い。その果てに行き着く先は――現実でも幻想でもない、
『奇妙な世界』に他ならないからです」

たんたんたんたんたんたたたんたんたん、

「ゲートをくぐった先。そこが、
恋と冒険に満ち溢れた素晴らしい世界である――そんな保障は、どこにもありません」

たんたんたたたん、たたたん、たたたん、

「おや。今も一人――可愛い可愛い少女が、『奇妙な世界』へと、迷い込んでしまったようです」

たんたんたたたん、たたたん、たたたん、

「ほら。あなたのことですよ」

だん。たんたんた、たららん。






――ハルケギニアにも奇妙な物語――





「なんなのよ、もう」

 ルイズは自室の寝台の上、枕に顔を沈めていた。
 今にも泣き出してしまいそうな、弱々しい声で呟く。

「使い魔が、居なくなっちゃうなんて」

 使い魔召喚の儀式。
 一生のパートナーとなる使い魔を選ぶそれは、二年次への進級試験というだけでない、
メイジにとって極めて重大な意味を持つものである。
 それまで魔法に成功したことの無いルイズは、この儀式のために、それはもう頑張った。
 とにかく頑張った。
 その努力っぷりたるや、天敵であるツェルプストー家の同級生が
思わず応援してしまうほどのものであったという。
 文字通り寝食を惜しみ、心身を削って、
ルイズは死に物狂いでこの儀式のために準備をしていた。

 その成果、と言うべきなのか。
 結論を言えば、使い魔召喚の儀式は成功した。
 その瞬間、準備を手伝った級友たちの歓声と砂埃に包まれながら、ルイズは胸を高鳴らせる。
 やった。ついにやったのだ。もう誰にも『ゼロ』なんて呼ばせない。
だって自分は、魔法を――そう! 魔法を成功させたのだから!
 どんな使い魔なのだろう。何せこの自分の使い魔なのだ、強く、美しく、気高くて、
そう、グリフォンとか、マンティコアとか、ケルベロスとか、ユニコーンとか、
ももも、もしかしてドラゴン――韻竜とか!
 いや、いい。どんな使い魔だろうといい。自分の召喚に応じてくれたのだ、
たとえそれがオケラだって、ミミズだって、モグラだって――流石にちょっと嫌だけど、
でもどんな使い魔でも、ぜったいぜったい大事にしよう。



 晴れゆく砂埃の向こうに姿を現したのは、黒い礼服に身を包み、
奇妙な黒い眼鏡を着けた中年男性だった。


 この刹那、確かにルイズの時は止まった。


 そしてあろうことか、その中年男性は何やらわけのわからないことを勝手に喋り倒した挙句、
居なくなってしまったのである。
 そこに居合わせた誰もが注目していたにも関わらず、気がついたら『居なくなっていた』。
 去ったのでも、消えたのでもなく、ただ『居なくなった』としか形容出来ない。
 それは、まさしく『奇妙な』現象だった。



「…………」

 ルイズは現状を確認し、ますますその鬱っぷりを加速させていた。
 そう。彼女は『サモン・サーヴァント』にこそ成功していたが、
使い魔召喚儀式の重要なもう一段階を――『コントラクト・サーヴァント』を達成出来ずに居る。
 使い魔が居なけりゃ、使い魔にキスなんぞ出来る筈も無い。
 当たり前の話だ。
 ……そんな前代未聞の事例を前に、学院は一つの選択を迫られる。
 ルイズを進級させるか。
 それとも――ダブらせるかだ。

 ダブり。
 そのおぞましい単語を思い浮かべただけで、ルイズは首を絞められるような気分になる。
 もしも、仮定、仮の話として、万が一ダブってしまったら。
 ……両親や姉達は、どういった反応をするだろう。
 元々、魔法を使えない落ちこぼれだった自分。
 だ、ダブりなんかしたら。
 ……考えることすら脳が拒否した。

「…………」

 空腹と乾きを自覚する。わずかな水以外、丸一日何も口にしていない。
 ルイズの処遇を決めるのにも、あと数日は必要だろう。
 それまで、ここでひたすらじっとしているわけにもいかない。 
 ……厨房に行って、何か貰ってこようか。
 ルイズは重い体を引きずり、部屋を出た。




「あ」
「ん?」

 部屋を出たところで、ばったりキュルケと対面してしまった。
 ルイズは、自分の顔が醜く歪むのを自覚する。
 ――こんな時に、ツェルプストーの娘と顔をあわせてしまうなんて。
 何を言われるか、予想はつく。

「ルイズ! やっと出てきたのね。ちょうど今、呼びに行こうと思ってたのよ」
「……何よ」

 妙に明るい様子のキュルケ。それはそうだろう、とルイズは思う。
 天敵のヴァリエールがこんな無様を晒しているのだ。
 ツェルプストーの娘にとって、こんな嬉しいこともないだろう。
 大体、大して親しくもない自分を呼び出してどうするつもりだったのか。
 サラマンダーでも見せ付けるつもりか。

「まったく、ずっと部屋に篭って何をしてたの? 聞いたわよ、あの話」

 ほら、やっぱり。
 やたらと親しげに話しかけてくるキュルケに、ルイズは顔をしかめる。
 どうせ、自分の使い魔を自慢して、バカにしてくるに違いな――



「あんた、『くぎみやりえ』なんですってね!」





「……は?」

 ルイズの目が点になった。
 なにそれ。

「まったくもー、それっぽいとは思ってたけど、まさか本当にそうだとはねー」

 ルイズの肩をバシバシ叩くキュルケ。いてーよ。馴れ馴れしいんだよ。

「ほら、行くわよ。ギーシュたちが今、宴会の準備してるから」
「……え? 宴会?」

 混乱するルイズ。

「なんで?」
「決まってるじゃない。あんたが、『くぎみやりえ』な記念よ」
「な、何それ?」

 そうだ。なによそれ。その『くぎみやりえ』って何だ。
 キュルケはニヤニヤしながら答える。

「またまた、惚けちゃって。ほら、とっとと行くわよ」
「ちょ、惚けてなんか……!」
「ほらほら、歩く歩く!」

 キュルケに背中を押され、食堂の方に誘導される。

「だだ、だからその『くぎみやりえ』って何なのよ!」
「もー、バレバレなんだから惚けないの」




 結局、『くぎみやりえ』とは何なのか。わからないまま食堂に着く。
 扉を開けると、

「「「ルイズ、ばんざあああああああああああいい!」」」

 歓声に包まれ、ルイズは目を丸くした。
 タバサ、ギーシュ、モンモランシー、マルコリヌ……クラスメイトはもちろん全員、
他の顔も知らないような奴さえ集まっている。百人以上は居るようだ。

「やぁルイズ、まさか君が『くぎみやりえ』だったとはね!」
「……聞いてみれば明らか。今まで気づかなかった方が『奇妙』」
「とにかくこっち座れよ、ルイズ!」

「な……」

 呆然とするルイズを数人があっという間に取り囲み、中心に座らせる。
 食卓には、豪勢な食事や高価なワインなど。普段の食事よりも更に豪華なものが並んでいた。

「な、何よこれ一体! 何なの!」

 ギーシュが薔薇を振り、ポージングしながら答える。

「何、って……。祝賀会に決まっているじゃないか」
「何の!?」
「君が『くぎみやりえ』だったことがわかったんだ。当たり前じゃないか!」

 わけが、わから、ない。

「だからその、ああああもう、わけわかんない! 何なのよあんたら!」

 一人錯乱するルイズ。
 その声を聞いて、その場に居る全員がどよめく。

「おお、『くぎみやりえ』だ……」
「『くぎみやりえ』ね……」
「なんという『くぎみやりえ』……」
「これぞ『くぎみやりえ』、ツンデレの極地、ツンデレの行き着く終焉にして究極!」
「く、くぎゅうううううううううう!」
「くぎゅうううううううううううううう! もっと、もっと罵倒を!」

 だから、本当に、わけが、わから、ない。

「だから――」
「さぁ、乾杯だ! 僕たちの友、ルイズと!」

 ギーシュが杯を高く捧げる。ルイズもキュルケに杯を無理やり持たされてしまった。

「「「その『くぎみやりえ』に!」」」

 他の者たちが続いて唱和。そして、

「「「かんぱあああああああああああああああああああいい!」」」





 その後のことは、ルイズの記憶には残っていない。
 窓から差し込む朝日で目を覚ますと、そこは自室の寝台の上だった。

「う……」

 軽く二日酔い気味。頭が重い。飲みすぎたのか。昨日は――

「っ!」

 そこで昨日の出来事を思い出す。そうだ。結局あのわけのわからない宴会はなんだったんだ。
 一体、

「『くぎみやりえ』ってなんなの?」

 一人呟く。もちろん、返事は無い。
 ……取り敢えず、部屋から出て誰かに問いただすべきよね。
 身なりを整え、部屋を出る。
 廊下を足早に歩き、誰か居ないかと周りを見回していると――

「きゃっ!」
「あっ!」

 前方への注意がそれてしまっていたのか。誰かにぶつかってしまった。
 慌てて倒れた黒髪のメイドを抱き起こす。

「だ、大丈夫かしら? 悪いわね、ちょっと考え事をしてて」
「た、大変申し訳ありません! 私の方こそ不注意で――!」

 恐縮していたメイドがルイズを見て、何かに気づいたような顔になった。





「失礼ですが、ミス・ヴァリエールでしょうか?」
「? そうだけど?」
「ちょうど今、部屋に伺おうと思っていたんです。
学院長がお呼びですので、学院長室までお願いします」
「学院長が?」

 学院長に呼び出される用事なんて――

「あ」

 あった。思いっきりあった。昨日の出来事ですっかり忘れてしまっていたが、
間違いなく、あの件だろう。
 口に出すのも、頭に思い浮かべるのも忌まわしいあの件。
 つまり、だ、だだ、ダブり。
 ……ルイズの処遇をどうするのか、決定したようだ。

「……だ、大丈夫ですか?」

 急に顔を真っ青に染めたルイズを見て、心配そうに声をあっけるメイド。

「だだだだだ、大丈夫よ。ありがとう。……すぐ行くわ」

 ややふらつきながら歩き出すルイズ。
 それを不思議そうに見送りながら、メイドはポツリと漏らした。

「……すごい。本当にあの人、『くぎみやりえ』だ」





「…………」
「…………」


 気まずい。


「…………」
「…………」


 学院長室に入ると、そこにはオスマンだけでなく、
ギトーやコルベール……主要な教員全員が集まっていた。
 オスマンも誰も、何一つ喋らず。沈黙が部屋を支配している。


「…………」
「…………」


 ルイズが重い空気に耐え切れず、顔をうつむける。
 ……やはり、留年なのか。ダブりか。そうなのか。
 勇気を振り絞り、口を開こうとした瞬間。
 オスマンの言葉が、重く響く。

「ふむ……ミス・ヴァリエール」
「……はい」

 何故か、どよめきが起こった。
 ルイズは覚悟を決め、顔を上げる。

「今からわしが言う言葉を、そのまま繰り返しなさい」
「……はい?」

 なに?

「そのまま、繰り返すんじゃ。いいかの?」
「は、はい。わかりましたけど……」

 なんだ。何をやらせるつもりだ。処分を言い渡すんじゃないのか。
 不意に、猛烈に嫌な予感がルイズを襲った。
 そして、それは的中する。




「では、ゆくぞ。……『べ、べつに、あんたのために作ってあげたんじゃないからね!』」
「……………………べ、べつに、あんたのために作ってあげたんじゃないからね!」

 再びどよめく室内。
 ルイズの脳裏を駆け巡る、昨夜の宴会の記憶。

「『か、勘違いしないでよね! あ、あんたのことなんか何とも思ってないんだから!』」
「……………………か、勘違いしないでよね!
あ、あんたのことなんか何とも思ってないんだから!」

 まさか。

「『ぎ、義理よ義理! ざ、材料が余ったし、誰にも貰えないあんたが哀れだったから、
ほんと、それだけなんだから!』」
「……………………ぎ、義理よ義理!
ざ、材料が余ったし、誰にも貰えないあんたが哀れだったから、ほんと、それだけなんだから!」


「これは……」
「ややぎこちなさはあるが……」
「なんという……なんというツンデレ……」
「テンプレ通りの陳腐さ……だがそれがいいっ……!」
「く、くぎゅうううううううううううう!」
「くぎゅううううううううううう! 罵って! 変態って罵って!」




 まさか、また、なのか。またなのか。
 ルイズはオスマンの顔を何気なく見て、目をひん剥く。
 泣いてる! こいつ泣いてるよ!

「まさか、生きているうちにこれほどのツンデレに会えるとはの……長生きはするもんじゃ」
「オールド・オスマン! 私は今、猛烈に感動しています……!」

 マジ泣きだ! み、ミスタ・コルベールもマジ泣きだ! なんだこいつら!

「ミス・ヴァリエール。……そなたは、『くぎみやりえ』なのだな」
「だから、その、『くぎみやりえ』? っていったい――」
「わかっておる。言わずとも全てわかっておる。おめでとう。本当におめでとう」

 ルイズの胸には殺意。
 わかってねぇだろクソジジイ。殺すぞ。

「本当におめでとう。そして、ありがとう。もう、戻って宜しい」
「あ、あの、私の進級の件は……?」
「んなもん決定じゃ。進級に決まっておる」

 嘘ぉ!

「ほほ、本当ですか、オールド・オスマン……!」
「当たり前じゃ。一体誰が、『くぎみやりえ』を留年なぞさせるものかっ!」

 オスマンの言葉に、揃ってうんうんと頷く教師陣。
 え、そのおかげなの?

「ご苦労じゃった。戻りなさい」



 閉められた学院長室の扉を背に、息を吐くルイズ。
 呟く。

「だから、『くぎみやりえ』って一体なんなのよ……!」



 その夜は、学院中の全員が宴会に参加した。



 翌日。
 もはや状況は完全にカオス化していた。


「ミス・ヴァリエール!
アンリエッタ女王とマザリーニ卿が、あなたに会うため学院にいらっしゃるようです!
あと数時間で到着するとのことで――」

「やぁ愛しいルイズ! 僕だよ、ワルドだ!
きみが『くぎみやりえ』だと聞いて、飛んできたよ! さぁ早速今すぐ婚姻を――」

「ジュール・ド・モット伯爵が、君に会いに――」

「アルビオンのウェールズ皇太子が――」

「クロムウェル大司教――」

「が、ガリアのジョゼフ一世から親書が――」

「ジェリオ・チェザーレと申します。聖エイジス二十三世の使いで――」

「ゲルマニアのアルブレヒト三世が――」

「え、エルフ? エルフだって!?」

 大騒ぎの渦中の中、呆然と立つルイズ。
 何なの、一昨日からのこの騒ぎ。
 『くぎみやりえ』ってなに。


 一体、この『奇妙』な出来事は――なんなの。




「ああ、ああ、ルイズ、ルイズ・フランソワーズ、私の懐かしいお友達!
どうかその声を聞かせてちょうだい! そう、『くぎみやりえ』を!」

「ルイズ、僕のルイズ、さぁこの婚姻届にサインを、そして『くぎみやりえ』を――」

 ルイズは、学院の中庭、中心に立ち尽くす。
 それに群がる大勢の人々。
 次々に到着する馬車、グリフォン、ヒッポグリフ――。
 混乱の中、口にされる言葉は揃いも揃ってひとつ。
 『くぎみやりえ』『くぎみやりえ』『くぎみやりえ』――。


 キレた。
 しらない。もうしらない。何が起きようがかまうものか。
 差し出された婚姻届けを地面に叩きつけ、差し出される手をはねのけ、
群がる人々を押しのけ、ルイズは絶叫!


「だから! 『くぎみやりえ』って何なのよ!! もおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 世界が、止まった。







 キュルケが呆然としてこっちを見ている。

 タバサの本が手からずり落ちた。

 ギーシュの口に咥えていた薔薇が地に落ちた。

 モンモランシーが香水の瓶を取り落とす。

 マルコリヌが食いかけのピザを口から離す。

 アンリエッタの王冠は頭からずり落ちそうで、ワルドの帽子の羽がはらりと宙を舞う。

 そこに居る全員の頬を風が撫ぜ、草木は緩やかに揺れた。
 雲は流れ、光が差し込み、鮮烈な緑を映し出す。
 ルイズの荒い息だけが、そこに響いていた。




 ルイズは、退学になった。






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