あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

溶けない氷

 使い魔を召喚した日の夜、ルイズは夢を見ていた。
 それは、幼い日の記憶。
 雪の中での記憶。


 夢の中のルイズは、今より10程も幼い姿をしていた。
 季節は冬から春へと変わる頃。
 その年の冬は暖かく、過ごし易い冬であった。
 しかし、冬の終わりに雪が降ったのだった。
 降ったと言っても、足先が埋もれる程度でしかない。
 だが、ルイズは雪に喜び駆け回った。
 誰にも踏まれていない新雪に、小さな足跡を残して駆ける。
 屋敷から見える風景は、全て真っ白に染まり、陽光を反射してキラキラと輝いている。
 白く染まった植え込みをかき分け、ルイズは走った。

 ルイズは石のアーチをくぐり、中庭の入り口に立つ。
 池のほとりの船にも雪は積もり、真っ白な小島が浮かんでいる。
 白い石で出来た東屋は、その白さを純白に変えている。
 何時もとは違う中庭の美しさに目を奪われるが、直ぐに此処まで来た目的を思い出す。
 叱られる度に、ルイズはこの場所へと逃げ込んでいたのだが、この日は違った。
 この日は単純に、お気に入りの場所で雪遊びをするために来たのだ。
 ルイズは、両手で雪を掬い、上に放り投げて撒き散らす。
 空中に舞い散る雪は、陽の光を乱反射しながら降り注ぐ。
 飽きる事無く、ルイズは何度も何度も雪を撒き散らした。

『キレイ、ずっと見ていたい……』

 何時までそうしていただろうか、太陽はもう少しで天頂に差し掛かろうとしている。
 陽が高くなってきた事で、雪は溶け始めていた。
 その事に気が付いたルイズは、雪を撒き散らす事をやめて雪で小さな塊を作った。
 その塊に、残っている雪をかき集めて中位の塊にする。
 そうやって作った、二つの雪塊を持って、ルイズは東屋へ足を踏み入れた。

『ココなら大丈夫……』

 東屋の中は、外よりも温度が低くヒンヤリとしている。
 ルイズは、大きさが少し違う雪玉を積み重ねる。
 出来上がったのは、30サントほどの大きさの雪だるまであった。
 石で眼を造り、完成させる。
 だが、何かが足りない。ルイズは頭を捻る。
 雪だるまを見つめて考える事、数秒。
 ルイズの脳裏に光が閃き、その何かに思い当たった。
 指を伸ばして、雪だるまの両目の上の雪を削る。
 雪だるまに太い眉毛が出来上がり、先程までより生き生きしているように思える。
 ルイズは雪だるまに、様々な事を語った。

 魔法が如何しても成功しない事。その度に母にしかられ、使用人には姉と比べられる事。
 上の姉は意地悪で厳しいが、下の姉は優しいから好きだということ。
 もう直ぐ、晩餐会が開かれて、憧れの人と会えるという事。
 他にも、印象に残った出来事。どうでもいい些細な出来事も雪だるまに話した。
 語り終わってからルイズは、物言わぬ友達に寂しく思った。

「……貴方も、話せれば良いのにね。
 そうなったら、もっと好きになれるのに」

 そう言ってルイズは思いつく。

「そうだわ。私が魔法を掛けてあげる。
 春になっても溶けなくて、話す事が出来る様になる魔法よ。
 今なら、きっと出来ると思うの」


 短い杖を取り出し、魔法を唱える。
 ルイズは、そんな魔法など知らなかったが、そうなる様に思いを込めて詠唱する。
 魔法を掛ける為に、杖で雪だるまを指し示す。
 だが何も起こらない。
 爆発すら起こらず、雪だるまに変化も見られない。
 もう一度魔法を掛けるべく、杖を振りかぶる。
 だが、その行為は聞こえてきた声に中断された。

「ルイズ! そこに居るのでしょう?
 早く出てきなさい。
 今日も魔法の練習ですよっ!」

 それは、ルイズの母カリーヌの声だ。
 声にホンの少しの怒りを滲ませ、呼び掛けている。
 ここで出て行かないと、苛烈なお仕置きが待っていることだろう。
 ルイズは身を縮ませて、カリーヌの前に出て行った。

「ルイズ、遊んでばかりではいけませんよ!
 貴女は、まだまだ多くの事を学ばねばならないのですから」

 ルイズは、カリーヌに手を引かれて屋敷に戻っていった。



 次の日、再び中庭を訪れたルイズが見たのは、東屋の中にある水溜りであった。
 水溜りの中には、小さな氷の欠片が浮かんでおり、ルイズは涙を浮かべて、それをそっと胸に抱いた。





 その冬の出来事以来、ルイズは雪だるまを造る事はなかった。
 一日限りの友達を亡くした事実は、幼いルイズの心を打ちのめし、心から魔法を渇望するようになったのであった。
 しかし、そんな記憶も成長するにつれ、唯の思い出へと変わり、思い出す事も無くなっていた。
 心の内に残るのは、何に変えても魔法を使えるようになるという目標のみであった。





 ルイズは眼を覚ました。
 窓から射す光は太陽の暖かい光ではなく、双月の冷たい光である。
 月の位置から判断するに、時刻はまだ深夜だ。

『おかしな時間に眼を覚ましたものね。
 始めての魔法の成功で、気が昂ぶっているのかしら?
 それとも、召喚したものが原因?』

 ルイズは眼が覚めた原因を考えるが、どちらもあり得る様に思える。

『魔法が成功したときの興奮は忘れられない。
 でも…… それは、直ぐに落胆に変わってしまった。
 なら、呼び出したもののせいであんな夢を見て眼を覚ました?』

 ルイズは、その時になって自分が泣いていた事に気が付いた。
 目尻に触れると湿っている。
 明かりを付けて、鏡で確認すると頬には涙が流れた跡が残っている。


 幼い頃を懐かしむように、ルイズは眼を閉じる。瞼の裏にはあの時の光景。
 溶けて土と交じり合い、泥と成ってしまった友達の姿。
 残った一握の氷。

 ルイズは何かに気づいた。
 顎に手を当てて黙考する。
 夢に見た光景と、自分の記憶を照らし合わせる。

『あの時拾った氷は如何したんだっけ?
 直ぐに溶けてしまった?』

 氷なのだから溶けるのは当たり前だ。
 しかし、何かが引っかかる。

『でも、大事にとっておいたような気がする。
 でもどこに? 私の部屋?』

 …………

「氷は……溶けなかった?」





 赤と青の月の光がソレを照らす。
 ソレとは、ルイズが召喚して中庭に放置した使い魔であった。
 ソレの周りの空気は冷えて、ソレが冷気を放って居るのが判る。
 まん丸の瞳と、力強い眉。
 そして、限りなく澄み切った氷の結晶が胸に埋め込まれていた。
 本来ならば物言わぬ物であるが、幸い時刻は深夜。
 誰もソレの事を見ては居ない。

「ルイズ、また会えたのだ」

 誰も居ない中庭に、小さな呟きが聞こえた。


 続かない


「ロマンシングサガ3」から『ゆきだるま』を召喚




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