あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Bullet Servants-06



「ん――――んん。はぁ、よく寝た……」


寝台から身を起こし、伸びをして一息つく。
昨夜ちょっと頑張って夜更かししてしまったこともあり、まだ少しだけ寝足りない気がするが――
それを理由に朝食の時間に遅れるのも、それはそれで格好が悪い。

「しょうがないか……よっと」

洗顔を終えて、胸の谷間にしまっていた杖を手に取ると、小さくルーンを詠唱し、軽く振る。
『レビテーション』の魔法の応用で、クローゼットとその下の引き出しが開き――
新しい下着と、上下の制服とマントが、浮遊しながらまろび出て来た。

「……うーん……」

思考する。
いつもならこのまま手元まで引き寄せて、着替え始めるところなのだが――それでは芸がなさ過ぎる。
せっかく昨日召喚したのだから――

「じゃ、お願いね。
 背中に乗せた服、焦がしちゃダメよ?」

使い魔に任せることにした。
さすがに人間みたいには行かないけど、一歩ずつ力強く、のしのしとこちらへ歩いてくる。
昨日の今日でこのお利口さ――思わず頬擦りしたくなってしまう。
尻尾の火の粉も……お、ちゃんと落とさないように気ぃ使ってるわね。


「よくできたわね。ありがと、フレイム」
「きゅる、きゅるきゅるきゅる」

お褒めの言葉をかけると、ベビードールを脱ぎ捨て、運んできてくれた衣類に袖を通す。
あたしの使い魔――昨日の使い魔召喚の授業で呼び出した、火竜山脈のサラマンダー。
さすがにタバサのあの風竜には負けるけど――贔屓目抜きでも、十分自慢になる存在である。

「さて、と……それじゃ朝食に行く前に、ヴァリエールでもからかっていきますか。
 行くわよ、フレイム」
「きゅるる」


……あたしが風系統のタバサみたいに『サイレント』が上手かったらと、昨日ほど思ったことはない。
昨晩と今朝は、妙にどたどたと騒々しくしているのが伝わった、お家ぐるみでの腐れ縁なお隣――『ゼロのルイズ』。
いつものように朝食前にからかって溜飲でも下げてやろうと、廊下に出たところで――
彼女の部屋の出入り口に、いつもの日常にはあるはずのない、異分子を見つけた。


「あら? あなたは……」
「ん?」

すらりとした体つきに、眼鏡の下に垣間見える、柔和そうな整った顔つき。
落ち着いたデザインの黒い執事服を着こなし、洗練されたたたずまいで腰を折って一礼する、その金髪の異分子は――

「……おはようございます。
 失礼ですが、こちらの部屋に何か御用ですか?」


ぶっちゃけた話、かなりのいい男だった。
少なくともただツラが良いだけの、トリステイン貴族のボンボンとは一線を画す、今までにはいないタイプの。

あたしの二つ名は『微熱』。
由来そのままの、体に広がる“それ”と同時に――――恋の、予感がした。





「あの……ルイズ様? あいにく私、正確な時刻が分からないのですが――大丈夫、なのですか?」
「うるさいわね、だから急いでるんじゃない!
 あんたはそこで待ってるだけでいいの! 急かさないでよ!」


……結局、着替えまで手伝うこととなり。
つとめて意識しないようにルイズ様の服を着付けて、食堂へ向かおうとした矢先。
一時間目の授業で使うノートを忘れたというルイズ様の発言で部屋へとんぼ返りすることとなり――現在の状況に至る。
まだハルケギニアに来てから、時計というものを一度も見ていないこともあって
時刻が分からず、少々気を揉んでしまう――――そもそも、この文明レベルで時計があるかどうかは微妙なところではあるが。


「あら? あなたは……」
「ん?」

背後からの声に振り向く。
そこに居たのは――――ルイズ様と同じ服装(やはり、これが制服なのだろう)をした、一人の少女だった。
癖のある赤い長髪に、ルイズ様とは違った意味で勝気な表情をたたえた、整った容貌。
170cm(セルモール――ハルケギニアではサントというらしい――)はありそうな褐色の、メリハリの利いたプロポーションの長身。
……だいたい、コゼットと雪さんとエルネスタさんを足して3で割れば、こんな感じになるだろうか。

「……おはようございます。
 失礼ですが、こちらの部屋に何か御用ですか?」

流石に黙ったままというのも間が持たないと思い、声をかける。
もうすぐ朝食という時間帯に、わざわざこの部屋の前に立ち止まるのだから、何かあるのかと思ったのだが――


「あなた、素敵ね」
「は?」

……返ってきた反応は、またも私の予想とかけ離れた代物だった。

「あなたが一体どこの誰なのかはわからないけれど……一目見ただけでピンと来たわ。
 あなたは、そこらの男どもとは違うって」
「は、はぁ……?」

またしてもついていけずに、ただただ相槌を返す。
確かに私は、人間ばかりのこの学院内でただ一人のハーフエルフで、加えて異世界人ではあるのだが……はて?

「トリステイン貴族のボンボンみたいな無駄に気取った感じもない、紳士のたたずまい。
 柔和そうな甘いマスクに、知性的なその優しいまなざし!
 出会いは人生の宝物というけど……貴方みたいな人と出会えることを考えれば、まさにその通りといえるかもしれないわ。
 そう、貴方は私の心のうちに、火を灯してしまったのよ!」
「あの……ちょっと?
 失礼ですが、もう少し落ち着かれたほうが――」

さらに脈絡なしに、まるで何処ぞの彼岸へ旅立ってしまったかのように、滔々と語り続ける赤毛の少女。
流石に放って置くわけにも行かず、私も声をかけるものの――まるで聞こえている様子がない。
ルイズ様やシエスタさんの時とよく似た頭痛に眉間を揉み解しながら、今一度声をかけ直す。

「あの……申し訳ありません。何を仰っているのかが、今ひとつ良くわからないのですが。
 それに、こちらの部屋に用件がお有りの様でしたが――――失礼ですが、どちら様でしょうか?」

一通り、よく分からない持論を語り終えたのか、ようやく少女が私の言葉に反応した。
豪奢な髪をかきあげながらこちらを見つめなおすと、自己紹介する。

「ああ、これは失礼しちゃったわね? あたしの名前はキュルケ。
 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー、二つ名は『微熱』。
 名も知らぬ殿方、よろしければお名前、教えていただけないかしら?
「……リック。
 リック・アロースミスと申します。私は――」

彼女――キュルケ・ツェルプストーと名乗った少女の問いに反射的に応じようとして……そこで一瞬、言葉に詰まる。
先ほどのシエスタさんの件もあるが、何より目の前の少女も初対面である。
どう当たり障り無く答えようかと思案し、言葉を継ごうとして――


「何馴れ馴れしげに話しかけたりしちゃってるのよ、この節操無し――――――ッ!!」
「のゔぇらっ!?」


唐突に後頭部を襲う衝撃。
重量と速度のたっぷり乗ったその一撃に、ひとたまりも無く床に突っ伏す。
というかルイズ様、今いったい私に何を……!?

「……ねぇルイズ、いくらなんでもいきなり後頭部に辞典投げつけるのは酷くない?
 それもそんなごっつい装丁の。彼がかわいそうよ?」
「う……うるさいわね! 投げさせた原因が言うんじゃないわよ!
 ちょっと手元が狂って失敗しただけよ!」
「……流石に百科辞典サイズの書物は、ちょっとで済ませるにはいささか危険な代物ではないかと」

後頭部のタンコブをさすりながら、よろよろと身を起こす。
……というか当たり所悪かったら、常人だったら命の危険もありますよ、いまの?

「というかルイズ、そこの彼なんだけど……あなた、いつの間に執事なんか呼び寄せたわけ?
 確かにいい男だし、そばに置いときたくなるのは認めるけど――――
 こうしてみんな親元離れて寮生活してるってのに、あんただけ執事を連れ歩いてるのも、どうかと思うわよ?」
「バ、バ、バッカじゃないのツェルプストー!? 違うわよ!
 いくらなんでも、わたしだってそんな子供じゃないわよ! 馬鹿にしないで!
 こ、こいつは、その、彼は――わたしの使い魔なんだから!」
「……使い魔?」

顔を紅潮させながら反論するルイズ様の言葉。
その『使い魔』という単語にぴくりと反応し、怪訝そうな表情を浮かべるツェルプストー嬢。

「使い魔って…………その、彼が?」
「そ、そうよっ! 聞いて驚きなさい?
 わたしの使い魔は――――その、エ、エルフなんだからっ」
「エルフ?」

ルイズ様の言葉に、今一度私の姿をまじまじと見つめなおすツェルプストー嬢。

「……あ、本当だ。耳……!」
「ほーら見なさい! ど、どう!?
 これでもう、ゼロだなんて呼ばせたりしないんだから! 恐れおののきなさい!」

……いや、『恐れおののけ』て。
それはそれでいかがなものかと思うのですが。

「……はぁ、エルフねぇ……。
 確かにあの『ゼロのルイズ』が召喚したとは思えないくらい、凄い話だとは思うんだけど……」
「なによ、ツェルプストー? 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」
「なんかいまいち、彼……
 あんたや世間が言うような凄みというか、恐ろしさみたいなものを感じないのよね」
「「…………っ!?」」

ぶすり、と。
形容しがたい微妙な表情で、私の心に言葉のナイフを突き立てるツェルプストー嬢。
そのあまりにも微妙な角度からの一撃に、変に落ち込むこともできず、ずっしりとした疲労感に脱力する。
……果たして『凄みや恐ろしさがない』という印象は、執事への評価としては良いのか悪いのか。

「な、な、なに言ってるのよ言うに事欠いて! エルフはエルフでしょ!?」
「……言いたい事があるならはっきり言えって言ったの、どこの誰よ?
 それに第一さ、そんな恐れおののけなんていうような存在に、平気で辞典投げつけられるの見てたら、ねぇ……?
 というか、エルフに執事やらせるその胆力は逆に凄いって思うんだけど」
「う、うるさいわね……言葉のあやよ、言葉の!
 それにこいつはわたしの使い魔だし、執事だって言ってたからいいの!
 そ、そりゃたしかにわたしも、エルフっぽい超然さがないとか、妙に人間くさくて野暮ったいとか、そんな感想は持ったりしたけど……」


――ぐさぐさっ。
言葉の刃、私のハートに2本追加。

「………………」

痛みとせつなさに耐え切れず、ドアの脇でしおしおとうずくまり、床に指で『の』の字を書き始める私。

「あーあー……なんかそこでいじけちゃってるし。
 まぁ確かに凄いもの呼び出したのは認めるけど、それでもやっぱりどこか、『ゼロ』のあんたらしいわね……」
「な!? ちょ、あんた! なんでまたそんなところでどんよりしてんのよ!?」

ため息をつく赤毛の少女と、その指摘に慌ててツッコむ私の契約主。
流石にいつまでもこうしているわけにもいかず、気を取り直して立ち上がる。


「……失礼、少々取り乱しました」
「――――で? ツェルプストー、そういうあんたは一体何を呼び出したのよ」
「あたし? ま、あんたのそのエルフとか、タバサの風竜ほどじゃないけど…………
 フレイムー、いらっしゃーい」

そう言いつつ、後方へ向かって手招きするツェルプストー嬢。
直後のきゅるきゅる、という喉を鳴らすような鳴き声とともに――のしのしと床を這って来る、体長2モール弱ほどの大きな影。
これは――――



「……ジャイアントリザード?」
「や、ちょっと待って。尻尾の先に火が、ということは――」
「そ。ご想像の通りよ、ルイズ?」

我々の目の前に現れたのは、真っ赤な体表の、とても大きな蜥蜴だった。
ただの大トカゲと違う点は、先刻ルイズ様が述べたとおりの――尻尾の先端に灯ったままの火の玉。

「じゃあ、やっぱり……サラマンダー!?」


――火蜥蜴(サラマンダー)。
肉体に宿す強い炎属性の魔力から、ゴルトロックにおいては、かつて火の精霊の眷属とも言われたモンスター。
その体質や魔力から、表皮やエキスなどは魔法の触媒や工業素材として珍重され、高値で取引されており――
それに味をしめた人類の科学・魔法技術の向上から乱獲され、今では保護動物指定を受けている一種である。
かくいう私も、図鑑や新聞ぐらいでしか見たことはないのだが……。


「……初めて見ました」
「あら、そう? エルフの殿方に言っていただけるとなんか光栄ね。
 いまルイズの言った通り、それも生まれも育ちも火竜山脈のサラマンダー……それにほらルイズ、見てよこの子の尻尾の火の大きさ。
 あんたやタバサのほどレアじゃないのがちょっと悔しいけど、好事家に見せたら値段なんかつかない超一流ブランドよ?」
「た、確かに、めったにお目にかかれる代物じゃあないわね……」


私と、その目の前の火蜥蜴とを交互に見比べながら、互いに少々羨ましげな表情を滲ませる少女達。
目の前のモンスターとにらめっこしつつ、その視線に気付いて、形容しがたい微妙な気分に襲われる私。
心なしか対面の使い魔も、そう感じているように見えてしまう。
――もっとも、知り合いのリザードマンの顔を参考に、そう判断した私の主観でしかないのだが。

「……まるでペット自慢ね。
 それもスケイルエリア在住の貴婦人方が、ザマス口調で繰り広げてそうな感じの」

懐中のルダがぼそりと、私の心中を的確に表現してのけた。
……放っておいてください。


「あ、そういえばそろそろ朝食始まっちゃうわね……んじゃ、この辺で。
 フレイムー、行くわよー」

こちらにぱちりとウィンクすると、廊下を軽やかに駆けて行くツェルプストー嬢。
きゅるきゅるという鳴き声で応じ、小走りで駆ける主を追っていくサラマンダー。
鈍重そうに見えたが、あれで意外と動きは機敏らしい。


「いっけない……ツェルプストーのせいで完全に忘れてたわ!
 なにボーっと突っ立ってるの、わたしたちもさっさと行くわよ!?」
「いえ、それは良いのですが……ルイズ様」
「なによ!?」
「それで結局――――お探しのノートは見つかったのですか?」
「……あ」


…………我々が部屋を出発したのは、それからさらに5分後のことだった。





「はぁ、はぁ…………っ!
 な、なんとか、間に合ったわね……!」

どん、と大きな音を立てつつ、両開きの扉を押し開ける。

「何よりなことかと存じます……大丈夫ですか、ルイズ様?」
「な、なんであんた、あんなに、走ったのに、息が切れてないのよ……っ!? やっぱ、エルフ、だから?」
「はぁ……まぁ、その。執事ですので」
「答えになってないわよ!?」
「――とは申されましても、これ以外に答え様もございませんので。
 それにしても、これは凄い……!」

視界に広がる見慣れぬ光景に、しばし軽く驚く。
流石に貴族の子弟たちを相手にする学院の食堂である。
それなりの大きさを予想してはいたのだが――予想の少し斜め上を行かれた感は否めない。


数百人からの集団を収容するに足る広い間取りに、荘厳さと華美さを取り合わせたクラシックな建築様式。
壁のところどころに設けられたスペースで、踊る小人人形――恐らく魔法付与(エンチャント)されたインテリアだろうか。
その殆どを最奥がかすむぐらいの長机が三つ占拠しており、それぞれの机毎に茶、黒、紫と、
違う色をしたマントを羽織った生徒達がひしめいている。
これまでに臨席してきたパーティー会場や会食の席ともまた違った、このざわついた空気――
私は正規の執事教育を受けてきたわけではないが、
雪さんたちの学んだ“白手の学院(フォレン・ソール)”の食堂も、こんな感じだったのだろうか?

「なにボケッと突っ立ってるのよ? ほら、席に着くからついてきなさい」
「あ……これは、失礼いたしました」

物思いに囚われていた私の袖を、ルイズ様が引く。
我に返りつつ、ルイズ様の後に従い、食卓の席に移動する。
遅く来た分、逆に席探しで迷うことがなかったのは、せめてもの救いだろうか。

「…………」
「…………」

「…………?」

我々が通り過ぎた席の生徒たちから、妙な視線とざわめきを感じた――が、今はルイズ様の食事のほうが先だ。
ルイズ様が立ち止まったところで椅子を引き、着席を促す。

「どうぞ、ルイズ様」
「え!? あ、その……あり、がとう」

少々意外そうな表情を浮かべつつ、ルイズ様が席に着く。


「…………」

先刻からの形容しがたい視線を、こちらに再度感じつつ。
居住まいをただし、ルイズ様の後ろに控える――――――――ん?

気がつけば、首だけをこちらに向けたルイズ様が、いぶかしげな視線で私を見ていた。

「……なんでそんなところで突っ立ったままなのよ?」
「いえ、まぁ、その……執事ですので」
「いやだからそれ答えになってない――――って、そうじゃなくって!
 えと、その、あの。 エ……エサ…じゃない、じゃなくって……!
 その、あんた――食事の要求とかはしないの!?」

奇妙にテンパった様子で、小声でまくし立てるルイズ様。
一応彼女も、私の食事の心配をしてくれていたらしい。
……言い直された台詞が少し気になるが、そこはさておき。

「お仕えする方の会食中に、大きな顔をして飲食する執事など、おりませんので。
 私の食事に関しては――今はお気になさらずとも結構かと」
「は、はぁ……そうなの」

私の回答に、げんなりした表情で前に向き直るルイズ様。


「あぅぅぅ……なんかこれじゃ本当に、使い魔じゃなくって執事連れ歩いてるみたいじゃない。調子狂うわ……」
「何かおっしゃいましたか?」
「な、なんでもないわよ! と……
 いけないいけない、もうお祈り始めなきゃいけないじゃないっ」

並べられた豪勢な料理の前で手を組み、聖句(だろう、多分)の詠唱を始めるルイズ様。
教会や神学系の学校などにつきものと言われる、食事の前のお祈りというやつか。
私もお嬢様の公務に同伴した際、孤児院慰問などで見たことがある程度だが――そんなところだろう。


「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかなる糧を我らに………………ん?」



ふと気がついた違和感。
ルイズ様が祈りを中断して顔を上げ、辺りを見回す。
私の先刻感じていた、えもいわれぬ雰囲気が――ここへ来て明確かつ濃厚になっていた。

「ど、どうしたのよ。あんたたち……なんで唱和しないの!?」


……誰も、答えない。
こちらのほうを意識しているのは丸分かりなのだが――――ルイズ様に視線を向けられると、目をそらす。

「ちょ、ちょっと……ねえ、なんとか言いなさいよ?」

焦ったようにあちこちを向きながら言うルイズ様だが、相変わらず周囲からの応えはない。
代わりに向けられるのは――『あまりいい気持ちではないが、かといって面と向かって非難するのは憚られる』――そんな雰囲気のみ。
……腫れ物に触る、というのは、こういうのを云うのだろうか。
そして何より、彼らのその気配を向ける対象は、ルイズ様というよりむしろ――――

「……成程ね」

ホルスターの中で、ルダが得心したように独語した。




「な、なんなのよあんたら……! いったい何のつも――」
「ルイズ様」

その空気に耐えられなくなったルイズ様が激発しそうになったところで――その袖を引く。
……事ここに至っては、流石に仕方ないか。

「な、なによ?」
「どうやらこの状況……私が、原因のようです」
「……え?」

その一言で、ようやくルイズ様も気付いたようだ。
彼らの非難めいた視線が、ルイズ様――よりも、むしろ私にこそ向けられているということに。
我々にのみ聞こえる程度の声で、ルダが懐中から補足する。

「……つまりこういうことね。
 この世界での信仰の対象、ゴルトロックでいうエル・アギアスか“末裔たる者(ミスティック・ワン)”に相当する、始祖ブリミルとやら――
 そいつにお祈りする場に、“その敵対者だったエルフ”がいるのは具合が悪いのでしょう」
「あ――」

私の魔銃からの説明に、ようやく疑問を腑に落とすルイズ様。
……しかしこうして聞いてみると、まるで聖導評議会の信徒扱いだなぁ、私。

「……で、でもそりゃ確かに、あんたはハーフエルフだけど……でも、わたしの使い魔で、」
「ルイズ様」

少女の言葉を遮る形で、周りを見ながら口を挟む。
彼女の気持ちが、嬉しくないわけではなかった。
だが――先刻からのこの重い空気は、こうしていて晴れるものだとも思えない。

「申し訳ありませんが、やはり私は外でお待ちしております。
 お食事がお済みになりましたら、お呼びください」
「へ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
「――では、失礼いたします」





―― 一方的にそれだけ告げると。
わたしの使い魔のハーフエルフはぺこりと一礼し、『アルヴィーズの食堂』の外へ出て行く。

「あ、こら! だから、ちょっと待っ――」

その背中に声をかけようとして、周囲の非難めいた視線を先刻より強く感じ―― 一瞬、言葉に詰まる。
彼に意識を戻したときには、すでに食堂を出ていくところだった。

「……あ、」

妙な喪失感。
それに合わせたかのように、それまで食卓に立ち込めていた重い空気が晴れ、いつものガヤついた雰囲気に戻る。

(仮ではあるけど)ご主人さまであるわたしに何も言わせず、一方的に出て行ったリック。
まるで――いや、ある意味では本当に“せいせいした”といわんばかりの風情で、いそいそとお祈りの準備を始めるまわりの連中。
それが、妙に腹立たしかった。

――せめてパンとスープぐらい、分けてあげようかと思ってたのに。



「……あ、あんたが悪いんだからね。 勝手にしなさいよ、もうっ」



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