あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエルクゥ - 11


「やれやれ、できればもう少しスマートにやりたかったんだがねえ……ま、すぐにバレるだろうが、逃げる間ぐらいは時間が稼げるだろ。ったく、ホントあのクソジジイのセクハラったら……!」

 学院より四半日ほど離れた街道を、ロングビル―――『土くれ』のフーケは、ゆったりと幌付きの馬車で進んでいた。
 周囲に人影が無いのを確認して、懐から何かを取り出し、しげしげとそれを眺める。
 泥のついていない小奇麗なマツタケ。そんな風に見えるキノコだった。綺麗すぎて、どこか蝋細工のようでもある。

「"食べた者に、烈火の如き勇気と力を与えるキノコ"……ま、あたしはそんなんいらないし、いつものように、適当なルートに売り払おうかね」

 自らを匪賊に貶めた連中に対する復讐、なんて感情も、とっくの昔に擦り切れてしまった。
 話によれば、近いうちに自滅するみたいだが……たぶん、あの時にああしなかった貴族―――王族なんて、皆無だろう。良い意味でも悪い意味でも、王というのはそういうものだ。王弟だからと言って手心を加えなかったのは逆に高潔であるとも言える。
 そういう意味では、最初から、別段、特定のどこかや誰かを殺したいほど憎いという訳ではない。代わりに、貴族、なんていうもの全てが嫌いにはなったが。
 高慢ちきなお貴族様が宝物を盗まれてあたふたするのを眺めて楽しむ。そのぐらいで十分溜飲は下がった。

「さって、珍しく安定してた収入はなくなっちゃったし、これからどうしますか……」

 キノコを懐にしまい直して、うららかな陽気に一伸びする。
 目の前では街道が交差し、分かれ道になっていた。

「……キナ臭い話もあるし、秘書の仕事が忙しかったしね。久しぶりにテファのところにでも顔出そうかしら」

 そう呟いて穏やかな笑みを浮かべると、フーケは馬車を北に向けた。

§

 学院は、上へ下への大騒ぎだった。

「ふぅむ……まさかこの宝物庫に賊が侵入していたとはのう……」

 衛視から報告を受けたオスマンは、確かに"烈火のキノコ"が無くなっている事を確認して、大きくため息をついた。

「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくっているという盗賊か! この魔法学院にまで手を出すとは、随分とナメられたものですな!」
「衛兵は一体何をしていたんだ!」
「フーケは盗賊とはいえメイジ、平民の衛兵など当てになるか! そもそもいつ盗まれていたのかすらわからないんだぞ!」


 集まった教師連中は、口々に好き勝手な事を喚き散らしている。話は紛糾するばかりで、実のある方向に向かっていく様子はなかった。
 オスマンはもう一度ため息をつき、現場を検分していたコルベールに話しかけた。

「ミスタ・コルベール、書き置きを発見したのは彼等二人なのじゃね?」
「はい。足を滑らせて扉にぶつかった折、鍵が掛かっているはずの扉が開いてしまったので驚いて報告したと。間違いないかね?」
「ま、間違いありません」
「ふぅむ……教師諸君! ここ最近、宝物庫に入ったものはおるか?」

 ざわついていた教師が一瞬静まり返り、顔を見合わせた。
 その内の一人が、おそるおそると手を上げる。

「に、二ヶ月ほど前、授業に使うための『遠見の鏡』を持ち出しましたが……」
「その時には?」
「こ、こんなものはありませんでした。ハイ」
「では、二ヶ月以内に入った者は?」

 再び顔を見合わせる。今度は、手を上げるものはいなかった。

「おらんか。犯行は少なくとも二ヶ月以内に行われた……手がかりナシに等しいの」
「あ、あの」

 衛視の一人が、こわごわと言葉を紡いだ。

「なにかあるのかね?」
「ほ、本日は、ミス・ロングビルがいらっしゃいました。宝物庫の目録を作る、とかで……お昼前ぐらいだったでしょうか。半刻ほどして、何事もなく出て行かれましたが……」
「ふむ……そういえば、そのミス・ロングビルはどこじゃ?」

 見渡してみても、あのぷりんとした尻は見当たらなかった。

「見当たりませんね」
「そのようじゃな。あー、君々、ちょっとミス・ロングビルを探してきてくれんか」
「わ、わかりました」

 所在なさげに教師達を見やっていた衛兵の一人が頷き、早足で駆けていく。

「やれやれ。ガンダールヴといいフーケといい、新学期早々厄介事が続きおるわい」

 オスマンは眉間に皺を寄せて、ため息をついた。
 そのすぐ後、ロングビルの私室から『学院長のセクハラに耐えられないので辞めさせていただきます』という書置きが発見され、オスマンの眉間の皺がさらに深くなる事となったのだった。

 なお、彼の秘書に対するセクハラは公然の事実であったので、ロングビルの予想に反し、誰も"ロングビルがフーケであり烈火のキノコを盗んで逃げたのだ"と言い出さなかったのは余談である。

§

「明日のフリッグの舞踏会が中止ですって? なんで?」
「さあ? 中止っていうだけで、理由は誰も教えてくれないのよ。もう! せっかく特製のドレスでダーリンを悩殺しようかと思ってたのにぃ!」
「……はぁ。ツェルプストーはろくな事を考えないんだから」

 学院に帰ってきたルイズ達を待っていたのは、何やら慌しい雰囲気だった。

「まったく、今日は厄日かしらね、打つ手打つ手が全部裏目に出ちゃうわ。ルイズには先を越されるし、タバサもどこに行ってたのか話してくれないし」
「…………」

 食堂で夕食を取った後、ルイズはキュルケ、タバサと食後の紅茶を飲むのが日課のようになってしまっていた。
 キュルケは自分にとっても一族にとっても天敵だったはずなのだが、耕一が召喚されてからというもの、なんとなく印象が柔らかくなった気がして、話が続いてしまうのだ。(タバサの方は、キュルケが引っ張り込んで一緒に居るだけのようで、ほとんど喋らないが)
 その当人たる耕一は、いつもの通り厨房に行っていて、食堂内にはいない。そろそろ入り口に現れる頃だろう。

「なんでも、宝物庫に盗賊が入ったらしいわよ。あの『土くれ』のフーケ。先生が総力をあげて探してるから中止って話だけど」
「それ本当なの? モンモランシー」

 今日は、長いブロンドの髪を豪奢な巻き毛にした少女―――モンモランシーも、その輪に加わっていた。
 浮気者の恋人をワインボトルでしばき倒した、あの少女である。
 紆余曲折の末によりを戻した恋人が級友の使い魔に妙に傾倒しているので、彼女もその主人と交友を持つようになっていた。
 彼女自身、ルイズの事を内心バカにしていた一人で、使い魔とギーシュの決闘というのも見ていないのだが、プライドはえらく高い方であったあのギーシュが、あれ以来ルイズにも酷く丁寧に接するので、なんとなくそんな気持ちは薄れていたのだった。

「『土くれ』のフーケ……今日街でもその名前を聞いたわ。貴族の屋敷から宝物を次々と盗んでいる怪盗だって」
「トライアングル相当って聞いてたけど……ここの宝物庫から盗み出したとなると、スクウェアクラスかもしれないわね」
「スクウェアの土メイジなんて、エリート中のエリートじゃない。なんで盗賊なんてやってるのかしら」

 フーケの件は厳重に緘口令が敷かれていたが、人の口に戸は立てられぬもの。
 舞踏会の中止が告知されるや否や、それとほぼ同時に、その理由として噂の口に昇っていた。

「ま、ともかく作戦は最初から練り直しかぁ。どうしようかしら」
「もう、ホントに盗賊が入ってたとしたら、そんな悠長な事言ってる場合じゃないでしょ。色ボケもいい加減にしときなさいよ」
「て言ったって、あたし達がピリピリしたって犯人が捕まるわけじゃないわよ」
「それは、そうだけど……」
「…………餅は、餅屋。ルパンに、銭形」
「そういう事。捕り物なんて、先生とか衛士隊とかに任せておけばいーのよ」

 うー、と黙ってしまったルイズを見て、難儀な性分ねぇ、とキュルケは苦笑し、紅茶のカップを傾けた。

「っていうかタバサ、るぱんとぜにがたって何?」
「…………あなたの、心です」

§

「学院長の方も、タバサちゃんの方も、手がかり無し、か」

 本来ならば絢爛な舞踏会が行われていたはずの夜は、しかしいつもの静けさのまま、人々を安らぎの闇に包んでいた。

『すまんのう。図書館の文献を当たらせてはおるが、まだ手がかりと言えるようなものは見つかっておらんのじゃ』
『仕事で遠くに行っていて、もうしばらくは会わせる事が出来ない』

 先程続けてもたらされた話を思い出して、耕一は肩を落とした。
 秘書が辞めてしまったらしく、書類に忙殺されていた老人に無理を言うのは憚られたし、基本的に善意で言ってくれているタバサに至っては言わずもがな。
 元々誰かに当たり散らすような性格ではないが、未だ慣れぬ異邦の世界ではうまく解消する術も無い。耕一は、肩を落とした姿勢のまま、腹に溜まった物を静かに吐き出した。

「ま、そう気を落とすなって、相棒」
「気が利くねえ、デルフ」
「任せな。相棒のためなら気ぐらいいつでも利かせてやるさ」

 腰に差した剣―――デルフリンガーの鍔飾りが、カタカタと鳴る。
 陽気な彼とのお喋りは決して嫌いではなかったので、耕一は鯉口を締める事はせず、常に彼を喋る事の出来る体勢に置いている。
 それを気に入ったのか、彼は耕一を、相棒、などと呼んでいた。

「しっかし、別の世界から召喚された、ねえ。相棒も難儀なこったな」
「まったくだよ。なあ、お前は何か知らないのか? 六千年も生きてるんだろ?」
「残念ながら、そーいう細けえ事まで覚えちゃいねーよ。六千年つったって、最初の頃以外はホントつまんねえ事ばっかりだったしな。何十年も埃の被った棚に放置されたり、何百年も真っ暗な倉庫に入れっぱなしにされたりしてみ? ありゃ気が狂うね。マジで」
「はは、つかえねーの」
「ひでえ。でもま、相棒なら許してやる」
「そりゃどうも」

 広場に出ると、月明かりの中、まだ仕事を片付けている奉公人がちらほらと残っている。

「あ、それで一つ思い出した」
「何を?」
「相棒、俺を抜け」

 言われた通りに鞘から抜き放つと、錆びついていたその刀身が、微かに光り始めた。

「デルフ?」
「最初の持ち主が死んじまってから、ホントつまんなくてよ。世を儚んで、こんな格好にしてたんだが」
「う、おっ……!」

 その光は徐々に強くなっていき、やがて夜を切り裂き、視界を覆うほどに膨れ上がる。
 それが収まった時……耕一の手には、錆び一つ無く銀色に光り輝く、見事な名剣が握られていた。

「最初の頃は、こんなだったんだよ、俺」
「……先に言ってくれ。結構びっくりしたぞ」
「悪ぃ悪ぃ。驚かしたくてよ」
「こんにゃろ」

 広場に残っていた奉公人達が何事かと目を向けてきたので、慌てて女子寮の塔に飛び込む。

「ま、お前さんといると面白そうだからな。俺なりの誠意ってヤツだ。よろしく頼むぜ、相棒」
「ああ、よろしく。デルフリンガー」

 何千年という時を過ごしながらどこまでも陽気な剣の声に、少しだけ気持ちが軽くなった耕一だった。


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