あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのエルクゥ - 06


 昨夜と同じく厨房で朝食を終えて教室に入ると、教室中の視線が一斉にこちらを向いた。
 昨日と同じような、あまり良い意味のこめられた視線ではなかった。くすくすという忍び笑いも漏れ聞こえてくる。
 無視して足を進めるルイズ。耕一もそれに続いた。
 教室の中には、先程のキュルケもいる。その隣には、ルイズとは違う意味でキュルケとは対照的な、透き通るような蒼い髪をした小柄なメガネ少女が本を広げていた。

「貴族だの魔法だのっつっても、教室ってのは変わらないもんだなぁ……」

 甲高いおしゃべりの喧騒に、高校時代を思い出す。
 暫しそんな風に懐かしい気分に浸っていると、ガラリとドアが開き、明らかに生徒ではない人物が教室に入ってきた。同時に、お喋りがピタリと止む。
 ゆったりした紫色のローブとマントを身に纏い、同色の、これぞ魔女、とでもいうようなトンガリ帽子を被った、恰幅のいい中年女性だ。
 女性はゆっくりした足取りで教壇に昇ると、ぺこりと一礼した。

「皆さん、おはようございます。私の名前はシュヴルーズ。二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです。これから一年、皆さんに『土』の魔法を講義致します」

 シュヴルーズは穏やかな口調で述べると、満足げな微笑みを浮かべながら、教室を見渡した。

「春の使い魔召喚の儀式は、皆さん大成功だったようですね。このシュヴルーズ、こうして春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 その視線が、ある一点で止まる。

「おや、ミス・ヴァリエールはとても変わった使い魔を召喚したものですね」

 シュヴルーズは、耕一とルイズを見て、とぼけた声をあげた。
 その声には、何か含む所は微塵もなく、文字通りの意味しか込められていなかったが、元から含むところを持っていた人間には、十分な刺激らしかった。

「ゼロのルイズ! 『サモン・サーヴァント』の魔法を使えないからって、その辺歩いてた平民連れてくる事はないだろ!」

 肩にフクロウを載せた小太りの男子がからかいの声を上げると、途端に教室中が笑いに包まれた。
 ルイズは肩を震わせて俯いてしまう。唇を噛み締め、耐えるように。

「そうだそうだ! どんな魔法を唱えても失敗しちまう、魔法成功確率ゼロのルイズ!」
「ゼロにはお似合いの使い魔だよな!」

 ―――なるほど。あのあだ名はそういう意味か。
 ルイズが全身を震わせ始めた時、耕一はさっと、甲を前に向けて左手をかざした。

「あー。とりあえずこの通り、『コントラクト・サーヴァント』とやらは成功しているんだから、成功確率はゼロじゃないんじゃないかな?」

 その言葉に、しーん、と教室が静まり返った。

「それに、俺自身も、変な鏡みたいなのに無理矢理吸い込まれてこんな知らないところに飛ばされてきたもんでね。『サモン・サーヴァント』というのも成功してるんじゃないかな。そこの君、どう思う? 成功確率はゼロだと思うかい?」

 最初にからかった小太りの男子を指差すと、あわあわと見るからに焦り始める。
 その様子を見て、太っちょ男子の隣に座っていた金髪の少年が、胸に差していたバラの切り花をキザったらしく手に持った。

「フン。平民に簡単に言い包められてどうするんだいマリコルヌ。口裏を合わせれば、そんなのどうとでも説明がつくじゃないか。その使い魔のルーンだって、絵の具で書いたのかもしれないだろう?」

 バラを手繰りながら、そんな事を言う。
 これでもかというぐらいにドレープの付いた飾りシャツの胸元から素肌が見えているこのバラ少年、ちょっと、いやかなり、悪趣味と言わざるを得ない。

「お、おお。さすがギーシュ! そうだな! そうに違いない!」

 沈静していた勢いが再び戻るのを見て、やれやれ、と一つ嘆息。
 教壇のシュヴルーズに目を向けると、ちょうど彼女が、手に持った二の腕ほどの長さの杖を振り、何がしかの呪文を唱えたところだった。

「もがっ!? もご、もごーっ!」

 次の瞬間には、太っちょ男子と悪趣味男子、それに一緒になって笑ったり囃し立てたりしていた生徒の口に、土で出来たフタがかっぽりと嵌っていた。

「お友達をそんな風に言うものじゃありません。今笑った人たちも同罪です。そのままで授業を受けなさい」

 見た目はコメディだが、一瞬で、何も無いところに、複数の土塊を出現させる、という現象に、耕一はかなり驚いていた。
 ……口だけだからあれで済んでるけど、アレにいきなり目とか鼻とか塞がれたら、かなりやばくないか?
 魔法というもののデタラメさに、耕一は少し肝が冷えたのだった。

「さて、ミス・ヴァリエール、魔法の四大系統はご存知ですね?」
「は、はい。『火』『水』『土』『風』の4つです」
「はい、ありがとうございます。以上の4つに、今は失われた系統、『虚無』をあわせて5つの魔法系統が存在する事は、皆さんもご存知の通りです」

 四大属性+特殊系統が一つってホントにRPGの属性みたいだな、と耕一はにべもない事を考えた。

「その5つの系統の中で、『土』は、最も重要な位置を占めると私は考えます。まあ、『赤土』の二つ名の通り、私が『土』属性のメイジだからという身びいきは否定しきれませんが」

 そう薄く笑う仕草は、上品なおばさまそのものだった。嫌味じゃないセレブってヤツだ。

「『土』は、万物の組成を司る、重要な属性です。様々な金属の製造や加工、家屋などの建築には欠かせない魔法であり、農作物の育成や収穫などにも大きな役目を果たしています。『土』系統の魔法は、皆さんの生活に密接に関係しているのです」

 シュヴルーズがさっと杖を振り一句唱えると、机の上に小さな小石が3つほど現れた。

「今日は、『土』系統魔法の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。『土』属性の人達は、もう既に覚えている人も多いかもしれませんが、基本は重要です。そういう人も、もう一度おさらいをするように」

 もう一度杖を振り、今度は少し長めの呪文を唱える。
 すると、小さな小石がぱあっと光を放った。それが収まった時には、その石は、キラキラとした金の光沢を持っていた。

「ごご、ゴールドですか!? ミズ・シュヴルーズ!?」

 キュルケが、目の色を変えて立ち上がった。

「いいえ。これは真鍮です」

 シュヴルーズが答えると、なぁーんだ、と、つまらなそうに腰を下ろす。
 清々しいぐらいの現金っぷりだった。

「『錬金』の魔法は、このように、一つの物質を別の物質に変えてしまう魔法です」

 ―――それが基本の魔法という時点でとんでもないなあ。
 さっきの口を塞いだ土もこれで作ったのだろうか。と、耕一は未知の知識に好奇心を膨らませていた。

「『錬金』という名前にもなっているように、金を作り出す事を目的として生まれたこの魔法で最も困難なのが金の製造です。可能なのは、『土』のスクウェア・メイジだけです。私はただの、トライアングルですから」

 謙遜の言葉でありながら、その底には確固とした自信が垣間見えた。
 スクウェア(四角形)、トライアングル(三角形)、という名前からして、レベル4とかレベル3とか、そういう意味だろうか。

「それでは、誰かにやってみてもらいましょう。そうですね、ミス・ツェルプストー。どうでしょう?」

 新たな小石を出して、シュヴルーズがキュルケを指名した。

「私ですか?」
「ええ。ゴールドに興味があるようでしたので。魔法の力は意志の力。それを成したいと願い、想像する力を創造する力に変える。それが『錬金』です」
「わかりました。やってみますわ」

 キュルケは席を立ち、ぷるんぷるんと胸を揺らしながら教壇まで降りていく。
 ……明らかに、男子の視線がそれに集まった。この世界でも、女性の魅力の価値観というものはあまり変わらないようである。

「いや、俺は楓ちゃん一筋だからね」
「またあんたは……誰かと話してるの? あの、シグナル、ってやつで?」
「そういうわけでもないんだけど……こう、総論と各論の齟齬というか」
「意味わかんないわよ……」

 ルイズにバカな説明をしている内に、教壇では今まさに、キュルケが杖を振りかぶるところだった。

「ゴールドなんて贅沢は言わないから、せめて何か宝石っ!」

 実にわかりやすい呪文と共に杖を振り下ろす。
 小石が光を放ち、収まり、そこにあったのは……。

「……何これ?」

 鮮やかな黄色の小石であった。

「これは硫黄ですね」
「硫黄? 火の秘薬の硫黄? これが?」
「はい。使い魔を見るに、ミス・ツェルプストーは『火』の属性。イメージが抽象的なもののようでしたから、それにちなんだものが出来上がったのでしょう」
「うーん、宝石は無理だったかぁ」
「キチンと何の宝石を作るかをイメージしさえすれば、きっと出来るようになりますよ。ではもう一人、やってもらいましょうか」

 再び新たな小石を出し、ぐるりとシュヴルーズが周囲を見渡して……自分の使い魔と何やらひそひそ話しているルイズを見咎めた。

「それでは、ミス・ヴァリエール。前に出てやってみてください」

 そう言った瞬間、ざわ・・・と教室中がざわめいた。

「あの、先生。危険ですから、やめておいたほうがいいですわ」
「危険? どういう事です?」

 教壇の側にいたキュルケがキッパリと言うと、教室の中のただ二人以外の全員が、然りと頷いた。

 ちなみに、一人は耕一。もう一人は、キュルケの隣にいた、教科書を広げる振りをしながら別の本を裏で読んでいる蒼い髪の少女だった。

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ。あまり実技の成績が良くない事は存じていますが、座学に関しては学年首席であると、非常な努力家である事も存じております。さあ、ミス・ヴァリエール、気にせずにやってごらんなさい。数多くの失敗から、成功は生まれるものです」
「いや、あまり、どころじゃ」
「……やります」

 キュルケが言葉を続けようとしたところで、ルイズはまっすぐに立ち上がった。
 そのまま有無を言わせずに教壇に降りていく。キュルケは諦めたように首を振ると、自分の席に戻って机の下に隠れた。

「……何やってんだろう」

 見ると、周囲の生徒全員が、まるで避難訓練か何かのように物陰に隠れ始めていた。
 あの蒼い髪の少女まで、机の下に潜っている。

「さあ、ミス・ヴァリエール、作りたい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
「はい」

 こくりと頷いて、ルイズは目を閉じ、杖を掲げた。
 事態が進むに連れて、教室中が戦々恐々としだす。

「ルイズの使い魔さん あなたも隠れていた方が良いわよ」
「へ?」

 一体なんなんだ、暴発でもするのか、と首をひねっていた耕一に、キュルケが声をかけた。

「なあ、わけがわからないんだが……一体何がどうなってんだ?」
「爆発」
「え?」

 机の下でも本を広げていた蒼髪少女がぼそりと呟いた瞬間、ルイズが裂帛の気合と共に杖を振り下ろした。

「『錬金』!」

 刹那、小石がシュヴルーズやキュルケの呪文とは明らかに違う勢いで光り始め、それは見る間に視界を覆っていき―――

「ッ!!」

 ずがーん、と、盛大に爆発した。
 猛烈な光と煙が視界をゼロにする。耕一は、運良く最初の光の時点で目を覆っていたので大事なく済んだ。


「げほっ! げほっ! こ、こういう事か……っ!」

 まさか、本当に暴発だとは。
 光と煙が晴れた時、目の前にあったのは、惨状、の一言だった。
 小石が乗っていた教壇は教室の端まで吹き飛んでいた。ルイズとシュヴルーズは爆発を直接くらったのか、ススだらけで倒れてぴくぴくと痙攣している。
 すりばち上に配置された机もところどころが吹き飛び、その下に隠れていた生徒を瓦礫にまみれさせていた。

「…………」

 使い魔召喚の儀式から初の授業という事で、大きすぎるもの以外は連れてこられていた使い魔達がぎゃあぎゃあと暴れているのを横目に、ゆっくりとルイズが立ち上がる。
 無残な格好だった。魔法で保護されているという制服がボロボロになっている。ブラウスの破れ目から健康的な色をした肩やお腹が露出し、スカートは下着を隠しきれない程に傷ついていた。
 ルイズはけほっとススの混じった咳をし、どこからか真っ白で清潔そうなハンカチを取り出すと、顔についたススを拭き取りながら、口を開いた。

「……ちょっと失敗したようね」

 口を塞いでいた赤土がいつの間にか取れている生徒達が一斉に文句を言い始めるのを尻目に、耕一は、楓とよく見ていた吉本新喜劇を思い出したのだった。


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