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もう一人の『左手』-22


 雲と霧の白い闇を抜けると、一抹の光さえ差さない、真の闇がそこに待っていた。
 浮遊大陸アルビオンの“真下”である。
 四人の少年少女を乗せたシルフィードは、ためらうことなく、その暗黒の中に身を紛れ込ませた。

「タバサ! 待ってくれっ!! 風見さんを置いて行く気かっ!?」
 才人が必死に叫んでいる。
 だが、待つわけには行かない。
 自分たちが大陸の下側に逃げ込んだのは、確実に目撃されているだろう。
 少なくとも、先程のフネを乗艦とする竜騎士が追って来れない程度の距離を、この暗闇の中で稼がねばならない。
 貴族派の空軍は、大陸の下側には入って来ないと風見は言っていたが、いくら何でも、100メイルや200メイル程度の距離なら、たちまち竜騎士に臭いを辿られ、追いつかれてしまう。少なくとも3~4リーグは距離を稼がねば、安全とは言えないはずなのだ。

 だが、そこから先は?
 タバサは唇を噛みしめる。
 ニューカッスルの正確な座標を知っているのは、風見だけだ。
 こんな暗闇の中を、闇雲に飛び回ったところで、何ら埒があくわけではない。風韻竜シルフィードといえど体力には限界がある。いつ頭上の岩塊に、頭をぶつけるかも知れない危険な闇の中を、無限に飛びつづけるわけには行かない。

――どうする?

 タバサは、その怜悧な頭脳を働かせる。
(危険だけど、一度、アルビオンの地上に出るしかない)
 幸い、こっちにはヴェルダンデがいる。
 さっきのフネから飛び立ったはずの竜騎士をやり過ごし、シルフィードが抱えるジャイアント・モールに地上に向けての穴を掘らせ、地上に出る。
 穴の向こうが貴族派の陣かも知れない――いや、アルビオン貴族派のほとんどは、ニューカッスル周辺に陣を構えているはずだ。城から少し距離を置けば、“上陸地点”としては逆に安全といえるかもしれない。
 しかし、ニューカッスルの座標どころか、自分たちの現在位置さえ読めない現状では、地上に出るリスクは避けられない。

――どうする?

 昨夜、出立の前に地図上で確認した時、ニューカッスル城は、大陸から突き出た岬の突端に築かれていたはずだった。つまり、アルビオンの内陸に飛べば飛ぶほど、目的地から距離を取れる事になる。
 最悪、ラ・ロシェールに帰還するという選択肢も考えつつ、タバサは、あと1リーグ直進したのち、地上への縦穴を掘る決意を固めていた。
(カザミに頼りすぎだった)

 タバサの奥歯が、ぎしりと音を立てた。

「……まただ、また、おれは……風見さんを見捨てちまった……!!」
 才人がへコんだ声を出している。
「あの時と……同じだ……あの時と……っっ!!」

「黙って」
 タバサは、いつになく硬い声で才人を制する。
 たとえ傍らにいるのが貴族だろうが平民だろうが、この少年は誰はばかる事無く自分の心情を吐露する事をためらわない。そんな彼のことを、タバサは決して嫌ってはいなかった。
「あなたの気持ちは分かる」
 だが、それでも、時と場所は選んでもらわなければならない。
 ここはもはや、平和な魔法学院ではないのだから。
「でも、いまは黙って。――あなたの、その呟き声さえ、追っ手の竜の耳には聞こえてしまう」

 一寸先さえ見えない闇の中で、一同がぎょっとした気配が伝わってくる。
 それも当然だろう。
 彼らの中で、一番ドラゴンの生態に詳しいのは誰かと訊かれれば、間違いなく、竜を使い魔としている、この少女なのだから。

「心配要らない」
 だが、黙れと言ったはずのタバサ自身は、何故か口を閉ざさなかった。
「カザミは死んでない。絶対に生きている」
 いや、タバサ自身、なぜ才人にこんな事を言っているのか、よく分かっていなかった。
「タバサ……!?」
 いつになく雄弁な彼女に、キュルケが訝しげな声をあげる。
 当然だ。人を慰めるなんて、どう考えても自分の任ではないはずなのだ。だが、何故か彼女の口は、言葉を発することをやめられなかった。
「わたしはカザミを信じている。だから、あなたも信じなさい」

 タバサのその声に、もはや硬い響きはなかった。
 そして、今はそんな情況ではないと分かっていてなお、タバサは何故か、今の自分が不愉快ではなかった。

(ぐっ……!!)

 8発目の砲弾を食い止めたV3は、ようやくシルフィードが大陸の真下側に潜り込んだ事を確認した。
(ようやく行ったか……まったく……!!)
 その事実は、激痛の中、彼に束の間の安堵をもたらす。
 だが、V3の仕事は、これで終わったわけではない。むしろこれからなのだ。
 あのフネの注意を惹きつけ、シルフィードへの追っ手を極力引き受けねばならない。
 彼は、ハリケーンに跨ると、ジェット・ノズルの出力を最大に上げた。

 竜騎士を、近代空軍に於ける艦載機だと見なすならば、フネは航空母艦というべき存在であろう。ならば、やるべき事はただ一つだ。
――フネを制圧する。
 すでに数騎の竜騎士たちが、フネを発進したのをV3は目撃している。間違いなくシルフィードへの追跡隊であろう。だが、それでも眼前で母艦が攻撃されれば、奴らも追跡どころではなくなるはずだ。
(殺しはせん。ただ、少し手荒い真似はさせてもらうがな)
 心中にそう呟いた瞬間だった。
 その砲弾が飛来したのは。

「っ!?」
 その一発を喰らった瞬間、V3は全身が、骨の髄までバラバラになりそうな衝撃を覚えた。
 躱せなかったのだ。――仮面ライダーV3ともあろう者が。
 さっきまでの火砲とは全く違う。威力も、速度も、命中精度も。

 おそらく、この砲撃を弾幕に混ぜられていたら、さすがのV3もシルフィードを庇いきれなかったに違いない。風竜かV3か、どちらかが確実に死んでいただろう。
 直撃の衝撃でハリケーンから落ちなかったのが、まさしく僥倖という他はない。
 こんな砲弾をハルケギニアで撃てる者は、おそらくただ一人。
 いや、推測するまでもない。V3はこの一撃を、かつて何度も喰らった覚えがあったのだから。
「あいつ……か……!!」

――改造人間カメバズーカこと、平田拓馬……!!

 エレクトロ・アイの透視装置を、望遠に切り替える。それと同時に改造人間探知回路であるOシグナルを開く。だが……その瞬間、V3は愕然となった。
(反応が……二つ……!?)
 誰だ!? カメバズーカと俺以外に、まだハルケギニアに改造人間がいるというのか!?

 一気に上昇し、フネを眼下に収める高度までハリケーンを駆る。
 そこからフネに飛び降り、一息に制圧する予定だった。

 相手が人間なら知らず、改造人間ならば、自分のの鉄腕を振るうに不足な相手ではない。
 バダンによって魂を抜かれた再生怪人ならばともかく、意思持つ二人の改造人間相手に、まともに戦えるかどうか――それはもはやV3にとって、どうでもいい事だった。

(何故だ……!! 何故、貴様らは……!!)
 何を目的として、異世界の争乱に力を貸し、血を流す事を厭わないのか。改造人間のパワーを、ただの人間に振るうということの意味を、何故考えようとしないのか。
 それがV3――風見志郎には、どうにも許せないのだ。

 だが、その瞬間、彼のあらゆる思考は、一気に吹き飛んだ。
 フネの上甲板に立っていた二人の改造人間――カメバズーカと、もう一人の男。

 ZX以外の仮面ライダーは、総勢9人。
 その中で、彼と結城丈二――ライダーマンが直接知るデストロン以外に、少なくとも10社の“秘密結社”が、かつて世界征服を目指して、改造人間を量産している。だから当然、カメバズーカの隣に立つ者がV3の知らない怪人であっても、不思議はなかった。
 しかし、そこにいたのは、彼のあらゆる想像を超えた存在だった。



「俺……だと……!?」



 見間違えるわけがなかった。
 赤い仮面。
 緑の複眼。
 立てた襟。
 二本のマフラー。
 レッドボーン。
 そして……ダブルタイフーン。


「しまっ……!!?」
 驚愕のあまり動きが止まった瞬間だった。
 そこにいた、もう一人のV3のベルトから、凄まじい指向性エネルギーが発射されたのだ。
(逆ダブルタイフーン……だとぉ!?)
 その刹那、彼は眼前が真っ白になったのを感じた……。


「おい」
「なんだ?」
「本当によかったのか? あれは一応、“お前”なんだろう?」
 カメバズーカが、呆れたように傍らの男に話し掛ける。
 そこには、紺色のYシャツに白いベストに身を包んだ、精悍な相貌の男が立っていた。
 逆ダブルタイフーンは、変身のために使用する全エネルギーを放出するため、三時間は変身が不可能になるほどの壮絶技である。カメバズーカとしても、まさかこの男が、“自分自身”に対し、ここまでやるとは思っていなかった。
 だが、

「風見志郎は、一人でいい」

 そう呟いた“風見志郎”は、眉一筋動かさなかった。


 暗黒の中を、二隻のフネが音もなく進む。
 王党派の巡洋艦『イーグル』号が、アルビオン上空で拿捕した『マリーガラント』号を引き連れ、ニューカッスルの地下侵入港に向かっているのだ。
「貴族派というが、所詮あいつらは、空を知らぬ無粋者さ」
 そう言って、ウェールズはルイズに笑いかけた。

 だがワルドは、そんなウェールズを横目に、全く別な事を考えていた。
 ニューカッスル城に王党派を追い詰めて、かなりの日数が経つ。
 にもかかわらず、浮遊大陸の真下に、こんな侵入口が存在していた事に気付かなかったとは、迂闊にも程がある。
 王党派の城塞すべてに、このような地下港があるのか。それともニューカッスルにだけ、こんな、フネさえ侵入可能なほどの天然の縦穴が、存在していたのか。

(おそらく後者か)
 王党派の城塞全てに、こんな大規模設備の用意があったなら、いくら何でも、貴族派の誰も、その存在を知らないなどという事は在り得ない。いや、それ以前に、ここまであっさり王党派も、制空権を奪われたりはしないはずだ。
 なら、王党派が、ニューカッスルに逃げ込んだのも、あながち考え無しではなかったという事か。
 この大穴を利用して、密かに兵站の補給を続け、可能な限り篭城を長引かせる。その間にハルケギニアの列国に、対レコン・キスタの世論が沸騰すれば、救援さえもあながち期待できない話ではない。……あくまでも糸のように細い期待ではあるが。


 空賊たちが、王党派の偽装だったと判明した時は、さすがのワルドもほっと胸を撫で下ろした。常識的に言えば、ワルドの大博打は、どう考えても外れる確率のほうが高かったからだ。
 このまま“大使”を名乗り、ニューカッスルまで連れて行ってもらえば、目的の全てを、ほぼ問題なく達成できるだろう。いや、城外の貴族派と上手く連絡を取り合えば、今日・明日中にも、城に貴族派の軍を手引きできるかもしれない。
 自分の強運に驚きながらも、ワルドはむしろ沈鬱な表情を崩さず、言った。
「まるで空賊ですな、殿下」
「まさに空賊なのだよ、子爵」

「喜べ、パリー!! 硫黄だ、硫黄!!」
「おお、硫黄ですと!? 火の秘薬ではござらんか!! これで我々の名誉も守られるというものですな!!」
 老メイジと抱き合うようにして喜びを分かち合うウェールズ。
「先の陛下よりお仕えして60年……こんな嬉しい日はありませんぞ殿下。叛乱が起こってからは苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば……!!」
「そうだ。――まだまだ我々は戦えるぞっ!!」

 聞くも凛々しい、その王子の宣言に、うおお~~っと、地下港に集まった兵たちの歓声が上がる。
 その光景に、ルイズも少女らしい興奮を押さえきれなかったようだ。
「そうよそうよ!! レコン・キスタみたいな反乱軍に、由緒正しい王家の人たちが負けるなんて、そんなこと、神と始祖がお許しにならないわ!! ね、子爵さまっ?」
「ああ、ぼくもそう思うよルイズ」
 だがワルドは、婚約者に向けた笑顔の下で、彼らを罵倒せずにはいられなかった。
(この、馬鹿めが)

 アルビオンに住む国民一人一人の事を考えるならば、こんな内戦など、長引いたところで、まさしく百害あって一利もありはしないのだ。
 戦が長引けば長引くほど、包囲軍は、戦費や糧食を、ニューカッスル現地民から徴収し、銅貨一枚の見返りすら支払う事はない。そして、内戦の結果、彼ら平民にもたらされるものは何か? 何もありはしない。
 残るものは、戦場となって焼き尽くされた田畑であり、糧食として軍に奪い尽くされた収穫であり、兵卒として徴用された農村の壮丁たちの死体だけだ。

 しかも、季節はこれから冬を迎える。
 食糧や家畜を奪われ、働き手の若者を失い、冬を越せなくなった大量の農民が、文字通り、難民として都市部に流入するだろう。そして彼らは、仕事と食物を奪い合い、結果として恐るべき不景気が、アルビオンを見舞うはずだ。
 無論、レコン・キスタの大幹部の一人として、ワルドは、何らかの対応策を打つつもりではあるが。

 この内戦が、レコン・キスタによる一方的な侵略戦争であることは承知している。
 だが、それでもワルドは、わずかなプライドを掲げて、勝ち目のない戦争をやめようとしない眼前の王党派たちに、言い知れぬ怒りを覚える。
(なぜ、降伏しようとは思わないのだ)
 その問いの答えは簡単だ。
――こいつらは死ぬことに酔っている。名誉を守るという大義名分に酔っている。
 この連中は、一日早く戦が終われば、その分だけ、民のこうむる戦禍も少なくなるなどとは、おそらく考えた事もないのだろう。

 ウェールズという男に何の恨みもないが、それでもこの瞬間に、ワルドの中で、ウェールズに対する、一分の情は消えたと言っていい。
(この王子を殺せば、王党派は瓦解する)
 ワルドは、ウェールズ暗殺のための具体案を腹の中で練り始めた。

 その時だった。
 不意の地響きが、地下の鍾乳洞を改築した、この港にまで響いてきた。
「殿下! 貴族派の空襲です!!」
 初々しい少年兵が、伝令として駆け込んでくる。

 空襲? 貴族派空軍の艦砲射撃か?
 ワルドは、妙に納得してしまった。
 何隻の戦艦が雁首そろえてやってきたかは知らないが、少なくとも2隻や3隻ではなかろう。二個艦隊か三個艦隊は編隊を組んでいるはずだ。にもかかわらず、この地下施設の耐震強度はどうだ? まるでシェルター並みではないか。
 周囲を見回すと、やはり怯えた兵など一人もいない。不安げな顔をしているのは、ルイズだけだ。

 ルイズのその様子に気が付いたのだろう。
 ウェールズは、動揺のカケラも感じさせない陽気さで、少女に話し掛ける。
「はははっ、気にすることは無いよ、ラ・ヴァリエール嬢。奴らの砲撃くらいでは、このニューカッスルの地下宮殿はびくともしないさ」
「地下宮殿、ですか?」
「ああ。このニューカッスルにとって、本当の堀や城壁は、この分厚い岩盤なのさ。地上の施設がどれだけ灰になっても、痛くも痒くもない。なぜなら武器庫も食糧庫も居住区すらも、すべて、この広大な鍾乳洞の中にあるのだから」
「それじゃあ、殿下」
「ああ、我らがニューカッスルを最後の拠点としたのは、この難攻不落の地下宮殿があるからさ」

 それを聞いて、――ワルドは、頬が緩むのを懸命にこらえた。
 ウェールズの言うことが本当ならば、もはやこの城は陥ちたも同然だ。
 地下港の出入り口になっている縦穴を、貴族派のフネで一気に制圧し、地上と地下の両方から、兵団を同時に送り込めばいい。ものの二時間もあれば、呆気なく決着はつくだろう。

「しかし、やられっぱなしというのも業腹だ。我らがテューダー朝アルビオンにも、人なきに非ずということを、貴族派の謀反人どもに教えてやろう」
 ウェールズは、にっこりとルイズに笑いかけると、一転した厳しい声で、伝令の少年に叫び返す。



「V3を出撃させろ!! 叛徒どもを、一人たりとも生かして返すなっ!!」



「……ぶい……すりー?」

 きょとんとした顔でルイズは、金髪の王子さまを見上げる。
 いや、呆けたように見えたのは、その刹那だけだ。
 次の瞬間には、彼女が必死になって何かを思い出そうとしているように見えた。
 しかし、ワルドは知っている。その名を持つ存在が、何を意味しているのかを。

(ばかな……このニューカッスルに、“奴”がいるというのか……!?)

 そんな情報は聞いていない。
 だが、在り得ない話ではない。アルビオン王家が、始祖の“虚無”を受け継ぐ家系である限り、可能性は100%絶対にないと言い切れる話ではないのだ。
 そして、その推測を裏付けるようにウェールズは笑う。


「我が従姉妹が召喚せし、無敵の使い魔さ。彼がいるかぎり、我々がレコン・キスタを駆逐して、再びアルビオンに君臨する事も、決して夢ではないだろう」



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