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ゼロの軌跡-16


ゼロの軌跡

第十六話 タルブ村の死闘 前編


 日が傾き始めていた。
 赤く染まる野原の向こうから、黒い一団が長い列を作ってタルブ村へと進んでいた。

「レコン・キスタが来ました!大軍です!」

 フライで偵察に出ていた生徒から報告を受ける。
 臨時の司令部としてシエスタの家を使い、そこにはルイズ、レン、オスマン、コルベールらが鎮座していた。

「一気に勝負を決しようと総力戦を仕掛けてきたわね。どうやって防ごうかしら。…コルベール先生」
「並みの軍隊であれば、数割の被害を被って尚勝機が見えなければ撤退するでしょう。一千が打ち倒されてもこちらが健在であれば、おそらくは」
「かなり難しい計算じゃな。先ほどの八百を追い払ったときでさえも、あちらの被害は二百がせいぜいじゃろう。防御に徹して軍の増援を待つしかあるまい。夕暮れが多少の味方にはなるじゃろうな」
「それも、戦艦が出てこなければ、という仮定での話よ。もう<パテル=マテル>には殆どエネルギーが残ってないわ」

 延々と議論を続けてもいられない。敵は間近に迫っており、早急に対策を立てなければならなかった。
 ルイズは立ち上がって矢継ぎ早に指示を出した。 

「オールド・オスマンとミス・ロングビルは八十人を率いて村の入り口を守ってください。コルベール先生は三十人を連れて森から来る敵を撃退してください。レンは遊撃隊としてレンの判断で動いて」


 オスマンらは配置場所に着くために出て行ったが、レンは動かずにその場に残っていた。
 機を見るに敏なレンらしくないその振る舞いに首を傾げてルイズは疑問を口にする。

「どうしたの、レン?」
「…これを持ってなさい」

 差し出されたのは鉱石の結晶が幾つも填め込まれた小さな物体。それはレンがアーツを行使するために使っていたオーブメントだった。

「少し時間が経ったお陰で一回くらいなら使えるようになったから。ルイズ、あなたに託すわ」

 そう言われて手渡されても、ルイズはアーツを使ったこともなければオーブメントの起動方法すら知らない。到底使いこなせるとは思えなかった。
 ルイズが使うよりもレンの手元にあったほうが遥かに役に立つだろう。それに、これから来る敵を防ぐためには必要なものではないのか。
 そう思い突き返そうとしたが、レンは受け取ろうとはしなかった。

「今のルイズなら大丈夫よ。自分を信じなさい」

 レンはルイズの返答を待たずに扉を開けて出て行った。



 しばし立ち尽くすルイズだったが、他ならぬレンの言葉だ。
 意を決してオーブメントを首にかける。それだけの事なのに、すぐそばにレンがいてくれるような気がする。
 クォーツは蛍のような儚い光を浮かべているだけだったが、その輝きは何よりもルイズの力になっていた。

 ルイズは杖を握り締める。幼い頃からずっと愛用してきたそれ。
 魔法学院を退学する際に他の杖は全て焼き捨てた。メイジとしての人生を捨てた彼女には既に必要のないものになっていたからだ。しかし、この杖だけは捨てられなかった。

 彼女の人生の中でその杖が応えてくれたのはたった一度きり。
 慈母も裸足で逃げ出さんばかりの愛情を注いだ結果が一夜の泡沫の夢かと、努力と祈りの結晶が何万回とも数え切れない爆発かと、ルイズを知らない者は笑うかもしれない。

 しかし、その唯一の成功はルイズにかけがえのない出会いをもたらした。
 たとえ百の偏在を生み出せても、街を覆いつくさんばかりの炎を巻き上げても、果てしなく広がる海を一瞬にして凍らせるような魔法でも、決してあのサモン・サーヴァントには及ばない。

 人が人らしくあることがどれだけ難しく、そしてどれだけ簡単であることか。
 ルイズはレンにそれを教えられた。レンはきっと自覚してはいないだろうけれど。

 次は私がレンの力になる。レンに暖かい世界を贈るのだ。
 だから私は、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 颯爽とマントをたなびかせ、ルイズは指揮を取るために外へと歩き出した。

「さて、ミスタ・ギーシュ。軍事の名門グラモン家の御曹司としてはどういう戦術でこの村の入り口を守るかね?」

 オールド・オスマンは髭をしごきながらギーシュに問いかけた。
 ギーシュはいきなり戦術論を問われたじろいだが、気を取り直してそれに答えた。実際の戦場に出ているという緊張感が、新兵の彼を歴戦の勇者のごとく鍛え上げているかのようだった。

「大軍で攻めるときは遊兵を如何に作らないかが指揮官の腕の見せ所です。おそらくレコン・キスタは部隊を幾つかに分けて同時に展開してくるでしょう。ならば、そこに付け込む隙が生まれます。」

 父親に叩き込まれた教えが役に立つときが来たと、ギーシュは高揚に包まれながらも、冷静に現状を分析して見せた。

「この道は村の首根っこ。敵はここに最も兵力を集中させるでしょう。その分他に回す部隊は多少手薄になるはずです。ここを一定時間死守し、敵を追い返した他の味方が助けに来てくれるのを待ち挟撃します」
「はて、そう上手くいくかのう。幾つかに分けたとしても敵は大軍じゃぞ」
「あっちにはキュルケやコルベール先生ら手練が揃っています。それくらい期待してもバチは当たらないでしょう。幸いこちらには土メイジが多い。持久戦ならお手の物です」
「ふむ、ではそうするとしようか。団体さんのご到着のようじゃ」

 濛々と土埃を上げて疾走してくる敵を見やり、オスマンは杖を手に取り立ち上がる。生徒達も闘志を隠そうともせずに前を睨みつけた。

「皆の者!トリステイン魔法学院の恐ろしさ、骨の髄まで叩き込んでやろうぞ!続け!」
「「「「「了解(ヤー)!」」」」」



「おや、あっちは始まったようですね。随分と派手なことだ。…人死にが出なければいいのだが」

 コルベール率いる部隊は森に通じる林道で敵を待ち構えていた。
 本道とは違い、狭く道も悪い上に、無数の木が太陽の光を遮って昼間でも視界はあまり良くない。既に夕方となった今では二、三十メイルの視界すら確保するのは難しかった。

「待ち伏せしてくださいっていってるような地形よね。モンモランシー、準備は出来た?」
「こっちは完了よ。…あなたも少しは働きなさい」
「その分これから働くわよ。パーティの仕度は万全。招待客もそろそろ姿を見せるかしら」

 その言葉に対する返答というわけでもないだろうが、暗い森の奥から鎧を響かせ軍歌の足音が聞こえてくる。
 ぬかるんだ地面が立てる曇った水音は森中に反響し、死人の群れが這いずるさまを連想させた。

 実際、彼らは半分死人のようだったのかもしれない。
 小さな辺境の村に何度も攻め入り、そこで目にしたのは彼らの知らない魔法を行使する少女と鉄のゴーレム。受けた被害は甚大で、こうして今、村一つ攻めるにしては常識に外れた人数を動員している。
 この村には何があるのか、どんな恐ろしいことが待ち受けているかを想像すると、暗い森の中の行軍は墓所へ向かう葬列のようにさえ思われるのだった。
 手にした松明は彼らに幾ばくかの勇気を与えてはいたが、生温い風が時折その火を揺らすと、それはまるで無数の死霊の瞳が怪しげな光をたたえて揺らめいているかのようだった。


 怯える兵士を叱咤しながら進む指揮官が林道の終わり、村の手前で見たものは一人の女の姿だった。
 扇情的な服を着て道に立っているその女性。年の頃は二十歳前後か。彼女の肢体と合わせて、その様子はひどく妖艶なものだった。

 逃げ遅れた村の者かとも思い欲が鎌首をもたげたが、村人は既に全員逃げ出したとの知らせがあったのを思い出す。
 敵だとしても、丸腰の女にいきなり撃ちかけるのは彼の道徳心が許さなかった。ともかくもと妥協点を探し、彼は誰何する。

「おい、女。そこで何をしている」
「遅かったわね、お客さん。パーティの始まりよ!」

 言うが早いか、女は裾のスリットから杖を抜き出す。
 やはり敵か、と指揮官は槍を構えて突進する。しかし彼女は杖を真上に向け、天に火球を打ち上げた。
 予想外の行動に思わず彼も上を向く。しかし、鬱蒼と茂った葉しか目に入るものはない。
 虚仮脅しかと彼が再び前に足を踏み出した瞬間、横合いから放たれた氷柱を胸に受け、彼は音もなく崩れ落ちた。

 それを皮切りに、森のあちこちから魔法がレコン・キスタ兵目掛けて飛び交った。
 草むらから、木立の影から、枝の上から。進軍速度を上げ、分断されるのを防ぐために部隊を密集させていたのが仇となった。外れる魔法は一発もない。
 風は兵士たちをまとめて木に叩きつける。炎をその身に受けたものは暗闇にその姿を浮かび上がらせ、たちどころに他の魔法の餌食になる。
 ゴーレムが敵中に潜り込めば、その一体は収拾のつかない同士討ちを引き起こした。

 彼らを襲ったのは魔法だけではなかった。
 カラスやふくろう、猫や猪といった使い魔にとって森は勝手知ったる庭のようなもの。
 枝から飛び立った鳥の嘴は兵士の目を刺し貫き、またすぐに闇の中に溶け込んでいく。雑木の間から飛び出した獣は足に噛み付いて彼らを暗いところへと引き摺りこむ。
 獣の雄たけびはそのまま死を告げる鐘の音になった。
 レコン・キスタの敵は既に森そのものになっていたかのようだった。

 反撃しようにも視界は悪く、遮蔽物は多い。出鱈目に撃つ矢は木の幹に当たって乾いた音を立てるばかり。姿の見えないメイジに狙いをつけることも出来ず、剣は空を切る。


 潰乱状態に陥った彼らの前に再び先ほどの女メイジが姿を現した。
 渇望していた標的を見つけ、武器を掲げ走り寄る兵士達に彼女は艶かしく囁いた。

「覚えておきなさい。私の二つ名は<微熱>。
 でも、あなた達には少し熱すぎるかも知れないわね」

 そして彼女は一粒の炎を地面に垂らす。ぬかるんだ土に落ちて消えるはずの火は道に沿って燃え広がる。
 水はけが悪いのではなく油を撒いていたのだと、彼らが気づいたときには全てが遅く、赤色の蛇がレコン・キスタ兵を丸呑みにしていった。


 ここでの役目は果たしたと判断し、コルベールは炎で合図を出す。
 森に潜んでいたメイジ達は二手に分かれて再び闇の中へと消えていった。



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