あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

銀の左手 破壊の右手-01


――――どんなときでも、あなたは一人じゃないよ


 春の使い魔召喚でルイズが召喚がしたのは岩に刺さった一本の剣と、一人の娘であった。
 剣と契約など冗談ではない、そう思ったルイズは娘と契約しようとしその姿に息を呑む。
 娘は美しかった、これがただ顔形が整っているだけならルイズはけしてコントラクト・サーヴァントを途中で踏みとどまったりはしなかっただろう。
 実際、娘の服装や容貌自体はこれと言って珍しいものではない。
 あえて言うなら長く伸ばして二つに束ねた青みがかった黒髪くらいのものだろう、だがそれ以外は至って普通。
 着ている白と紫の服も、革の手袋と靴も、頭を飾る赤いカチューシャと揃いの硝子の髪飾りも。
 その気になれば平民でも手に入れることが出来るだろう品だった。
 だが娘は美しいのだ。
 何処にでもいる普通の娘、なのに何故こんなに心を揺さぶられるのか……そう考えてはたとルイズは気づく。
 雰囲気だ。
 娘が纏う雰囲気が平凡なものだけで構成された娘の姿をまるで剣のように研ぎ澄ましている。
 荘厳な儀式に望む聖女のような、戦場を駆ける戦士のような、そしてどこにでもいる普通の娘のような。
 そんな相反する印象が、しかし互いに背信を行う事無く重なり合い、娘を包んでいた。
 娘纏う雰囲気がこれまで出会ったことのないものであったからこそ、ルイズは思わず気後れしてしまったのだ。
「貴女は、一体……」
 その言葉に、まるで信じられない天変地異が起こったかのように稚気を色濃く残す瞳できょろきょろと周囲の状況を伺っていた娘はルイズを認め。
「えっと、あの、此処、何処……?」
 これまでの雰囲気をぶち壊すような、実に頼りない言葉を放った。






「使い魔の契約?」
「ええ、君には申し訳ないのですが使い魔が死ぬまで契約は解除できないのですが」
「ごめんなさい、貴女が貴族ともっと早く知っていたら……」
「いいわ、退屈してたし。それに……」
 わたしはもう死んでいるもの。
 続けようとしたその言葉は口からは出てこなかった。
 娘は思う、死んだはずの自分が何故生身の肉体を持って呼び出されたのか?
 しかも――
 見つめた先には紫の光を放つ剣。
 かつて自分が使ったこの剣も岩に刺さった状態で呼ばれるなんて……
 娘は咽喉奥までせりあがってきた一つの回答を飲み込むと、ルイズに付いて歩き出した。
 せいぜいやりたかったこと、やりたくても出来なかった沢山の事をやろうと思った。
 とりあえずさし当たってはまず自己紹介から。そう言って手を差し出した娘に向かって、ルイズもおずおずと言った感じで手を差し出す。
「アナスタシア・ルン・ヴァレリアです」
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。これからよろしくお願いね」

 至極自然に実の姉に対してするような穏やかな口調が漏れる、そのことに一番驚いたのは他ならぬルイズ自身だった。
 もっとももこんな驚きなど序の口であったと、後にルイズはさんざ思い知ることになる。
 騒がしい日々の幕開けであった。



「ギーシュくん、モンモンちゃんとはどれくらい進んでるのかなー?」
「は、はは。何を言っているのかな、ぼくとモンモランシーがそんな……」
「おうおう照れちゃって、愛い奴じゃのぉ。お姉さん可愛がってあげたくなっちゃう」
 これまで眺めてるだけだった人の恋路に横槍を入れてみたり。


「やっぱりね、ルイズちゃんにはこの“ふりふりレース”が似合うと思うの!」
「甘いわね、ここはルイズのコケティッシュな魅力を最大限引き立たせる“小悪魔ビスチェ”よ!」
「着ぐるみ」
「え、俺の出番これだけ?」
 ルイズを使ってウインドゥショッピングとしゃれ込んでみたり。


「そりゃあお姉さんだってHなことくらい考えるわよ!」
「そうよそうよ、なんであそこで露骨にモーションかけてるのに他の女に靡くのよギーシュの奴……」
「いいじゃない、別に恥ずかしいことじゃないわ」
「あんたたちこんな時間に人の部屋で何やってんのよ! ああもぅ洪水のモンモランシーや脳みそ十八禁なツェルプストーまで連れ込んで……」
 友人と酒盛りに高じて長年の無聊を慰めてみたり。


 兎に角、まるで一分一秒さえ惜しいとでも言うようにアナスタシアは色々なことに嘴を突っ込んだ。
 ルイズに付き添っての魔法の授業から厨房に通って料理を習ったり、周囲の恋の悩みに頼まれてもいないのに全力で突っ込んでいったり。
 そんな彼女を疎んじる者も多かったが、しかし彼女を慕う者はそれよりもずっと多かった。
 特にコック長のマルトーやメイドのシエスタは貴族でありながら気取らないアナスタシアの姿に崇敬にも近い感覚を抱いているし、アナスタシアの口利きで壊れかけたモンモランシーとの仲を修復できたギーシュは今でも彼女に頭が上がらない。
 その他にも親身になって恋の相談相手になってくれたことに感謝するケティ、ルイズに積極的に突っかかってくるキュルケとその友人である雪風の二つ名を持つ少女はアナスタシアに出来た大切な友人の一人であった。

 かつてアナスタシアにもたくさんの友人が居た。
 あまりにも短い青春を共に笑いあい、喧嘩し、そして共に泣いた友人達がいた。
 彼らはもう居ない、焔の災厄で命を落とした者もいれば、天寿を全うした者もいる――が、事象地平の彼方で彷徨い続けるアナスタシアを一人残し、皆ファルガイアを去っていった。

 唯一彼女の傍に居ることが出来たのは、人外として悠久を生きる者たちだけ。
 欲望を司る守護獣と、夜の支配者たる少女だけである。
 だからこうして普通の少女として、ただのアナスタシアとして過ごすことの出来る時間は彼女にとって何より楽しく、そしてかけがえのないものだった。
 それこそ寸暇を惜しみ、寝る時間を削る程に。
 ――だからいくら超人的な体力を誇るアナスタシアと言っても、限界を超えて気絶するように眠ってしまったとしてもおかしくはない。


「ふにゃ?」
 実に可愛らしい声を上げながらアナスタシアは目覚めた、此処はどこだろう? そんな風に考えて周囲を見回す。
 天高く聳える本の山と、年経た黴が醸す時代の香り、そして自分の背中に掛けられたブランケット。
 図書館に用意してあるソファーの上だと理解する。
 続いて何故此処にいるのかと暫し考えてアナスタシアは得心した、食堂でご飯を食べてルイズちゃんの部屋に戻る途中七日間の徹夜の無理が祟って倒れたのだろう、そしてそれを見つけた誰かが此処に運んで毛布を掛けてくれたのだ。
 アナスタシアの寝ぼけ頭の推論を裏付けるように、ソファーの後ろ側に座り黙々と本を読み続ける少女が一人。
「タバサちゃん?」
「大丈夫?」
 振り返りもせずそう聞いてくる少女に笑みを返すと、アナスタシアは硬くなった体をほぐす様にゆっくりと伸びをする。
「ええ、おかげさまで風邪を引かずに済んだかな」
 ありがとう、ただ一言万感の思いを込めてそう告げるとアナスタシアはタバサの隣に腰を下ろした。
 そのことに何か口を挟むでもなくタバサはただ本を読み続ける、まるで人形のような印象を周囲に与える少女だがアナスタシアは少女のなかにたくさんの感情が隠れていることに気づいていた。だから、アナスタシアは何も言わない。
 しとしととしばらく雨の音だけが静かに図書館に満ち、二人の間には穏やかな空気が漂う。
 ――が、騒ぎたい盛りのアナスタシアにはあまり長い時間じっとしていろなどと言うのは無理な注文であった。
「イー……ヴぅあ……?」
「イーヴァルディの勇者」
 タバサが読んでいた本の表紙をたどたどしい知識で読み上げたアナスタシアに、タバサの冷静な訂正が入る。
「へぇ、どんな物語なの?」
「それは……」
 その問いに思案するようにタバサは押し黙り、やがてかみ締めるようにしてその英雄譚を語りだした。
 それは少女の憧れと夢そのもの、ただ一夜の食事のお礼と言うだけで命を賭けて強大な相手に挑むことが出来る存在の伝説。
 光る左手に剣を、右手に槍を携えて、怯えながら弱き人の為にその力を振るう者。

 その物語を聞いてアナスタシアは思わず苦笑した、そして見たこともないイーヴァルディと言う存在に共感を覚えた。彼が一体何を思って勇者となったかは知らない、ただ震えながら竜に向かって剣を向ける姿にかつての自分を思い出したのだろう。

「それじゃあ、お礼にわたしの知っている物語も……」
 語るのは<剣の聖女>の物語、当事者としての真相の物語ではなく、誰もが憧れた一人の英雄の物語。
 多くの者たちが己の理想から削りだした欺瞞から成る英雄譚。
 だがアナスタシアには彼女に語るこの物語こそ相応しいと思えたのだ。
 それが真実でないとしても、いくつのも悲しみとしがらみを生み出してきた英雄の話よりはずっと……

「此処からは遥か遠い“ファルガイア”と言う世界を焔の朱に染めた災厄があった」
 アナスタシアは知らない、その物語を聞いている相手がもう一人いるだなんてことを。




 図書館の入り口でルイズはまるで引き込まれるようにアナスタシアの話を聞いていた。

 ――地から伸びた焔は天を焦がし、星の未来さえ焼き尽くさんと渦を巻く

 あっちへふらふら、こっちへふらふら、寝る暇を惜しんで動き回るアナスタシアを今日こそ部屋へ連れ帰る為である。

 ――存亡の危機に晒された人類が縋った最後の可能性。それが剣の聖女でした。

 出来ればもっと一緒に居たいし、それに彼女はルイズの使い魔なのだから。

 ――名も無き下級貴族の娘として生を受けた彼女は、ガーディアンブレード『アガートラーム』の呼び声に導かれて立ち上がります

 だから必死で探したと言うのに、当の本人はこんなところでタバサ相手に御伽噺を語っているのだ。ルイズの嫉妬交じりの怒りが燃え上がったとしてもなんら不思議は無い。

 ――為すすべもなかった人々は、聖女の剣の一振りに希望を託し、未来を信じる。

 だがいざ文句を言いに行こうとして、ルイズは金縛りにあったように動けなくなった。

 ――そして聖女が剣を手にして七日目の夜、彼女はすべての焔の災厄と共に光の奔流のなかへ消えていったそうです。

 輝かしい筈のその物語を語るアナスタシアの様子があまりにも悲しげだったから。

 ――後に、地面に突き立った一振りの剣を残して


 ルイズには、ただ立ち竦むことしかできなくなったのだ。







「ねぇルイズちゃん、もしこの国が戦争に巻き込まれたら貴女はどうするの?」

 噂程度に漏れ聞こえてくるアルビオンのレコンキスタ、トリステインを覆う暗雲は隠しようもない。
 そのことにアナスタシアは凄く悲しい気持ちになっていた、何故わざわざ人と人とが争わねばならないのか? わざわざ互いに殺しあわなくても滅びの種などあちらこちらに転がっていると言うのに……

「勿論、戦うわ。姫殿下に忠誠を誓い、いざと言う時にはお助けするのが貴族ですもの!」
「戦争に、人を殺す訓練をしていない人が行っても邪魔なだけよ。きっと……」
「それでも私は貴族だもの!」

 万感の思いで叫んだルイズに、アナスタシアは一つ嘆息する。
 その様はかつて見た<聖女>の末裔として剣を求めた一人の青年の姿を思い起こさせたからだ。
 <聖女>の血など何の意味さえないと言うのに……
 暗く沈んだアナスタシアの様子に思うところがあるのか、いつも通りきざったらしい仕草で隣に座っていたギーシュは言った。 

「そうだね、ぼくも戦場へ馳せ参じることになるだろう。ぼくの父は元帥だし、それに――男と言うのは戦場で武勲を立てて英雄と呼ばれることを夢見るものだからね」

 ふふん、と笑ったギーシュに帰ってきたきたのは底冷えするような声だった。

「知ってる?」
「え? な、なな何をだい?」

 訳の分からない悪寒に背筋を振るわせたギーシュにアナスタシアは言った。

「『英雄』って言葉は、『生贄』の別の呼び方でしかないってことに」
 そう告げるアナスタシアの言葉は、とてもとても悲しそうだった。


 ――しかしその悲しみは長続きしなかった。

 オォォォォォォン

 窓の外から聞こえてきた遠吠えにみんな揃って顔を出す、そこには二つの月を背に高く高く吼え声を上げる勇ましき狼の姿があった。

「ルシエドッ!」

 みなぎる喜色を隠さずにアナスタシアは友人の名を呼び、紫の狼は応えるようにもう一度吼えた。
 そのまま今まで立っていた宝物庫の塔を垂直に駆け下りると、窓からルイズの部屋へと飛び込んだのである。
 突然の闖入者にルイズとギーシュが目を白くさせるなか、アナスタシアの胸に飛び込んだルシエドはそのまま勢い余ってアナスタシアを押し倒すような格好になり……

「こんの馬鹿犬! アナスタシアから離れなさい」

 ――あとはもうお約束である。


 暗い予感を孕みつつも、大過なく魔法学院での平穏な日常は過ぎていく。
 だが日常がかけがえの無いものだと言うことにまだルイズは気づかなかった。

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