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ゼロの武侠-01


ゼロの武侠-01

その日、私が呼び出した物は鉄の塊だった。
形状としては鳥に近い物だったのかもしれない。
だけど、その鼻先というべき部分は地面に押し潰され、
翼に見えた部分は両方とも根元からへし折れている。
誰がどう見ても、それはただの鉄屑だった。

どっと沸き上がる笑い声。
諌めるコルベール先生の声も小さく、彼等を制するには到底至らない。
しかし級友達の嘲笑する声は突如として止んだ。
代わりに響くのは内より木霊する打撃音。
あたかも雛が卵を割って生まれ出でるように、
鼓動と共に鋼鉄は変形しその身に亀裂を走らせる。

突然起こった変化に、私も彼等も凍りついた。
それは、この中に潜む未知なる物が与える恐怖によるもの。

「何を笑っていやがる。そんなに面白いコトでもあったのかよ」

そして一際大きい破砕音の後に、不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。
二つに裂けた鋼鉄を内側より両腕で押し広げながら、そいつは現れた。
打ち砕かれた破片を踏み締めながら一歩一歩私へと歩み寄る。
目つきは険しく、さながらゴロツキやヤクザを思わせる風貌。
加えて、顔に深く刻まれた傷跡が真っ当な人間でない事を際立たせていた。

ふるふると震えながら隣に視線を向ければ、
“召喚に成功してよかったですね、ミス・ヴァリエール。
まあ、アレを使い魔にしたいかどうかは別ですけど”
なんて感じで笑顔を浮かべながら気安く人の肩を叩くコルベール先生。
どう考えてもやり直しを求められる状況でないのは理解できた。

私は始祖に心の底から訴える。

お願いです。今の失敗でいいですからもう一度だけやらせてください。
ええ、こうなったら平民でも一向に構いません。
もう実力に見合わぬ高望みなんてしません。
だから言葉の前に拳が出てきそうなこんな生き物と契約しろだなんて、
そんな御無体な事を仰らないでください。

余談ではあるが、私の願いは一度して叶った例がない。
今までも、恐らくはこれからもだ。


「あん?」

周囲を威嚇しながら見渡せば、
そこにいるのは珍妙な格好をした少年少女。
大人といえば引率らしきハゲが一人いるだけ。
その奥には歴史遺産っぽい塔が何本も立っている。
何故こんな所に自分がいるのか。そもそもここは何処なのか。
よほど強く頭を打ち付けたようだと彼は前後の記憶を手繰り寄せた。


「たまには中国に帰ってもいいんじゃない?」

そう。全てはこのヂェーンさんの一言から始まった。
パトロールから帰ってきて、ペドロと手合わせして、
蓮苞ちゃんのいない寂しさをエテ吉の拾ってきたH本で紛らわそうという憩いの一時に、
正にそれは青天の霹靂だった。

「いや、だけどよ。俺がいなくなったら何かと大変だろ」
「大丈夫なのだ。梁ちゃんは安心して蓮苞ちゃんに会いに行けばいい」
「そうですよ! ジャングルの平和は自分と先生にお任せ下さい!」
「なら途中まで俺の自家用ジェットで送ってやるぜ」

「……おめえら、それほどまで俺の事を」

思わず緩んだ涙腺に目元が潤む。
得がたき友と出会えた幸運に心より感動を覚えた。
気兼ねする必要もなく、蓮苞への募る思いに突き動かされて、
その日の内に俺は仲間に見送られながらアナべべと共に旅立った。

しかし、俺にツキがあったのはそこまでだった。

思えば天候が崩れかけていたのを気に留めるべきだったか。
あるいはセスナの免許しか持っていなかったはずのアナべべが
ジェット機を操縦できるかどうか訊ねれば良かったのかも知れない。
事前に中古ではなく新品で購入した物か確認しておいても間違いはなかった。

まあ、今考えてみればその事故は起こるべくして起きたのだ。

荒れ狂う嵐に巻き込まれた小船の如く、激しく機体が揺さぶられる。
操縦桿を握ろうとも、こちらのコントロールを受け入れようとはしない。
大枚叩いたジェット機を捨てるのを惜しむアナべべをパラシュート背負わせて蹴り飛ばす。
そして、さあ次は自分の番だと飛び出そうとした直後だった。

大きくバランスを崩した機体は突如として急降下を始めた。
天井に磔にされるみたいな加速の中、外へと出るのは不可能に近かった。
一か八か、天井を百歩神拳で撃ち抜いての脱出を試みる。
―――だが、それは視界を覆う眩い光に遮られた。


そして、気が付けば俺はここにいた。
機体こそ原形を留めていないものの、身体を締め付ける重圧も消え、
地上へと降り立った事を実感させてくれた。
あれだけの高度から落ちてよく気絶だけで済んだものだと、
ターちゃんを髣髴とさせる自身の頑強さに呆れながら身体中の埃を払う。

どこがハッチか見分けが付かなくなった鉄の箱から、
どうやって出たものか考えている最中、周りに多数の人の気配を感じ取った。
都合よく現れた人達に助けを求めようとしたのも束の間、
連中は俺を取り囲み、笑い声を上げ始めたのだ。
目の前で飛行機事故が起こり、助けを求めている人間がいるというのに――。

ギチリという鈍い音が噛み締めた奥歯が響き渡る。
怒りに我を忘れて拳を打ち込む事、幾数回。
叩き割った外壁から、ようやくこうして大地を踏み締められたという訳だ。


「なるほど」

顎に手をやりながら前後の事態から推論を導き出す。
並の人間ならば何が起きたのか判らずパニックになるだろう。
だが何千年もの歴史を誇る中国拳法、その西派白華拳の強者どもを束ねる彼は違う。
鍛え上げられた胆力は動じず、磨き抜かれた観察眼が全てを見通す。

「つまり、どっか余所の国に墜落しちまったんだな」

―――そして彼は、全く見当外れな答えを口にした。


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