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ゼロな提督 第4話  土くれのフーケ


「ねぇ~、お願いよ~。ちょっとだけでいいの!見せてよぉ~」
「ダーメッ!あれはヤンのモノなの。つまり!ヴァリエール家のモノでもあるってことな
のよ」

 魔法学院の夕方。乗馬の練習から戻ったルイズ達の部屋の前で、珍しくキュルケが頭を
下げていた。頭を下げられるルイズはまんざらでも無いようで、誇らしげに胸を張りつつ
キュルケのお願いを突っぱねている。

「そこをなんとか、ね!お願いっ!」
 キュルケはもう、手を合わせてルイズに頭をヘコヘコ下げている。
「もうっ。いい加減にしてよね!あれの価値がどんなものか知ってれば、簡単に見せれな
いモノだってわかるでしょ!?第一あれは、ここにはないわ。危ないから宝物庫の中よ。
 分かったら諦めて、さぁ部屋に帰りなさいな!」
 扉前でルイズにお願いしていたキュルケは、ネコみたいに追っ払われた。随分と色気過
剰な大ネコだが。
 バタンと扉を閉めて、床にあぐらをかいて本を読んでるヤンに不機嫌に怒鳴る。
「あんたも本ばっか読んでないで、アレの削り方くらい考えなさいよ!」
 ヤンは一言、ノンビリと答える。
「無理だよ」
 飄々としたヤンの、さも当然というような返答に、ルイズはイライラしてくる。
「無理だよ、じゃないわよ!あんなでっかいダイヤ、高すぎてだーれも買えないわ!てい
うか、本体からも外せないじゃないの!」
「といっても、ハルケギニアの技術レベルでは、傷一つつけられないよ。『錬金』でもかけ
たらどうかな」
「それじゃ、価値が無くなるじゃない!あの斧本体もダイヤも、どっちも凄い値段が付く
事間違いなしなんだから!」



   第4話   土くれのフーケ



 ローゼンリッターのトマホーク、その刃である巨大ダイヤモンド。そしてロングビルに
正座させられ説教された学院長とコルベール。
 研究室が崩れんばかりの大音響と共に、当然これらの事実も学院中に響き渡った。そし
て学院長はじめ教員が束になっても傷一つつけられないという、斧それ自体が驚異的な硬
度を誇る未知の物質で作られている事も。

 ロングビルから「高値で売れる」と言われた事を、ルイズは自分の事のように喜んだ。
実際、ヤンは自分の治療費をちゃんと返すつもりだったので、それは自分の事として喜ん
で間違いはない。
 だがヤンもルイズも、すぐに気がついた。その斧を売る事が出来ないという事実に。

 価値が高すぎるのだ。

 神話級の巨大さを誇るダイヤモンドを刃とした、何者をもってしても破壊出来ない斧。
これはつまり、「加工出来ない」という意味でもある。その斧は丸々一つでしか売買できな
い。なので、それは途方もない金が動くという事。
 有力貴族ではあるが一介の学生でしかないルイズ。異邦人のヤン。もはや彼等が扱える
金額では、なかった。


 おまけに斧という形状も問題だ。
 ハルケギニアは魔法世界。支配階級の貴族はメイジであり、杖がその象徴。剣や斧は平
民の武器だ。至高の価値を持つ宝石が斧の形をしていては、購入する貴族や王族にしてみ
ると、よろしくない。女性の装飾品としては最悪のデザインとしかいいようがない。
 でも加工できないほど硬い物質な上に、刃だけを本体から取り外す事も出来ない。形状
も変えられない。
 だからといって、本来の使い方である「トマホーク」として、新たに柄を取り付けて使
用するなど、少なくともハルケギニアの人間であるルイズからしてみたら、あり得ない話
だ。杖として使用するには大きくて重すぎる。

 かくして、ヤンもルイズも斧の取り扱いに困り果ててしまった。でも、あまりに価値が
高すぎて部屋に置いておくのも危ない。なので、とりあえず学院の宝物庫に保管する事と
なった。


 保管するのはいいのだが、ルイズは気が気ではない。顎に手をあてながら室内をウロウ
ロと歩き回ってしまう。
「大丈夫かしらねぇ、またあのハゲやエロジーサンが勝手に持ち出したりしていないかし
ら?」
 有力貴族出身のルイズは、もちろん仕送りの量もハンパではない。だからこそ屋敷が買
えるほどのヤンの治療費を支払えた。そのルイズをもってしても、斧の価値は動揺させら
れるに十分なものだった。
「うーん、大丈夫じゃないかな?斧をおさめたケースの鍵はロングビルさんが管理してる
から」
 ヤンの言葉にルイズはキョトンとしてしまう。
「ロングビルって、あの秘書の人?ちょっと、大丈夫なの?あの斧盗られちゃうんじゃ」
「盗むつもりなら、この前学院長の机の上で見つけた時に盗んでるさ。少なくとも、あの
斧の存在を僕に教えても、彼女に利益はないよ。それに、宝物庫に入るには学院長の許可
がいるし」
「ああ、それもそうね…少なくとも、どこかのハゲみたいにぶっ壊そうとはしないでしょ
うね」
 納得して頷くルイズ。
 ヤンは相変わらず焦燥とか不安とかとは無縁かのように、床に置いたお茶を飲む。とた
んに不快と縁が出来た。
「うう、やっぱり不味い。明日はシエスタさんにお茶の入れ方を習うとするよ」
「そうしなさい。ともかくこっちは、あの斧について父さまに手紙を書いてみるわ。出入
りの宝石商を紹介してもらうから」
「あ、それなんだけど」
 ヤンは何か思いついたようで、慌ててお茶を床に置く。
「宝石として売れないなら、それ以外として売れないかな?」
「宝石以外?
 …まさか、あれを斧として使えっていうの!?冗談言わないで!あんたの国ではただの
斧なのかも知れないけど、このハルケギニアじゃ、あんなでっかいダイヤ!もったいなく
て平民になんか渡せないわ!」
 肩を震わせて抗議するルイズにヤンは、まぁまぁ話を聞いて、となだめる。
「つまり、武器以外の実用品として使えば良いんだよ。例えば、カッターとか、研磨用の
研ぎ石としてとか。僕の世界ではダイヤモンドカッターと呼ばれているんだけど、ハルケ
ギニアにもそういうのはあるかな?」
 ヤンのアイデアを聞いて、ルイズは首を傾げる。そして、ポンッと手を打とうしとした
が、すぐまた考え始める。
 しばし顎に指をあてウ~ンと考えて、諦めたように溜息とともに肩を落とした。
「しょうがない・・・気はすすまないけど、アカデミーの姉さまにも連絡するわ」





「へぇ~。それじゃあ、アカデミーに売るつもりなんですか?」
 次の日の午前、厨房でシエスタがテーブルにティーカップやお茶の葉を持ってくる。
「う~ん、まだ分からないよ。でも、宝石として使えないなら工具としてどうか、と思っ
てね」
 ヤンはかまどでお湯を沸かしている。
 慣れない手つきでかまどに薪をくべ、お湯の沸き具合とにらめっこしていた。
「えっと、ねぇシエスタさん。お湯はこれくらいでいいのかな?」
 お湯は沸騰し始め、泡が沸きだしている。
「いえ、もう少し沸かさないと。お茶は湯の温度が命だから、気をつけてね。それじゃ、
こちらのポットに茶葉を入れてみて」
 ヤンは茶壺からお茶の葉を無造作に取り出し、ポットに入れようとする。
 シエスタの手が彼の手をペチッとはたいた。
「ああ、ダメダメ!二人分だけのお茶なんですから。ちゃんと二人分だけの分量を取らな
いと、濃すぎたり薄すぎたりしますよ。
 で、次は茶葉を入れたポットに完全に沸騰して泡がごぼごぼ立っている状態の湯を素早
く注ぎます。カップは一般的に、予め暖めておくように、と言われてるわ。でも猫舌な人
も居ますので、それは人それぞれかもしれないわね」
「そうなのかぁ。それじゃミス・ヴァリエールの好みも聞いておかないとな」

 そんな感じで、ヤンは慣れない手つきでお茶の入れ方をシエスタから教わっていた。
 朝食の片付けも終わり、昼食準備までの休憩時間。厨房に若い女性と二人っきりでお茶
の入れ方など、色々と教えてもらう。ヤンは内心、こんな姿をポプランやシェーンコップ
に見られたら、なんてからかわれるだろうかと苦笑いをしてしまう。
 いつ来るかも、本当に来るかどうかも分からない自分の捜索隊。そのメンバーにアッテ
ンボローなどイゼルローンの高級士官達が混じっていないことを、贅沢と知りつつも祈っ
てしまうのだった。
 そんな邪な願いを抱きつつ、シエスタ直伝のお茶がティーカップ二つにいれられた。二
人で口にしたそのお茶は、ヤンの贅沢な願いに影響されたかどうかしらないが、少しはま
しになったと言う程度。やっぱり不味かった。

「う~ん、僕には才能がないみたいだね」
「そんな事はありませんよ!最初よりはずっとマシになってます。練習すれば、必ず美味
しいお茶が入れれますよ」
 不味いお茶を飲まされたはずのシエスタが朗らかに励ましてくれるので、ヤンも嬉しい
やら恥ずかしいやら。照れ隠しに頭をかいてしまう。
「そうだね、頑張るとするよ。洗濯とか掃除とかも、色々と勉強しないとね」
「ええ!私で良ければ色々教えますので、一緒に頑張りましょうね」
 黒髪とソバカスが魅力的な少女の、小さくても元気なガッツポーズ。
 軍で海千山千な敵味方と、騙し合い裏の読み合い殺しあいをしていたヤン。彼にとり、
まるで青春時代に戻ったかのような錯覚に陥らせるに十分なものだ。いや、彼の青春時代
に女っ気は無かったので、30代にして初めての青春時代か。

「助けが来るかどうか分からないけど、しばらくここでやっていくかな」
 ハルケギニアの良さに気付きつつあるヤンだった。





 その日のお昼休み、学院の宝物庫。
 トリステイン魔法学院の宝物庫は本塔学院長室のすぐ下にある。学院秘蔵の秘宝からガ
ラクタまで保管された巨大鉄扉の鍵は、オールド・オスマンが管理している。
 その扉は今は開けられ、ロングビルと何人もの教師が中で一つのケースを囲んでいた。
 長い黒髪に漆黒のローブをまとった、陰鬱な空気を漂わす若い男が、うわごとのように
囁いた。
「これが、例の…斧か」
 紫のローブをまとった中年女性、先日ルイズの失敗魔法で吹き飛ばされたミセス・シュ
ブルーズが斧の刃に杖を向ける。
「本当に、間違いなく、これはダイヤモンドですわ。…いえ、待って下さい。これは…凄
いですわよ!ダイヤよりもずっと衝撃に強くて、確かにこれなら武器としても使用出来ま
すわ!」
 周囲から、ダイヤよりも硬いと言うのか!?信じられない、といった嘆息が漏れる。
 他の教師達も魅入られたように斧を魔法で調べ、強度を確かめ、ダイヤ部分を外せない
か格闘してみる。だが、得られるものは無かった。オスマン達と同じく、恐ろしく硬いと
いう以外は何も分からない。

 ロングビルがパンパンと手を打って皆の注意を引く。
「さぁさ皆様、お昼休みはもうすぐ終わりますわ。そろそろ宝物庫を閉めますので、皆さ
ん出て下さいな」
 教員達は渋々といった感じで宝物庫を出て行く。だが斧のケースに鍵をかけたロングビ
ルが出てこないのにシュブルーズが気がついた。
「ミス・ロングビルはでませんの?」
「ええ、私は宝物庫の目録を作ろうと思いますの。せっかく宝物庫に来ましたので、つい
でにやっておきますわ」



 秘書は教師達が皆立ち去るのを見送ると、宝物庫の扉を閉める。
 窓もない、暗い宝物庫の中を魔法の光で照らす。誰もいない室内に、なんだかよく分か
らない秘宝だかガラクタだかがずらりと並んでいる。
 それらを横目に、彼女は一つの大きなケースの前に来た。パカッと開けると、そこには
金属製の筒のような壷のようなものが収められている。高さは1メイルくらい。ケースに
は筒の名称が貼られている。
 名札を読むロングビルは、明らかに邪気を含む笑みを浮かべた。
「くふふ…これが学院秘蔵の、『破壊の壷』てわけかい」
 口の端を釣り上げながら魔法の光を近づけ、表面に描かれた文様を見つめる。
「ふぅ~む、読めないわ。どこの国のモノかしらねぇ?」
 ふと視線を横に向けると、ローゼンリッターの斧を収めたケースがある。
 彼女の脳裏に、遙か異国から来た冴えない男性の姿が浮かぶ。そして彼の服や持ち物に
記されていた文字らしきものも。
 記憶の中の文字と目の前の『破壊の壷』に記された文字を照らし合わせてみる。

「・・・もしかしたら、あいつなら読めるんじゃ・・・」

 次は宝物庫を守る壁を調べてまわる。
 試しに壁に『錬金』をかけてみるが、何の変化もない。
 軽く杖で叩いてみると、硬質な音が返ってくる。そして手で直接壁を触れ、壁の厚みや
材質を読み取っていく。

「こりゃ、ダメだわ。『固定化』以外はかかってないけど、あたしのゴーレムでぶん殴って
も破れないほどの強度だわね。どっかに傷とかヒビとかあれば、なんとかなりそうなんだ
けど・・・もちろん、ないわね」
 ロングビルはぐるりと宝物庫を見渡し、肩を落とした。

 そして紙とペンを取り出し、今度は本当に宝物庫の目録を作り始めた。
 だがその口からは、書き連ねている宝物の目録とは別の言葉が漏れてくる。


「学院秘蔵の秘宝『破壊の壷』、欲しいねぇ…。でも、あたしのゴーレムで力ずくっていう
のは無理か。今すぐってのもありだけど、それじゃ『あたしが犯人です』て言ってるよう
なもんだし。まぁ、中に入る口実も手に入れたし、夜には当直の教師も寝ちまうんだし、
焦る事はないわ。じっくり盗み方を考えましょうかね。
 それにしても惜しいわ。マジックアイテムじゃないけど、ヤンの斧の方が値打ちがあり
そうなんだから。はぁ~もったいない。あいつが貴族だったら、遠慮無く頂いたんだけど
ねぇ~・・・」

 ふと彼女の頭にヤンの顔が浮かぶ。高級軍人にもかかわらず、何の裏も持ち合わせてい
ないかのような、のんきで穏やかな…というか、寝起きのように気が抜けた顔が。
 ふと、自分の顔も同じように気が抜けてしまっている事に気がついた。
 慌てて頭を左右に振りまくる。

 その時、背後から扉が開く音がした。
 彼女は更に慌てて、目録作成を真面目にしていた風を繕う。
「ミス・ロングビルかの?」
 扉を開けたのはオスマンだった。
「あら、オールド・オスマン。どうされましたか?」
「いや、昼休みが終わったのに戻ってこんから、どうしたのかと思っての」
 言いながらオスマンはロングビルに歩み寄る。
「心配させて申し訳ありません。実は宝物庫の目録を作っておりました」
「おお、そうかのそうかの。相変わらず仕事熱心じゃな!」
「そして、学院長は、相変わらずスケベですわね!!」

 秘書の尻をなでたオスマンは、ヒールで思いっきり蹴り飛ばされた。




 その日の夜、ルイズの部屋に一通の手紙が届けられた。
 ヤンが受け取った手紙の差出人を見ると、ルイズは驚いて大声を上げてしまった。
「うわっ!?父さまから、もう返事が来たわよ!今朝出したばっかりなのに早いわね」
「へぇ~。公爵ともなれば仕事が忙しいはずなのになぁ。よほど君から手紙が来たのが嬉
しかったんだろうね」
 急いで封を開けて中を読むルイズは、さらに驚いて目を丸くしてしまった。
「えー!どうしてこうなるのぉ?明日の夕方、王宮に例の物を持って来なさいって!」
 二人は顔を見合わせた




 ダエグの曜日、放課後。
 学院の正門に立つルイズとヤンの前に、王宮からの迎えの馬車が一台やって来ていた。
そして二人の後ろには、斧を収めたケースを持つロングビルもいる。
「ありがとうございました、ミス・ロングビル。それじゃ持って行きますね」
 ヤンがロングビルの持つケースに手を伸ばすが、彼女は彼の手を拒んだ。
「いえいえ、これは成り行きとはいえ、私が鍵を預かり守っている物ですから。ちゃんと
王宮までお守りしますわ」
 それを聞いたルイズが怪訝な顔をする。
「あの、ミス・ロングビル。あなたには秘書の仕事もありますし…」
 やんわりと断ろうとするルイズを、毅然とした秘書はビシッと右手で制した。
「申し訳ありませんが、この斧の価値は宝石としても研究素材としても極めて高い物なの
です。あのエロオ…こほん!もとい、オスマン氏とミスタ・コルベールの例もあります。
 最近は『土くれのフーケ』が出没していることですし、ちゃんと王宮までお守りします
わ」
 ルイズとヤンは何となく納得いかないようではあるが、斧の価値に比べて確かに馬車一
台だけでは不安を感じる。なのでロングビルの同行を認める事にした。




 馬車は夕暮れの草原を通り、トリスタニアへと向かう。
 初めて街に行くヤンは、見るからにワクワクしているのがわかる。ずっと窓から馬車の
進行方向を見つめ続けている。横に座るルイズは、そんなヤンを「みっともないわよ、落
ち着きなさい」とたしなめるが、あんまり効果がない。
 彼等の前に座るロングビルは、ケースを膝に載せて静かに座っている。

「ねぇ、ミス・ヴァリエール。日没までに街に着くのかい?…おっと、こほん」
 浮かれすぎて目の前にロングビルが居るのに敬語を使うのを忘れた事に気がついた。慌
てて咳払いして言い直そうとするヤンに、ロングビルは少し微笑んだ。
「お二人の事情は大体知っていますわ。私の前では気を使わずともよろしいですよ」
 言われたヤンは少し恐縮してしまう。ルイズは伏し目がちになってしまう。

 誤魔化すようにヤンがロングビルに尋ねた。
「ところで、さっき言っていた『土くれのフーケ』とは何なんですか?」
「そうですわね。城まで時間がありますし、お話しましょうか」
 ロングビル、そしてルイズは、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れる怪盗について説明
した。


 『土くれのフーケ』
 近年トリステインを騒がす神出鬼没の大怪盗。
 土系トライアングルクラスのメイジらしく、『固定化』された壁や金庫を『錬金』で土に
変えてしまう。また、30メイルの土ゴーレムも操り白昼堂々王立銀行を襲う。かと思え
ば夜陰に乗じて鮮やかにお宝を盗みさることもある。
 性別すら分からず、行動パターンも読めず、魔法衛士隊も振り回されている。
 そして犯行現場には必ず『秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と
ふざけたサインを残す。
 狙うのは貴族が所有する、強力な魔法が付与されたマジックアイテムがメイン。


「マジックアイテムを狙うと言う事は、その斧は狙わないのでは?それに私は貴族ではあ
りませんよ」
 と疑問を口にしたヤンに、ルイズが呆れた顔を向けた。
「バッカねぇ、魔力は込められて無くても、桁外れの価値が込められてるわ。これだけの
品なら十分狙うでしょ。それにあんたはあたしの使い魔、つまり貴族同然と見なされるか
もね」
 ルイズの意見にロングビルも頷く。
「念には念を入れるべきですわ。私では少々役者不足ではありますが、必ずやお二人と斧
を王宮に届けますわね」
 自身を持って胸を張るロングビルに、ヤンは頼もしさを感じてしまう。

 そんな話をしていると、薄暗くなった草原の向こうにトリスタニアの街灯りが見えてき
た。




 ヤンは、人生の多くを宇宙で過ごした。
 少年時代は16歳直前まで父と共に恒星間商船に乗って星々を巡った。
 士官学校時代や、軍での地上勤務もあった。だが、同盟と帝国の戦争は大方が宇宙空間
での艦隊戦なので、艦に乗って宇宙を渡る時期が長い。そして「イゼルローン要塞司令官・
兼・イゼルローン駐留艦隊司令官・同盟軍最高幕僚会議議員」という地位でイゼルロー
ン要塞へ赴任、何度か同要塞を奪取もした。
 つまり、彼は惑星上で生活した期間が長くない。ましてや、ペット以外の生物が人間と
共に暮らす中世の街なんて、本でくらいしかお目にかからない。彼は宇宙で科学に包まれ
て生きてきたのだから。
 なので、彼がこんな姿を見せても、やむを得ない事なのだろう。


「うわぁ~!すごいなぁ、松明だよ!本当に火を燃やして灯りにしてるんだね!全部魔法
で照らしてるのかと思ったよぉ。おや、あそこに見えるのは。ロバだ!すごい、こんな街
中にロバがいるなんて!おお、あれは!荷車を、人が引っ張ってる!荷物は…見た事のな
い野菜だ、しかも、土がついたままだ!それにしても、なんて細い街路なんだ、ああそう
か、城へ敵が直進出来ないよう、細く曲がりくねらせ迷宮化させてるんだねぇ。あらら、
道ばたに落ちてるのは、馬のフンかい?ははは、そうだね、動物がいれば当然だよね。そ
れにしても臭いがきついな。衛生状態はお世辞にも良いとはいえないようだね」

 白い石造りの城下町トリスタニアに入ったとたん、ヤンは子供のように馬車の窓にかじ
りついて興奮しっぱなしだ。なにしろ彼にとっては多くの歴史書に記された古代地球の風
景が、テーマパークとは違う本物の中世の町並みが目の前に広がっているのだから。歴史
家志望だったヤンにとっては、もう天国のような世界なことだろう。
 翻って見るに同乗者の女性2名は、どちらかというと地獄だろう。いい年をした大の男
が子供のようにはしゃいでいる。しかも、自分たちには見慣れた、というか、どこが面白
いのか全く分からない物を見て大喜びしているのだから。
 馬車の前からも押し殺したような笑い声が耳に届く。御者が必死に笑いをこらえている
らしい。

 ルイズが肘でヤンをつつく。
「ちょっと、あんた…恥ずかしいのよ!落ち着きなさいっ!」
 突かれたヤンは、ようやく我に返った。
「あ、ああ、ゴメン。興奮しすぎたね、気をつけ・・・うわっ!信じられない!あれは毛
皮屋さんかい!?初めて見たよ、動物の皮を、えと、なめすっていうのかな?へぇ~!あ
んな風にやるんだねぇ」
 我に返ったとたんに、すぐに道沿いの商店に目が移る。今しがたルイズに言われた事も
忘れて馬車の窓から身を乗り出そうとする。

 ごすっ

 ルイズの足が、ヤンの足を力一杯踏んづけた。
 声もなく踏まれた足を押さえて悶えるヤンに、ロングビルもクスクスと笑ってしまう。



 大通りのブルドンネ街を通り、橋を渡り、大邸宅の間を抜け、大きな城門をくぐって馬
車はトリステイン城に到着。
 ルイズとヤンとケースを手にしたロングビルは城内の一室へ案内された。
 王宮の名に恥じない豪華な部屋の中には二人の人物、初老の男性と20代の女性が椅子
に座っていた。

「おお、ルイズや。久しぶりだね」
「父さま!お元気そうで安心しましたわ!」
 そういってルイズは父に駆け寄り頬にキスをした。
「それにしても、どうして王宮ですの?別邸がありますのに」
「実は王宮で用があってね。そのついでなのだよ」
 ルイズにキスをされているのはヴァリエール公爵。50過ぎで白髪交じりのブロンドと
口ひげ、左目にはグラスをはめた、眼光鋭い初老の男性だ。王族もかくやとうならせる豪
華な衣装を身につけている、ルイズの父。


「それと…その、お久しぶりです、姉さま」
 そしてもう一人は、美しいブロンドの長い髪をもった長身の女性。ルイズの気の強い部
分を煮詰めて濃縮させて熟成したら、こんな風だろうかという感じだ。メガネの向こうか
ら睨み付ける視線が、ルイズを萎縮させている。
「お久しぶりね、おちび。それでは、例の物を見せてくれるかしら?」
 いきなり本題に入られたルイズは、既に怯えて縮こまっている。
「あ、あの姉さま…再会のキスくらい…」
「不要よ。私はアカデミーの主席研究員として忙しいの。その私をわざわざ呼びつけてま
で売りつけたい物ですって?どんな物か楽しみだわ、さっそく見せなさい」
「こらこら、エレオノール。そう慌てなくても・・・」
 諫める公爵をエレオノールはキッと睨みつける。
 ギスギスとした雰囲気にルイズもタジタジ。扉で控えるヤンとロングビルは視線を合わ
せて肩をすくめてしまう。

「そこの平民!」

 いきなり平民と呼ばれ、一瞬ヤンは自分の事だとは分からなかった。
「随分と変わった格好をしているようですけど、あなたがルイズが召喚したとか言う異国
の平民かしらね?」
 ちなみにヤンの格好は、同盟の軍服。白い五稜星マークが入った黒のベレー帽。襟元に
アイボリー・ホワイトのスカーフを押し込んだ黒のジャンパー。そしてスカーフと同色の
スラックスに黒い短靴。
 同盟では当たり前の軍服だが、もちろんハルケギニアでは全く見ない服装だ。
「はい、ヤン・ウェンリーと申します。ヴァリエール家長女、エレオノール様ですね。お
初にお目にかかります」
 恭しく頭を下げるヤンだったがエレオノールはフンッと、下らぬ物を見るかのようにヤ
ンを見下ろしただけだ。
 いくら平民相手とはいえ礼を失する態度に、横で見ていたロングビルも眉をひそめる。
 だがヤンの視線に促され、特に何も言わず淡々とケースをデスクの上に置き、斧を取り
出した。
 とたんに、公爵もエレオノールも溜め息がもれる。視線は刃のダイヤモンドに注がれた
まま動かない。
「それでは、確かに斧はお渡ししました。これで失礼します」
 と言ってロングビルは背を向けた。
 扉に手をかける秘書にヤンが声をかける。
「ミス・ロングビル、もう帰るんですか?こんな夜中に駅馬車はありませんよ」
「ご心配なく。街の馴染みの宿で一泊して、朝一番の馬車で学院に戻りますわ」
 そう言って彼女は部屋をあとにした。


 部屋にはルイズとヤンと、手に取った斧を凝視する二人が残された。
 二人は学院で教員達が行ったように、斧の材質を確かめ、強度を調べ、ダイヤの刃を外
せないかと考えつく方法と魔法をあれこれ試す。
 もちろん「どうしようもないほど頑丈」という結論に至った。

 エレオノールは公爵が手に持つ斧の刃に魅入られている
「素晴らしいわ…アカデミーに持ち帰り、必ずや刃を本体から外してみせますわ!」
 斧を光にかざしながら公爵も満足げに頷いた。
「うむ!頼んだぞ、エレオノール。これほどのダイヤがあれば、姫殿下の婚儀には目もく
らむばかりの宝飾品がウェディングドレスを飾り、ヴァリエールの名を世へ知らしめられ
よう!」
 姫殿下の婚儀と聞いてルイズは驚いて、えっ!?と声を上げてしまう。
 仰天して目を丸くするルイズを見た公爵が、咳払いをして話し出す。
「そうか、まだルイズは知らなかったか。実は姫殿下はゲルマニアのアルブレヒト三世の
下へ嫁がれる事になったのだよ」
「ゲルマニアですって!?」
 さらに驚き口も目も丸くしてしまう。
「何故ですか!?何故にあのような成り上がり共の国にっ!」


「ゲルマニアとの同盟を結ぶためですよ」

 いきなり扉から声がした。
 そこには豪奢なドレスをまとい宝冠を頭にのせた、ふくよかな女性が立っていた。
「失礼。何度もノックをしたのですが、返事が無かったので、勝手ながら入らせてもらい
ましたわ」
「これはこれはマリアンヌ様。陛下の来室に気付かず、失礼致しました」
 そういって公爵はマリアンヌの前に跪いた。エレオノールもルイズも恭しく跪く。なの
でヤンも彼等の後ろに下がり跪いた。
 マリアンヌは頷き、皆を起立させる。
 共を連れたマリアンヌは室内に入ると、やはり斧へ目が向いた。
「ほほぅ…これが噂の…なるほど。これなら、未だかつて類を見ないほどのティアラや首
飾りやらが作れましょう」
 公爵も自慢げに斧をマリアンヌへ手渡す。
「はは、さすがは陛下。お耳が早うございますな。いやはや、婚儀の日まで秘密にし、陛
下と姫殿下を驚嘆させかったのですが」
「ほほほ、それは嬉しい謀でしたこと。ですが、これ程の巨大なダイヤを持つ平民が、使
い魔として召喚されたとなれば、噂が疾風の如く駆けめぐるのも仕方ない事。いやでも話
は聞き及びますわ」
 女王も満足げにダイヤの刃を光にかざし見る。

 そして公爵の後ろ、ヤンの方へ目が向く。
「そして、件の異国から召喚された平民使い魔か。これ、名をなんという?いずこから参
られた?」
 慌ててエレオノールが間に入ろうとした。
「へ、陛下!卑しき平民に自ら声をかけるなど」
 だがマリアンヌはエレオノールの言葉を手で制した。
「かのアルビオンにおける内戦、反乱軍レコン・キスタの勝利が揺るがぬものとなりまし
た。今、ゲルマニアとの軍事同盟はトリステイン防衛のために避けられぬのです。そのた
め娘も、アンリエッタもゲルマニアへ嫁ぐのですよ。成り上がりの国でも、力はあるので
す。かの国では平民でも貴族になれます。そのため今、姫はマザリーニと共にゲルマニア
へ赴いています。
 ならば私も、魔法の使えぬ平民だからと人を蔑むわけにはいきません」

 その言葉にエレオノールも公爵も、苦虫を噛み潰したような顔をしつつも異議を唱える
事は出来なかった。ルイズも、多少は眉をひそめていたが、同時にヤンを認められて嬉し
そうにもしている。
 ヤンも女王の言葉に満足して名乗った。
「お初にお目にかかります。私はヤン・ウェンリーと申します。自由惑星同盟(フリー・
プラネッツ)という国から召喚されました」
「フリー・プラネッツ?聞かぬ名ですね」
 王女は首を傾げてしまう。
「ハルケギニアとは交流の全くない、遠い遠い国です。恐らく過去に両世界の人が出会っ
た事すら無いかと思われます」
「そうですか、それは遠い国から参られたものです。ヤン・ウェンリーとやら、そなたの
もたらした斧、トリステインが買い取りましょう。代金は十分な額を公爵へ届けさせるが、
良いですか?」
「はい、よろしくお願い致します」
 ヤンは、少年時代の父を思い出しながら、商人らしい礼を深々とした。
 女王も頷き、公爵へ一礼して部屋を後にした。

「私は早速アカデミーに戻って、この斧から刃を外しにかかりますわ!」
 そう言ってエレオノールも部屋を飛び出していった。


 後に残った公爵はソファーに深く腰をおろし、まだルイズとヤンが残っているのも構わ
ず大きな溜め息をついた。
「ふぅ~、どうにかエレオノールの機嫌が直ってよかった。わざわざ王宮に呼び出して気
分を変えさせた甲斐があったよ」
 その言葉にルイズがキョトンとする。ヤンは最初のカリカリした姉の姿が思い浮かぶ。
 公爵は、苦しげに溜め息をつきながら口を開いた。
「実はなぁ、エレオノールとバーガンディ伯爵との婚約が破棄されてなぁ…」
 聞かされたルイズは、本日一番驚いた。目が文字通り白黒している。
「こっ!婚約!?婚約したんですか!?しかも、破棄って…」
「なんでもバーガンディ伯爵が言うには『もう限界』だそうだ…。いや、聞かんでくれ。
ルイズ、もうこれ以上は聞かんでくれ・・・」
 呻くように呟いた伯爵は、ヤンには一気に10歳老け込んだように見えた。

 ひとしきり大きな溜め息をついた後、ようやく伯爵はヤンに目を向けた。
「ともかく、ヤン・ウェンリーとやら、大義であった。
 聞いての通りトリステインから代金が支払われる。だが、額が額なので安易には動かせ
ぬであろう。もし金貨で支払われでもすれば、もはや馬車一台では運べぬ重さになるだろ
うからな。
 支払いは小分けにして、月々渡そうかと思うが、よいか?」
「お言葉ながら、今、まとまった額が必要なのです」
 ヤンが深々と公爵へ礼をしながら、現金払いを要求する。
「私が瀕死の状態で召喚されたため、ルイズ様は私の治療費を支払って下さいました。礼
を込めて、その倍額を、急ぎルイズ様へ支払いたく思うのです」
 その言葉に公爵は納得して大きく頷いた。
「良い心がけだ、ウェンリーとやら。城下の別邸に二人とも来るがよい。十分な金をおい
てあるので、3倍の額をすぐにお主へ渡すとしよう」
 ルイズもヤンも嬉しさを隠しきれない顔を見合わせた。




 二人の嬉しい顔は、すぐに驚愕と不安に変わった。
 公爵は、さらに老け込んでしまったかのようだ。

 3人は城門を馬車で出てほどなく、闇の中にエレオノールの馬車を見つけたのだ。
 数台の馬車が粉々に砕かれ、跡形もなく破壊されていた。
 周囲には散乱した破片の中に、御者と使用人のメイドと、エレオノールが倒れていた。

 そして遙か遠くには、月明かりに照らされた巨大な人型が地響きと共に去っていくのが見える。巨大なゴーレムだ。
 無論、馬車の破片の中に斧が収められたケースは無かった。

   第4話   土くれのフーケ   END


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