あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの軌跡-03


第三話 杖とオーブメント


 まだ日は傾き始めていないにもかかわらず学院長室はひどく薄暗かった。


 カーテンでも閉じているのかと思えばそうではない。部屋に入れない<パテル=マテル>が、まるで籠の中の小鳥を狙う大鷲のように窓の外に張り付いていたからだ。

 わずかに差し込む細い光はコルベールの禿げ上がった頭、そこに浮く冷や汗を見せ付けるかのように照らし出していた。
 白刃の上を素足で歩いているような緊張感を覚えるコルベールだったが、部屋の隅にいる彼はまだ立場的にも位置的にも気楽である。
レンと差し向かいで必死の交渉を行っているオスマンは既に胃が痛みを訴え始めていたし、秘書として同席しているロングビルはその視線を彼女の真正面の窓から外せずに固まっている。

「ふうん…ではこうしましょう。レンからの要求は三つ。
 私と<パテル=マテル>の行動の自由と衣食住の提供。そして元の世界に送り返す方法を探すこと。
 これを呑んでもらえれば、私から手を出すことはないと約束するわ」
「うむ…わかった。その条件を呑もう」
「うふふ、親切なお返事ありがとう。オールド・オスマン。
これからよろしくお願いするわね」





 話は少し遡る。
 ルイズが倒れた直後に飛んできたオスマンはその事態の容易ならぬことを見て取り、
おそらくは元凶であろうルイズに対して密かに悪態をつかずにはいられなかったが、ともかくも学院の責任者として事を収拾すべく行動を開始した。

 <パテル=マテル>に吹き飛ばされながらもさしたる怪我もなく済んだコルベールがルイズの息があることを確認すると、オスマンはロングビルにルイズの介抱を指示。そして<パテル=マテル>を擁して彼らに得物の切っ先を向けるレンの説得に取り掛かる。

 レンと<パテル=マテル>に何もしないと誓うのは容易いことだったが、武器を捨てろとの宣告には正直辟易した。
 天下の魔法学院長を春先の草原で下着姿に剥ぐとはどういうつもりじゃ、と声を大にしたくはあったが、<パテル=マテル>が急かす様に蒸気を噴出すのを見ては口を噤まざるを得ない。
 第一杖があった所で何かするわけでもない。正体不明の超兵器に対して一天地六、目の分からない賭けをする気にもなれず。ましてや掛けるチップが自分の命とこの学院とあっては是非もなかった。

 まったく、なんという厄日か。
 半裸で寒さに震える彼がレンをどうにか説得し学院長室に戻った頃には、心中で始祖ブリミルを罵る為の語彙もとうに尽き果てていた。






 オスマンとの会談、いや一方的な要求を終えたレンは学院長室を辞した後に客室へと案内された。

 レンならゆうに五人は寝られそうなの大きさのベッド。備え付けられている家具は例外なく高級品であったし、壁の鏡は曇り一つない。 窓や扉は言うに及ばず、ドアノブから櫛に至るまで精緻な装飾が施されていた。
 おそらくは王族級の賓客の為に用意されている部屋なのだろう、とレンはあたりをつける。

 この部屋だけでもこの学院の人間がレンをどう見ているか分かろうというものだ。
 腫れ物。融通も利かなければ感情の制御も出来ない、まさに子供。


 「<パテル=マテル>、いいお部屋ねー。あなたも入れれば良かったのに」

 窓を開けて、庭に立つ<パテル=マテル>に話しかける。嬉しそうにたてられた駆動音を聞いてレンは幾らか溜飲を下げた。




 しかし、レンにとってもこの状況は些か満足のいくものではなかった。いま少し正確に表現するなら、この世界の奇妙さというか、不可解さがどうにも気になるのだった。
 オスマンとの会話の中で生まれた齟齬、不審に思って問いただせばそこに大口を開いて待っていた未知の絡繰。


「四つの系統魔法に伝説の虚無?」

 オスマンからその言葉が出たとき、レンは思わず鸚鵡返しにそう問いかけていた。
 もしや、ここの連中は邪教徒で夜な夜な危ない宗教儀式でも催しているのではなかろうか。
 別に七耀教会に肩入れしてるわけでもないし、どこぞの不良神父のように外法の徒を狩る趣味もレンにはない。本来なら放っておいてもいいのだが、巻き込まれるのなら話は別だ。
 なし崩しに外法認定されて、教会の守護騎士達に束になって追ってこられては堪らない。

 レンの剣呑な雰囲気が伝わったのか、オスマンは慌てて実演する。フライといったコモンマジックから、偏在や錬金などの系統魔法。


 それを見てレンは考え込まざるを得なかった。
 レン達が日頃使っているオーバルアーツとは似ても似つかないものだったからだ。攻撃用の魔法ならともかくも、錬金などは今のオーブメントでは実装できそうにもない。

 そもそもオーブメント理論云々どころの問題ではなく世界の根幹、物理法則を根底から揺るがすものだ。
 それは既に神の御業。余程高位の古代竜などならやってのけるのかもしれないが、人間程度が行使できるものとは到底思えない。


 その上、彼らはオーブメントを一切所持していなかった。
 レン達がオーバルアーツと呼ぶ導力魔法は戦術オーブメントにクォーツ、七耀石の結晶回路をはめ込み、そこから現象として力を取り出すものだ。
 オーブメントの精密さ、クォーツが内包している七系統の力とその組み合わせによって多種多様のアーツが使用可能になる。それなりの訓練を受ければ老若男女、身分も人種も問わず行使できる導力魔法。


それが彼らに言わせればどうだ。
 やれ使える魔法は四系統だの、行使できるのは貴族だけだの、杖を使うだのと。
 既に共通点を見つけるほうが難しい有様だった。



 それに加えて胡散臭い始祖ブリミルの伝説、機械という概念すら発生していないことなどを考え合わせると、次第にレンの中で疑惑の雲が湧き上がってくるのだった。


 この世界は<リベル=アーク>のアーティファクトが作り上げた虚構世界だとばかりレンは思っていた。
 演算装置にバグでも起きてそこに取り込まれたのか、とその程度の認識だったのだ。

 だからレンはこの世界に来たのだ。もしかしたらまたみんなに会えるかもしれない、エステル達と冒険できるかもしれないというそんな淡い期待を、頭では拒絶しながら心の奥底で抱いて。


 それは、ただの自分に都合のいい願望に過ぎなかったのではないか。


 この一見牧歌的な世界は、
 空の女神エイドスの加護も、七耀の輝きも、
 あのエステルやティータの手すらも届かない全く別の次元世界なのではないか。


 自分のあまりの愚かさに思わずレンは歯噛みする。
 己の見たい夢だけを見て、盲目的なマーチを歌ってしまった。

「これじゃあもう、エステルをおばかさんって笑えないわね」


 苛立ちを冗談に変えて、レンは立ち上がった。

 この世界がなんなのか、まだ明らかになってはいないのだ。
 ならば、今の彼女がなすべきことはただ一つ。



 「偵察に行きましょ、<パテル=マテル>。
  この学院をお散歩するの!きっととっても気持ちがいいわ」 




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