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虚無のメイジと、吸血鬼-03


「フィオナ……一つ聞きたいんだけど」

 ルイズは、訝しげな表情を微笑を浮かべる己の使い魔に向け、言った。

「それじゃああなた、何が出来るの?」


   虚無のメイジと、吸血鬼

 ルイズの部屋に辿り着き、中へ通されてから待つこと暫し。
 教室に戻り、何がしかの用事――知る必要はないと考えたため、フィオナは聞かなかった――を済ませてきたのであろう。
 主が戻ってきた事に音で気付くと、主の寝台に腰を落ち着けていたフィオナは、音を立てずに立ち上がった。
 歩を進め、部屋の中心で立ち止まると、扉へと向き直り、主が戸を空けるのを待つ。

「お早いお帰りでしたね」

 扉が開くと同時に、フィオナは主へ向けて声を掛けた。表情を見た所、機嫌は悪くはなさそうだ。
 まあ、機嫌が悪かろうと主に媚び諂うつもりはないのだが。使い魔の契約の内容に、主のご機嫌取りまでは含まれていないだろう。
 自分が認識している契約内容以上の事をするつもりはないし、それを強いられても当然ながらお断りだ。

「ええ、ちょっとした説明だけだったもの。大人しくしてた?」

 頷く事で答えながら、まるで子供か、ペットに掛ける言葉だと密やかに苦笑。
 その間に主は、ついさっきまで自分が座っていた寝台に早くも腰掛けていた。

「勿論です。それはそうと……聞きたい事があるのですけれど」

 ある程度、使い魔という響きから想像が付いてはいる。しかし、今の自分は契約内容を詳しく把握しているわけ
ではない。そう前置きをしてから、フィオナは己が交わした契約の内容を問うた。

「そうね、説明しないと……使い魔には、大きく分けて三つの役割があるわ。まず、一つ目は感覚の同調ね。
 使い魔が見たり聞いたりしたものは、主人もそれを知る事が出来るの」

 主が知った事は、使い魔もまた知る事となる。その逆もまた然り。
 そう説明をした所で、ルイズは少し考える表情になった。
 使い魔召喚が成功していた事で浮かれていたのか気付かなかったが、彼女の見ているものが自分には見えない。

「…でも、私の方は機能していないみたい。フィオナの方は、私の見てるものとか見えた?」
「いいえ。そもそも、どのような状態になるかが私には分かりませんから」

 穏やかに返されたフィオナの答えは薄々予想していたものではあったが、それでも少し寂しい。
 他の生徒たちは皆繋がっているのだろうに、自分たちだけその繋がりがないというのが、使い魔との絆を希薄に
している様な気がする。
 恥ずかしくて言葉では言えないが、そんな思いを溜息にして吐き出すと、ルイズは気を取り直して説明を続けた。

「二つ目は、主人が必要とするものを見つけて来る事。秘薬とか、それ以外にも色々。硫黄とか、コケとかね」

 少しの期待を込めてフィオナに目を向けた。
 これから生活を共にする使い魔は口元に手を当て、考えながら頷きを返してくる。

「可能でしょうね。ただ、この世界の植物や鉱物には詳しくありませんので、対象の詳細な特徴が必要ですが」

 ”この世界の”と言うところに僅かな引っ掛かりを覚えたが、出来ると言う答えへの満足がそれを押し流す。
 うんうん、と機嫌良さそうに頷きながら、ルイズは最後の役目をフィオナへと伝えた。

「後はご主人様の護衛。その能力で、主人を敵や危険から守るのが一番の役目なの。これは吸血鬼だからできるでしょ?
 吸血鬼は先住魔法を使えるんだもの、この中では一番簡単な事だと思うわ」

 同意を求める言葉にフィオナの湛える微笑みが、一瞬だけ苦笑に変わる。
 それに首を傾げながらも、当然返されるであろう出来るという返事をルイズは待ち――

「ええ、護衛なら十分可能ですね。私は魔法は使えませんけれど」

 返ってきた言葉に驚いて、使い魔をまじまじと見詰めてしまった。対して、使い魔は微笑を崩さない。

「え、だって……吸血鬼って先住魔法を使うものだって……」
「残念ながら、私は使えません」

 この次に紡がれたのが、冒頭のルイズの問いである。

「何が出来るの、とはまた難しい質問ですね。その質問は、どの様な答えを意図したかによって、返答が異なるのですけれど。
 人のように会話が出来る、物が掴めるなどといった事は、お望みではないのでしょう?」

 からかうようにフィオナは笑みを深め、謳うように言った。
 理知的な光を宿す紅い瞳は細められ、直前の言葉から覚えるであろう、楽しげな様子を更に強調していた。
 そんな対応に少し苛立ちを覚えたのだろうか、ルイズはと言えば眉根に少し皺を寄せている。

「当たり前じゃない。本当は分かってて言ってるでしょ」

 感情や思考を隠す相手の方が話す分には刺激的で面白いが、偶にはこういう素直な反応をされるのも悪くない。
 ふふ、と小さく含み笑いを漏らすとフィオナは何処まで話すべきだろうか、と考えを巡らせる。
 純粋速度移動、能動透過、衝撃浸透―――これらの小手先の力は、必要な時に教えれば良いだろう。
 数秒と経たずにそう結論を出すと、彼女は口を開いた。

「腕力と素早さ、丈夫さには少々自信があります。後は細々とした能力なので、必要になった際に。さて――」

 その返答に対し、ルイズが何処となく不満そうに頷くのを見届けると、フィオナは言葉を続けた。
 伝えるべき事―――この使い魔の契約は隷属の契約ではない、と言う事を、伝えるために。
 これ以上話す事があるのだろうか、と不思議そうに見つめるルイズに向かい、微笑んだままで言を紡いでいく。

「これより私があなたに使えるに当たって、これだけは覚えておいていただきたいのです。この契約は私が、
 召喚者たるあなた、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに全面的に隷属する、
 と言う内容ではない事を」

 己を召喚した少女へと淡々と告げるのは、託宣の言葉。自分はあなたの奴隷ではない、と言う宣言だ。
 フィオナは束縛される事を好まない。奴隷のように扱われる事などあろうものならば、即座に契約を打ち切るつもりでいる。
 ルーンの有無など知った事ではない。絶対的な精神支配能力が付与されているならともかく、刷り込みによる好意など、
強靭な意志力さえあれば跳ね返せるのだ。
 自分は、格下の存在として呼びつけられたのではない。少女の呼びかけに、己の意志で応えたのだという自負がある。
 あくまで対等に与え合う存在であると理解させ、納得してもらわなければ、フィオナにとってはこの契約は成立しない。

「私はあなたが説明した三点に置いては、可能な限りでの助力を行います。あなたを主として敬いはしますが、
 品性を捨てて媚び諂うつもりはありませんし、あなたが私を奴隷のように扱うというのであれば、力を貸すつもりも
 ありません。本質的には、お互いに対等な協力者であると認識してください」

 自分は奴隷ではない、あくまで力を貸す事で対価を受け取るだけの存在である。その意思を感じ取ったのだろうか。
 穏やかな口調で一言一言を区切りながら紡がれる言葉に、初めは驚きを顔に見せていたルイズも、表情を引き締める。
 これがただの平民であり、使い魔としての仕事が殆ど出来なさそうだなどと認識していたら、反応も違っていただろう。
 しかし、目の前に存在する相手はそれらをこなすと言った。こなせる力も、きっとある。
 それなら、権利を保証しない理由はない。
 ―――実の所、使い魔の儀式に望んだ当初は雑用なども押し付けようと思っていたのではあるが、起こったのは爆発。爆発、爆発、
故に余計に必死になって召喚を繰り返し、漸く成功したと思ったら召喚されたのは吸血鬼、そして一悶着。
 激動と言って差し支えない今日の出来事は、ルイズからその記憶を綺麗さっぱり流してしまっている。
 主が忘れているために、従はそれを知る由もないのではあるが。
 ルイズは立ち上がり、可能な限り厳かな――それでも、愛らしさは抜けないが――声を作ってフィオナに告げた。

「ええ、分かったわ。お互いに助け合い、支え合う関係でないといけないとミスタ・コルベールもおっしゃっていたもの。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの名に置いて、フィオナ・アイスハイム・イストラッド、
 あなたのその権利を保証すると、ここに宣言します」

 フィオナの顔に、宣言までの間は消えていた薄い微笑が再び戻り、頷いた。
 それを満足だと取ったルイズは、こっそりと安堵の息を吐く。目の前にいるのが吸血鬼だ、というだけで緊張の種には十分だ。
 あの口付けの瞬間よりも、こちらの方がきっと彼女に取っては意味ある契約なのだろうな、と、ふと思う。
 他の生徒と使い魔とはきっと随分違う関係なのだろうけれど、満足感を感じている自分がいる事がルイズは不思議だった。

「とはいえ」

 そんな事を思っていると、フィオナの明瞭な声が部屋に響いた。

「感覚の同調については出来ないようなので、代わりに、身の回りの世話をある程度ではありますが、して差し上げます。
 必要ない、結構だというのであれば、好意の押し売りになりますので、しませんけれど」

 付け足された言葉に、ルイズの顔がパッと輝く。フィオナは気を遣ってくれたのだと、そう考えたのだろう。
 そう簡単に見て取ったフィオナであったが、否定もせず、肯定もせずただ微笑むだけだ。

「ううん、お願いするわ。折角の使い魔の好意だもの、ご主人様としてそれを無駄にするなんて出来ないから」
「そうですか。では、着替えや学業の準備は任せてください。掃除洗濯は、どうやら小間使いに任せられるようですし、
 私が進んでする必要もないでしょう」
「それじゃあ―――」

 使い魔の心遣いに喜んだルイズが、明るい笑顔で何処に何があるかを説明していく。
 部屋の説明が済めば、いい機会だとばかりに、フィオナは己の方から質問をした。
 学院の間取り。周辺の地理。学院にどの様な施設があるか、周囲にどの様な街があるか。
 自分はこの辺りの事は何も知らないので、現在の周辺の状況を知っておきたいのだという言葉に、『仕方ないわね』等と
零しながらも、面倒見よくルイズは答えていく。
 夕食の知らせが来て一旦中断したのではあるが、ルイズが部屋に戻れば自然とそれは再開した。
 結局、それが一段落したのはルイズが部屋に戻ってから暫く経った頃。
 夜の帳が外を覆い尽くしてから、気付けば結構な時間が経っていた。

 使い魔と向かい合わせに座り、次は自分から質問しよう、と考えていたルイズが小さな欠伸を漏らす。
 知らず知らずの内に疲れていたのだろうか。だとしたら、授業もあるし、明日に疲れを残すわけにはいかない。
 少し早いけれど、そろそろ、眠る準備をしないと。質問は、また明日すればいい――そう考えたところで、ルイズは期待を込めて
フィオナを見遣る。夕食前に話した事を、思い出したからだ。
 聡明な使い魔も、その視線に込められたものに気付いたのだろう。そっと息を吐くと歩み寄ってきた。

「そろそろ眠くなってきた、と言う顔ですね。では、立っていただけますか?」

 頷き、立ち上がった自分の身体に細くて長い指が触れて、衣服をそっと脱がせていく。
 第三者から見れば如何わしい物を感じさせる可能性のある光景ではあるが、当事者の表情を見ると、姉離れできない妹に
呆れている姉、とも見えなくはない。
 ルイズを着替えさせ終わり、布団の中に主が潜り込む姿を確認すると、フィオナはゆっくりとルイズから離れた。
 そして、再び椅子へと腰を落ち着ける。彼女にとっては、こうして思索する時間は好ましい。考える事が未知の世界の事とあらば、尚更に。
 灯りが落とされれば、部屋の中を照らし出すのは月明かりのみ。
 ルイズが眠りに就くのを邪魔しまいと、フィオナは静かに物思いに耽る。

「ねえ、フィオナ……」

 その最中、当の主から小さな声が届いた。声から察するに、相当に眠いのであろう。
 しかし、それを押しても聞いておきたい事なのかもしれない。無言のまま、続きを促す。

「…フィオナは、どうして私と契約したの?」

 身を苛む眠気のせいか、あどけなく聞こえる声。もう意識を繋ぎとめる事すら、怪しいのではないだろうか。

「ただの、暇潰しです」

 なら、眠りに落ちるまでに答えないと意味がない。フィオナは一言で言葉を返した。
 しかし、その言葉を聞く寸前でルイズの意識は眠りに落ち、健やかな寝息を立てている。
 その寝息で間に合わなかった事に気が付くと、フィオナは吐息の音すら立たないほどに小さく苦笑した。
 また、改めて聞かれた時にでも答えればいいだろう。
 この様子では、自分がそう問い掛けた事すら覚えているかどうか。
 ひとしきり笑った後で、何とはなしに夜空を見上げる。
 見た事のない星空を眺め、過ごす夜もまた一興と思えたのだろう。

 月が一つしかなかった元いた世界とは、まるで違う、二つの月がある空。
 自分の知らない星空を見詰める事で、彼女が初めて迎えるハルケギニアの夜は過ぎていった。


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