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ゼロの英雄外伝-イザベラ様の大冒険-後編


 イザベラの手記 3


 わたしを助けた女はエチカと言うらしい。
 日に焼けた長い金髪をリボンで束ね、いかにも旅人って衣装、闊達な笑顔が絶えないその顔はわたしの目から見てもそれなりに整っていると言えるだろう。
 ――気に食わない。
 ガリアの女王を前にまるで小さな子供を見るような視線を送ってくることも、サイトが持っているのと同じ刃の引いていない剣を持っていることも、颯爽と正義の味方然して余計な茶々を入れてきたことも気に食わない。
「別に助けてくれと言った覚えはないんだがねぇ」
 悔し紛れに言ったわたしににょいっと何かが突き出された。
 何これ?
「食べないの? せっかく焼いたのに」
 よく見ればそれは木の枝に川魚を丸ごと突き刺して焼いたものだった、さっきから何かごそごそやっていると思ったらこんなことしてたのかい。
「食べるわけないだろう、こんなもの。王族をなんだと思ってるんだい!」
 そうは言ったものの、ぐるるるとまるで猛獣の唸り声の如く鳴るおなか。
 腹減っちゃいないよ、減っちゃいない! ――ええい、わたしの体のくそに言う事を聞かないなんて生意気な!
「本当に?」
 そういいながらエチカはほっくほくに焼きあがった魚にかぶりつく、岩塩だけで焼き上げた名も知れぬ魚の癖に黒く焦げた皮の下からはまるで真珠のような純白の身が覗く。
「いやぁ、この時期のサ・ンマーは格別だね」
 生臭坊主のジュリオも焼きたての魚を頬張る、噛み締めるとじゅと音を立てて滴るたっぷりの脂。
「いいね、少々塩が多すぎかと思ったけど身から出た脂が塩辛さを包み込んでいる」
 そんなもの見せられたら、見せられたら……
「よこしな!」
 気づけばわたしはジュリオの手から魚を刺した串を奪い取っていた。
 ああ、くそ。悔しい、そしてうまい。ただ魚に塩を振って焼いただけだと言うのに唸るほど美味い。野味の強い魚は少しでも鮮度が落ちれば生臭くて食べられたものにならないと言うのに、きつめに振られた岩塩の風味が完全に生臭さを殺している!
 作品が違えばラスボス級のリアクションを取ってしまいそうな美味であったが、生憎わたしには効きゃあしないね!
「ところでイザベラは一体何故こんなところに?」
 それを言われちゃ困る、こんな山の中を豪奢なドレスでうろつく王女様なんてこいつら平民の頭をかっぽじっても出てこない想像だろうからね。
「別に、そっちこそなんだってこんなところにいるんだい?」
 エチカは語る、わたしと同じように誰かを探しているのだ。
「なんならついでだし、イザベラちゃんの探し人も一緒に探そっか?」
「べ、別にいいよ。あんたらから慈悲を受ける義理なんてなひゃぁぁん」
 不意に頬を舐められて変な声を出してしまった、くそ情けない。王族の威厳が台無しじゃないのさ!
「これは嘘を付いている味……いや、ごめん、ごめんよ。君があまりにも」
「死ねい!」
 そう言って杖を振るがジュリオは軽々とその攻撃を回避する。
 殺す、絶対殺す!
「ふはは、すの程度の攻撃この僕には」
 いい笑顔のまま倒れるジュリオ。
 その背後にはあのでっかい剣を構えたエチカだった。
「セクハラ男の対処には、昔から少しばかり自信があるの」





 ジュリオが百叩きにされ裸に剥かれて縄でぐるぐる巻きにされ鞭でしばかれ氷の飛礫をぶつけられ一晩中木の上から吊るされていた頃、トリステイン魔法学院でサイト達も食事の時間を迎えていた。
「うまい、これはうまい!」
 ぼろぼろになったサイトはマルトーが出してくれた賄いに舌鼓を打つ。
 賄いと言ってもルイズやタバサ、それにシエスタの頼みで出されたそれなりに豪華なものだ。余ったパンを再び竈に入れバターを塗ってパリっと焼き上げたもの、売り物には出来ないステーキ肉の切り落としをソースで炒めたもの、即席に作った同じくとろとろのポーチドエッグと即席のサラダ。
 だが何よりもそれらと同時に出された白濁したスープがサイトの心を捉えた。
「なんだろこれ、コンソメスープみたいだけど」
 それよりも随分としっかりとした味をしている、一体どんな食材を……そう思ってマルトーに聞きに行ったサイトは絶句することになる。
「おう、ドラゴンスープは気に入って貰えたようだな」
 まさかこの料理狂の料理人はあのいたいけなシルフィードを掻っ捌いて夕餉の食材にしたのであろうか?
 サーッと音を立てサイトは自分の血が引くのを感じ、ぶるりと身を震わせた。
「マルトーさん、これって……」
 そう言ったサイトにマルトーは首をしゃくって窓の外を指し示す。
 そこには鼻歌を歌いながら某しずちゃんの如く今日のお風呂に高じるスピノザの姿が!
 つまりこのスープは……
 吐いた、サイトは泣きながら今食ったものを吐き出した、シルフィードの人間形態の出汁ならともかく何故好き好んであんなむさ苦しいドラゴンの湯で汁を飲まねばならないのか? と言うか俺なんか悪い事した? やっぱりジョゼフを変態の道に進ませた責任をry
「なにしてんのよ」
 そんなことを考えていたら、ルイズに微妙に蔑みの入った目線で見られた。
「い、いや。なんでもない」
「そう……」
 いきなり胸を触ってしまったのだから微妙に冷たい視線を送られても仕方がない、なにしろ二人はほとんどゆっくり会った事などなかった。
 それにサイトは他の世界でのようにルイズが積極的に関わっていかなければならない相手でもない。
 ルイズの癇癪にサイトが甘受する理由もなかったし、そもそもルイズの性格は先のどたばたで大分丸くなっている。
 結果としてこの二人の間の微妙に気まずい距離感が出来上がっていた。
 知らない間柄でもないがけして親しい訳でもなく、出来れば仲良くなりたいが互いの感情が邪魔をする。
「それでどうする? どうしてもと言うのなら試してみてもいいけど……」
 その言葉の通り今のルイズにはサイトを送り届ける手段があった、虚無の魔法である移動の系統中級の中の上、世界扉<ワールドドア>彼方と此方を繋げる呪文。
 突然魔法の力が戻ったことも奇跡なら、本来ルイズの系統でない移動の虚無の魔法が引き出されたこともまた奇跡であった。
 あれほど色々と試した筈なのに何故いきなり? そうエレオノールと考えてみたが結局答えは出ず――すべては始祖ブリミルのお導きと結論するしかなかった。
「けどちゃんと貴方を故郷に送り届けられるかは……自信ないわ」
「サイトだ」
「え?」
「平賀才人、それが俺の名前」
 そこでルイズは気づいた、既にサイトの心は決まっているのだと。
「ルイズよ、ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
 だからルイズは名乗った、彼を送り届ける一人の貴族の名を。
「ルイズさん、宜しくお願いします」
 サイトは普段の姿からは想像できないほど丁寧に、誠意を込めて頭を下げた。





 サイトの手記 3



 呆気ないくらいに帰れるってことが分かった。
 本当に帰れるかは分からないって言われたけど、それは教皇さんに頼んだって同じだろ?
 だったら俺はルイズを信じる、自分の使い魔の為にあそこまで体を張ったルイズを信じる。
 で、でも、いざ帰れるとなるといろいろと心の準備が……
 またこっちの世界に戻って来れるかは分からないし、下手するとまた全然関係ない別の世界に飛ばされるかも。
 まぁ考えたってしょうがないよな、とりあえず心残りだけは残さないようにしよう。
 そう考えていたらアタラクシアが俺のことを呼びに来た。
 ――イザベラが?
 途中で放り出してきた? やっべあいつにそんなことしたら後で迷惑すんの俺じゃんか。
 兎に角向かえに行かねーと、何? タバサも付いて来てくれるの?
 しかも案の定キュルケやギーシュも付いてくるし……あ、ルイズも来てくれるんだ?
 痛って、なんだよタバサ。じゃなくて本来の名前であるシャルロットを名乗るようにしたんだっけ?
 痛て、痛て、なんでいきなり殴んだよ、ひっでぇな。
 まぁいいや、旅は賑やかな方がいいし。スピノザも来てくれるそうだからこの人数でも乗れるだろ。
 頼むぜって肩を叩こうとしたら物凄い勢いで逃げ出した、なんでも前戦った時の記憶が残っているから体が怯えるんだよな。
 っせーな、もうあんな動き出来ねぇよ。<ダンテ>はいつの間にかどっか行っちまったし……
 うわっ、キュルケなんでいきなり引っ付いて!?
 ちょ、シャルロット、止めて、許して、ひぎゃー!?


 むーざんむーざん
 さいとのふらぐばっきばき。
 きゅるけにきっちゅもろたら
 あーかいはなさーいた














 エチカは天を駆ける黒い影を輝かんばかりの目で見つめていた。
 イザベラに話を聞いた時もしやと思った、それでも到底エチカには信じられなかったのだ。

 ――これが最後と決めた旅、そこであのスピノザを連れ去った鏡に出会うなどと。
 ――こうしてまた再び生きてスピノザと会うことが出来るなどと。

 エチカの頭にこれまでの日々の思い出が怒涛のように駆け巡っていく、
 スピノザと出会ったこと
 スピノザと別れたこと
 スピノザを探して旅をしたこと
 鏡を見つけそれをくぐったこと
 そして使い魔になったこと。

 それら全てがあの頃より幾分か豊満になった胸を焦がし、エチカの視界がぼやけて滲む。
 強くなったつもりでいた、あの頃と比べればずっと大人になったと思っていた。
 それでも溢れ出す涙は止められない、駄目なのに、笑って迎えてあげようと思っていたのに。
 とめどなく溢れる涙、歯を食いしばって耐えても後から後から押し寄せる感情は抑え切れなかった。
 ――ああ、もう……格好悪いなぁ。
 涙でぐしゃぐしゃになった顔でエチカは笑う、汚れていて歪んでいてしかしどこまでも純粋な笑顔。
 そのエチカをイザベラは驚いた顔で見ていた、三人で過ごしたこの数日一度も見せたことのないエチカの少女のような姿をただじっと見ていた。
 惚けた顔のイザベラの耳に硝子のように澄んだ声が届く。
「おかえり、スピノザ」
 舞い降りたドラゴンに万感の思いを込めて、エチカは呟いた。






 イザベラの手記 4



 こいつらと出会って何日か経つけどどうやら悪い奴らではないみたい、と言うか底抜けのお人よしだね。
 貴族の妾にされそうになった平民を御丁寧にも助けてやったり、周囲の山賊や盗賊をふん縛って説教したり、死にかけたジジイを水の秘薬で癒してやったり、村の奥に救ったミノタウロスを退治したり、あまつさえわたしの魔法で怪我人に無償で治療してやったり。
 ほんとなんで御丁寧にもこんなこと……と思うようなことばかりやっている。
 ったく一銭の得にもなりゃあしないのになんでわたしが手伝わなけりゃならないのかね、って痛いじゃないか王族の頭を叩くんじゃないよ!
 でも不思議だね、わたしのライン未満程度の水の魔法でも薄汚い平民共は泣いて「ありがとうございます、貴族様」って言ってくるんだから。
 その割に貴族全般の愚痴を散々垂れているあたり貴族だから頭を下げているって訳でもない、ましてやここいら一帯を治める「湖底」のコッポラは水のスクウェアって話だ。そんな使い手が散々に貶められてる横で

「イザベラ様蝶サイコー!」
「イザベラ様可愛すぐるザウルス!」
「イザベラ様のおでこ!おでこ!」

 と褒め称えられるのは悪い気はしないね――なんかおかしいの色々混じってる気もするけど。
「どうしたの? イザベラちゃん」
「なっ、なんでもないよ!」
 その答えにエチカは笑う、まるで妹でも見るような笑い方が憎らしいね。
 でもそれが悪くないと思えてしまうなんてわたしも甘くなったもんさ、ああ、やだやだ、辛気臭いったら。
 それもこれもこいつらのせいだ、こんな滅茶苦茶なガリアの王女に強行軍をさせるこいつらが悪い。
 なんで丸一日ぶっ続けで歩き続けなければいけないのか? あれか? わたしが召喚したドラゴンの話をしたのが原因か?
 まぁいくなんでも貴族をこれ以上歩かせるのは拙いと思ったのか、わたしを背中に抱えて歩く程度の良識は持ち合わせているようだけどね。
 しかもワイヴァーンはネオギーシュがガリアへの連絡の為に乗っていってしまった、くそ、本当に忌々しい。
 そんな折、エチカが訳の分からないことを言い出した。
「なんかさ、イザベラちゃんってなんかほっとけないよね」
 ――お前は何を言っているんだ?

「何言ってるのさ!?」
「なんか昔のわたしを見てるみたいでさ。ねぇイザベラちゃん、なんか無理してない?」
「無理なんか……」
「出来のいい兄貴がいて比べられるとか」

 ぐさっ。

「生みの親からいらない子扱いされるとか」

 ぐさっぐさっ。

「周囲に誰も本気で味方になってくれる人がいないとか」

 ぐさぐさぐさっ。

 く、くっ、なかなかやるね。と言うかなんかタチの悪いマジックアイテムでも使ってるんじゃないのかコイツ?
「むっ、無理なんかしてない。してないんだからね!」
「そうかな? それだったらいいんだけど」
 あっさりとエチカは引き下がった。けどなんでそんな顔するんだい、ええいまったく。
「そっちこそいきなりどうしたのさ」
「別に、ただちょっと昔を思い出しただけ」
 意外だ、こんな愉快な女にもそんな顔をするような過去があるってことが堪らなく意外だ。
「気になる事言うじゃないか、一体どんなことを……」
 わたしが最後まで言い切るのを待たずにエチカは立ち上がった、まるで操られたアルヴィー人形みたいな重さを感じさせない動きだった。
 呆然と見上げる視線の先を追っていくと、青い空にぽつりと浮かんだ黒い翼が見える。
「スピノザ……?」






「――エチカ!?」
 スピノザは呆然と自分のことを見つめる人影を見下ろし、呻く。
 そこにはずっと会いたいと思い、そして会えないと諦めていた人物がいた。
 エチカ・ライプニッツ。
 自分では扱えない破竜剣を手に何度も何度もスピノザに挑みかかってきた勇者の代理人。
 まさか本当にエチカなのか? そう思って目を瞬かせたスピノザはその時優しい声を聞く。
「おかえり、スピノザ」
 ああ間違いない、可憐な少女は麗しい女性へと変貌を遂げていたとしても彼女は紛れもなくスピノザの知るエチカであった。
「ただいま、エチカ」
 ふわりと地面に舞い降り、スピノザはエチカに頭を下げた。
 エチカは涙で濡れた顔をぐしぐしと擦ると、スピノザの首に頭を回す。
 そしてまるで恋人に愛を囁くように呟いた。
「私を放っておいて何処行ってたの?」
 すらりとエチカは背中から剣を引き抜いた。
 無論、力の源である蒼い宝玉こそ砕け散ってはいるもののそれは紛れもなく竜殺しの剣であり……
「ええと、あの、あのね……」
「なぁに? スピノザ」
 エチカは笑う、その笑いがまるで人形のように見えるのは果たしてスピノザの気のせいか?
「ごごごごめん、悪かった僕が悪かった、だから!?」
「駄目、許してあげない」


 ――と、まぁそんなラブコメが繰り広げられること四半時。
 並み居る面々のうんざりとした表情もなんのその、段々と凶悪な顔になっていくルイズとアタラクシアとシルフィードと何とか宥め、ようやく話を始められた頃には日はとっぷりと暮れていた。
 キュルケが灯した焚き火の火を囲みながら、皆でこれからのことをこれまでのことを話しあう。
 エチカのこと、スピノザのこと、そしてサイトのこと。
 すべて語り終えたのは焚き火の火が燃え滓となり、空が白み始めた頃合のことである。
「それで、あんたはどうするんだい?」
 イザベラはそうサイトに向かって問いかけた、普段の勝気さはどこにもない。
 今のイザベラは恋が砕け散るのを恐れるどこにでもいる普通の少女のようだった。
「――やっぱり帰るよ、俺」
 僅かに躊躇ってからサイトは言った。
「母さんから手紙が来たんだ」
 驚く面々に向かってサイトは続ける、ジョゼフの手にしたパソコンに世界を超えて母からの頼りが届いたのだと言う事を。
 この世界も大好きだけど、やはり家族を捨てることは出来ないと。
「そうかい」
「イザベラ……」
 俯いたイザベラに声を掛けようとしたサイトは次の瞬間に吹っ飛ばされた。
 イザベラがおもいっきりサイトの頬を殴ったからである。
「うるさい、うるさい、うるさい。せいせいするわ、何処へなりとも行っちまえ!」
 泣きながら走り去るイザベラを追いかけることは、サイトにはどうしても出来なかった。



 サイトの手記 4


 結局帰る予定の日になってもイザベラはどこかへ行ったきりだった。
 本当はルイズだけで飛ばしてもらうはずだったんだけど、念には念をと言うことでジョゼフがロマリアの教皇陛下まで呼びつけたらしい。
 まったく無茶すんなと笑ったら、なにお前のためなら容易いことだとジョゼフは笑った。と言うかそれが出来るんなら最初からやれよ!
 ヴェルサルテイル宮殿で開かれた絢爛なパーティ、俺が主役ってのがちょっと照れくさいけど……
 しかし納得いかないのはこの髭親父だよな、無理無理と傍観決め込む振りして全部掌の上ってか?
「ネフテスの議会にて承認待ちだったのだ、無茶を言うな」
 そう言っておちつけと手を振るビダーシャル、と言うかお前が落ち着け。いくらエルフが美形だからってフリルのエプロン着た男なんてむさいだけじゃねぇか。
「すいません、お手数掛けます」
「何、これもエルフの民とブリミルの子ら共に手を取り合う為に経なければならない通過儀礼ですから」
 やっべこの教皇さん笑ってるけどなんかすげぇこえぇ、具体的に言うとアルカイックスマイル浮かべて宗教戦争吹っかける系の恐さ。
「それではお別れだ、元気にやりたまえ」
「貴方いい男だったわよ」
「――――」
 見知った顔の奴らが声を掛けて来る、一度しか見たことない奴や意外と馬が会ったやつ、一度は敵になった奴もいるしひょっとしたら親友になれた奴もいるかもしれない。
 具体的に例を挙げるとウェールズ様は柱の影でアンリエッタ様とアンアンしていたり、ちょっと強いバッソ=カステルモ-ルは警備しながら背後を気にしているせいですごく挙動不審、アタラクシアがパーティ参加を丸呑みしようとし、スピノザは言い寄られる女性人にたじたじ。と言ったところか?
「ほら、しゃんとして」
「う、うん」
 髪を結い上げた黒いドレスのマチルダさんに手を引かれ、うはーティファニアすげー、ただでさえ核兵器級の胸だと言うのに真珠で飾られたきつめの純白のドレスで圧迫されているのがなんともはや……
「ふぎゃ!?」
 忘れてた、本日の主役のお出ましだ。
「いってぇ、なんで叩くんだよ」
「なんとなくよ!」
 ルイズはこんな席だと言うのにいつも通りの魔法学院の制服だった、まぁ本人がそれでいいならいいんだけど――ひょっとして無理かなんかしてるのかな?
「ふはは、お前もなかなかやるではないかサイト」
 ジョゼフが笑う、その時でハーレムの主とは貴様も隅におけんな? うっせぇボケ、この髭!
「それでは始めるとするか」
「ジョゼフ……」
「さらばだ友よ、また会う日を楽しみにしているぞ」
 その声に俺はゆっくりと目を瞑った。





 溢れ出そうになる涙を押さえつけサイトは再び目を開いた。
 ゆっくりと再び周囲を見回すと、呪文を唱えるルイズの姿が見えた。
 ――耐え切った筈の涙が一筋零れたのは、本来歩む筈だった運命の悪戯か。

 ユル・イル・ナウシズ・ゲーボ・シル・マリ……

 二人の詠唱が混ざり合い、溶け合っていく。
 それはまるで歌のように響き、サイトの心に沁みこんで行く。

 ハガス・エオルー・ペオース……

 ルイズとヴィットーリオが二人揃って杖を振るった、虚空に輝く光の粒が生まれそのまま人一人が通れるかと言うほどの大きさの穴となる。
 その先には懐かしい、あまりにも懐かしい東京の夜景が映っていた。
「みんな、ほんとにありがとな」
 涙で濡れた顔は見られたくない、そう考えながらサイトは一歩足を踏み出した。
 懐かしい、懐かしい故郷へと向かって……
「待ちなっ!」
 ゲート潜った瞬間掛けられた声にサイトは振り返った、振り返ってしまった。
 小さくなり消滅していくゲートの向こうに、涙を溜めて一直線でこちらに走ってくる少女が見えた。
「わたしの使い魔の癖に、主人を置いて一人でどこか行こうだなんて許さないよ!」
 いつもの王女の服ではなく、サイトが思い出の品として残して青と白のパーカーを着て。
 エチカが持っていたはずの破竜剣<モナド>を背負って。
 一直線にサイトに向かって走ってくる!
「待ちな、待ちなってば、待てって言ってるだろサイト!」
 イザベラは走る、呆気に取られた周囲の者たちの視線など一切気にせずただ一途に走る。
 意地を張っていた、サイトから見捨てられたと思っていた。けど自分から頭を下げる気にはどうしてもなれなかったのだ――サイトに残って欲しかったのに、素直に言うことが出来なかった。
 そのせいでイザベラは一言も話すことが出来ないままサイトを失おうとしていた。
 背中を押してくれたのはあの金髪の女性、大切なものがあるのなら諦めずまっすぐに向かっていけばいいと教えてくれたのだ。
「イザベラ!?」
 けれど思い切るのが少しだけ遅かった。
 振り返り手を伸ばすサイト、その腕を取ろうと手を伸ばすイザベラ。その二人の前で世界と世界を繋ぐゲートは音もなく閉じ。
 ――ジョゼフの指の土のルビーが強く強く輝きを放った。




 ???


 唐突だが風の系統に“偏在”と言う魔法がある。
 その効果は言うならば分け身、自らとまったく同じ分身を作り出す魔法である。
 その能力と数は術者の能力に比例する。
 ではもしも、異常なまでの精神力を持つ術者が偏在を作ったとしたら一体最大で何体まで“偏在”を作り出せるものなのだろうか?


『おでれーた、おせっかいもたいがいじゃねーのかい』
 剣を構えた青年の声に、いや声にすらならない思念波に答える存在があった。
『五月蝿い、放っておけ』
 憮然としながらそんなことをのたまう相手に向かって、青年はけっけと笑う。
『やっぱさ、しかし大概だね。今の今までなーんもしてこなかったお前さんが此処までおせっかいを焼くたぁ……』
 口こそ悪いものの青年の言葉には親愛があった、言葉に出来ない信頼があった。
『我とて“人”だ、たまには感情が動かされることもある』
『へっへ、言うねぇ。人の血の中に“偏在”する始祖様が』
『からかうな、デルフ』
 男の言葉にその存在は溜息を付いた。
『んでほんとにどうしたんだ? おめぇがわざわざその身を削ってまで手助けしてやるなんて珍し過ぎて超新星が降るってもんだ』
『なに、六千年ぶりに奇跡見せてもらったのでな』
『奇跡には奇跡で返礼って訳かい』
 そう言う青年の言葉と共に、二人の存在が薄れていく。
『ああ、そうだ。けれど必要なかったのかもん』
『奇跡はそれを必要とし、求める者達の上に降り注ぐ』
『初めから、“神”など不要だったのだな……』
 二人はのっそりと立ち上がる。
『行こうか相棒、虚無は虚無へ、伝説は伝説へ。人の手に余る力なんざ人を不幸にするだけだぁね』



 エピローグ


 ――ジョゼフの指の土のルビーが光を放った。
「行って来い馬鹿娘!」
 けして予感はあった訳ではない、いや考えて行った行動でもなかった。
 気が付けばそう叫んでおり、無意識に体が動いて知らない筈の呪文を紡いでいた。
 閉じると思われた扉は再び巨大な顎を開くと、その内にイザベラを咥えこんだ。
 開いた穴の向こう側でサイトの腕のなかに飛び込んだ一人娘の姿を認めて、ジョゼフは意識を手放した。
 意識が闇に消えるその寸前、自分の運命を変えた一人の友人の批難と感謝の言葉をジョゼフは聞いたような気がした。



 東京新宿の夜のオフィス街、人の姿も絶えたその場所で途方に暮れる少年が一人。
 男の腕のなかには少年の名を呼びながら泣きじゃくる少女が一人。
 少年は――サイトは嬉しいような困ったような呆れたような、そんな様々な表情を見せた後ゆっくりと少女を抱きしめた。
「まったくあの馬鹿、実の娘になんつー真似を」
 口調こそ相手を批難するものであったが、実際は満更でもない様子。
「サイト……」
「イザベラ……」
 暗闇でゆっくりと二人の顔が縮まる、よく考えればこれが女の子相手にはじめてのキスだと間の抜けたことを考えていたら目測を誤って思いっきり二人の額がぶつかった。
 あまりの馬鹿さ加減に二人して笑う。
「お前の世界をたぁっぷり見せて貰うからね! 馬鹿犬」
 覚悟しときなよ、とイザベラ。
「必ず送り返してやるからな! 性悪王女」
 憎まれ口を返す、サイト。

 ――イザベラ様の大冒険は、まだまだ始まったばかりだった。


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